隻腕の鬼と魔女   作:砂利道

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お久しぶりの砂利道です。前回書いたように調子がよく、バリバリと書いていたら気付いたら5000字オーバー…切るところが見つからず大変長くなりました。でも後悔はしてません(キリッ
まぁ楽しんでもらえればいいですのでね(笑)
それと実はツイッターやってます。@arklove19で、でます。更新や進捗などをつぶやきますので、物好きな人はフォローよろしくです。


もう二度と失わない為に

茨木童子の爆弾発言事件から二日、俺は若本さんを中心に訓練生から何度も決闘を挑まれた。もちろん全部逃げてきた。

「いい加減勝負を受けろーーー!」

「嫌だ!第一怪我させるなって言ったのあんたじゃないすか!」

「それはそれ、これはこれだ!」

「無茶苦茶だーーー!」

と終始こんな感じだ。そして最後には必ず、

「この根性無しが!」

これで何回目だろうか。いい加減腹が立ってきた。俺は立ち止まり振り返った。

「もういい加減にしてくれ!俺に関わるなよ!」

俺は殺気を込めて睨んだ。

「っ!」

若本さんは俺の気迫に気圧されていた。

「あれはあいつが勝手に言っていただけだし、俺は怪異共を滅ぼせればそれでいいんだよ!」

俺は苛立ちに任せて内心をぶちまけた。

「な、なんでそんなに怪異を恨むんだよ…」

その言葉は俺には許容できないものだった。

「なにも奪われてない奴に何がわかるんだよ!お前も、他の訓練生も、北郷さんも、全員癪に障るんだよ!」

目の前で家族を殺されて俺はただ守られる事しか出来なかった。若本さんは何も言わなくなってしまった。俺の言葉に反論できるものが無いのだろう。二人の間に沈黙が訪れた。そのとき

 

 

ウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!

 

 

警報が鳴り響いた。

「!?これは…」

若本さんは慌てて基地の方を向いた。基地では慌ただしく作業員たちが動いていた。

「怪異か!」

「怪異…」

あの時の光景がフラッシュバックした。息が苦しい、火傷の跡が熱い、左肩が疼く。

「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」

「お、おい!」

視界が明滅する。

 

 

ー壊せ…

 

やめろ

 

ーすべてを壊せ…

 

やめろ…

 

ー壊せ!

 

やめろぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー! 

 

 

「健人君!」

意識が引き戻された。いつの間にか坂本さんと竹井さんが来ていた。声も止んでいた。

「なん、でここに…?」

「先生に避難しろって言われてここに来たの。そしたら徹子ちゃんと健人君がいて健人君が突然苦しみだしたから…」

「若本さんは…?」

「徹子ちゃんなら先生の所にいったよ、唯一まともに飛べるからね」

俺はまた残されるみたいだ。怒りが湧いてくる。あれだけ息巻いて怪異を滅ぼすと言いながらストライカーはまともに操れず、自分をも制御ができていない。いざ戦いとなればフラッシュバックを起こしてなにも出来なくなる。これでは根性無しと言われてもしょうがない。

「私は…私にできる事をやる!」

坂本さんは右目の眼帯を外して戦闘の起こっている方角を見ていた。その顔はとても苦しそうで、でも何か覚悟を決めた顔をしていた。

「頑張って、美緒ちゃん!」

竹井さんが応援していた。俺には分からなかった。どうやったら立ち向かう事ができるのか。

「視えた!でもあれは…」

坂本さんは飛行場に向かって走り出した。

「美緒ちゃん!健人君は待ってて!」

二人とも行ってしまった。俺は動けなかった。

『よいのか』

茨木童子が話しかけてきた。

ーしょうがないだろ、俺はまだ自分を制御できないんだから

『あの女子(おなご)は乗り越えたぞ』

ーあの人は強かった。それだけだ

『あの女子は飛ぶぞ』

ーそうだろうな。それこそ俺が届かない様な高いところに

『あの女子…死ぬぞ』

ーっ!?

『大した技術も持たず飛ぶのに精いっぱいの者が戦場に立つのだから当然の帰結だ』

ー…北郷さんがいる、きっと守ってくれるさ。

『…なぁ、健人や』

初めて名前で呼ばれた気がした。

『お前さんはなぜもう一人の主に心身を預けなかった?』

ー俺の復讐に周りを巻き込みたくないから…

『それは本音か?』

ー…どういうこと?

『主は怖がっているのではないか?自分が巻き込み、また目の前で大事な人たちが傷つき、死んでしまうのを』

ー…

『主は気付いていたはずじゃ。自分を御する為の覚悟を』

ー…それはなんだよ

『まだとぼけるか。ならば問おう』

 

 

『憎いか』

ーすごく憎いさ

 

『その憎さは何に対してか』

ー…怪異、それと自分

 

『なぜ自らを憎む』

ー何もできずただ居るだけだったから

 

『怖いか』

ーすごく怖いさ

 

『何が怖いか』

ー怪異、それと…大事なものを失うこと

 

『大事なものとは何か』

ー…仲間

 

『力がほしいか』

ー欲しい

 

『なぜ力を求む』

ー怪異を滅ぼしたいから…

 

『なぜ滅ぼしたい』

ー滅ぼせば…誰も死なないから

 

『戦いたいか』

ー…戦いたい

 

『なぜ戦いたい』

ー決まってるだろ

 

 

 

 

 

「仲間を守る為だ!!」

 

 

 

 

『ならばわかっているな』

「ああ、悪い待たせた」

『まったくじゃ、…ではいくぞ』

俺の意識は遠のいて行った。

 

 

 

 

 

 目を開けると映し鏡のように“俺”がいた。腰には血染を携えている。

「よぉ、ようやく体を渡す気になったか」

「そうだな、もう逃げるのは止めた。正面から正々堂々お前を捻じ伏せる」

俺は目の前の“俺”を睨みつけた。“俺”の顔がゆがむ。

「…調子に乗るなよ。餓鬼が」

俺たちは互いの血染を引き抜いた。相手に切っ先を向け構える。

「「シッ!!」」

空気を吐き出す音と同時に俺たちは血染をぶつけ合った。あっちが袈裟切りをしてきた。俺は逆袈裟で弾いた。体を捻り、突きを繰り出した。あっちは紙一重で躱し、体を回転させながら水平に薙いできた。俺は体をのけ反らせた。鼻先少し上を刀身が掠めた。俺たちは互いに距離を取りもう一度打ち付けあった。

 俺は血染を振るいながら頭にはある光景が浮かんでいた。昔明子と行った森にある川の渓流。そこは綺麗な音で溢れていた。水の流れる音、木々がこすれ合う音、鳥の鳴き声、すべてが俺には幸福を与える音だった。

ーしばらく忘れてたな

俺は“音”が好きだった。どの音も個性的で飽きない刺激をくれる。でもあの日、嫌な音を知ってしまった。だから耳を閉ざし、自らの音を聞こうとしなかった。だからこそこんなに怯えた。でも今は違う。ちゃんと聞くことができる。だから聞こう。もう一人の“俺”の音を。

ー…そうか、お前は…

刀身が弾かれ無防備になってしまった。血染が振り下ろされる。

「お前も怖いのか」

途中で刀が止まった。小刻みに震えている。

「当然だよな。よく考えればお前も俺だ。俺もお前だ。お前は俺を守ってくれてたんだよな。俺が人と関わって傷付かないように乱雑に振る舞い遠ざけさせていたんだよな?」

「…そこまで気付いていながらなぜ拒むんだ」

「覚悟が出来たからさ。俺の復讐は仲間を守るための復讐だ」

「そんなでは怪異を殲滅しつくせないぞ」

「してみせるさ。必ず俺の復讐を完遂する」

「…そうか」

もう一人の俺は刀を下ろした。

「…お前の力は音だ。音を聴いて音を視ろ。そうすれば血染がお前を選んだ理由も分かる」

俺は驚いていた。なぜそこまで分かるのか。

「俺は元々お前の力の部分だ。戦闘技術や意欲は俺が預かっている。お前は知識をもっていたが“思ったよりは”、以上には動けなかっただろう?」

確かにイメージはできるが体は追い付かなかった。

「だが今の戦いで勘はそっちに流れていたようだな。でなければあんなに持つわけがなかった」

どんだけ強かったんだあんた。

「もう俺はいなくても大丈夫だよな」

「…なに消えようとしてんだよ」

「お前は乗り越えたのだろう?なら大丈夫だ」

「消えるんじゃねぇよ。戻ってこい!お前は俺だ、消えたら俺は例え怪異を滅ぼしても心から喜ぶ事が出来ねぇだろうが!」

「今更、迷惑掛けまくっといてそう戻れるかよ。安心しろ、力は渡す」

「そうじゃねぇ!俺達は二人で一人だ、お前が持ってる闇も憎悪も怒りも弱さも全部俺という存在のものだ!一人で持ってくんじゃねぇよ!」

ここまで本心をさらけ出し叫んだのは初めてだ。どこか恥ずかしいがここは本音で話すべきだ。

「…そうかよ。なら頼んだぜ、俺」

「あぁ、任せろ。ぜってー挫けないからな、俺んなかでよく見てろよ!」

「そうさせてもらうよ」

もう一人の“俺”は空気に溶けるように消えていった。死んだのではない。ただあるべき姿に戻っただけだ。

『終わったのじゃな』

「終わったよ」

『ならば行こうぞ、我が主よ』

「あぁ、行くぞ!」

世界が輝きそして砕けた。

 

 

 

 

「うん…?」

目が覚めると先程までの森の中だった。飛行場の方を見るとまだ慌ただしかった。

『なに呆けておるのじゃ、行くぞ』

「…いつになく積極的だな」

『久々に戦えるのじゃ、そりゃ高揚するわい』

「そうかよ。まぁいい、行くか」

俺は飛行場に向けて走り出した。

 

 

 「北郷さん!」

「健人君か」

「その傷…」

「なに大したことないさ」

北郷さんは頬と左腕から血を流していた。

「先生!」

竹井さんとどうやら先に帰投していた若本さんが駆け寄ってきた。

「先生、血が…」

「心配するな、問題ないよ」

そういうと北郷さんはほほ笑んだ。

「北郷さん、坂本さんは?」

「そうだ、美緒ちゃんは!」

「それも大丈夫。今は道場で寝ているよ」

「そっか、よかった…」

竹井さんは涙ぐんでいる。

「あいつようやく飛ぶ気になったか」

若本さんがやれやれといった感じに笑っている。

 

 

「敵影一機確認!西方距離四千!」

「なんだと!?」

時間差で来たらしい。

「先生、俺が行く!」

「ダメだ!若は魔力ももう無いし燃料が足り無い!」

「そんな…」

その場を絶望感がつつんだ。

「…やるぞ」

『承知!』

俺は北郷さんの扶桑刀を一本つかみ西の海に走った。

「健人君!何を…」

俺は北郷さんの刀を右手で引き抜き背の方でコンクリートの地面をたたいた。

キーーン!

音が広がった。魔力を解放し広がった音を聴いた。すぐ近くに北郷さんたちがこっちに来ている。少し離れた所に坂本さんが横たわっている。意識を西に向ける。……いた。飛行機の形をした怪異だ。こっちに向かってきている。結構速い。距離はもうすぐ三千五百。

「フー…」

意識を集中させる。血染に右手を添え、左足を引く。魔力を込める。血染が震え、音を発する。

ー相性が良いってそういうことか

“俺”が言っていた事が今分かった。気分が高揚してくる。俺は血染が発している音を刀身に集めた。刀身が鞘に触れていない。余りの振動に浮いているのだ。

ー距離三千。まだだ、我慢しろ。

右手に力を込める。魔力が溢れるにつれ白く染まった髪と額の角が伸びる。

ー一撃だ。一撃で仕留める

今更ながらに緊張しているのが分かった。

『想像しろ。その技を思い浮かべろ。自らが放つ技に名を着け叫べ。緊張も一緒に吹き飛ばしてしまえ』

茨木童子が話しかけてくる。技を想像する。これはこういう技だ。成功を想像する。

ー距離二千、今だ!

不可視の音の刃が空と共に敵を断ち切る技。

「空断(からたち)!!」

 

 

居合の要領で刀を上向きに振りぬく。鞘から浮いているから抵抗は無く、身体強化で人の限界を超えた速度で腕を振る。纏った音の刃は空気を裂きながら怪異へと向かっていく。時速約千二百キロ、秒速にして三百メートルを超える速度で進んでいく。到達。怪異を真っ二つに断ち切った。

ドォォォォォォン!!

遅れて破壊の音が聞こえてきた。俺は安堵した瞬間意識を失った。

 

 

 

 彼はほんの数時間会わなかっただけで一回りも二回りも成長したように思えた。この短時間で何があったのか。

「…やるぞ」

彼は私の二本ある刀のうち一本を持ち去り飛行場の西の端まで走っていった。私は痛む体を少し引き摺りながら彼の後を追った。若と醇ちゃんが心配そうについてきている。彼は私の刀を抜くと地面に叩きつけた。

「あいつ先生の刀をっ…!」

しかしその瞬間私たちを薄い魔力の壁が通り抜けた気がした。健人君は何かを聴いている様にも視ている様にも見えた。健人君が構えを取る。左腕が無いので多少変則的だが間違いなく居合の構えだ。健人君の持つ鬼気的魔力が濃密に膨れ上がり、右腕と刀に凝縮した。刀が高いとも低いとも言えない音を鳴らしている。同時に超振動が起きているのが目に見えて分かった。横の二人は健人君の魔力に気圧されていた。私は直に鬼の魔力を感じたことがあるので何とか持ちこたえた。空気が張り詰める。遠くに怪異が見えた。もうすぐそこに来ている。健人君の魔力が一瞬さらに凝縮、そして

「空断(からたち)!」

一気に放出。すごい魔力量だ。私の全魔力に匹敵する程だ。衝撃波が伝わる。そして怪異が真っ二つに砕き切られた。まさに砕き切っただ。遠くからでも分かるほどにそう見えた。二人はこの距離で怪異を倒した事に唖然としていた。かくいう私も言葉で表せない程に驚いている。健人君は安心したかのように倒れた。慌てて駆け寄ると魔力を一度に大量に使ったので気絶したようだ。その顔はとても清々しく吹っ切れた顔をしていた。

「ほんと、皆よく頑張ったな」

私はこの子たちの将来を思い、微笑んだ。

 

 

 

 目を覚ますと病室のベッドの上にいた。しかも夜だ。何故ここにいるのか分からなかったがすぐに思い当り、呆れた。

「魔力の使い過ぎで気絶かよ…」

『仕方があるまい、あれだけの魔力を一度に使えばいくら無尽蔵でも気絶するわい』

「そうかよ…」

俺は今日あったことを思い出していた。

「…なぁ」

『なんじゃ?』

「乗り越えたんだよな」

『…そうじゃな』

「そうか」

俺は様々な思いを込めて呟いた。

「そうか」

『うむ…』

「なぁ、茨木童子」

『…バラキで構わん』

「えっ?」

『かつて仲間達から呼ばれていたあだ名じゃ、気に入らぬ奴には呼ばせぬ…な』

それは暗に俺をちゃんと認めてくれたということか?

「じゃあバラキ」

『なんじゃ?』

「…これからもよろしくな」

『…ふっ、無論じゃ』

俺はこれからもバラキと守るべき人達がいれば乗り越えられる。そう思いもう一度眠りについた。




 勢いつくと止まりませんね。暴走しっ放しでした。感想、アドバイス待ってます。
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