あの模擬戦で俺たちは自分の欠点を知りそれぞれ訓練に励んでいた。そんなある日の朝。
「実は美緒ちゃんのお誕生日が近いんだ」
醇子がそう言ってきた。ちなみに美緒は今は野暮用でいない。
「せっかくだし、盛大にやるか」
徹子が言った。ただはしゃぎたいだけだろう。
「なら私も腕によりをかけて料理をしなければな!」
「北郷さんやめてくださいおねがいします」
俺は必死に止めた。二人も若干顔が蒼い。
「では料理はどうする気だ?」
「…俺がやります」
「え、健人君料理できるの?」
「まぁ小さい頃からやってたから。近くに洋食屋もあって教わったりもしたし」
「へぇー、意外だな」
「そうか?」
「「「うん」」」
「そ、そっか」
なんか分からんがちょっと傷ついた。見た目の判断はよくないぞ。
「じゃあよろしくね!」
「お、おう」
にしても誕生日か…そういや俺ももう少しだったな…
「ついでに少し作るか…」
「何か言った?」
「いや、なにも」
こうして美緒の誕生日会を開く事となったのだ。
「そういやいつなんだ?」
「二十六日だよ」
「…まじか」
「どうしたの?」
「何でもない」
こんな偶然あるんだな…
その日の訓練終了後俺は基地の食糧庫に確認に来ていた。
「えーと…小麦粉、卵、砂糖、苺…うん、揃ってるな。あっ、干し肉もある。なんだ、結構あるんだな」
想像以上の充実していて感心した。そうやって見ていくと一つだけ異質な物があった。
「なんだこれ?」
箱には字が書いてあるが扶桑語ではなくて読めない。開けてみるとすぐに食べられるようになっていた。ものは試しと食べてみたが
「…うっ!」
すぐに吐き出してしまった。
「健人君、ここに居たのか」
北郷さんが入ってきた。
「どうだい?何か足りないものは…あぁ、それか。スオムスの友人が送ってくれたんだよ。サルミアッキというらしいんだ。美味しいだろう?」
これを美味しいというのか貴女は。俺は普段とは違う意味で北郷さんに畏敬の念を抱いた。
「んじゃ、始めますか」
当日、今回作るのは昔近所の洋食店で教えてもらったケーキという食べ物だ。誕生日に作ってその子の成長を祝うらしい。
『ほう、手際が良いな』
「まぁな」
だが想像以上に時間かかるぞこれ。片手がこれほどまでに難しいとは。特に包丁、切るときに滑ってしまう。
「うまく切れねぇ…」
ケーキの他にちらし寿司を作ろうと材料を刻むのだが人参が難敵だ。もっと切れ味がよければスパッといけそうだが…
「…そうだ!」
俺は魔法力を解放して包丁を近くの金属に打ち付けた。包丁が高い音を出す。そのまま人参を切った。すると狙い通り綺麗に切れた。これいろんな事に使えんじゃね?
そこからは早かった。様々な工程に固有魔法を使い乗り切った。振動を付加して卵を溶いたりといろいろ便利だった。ただ余計に物が壊れやすかった。包丁が一本振動に耐えられず折れてしまった。後で謝っておかなければ…
「まぁこんなとこか」
出来栄えは上々。ちらし寿司に干し肉を使ったハンバーグ、その他諸々。そして最後にケーキ。我ながらに上手く出来た。次作るときは一工夫加えてみよう。
「健人君、どう?ってえぇ!?」
醇子が様子を見に来た。
「こ、これほんとに健人君一人で作ったの?」
「そうだよ、まあまあのできだろ?」
「まあまあどころか一流のお店の料理に見えるんだけど…」
褒めるな褒めるな、恥ずかしいだろ。
「そっちの準備は?」
「う、うん。できたけどこの料理の前だと見劣りするかも…」
「さっきから大袈裟じゃね?」
「…自覚無しってすごいね」
なんかかわいそうな目で見られた。失礼だなお前。
会場に料理を運んでいると徹子と陸軍の皆さんが入ってきた。
「あれ?何で陸軍さんが?」
「やるなら人多い方が良いだろって思ってな。てかこれ本当に美緒の誕生日会なんだよな…?」
そのはずなんだがぱっと見るとまるで授賞式だ。俺も初めて見た時は醇子も人の事言えないだろと思わず突っ込んだ。当の醇子は
「えっ、普通じゃないの?」
とのたまった。お前の家ではどんだけ豪勢なんだ。陸軍の皆さんも豪華すぎる部屋に目を剥いていた。
「海軍さんスペック高すぎ…」
加藤さんは開いた口が塞がっていない。醇子がケーキを運んでくると穴吹少尉が手伝いに行ったのが見えた。
「大丈夫?持ってあげるよ」
「あ、ありがとうございます」
穴吹少尉が受け取り運んできたその時
穴吹少尉は盛大に椅子に足を引っかけ転んだ。
ドシャッ
嫌な音が鳴った。その場の全員の時間が止まった。
「「「…智子ぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
「ひぃーーーーーーごめんなさいごめんなさい!!」
加藤さんたちは穴吹少尉に制裁を加えている。
「ど、どどどどどどうしよう!」
「今から作り直して間に合うのか!?」
間に合うはずがない。これを作るには材料すらもう無いのだ。そうしていると北郷さんと江藤中佐、美緒の声が聞こえてきた。
「っしょうがない、今すぐそれ片づけて!」
そういうと陸軍さんは責任を感じてか超特急で片づけ始めた。見事な連携だ。俺は厨房に走った。そこには小さな別のケーキがあった。
「…別にまた作ればいいしな」
そのケーキを持って戻るとちょうど美緒と北郷さんが入ってきた。
「「「「「「「「お誕生日おめでとう!!」」」」」」」」
北郷さんと江藤中佐以外は顔が若干ひきっつている。穴吹少尉に至っては蒼ざめている。美緒を席に着かせ俺は執事さながらに美緒の前に小さなケーキを置いた。美緒は周りの豪華さとは違うケーキを不思議に思ったようだ。
「悪いな、調子のって色々作ったらケーキの材料なくなっちゃってな」
俺はちらりと陸軍側を見ると手のひら合わせて拝まれていた。江藤中佐には知られたくない様だ。美緒は納得したらしく笑顔に戻っていた。
「あのケーキどうしたの?」
醇子は用意されていたケーキに疑問を持ったようだった。
「…俺の分だよ」
「え?」
「後でこっそりと一人でやろうとしたんだけどな…」
「健人君の分ってどういうこと?」
「…言わなきゃだめか?」
醇子は頷いた。俺はため息を一つ、白状した。
「俺も今日誕生日なんだよ」
「え、えええええええ!?」
醇子の声に周りは驚いていた。
「なんで隠してたの!」
「大勢に祝されるのは美緒だけでいいだろ?」
「だめだよ!ほら健人君も前に行って!」
「お、おい押すなよ!」
俺は皆の前に押されて行った。
「先生!」
「どうしたの醇ちゃん、さっきから大声出して」
「健人君も今日が誕生日だそうです!」
「え、そうだったの?」
俺は渋々頷いた。
「何で言わなかったんだよ」
徹子が少し責めるように言ってきた。
「だって目立ちたくないし」
「だからといって祝わないというのは違うだろう、ほら、健人君もここに座りなさい」
江藤中佐が椅子を勧めてきた。流石に断る訳にもいかず渋々座る。
「健人君も今日だったんだ」
「まぁね、今日で十一歳だよ」
「私も十三歳になったよ」
「それじゃ改めまして」
「「「「「「「「お誕生日おめでとう!!!」」」」」」」」
ああ言ったが偶にはこういうのも良いのかもしれない、俺はそう思った。
誕生日会も進みそれぞれが好きなものを手に談笑していた。
「ほんとすごいよね、これ全部君一人で作ったんでしょ?」
「はい、さすがに骨が折れましたよ。まぁ一番手のかけた物は並んでませんけどね」
「その節は本当に申し訳ありませんでした」
穴吹少尉は放っておくと土下座しそうなほどである。
「もういいですよ、そのかわり今度模擬戦してください。いろんな人とやってみたいので」
「喜んで!それで帳消しになるならいくらでも!」
「ほう、何を帳消しにだ?」
「そりゃ私が本当のケーキ落としてしまった分の…!?」
「そうか、もっと詳しく知りたいな。ちょっと来なさい智子」
途中から来ていた江藤中佐は顔は笑っていても目が笑っていない。怖い、それも尋常じゃなく。
「あ、あ、あぁぁぁぁ……」
「来なさい」
「いやだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
穴吹少尉は頭を掴まれ引き摺られていった。近くにいた事情を知っている人は二人の去って行った方に無言で合掌した。
「あとであなた達もね」
他の三人も地獄に落ちていった。
俺は以前北郷さんに固有魔法で三次元空間把握を持っていると言っていた加藤少尉に話を聞きに来た。俺も音を使って似たことができるので何か参考にできないかと思ったのだ。
「かとう少尉」
「「ん?」」
「あ、加藤武子少尉」
「あはは、ややこしいよね。今度から私はヒガシでいいわよ」
「私はフジでいいわ。それでどうかした?」
「固有魔法について聞きたくて」
「固有魔法?」
「はい、北郷さんから加藤…フジさんは三次元空間把握を持ってるって聞いたので。俺も似たようなことができるのでもっと参考に出来ないかなと」
「えーと、たしか健人君の固有魔法は音だったわよね?」
「はい、正確には振動の強弱とか細かさを制御してるんですけどね」
「それでどうやって空間把握を?」
「音の広がりと振動を視て聴いて感じるんです。音に魔力を帯びさせて物に当たったら受信するってところですかね」
「私の場合は結界を張るって感じね。それで中に入ってきたり居たりしたものを捕捉って感じよ」
「結界ですか?」
「そう、あなたの場合は一回ずつ捕捉するんでしょ?常に張り続けられたら自分も周りも安全性が高まるわよ」
なるほど、確かにそれが出来れば敵の発見が遅れたりもない。これは考えてみる価値があるぞ。
「ありがとうございます。参考になりました」
「役に立てたならよかったわ」
俺はお辞儀をしてその場を後にした。飲み物を取りに行くと北郷さんが慌てて駆け寄ってきた。
「健人君、君お酒を用意したのかい?」
「え、してませんけど…」
「実は坂本と醇ちゃんがお酒飲んだらしく酔っぱらっていて…」
「えぇ!?」
俺はお酒を用意してはいない。陸軍さん達も持ち込んだ様子はなかった。一体誰が…
「…あ」
いた。お酒を持ち込むような奴。
「あいついつの間に実体化したんだよ!」
ソイツは部屋の隅でお摘まみと一緒に酒を煽っていた。
『おお、健人か!どうじゃ、主も呑まぬか?』
「いやなに持ち込んでんだよ!自分だけならまだしも他人には飲ますなよ!未成年ばっかだろうが!」
『魔女がこの程度で酔うはずなかろうて』
「酔ってんだよ現在形で!あと魔女は酔わないは迷信だ!」
『これで酔うとは情けないのう』
「毎回言うけどお前の基準で物事を図るな!」
「ワハハハハハハハ!」
「美緒うっさい!」
「ダメだよ健人君怒鳴ったりしたら」
あれ?醇子は意外と普通…?
「そういう人にはお仕置きが必要だよね…」
「え、ちょ、まって何で腕捻ってんの!?痛い痛い痛い!!」
訂正、完全に酔っている。つかなんでこんな力強いんだよ。こちとら体変質してかなり頑丈になってんのに簡単に後ろを取られあまつさえ腕を捻り上げられている。酒って怖えぇ…
『ほれ、主も呑め呑め』
「痛えって!だから飲まなむぐ!?」
『ふぶ!?』
横から美緒がバラキを体当たりで吹き飛ばし俺に満杯の酒瓶を口に突っ込んだ。腕を醇子に捻り上げられ、抵抗も出来ず酒が流し込まれた。だが
―なんだこれ、うまい!
昔興味本意で飲んだときは苦くてダメだったが今はすごく美味しく感じる。
「二人とも何やってるの!」
「ワハハハハハハハ!」
「ごめんなさ~い、でも何かすごく楽しいんです!」
「あっ、こら!健人君大丈夫かい?」
北郷さんが二人を止めようとしたが逃げられていた。
「腕痛いけど大丈夫です。酒も問題無いです。寧ろもっと飲みたいです」
「さ、酒が平気?でもこれかなり強いやつだぞ?」
『そりゃ平気じゃろう』
首を抑えながらバラキが戻ってきた。
『もうそやつの体は儂とほとんど変わらん。それはつまり鬼と同義じゃ。その程度の酒で酔うはずが無かろうて』
「あなたも平気なので?」
『無論。でなければ酒呑童子殿には付き合えまい』
そりゃそうだ、“酒呑”童子と言うくらいだ。酔わすには相当な酒が必要なはずだ。
『主もまだ呑めるじゃろう、ほれ呑め呑め』
「んじゃ呑む」
さっきまでの事は置いといて俺は酒を飲み始めた。北郷さんは俺なら大丈夫だろうと美緒と醇子を捕まえに行った。
こんな時間をずっと守れたらなと思った。その為にももっと強くならなければならない。俺は明日からの自主訓練を考えながら目の前のバラキと酒を飲み酌み交わした。
ちなみに健人の誕生日は作者のです。もっさんと同じやったーー!