たくさん狙われるトレーナーくん   作:タソ

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書けば出るって聞いたから。

アニメ未履修。トウカイテイオー可愛いのでまたアニメも見ようと思います。

アプリはひたすらカフェを眺めています。

むしろカフェを眺めるためにウマ娘を始めました。アプリの仔細は知らん。ごめんね






珈琲店【紐育下町】

とある学園の一部屋。どうしてだか特定の人物のみしか立ち入ることが出来ない。

 

しかしながらその部屋に近づくにつれ、芳ばしい香りが漂ってくる。道行く人はその傍ら、小首を傾げながら、あるいは指をくわえながら通り過ぎてゆく。

 

誰にも気づかれないその部屋の主人は今日も静かに密やかに、静謐のもと、豆を煎る。

 

 

 

──やぁ、やっぱりやってるね

 

 

「…あ、トレーナーさん。いつもより早いですね」

 

 

──まぁね。今日は急かす連中が多くてね

 

 

「あぁ、それで…」

 

 

 

そう言って来客の背後に目を向ける。困ったような、懐かしむような、茫洋とした目元が綻ぶ。

 

見えぬナニカに殴りつけられて目を白黒させていれば、時計の針を糸巻きのように回され、天井灯でモールス信号を焚かれる。当然何も手につかなくなって、いつもより早いがこの場所に足を運ぶ流れとなった。

 

ただ足繁く通ってはいるが、いつもどのようにたどり着いているのか定かではない。席を立ち、気が付けば、その戸に手をかけている。

 

 

 

──何か変わったことでも始めたのか?

 

 

「いえ、いつもより準備を早めましたが…」

 

 

──…それだけで彼らは気が立つのか?

 

 

「ふふ…さぁ…?」

 

 

──全く、自分たちだけで行けばいいものを

 

 

「……トレーナーさんは、ご迷惑でしたか…?」

 

 

──あぁいや、そういう意味じゃないんだ。

…もちろんこの時間は楽しみにしているし、好きだよ。ただ毎回私の業務を遮ってまでせっつかれるのはどうもね

 

 

「…そんなことを、していたんですか」

 

 

 

咎めるような幾分ひそめられた声。部屋の空気が止まる。見えはしないが、連中が非常に慌てていると想像にかたくない。主人の視線はあちらこちらに飛び回る。その瞳の動きに背筋に薄ら寒いものが走る。

 

 

 

──そんなにいるのか

 

 

「あ、はい。今日は満員ですね」

 

 

 

あっけらかんと言う。1人や2人、3人くらいなら許容範囲だが、大所帯で後ろに付かれるのは勘弁して頂きたい。最初こそ怖気が走る度、部屋の主人にお願いして離れてもらったが、慣れとは怖いものだ。

 

 

──…もし

 

 

「はい…?」

 

 

──離れてもらうよう伝えてくれないか

 

 

「…慕われてますよ?」

 

 

 

心底嬉しくないが、そう言われてしまうと何人いるかも分からない彼らと袂を分かつのもはばかられる。合縁奇縁、あやかしの類とはいえこれまでと断じるのは憚られた。

 

 

 

──じゃあいい

 

「そうですか」

 

 

 

口角を上げつつも、うさぎも狩らんという速さで肯定してきた。さては伝える気もなかったな。

 

 

 

──オリジナルブレンドで

 

 

「はい」

 

 

 

手際よく豆が挽かれ、ミルの震えるような高い音が室内を駆け回る。特に何をするという訳でもなく、ただ漫然と、しなやかに蠢く彼女の手元を眺める。

 

白魚のような指先に、ため息の出るようなたおやかな所作。

 

 

主人が息を飲んだ。

 

蒸らしの時間だ。

 

 

先生と教え子のような距離があるにもかかわらず聞こえる豆の開く音。そして鼻腔をくすぐる深い香り。その香りを惜しむような遠慮がちな呼吸音。

 

 

 

──深呼吸でもすればいい

 

 

「…集中し過ぎです。貴方はウマ娘ですか」

 

 

 

僅かに頬を染め、口をとがらせる。主の思いとは裏腹に口元が歪んでいくのを自覚する。喉の奥でくつくつと音が鳴った。

 

 

 

「…貴方今タキオンさんそっくりの顔をしてます。不愉快です」

 

 

──それは悪かった。しかしタキオンが絡みに行きたくなる理由もわかる。

 

 

「分からないでください。貴方は、いつものままで」

 

 

──ああ

 

 

曖昧に返事をする。突如として視界がぼやける。急激な眠気が襲ってきた。いつもそうだ、コーヒーの香りは眠気を覚ますのではなかったのか、そんな自問自答も功を奏すことなく瞼が落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます」

 

 

 

すっかり軽くなった瞼を開くと、いつぞやに訪れた不可思議なエルドラド。空の底のような、影すらも呑み込む地。空を焼く仄暗い、それでいて暖かく揺らめく炎。静かに回る風車のような歯車。

 

 

 

──おはよう。相変わらず朝か昼か夜かも分からないところだねぇ、ここは。

 

 

「はい。影に朝も昼も夜も、関係ないですから」

 

 

 

いつも遠くを眺め、映すものを吸い込むような黄金色の瞳に懐かしげな光が灯る。

 

 

 

「今回はどうしましょうか。前みたいにお化け屋敷に行きますか?」

 

 

 

以前訪れた幻想に佇むお化け屋敷。字面でも絵面でも不気味極まりない存在に足を踏み入れ、そのまま奈落へと落ちかけた記憶がフラッシュバックする。

 

 

「随分…尾を引いてるみたいですね」

 

 

──怖かったからなぁ…。散策でもしよう。ゆっくり、前みたく後ろついていくから

 

 

「そこは虚勢でも隣にいて欲しいですが…離れないよう、手を」

 

 

 

小さくはにかみながら、力強く差し出される手。細く長いそれは心地よい冷たさを携えていた。できるだけ優しく包むように頂戴する。

 

 

 

──よろしくお願いいたします

 

 

 

「はい、行きましょう。足元、お気を付けて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは、おはようございます」

 

 

──怖かった…!

 

 

「よく…落ちますね」

 

 

──好きで落ちてるわけではないんだけど…

 

 

「…知ってます」

 

 

 

あの後、腰が引けた私を引率しながら、向こうの世界線を観光した。その顔はうかがえなかったが、後ろ姿、濡れたような漆黒の尾は、仄暗い中確かに楽しげに揺れていた。

 

しかし全てが目新しい私にとって、物見遊山気分になるなという方が酷な話であった。虹とも天の川とも分からないが、架け橋の麓の伝承。確かめたいと一度思うと確かめずにはいられなかった。

 

引率する彼女の手を引き、酔いの1歩を踏み出した途端、足元が孔となった。夢の中でも背中に冷たいものがほとばしった。目を剥き、夢の主人に助けを求めようと振り返る。

 

いつも以上に名残惜しそうな、困った笑顔を浮かべていた。

 

 

 

──悪かったよ。夢の時間、短縮してしまって

 

 

「全くです。さぁ、入りましたよ、コーヒー」

 

 

──ありがとう。…しまったな、お茶菓子を持ってくればよかった。

 

 

「お茶菓子…?」

 

 

──ああ、同期の子がね、担当と旅行に行ったらしくて。そこのお土産。クッキーとお饅頭なんだけど、完全に忘れていた。……お前らのせいだぞー?

 

 

 

背後に視線を投げ、咎めるように言う。いるかは分からないが、急かされた結果忘れてしまったのだから、幾分かの責任は彼らにもあるだろう。

 

 

 

──あ痛ァ!

 

 

 

突然鳩尾に痛みが走る。どうやら逆鱗に触れたらしい。彼らは執拗に身体の柔らかい部分を狙って拳を突き立ててくる。最近は傍から見たら狂人そのものだろうと、呑気に苦笑すら浮かべる余裕が出てきた。

 

この光景を横目にすっかり口を噤んでしまった部屋の主人の耳がなにか思いついたようにこちらを向く。伏し目がちな瞳が強く何かを訴えてくる。

 

 

 

「…では、トレーナーさんの部屋に移動しましょうか。ここで1杯、トレーナーさんの部屋で1杯、です」

 

 

──構わないけど、時間は大丈夫?

 

 

「はい、いつもより早いので…っ」

 

 

 

ばさりと、大きく尾がたなびく。持ち主は驚いたように目を丸くして尾を身体に巻き付ける。

 

確かに連中にせっつかれたため、かなり時間が残っている。なにか噛み合っている気がするが、努めて意識を持っていかないようにした。

 

 

 

──今日はゆっくりしようか

 

 

「…はい、一緒にうとうと、まどろみに苛まれましょう」

 

 

──コーヒー入ったら眠れないぞ?

 

 

「大丈夫です。カフェインが効くまで30分から1時間…。飲んでから直ぐに寝ると、効き始める時間に起きられます」

 

 

──なるほど…理にかなっている…

 

 

 

差し出されたコーヒーは、思っていたよりもすっきりとしており、楚々とした味わいだった。カップを揺らすと底が見え隠れする。

こういったコーヒーもあるのだなぁとますますの関心が湧き上がる。

 

ソーサーにカップを置き、一息。染み渡ったコーヒーの香りが心地よい。

 

向かいからもカップを置く音。同じく一息入れているのだろう。

 

 

 

「…夢も現も、共に歩んで頂けますか」

 

 

伏し目がちに問いかけられる。

返答は決まっていた。

 

 

──喜んで

 

 

「ふふ…では行きましょうか」

 

 

──え、もう?

 

 

「眠れなくなりますよ」

 

 

──ふむ?分かった、行こうか

 

 

 

パチリと、勝手に明かりが落ちる。早く行けと言うのか。

 

"皆"に再度せっつかれるように部屋から押し出される。

 

 

背後でその部屋の主人は、その目に私を写していた。

 

 

 

 

 

 

 

「次は、貴方の夢を。共に」

 

 

 

 

 

 

 




引けたら続くかも。


薄いコーヒーがあるのかは知らんのです。トレーナー君は味音痴なのかもしれません。
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