たくさん狙われるトレーナーくん 作:タソ
たまに現れてはマウントだけとって帰っていくぞ!
トレーナー君がちょっとだけ自分語りします。
火急体育館裏に来て欲しい、そういった旨の連絡を受け、慌てて現場に急行する。基本ろくでもないことが多いが、目を離すと不摂生に殺されかけているから袖にするわけにもいかない。
なぜ体育館裏なのか、この点については努めて考えないようにする。
見渡せば何ら変哲のない、野花が開く落ち着いた場所だ。白衣のウマ娘が倒れてさえ居なければ。
──タキオン!
「やぁ…来てくれたかいトレーナー君。見ての通り、食事をとるのをわすれていてね…。このザマで悪いが、頼まれてくれないか」
案の定不摂生が祟り、身動きが取れなくなっていた。また今回は随分と酷い。幽鬼のような血色に、カサついた唇。髪も肌も荒れている。
女を捨てたのかと問いたくなるが、以前女の何たるかを力説された為、口を噤む。ただそれは一般男性に治験の行われていない謎の薬品を投薬することや、三原色のビーカーをおもむろに注ぐことではないと思う。
──いつから寝てないんだ、全く…
風通しの良い場所まで連れて行き、横たわせる。年頃の娘とはいえ、筋肉が常人のそれよりも発達しているため、持ち上げるのに苦労はしないが、重い。脱力しきっているのでそれもまた助長する。
──少し待っててくれ
彼女たちほどではないが、これでもトレーナーをやってる身だ。マシなフォームで自室へ駆ける。
いつもタキオンが摂取していた世紀末食をカプセル化した物が残っていたはずだ。世紀の大発見だ!などとほざいていたが、今は緊急事態。なりふり構っていられない。
乱暴に玄関口を開け放ち、隅々まで掃除の行き届いたフローリングを土足で駆ける。
リビングの扉を開けようと手を伸ばした時、中でけたたましく物音がなった。
(──…?)
「あっ…」
──カフェ?なんでここに…
「えっと…尋ねてきたとき、慌ただしく出かけられたので…」
──またタキオンが倒れたから急いでるんだ。小一時間かかると思うけど待てるなら待っててもらっていい?話あるなら聞くからさ
「…またタキオンさんは」
口では傍迷惑だと言わんばかりに陰気だが、耳と尾はそわそわと落ち着きがない。
着いてきてもらう分にはありがたい話だし、ウマ娘1人増えれば文殊の知恵だって力技で超えられる。ただその前にやるべきことが出来た。
「あの、私も」
──もちろん、その前に髪どうにかしようか
この部屋で落ち着いてくれたのはとても嬉しいことだが、随分と寝癖がついてしまっている。横になったのだろう、漆で仕上げられたような黒髪にいつもと違う意味で目を奪われる。
「っ!?」
一陣の風が、洗面所にたなびいた
自室での一悶着の後、カフェに現場の位置を教え、錠剤と水を持たせて先に行かせた。その足跡を踏むように後を追う。いつぞやこんなことがあったような気がする。
何故かわかるカフェの轍を辿っていると、視界の端にとてつもない存在感を捉えた。
「トレーナーか?」
前方もこちらに気づいたらしく、迷子が見つかった時のような相貌を晒す。
──…?!
「ぐぅ…トレーナー君めぇ…なぜよりにもよって"コレ"を持ってこさせるんだ…」
「タキオンさん…フッ、その…輝いてます…フフ…」
「ええいうるさいうるさい!副作用に関しては毎度の如く説明していたのにこの所業っ!覚えてろよモルモット君!」
「冗談抜きで死にかけていたのに、言うに事欠いてそれですか…」
三下のように情けない恨みつらみを零し、ネオンに輝く彼女を前に笑いが込み上げてくる。いつもは面倒を被っている身からすると痛快無比だなぁ、なんて。
「…カフェ、その愉悦の表情をそろそろ引っ込めないか。まるで鏡を見ているようだ」
失礼な。貴女の姿見など願い下げだと思わず口走りそうになったが咄嗟の理性で封じ込める。
とりあえず残った水のありったけを注ぎ込むとしよう。
「おい、なんだその鍛えられた鋼のような意思をはらんだ瞳は。ちょっと待ってくれ、カフェ?気に触ったなら謝る!謝るからその手をっ…むぐっ?!!」
虚ろな目でペットボトルの中の水が吸い込まれていく様子を眺める。350mlしか入っておらず、その残りのため、大した危険はないだろう。ごぼぼぼ。
一方タキオンの方はウマ娘の膂力によって迸る鉄砲水に目に涙を浮かべている。これでも一応名家のウマ娘、はしたなくこぼすなんて真似は許されない。ひたすら喉を鳴らすことだけを考える。
「この辺か、トレーナー」
幾らウマ娘であっても死ぬぞとそれは苛烈な熱を帯びた気迫とともに首根っこ引っ捕まえようと軸足で地面を踏み抜いた時、聞き覚えのある声が耳をそちらへ向けた。
そこには芦毛のたなびくウマ娘が、新天地に目を白黒させるようにキョロキョロ、ウロウロと探し物をしている。
その腕にトレーナー君をしまい込んで
「トレーナーさん…?」
──見ないで
カフェが怪訝にトレーナー君を呼ぶ。だがトレーナー君は両手で顔を隠し、小刻みに震えている。多分恥も外聞もない状況に顔をあげられないのだろう。男性には特有のプライドがあると聞く。それについて研究させてくれと色々提案させてもらったがことごとくを却下された記憶がある。
「おお、君が今のトレーナーの担当か。」
その状況を知ってか知らずか、呑気に受け答えをする彼女、オグリキャップ。知っているとも。地方から旗を揚げ、トレセン学園の門を叩いた暁には数多の功績を積み上げたこと。…その横に彼がいたことも。
「オグリキャップ君じゃないか…帰省は済ませたのかい」
「あぁ。懐かしい匂いがして、とても落ち着いたよ。しっかり休むことも出来たし、これでまた走れる」
「ふむ…てっきり戻ってこないものかと思っていたよ」
「そんなっ、私はまだ走るぞ!?」
「それにしては長い帰省だったじゃないか。もうそちらに腰を据えて一線を退くとまで言われているが」
「まさかそんなわけないだろう。もちろん地元だって大切だが」
狼狽えたり憤慨したりと忙しないなと現実逃避しながら腕の中から眺めていると、突然慈しむような目を向けられる。
何さ、スーパークリークとそっくりの目をしてるぞ今。君はそういうタイプではないだろう。
何を察したか、カフェの目が細くなる。
「…トレーナーさんと走りに」
「ああ。まだ足りないからな、君とのレースも勝利も」
静かに、だが辺りを焦がさんばかりの闘志は、厄介な2人の欲を掻き立てた。
2人の異質な熱感をひしひしと感じる。こればかりは腕の中の温もりがとても喜ばしかった。
──と言っても調整からだ。休暇前の身体に染み付いた感覚と現状にズレがないか、綿密にな
「うん、しっかりと頼む」
曇りひとつない微笑みがさらなる安寧をもたらし、さらなる佳境を呼ぶことになった。
凄まじい熱線を放ってくる2名のウマ娘。
情報の一切を悟らせない金色をする一対の目、そして狂気に満ちる緋色の目。二対の眼差しが我々を射抜き続ける。正直震えが止まらない。奥歯は鳴るし、鳥肌も立つ。冷や汗で背中は既に湿地帯だ。だが一方オグリはそんな双眸を受けてもどこ吹く風。果てには『なんだか熱い視線を感じるんだが…』とそわそわする始末。お前はもう少し空気を読めるようになれ。
──とりあえず下ろそうか
「もう少しこうさせてくれ。…うん、この匂いもとても落ち着く」
──さっきちょっと走ったから汗臭いだろう
「なにっ、すん…」
眉目秀麗なおもてが近づき、鼻を鳴らす。
刹那、風景が一転。目を白黒して幾ばく、たちまちカフェによって後ろから羽織りのように抱きとめられているらしい。普段穏やかな彼女が恐ろしい瞬歩を見せた。
──カフェさん?
「少し静かにしてください」
あっはい
後ろから羽交い締めにされているため、顔色をうかがうことは出来ないが、どうやら相当ご立腹らしい。……地面を蹴る音が聞こえる。
「カフェだったか、その、まだ嗅げてない…」
「あげません…」
「そんなっ」
耳を垂れ、目じりを下げ、どうやらそこまで魅力的だったらしい。こちらからすればご勘弁願いたいところだが、オグリキャップは我慢することに関して根性を発揮することは無い。かの皇帝の喉元まで迫る末脚と敏捷性、瞬間火力の切っ先が我々に向いている。
目前では萎びた"姿"だが、気配が尋常ではない。
「むむ、仕方ないか」
それは諦めの嘆息ではない。決意の一呼吸だ。
私とカフェ、2人して息を呑む。危害は加われないと分かってはいても、轟雷のような地を蹴る音に肌が粟立つ。これは皇帝でも冷や汗のひとつはかくだろうな。
──ちょっ待
「まぁちょっと待ちたまえよオグリキャップ君」
「っ?!」
まさに青天の霹靂、首元にゆるりと突きつけられた針先に、いざ鎌倉と地を割り、踏み込んだ力を上へ逃がす。結果鋭角に踏み抜かれるはずの地面が垂直に彼女の火力を受け、爆発した。
当の犯人は尾を逆立て、跳ね上がった。
「…ふぅン、この瞬間火力、えげつないねぇ…。何をどうしたら文字通り地面を爆破できるのか…」
もうすっかり良くなったのか、研究者としての血の騒ぎを抑えきれない様子で砕かれた地面を手頃な枝でつつく。
毎度レースで芝でもダートでもお構い無しに地面を抉り抜く脚力には度肝を抜かれ続けたが、実際目前にすると戦慄を覚える。
「タキオンさん…それはさすがに危ないです…刺さったらどうするんですか」
「仕方ないだろう?結果オーライだよ。それに刺さったら刺さったで」
「良くないです」
「まぁとにかくだ。彼は今や君だけのトレーナーではないのだよ。いけしゃあしゃあと私のモルモット君の体臭なり体重なりを計測することは許さない」
「2秒で矛盾するのやめてください。貴女だけのトレーナーさんでもないです」
前から担当しているオグリキャップを紹介するタイミングを逃した結果、小競り合いが起きてしまった。
多分オグリキャップのこと自体は知っていただろう。欲しいがままにしてきた星の数々。マイル走から中距離、長距離、ダートに至るまでに名を轟かせた。
だが私はメディアから絶対の逃亡者と呼ばれるほどに雲隠れを決め込んでいる。不誠実だの臆病者だのと巷では評判だ。トレーニング内容なども公開したことがないため、勝てる理由はひとえに彼女の才能であるとされ、以前は才能のヒモと呼ばれていた。
オグリが満を持してURAファイナルで皇帝と鎬を削った際、絶対に迫る才能を磨いたと言われたが、私に付いていたレッテルにより新たな担当が就くのにかなりの時間を要した。その間にもたづなさんからのやっかみは耳にタコができるくらいにいただいた。早く会見を開けと。
そう、担当が着くと時同じくしてオグリが帰省したのだ。なんの前触れもなく。
それに食いつくはもちろん記者の方々である。その対応も適当にいなしていたため、尾ひれ背びれがつき、担当解除か、などと噂された。
私としてはたまには実家帰れば?というノリで彼女に提案しただけで、二つ返事でじゃあ帰るわと帰ったからやっぱ帰りたかったんだろうと良いことをした気分にひたっていた。オグリはオグリで私を何かにつけて地元へ連れていこうとした。これから仕事が増えるのでダメですと却下したけど。
私がこういう態度をとるからオグリキャップの評判が落ちると言われることも少なくない。実際トレーナー排斥派と擁護派といった派閥のようなものが水面下で組まれている。
そういった面でも私は表に立つべきだろう。だがそうするわけにはいかないやんごとなき事情があるのだ。もちろん今更登壇するのもゴメンだという下らないプライドもあるけれど。
"転ばぬ先の杖"らしい。私は。
随分と買われたものだ。本当に厄介な者に唾をつけられた。
「しかしてトレーナー君。3人となるとチームも検討するのかい?」
感慨にふけっていると、恨みつらみを込めた視線を背に受けながら嘲るように問うてきた。流石のオグリも腹に据えかねたらしい。
そしてその質問に対する答えは考えるまでもない。
──いや、チームは組まない
「ふぅン?して、その心は?チームを組んだ方が軍資金なり練習場なり融通が効くというのに」
「チームはよくわからないですが、聞く限りいい事づくめでは…?」
──確かにメリットは大きい。申し訳ないが私の都合だ。記者団が詰め寄るだろう。私とオグリだけならまだしも、君たちに弊害が及ぶ。それだけは絶対にダメだ
「くくっ、厄介な立ち位置にいるからねぇ」
「…?」
──何にせよチームは組まない。不都合かけるが許してくれ。まぁ暫くオグリは調整だし、君たち2人を見る時間の方が長いしね。
さて、少し早いけどご飯時だし、どこか食べに行こうか
そういった今後の話はまた誂え向きな場所で確と膝を突合せて話すべきで、こんな青い香り漂う場所でするような話でもなかろう。
それよりも彼女たちの懇親を深めるべく、食事にでも連れていく方が先決だろう。現に今でも空気が重い。
そう思って1歩歩みを進めようと足を上げるが、身体が着いてこない。まだ捕まっている。カフェさん?
「おいおいオグリ君、私に執心するのは結構だが、トレーナー君のことはいいのかね?」
「はっ、そうだ!トレーナー!」
「すんすん…あっ、あげません…」
「トレーナー!」
「カフェ!そこまでは許してない!」
もちろんカフェタキが1,2なんですけど、オグリキャップとか生徒会メンバーとかカッコよすぎる。
アニメのテイオーかっこかわいいかったです。早く育成してみたいです。