「なんでこんな事もできないんだよ!」
滑走路に怒声が響く。醇子が飛行訓練で簡単なミスを連発したのだ。それを見かねた徹子が怒り今の怒声である。
「お前よくそんなんでよく選抜されたよな!本当は親の…」
「お、おい徹子!」
美緒が止めに入る。俺も止めようとしたいのだが過去に同じような事を言った手前言い出しにくい。醇子は目を伏せ裾を強く握っている。
「ただ飛ぶだけじゃ航空ウィッチは務まらないんだ!しっかりしろよ!」
そう言うと徹子は訓練に戻ってしまった。
「あ、徹子待てよ!」
美緒も慌てて追いかけていく。
「…ごめんね私のせいで…」
「…確かにミスは多いけどあいつらと比べたらの話だ。沢山いる訓練生の中から選抜されたんだ。そう落ち込むな」
ちょっと素っ気なくなってしまった。やはりこういうのは馴れない。
「うん…ありがとう」
醇子は弱々しく笑い空へと戻っていった。
「なぁ美緒」
「うん?何?」
「今日の練習で徹子が言ってた“本当は親の…”ってどういう意味だ?」
「あぁ、醇子の親は軍の偉い人なんだよ。お爺さんも確か少将じゃなかったかな?」
それはすごい。将官になるのは並大抵では無理だ。昇進が早いと言われるウィッチでさえいなかった筈だ。
「なるほどね…おおよそ続きは“コネで選ばれたんじゃないか?”ってところか」
「たぶんね。醇子自身ももしかしたら自分の親が手を引いてたんじゃないかって疑ってるからすごく気にしているんだよ」
「そこを的確に言うとか徹子えげつねぇ…」
俺でもそこまでは言わなかったぞ。知らなかっただけだけど。
「坂本、健人君」
振り返ると北郷さんがいた。
「ちょっといいかな?」
俺と美緒は顔を合わせ首をかしげた。
「ええ!!醇子がいなくなった!?」
「美緒声でかい…」
耳がいい分隣で大声を出されると結構響くのだ。
「そうなんだ、声を掛けた途端飛び出して行ったっきりで…少し捜したけど見当たらないんだよ」
俺と美緒は無言でその場に居たもう一人を見た。
「な、なんだよ。俺は悪くないぞ…」
美緒は徹子に詰め寄る。俺はジト目で見続けた。
「…あーーーーー!分かった!分かったから!言い過ぎましたーーー!」
徹子がようやく自分の罪を認めた。
「とりあえず手分けして捜そう」
そう言うといなや皆すぐに部屋を出て捜しに行った。
「…俺だったらすぐに見付けられるの皆忘れてないか?」
部屋に一人残され呟いた。
基地から少し離れた平野。そこは平らで見晴らしが良いのだが基地との間には木々が生い茂り見る事が出来ない。
「ここにいたのか」
「…!?」
醇子は小さな体を更に小さくする。
「こんなとこいると風邪引くぞ」
「……」
「はぁ…俺も前にきついこと言ったから言う資格無いかもしれないけど、醇子は自分と他人を比べすぎなんだよ。美緒も徹子も周りの奴らからは頭一つ抜けてるだろ」
「…でも後から入った健人君も私に出来ないことをどんどんこなすじゃない…」
「俺と比べるのは論外」
「…やっぱり私ダメダメなんだね」
「そうじゃなくて俺はもう人止めてるの、同じ土俵にいないから比べらんないだけ。もし俺にバラキがいなくて魔法力が無かったら何もできない奴だったよ。他力本願に生きてのうのうと暮らしてただろうよ」
「…全然想像できないね」
「そうかな?俺はあっさり想像できるけどな」
『儂も想像できるの』
「ひっ!」
「…最近お前の実体化に気付けなくなったんだけど…あと醇子が驚くからせめて後ろからじゃなく前から出てきてくれ」
『了解じゃ。して醇子や』
「は、はい!」
醇子は未だにバラキに馴れず話すときは緊張している。最初があれだったために衝撃が強すぎたのだろう。
『お前さんは何に憧れているのじゃ?』
「え…」
確かに今まで頑張るとかは聞いたことがあるが目標は聞いたことは無かった。
「私は…美緒ちゃんや徹子ちゃん、それに健人君みたいに皆の役に立ちたいだけです…」
『その役に立つとは敵を倒すという事か?』
「はい…」
『確かに敵を倒すというのは皆から危険を取り去り人々から憧憬の念を受ける。じゃが役に立つというのはそれだけかの?』
「えっ…」
『そうじゃな、例えば陸の穴吹という
確かにエースという存在は頼もしくその場に居る全員の心の支えになる。誰もが憧れる存在だ。
『じゃがその穴吹は一人で全てが出来るか?一人で全ての敵を倒し、自らの翼を整備し、必要な物は全て自分で揃える。無理じゃろ?』
「はい…」
醇子はいまいち話が見えないようだ。
『エースという大きな存在は自らの出来ないことをしてくれる脇役によって支えられておる。穴吹も自分が気付けなかった敵を倒してくれる仲間、翼を整備する整備士、必要なものを揃えてくれる補給兵。これらの人々が穴吹という存在を際立たせている。言うならば知られざるエースじゃな』
「……」
「俺もバラキに助けられてるんだよ。知識を貰って冷静さを欠いたら静めてくれる。そうやって助けてくれるやつがいるから戦える。まぁ気付いたのは俺も最近なんだけど…」
最後の歯切れの悪さと恥ずかしがるのに醇子はキョトンとしていた。
「私も…私も美緒ちゃんや徹子ちゃん、健人君を支えられるかな…?」
俺とバラキは顔を見合わせ声を揃える。
「『もちろんじゃ』だ」
醇子の顔にようやく笑顔が咲いた。
「さぁ戻ろうぜ、いい加減風邪引いちまう」
俺は醇子に手を差し伸べた。醇子は手を取り立ち上がる。その手にはもう震えはなかった。
俺たちは基地に戻り北郷さんの所に行った。醇子の顔を見て北郷さんはもう大丈夫だと言った。それと俺にありがとうとも言っていた。俺は何もしてないですと言ってもそれでもありがとうと言われた。感謝されるのは気恥ずかしいが嬉しいものだと思った。部屋を出た所で美緒と徹子に会った。
「あっ醇子!に健人も!?お前どうやって見つけたんだよ!」
「…お前ら俺が音で索敵できるの忘れてないか?」
あ… 二人揃っていかにも忘れてましたリアクションを取った。結構使ってたんだけどなぁ…
「それで、徹子。言う事があるんじゃないか?」
美緒も怖い顔で徹子に促す。
「わ、分かった!分かった!謝るから…」
醇子に向き合い急かされるように謝る。
「さっきは言い過ぎた!悪かった!お詫びに何でも好きな菓子やるから!」
「…もっと」
「えぇ…もっとって…い、一か月分とか…?」
「そうじゃないだろ…」
「…ぷっふふふ」
「……?」
「心配かけてごめんなさい、でももう大丈夫なんです!」
醇子は俺をチラリと見て言った。その顔は迷いの無い笑顔だった。
「あっ、でもお菓子は貰います!」
…ちゃっかりしてるぞ醇子よ…
「なぁ健人、お前の分の菓子分けてくんない?」
「断る」
「そんなぁ!」
最近思うんですがオリジナルの話もっと入れたほうがいいんですかね…