たくさん狙われるトレーナーくん   作:タソ

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評価ありがとナス!って前回書いたら思いの外ガッツリ評価されてびっくりしてます。ありがとナァス!


とりあえずスタートライン1歩手前です。



黎明期

メイクデビューを控え、2人のトレーニングに励む毎日。同時期にデビューするということもあり、2人を並走させることでレース勘を養うことが出来るという利点がある。それをふんだんに利用する。また、本番のレースに勘を近づけるため、少し趣向を凝らす。

1人2200mを走らせ、半分の1100mを超えたところでもう1人を檻から放つ。

 

タキオンの場合、後方からその影を踏まんと猛追するファントムが。

 

カフェの場合、前方に狂喜に咽ぶサイコパスが。

 

たまにおなかいっぱいのオグリが差しに来る。

 

全快の状態で解き放たれるものだから、双方吃驚し、ペースを乱される。

 

それはいい表情をするのだ。最初に無断でタキオンで試したが、研究で得られた治験を試している最中にその尾を刈り取らんと異質な圧力を携えながらカフェが迫ってくる。結果は上々と恍惚の表情から一転、その両目を剥いて追い立てられるようにギアを上げた。

もちろんネチネチと怒られたが、それまで治験によって伸ばしていた記録が目でもないというように大幅に更新された。

 

『火事場の馬鹿力という奴か…。無我夢中で走ってフォームも何も無かったのに?

速度に頭打ちが見られていたのは確かだが、まさかこれに対する答えが根性論とはね…くくっ、ファジー過ぎるよ全く。精神が肉体を超越したということか』

 

と感想を漏らす。

このトレーニングの可能性についてさらなる改良を加えることも検討するらしい。

 

カフェの場合、オトモダチとやらに番外戦術とも言える形で並ぶタキオンとそれを支持した私に思うところあるようだが、鬼気迫る迫力を持ってタキオンに迫る。だがそもそも勝てることはハンディキャップ上ありえないのでその迫力もいくらか霞んで見える。タキオンもタキオンで全快の状態で走る中、ちらちらと後方を確認し、図太くもカフェの状態を観察している。その見上げた向上心には毎度舌を巻く。

 

他のトレーナーがやらないようなトレーニングを織り交ぜ、トレーニングの幅を広げることで飽きを来させないように拘った。

まぁといっても私の存在が必要か疑問に思う時もある。

 

カフェは夕暮れ時にふと思い立ったように、『あの子が呼んでるので…行ってきてもいいですか』とトラックに戻り、トレーニング時には見せない楽しそうな表情でターフを駆ける。その様子はどこかズレた感覚を覚えさせられるが、それでも彼女らは確かな伸びを見せた。

 

タキオンはそもそもトレーニングに来ない。研究があるから。今回の私が勝手に催した試験的なレース形式はたまたま功を奏してタキオンの研究を超える成果を見せたが、そもそも彼女の研究の結果から得られる実力は私なしでも得ることの出来るもので、小さいながらも実を結ぶことが多い。

 

嗚呼、私は担当に恵まれている。

故に自分の実力が彼女たちの才能の全容を理解するまでに至っていない。

由々しき事態だ。オグリキャップの時といい、私の存在価値がほとんどない。こんな宙ぶらりんな人材を何故生徒会は欲しがるのかよく分からないが、先輩トレーナーや同期たちに後ろ指を刺される毎日に辟易としているのも事実。何とか私個人の価値を上げなくてはならない。

 

 

 

「で?話はそれだけか?」

 

 

──はい。今更、というか以前より意識していたのですが、どうにも彼女たちの横に立てていない気がするのです。的確な指示ができるために必要な知識など、先人の知恵として不躾を承知で頂きたいのです

 

 

 

シックな落ち着いた内装に、牧歌的な、叙情的なジャズミュージックが心を酔わせる。いわゆる"大人のバー"で男2人、神妙な面持ちで言葉を交わす。一人の男が懺悔するように自らのふがいなさを恥じ、もう片方が呆れたように口元をゆがめる。

 

 

 

「お前、それオグリキャップに話したりしないのか」

 

 

──ええ、彼女の栄光に影を落とす訳には行かないですから

 

 

 

泰然自若にそういいのける後輩トレーナーにほとほと呆れながら、まだまだ青いなとどこか安堵の気持ちが湧いてくる。

【皇帝】とあそこまで鎬を削り、観衆を湧かせたのは彼女だけの実力では有り得ない。皇帝に迫るには才能だけでは絶対的に足りない。それが届きかけた。いや、1度届いたのだ。そこに何かしらのファクターがあって当然だ。それを自分に当てはめないのは何故か、自己肯定感の低さに苦虫を噛み潰したような表情が自覚できる。

彼女を伸ばしたのはお前のトレーナーとしての才能だと、粒揃いのトレセン学園の中でも頭一つ抜け出した類まれなる才能だと言いたい。自分もその中の1枚の羽と自覚してはいるが、それでも隣の芝は青い。誰もが喉から手が出るほど欲しい才能だ。

 

 

 

「そうだな。話せばお前タダじゃすまねぇもんな」

 

 

──ええ、"オグリキャップの威光を借りてまた将来有望な才能を引き込む"、と雑誌に掲載されますね

 

 

 

才能を肩に着てふんぞり返る連中は分かりやすく嫌悪感を募らせられるが、才能を無いものとして自身の人間性を卑下するギフテッドに対しては暗黒の感情が湧いてくるのは何故だろうか。

言いようのない感情に身を任せ、凝り固まった後輩の頭頂に拳を振り下ろした。

男は後輩のどこか反抗的な目を、そしてその奥に潜むナニカを垣間見、背筋に伝うものを感じた。とんでもないことをしでかす、そんな予感をひしひしと感じさせる。

 

 

 

「お前は自分のことに執着しすぎだ。もっと周りを見ろ。余裕を持て」

 

 

──周り…見ているはずですが

 

 

「俯瞰しろ俯瞰。生憎俺たちを取り巻く環境っつーのは俺たちが自己中に思い描くどおりになってくれるほど優しくないぜ」

 

 

──自分は、独り善がりだったと

 

 

「独り善がりで怪物とトゥインクルシリーズを走り抜いたってのか?敗北を重ねたヤツらはそれを聞いてどう思うだろうな」

 

 

 

 

仄暗い水の底のような瞳が僅かに揺れた。

自分にも経験があるといえばあるが、ここまで独善的ではなかった。自分が担当に釣り合わない故に担当の才を読みきろうとする完璧主義は高慢ちきであり、2人で二人三脚するトレーナーと担当の関係は持ちつ持たれつのものであるべきだ。だがコイツはそれを顔色変えずに踏み倒し、土足で担当の領域に踏み込んでいることになる。

 

それでもこの男はオグリキャップと共に皇帝とは別に覇道を唱えた。

 

オグリキャップがコイツに何か干渉したのか、それとも自前の才能で乗り越えたのか、どちらにせよ当時敗走した娘たちが憐れ過ぎる。

できることならそれが知りたい。

 

 

 

──なるほど

 

 

 

呟くように、途方に向けて言葉を零す。

その顔は不思議と晴れやかで、ニヒルな笑みすら湛えている。

 

 

「…あ?」

 

 

──うん、私にはこうすることしか出来ない。奇遇にも我々の利害は一致している。

 

行こうか、先へ

 

 

 

一層笑みを深め、どこともしれないナニカに笑いかける。目の前で何を演じられているのか何一つ分からないが、ろくでもないものに片足が浸かったと怖気が走る。

 

 

 

「おい、誰と話してるんだ…」

 

 

──カフェにタキオン、そして"君"。"君"がいることで奇しくも彼女たちの道筋が交わった

 

 

 

声をかけても反応はなく、虚空を眺め、うわ言のように言葉を紡ぐ。目の前で行われるスプラッター映画は今まで観てきたものを遥かに凌ぐ。

先程までまちまちに座っていた客は皆、煙のように消えてなくなっており、マスターすら席を外している。

 

 

 

「おい!」

 

 

──…あれ、すみません、急にぼうっとして…

 

 

 

我慢ならず、乱暴に肩を殴り付ける。迷惑そうに顔を顰めた後、ゆらゆらと何かを逡巡するように頭を揺らし、まぶたを落とす。

落ちたまぶたがゆっくりと開けば、湖面のような瞳が帰ってきた。

 

 

 

「…今日はもう休め。出来れば明日も休んで欲しいくらいだが、お前の場合そう言ってられないからな」

 

 

──すみません、私からお願いしましたのに…

 

 

 

そう言って頭を垂れる。そのゆらゆらとした幽鬼のような動きに先程の様子が重なる。落ち着くための時間が欲しかった。

 

 

 

「いいから、行け」

 

 

──す、すみません、お代を

 

 

「ここは持つ」

 

 

──…ありがとうございました

 

 

 

悪い事をした。余裕をもてと言った舌の根も乾かぬうちに自分が余裕をなくしてどうすると自嘲気味に笑う。

今のはなんだったのだろう。突如として雰囲気が異質なものになった。そして本能がそれを全力で拒絶した。

 

 

 

「…しっかり休めよ」

 

 

 

彼に対して申し訳ないと思うと同時に、あの現象に狼狽するのは仕方ない事だと自分を許すように、この場を去った背中に呟くように声をかける。

 

もう一杯飲んでから引き上げるかと、ちょうど奥からグラスを持って出てきたマスターに注文を取ろうとすると、椅子にかけたジャケットから電子音が着信を知らせた。

 

誰かとのやり取りを欲していた彼にとって渡りに船の出来事だった。

だが、その浮き足立った心持ちも途端に絶対零度の見えない眼光に凍りつく。

 

学内のイントラネットを利用した言伝だった。

 

 

 

『沖野トレーナーへ

 

夜分遅くにすまない。

携帯電話をお借りして連絡をさせてもらっている。

"彼"と接触したそうだね。どういった話をしたのか仔細教えてくれないだろうか。

 

詳しくは会って話そう。こちらの時間を空けるから、君の空いている時間を教えてくれないだろうか。一両日中に返信を頼む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会長 シンボリルドルフ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の帳がすっかり降りてしまって、大人街道も賑わっている。その間を縫うようにして背中を丸めて帰路を往く。その足取りは重苦しい。その原因は明白だ。

 

何か粗相をしでかしたのだろうか。いやまぁ、先輩を前にうたた寝など言語道断だと言うのはわかるが、あまりにも対応が変わっていた。逆鱗に触れるようなことを口走ってしまったのかと戦々恐々だ。折に触れてまた謝ることとしよう。

また、うたた寝をしたことで心配させてしまったのか、ことの他強く休めと言い含められた。今回の件のようなことが起こらないよう、しっかりと休息を入れるように心がけよう。

 

とは思うが、うたた寝の際に見た夢現も定かではない、記憶も朧気なあの会話。何か重要なことを話した気もするし、そうでない気もする。

 

サファイアの海、どこかで見たことがある気がするのだが。

 

 

 

──早く帰って休もう

 

 

 

どうせ夢のことが気になって眠れないだろうけど、と独り言ち、人の織り成す海をかき分けてその歩を早めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




粗めの米粉パン氏、ミリシャ氏、himawarin氏、イキ杉氏、Mr.310、ペンギンさん、しげはら氏、ジャガジー氏

総括させていただきます!有難うございます!
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