TSした俺と交友関係NTRアンハッピーセットを食らって女性不信拗らせた親友 作:北京院
文化祭当日の朝、教室の扉を開けるとそこは見慣れない空間になっていた。
色とりどりの造花とフェアリーライトが黒板の横にびっしり貼られていて、机を組み合わせた台の上に「フォトスポット」とマジックで書かれた紙が貼ってある。
黒板自体にもチョークで綺麗な絵が描かれている上に、角度によっては立体的にも見えるという地味ながらすごい仕事までされていたりする。
問題は、見本写真がどうやら一枚もないことぐらいだろう。フォトスポットの前に、ぽつんと空の台紙が貼られている。「見本」と書かれた枠だけがあって、中身がない。
「……誰か撮るはずだったんじゃないか、これ」
「知らん」
──文化祭。出し物に凝ってコスプレや食べ物の提供にオリジナルソングの作成や果ては演劇など、気合の入った催しをするクラスも少なくない。
そんな中、我がクラスの出し物はあっけなく「映えスポット作成」に決まっていた。実行委員が早々に「準備が一番楽」という理由で押し切ったらしい。
会議に出ていない俺がいつの間にか造花を運ばされていた記憶はあるが、それ以上のことは特に覚えていない。気づいたら完成していた、というのが正直な感想だった。
実行委員は今のところ姿が見えない。プリンターは置いてあるが印刷済みの紙もない。
ここで撮ってね! といわんばかりに飾られた空白と台紙を眺めているとどうも目について居心地が悪い。
「よし、撮るか。ほい」
スマホを取り出して翔太に渡す。
受け取った翔太の横に俺が立ってからようやく「俺が?」と返事が来た。
「他にいるか?」
「……そうだな」
何か言いたそうにも見えたが、翔太がスマホを掲げた。
カメラを起動したのかやや斜め上の高いところへ向ける。インカメラの画面には棒立ちの俺たちが映っていた。
……さすがにこれはなしだろ。
「表情作るなりなんなりあるだろ、ほらピースピース」
今度は棒立ちのまま、後ろの背景をまったく生かせてないピースサインを作ってるだけの仏頂面と美少女が並んでいた。
なんだこれは。「これはどこで何をしている写真でしょうか?」と聞かれて文化祭と答えられる人間は存在しないだろう。
「……こんなんでいいのか?」
「いいわけないだろ正気か」
せめて背景のいいところを映るようにしろ、と翔太の腕の角度を指定してみる。
そうそう、上げて、下げて、回して、逆の手を腰に……
「いい加減にしろ」
サマになるかっこいいポーズにふさわしいキレでチョップが降ってきた。
「お、いいところに」
抗議をしていたら、武夫があまり話したことのない男子を連れて教室の入り口から顔を出していた。
確か冬服に着替えた日にプリントを持ってくれたことのある、あの男子だ。名前は佐藤とか鈴木とか、そういうやつだったはずだ。
「見本撮り忘れたって聞いたんだろ、持ってきたぜ」
ちょっとよさげなカメラを自慢気に武夫が出した。どうやら見本の不在は実行委員の間でも問題だったらしい。
自信満々だが、まったく信用はできない。しかしいうが早いかカメラを構え始めている。
「ちょうどいいや、もっと寄って……二人とももうちょい右側! いや俺から見て!」
流れで撮影ポイント近くにいた俺と翔太がそのまま被写体に決まってしまったらしい。
まぁでも少なくともさっきのひどい出来の写真よりはマシになるだろうし、良しとしておこうか。
「よーしいいぞ! 後は笑顔だ! 三上!」
「急に言われてもな……」
武夫がノリノリで振るが翔太は困惑したままだ。
やれやれここは俺の出番らしい。できるだけ真面目なトーンで名前を呼んだ。
「翔太」
「なん……っぐふっ!」
顎をつきだし、眉に力を入れてしわを寄せる。
頬を持ち上げて白目を剥き「ドウシタンダイ」とわざと甲高い声で応答した。
「ばっ……かなんだそのっ…かお、っ……!」
何って……表情筋をフル稼働させて変顔をしただけだが?
ともあれ勝った。この機を逃す手はない!
「いまだ! やれー!」
「まかせろー!!」
表情を戻して武夫へ指示を飛ばす。
待ってましたとばかりにシャッター音が鳴り響いた。
「はぁ……はぁ……なにやってんだ本気で……」
「でも面白かったろ?」
「最悪だ」
口でいくら強がっても動かぬ証拠は既にプリントアウトされている。
さてどうだろうかと見てみると、立体的な背景と綺麗な飾り付けの中心でやたら楽しそうな翔太と俺が切り取られていた。
「……いいじゃん?」
「やっぱでちゃったかぁ……腕!」
「いや、これは被写体の良さだろ」
無駄に力こぶを作っている武夫を無視して分析してみる。被写体がいいのは当然として、背景の効果もすごい。
中央に立つ人がちゃんと目立つようにたぶんいろいろと計算して描かれているんだろう、こんなもの作れるやついたのか……あんな雑な経緯で……?
「うん、背景もすごいよな」
「俺も褒めろよー! いや、山田の背景もすげぇけどさ!」
ほう、山田。あんまり聞いたことのない名前だなと思った。
感謝と称賛を込めて俺から花丸あげよう。そう考えていたら武夫の横の男子が照れくさそうに鼻の下をこすった。
「……へへっ」
「……山田!?」
驚きで思わず大きな声が出た。佐藤か鈴木だと俺が思っていた男子は「えっ、うん」と目を丸くして返事をする。
山田。
……山田、だったのか……
「悪かった、山田……お前は強い」
「あ、ありがとう……?」
花丸代わりに肩をポンポンと叩いて謝罪と感謝の気持ちを伝えた。
山田はよくわかっていないみたいだったが、こういうのは気持ちが大事なはずだ。
そこへ、ようやく実行委員が戻ってきた。
プリントされたさっきの写真を見て「おっ」と声を出す。
「見本これでいいじゃん! ちょうどいいのあったわ」
「そのノリでいいのか……?」
「青春って感じだろ! ぴったりぴったり! じゃあシフト渡しとくから番よろしくなー」
適当な褒め言葉で流された気がしなくもないが、文句を言うより先に実行委員は写真を受け取った。そのまま見本の枠へ貼り付け、代わりにシフト表をこちらへ押しつけるとさっさとどこかへ行ってしまった。
表を見るに、そう長い時間ではないが一応はクラス内で全員何かしらの持ち回りの当番にはなっているようだ。
俺と翔太はフォトスポット担当で、写真を撮る時の案内と頼まれればシャッターを押す役もすることが役目らしい。
自分たちの写真が飾られた場所で案内をすることに若干の気まずさがないこともないが、いい写真が撮れてしまった以上は仕方がないのだろう。
受付は女子二人が担当していて暇そうにおしゃべりをしているし、非常にゆるい空気が流れている。
飾りが取れたら直す、といってもまだ誰も来ていないのに壊れているはずもなく。ふわふわとした時間が過ぎていった。
まあこういうのも悪くないか、と考えていたら最初の来場者がやってきた。
顔は見たことある、他のクラスの女子二人組だった。意外とウケがいいのか「イケてね?」などと話しているのが聞こえてくる。
「あの、撮ってもらえます~?」
スマホを差し出されて、翔太が一瞬、動きを止めた。
代わりに手を伸ばそうとしたが、翔太の手が動いているのが見えて引っ込める。
「並んで、ください」
どうにか翔太が受け取り、スマホを構えた。
肩に力が入りまくっている。声も震えていないが、平坦すぎて不自然だ。
「写真を、撮ります」
立ち位置の誘導も不十分で俺が「あ、もう少し右ですね!」とフォローを入れる。女子たちが背景にぴったり収まった。
「撮れました。どうぞ」
スマホの端を掴んで差し出す姿はスマートとはかけ離れた様だった。でも震えてない。
撮影を頼んできた女子たちに、返却時には少し不思議そうな顔をされていたものの、撮れた写真には満足したのか「ヤバ」というコメントをいただいた。
「次どこ行く?」と話しながら女子たちがその場を離れていく。
部屋を出た後で翔太の脇腹を軽くどついた。
「おい、撮影ロボ」
「……悪かったな」
「いや。やるじゃん」
棒読みでガチガチではあったけれども、ちゃんと写真を撮ることまでできたのだ。
ご褒美のひとつやふたつぐらいあげてもいいだろう。ポッケを漁ったら袋入りのアメ玉が出てきたので渡した。
「なんだこれ」
「なんかあった。褒めてやる」
「……まぁ、なんとかな」
翔太がポッケにアメ玉をしまって頬を掻く。
そのままシフトの時間はあっという間に過ぎていき、特に事件はないまま終わりを迎えた。
────
──
「四ツ谷、三上、お疲れー!」
片手に焼きそばを持った武夫と、後ろをついて歩く山田が部屋に入ってきた。
差し入れに来たわけではなく、シフト交代の時間らしい。焼きそばをかっこんでから武夫がビシッと親指で自分を指した。
「ここは俺に任せて……先にいけ!」
お前たちのほうが先に休憩だったんじゃないか? という言葉を飲み込んだ。
お言葉に甘えるとするか、と荷物を持とうとしたところで山田が一歩前に出る。
「……一人にはさせないよ」
「山田……!」
真剣な声で答える山田と、感極まった様子の武夫。
二人の間にはいつの間にか素晴らしい絆が生まれていたらしい。
……まぁ、仲がいいのはよいことだろう。
交代の挨拶もそこそこに、荷物を持って教室を出る。
当番はこれで終わり。ここから先はもう完全に自由時間だ。
廊下のあちこちから、呼び込みの声と甘い匂いが流れてくる。
さて、まずは何から回ろうか。
カクヨムにも投稿を始めてみました。
ハーメルン優先に変更はないです。