隻腕の鬼と魔女   作:砂利道

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最近筆の進みに質が悪くなってきた気がします…


協力、トラウマ…

 あの高速型怪異の登場により事態を重く見た上層部は大本営の設置を発令した。これにより後に“扶桑海事変”と呼ばれるようになる戦役に正式に突入した。同時に新型怪異に対する撃一号作戦が発動された。現在二回行ったが接敵せず成果は無かった。

 

 

 「ふぅ…はあ!」

今俺は基地の近くの小さな林に来ていた。前回初めて高速型とやりあったときバラキの見せた半球状シールドの特訓をしていたのだ。現状でまともに高速型の弾丸を止めることができるのは俺だけである。いざというとき使えれば味方の生存率は上がるはずだ。だがこれはかなり難しく曲げた瞬間に砕けてしまう。

「ぐ…おぉ、うわ!」

また失敗。よくあいつ出来るな…ついでに言えばこれを見たヒガシさんとフジさんも挑戦したが曲がる気配もなく魔力の消費がすごいので諦めたらしい。かという俺も消費が激しく今も肩で息をしている。

「はぁ…はぁ…くそっ!」

さらに俺はあの時美緒に向けて言ってしまった言葉、そして極端の睡眠不足に悩まされていた。

 

 

“でもじゃねぇ!邪魔なんだよ!”

 

 

あの時俺が言いたかったのは、巻き込むと危ないから離れてくれ、という事だ。しかし目の前で北郷さんが落ちていくのを見て完全に冷静さを失っていた。結果美緒を傷つけてしまった。そのことが頭をもたげ訓練に集中が出来ずにいた。このままじゃ進展はない。俺は眠れてもないし少し休むことにした。

「はぁ…はぁ…、なぁあれのコツ教えてくれよ」

『何度も言っとろうが憂いを断てば教えると』

「あっちが俺を見るたびに逃げるのにどうしろってんだよ…」

『そこは男なのじゃから押し倒すなりすればよいじゃろう』

「よくねぇよ。犯罪になるだろうが」

『人の規律はめんどくさいのぉ』

「いい加減馴れてくれ…」

そう、あれから俺は何度も謝ろうとしたのだが美緒は俺を見る度に逃げてしまうのだ。おかげで謝ることも出来ずこうしてずるずると引き摺ってしまっている。バラキもコツを教える条件として俺を焚き付けてくれているのだがこう何度も逃げられるとさすがに凹んでくる。

「ほんとどうしろって言うんだ…」

「あっ!いた!健人くーん!」

落ち込んでいると醇子が走ってきた。

「醇子か、どうしたんだ?」

「健人君が謝れたのかなって思って」

「…絶賛逃走されてるよ」

「えっ?まだなの?もう二日経つのに…」

醇子と徹子には最初に謝ろうとした時に逃げられたのを見られているので事情は説明してある。徹子には思いっきり怒られもした。

「こりゃ完全に嫌われたよな…」

別に嫌われるのはいいのだがやはり心に来るし何よりこのままではこれからの作戦にも支障が出てしまう。

「でも何度も美緒ちゃん謝ろうとしてたよ?」

……はい?

「私のせいで健人君に迷惑かけたから早く謝りたいって言ってたよ。でもなんて言ったらいいか分からないって」

「いや、あれは完全に俺が悪いし…」

「でも美緒ちゃん責任感強いから自分が悪いんだって思ってるから健人君に謝られたくないんだよ」

「…そうなのか?」

「そうだよ!」

「じゃあどうすれば良いんだよ」

「うーん…強くなるように協力してあげるとか?」

「俺が教えるような事無くないか?それに教わるなら北郷さんの方が絶対に良いだろ」

「そんなことないよ。魔力の制御なら健人君私達よりも全然いいし何より強いじゃない」

「俺は強くない…」

「強いよ」

「強かったら皆を無傷で守れた筈だし何より…」

俺はそこで顔を下げきつく目を閉じた。

「毎晩悪夢にうなされたりもしないだろ…」

そう、俺はここ数日悪夢によって睡眠をほとんど取れていないのだ。

「悪夢?」

「前の後悔とか嫌な過去、それにここ最近はあの日の事を見る…」

あの日…俺が左腕と家族を失った、力ない自分を呪った日。何故急にこんな夢を見るようになったのかは分からない。だがこの夢を見る度に思うのだ。これは忠告だと。

 

 

 

“忘れるな”

 

 

そう言われている気がしてならない。お前の根底にあるのは復讐、守るというのはその上に乗っかっているだけだと。そう考える度に違うと自分に言い聞かせてきた。だがもしかしたら気付いているのかもしれない。俺は……

「健人君?大丈夫?」

俺は意識を引き戻された。目の前には心配そうな醇子の顔があった。

「健人君怖い顔してるよ、ちょっと前に戻ったみたい…」

「…少し疲れてるだけだ、問題無い」

「次の作戦、休んだ方が良いんじゃない?」

そう言われて俺は何故だかものすごく腹が立った。

「ふざけんな!!問題無いし俺以外に誰がまともにあいつの攻撃を防げるんだよ!!何も出来ないくせに偉そうなこと言うな!!」

俺は言い切ってから激しく後悔した。またやってしまった。醇子にとって最も触れて欲しくない所を突いてしまった。醇子は体を震わせ唇を噛み俯いていた。

「…ごめん、美緒の事は何とかするから心配しないでくれ」

俺は醇子を置いて逃げるようにその場を後にした。

 

 

 

 

 『情けないのう…』

基地の自室に着いて開口一番にそう言われた。

「…うるせぇ、分かってんだよそんなこと…」

『それに酷く不器用じゃな』

「なにが分かるんだよ」

『分かるぞい。何せ互いに考えが分かるのじゃからな。それに気持ちも流れてくる』

「…俺そっちから流れてきた覚えが無いんだけど」

『堰き止めておるからの』

「お前自分だけ…!」

『それに今流せば余計に混乱するじゃろう。主に今他者の気持ちを受ける余裕があるのか?』

言い当てられていた。確かに今他人の気持ちを受け取る余裕はない。そんなことをすればたちまち心が擦りきれてしまう。

『滑走路に行けい。今日はいい風じゃ』

俺は言われた通りに滑走路に向かった。滑走路への扉を開けた瞬間一度強い風が吹いた。目の前には既に見慣れた何もない広い滑走路。確かにいい風だ。俺は風が好きな訳ではなくそれに伴う音が好きなのだ。水のせせらぎや鳥の鳴き声も良いが俺はあらゆる音の中で風の音が好きなのだ。全てを包み込むような優しい音、偶にある暴力的なまでに激しい音、そして背中を押してくれるような力強い音。まさに千変万化、人なんかよりたくさんの表情を見せてくれる。それに様々な別の音を運んでくることがある。その調和も好きだ。

「ホントに良い音だ…」

ささくれ立った心を静めてくれる。俺は滑走路に寝転がった。このまま寝てしまいそうだ。俺は目を瞑った。…でも寝れない。やはり寝るのが怖くなっている。

「こんなんじゃ怪異に立ち向かえないだろ…」

どんなに心地よい風でも恐怖心までは拭えない。皆を守る為にもこれは乗り越えなければならない。だったら…

『お主はややこしく考えすぎじゃ』

「…なに?」

『お主は一人で何もかもしようとしすぎじゃ。だからすぐに行き詰まり溜めこみ爆発する。その辺無意識とはいえやってしまうところはまだまだ子供じゃな』

「…一人でやって何が悪い、誰も巻き込まないのが最善で迷惑をかけない。」

『…やはり子供じゃな』

「だから…!」

『じゃが気持ちはよく分かる』

「はっ?」

あんだけ上から悟らせて気持ちは分かるってなんだよ。

『かつて儂も自分は大人と思いすべてを一人でやっていたことがあった。結果儂は失敗し、死にかけた』

俺は驚いた。戦いに関して何でも平然とやってのけるこいつが失敗、あまつさえ死にかけたと言ったのだ。今まで成功の圧倒的強者の印象しかなかった。

『だがその時酒呑童子殿に出会ったのじゃ』

「酒呑童子って確か鬼の頭領だよな?」

『そうじゃ、今の儂になる為の全てを教えてくれた大恩人じゃよ』

バラキの目はどこか遠くを見ている様に感じた。実体化してないのであくまで感じだが。

『その教えの中に一つ、今の主にぴったりのものがある。“一人で出来る事はあまりに少ない。誰しも助け助けられている”』

「……」

『この教えを守っているうちにいつの間にか仲間が沢山出来ておったわ。余りに多く助けても貰った。少しばかり助けてやることも出来た』

「…今の俺にしてるのはその教えからか?」

少し棘のある言い方になっている。ちょっと否定されただけでこれだ。ほんと情けない。

『それも無いとは言い切れんが、儂はな主を放っておけないんじゃよ。かつての儂にそっくりすぎて危なっかしいんじゃよ』

似ている?俺とバラキがか?

「今の俺はそんなに危なっかしいのか?」

『うむ、いつ爆発するか気が気でない』

「そこまでじゃないだろ」

『主が自覚無いだけじゃ。最近無茶ばかりしよる。いくら体が頑丈になろうとそんな事を繰り返せばそのうち壊れるぞい』

そんなに危なかったのか。俺は今更ながらに漠然とした恐怖を覚えた。

『長々と話したが用は無茶せず周りを頼れ、という事じゃ』

「…分かったよ」

俺は立ち上がり協力してもらうために動き始めた。

 

 

 

 

 基地周りを回って俺は醇子を探していた。ちゃんとした謝罪と美緒の事に関して協力してもらう為だ。

「おーい、醇子ー!」

が、どこにもいない。ついでに言えば美緒に徹子もだ。

「どこ行ったんだ…」

途方に暮れていると風が吹いた。その風は“音”を運んできた。焚火の音だ。

「…あっちか?」

俺は音のする方に向かった。

 

 そこは最近俺がシールドの練習をしていて醇子に怒鳴ってしまった林だった。遠くに徹子たちが見えると会話が聞こえてきた。醇子がこちらを向いた。咄嗟に何故か隠れてしまった。

「どうしたの醇子?」

「ううん、何でもない。それよりも徹子ちゃんほんとに大丈夫なの?」

「平気だって、この為に今日一日食糧庫周辺に張り付いてたんだから食えなきゃ大損だ」

今日珍しく見ないと思ったらそんなことしていたのかお前は…

「“腹が減っては戦は出来ぬ”ってな。ちょっと位良いだろ」

「……ちょっと?」

そういって腹から山ほどの芋が出てきた。貴重な肉も混ざっていた。

「…はぁ」

美緒は足元に転がってきた芋を拾いながらため息をついていた。

「なんだよ美緒、まだ健人の事気にしてんのか?」

「…だってあの時…」

やっぱり気にしていた。

「元々あれは陸軍の不手際で起こった事だろ、健人も必死こいて余裕がなかったらしいし素直に謝罪を受け取れば良いのによ。」

「あれは私がもっとしっかりしてれば起きなかった筈だし健人君もあんなに大変にはならなかったよ…」

「まだ言うか…それに醇子、お前この事を健人に伝えに行ったんじゃないのかよ」

「伝えに行ったんだけどちょっと色々あって…」

美緒も醇子も俯き落ち込んでしまっている。かという俺も話を聞いていて凹んでいる。

「ああもう!お前らごちゃごちゃ考えすぎなんだよ!もっと素直にごめんなさいとかそう言って後はどうしたらいいかとか聞けば良いじゃねぇか!」

偶然にも徹子が言ったことはさっきバラキが言っていた事と酷似していた。

「でも…」

「だって…」

「“でも”も“だって”もねぇ!悔やんでる間も奴らは来るんだ。そんな暇があるんなら次はそうならないように強くなれ!」

徹子は二人に焼きたての芋を渡しそう言った。美緒も醇子も徹子の言葉にその通りと思ったようだ。

「「…うん」」

俺も徹子の言葉を噛み締めていた。そうだ、悔やんでいても仕方がない。今駄目だったら次頑張ればいいのだ。俺は三人の所に歩いて行った。

「あれ?健人君…?」

「えっ?」

俺は醇子と美緒の前に立った。

「…ごめん!色々言い過ぎた!」

二人は突然頭を下げた俺に驚いていた。

「う、ううん!こっちこそごめん!次はもっと頑張るから!」

「わ、私も!」

二人とも慌てて喋って声が裏返っていた。俺はそれがおかしくて笑ってしまった。突然笑い出した俺に三人は呆然としていたが釣られるように笑い出した。しばらく静かな林に四人の笑い声が響いていた。

「ははは…なんだ、これで解決したじゃねぇか」

徹子の言葉に俺たちは笑顔を合わせた。

「ほれ、健人も食えよ」

「お、ありがと。でもこれは持ってきすぎだろ…」

「これもあるぜ」

そういって徹子はどこに隠してあったのか後ろから豆挽きを取り出した。

「あ、それ陸軍の方の…」

「美味そうに飲んでたからな、確かこうして…」

「勝手に持ってきちゃだめだよぉ…」

美緒は徹子が取り出したものがよく分からない様だ。俺もあまりよくは知らない。

「よしっ、多分出来た!香ばしくて美味そうだな!」

「やっぱり駄目だって~…」

そう言いつつ受け取る。俺たちは同時に口を付けた。

「「「……にがっ」」」

「………」

三人は顔を顰めたが俺の様子がおかしいことに気付いたようだ。固まってピクリともしない。

「け、健人君?どうしたの…?」

醇子が心配そうに聞いてくるが俺の耳には届いていない。

「…………………………………………………………ゴフッ」

「きゃーーー!健人君!?」

「ちょ、おい!大丈夫か!?」

「は、早く医務室に!」

三人が何か言っているが何も分からない。俺はそのまま気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これにより俺はもう一度三人に謝罪する羽目になり、極端にコーヒーが駄目なことが基地中に知られ、この戦いの終わりまでいじられ続ける事になった。




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