たくさん狙われるトレーナーくん 作:タソ
トレーナー君は生徒会にその身を狙われています。
クゥー、テーマパークに来たみたいだぜ、テンション上がるなぁ〜
「ほぉ、会長からの頼み事を袖にして放蕩とはな」
怜悧な瞳に意味ありげなほほ笑みを浮かべ、肩を掴まれる。…しまった厄介な奴に捕まったぞ。幸い3人は店に入ってしまって私を待っている。
ここは柳に風と受け流し、厄介を増やさないよう立ち回らなくてはならない。
──いやなに、いつも懇意にさせてもらってる礼にだな
「にしては店内が騒がしいな。まだ開店前だと言うのに」
さすがにキレる奴だ。初めから見ていたのかは定かではないが、ある程度アタリをつけてきたといったところだろう。
ここは素直に白状するしかない。既に白日の下にあるのなら保身に走る方が面倒なことになる。
──担当を連れてきたからね、これからも顔を合わせることになるだろうし
「これから勝ち星を量産すると?」
──まだまだ序の口だけど、勝てるだろうね
贔屓目抜きにしてもあの二人は別格だ。
光速を冠する名を持つだけあって、他のウマ娘たちとは隔絶した脚を持つアグネスタキオンに、"おともだち"を追うマンハッタンカフェの異様なまでの圧力。
尖っているが故にどのレースに現れても対策を必須とされる。しかしそう思ったが最後、本人たちは解っているかわからないが──解っていたらそれこそ恐ろしいが──彼女たちの領域で走らなくてはならなくなる。
この世代の娘たちが少し可哀想に思える。
「ほぉ、まるで勝つことがオマケのように聞こえるが」
剣呑な光を灯した瞳から目を逸らしたくなるが、まぁあながち間違ってないし、否定してもこの娘は看破してくる。レースを手段としている以上、純粋に勝利を目指している娘たちに申し訳が立たない。
──まぁね、彼女らの本懐はそこじゃない。さらに奥底の本能にまで至るとどうかわからないけど
「たわけ、怪物を見てきて未だにわからんのか」
呆れたように口元を歪めながら言う。何を思い返しているのか、きまりの悪そうに尾を揺らす。
彼女らの走る意味に関しては不明瞭なところが多い。カフェに関しては我々には見えないオトモダチを追い、並び立つことらしいが、現段階では個人的にはどう手をつけるべきか分からない。
タキオンなんて自分や他者を研究材料に見ている節がある。
2人ともあまり真意を話さない、というか話されても目下見当もつかないものだから、これまた手探りで自分なりに噛み砕いてやるしかない。
──それじゃ、みんな待ってるから
無駄話に花を咲かせるのも悪くないが、如何せん先約がある。待たせている以上、突発的なことは後回しにしたい。
だが、そうはさせまいと私の手首を捕らえ、鋭く見据えられる。
「私が用もなく貴様に話しかけると思っているのか?」
──だとしたらくどい。君との時間も悪くないが、優先すべきは君じゃない
他のトレーナー諸兄諸姉はこの"女帝"エアグルーヴに対して物腰柔らかに赤べこのように首を振っているが、彼女に対してそこまで気を張る必要はない。ただ生徒会副会長で、皇帝の右腕であるだけだ。
しかし皇帝が自ら仕留めに来ず、エアグルーヴがわざわざ来てくれる現状の方がまだ平和だ。そういう意味ではこの軽い頭蓋、いくらでも振り回して見せよう。
「ふん、貴様は私の右腕にする。そして会長の下に就かせると言っている。それだけじゃない。ブライアンの奴も貴様の暇に鼻を利かせているぞ」
──やなこった。あんなイロモノ共の下につかなければならないほど満身創痍ではないし
私は既に行きたいところがあるのさ。生徒会なんて処刑台仕立て人すらおったまげるようなところで油を売っている暇なぞないのだ。
「なっ?!言うに事欠いて貴様っ!我々をイロモノだと?!」
──女帝に怪物、それを従える皇帝。オマケに次世代の帝王にスーパーカーと来た。どういう運命でサミットを開いたか知らないけど、誰が好き好んで近づきたがるんだ
あの重厚な扉を開けた先にある心臓が縮み上がるような空間。扉を開ければ全員の耳がこちらを向き、各々の双眸が私を射貫く。
特にシンボリルドルフ。
あの全力で支配するという仁王のような覇気は一般ピーポーの私には受けきれぬ。
二度と行かねぇ
「我々は普通に生徒会の仕事をこなしているだけだ!他の2人とは茶を共にすするような間柄で…」
「我々も同じだよ、エアグルーヴ君。紅茶を飲み、研究にその身を焦がすことこそ我々の使命であり、トレーナー君の運命なのさ。ケミカルに輝くのはご愛嬌だよ」
愉しげな色を前面に押し出しながら掴まれた腕の反対側の肩にしなだれ掛かってくる。胡乱気な瞳とは裏腹に随分と強い力で反対側へ引き込まれる。
「アグネスタキオン…」
──タキオン、2人は?
「カフェがオグリキャップ君をかろうじで諌めている。君も早く来たまえ。個室が唾液で水没する前に」
先に食べてていいよと何度も言っているが、私が同席する場合、頑として私が席に座るまで出された食事に手をつけない。その姿があまりに可哀想で申し訳なくなる。
──ああ、そりゃいけないな。急がないと。
それじゃ、エアグルーヴ。またね
「話は終わっていない、が。本当に私との時間を悪くないと思うのならたまには生徒会室に来い。貴様とは膝を突き合わせて話したいことがあるからな」
強い眼力の中に、どこか縋るような光を感じた。
いよいよ執心される意味がわからない。確かにオグリキャップを育成してそれなりに名は売れた。それが生徒会の目に付いたところまでは良い。だが何故抱きこもうとするのか。その理由がまったく見当もつかない。
私とオグリはただレースを楽しんだだけだと言うのに。
「トレーナー君はこれから新たに問題児2名引っさげることになるからねぇ。さてさてそんな暇ができるかどうか」
──まぁ私がそちらに向かうことはまずないだろう。来るなら1人で私たちのところにおいで
百歩譲ってここが限界だ。できることならただの生徒として訪れて欲しい。そして年相応に振舞って欲しい。シンボリルドルフにじゃれつく彼女ほどとまでは言わないが、力の塊である、生徒会という肩書きを下ろしてから来て欲しいものだ。
切に願い、踵を返す。
あのURAファイナル決勝。会長が優勝した大会。"皇帝"シンボリルドルフ1強と予測され、それに呼応するように会長も"出来上がって"いた。絶対を誇示する威風堂堂とした佇まいに、あの大会の空間そのものを手中に落とし込んだ。
並み居る屈強な傑物たちを選別するようなあの一瞬。瞬きを忘れ、全身が総毛立つ錯覚を覚えた。
【敗北】を直感した瞬間だったのかもしれない。
状態もすこぶるよく、トレーナーの手腕も初期に比べれば手放しで喜べるほどだ。万全だった。自分たちの持てる磐石がその一瞥によって崩壊せしめられた。
これが皇帝。絶対を背負い、ウマ娘たちを牽引する者の姿は、どこまでも美しく、頑強で、恐ろしかった。
そして、理解させられる。私は"皇帝"シンボリルドルフを尊敬していると。
だが、蓋を開けてみれば、
"絶対"とは、
こうも容易く揺さぶられる。
ハナ差で勝利。あの瞬間は初代優勝者より、彗星のように尾を引く芦毛の方が印象に残っていると言う観客も少なくない。
「貴様が、オグリキャップが、会長を振り向かせた。私達では成しえなかった」
小さな拳を握りしめ、瞑目する姿は、いつもより随分と小さく見えた。
「だからこそ、私たちには貴様が必要だ。私たちの本能を暴いて見せろ」
「トレーナー、酷いぞ」
開口一番コレである。
そわそわと耳も尻尾もせわしなくはためき、今か今かと開幕のゴングを待っている。煮える鍋を前に待ちきれないといった様子。
右手に箸を、左手にはお椀を持って準備の方は万端だ。
「トレーナーさん…あの子、オグリさんのお腹の音で逃げてしまいました…」
──ええ…、そりゃ申し訳ないなぁ。
長い付き合いだけど、オグリの腹の虫だけは教育出来なかったからなぁ
すすすと私の座るスペースを空けてくれる。折角だからとそちらへ足を向けるが、当然待ったがかかる。
「え、トレーナー、私の調整をするのではなかったのか?」
「調整…?」
──そうだった。すまんカフェ、気持ちだけありがたくもらうよ
「…どうしてですか?」
その疑問は尤もである。調整と言われてまさか食事のあれこれにまで言及されるのかと言ったところだろう。
言及せねばなるまい。オグリキャップだもの。
放っておけば際限なく食い続ける。そして調整の2文字が背景にあるとは思えない姿になる。
あれだけ食いまくって勝てるこの娘はまぁイカれているのだろう。
「おいトレーナー君、もっと詰めたまえ。私が座れないだろう」
──カフェ、席を空けてやってくれ。タキオンを壁側に
「はい、わかりました。…どうぞ」
「ええー、あまりに非合理的じゃないか。私の向かいはそんなに嫌かい?」
渋々といった様子で私の対角線上に鎮座する。何はともあれ理想の席順になった。
面倒ではあったが、タキオンを壁側にした理由、それは──
──カフェ、身体検査
「はい」
「なにぃ?!」
有無を言わさず、タキオンのふところやポケットをまさぐる。そしたら試験管がごろごろと出てくるでてくる。
タキオンも『やめたまえカフェ!』と抗っては見せるが、もはやフローチャート化したのか、巧みな身体さばきで無力化してみせるカフェ。
内蔵されていた危険物は3分とかからずに剥き終わった。
「はぁーあ、折角健康体そのもののヒトとウマ娘を使えると思ったんだがねぇ」
「食事に変な事しないでください」
──全くだ。薬とはいえ毒を盛るように忍ばされるのは私も好くところじゃない
「はいはい、悪かったよ。いい加減いただこう、もう白菜がクタクタだ」
「………」
食前に話が少し盛り上がってしまった結果、うつろな瞳で口端からよだれが垂れることにすら気づかないオグリ。
また悪いことしてしまった。
──食べよう。今日はたくさんな
「いただきましゅ」
椀によそった先から消えていく。マジックと言っても信じてもらえる速さだ。早めに追加注文をし、美味しそうに食べる彼女を見ると、今日からの調整は不可能だと断定できる。底なしの食欲にはほとほと辟易させられるが、幸せを体現するかのように咀嚼する姿はどこまでも愛らしい。
「…トレーナーさんも、食べてくださいね」
ことり、と私の前に具材をよそった椀が置かれる。具材を1種類ずつ盛られたお椀から、最上の気遣いが見える。おっと湯気で前が見えない!
曇ったメガネにカフェが微笑んだ気がする。
あと楽しそうに笑う声も聞こえた。
──ありがとう、カフェ。カフェもしっかり食べるんだぞ
「はい…美味しいです」
ここは商店街の一角。その最奥の個室。
1人の食事もいいが、こうやって鍋を囲むのもいい。
評価貰っちったもんねーふへへ。書くしかないよねぇ
ノマンソンニキありがとナス!