隻腕の鬼と魔女   作:砂利道

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砂利道シリーズ一斉投稿ですよ皆さん!

健「待たせすぎだから!」

痛く反省しております…


大本営会議、開幕!

アホウドリの戦い、あの時美緒が見つけた核は扶桑海軍・陸軍にとって希望の一つとなった。この核さえ見つけられればたとえどんなに強力な怪異だとしても戦うことが可能だからだ。この核の報告を受けた陸軍上層部は大陸側から進行している怪異に対して大反攻作戦を決行した。新型の陸戦型ストライカーユニットも投入し全体の士気も高い中始まったこの作戦だが結果は敗戦。空戦部隊も投入しなんとか立て直したものの約5000の兵と領土の半分を失う大損失となった。これを受け大陸側の一般人は大規模な避難に移った。失うものは大きかったがそれでも人々は安堵した。「怪異は海を渡れない」この通説を信じて。だがその願いはいとも簡単に崩れ去る。現在確認されている世界最大の怪異、『山』。余りの大きさに動くことは無いとされていた、しかし『山』はまるで避難した人たちを追いかけるように動きはじめた。それはすなわち扶桑本国に向かっているという事、嫌でもその緊張は高まって行った。それでも軍は動かない。国民の誰よりも軍人は海を渡らないと思っている…思っていたいからだ。そして『山』が動いた報を受けた上層部は1938年8月20日扶桑某所大本営会議を開幕させた。

 

 

 

 

 

 

 質素ながらも質の高い調度品がそろう部屋に五十代から六十代の老年の男性が部屋の中央に置かれた机に向かい合うように十人座っている。海軍、陸軍の代表達だ。その奥には軍隊の統帥権を持つ陛下のご息女が代理として来られている。

 

「それで…貴君はこの作戦を承認してほしいと?名と階級は?」

 

「はい…扶桑皇国陸軍加藤武子少尉であります!」

 

「少尉!まだヒヨッコではないか!」

 

場に嘲笑が広がる。

 

「ハハハ…貴君は我々を愚弄する気か?」

 

「そもそも貴様らがあのような事をするのがいけないんだろうが!」

 

「貴様らに言われたくないわ!腑抜けどもが!」

 

「……!」

 

「~~…!」

 

「…北郷さん」

 

俺は小声で横に立っている連れてきた張本人に声を掛ける。

 

「なんだい?」

 

「俺なんでここにいるんですか?あとあの人達は子供ですか?」

 

「君を連れてきたのは上からの命令でね、あと口は慎みなさい。…いない時に愚痴ればいいさ」

 

どうやら北郷さんも良い印象は無いらしい。

 

ー下らんの…

 

ーそれで良いんだよな?精神成熟しすぎたとかじゃないよね?

 

ー安心せい、皆呆れる

 

「…現実的な作戦です」

 

「んん?」

 

「怪異の核を狙い戦況を一息に打破せんとした此度の大反攻作戦が失敗したのは、恐らく、核と言う物が大型の様な特殊な個体にしかなかった為だと思います。そういった可能性を熟慮せずに兵を動かしその結果損害を出した責は当然ございます。しかし収穫もありました!あの“山”と称される怪異は少なくとも必ず核が存在します!そして“山”が子機の様な怪異に指示を出している可能性も…」

 

「ふん…現実的な作戦だと?それのどこが現実的な作戦なのだ?机上の空想はそこまでにしておきたまえ」

 

その言葉に腹が立った。

 

ーてめぇらの作戦よりもずっと考えられてるっての…

 

「そしてもうひとつバカな勘違いをしているな、奴らは大河を渡れん!あんな巨体がどうやって扶桑海を渡って来るというのだね馬鹿馬鹿しい」

 

「この場は大陸に放棄せざるを得なかった皇国の財産!つまりそれの経済的な損耗の責任の所在を追及するべきである!」

 

「黙って聞いていれば勝手な事ばかり…そもそも怪異の核の報告をしてきたのは海軍(そっち)魔女(ウィッチ)ではないか!我らに一切の責任は無い!」

 

「なぁにぃ~~?」

 

そうしてまたくだらない言い争いが始まった。フジさんの作戦を嗤うように切り捨てそれに代わる案も出さずに責任を押し付け合う、まるで子供だ。

 

「くっだらねぇ…」

 

「健人君!」

 

思わずそこそこに大きい声で漏らしてしまった。

 

「…なんだと貴様!」

 

耳聡く聞き取ったのは陸軍側のお偉いさん(笑)だ。

 

「一兵曹が何様のつもりだ!」

 

「世界唯一の男性魔女様ですよお偉方」

 

「鈴木君…我々は君に発言を許した覚えは無いんだが?」

 

「それは失礼しました、たかだか一兵曹の自分がこのような場に呼ばれたのでつい自分には喋る権利があると思ってました」

 

「これだから海軍は…貴様らは餓鬼の一人の教育も出来ないのか!」

 

「ふん、負け惜しみか?今さらそちら側に引き込めなかったのが悔しいか?」

 

「このっ…貴様もだ鈴木一飛曹!」

 

「自分ですか?」

 

「当たり前だ!自分が特別だと勘違いしてるんじゃないのか?今この場で上官に対する不敬罪で軍法会議に掛けられるのだぞ!」

 

「おーおー怖いですね、でも勘弁してくれませんかね?しょうがないでしょう、今まさに扶桑の危機なのにくだらない責任の押し付け合いをしているのですから。下から見ていると腹立たしくてしょうがないんですよ」

 

「なに…?」

 

「こんな人達が自分たちの命を握っていると考えると吐き気がするんで」

 

今、この時、明確に俺は上層部を詰った。お偉方は海軍陸軍共に怒りの形相だがその他の兵はハラハラした顔をしつつも「よく言った!」と言わんばかりの顔だ。江藤中佐なんかは堂々と笑顔で頷いていた。ものすごく良い笑顔だ。

 

「貴様!」

 

一人が立ち上がり殴ろうとする。体は既に鬼に変質していて痛くは無いのでそのまま殴られようとしたが、

 

『さすがにいただけんの』

 

「なに!?」

 

殴ろうと振り上げられた腕は実体化したバラキによって掴まれていた。

 

『我が主に手を上げようとするとはぬしも中々に命知らずじゃの』

 

カラカラとバラキは笑うがすごいことになっている。バラキの身長はこの時代の扶桑ではあまりにでかいため腕を掴まれた状態で上げられれば簡単に足が浮いてしまう。ついでに言えばそこそこの力(バラキ自身は羽毛をつまむ様な力)で握っているため腕がミシミシと悲鳴を上げている。

 

「ああぁぁあああぁぁぁ!」

 

『さて、(わっぱ)共』

 

バラキは見せ付ける様にそのまま振り返った。

 

『みっともなく喚くのも良し、情けなく逃げるのも良し、勝手にせい。どうせ己が身を滅ぼすのは自分じゃ。だがそこに他者を巻き込むのは良しとせん。まして自分の威光を守る為に下々の良い意見を潰すのはもってのほかじゃ。自身の都合に巻き込むでは無い。見てられない惨めな小さな小さな権威など主らには欠片も無いのだからの』

 

「な…ん、だと?」

 

『うぬらが下の者に何と呼ばれているか知っておるか?“兵潰し”“独裁者”色々と呼ばれておる』

 

「ばかな!」

 

『心当たりが無いと?では前回の作戦で何人もの命を散らさせたと思う?うぬらの考えなしの作戦が余りにも多くの命を散らさせ信頼を根こそぎ奪い去った…自業自得じゃの』

 

バラキは憐みの目で将校たちを見やる。

 

「こ、皇国の為に命を散らせられたのだ、名誉ある事だろう!」

 

『ならばぬしが戦に出てみよ、皇国の為になるのだろう?喜んで出でて逝ね』

 

「そんな事をしたら軍全体に乱れが生じるだろう!」

 

『問題無いの、うぬらの様な首ならすぐに替えがきく』

 

「い、言わせておけばあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「貴様に何が分かるこの若造が!第一どこから湧いてきた!」

 

『ほっ、今さらそれかの。理解の遅い奴らじゃ』

 

そこでバラキは掴んでいた将校を雑に放り投げる。

 

『儂の名は茨木童子、鈴木健人の使い魔じゃ、俗物ども』

 

「な!」

 

将校達の顔が蒼く染まる。それはそうだ、今目の前にいるのは伝説の悪鬼の一族のNo2なのだから。言い伝えじゃ人も食べている。

 

「ば、ばかな…貴様が生きていたのは千年も前じゃ…」

 

『封印されておったし何より鬼の寿命を舐めるでない…さて、(わっぱ)共』

 

バラキはそこで切り少しずつ魔力を放出する。

 

『聞こう、お主らに最前線で戦う魔女と同等の覚悟があるか?』

 

そう言った瞬間爆発的にバラキの魔力が膨らむ。基本的に魔力は魔女で無ければ感じる事は出来ないが例外として大きすぎる場合一般人は圧力として感じる事がある。俺達魔力持ちはほぼ反射的に全力のシールドを張る。吹き荒れる魔力は部屋の中に暴風を引き起こす。

 

「あ、あ、ああぁ…」

 

しかし魔力を持たない将校たちは何も出来ずにただその圧力に呑まれる。失神ギリギリだ。

 

『どうなのだ?怪異の攻撃の中を飛ぶ勇気はあるか?超常に巻き込まれる覚悟はあるか?死と戦う意思はあるか?あるならばこの作戦、自ら前へと出てみるがよい』

 

「そ、その前にこの作戦は認可されるはずが無いだろう!」

 

流石は無駄に自尊心の高い連中だ。この威圧感の中でも言い返している。失禁してる奴もいるが。その時入り口が開いた。

 

「私目はその作戦に賛成でございます!」

 

入ってきたのは車椅子に乗ったご老人だった。その後ろからは醇子がいた。

 

「って醇子ぉ!?」

 

なんで醇子がここに…?醇子はこのバラキの魔力の嵐を半球シールドでご老人ごと覆うことで守っていた。その醇子は俺に一つウインクをすると顔を引き締めた。

 

『ほう、(わっぱ)、醇子に守られているとはいえよくぞ耐えておるな。ふむ…成る程、醇子の祖父と言ったところか』

 

「ははは、まさかこの歳で(わっぱ)扱いとは中々に新鮮ですな。その通りでございます、茨木童子どの。私は醇子の祖父でございます」

 

「そうか、あの人が…」

 

何かの病なのだろうか、少し痩けてはいるがその目は優しく厳しい鷹のような瞳だった。

 

「殿下、恐れながら殿下の統帥する飛行機、船、自動車、兵士、その全てがおしなべて御皇国を守護せしめんこと!生命、領土、財産、威信…形有るもの無きもの一口に護国と申し上げましても各々に思うところも様々にございます。しかしながらご尊慮頂きたくは御国を成す礎が民草にあるということにございまする。民無くして御国はあり得ず!しからば―」

 

「違う!!国体無くして皇国はありえぬ!御国を護るとは―」

 

『俗物、黙っておれ』

 

「!!?」

 

今まで一番煩かったちょび髭(堀井だったっけ…?)がバラキに殺気を浴びせられて動けなくなってしまう。良く意識を保ってられるな…流石は自尊心の塊。その時、

 

「ふむ…双方の言い分は分かる。民無くしては国は無く、また威光が無くては国を保てぬ。そしてその威光は我が七つの海を渡る艦隊だろう」

 

「殿下…!」

 

ちょび髭が理解してくれたと言わんばかりに目を輝かせる。

 

「しかし此度はそちらの少尉の言葉が正しかったようだな」

 

ちょび髭は再び顔を青くする。忙しいやっちゃ。

 

「たった今"山"が海を渡り始めた。よってここに至り皇国の存亡を賭けた一戦となった!」

 

その言葉に皆が息を飲む。

 

「かようの驚天動地に対する策など今この場の物以外あるまい、よってこの作戦を承認、提案者である少尉には妾の名代として全魔女の指揮権を与える」

 

と言うことはフジさんはいきなり総司令官となったわけか、すごい出世だ。

 

「さて、お前たちには随分と苦労を掛けたようじゃが…今しばらく皇国の為に力を貸してくれまいか?」

 

「「「はっ!!!」」」

 

フジさんに醇子、それと今まで一言も喋らなかった美緒が礼をする。

 

「それと鈴木一飛曹」

 

「は!」

 

「お前の噂はかねがね聞いておる。そちの破壊力は此度の作戦において貴重な戦力だ。危ないことではあるが存分に暴れてくれ」

 

「は!御意に!」

 

「うむ、では茨木童子どの。貴方のような伝説の存在にこのような事を頼むのはいささか気が引けるが皆を頼む」

 

殿下は頭を下げる。俺達平民からしたらあまりにも心臓に悪い光景だ。

 

『ほっほっほっ、いくら伝説の存在だろうが今や一使い魔よ。主の意向にワシは従う』

 

「だ、そうだが?」

 

「勿論全力で当たらせてもらいます!」

 

「ははは!そうか、ではよろしく頼もう」

 

「はっ!!」

 

こりゃ大変な事を頼まれた、気張らなければ…俺達はこの部屋を後にした。出ていくときバラキがちょび髭に何か言ったようだが何を言ったのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(わっぱ)、自身の欲ばかりを考えるでないぞ』

 

「な、何の事だ?」

 

『認可されておらぬ作戦を実行しようとするでない。魔女を危険に晒すのであれば尚更のこと。もししようものならその時はぬしを喰らうてやる、妻子諸共とな』

 

「なっ!?」

 

『この作戦に全力をぶつけよ。それだけじゃ』

 

茨木童子が立ち去った後には顔を真っ青に染めた海軍将校、堀井が残された…この後堀井はこの作戦に尽力を尽くした為その功績が称えられるようになったのは別の話だ。




バラキさん、あんた怖すぎ

茨『酒呑童子殿はもっと怖いぞ?』

なにそれめちゃ怖い…(ガクガクブルブル)
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