たくさん狙われるトレーナーくん   作:タソ

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本当は書きだめしたかったんだ。
クソ忙しくなって間空いちゃったんだ。


ブルボンがきてくれました。春天走った後のトウカイテイオーの『ヘェっ』って反応とても良くないですか。


神域

桜前線がやってきた。

また多くのウマ娘達が学園の門戸を叩き、ターフに夢を描く。

淡く色付いた桜は、その門出を祝うように咲き乱れている。

 

3月下旬、例年より2日ほど満開が早いと報道で聞いた。それはもう例年通りということで良いのではないかと無粋に思わせるが、この季節がやってきたと思わせる一幕だ。

 

学園を彩る桜並木を写真に収めるウマ娘や、新入生だろうか、緊張と期待を合わせたような面持ちの者が足並み揃えて校舎に飲み込まれていく様を私は虚ろな目で眺めていた。もういつからやっているかもあやふやになってきた。

 

ベンチでうつけたように桃色の虚空を眺めていると、すぐ隣で行儀の良い足音が止まった。

 

 

「トレーナーたる者背筋くらいしゃんとせんか、たわけ」

 

 

目線をやると、パリッとした制服に身を包んだエアグルーヴの姿があった。ここ最近はジャージやブルマ姿しか見ていなかったため、少し新鮮である。

 

 

──ええ、ええ、分かってますとも

 

 

春の陽気をものともせず、どうも口が重々しい。

腰を上げたいのは山々だが、手帳に記された予定を思い出す度に尻から根が深く張るのだ。

 

 

「分かっているなら直さんか。今日は全体トレーニングだろう、いつまでそうしているつもりだ」

 

──本当にやるのかぁ……?

 

「当たり前だ!今の今までは貴様の方針を飲んでいたが、よく良く考えればチーム結成から1ヶ月と半分!この期間で顔合わせすら無いとはおかしいだろう!?」

 

──だよねぇ

 

 

おかんむりの女帝が言うのも最もで、今日はチーム結成して初めての全体トレーニング及び顔合わせだ。その事実が心持ちを陰鬱としたものへ変貌させる。

 

あの1名限定の絶対王政によって突如湧き出たチーム、"ユゴス"は色々な意味でその名を轟かせた。

 

何故かチーム"リギル"から一時的ではあるが移籍してきた【女帝】エアグルーヴに、【怪物】ナリタブライアン。

それをわざわざ記者会見で【皇帝】シンボリルドルフが発表。だが、そのチームを受け持つトレーナーが【学園の絞りカス】私だ。

最近そう呼ばれるようになった。

 

その話題性は瞬く間に世間を席巻し、拒否は理事と生徒会に泥を投げることとなる以上、私から拒否権をひったくられた。

 

なし崩し的にチームが結成され、その旨を担当の3人に伝えたが、特に嫌がる素振りは見せなかった。むしろタキオンは好奇心に目を光らせ、よからぬ事を考えていそうなので注視しておく必要があるだろう。

 

 

「とにかく、今日は始業のスケジュールだ。いつもより早くトレーニングを始められるようセッティングしておけよ」

 

──仰せのままに

 

 

フン、と彼女は呆れたように鼻息を荒くしてこの場を立ち去った。

 

なぜ彼女達はあの敏腕トレーナーの元を一時的とはいえ離れ、私の元で走ろうと思ったのか。今の彼女達は大事な時期で、三冠路線とティアラ路線真っ只中だ。ナリタブライアンはレースに出て勝つことを目的としているが、親子二世のオークス制覇を掲げるエアグルーヴはこんなところで油を売っていて良いのだろうか。

 

考えれば考える程よく分からない。それにトレーナーがよく許可を出したな。私だったら【絞りカス】とまで言われるトレーナーに担当を任せたくないものだが。

 

うんうんと思考を巡らせていたが、ふと隣に影が落ちていることに気がついた。

 

 

──カフェ?いつの間に

 

「先程です。随分と考え込んでいましたので、勝手に隣失礼してます」

 

──ああ、まあね。この後の全体練習が憂鬱でな

 

「正直、私もあまり気乗りしません」

 

 

同じように虚空を見つめて重々しく口を開く。萎びた耳と尾はその感情を如実に表している。いつも無表情なカフェが分かりやすく気落ちしているところはなかなかに珍しい。

 

 

──悪いなぁ…巻き込んで

 

「いえ……仕方のない、ことです」

 

 

現段階ではオグリのレースが直近に控えているため、オグリにつきっきりになる日もある。また、アオハル杯に向けて連中とのコミュニケーションをとる必要もあり、中々カフェやタキオンのトレーニングに付き合えていない。もとより個人での練習を苦としない2人ではあるが、こちらからのサポートの質が落ち、他の娘たちと差が生まれていることに違いはない。

 

 

──落ち着いたら、どこか散歩にでも行こうか

 

「では、お供します……」

 

 

言葉少なに語るが、そこはかとなく雰囲気が和らいだように思えた。

どこかめぼしい喫茶店でもあったのだろうか、もう少しコーヒーについての知識をつけようと思う今日この頃。

 

小さく会釈して立ち去ったカフェの後ろ姿を眺めていると、穏やかな時間がもっと続いてくれればと思うが、無情にも過ぎ去ってしまう。

 

 

──ああ、胃が痛てぇ

 

 

「おや、それはいけない」

 

 

ぼんやりとした意識を一瞬で覚醒させた。その反動か、はたまた別の原因か、その声の主に目線を向けることが出来ない。

 

有り体に言おう、怖くて見れない。

 

相手以外を忘れさせるような眼差しを向けられ、全身が総毛立つ。筋肉が震え、奥歯が小さく音を鳴らした。

 

 

──シンボリルドルフ

 

 

戦慄く喉を震わせ、目線を合わせることなくその名を呼んだ。

 

 

「やぁ、久方ぶりだねトレーナー君」

 

 

喜色に染まったような上擦った声。それとは対照的に、身を焼くような視線を受け、射すくめられたように足が動かない。往来備わった危険信号はけたたましく鳴り響き、震えとなって表面化する。

 

 

──……ああ、久しぶり。にしては随分熱烈な眼差しをくれるじゃないか

 

「ふふふ、私だって欲しいものを前にして、興奮を抑えられるほど成熟してないというわけさ」

 

──皇帝サマからのお墨付きはありがたいけどねぇ

 

「おや仰々しい。以前みたくルドルフと呼びたまえよ。君にそう言われるのは些か傷つく」

 

 

現在進行形で威圧してくる奴が何を言う。

なんとか言葉を飲み込み、一笑に付してようやく余裕が持てるようになった。

やはり他の連中に向ける穏やかな表情とは異なり、若干上気した表情に好戦的な目をしている。

 

 

──傷ついた様子はなさそうで何よりだ

 

「何せ話すのも久しぶりだからね。今回はこの当たりで溜飲を下げよう。次は頼むよ」

 

──仰せのままに

 

「適当だな……」

 

 

困ったように眉を寄せ、肩をすくめる。

これでもかと言うほどに根回しをし、袋小路に陥った私を的確に処するためのとどめの一撃も忘れずにこなした張本人が、実はこれほどまで表情豊かである。

 

 

──すまない、そろそろ行かなくては

 

 

やり辛さを感じ、足早にその場を離れようと試みる。極力生徒会の連中とは付き合っていたくないのだ。

 

 

「おいおい、つれないじゃないか」

 

 

そう言いつつ肩に腕をまわし、浮かべた腰を再びベンチに縫いつけ、共に座る形にされる。とてつもない力だ。

 

 

──痛い

 

「すまない、しかし君にはこれくらいしないとな」

 

 

そこいらの一般トレーナーと似たり寄ったりな体躯にウマ娘の膂力をたやすくぶつけないで欲しい。面識がそれなりにあるだけでそれ以外は他のトレーナーと大差ないのだ。

 

ただこちらとしてもいい機会が生まれたというもの。

 

 

──記者会見、アレはどういうつもりだ

 

「ふふ、些か奇を衒ってみたのだが」

 

 

不敵に笑みを向けてくるが、こちらの眉間には筋が刻まれていく。

 

 

「おっと、不服だったかい?」

 

──当たり前だろう

 

「君にはあれくらいしないとどこかへ行ってしまうからね」

 

──にしてもやりすぎだ

 

 

言うことをきかなければ”こう”するぞと言えば、私は二つ返事で了承したはずだ。それをこの娘は”こう”したから言うことを聞けと命じてくるのだ。大層タチが悪い。

 

 

「四面楚歌、と言ったところか。面倒をかけてしまい申し訳ないな」

 

──本心から思ってるなら素直に受け取るんだけどね

 

「ふふふ」

 

 

知略を尽くした結果スマートさに欠ける結末を迎えるという意味不明な終わりを見せた彼女の作戦だが、これは序章に過ぎない。

これから始まるのは記者たちからの疑念と期待、そして粗探しに目を光らせる連中によるストーキングだ。

 

 

──しばらく夜道に気をつけなければ

 

「おや、エスコートしようかい?」

 

──うるせえ

 

 

くくくく、と堪えきれない笑いを口端から漏らす。手前味噌ではあるが、普段淑やかに笑う彼女は私の前では楽しげに笑うことが多い。一般トレーナーの端くれとしては嬉しい半面、疑問に思うことも多々ある。

懐かれることには悪い気はしないが、行き過ぎたものを内包する彼女はどこか近づき難く、信用に欠けてしまう。

 

 

──私がフリーならともかく、担当がいる身なんだ

 

「知っているとも。オグリキャップにマンハッタンカフェ、アグネスタキオン。この3名だろう?実に羨ましいね」

 

──ウマ娘の幸福を願うのだろう、私のスキャンダルはそれを脅かすものに直結するぞ

 

 

そう言った瞬間、しまったと思った。馬鹿げた口上は目の前の娘を傷つけかねない一言だ。なにより、ヒトとの関係性をトレーナーを通して見定めるウマ娘達に一縷であっても"そのような"関係性の存在をチラつかせるのは危険なのだ。

 

だが当の本人は歯牙にもかけないように微笑み返してくる。

 

 

「安心したまえ」

 

──出来るか

 

 

頭ごなしに否定するのは良くないが、こればかりは譲れない。微々たるものであっても、記者団は尾ひれ背びれをこじつけて適当をでっちあげる。それを総叩きするのが娯楽のひとつとしてあるのが世間だ。

トレセンでそのようなことがなかったとは言えない。

 

それはこの娘も分かっているはずだ。

 

 

「過程はどうあれ私の望む形にはなるからね」

 

──……え?どうして?

 

「ふふふ、まだまだだね」

 

 

私の疑問には答えず、くすりと笑って立ち上がる。

 

 

「私もアオハル杯出場出来ればよかったのだが」

 

──勘弁してくれ!

 

「ははは!」

 

 

悪戯に成功したように呵呵大笑し、手を振りその場を立ち去った。背面ながらそれに応じつつ、先程の会話を反芻する。

 

 

──……さっぱりだな

 

 

何が望み通りなのかは分からずじまいではあるが、どうやら厄介なことに私が関与しているらしい。

 

 

──先より今の話だ

 

 

目下何よりも大事なのはオグリのNHKマイルカップ。URAファイナルからかなり経ってしまっているが、マイル距離に合わせていく必要がある。

それが終わればカフェとタキオンの指針を決めて行かなくてはならない。遅いくらいなのだからなんとか効率よくやっていきたいところだ。

 

 

(──やらなきゃ行けないことが沢山だな)

 

 

以前はオグリが出るレース毎に何をすればいいのかと右往左往しながらがむしゃらにひた走っていたが、今回はそうはいかない。

そこら一帯に地雷が埋めつくされているため、神経を尖らせていく必要がある。

 

オグリもカフェもタキオンも、彼女ら全員に個人のスペースがある。地雷をふむことと彼女らの世界を守ることを天秤にかけて優先すべきことなんて決まりきっている。

 

目の前が拓けた気がした。たどり着かなかった太陽に、我々は図らずも近づいている。

 

神は居る。私が造る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一時的に移籍とありますが、担当トレーナーは変わっておりません。
普段は元のトレーナーとトレーニングしています。チーム練はこちらで行ってます。

pixivもたまに読むんですが、ルナ化っていいですね。ここではルナ化=暴君化なので悪しからず。
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