交友関係NTRアンハッピーセットを食らって女性不信拗らせた親友と朝起きたら女になってしまった俺 作:北京院
俺には親友がいる。
幼稚園からの付き合いで、別に普段からベタベタしているわけではないがお互いになんの遠慮も要らない、と思っている関係の相手だ。
たまーにふらっと家にいってゲームをしたり、晩飯を食ったり、そのまま泊まることもある。
おばさんの作る料理は美味くて、特にオムライスが好きだ。店で出てくるやつみたいにトロトロで、ケチャップじゃなくってデミグラスソースがかかってる。
きっと手間がかかったりするだろうに、俺が遊びにいくと当たり前に作ってくれることも含めてすごく嬉しかった。
ただまぁ、最近はあんまり遊びにはいっていない。それというのも親友に彼女ができてしまったからだ。
かれこれ一年ほど前、ずっと好きだった相手へ告白してオーケーを貰えたのだとだらしなく笑っていた姿は記憶に新しい。
そのまま調子にのって彼女ができたぞアピールをし始めたので数発こづいてやり、その後反撃としてゲーム内でズタボロにされたところまではっきりと覚えている。
彼女持ちの時間をこっちに向けろ、なんて言うつもりもなければ彼女ののろけをわざわざ聞いてやる気もないので自然と若干の距離が空いたというわけだ。
別に不仲になったわけではないし、本気で相談があるならばちゃんと聞いてやらないわけじゃない。前にも部活に集中しててあんまり話さなかった時期もあったが、そのあともまた普段通りに家に行ったり来たりの関係に戻ったわけだし今回もそのうちそうなるかな、ぐらいに思っていた。
──で、だ。
今日は俺はバイトがあり、帰りが遅かった。
母さんが仕事の都合とかで泊まり込みの短期出張で家は空だったのでちゃんと鍵を閉めてあった。父さんは我が家にはいないので。
そんな家の前に人影があったわけだ。これが可愛い女の子ならなにか素晴らしい非日常か、ひょっとしたら俺に思いを寄せる健気な子がいてくれたのかと期待に胸を高鳴らせるところだが残念ながら違う。
ひさびさに見たシルエットはよく見覚えのある親友のものだった。
「……よう」
手を軽く上げて挨拶してきた親友──三上翔太は若干目を赤くして、明らかに浮かない表情でこちらに声をかけてきた。
まぁ、なにかしらがあったんだろう。彼女とケンカでもしたのか? くだらない理由でだったりしたら指さして笑ってやろうか。
家の鍵を開けて「おう」と返してドアを開くとそのまま家の中に入った。晩飯は賄いを食べてきたから用意ないが、こいつ飯食ったのか?
「飯ないぞ、いいか?」
ダメだと言われても無いもんはないんだが、一応聞いてやる。そもそもおばさんの飯のほうがそこらの店屋物とかよりも美味いし飯を食いたいなら帰ればいいんだ。
はっきりしないうなり声が返ってきたのでまぁいらないんだろうと判断した。カップ麺が一個あったので湯をいれないで机の上に転がしておく。もし食うなら好きに食えの意である。
「ゲームすっか」
テレビの配線をいじり、レトロゲームと呼ばれる類いのゲーム機を繋げる。ネット対戦なんて気の効いた機能はないが、傑作が多数ある。こうして膝をつきあわせてプレイするにはぴったりなゲームたちだ。
とりあえず翔太が彼女できましたアピールしてきた日にボッコボコに負けたゲームを起動しコントローラーを渡した。
……弱い。めちゃくちゃ弱い。弱すぎる。
完全に意気消沈といった具合で気合いが入っていないのがまるわかりだ。なんだったら意味なく煽りプレイまで混ぜてワンパターンでハメてるのに、それにキレることすらなく粛々とボコボコにされている始末だ。
一旦コントローラーを置く。一方的に勝つのは気持ちいいものだが流石に張り合いが無さすぎる。
「で、どうした?」
また、あー、とか、うー、とか言っているので冷蔵庫からコーラを持ってきた。翔太の分はオレンジジュースだ。こいつは炭酸が飲めない。
「……彼女が」
お、ようやく話す気になったか。彼女がどうしたって? 誕生日を忘れたか、記念日を忘れたか? それとも髪を切ったのを気づかなかったか?
こいつにそんな繊細なことを覚えたり気づいたりはできまい。それで怒らせてしまったってところだろう。
「彼女が寝取られた……」
は?
「しかも先輩と後輩も寝取られた……」
は???
「しょ、証拠も、ら、LINEで、きっ……おぇっ……」
「うわぁバカ吐くな吐くな! トイレいけバカ!」
何いきなり言い出してんだコイツは? は? 彼女が寝取られた?
まぁ、それはまぁ、いい。よくないけど。いいよ、この際。大変だったなって言ってやるよ。
先輩と後輩も寝取られた? お前浮気でもしてたのか? なに? 彼女一筋って言ってなかったかお前。
「どういうことだよ……」
トイレでひとしきり吐いたあと落ち着いたバカに、改めて問い詰める。
なんで彼女が寝取られたなんて話が出てくるのか。あと先輩と後輩を寝取られたとはどういうことなのか。
時折また吐きそうになったりしながらもゆっくりと話してくれた内容を整理すると、こうだ。
──ここ数ヵ月、彼女の様子がおかしかった。一緒に帰ることも減ってしまっていて疑問に思っていた。
しかし多干渉は嫌われるという話はよく聞くし、いくら聞いても「なんでもない」「大丈夫」と言われてしまってはとりつく島もない。いい年して親に相談する話でもない。
女心はわからん、と思って考えてみたがさっぱりだったので、本で調べればよいのではと思い(こいつバカか?)図書室で女心について調べ漁っていたところ先輩に声をかけられた。
曰く、人間心理学だの難しい本を真剣に読んでいたかと思えば女児向けとも取れるような可愛らしい本を本気で読み込んでいたりもした姿が(本当に何をやってるんだこいつは?)面白かったので気になったのだという。
これ幸いと彼女のことを相談すると、先輩は真剣に聞いてくれてそれとなく探りをいれてくれるとまでいってくれたのだとか。
ちなみに先輩は黒髪ロングで校則違反にならないワンポイントのカチューシャが可愛らしい巨乳でめちゃくちゃ美人だったらしい。彼女と付き合ってなかったら好きになっちゃってただってさ。
まぁもう寝取られたんだけどな、と自嘲気味に笑ってなかったらグーがとんでるところだったが、流石に哀れでやめた。
まぁ、とりあえず先輩が探りをいれてくれるということで安心して最近は気合いが入ってなかった部活にも集中しようとしたら後輩のマネージャーに「やっと元気になったんですか~」とからかわれた。
うん、マネージャーちゃんは俺も知っている。日に焼けた肌をした、ふりふり揺れるショートカットと笑顔の素敵な女の子だ。人懐っこくて可愛い子だなぁと翔太に部活の連絡を持ってきたときに感じた思い出がある。
そこで最近は彼女のことで悩んでいたのだという話をしてみれば「先輩は女心がわからないでしょうしねぇ」と言われてしまったのだとか。
なにを、と思い頼れる先輩に頼んだからもう大丈夫だと強がったら「自分も手伝いましょうか」と提案されて断る理由もないしとついでにお願いした、と。
女の子同士でしかできない話があるから話しやすいのは自分のようなタイプだと言われてはそういうものなんだろうと納得するしかなかったらしい。
頼りになる味方がいてよかったと喜び、自分でも彼女のことを気にかけつつ先輩と後輩にいろいろと話をしていたのがここしばらく。
でも先輩も、後輩も、最近はなんだか忙しそうで自分のためだけに時間を使ってもらうわけにはいかないなと考えていたところだったのだとか。
──で、現在。
今日の夕方、彼女から電話がかかってきた。なんだか少しくぐもった声で。
いったいどうしたのかと詳しく聞き出そうとしても要領を得ない。なにやら謝罪の言葉をつぶやいている。
思わず声をあらげてしまい「どうしたっていうんだ!」と聞いた時に返ってきた言葉はこうだ。
「ごめんね翔太くん♡ もうっ、あなたのこと考えられなくなっちゃったぁ♡ こっちのほうがしゅきぃっ♡ きもちいいのぉっ♡」
鼻に息がかかった甘ったるい声で、少し遠くにリズミカルな水音をさせながら、自分以外の何かにしゅきしゅきと愛を囁く彼女。
流石に何が起きているか察することができないほどバカではなかったが、理解を脳が拒んで言葉がでないうちに通話は切れてしまったのだという。
親友の口から「しゅきぃとかリアルで言うんだなぁ」と死んだ目で言われたときは笑うに笑えず俺の表情筋も死んでしまったように固まった。
とにかく、彼女が寝取られ通話をかましてくるという異常事態に混乱していたらLINEに通知がきた。図書室で会った先輩だ。
ああ、もう探らなくっても大丈夫ですよ。信じられないことが起きたので。そう返信しようと画面を開いて驚いた。そこにあったのは文字ではなく、動画のサムネイル。
服をほとんど脱ぎ捨てて、目線代わりに本を顔のところに掲げた先輩は、動画の中でこう宣言していた。
「わたしは、奴隷になりました。翔太くんごめんなさい。だけどすっごく、気持ちいいから心配しないでね……♥」
わずかに見える口元はだらしなくゆるみ、動画を撮っている『誰か』への媚びが浮かんでいる。
正直めちゃくちゃエロい。おっぱいもでかいし、いろいろ見えてるし。でも死んだ目で「何がごめんなんだろうなぁ……」とつぶやく親友の前でおかずにするからこの動画くれない? とは言えなかった。
愕然とし、その後に短文で「ごめんね」と送られても返信のしようもなく。立ち尽くしていたらまたLINEに反応が。
まだ何かあるのかと開いてみれば、今度は後輩ちゃんからだった。もうここまで来ては嫌な予感しかしないが、未読の通知はどんどん増えていく。
意を決して開いてみるとまぁ案の定、後輩ちゃんのえっちな画像のバリューセットだ。しかも相手は複数人と来たものだ。
元気で気さくな後輩ちゃんの、淫靡な姿。顔を知っている程度の知り合いの俺でも感情が激しく揺さぶられた。
最後に「さよなら」と文字が送られてきて、半狂乱になりながら理由を聞こうとしたら「本当に幸せなので大丈夫ですよ」と可愛い絵文字付の文章とえっぐいちんちんとのツーショットを送ってきたらしい。見せてもらったらマジでデカかった。
男はちんこじゃないと励ましてみたが、親友の目は死んだままだった。
……まぁ、つまり。親友は近しい女性3人をわずか1日にして寝取られてしまったわけである。誰とも寝てないけども。
彼女といい雰囲気になったらどうしようだの(知らねぇよ、と適当に扱っても一人で舞い上がってておめでたいと思った)万が一のためにコンドームを買いたいけど恥ずかしいからゲームに負けた方が買いに行く罰ゲームをしようだの(これは俺が負けた。使う予定がないものを買うのはとても虚しかった)やっていた日々が遠い昔のようである。
こういうのは浮気とかそういう話しになるだろうか? そもそも物証をこっちに送りつけているんだしいくらでも通報とかできるんじゃないか? というか不純異性交遊ってレベルじゃないよな? 等々、言いたいことは山ほどあったがそれどころじゃなく泣いてる親友が不憫だった。
こう、さめざめと。「なんでかなぁ」とかぼやきながら泣いてる姿は可哀想で仕方なかった。脳が破壊されてしまったというのはこういうことなんだろう。
「女ってさぁ……わかんねぇよ……」
翔太は家に帰れば妹がいる。たぶん、それが嫌だったんだろう。
さっきから「女ってわかんねぇ」と連呼しているし、心の整理をつけたい気持ちはわかる。
うちなら母さんはよく出張なんかで出ているのでいることも少ないし、こんなバカな話をできるのなんて俺ぐらいだったのだろう。
まぁ、今日のところは慰めてやろう。流石に哀れがすぎる。
寝取られ電話に寝取られビデオレターに寝取られアルバムのスペシャリテは若者の胃にすら重たい。
いや、はたから見てる分には美女のえっちな画像セットとかすごいおかずじゃん、って思うけれども。
仲のいい相手のあられのない姿でしかも何やら好意を持ってたけれどもう気持ちは離れています、の意思までしめされてしまっては感情がぐちゃぐちゃにもなろうというものである。
「もう女なんて信じらんねぇ……学校行きたくねぇ……」
しかしそれはそれとして、知らぬ間にモテていたのに全部ふいになったという事実は大変愉快である。
お前のモテ期は終わったんじゃないか? 可哀そうにね! そう煽ってみるとようやくまともな反応が返ってくる。そう、怒りだ。
「ハァー? 別にもう女なんていいんだよ、俺はモテるし? まぁモテないお前がひがむのもわかるけどさぁ、あーもう女なんて懲り懲りよ、お前にはわからんだろうけど」
コイツ、別に過去にモテモテだったこともないくせに寝取られた3人が自分に好意を持っていたらしいという事実だけで俺にマウントを取りにきやがった。
まぁ可哀想に。寝取られた事実でダメージを食らっていたくせにそれを心のよりどころにするとは哀れなり。
「よっしゃそこまでいうなら勝負だ勝負! オラッ、コントローラー取れ! さっきはハメやがって許さねぇかんな!!」
ようやく元気が出てきたのか俺にコントローラーを投げてよこす。
さっきまでの沈み切った顔が嘘みたいに元気だ。まぁ、よかった。バカではあるが友人だ。今にも死にそうな顔をしているのは見てられなかった。
発破をかける意味でも煽ったかいがあるというものだ。元気がなければ張り合いがない。正々堂々やりあえるほうが嬉しいからな。
だから元気いっぱいに俺のキャラをハメ返しているこの行動を一度ストップしてみてはいかがだろうか。提案してみた。
「ハッ」
鼻で笑われた。覚悟しろよお前……!!
あの後、勝負は別のゲームにもつれ込みなんやかんやで協力プレイへ移行し、ボスキャラへの壮大な八つ当たりをもって完結した。
時計を見ると深夜の3時である。学校のあとはバイトだったし、正直疲れた。めちゃくちゃ眠い。
「っあー、疲れた。……なぁ」
翔太が大きく伸びをする。途中で食べたカップ麺の空容器をゴミ箱に捨ててこっちを振り向いた。
「……ありがとな。元気出たわ」
「そりゃよかった。ま、気にすんなよ」
へらっと笑う顔はいつもの調子に見える。一応は立ち直れたようだ。
和風ゲームのキャラの名前が彼女さんとかぶっていたのだが、その名前を見ただけで手が震えてトイレに駆け込んだのを考えればずいぶんと落ち着いている。
まったく気にしていないなんてことはないだろうが、ようやく飲み込めたんだろうか。
……仲のいい女の子が全員寝取られるなんて体験俺にはないししたいとも思えないが、なんとかなったのならよかった。
久々に布団を押し入れから出して広げる。翔太がたまーに泊まるから家にはコレが置いてあるし、翔太の家にも俺の布団があったりする。
まぁ流石に妹ちゃんの布団を借りたりするわけにもいかないので、当然ではある。頻度はともかく必要なのだ。
恋バナなんてする気もないし、そもそも今の翔太には地雷どころか直下型グレネードだろう。
さっさと横になって寝ることにする。……ところで翔太に寝取られセットを送ってきた3人は明日からも学校に来るんだろうか? 顔合わせたらいづらくならないのか?
学校に提出とかされたらヤることヤってるんだし普通に停学とか食らいそうなものであるがいいんだろうか。まぁ、翔太自身がもう触りたくも見たくもないと消してしまったようではあるんだけれど。
可哀そうな親友に同情するが、やはり疲労感のほうが強くて眠りに落ちるまでは早かった。
――で。起きたらめちゃくちゃ髪が伸びてた。視界が悪くなるレベルでわっさわさと顔にかかっててびっくりした。
「なんだこれ……」
なんか声も高い気がする。っていうかこのパジャマぶかぶかじゃない? なんで?
袖がやけにあまるパジャマに混乱していたら翔太が起きてきた。目が合った瞬間飛びのいた。なんだよ顔に虫でもついてるのか?
「だ、だれだ、あんた……?」
誰ってお前、酷いな。親友の顔を見忘れたか? そう言おうとして気づく。本気で怖がられてる。
え。俺今どうなってんの? どうにか顔にかかる髪をかき上げて、改めて自分の身体を見る。
なだらかな膨らみが胸のところに見えた。触る。柔らかい。顔を上げる。ドン引きしてるのがわかる。
ほーん、なるほど、なるほどね。
「俺……女になってるわ」
「は?」
昨日、翔太に説明を受けている最中にさんざん発した疑問符を、今度は翔太側から思いっきりぶつけられた。