隻腕の鬼と魔女   作:砂利道

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健人は普段は作中通り。魔力解放すると身体能力が格段に上がります。今回は半分程解放した状態ですかね。


本質

あの後入隊手続きは北郷さんが全部やってくれた。どうやら陸海軍の上層部は俺の入隊に一悶着あったそうだ。曰く、男のウィッチを入れては軍規が乱れるのではないか?では規律に厳しい陸軍に入れましょうよ、と陸軍。曰く、いやいやここはあえて伸び伸びとやらせましょう。その方が成長が期待できる、と海軍。こんな事を三日続けたらしい。その間俺は待ち惚け。何度悪態着いたか…まぁ最後は北郷さんが

「彼は私の元での指導を望んでいます」

で、海軍に決まったらしい。そして今日は北郷さんの元での初めての訓練。まずは一緒に訓練を受ける人達の顔合わせと言っていた。全員年上らしい。

「坂本美緒だ、よろしく」

「竹井醇子です…」

「若本徹子だ」

恐ろしく簡潔だが仕方ないだろう。俺の見た目は全身火傷の痕に左腕が無く袖がはためいているのだから。

さらに茨木童子のお陰で俺の雰囲気は絶対に十歳のものではないし。既に戦場を渡り歩いてきた様になっている。お陰で舐められる事は無いだろう。それに俺にはあまり関係無い。俺は強くなって怪異共を葬れれば良いのだから。

「鈴木健人です。よろしくお願いします」

とりあえず無難に挨拶。話すのは最低限でいい。

「よし、挨拶は終わったな。なら早速訓練だ!」

 

 

最初の訓練はただひたすら走らされた。飛行場の滑走路二十往復。滑走路は想像以上に長いのでかなりキツイ…のだが

ー…何でだ?

俺は汗こそは掻けどまったくといっていいほど疲れなかった。以前から体力はある方だとは思っていたがここまでは無かった。それに今回は左右のバランスを保つ為に左の腰に血染を提げながら走っている。血染は普通の刀よりも重く恐らく五キロ近くある筈だ。腕がある右側よりも重いのだ。つまり前より総重量は多いのだが何故か以前より軽く感じる。

ーもう可能性は一つしかないよな…

「おい」

俺は小声で俺の中にいる使い魔に話しかけた。

『何じゃ?』

「何か体が軽いんだがお前の仕業か?」

『そうじゃ。言ったであろう、主に全てを預けると。それはつまり儂の肉体、力、知識これら全てじゃ』

「なるほど」

『主の体は今や鋼のごとき硬さに常軌を逸した再生力、魔力に至っては泉の如く湧き出る。まさに鬼そのものじゃよ』

俺はいつの間にか人をやめていたようだ。

「そうか、まぁその方が戦いには都合がいいかっと」

茨木童子と話しているうちに二十往復は終わったようだ。ちなみに三人はまだ十二~三往復といった所だ。

「もう終わったのか!?」

北郷さんはあまりの早さに驚いていた。

「はい、次の訓練にいかせてください」

「そ、そうか。では次は腕立て伏せ100回、腹筋100回だ!」

「はい」

しかしそう言った後で北郷は気づいた。腹筋はともかく、腕立て伏せは健人にはキツイのではと。

「健人…!?」

北郷が見たのは猛烈な速さで腕立て伏せをしている健人だった。

「四十八、四十九、五十、五十一…」

既に半分を終えていた。

「な、何てやつだ…」

北郷は健人には基礎体力の訓練は必要無いだろうなと思った。

「は、速すぎ、るでしょ…」

竹井は息も絶え絶え健人の異常な体力に目を剥いていた。少し前を走っている坂本と若本も同じ事を思っていた。

「あいつ、化け物かよ…」

若本が素直に自分の気持ちを呟いた。

 

「俺は化け物だよ九十九、百!」

鬼の聴力を手に入れた健人にとってたった五十メートル先の呟きは容易に拾えた。

「腕立て伏せと腹筋終わりました。」

「むっ、そうか。なら少し待っていてくれ。もう少しであいつらが終わりそうなんだ」

健人は北郷の視線を追った。そこには肩で大きく呼吸をしている三人がいた。

「頼むから邪魔にはならないでくれよ」

「何か言ったか?」

「いえ、何でもないです」

つい内心が出ていたか。しかしよくあいつらはあれで軍人になろうと思ったよな。あんなにのんびりされると俺の邪魔になるんだがな。

 

「それではストライカーユニットによる空中機動の訓練だ」

きた。これが一番の難問だ。こればっかりは茨木童子の力を借りれないからな。完全に自分の才能に頼るしかない。

「北郷さん」

「先生で構わないぞ」

「では先生、これにはどんなコツがあるんですか?」

「コツか?うーむ…まぁ飛べば何とかなるだろう」

何て大雑把な…とにかく試して見ろということか。俺は北郷さんの指示通りにストライカーユニット、九六式艦上戦闘脚に足を滑らせた。なんだかすごく重い水に足を突っ込んだ感覚だ。そして魔力を解放した。髪が伸び白く染まり目は赤く染まり、額から二本の角が現れた。初めて俺の魔力解放を見た三人は俺の変わりように驚いている。

「全員装着したな、では魔力を込めてみろ」

俺たちは魔力を込め始めた。三人はすでに経験済みらしく問題なく起動した。しかし俺は

ボフン!!

起動どころか黒煙を上げそのまま沈黙した。

「大丈夫か!?」

北郷さんが慌てて近寄ってきた。俺自体は鬼の体によって無傷だが…

「すいません、壊しました」

「いや、君が無事ならそれでいい。しかし君はしばらく魔力の細かい制御を練習したほうがいいな」

魔力の制御なら既にできている。

「魔力の制御ならできています」

「確かに普通ならそれでいいんだが、健人君の場合は魔力が強すぎてストライカーユニットが耐えられないんだ。だから固有魔法の制御を覚えてより細かい力の使い方を身に着けてもらいたい」

「…解りました」

俺は少し不貞腐れた。一刻でも早く空中での戦闘を覚えたいのに。

「それと同時に片腕での剣の使い方を覚えてもらう」

すっかり忘れていた。茨木童子の知識の中に刀の使い方があると思っていたからだ。

ーなぁ、刀の使い方わかる?

『儂はいつでも素手で戦っていたといえば分かるか?』

ー使えないのな…

「どうかしたか?」

「何でもないです。よろしくお願いします」

こちらも才能と努力が頼りみたいだ。

 

 

 今俺は剣道の防具を着けて同じく防具を着けた北郷さんと対峙している。なんでも北郷さんは講道館剣術の免許皆伝らしく坂本達曰く

「まったく歯が立たない」

らしい。ちなみに三人は防具を着けて後ろに控えている。防具を着けるのも手伝ってくれた。いい奴らだがその最中にも俺はこいつらはどれほど強いのかと思っていた。さっきの練習風景からあまり強くないのではと考えていたからだ。

「どこからでも来ていいぞ」

北郷さんの言葉で意識を戻した。俺は片手で竹刀を真っ直ぐに構えた。とにかく目の前の人から一本取ればいいだけだ。そう思うなり俺は北郷さんに向かって飛び跳ねた。

 

 本当に彼は規格外だ。彼の構えは初めてにしては中々様になっている。気迫も十分…というかどちらかというと殺気に近い。これが鬼が放つものか。すると彼はいきなり私に向かって飛び跳ねてきた。

「なっ!?」

彼は優に二メートルは跳んでいる。真上からの一撃。私は受け流そうと構えたが

ゾクッ

私の本能が受けてはならないといった。咄嗟に体を捻り彼をかわした。彼が思い切り振りおろした竹刀は道場の床にぶつかった瞬間

バギィッ!!

竹刀が折れ、床の一部が砕けた。もしあのまま受けていたら私の竹刀も折れ、頭蓋骨にヒビがはいっていただろう。彼は折れたままの竹刀を構えそのまま襲いかかってきた。どうやら正気を失っているようだ。

 

体が熱い。目の前が白く染まっていく。思考が塗り潰されていく。

壊せ、潰せ、砕け

俺ではない何かが体を奪っていく。

ーやめろ!俺はそこまでやりたくはない!

 

ー何を言う、これはお前が望んだ事だろ?

 

ーそんなの望んだ思いはない!

 

ーいや、お前は望んだ。全てを破壊することを

 

ーお前は誰なんだ!

 

ー俺はお前だ、鬼となったな…

 

 

健人君は先生に折れた竹刀でそのまま襲いかかっていた。最初の時と違ってどこか獣じみていた。

「きゃあっ!」

折れた竹刀の先端が私めがけて飛んできた。

「醇子!」

竹刀は私のすぐ横の壁に突き刺さった。もう私は怖くて動けなかった。すると音がなくなった。

「な、なに?」

先生の方を見ると健人君が私の方を見て固まっていた。

 

竹井さんの方に竹刀の先端が飛んでいったようだ。危ないと思ったが体が言うことをきかない。視界の端に竹井さんが写った。うずくまって頭を抱えている。その姿があの日の明子に重なった。全てを失い、鬼となったその瞬間と。

「あ、あぁ…」

そこには先程までの鬼はいなかった。ただ深い傷を負った幼い子供がいるだけだった。

俺は意識を失った。




今回で一応書き溜めした分は消化しました。そしてこの三話で分かったのはやはりちゃんと設定を作らないと話がぐねぐねしますね。次回からはちゃんとした設定の上で筋が通っている作品にしたいと思います。時間が掛かると思いますが、ご期待に添えるよう努力しますので、よろしくお願いします。m(__)m









 後から気付きましたがこの頃ってまだ宮藤理論のストライカーなかったんですね…
もしあれでしたら原作とは少し違った世界という風に解釈してください。
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