隻腕の鬼と魔女   作:砂利道

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七話でできなかった健人の詳しい能力が説明されてます。おかしくね?と思ったら感想かツイッターによろしくです。


ウラル前線へ

 「ねぇ、聞いた?今度うちに配属されるのって“あの”舞鶴らしいよ」

「ええ、報告は受けてるわ」

「へぇー、“あの”…」

「それはまた…おもしろくなりそうね」

 

 

 

 

 あれから数日、俺も復帰して坂本さんも本格的に魔女になると誓い訓練に明け暮れていた。俺はあの後魔力に加え暴走の心配も無くなったので、ストライカーの訓練に無事移れた。今度は少しずつ送れるようになり、きちんと飛べた。しかし片腕が無いのでバランスを保つのに苦労していた。バラキが多少助けてくれるが元々大地を駆ける方が得意なもんだから二人して手探り状態だ。バラキは『天狗にでも飛び方を教わればよかったのう…』と言っていた。会ったことがあるのかよ。それに、さらに問題があった。片手で銃を扱うと反動で照準がずれて当たらないのだ。支えること自体は出来るが如何せん足場が無い。しかも充填が出来ない。銃に関してはもうお手上げだった。そこで刀による近接戦闘に変えた。もともと緊急用にと思っていたが銃が使えないので仕方がない。

「ルールは相手の吹き流しを断ち切れば勝ち。同高度ですれ違ったら模擬戦開始だ」

俺は今若本さんと向かい合いながら滞空している。互いに刀一本なのは俺が銃を使えないからだ、申し訳ない。

「不慣れでも手加減しねぇぞ」

「当然でしょう」

若本さんは俺たちの中では最も飛行時間が長く、訓練生の中では最も空戦機動に馴れている。対する俺はまだ三時間程しか飛んでいない。空戦技術ではまだ勝てないだろう。しかし俺には試したいことがあった。今はちょうど良い練習になるはずだ。

「では三秒後に開始だ。…二、一模擬戦開始!」

俺たちはすれ違った直後に互いに抜刀。若本さんは素早く切り替えし既に俺の背中についていた。俺は必死に振り切ろうと動きまくったがそれでもつかれている。

「これで終わりだ!」

若本さんの刀が俺の吹き流しを断ち切ろうと振り下ろされる。だが俺は躱そうとはせず、血染を背後に向け、魔力を流し込んだ。血染が音、ひいては振動を起こす。そして一気に放出。

「うぉ!」

「ぐっ…!」

若本さんは衝撃波で吹き飛んだ。だが俺も初めてで加減が分からず、強烈なGで目の前が暗くなる。歯を食いしばり耐えるとハッキリしてきた。俺は少し減速したところで上に向けてもう一度急加速。さらに衝撃波が襲う。若本さんは錐もみをして方向が曖昧になったらしく俺がどこにいるのか分かっていない。俺は一度鞘に納めて居合の体勢を取る。威力を限界にまで抑えた空断(からたち)、慎重に狙いを定めた。

ーまだ…、いまだ!

「空断!」

不可視の音の刃は正確に吹き流しの中央を断ち切った。ついでに海も少し切り裂いた。

「あ、やべぇ!」

空断の正しい表現は“砕き切る”だ。それは音の刃による切断性と音速を超える事により発生する衝撃波が対象を破壊することでできる表現。だが俺は今切る事しか考えておらず、衝撃波の事を完全に失念していた。若本さんはもろにそれを食らい意識を完全に失い落下していた。慌てて追うが間に合わない。すると一つの影が若本さんを攫っていった。北郷さんだ。審判の為に一緒に飛んでいたのだ。

「よかった…」

「健人君」

北郷さんが怒った声を出している。

「は、はい!」

「後でちょっと来なさい」

「はい…」

お説教決定だ。

 

 

 

 「すいませんでした」

「別にいいよ」

どうやら負けた事が悔しいようだ。俺はあの後しっかり北郷さんの説教を受けその後意識を取り戻した若本さんにこうして謝りに来たのだ。

「それよりあれは何なんだよ!」

「あ、あれ?」

「俺を吹き飛ばしたあれだよ!」

「あ、あぁ。あれか…」

自分が負けた理由を聞き次に生かすようだ。隠すようなものではないので教えてもいいか。

「あれは空断を刀に留めるんじゃなくて一方に爆散させて推進力を得る技ですよ」

「…ん?」

よく分からなかったようだ。

「簡単に言えば銃と似た感じですよ」

「銃と?」

「銃の場合は火薬を爆発させた威力を銃身によって一方向に限定させて弾丸を発射します。それと同じで空断の要領で血染に魔力を溜めた後俺の固有魔法で操作して後ろにだけ放出したんです。分かりました?」

「お前固有魔法持ってたのか!?」

「あれ、言ってませんでしたっけ?」

「言ってねぇよ」

確かに思い返すと話して無い気がする。

「俺の固有魔法は“音”です。あらゆる音を制御下に置いてそれによる攻撃や加速、防御ができます」

「たかが音にそんな事可能なのか?」

「音は振動ですから正確には振動の強弱や波の形を変えてるんです」

「ふ~ん…」

分かったような分かんないような反応だ。

「ようするにお前の音をかき消すようなでかい音を出せばいいんだな!」

「出した瞬間に俺の制御下に置くんで無駄です」

「……」

「そんな恨めしい目で見られても…」

「お前の魔法強すぎないか?」

「そうでも無いですよ、強力な分制御が大変だし使い方を間違えれば味方も自分も怪我させるんで」

「危険だな」

「まったくです」

いくら魔力制御が元に戻っても半分以上はバラキに任せている。魔力のコントロールは今後の課題の一つだ。

「そういやお前いつまでそんな敬語使ってんだ?」

「えっ、いや、一応みんな先輩だし…」

「別にいいんだよ、先輩って言ってもたかが一、二歳だろ?それに若本と坂本でややこしいんだよ。これからは名前呼びで敬語禁止な」

なんて横暴で無茶苦茶な。だが実は俺もこの言葉遣いは少し苦手だった。この際だから改めさせてもらおう。

「わかったよ、徹子」

徹子は目を見張っていた。

「…なんでお前が驚くんだよ」

「いや…もっとあたふたするかと思ったらあまりに自然だったもんでな」

「素はこっちなんだよ、馴れてくれ」

「お、おう」

すると部屋の扉が開いた。

「徹子、大丈夫なのか?」

美緒と醇子だった。

「おう、全然問題無いぜ」

「ホントに?」

「ホントだ」

「美緒も醇子も心配しすぎなんだよ、こいつが丈夫なの知ってるだろ」

二人は俺の態度の変化に驚いていた。

ーあ、話してなかった

「徹子に言われてな、敬語禁止と名前呼びを言いつけられたんだよ」

「あ、あぁ。なるほど…」

二人とも納得したが何故か顔が少し赤い、風邪か?

 

 

 

 ー初めて男の子に名前で呼ばれたかも…

魔女は大体が箱入り的なところがあり、まともに話せるのは家族だけというのも少なくない。この二人はそこまでではないがいきなりの呼び捨てで困惑していた。

「おーい、若ー。っと、みんな揃っていたのか」

先生が来た。さっきまで私たち訓練生の指導をしていたのだ。

「みんなよく聞け、私たちがウラルの前線基地に配属されることになったぞ」

「俺たちがですか?」

「あぁ、九六の本格運用のテストという面もあるが私たちは実戦経験があるからな」

「でも私実戦出てない…」

「醇ちゃんは一番近くで私たちの戦いを見ていたじゃないか。それに若や坂本についで優秀だ」

「俺も実戦に出たとは言いにくいんですが…」

「何言っている、健人君は単独で怪異を撃墜してるじゃないか。十分なことだよ」

健人君は小さい声で「飛んではないんだけどなぁ…」と言っていた。私もやっていけるの不安でしょうがない。

 

 

 

 そして翌日、俺たちはウラルに来ていた。

「うっわー、ここはほんとにほんとに広いですねー…」

「確かにやたらと広いね」

北郷さんは高笑いしながら言った。確かに広い。と言うか広すぎる。周りには何もない。動くには問題なさそうだがなにもなさすぎてつまらない。

「それとこっちでは陸軍の精鋭さんと飛ぶから仲良くね」

「「はいっ!!」」

「はい」

「はいはい」

「さてと陸軍さんは…ん?」

向こうから誰か走ってくる。そのまま一番近くにいた美緒の手を取り

「ねぇ!あなた達が“あの”舞鶴の航空隊よね!?」

めっちゃ顔を輝かせながら聞いてきた。後ろから新たに三人が来た。

「飛行型ってどんな感じだった?」「どうやって倒したの?武装は?」

とにかく質問攻めだ。

「あ、あの…」

美緒たちは困惑しまくっている。

「まったく、何やってるのよ…ごめんなさいね、私は加藤武子陸軍少尉。そっちの長い髪のは穴吹智子少尉、ゴーグル着けてるのは加東圭子少尉よ。あなた達の所属と階級、それと飛行時間を教えてくれる?」

加藤少尉が収めてくれた。

「えっと…扶桑海軍第十二航空隊北郷部隊の坂本美緒です、階級は一飛曹です…」

「同じく竹井醇子です」

「同じく若本徹子」

「飛行時間は大体十時間です…」

「じゅ、十時間!?」

驚いていた。確かに前線に来るにはあまりにも少なすぎる。

「俺は五時間位です」

「え…わぁ!!」

三人の影に隠れるようにいた為今まで気付かれていなかった。

「な、なんで男の子がいるの!?」

穴吹少尉が驚いていた。

「あれ、君は…」

どこかで見たことがあった。確か最初に病院に運び込まれたときにいた。名前は…

「久しぶり、覚えてる?」

「はい、黒江綾香さんでしたよね?」

「ちょっと綾香知ってるの!?」

「聞いたことあるでしょ?世界で唯一の男性魔女(ウィッチ)。彼がそうよ」

「あぁ、彼が…」

全員が興味津々に俺を見ていた。

「あの…居心地が悪いんですが…」

「ねぇ、ほんとに魔力あるの?」

次は思いっきり疑いの目で見られた。

「なんだよ、疑ってんのか?」

徹子が少し怒った口調で言った。

「こいつはもう単独で怪異を撃墜してるよ」

「「「「えぇ!!?」」」」

今までで一番驚かれた。

「しかも地上から二キロ先の敵をだ」

「おい、徹子」

「なんだよ、いいじゃねぇか。隠すような事じゃないし」

「そうだけどあんまり目立ちたくないんだよ」

「片腕で体中火傷の跡だらけの世界でたった一人の男性ウィッチが目立たない訳ないだろ」

…目立つ要素ありまくりだな、俺。少し考えておこう。

「ほ、本当に倒したの?」

「倒しましたよ」

そういうと俺は魔法力を解放した。髪が伸び白く染まる。額から角が現れた。見せればある程度は納得するだろ、と思ってのことだ。

「これは…」

「あなたの使い魔なんなのよ」

「それは…」

『鬼じゃよ』

俺の隣に光が集まりバラキが姿を現した。

 

 

 

 

 

 

以前の筋骨隆々の姿で。雄叫びを上げながらだ。

 

 

 

 

 

考えるより先に手が出た。解放状態の全力正拳突き。だいぶ飛んだ。

『ひ、酷くないかのう…』

「当たり前だ!なにまたやらかしてんだよ!自己紹介の度にやるつもり!?ほんとやめてくれ!今ので醇子フラッシュバックで気絶してんじゃねぇか!」

ついでに目の前にいた穴吹少尉もだ。

『情けないのう』

「だからお前が言うなよ!元凶が!これでまた大騒ぎになったらどうすんの!?俺が大変なだけじゃん!」

「あー…健人、もう遅い」

「…え?」

あたりを見ると沢山の人が慌ただしく銃や整備道具を構えていた。完全に臨戦態勢だ。

「…茨木童子ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

『儂はこれで』

バラキは姿を消した。

「逃げるなこらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

その後俺は陸軍の皆さんと基地の人たちに謝り倒して許してもらった。

 




どんどん指が走ります。すこぶる調子がいいです。もう楽しくてしょうがない!そんな感じです。次もどんどん書きますよー(笑)
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