隻腕の鬼と魔女   作:砂利道

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少し時間が掛かりました。なのに質は下がるってどゆこと?


小さな後悔

 1937年9月陸軍さんが97式戦闘脚に機種転換をしてからの戦果は目覚ましく様々な所から取材がこの辺鄙な基地まで来ていた。それは遠い諸外国まで広がり、宮藤理論の戦闘脚に航空型怪異との戦訓を得ようと多くの国がこの戦地へ魔女を派遣しようとしていた。それはつまり怪異との戦いが激しくなるということで否応なく緊張が高まっていた。そして今日カールスラント空軍よりアドルフィーネ・ガランド大尉が観戦武官として着任予定である。

「どんな人なんですかね」

「とてもいい人と聞いているよ。坂本には良い刺激になるだろうし」

「美緒がですか?」

「うん、彼女もね…っと、どうやら来たようだよ」

目の前には一機の飛行機がこちらに向かっているのが見えた。機体にはカールスラントの国旗が描かれている。飛行機は轟音を立てながら滑走路に着陸した。中から一人の女性が降りてきた。

「初めまして、扶桑海軍第十二航空隊北郷部隊隊長、北郷章香少佐です」

「カールスラント空軍コンドル軍団第八八戦闘飛行隊隊長、アドルフィーネ・ガランド大尉だ。少しの間だがよろしく頼む」

「こちらこそ、ほら健人君も」

「君は?」

俺は姿勢を正し敬礼の状態で告げた。さすがに外人相手は緊張する。

「扶桑海軍第十二航空隊北郷部隊、鈴木健人一飛曹です」

「航空隊だと?だが君は男だろう?それにその火傷に腕は…」

自分でも忘れてしまうが俺は全身に火傷の跡があるのだ。初めて見る人にはかなり衝撃的だろう。

「火傷とかは別に平気です。傷はとっくに塞がっているので」

「そ、そうか。しかし航空隊ということはまさか魔力を持っているのか?」

「はい、少し特殊ですけど」

そう言うと俺は魔力解放をした。髪が伸び白く染まる。額からは二本の角が生える。

「これは…!?」

「変わった奴だろう?だが戦場ではとても頼もしい存在だよ」

どうやら俺は変わった奴と思われていたらしい。自分では普通のつもりだったのだが…

「なるほど、どうやら本当に魔力を持っているらしいな。しかし使い魔が分からん、それになぜ彼を世界に公表しない?」

俺もさっきから思っていた。ガランド大尉の反応を見るにどうやら俺の事は知らなかったようだ。てっきり世界中に知らされているかと思っていた。

「それなんだがどうやら上層部が秘匿にしたいらしくてね、まぁ健人君も目立つのは好きじゃないから丁度いいんじゃないかな?」

「そうですね、ありがたいです」

でもなんでだ?俺を広告塔にすれば世界にさらに扶桑の名前を知らせられるのに。最初に俺を取り合ってた人達だぞ?

「ふむ、なるほど、扶桑も一筋縄ではいかないのだな」

「それはどこも同じだろう」

「違いない」

二人はどうやら何か分かっているようだが俺には理解不能だ。この辺はまだ子供なのだろうな…

「では改めて基地を案内するよ」

「ん、よろしく頼む」

二人は基地に向かって行った。俺は腑に落ちなかったが二人が歩き始めたので慌てて後を追った。

 

 

 

 あれから一週間、怪異も何もなく平和な日々が続いた。ガランド大尉は

「せっかく来たのにこのままでは何の収穫が無いな、しかしここは平和であることを喜ぶべきか…」

と嘆いていた。確かになんの収穫が無いのも悪いだろう。俺自身もまったく怪異が来ないことに不安と苛立ちが出ていた。守る為にとは誓ったが根本的に怪異への復讐心は無くなった訳ではないのだ。

「何で来ないんだよ畜生…」

「不吉な事を言わないの、おかげでこんな風に安心して訓練ができるのだろう?」

「まぁそうですけど…うおっ!?」

「だいぶ腕を上げたなすごい成長速度だ」

「使い魔による補正掛かっちゃってますけどね!」

今俺は北郷さんと防具を身に着け剣術の指導を外でしてもらっていた。他の三人はまだ起きていないか自主練習をしているだろうかという早い時間だ。何とか北郷さんの怒涛の攻撃をほとんど勘で捌いているがあっちはまだ余裕がありそうだ。

ーよし、賭けに出る!

北郷さんが面を狙い竹刀を振り下ろした。避けやすいようにかかなり甘い攻撃だ。上等だ、見返してやる。俺は体ごと向きを九十度変え竹刀が側面を舐めるように過ぎる。最小限の動作で出来てさらに隙が少ない回避だ。俺はそのまま勢いを殺さず裏拳の要領で懐に潜り胴を決めた。

 

 

 

 「いやー、まいったよ!まさかあのまま潜り込んでくるとは。今までそんな挙動をしていなかったしね」

「ほとんど反射でやりましたしそれに、最後の攻撃明らかに避けやすいようにしましたよね?」

「あれは後ろに避けると思って少し緩めたんだよ」

まぁしてやられたけどね そう言って北郷さんは恥ずかしそうに笑った。どこか釈然としないがそれでも軍神北郷から一本獲れたのだ。少し前なら届かなかった手が少しだけ触れたのだ。成長している。そう思うには十分だ。すると建物の角から徹子が出てきた。

「あれ、先生…それに健人も。ずいぶん早いんだな」

「ついさっきまで手合せしてたんだよ」

「なるほどな、でもお前が先生に勝てる訳ないだろ」

徹子は呆れ顔で言った。

「いや、さっき初めて一本獲られたよ!」

はっはっはっは!と北郷さんは大笑いしているが徹子は呆然としている。

「ちょ、ちょちょちょちょっ、ちょっと待てよ!健人が先生から一本獲ったってのか!?」

「うん、そうだよ」

北郷さんはあっさりと言うが徹子にとっては北郷さんに勝つことは一つの大きな目標なのだ。それを後から入ってきた俺が先に達成してしまったのだ。もうこの後の展開は読めている。

「…おい健人」

「…なに?」

俺は素早く防具を脱いだ。

「勝負しろーーーーーーーーー!!」

「断る!」

俺は全力でその場から離脱した。

「待てーーーーーーーーーー!!」

「怪我はするなよーー!」

北郷さん暢気すぎ!徹子を止めてくれよ!俺は逃げ回りながらそう心でそう叫んだ。しかしその時

 

ウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーー!!

 

警報が鳴り響いた。

「っ怪異か!」

「健人!」

「分かってる!」

俺達はストライカーのある場所まで走って行った。着くと既に美緒に醇子、北郷さんは装着していた。陸軍さんとガランド大尉はもう出撃したようだ。

「私達も早く行くぞ!」

「「「「了解!」」」」

 

 

 

戦闘空域に到着。しかし目の前で陸軍さん達が怪異四機を瞬く間に撃墜してしまった。

「機種転換するだけでこんな違うのかよ」

その感想はもっともだ。いつも陸軍さんは旧式ストライカーの装着に手間取っていて着いた頃には半分は終わっていたのが常だった。穴吹少尉に至っては毎回全身で悔しさを表していたほどだ。しかし機種転換した今、水を得た魚の如く元気に飛び回っている。

「敵全機の撃墜を確認 地上部隊の制空援護任務、完了」

「んーー、海軍さんには悪いけど今回も私たちだけで充分だったわね!」

「はぁ…不遜な事言わない」

「とりあえず哨戒しつつ帰投しようか」

北郷さんも苦笑いだ。その時ガランド大尉が

「いや、待ってくれ。距離12000高度6000こちらに向かってくる一群発見。速い…さっきの航空型よりだいぶ速いな…」

「み、視えました!はっきりとは確認できませんでしたが…」

美緒も確認する。俺も今回から持ってきていた笛を使い音を鳴らす。音の広がりを感じる。音が敵に触れた。

「俺も確認しました。でも見たことないです」

「なんだっていいわ!叩き墜とせば全部一緒よ!」

「え、ちょ、待ちなさい!っああ!もう!!」

フジさんとヒガシさんは穴吹少尉を追いかけていった。

 

 

 

 「若は地上部隊の手配と敵未確認機の報告とガランド大尉のエスコートを。私と坂本、健人君は“おてんば娘”達の援護に向かう!」

俺たちはそれぞれ頷いた。

「それに…何故だか胸騒ぎがする…」

陸軍さんの後を追うとちょうど接敵していた。その時ヒガシさんが魔眼で何かを見たようだ。

「駄目だ…避けろ智子!!」

「えっ?」

怪異は二発弾丸を放った。ヒガシさんは怪異に…ではなくその弾丸に対して一発放った。そして怪異側の弾丸を一発中心をとらえ軌道を逸らした。まさに神業だ。超高速で動く弾丸の中心を当てるなど世界にも一人か二人いないかだろう。俺はその凄まじい技術に感心しながらもなぜヒガシさんが焦るのかは分からなかった。既に穴吹少尉はシールドを張り弾丸を止め…

「なっ!?」

られなかった。弾丸はシールドを貫通し穴吹少尉のストライカーに被弾。衝撃で気を失ったらしく落下を始めている。

「くそっ!離れるなよ坂本、健人君!」

「…北郷さん、すいません」

俺は北郷さんの命令を無視して穴吹少尉を回収した陸軍さんのところに急いだ。理由は簡単だ。怪異は集中的にそちらを攻撃していた。このままではいずれ他の二人も被弾してしまう。笛を全力で鳴らす。血染を使用した時ほどではないが加速することができる。問題は力が分散してしまうこと。改良しなければ。

「健人君!ああもう!後で説教だ!」

「甘んじて受けます!」

怪異は弾丸をまた放った。直撃コースだ。俺はすれすれで陸軍さんとの間にはいった。

「駄目だ!それにシールドはきかない!」

ヒガシさんが叫んだ。だが俺はシールドを展開し固有魔法を重ねた。着弾、しかし弾き飛ばすことができた。思った通り俺のシールドは大丈夫のようだ。もともと俺の魔力は人のではなく鬼の魔力だ。質も量も桁違いに強い。そこに固有魔法の超振動を重ねているのだ。そうそう破られはしない。しかし

「くっ…」

一発の衝撃が強いのだ。防げるが集中力はどんどん削られていく。もともと魔力の制御は得意と言うわけではない、難しい制御は半分以上バラキに任せている。その上集中が途切れればシールドは破られてしまう。

「俺が護衛します!早く基地に!」

「わ、わかった!」

「攻撃は私たちが引き付ける!健人君頼んだぞ!」

「はい!」

ー頼むからもってくれよ!

俺は自分に対して懇願した。

『馬鹿正直に受けるからそうなるのじゃ』

バラキだ。最近あまり話して無かったな。

ーどういうことだ?

『こうすればよい。張り続けておれ』

するとシールドが大きくなりそして半球状に形が変わった。

「これって…」

『受けるのではなく流せばよい』

「なるほどな…」

弾丸が来た。しかしシールドをなぞるように逸れていく。衝撃は驚くほど少なくなった。

ーこれなら守り切れる!

順調に進むことができ攻撃が途切れ途切れになりついには止んだ。上手く北郷さん達が引き付けてくれたようだ。

「私たちはもう大丈夫、戻ってあげて」

「はい、お気をつけて」

俺は旋回し戻っていった。魔力はまだ持つ。これなら落とすこともできる。戦意を滾らせ刀に手を置きながら戻っていった。

 

 

 

 戦闘空域に戻ると目の前に見えたのは美緒を庇いシールドを貫かれた北郷さんが見えた。

「北郷さん!」

俺は北郷さんを撃った怪異に空断を放った。左翼に当たり何とか撃破。しかしまだいる。今の俺ではまだ全撃破は難しい。仲間も巻き込みかねない。無闇に技も使えないから決定打に欠ける。自分の技術のなさに腹が立つ。

「くそっ!」

せめて遠ざけようと怪異のすぐ近くを飛び引き付ける。

「美緒!今のうちに離れろ!」

「で、でも…」

「でもじゃねぇ!邪魔なんだよ!」

「っつ!」

美緒はうつむき唇を噛んだ。言い過ぎた、だがもう遅い。

「俺は大丈夫だから北郷さん連れて先に戻ってろ」

「…分かった、気を付けてね」

美緒は北郷さんに肩を貸して戻っていった。姿が見えなくなる。俺は苛立っていた。毎回助けるにも一歩遅く、技術の無さに腹が立ち、それを関係のない奴にぶつけてしまう。情けなさすぎる。

「…畜生がーーーーー!!」

俺は血染に大量に魔力を込めた。強く、荒く震える。血染を引いた。そしてめちゃくちゃに穿牙を放つ。ほとんどはあらぬ方向に飛ぶが数発が怪異に当たり撃墜した。間違いなく大戦果なのになにも喜ぶことは出来なかった。

「なんなんだよ、畜生…」

俺には虚しさしか残らなかった。




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