TSした俺と交友関係NTRアンハッピーセットを食らって女性不信拗らせた親友   作:北京院

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人に言う前に自分がなおせ

 朝、目が覚めたら5時だった。

 ……どう考えても早い。ちょっとばかり嫌な予感がした。

 

 ゆっくりと起き上がると嘘みたいに目が冴えている気がして最高の目覚めだ、と錯覚しそうになる。

 ……ヤバいかもしれない。気のせいだと信じて、とりあえず冷蔵庫まで歩き中をのぞく。お茶が一本、スポーツドリンクが二本、炭酸が一本。

 炭酸だと目が覚めてしまいそうなのでとりあえずスポーツドリンクを出してあけ、口に含む。

 

「……ふぅ」

 

 もう一本も手に持って、片手に体温計、逆の手でペットボトル二本を抱えて部屋に戻った。冷たい。

 布団の中に戻って体温計を脇に挟んだ。このわずかな移動で既に頭が半分覚醒しかけているのをおちつかせるために目をつむる。

 

 まぶたの裏の光がぐにゃぐにゃとゆがんで、だんだんと思考がぼんやりとし始めたところで体温計が鳴った。

 もそもそと取り出して、薄目で数字を読んでみる。……37.4℃。

 

「あー……」

 

 やっぱり、そういうやつか。

 布団の中や服に熱がこもってしまっていたせいで高くでただけの可能性にかけて、早起きすぎた朝を終わらせることにした。

 布団を普段より少しきつく巻いて、目を閉じる。

 ぼんやりと薄明るいまぶたの裏を見ているうちに、いつの間にやら意識を手放していた。

 

 

 ……ふ、と光を感じる。

 なんとなくまぶしくて、ほんのり冷える。

 朝が来たのか、と思ってスマホのロック画面を眺めてみた。6時55分。

 普段起きている時間のままで、習慣というものは大したものだと感心してしまう。

 

 へ、と笑おうとして口の中の不味さに気づいた。半分乾いてねばついて、喉まで違和感がある。

 さっきの飲みかけのスポーツドリンクの蓋を空けて口に含むと、染み込むように甘く感じた。……美味い。

 もう二口飲んで人心地ついたところで覚悟を決める。

 

 もう半分諦めつつも、意識を手放す直前までそこにあったはずの体温計を探したがなかなかみつからない。一緒に布団の中でぬくまっていたので、踏んで壊れてないかだけ確かめた。異常なし。

 ボタンを押して、脇へ挟む。ぼーっと天井を眺めていると、あっという間に音が鳴った。

 ……37.8℃。

 

「アウトかー……あー……」

 

 昨日はちゃんと髪を乾かして寝たし、体を冷やした覚えもない。

 風邪を引くぞと陽菜に言われながら風呂場へ逃げた翔太を思い出した。俺がひいてちゃ世話がない。

 

 思わずため息がでる。とりあえずスマホをもう一度手元にやって、LINEを起動した。

 

『悪い、熱出た。今日休む』

 

 翔太に送信してから、少しだけ考える。これだけだとたぶん足りない……気がする。

 

『うつるからくるな』

 

 ……まぁ、あっちも風邪をひいてる可能性もあるが。

 とりあえず任務完了ということにしよう。こんなわずかな時間目を開けていただけなのにしぱしぱして目が乾く。

 声が変な感じもするし、気持ち悪くなってきた。布団をもう一度被って、目を閉じた。

 

 

 ――意識がまた浮上する。

 時間を確認しようとして腕を伸ばしたら、肘が突っ張るような感じがしてちょっと痛い。

 もうわかった、どうでもいい。スマホを開いて時間を確認しようとして、目の奥がちょっと熱くて重かった。

 なんとか薄目を開けて確認する。10時10分。登校時刻はすぎていた。

 一応LINEを開いてみると、翔太に送った分は既読になっていた。返事はなし。どうやら伝わりはしたらしい。

 

 学校へ電話をして先生に休むことを伝えると、心配されてしまった。

 大げさにされたくはないが、サボったとも思われたくないしあいまいに「ありがとうございます」と答えるぐらいしかできなかった。

 ちょっと声を出してみても口の中の不味さは変わらないどころか悪化しているし、起きた時からの肘の痛さも変化なし。

 目を開けていると重たくて乾きがひどいのでまた寝なおそうと思ったのに、なんだかお腹が空いているような気がしてきた。

 

 目をつむってみたけれど、身体が乾きを訴えてくる。1本目のスポーツドリンクを飲み切ってしまって、それでもなんだか物足りない。

 

 ……一度気になると落ち着かない。なにか適当に腹に入れてもう一度寝よう。

 できればあったかいものがいい。台所までぺたぺたと歩くと、廊下の冷たさが身に染みた。

 

 前に買いためてあったインスタントの棚を開けてみる。

 『激アツ! クセ濃厚! 豚骨ラーメン!』と書かれたパッケージを見つけた。さすがに食えない、没。

 さっぱりしたものがなかったかとみてみるけれど、残念ながらもうひとつカップ麺を見つけただけだった。

 ……豆乳トマトラーメン。当たりはずれはわからないが、この前初めて見る味だしと買ったものだった。

 

 豚骨を食べるよりはたぶん胃にも身体にも優しいはずだ。ポットに水を入れてスイッチを押す。

 リビングのテレビをつけてみた。……寒い。お湯が沸いてできあがるまでに、体調が悪化しそうな気がする。

 部屋に一回歩いて戻り、布団から毛布をひっぺがしてくるまりながら戻ってくる。

 ポットのお湯は沸いていたので、カップから後入れの調味油を取り出してかやくを開け、湯を注いでやった。

 

 出来上がるまで5分らしい。テレビの左上には時間が表示されていたので、ぼーっと眺めてみる。

 息が熱を持っている感じがしてくる。地方のニュースやら、美味しい料理店やら、よくわからない情報が画面の中で流れていった。

 内容は全然頭に入らなかったが時間がたったことはわかったのでふたを開けてかき混ぜ、調味油をいれてやる。

 

 白ベースのスープはクリーミーな見た目だが、においは全然しなかった。

 フリーズドライか何かであろうトマトの赤みが浮かんでいて見た目は結構悪くない。

 すすってみると豆乳のおかげなのかまろやかな感じの口当たりがあって、遠くのほうでトマトの酸味のようなものがあるような雰囲気がする。

 口の中には最後に入れた調味油が何かうまみ成分のようなものを主張している……気がするのだけれど、ねちょねちょと感じてしまって、気持ち悪い。

 ……もうちょっとさっぱりした奴を買っておくべきだった。これでもヘビーすぎる。

 

 本当は、悪い味じゃない気もする。でも、今の俺にとってはあんまり美味しくなかった。

 

「……ごめんなさい」

 

 三口ほど食べたけれど、限界だった。手を合わせて、カップ麺に謝る。

 残ったお茶のペットボトルをもって、毛布にくるまったまま部屋に帰ることにした。

 テレビだけは消したが、あとはそのままだ。体調が落ち着いてから片付けよう。頼む、元気になった後の俺。

 

 なんとか部屋についたら、寒さが増した気がした。

 

「……さむ。暖房、強くするか……」

 

 エアコンの温度を少し上げて、お茶をもう一口飲む。

 目をつむると、まぶたの裏の光はひろく広がってぼやけた赤色になっていた。

 開いている時のしぱしぱした感じがひどいのでスマホをいじる気にもならない。

 

 ため息をついた。その息が妙に熱くて、呼吸がしにくかった。

 ゆっくり熱を吐き出して、少しでも冷たい空気を体の奥に送って冷やそうとしてみる。

 なんとなく、息が落ち着いてきたと思ったら少し眠ってしまう。

 

 渇きを感じて目が覚めるけれど、ペットボトルの中身をちょっと飲んでやると「もう動きたくない」と身体がそれ以上の活動を拒否してくる。

 起きては、寝て。眠っては、目が覚めて。繰り返しふわふわとした時間がすぎていった。

 

 何度目かの意識の浮上で、少し窓の外が暗くなっていることに気が付いた。

 スマホを見ると、どうやらもう午後5時らしい。ほとんど何も食べれてない身体が補給を求めている音がした。

 水分で答えてやるが、やっぱり足りないのか落ち着かない。

 

 汗で全身がべとべとしている気がする。とりあえずトイレと、飲み物の補充をしようと部屋を出た。

 廊下の冷たい空気が、さっき暖房を強めた部屋とのギャップでいっそう厳しく感じる。

 でもちょっとだけ頭が働き始めている感覚もある。もうひと眠りぐらいしたら、落ち着くのではなかろうか。

 いったんカロリーはともかく水分は補充したいし、と冷蔵庫を開けた。炭酸ジュースしか残ってない。

 

 さっきまでのお茶もスポーツドリンクも、飲み切ってしまった。

 外に買いに出るのもおっくうだし、誰かにうつしたくもないし、寒いのは嫌だ。

 しかたないので炭酸ジュースと、飲み終えたペットボトルに水道水だけでもくんでやろうか、と考えてみる。

 

 そこへチャイムの音が転がってきた。

 ピーン……と押し込んだ時の音が終わるまで長押ししてから、ようやく離してポーン……と音が響く、やたらゆっくりとしたリズム。

 

「……はぁ?」

 

 まさか、バカな。

 ……聞き間違いの可能性もあるが、一応確認しよう。玄関までの廊下もやっぱり冷たくて、歩く足の裏がペタペタと音を立てていた。

 

 玄関の向こうには人の気配が確かにある。

 一息に鍵を開けてドアを開くと、そこには両手いっぱいに何やら荷物を持った翔太(バカ)が立っていた。

 

 外の空気は輪をかけて冷たくて、吹き込む風がいっそう寒く感じて仕方なかった。

 髪の毛が汗で顔に張り付いていて気持ち悪い。手櫛でよけながら、昨日はあんなに機嫌よく決まっていたのに、と我ながら情けなくなった。何とか視界を確保し、体裁を整えて睨みつけてやる。

 何しに来たんだコイツは。

 

「来るなって言ったろ」

「気づかなかった」

 

 正気か? じゃあなんだその荷物は。

 いろいろ言いたいことがこみあげてきたが、それが言葉になるよりも先に翔太は靴を脱いで家に上がり込んでいた。

 

 リビングの電気を翔太が勝手につけると、急に部屋がまぶしくなった。

 目を細めている間にもずかずか奥まで入っていって、荷物の中からあれやこれやと取り出している。

 こちらを見もしないまま、冷蔵庫の中へ飲み物を詰め込んでいく翔太の背中へ声をかけてみた。

 

「うつるぞ」

「……いい」

 

 なにがいいものか。人の話を聞く気がないのかこいつは。

 結局それ以上言う言葉も浮かばなかったので、呆れてため息がひとつでた。

 

 それを合図にしたのか翔太が振り向く。荷物の中から、タッパーを取り出していた。

 ……どうやら、おじやだ。しょう油と卵で味を調えてある、シンプルなやつ。

 

「食えるか」

 

 補給をずっと求めていた身体が、勝手に音を上げて答えた。腹の虫どもめ、許さんぞ。

 しかし翔太はそれだけを良しとしないのか、こっちを見たまま何も言わないで待っていた。

 なんなんだこいつは本当に。しかし、お腹は空いている。アレならたぶん、食べられる。……食べたい。

 

「……まあ」

「わかった」

 

 なんとか意思を伝えたら、そのままタッパーを開けてレンジであっため始めた。

 そのまま待ってようかとも思ったが、温めスタートをしてすぐにこっちをまた見ていた。

 

「寝とけ」

 

 もう、何を言っても無駄な気がした。

 食べかけですっかり伸びきったカップ麺の容器に気づいたのか翔太がリビングの机に歩いていく。

 あとはもう任せることにして、部屋に戻ることにした。

 

「……ん」

 

 自分の部屋の電気をつけると、やっぱり外が一気に暗くなっていたんだとわかった。

 ベッドで横になると、思ったよりも寝汗で湿っているような気もする。結構汗をかいてたし、消耗もしてたらしい。

 元気になったらクリーニングに出すか……と考えているうちに翔太が部屋までやってきた。

 お盆の上には温めたさっきのおじやの他に、別皿へうめぼしと、かつお節にしょう油とゴマをかけただけのおかずがついていた。

 お茶ももちろんある。まさに至れり尽くせりだ。

 

「やけどするなよ」

「……うん」

 

 近くに置かれた食事が、すごくおいしそうに見えた。

 おじやをゆっくり口に運ぶと、しょう油と出汁の風味が遠くにある。梅干しをかじると、口の中の不味さがちょっとだけ散ったような気がした。

 かつお節をおじやにかけて、ちょっと味を濃くしてみた。ゴマの風味もかつお節の風味もよくわからない状態だったが、食感が違うのだけはよくわかった。

 ……すごく、あったかい。

 

「タオル、置いとく」

 

 ゆっくり食べている間にも翔太は動き続けていた。

 タオルのほかにも飲み物を何本か持ってきてくれている。これだけあれば水分不足にはならなさそうだ。

 

 落ち着いたところで翔太に声をかける。

 

「……ありがとう。助かった」

 

 これぐらいは素直に伝えようと思った。本当に、助かった。

 おじやをおかず含めて完食してようやく、自分が思っていたよりも消耗していたのだなぁと実感がわいてくる。

 別に死にはしなかっただろうけれども、飲み物ももうなかったし、もうちょっと後を引いたかもしれない。

 

「いや。よかった」

 

 翔太は小さく笑ってそういった。……よかったってなんだお前。

 人が弱っているのに何がおかしいのだ、と睨んでみたが、眉間にもうまく力が入らない。

 はぁ、と息を吐いて改めて言う。

 

「よくないだろ。うつっても見舞いには行ってやんないからな」

 

 宣言だけはしておいて、布団の中へと帰った。

 目をつむって横になる。背を向けて翔太の返事は聞いてやらないことにした。

 

 さっき食べ終えたお盆が持ち上がる音がする。

 とんとん、と足音が部屋から離れていく。どうやら片付けもしてくれるつもりらしい。

 ……まぁ、改めて感謝しよう。元気になったらなんか奢ってやろう。

 

 エアコンの音だけが残った中で、奢るものについてちょっと考えてみる。

 しかしちょっと、眠気もこみあげてきているので頭がしっかりとは働かない。

 

 ぼんやりと、音だけが遠くに聞こえる。とんとん、と足音がまた戻ってきた。

 まぶたの裏の光が、ふっと消える。部屋の明かりが消えたらしい。

 

 エアコンの音も、少しずつ遠くなっていくような感覚がある。もう、眠い。

 ……部屋の中に、まだ翔太がいるような気がする。気のせいで、電気を消してすぐに帰ったのかもしれない。

 本当にいるのかを目を開けて確かめる気にはならなかった。すごく、ねむい。あったかい。

 

 

 ――真っ暗な中で、目が覚めた。

 なんとなく、身体の感覚が戻ってきている気がする。暗闇の中なのに窓から差し込む光だけで部屋の中も見えるような気がした。

 

 まぁ、気のせいだったので手探りでスマホと体温計を探すはめにはなったものの。

 少なくとも寝て起きて、しかできなかった時よりはマシだろう。時間はどうやら午後10時……もっと眠ってたのかと思った。

 体温計も確かめてやると、37℃ちょうどだった。これなら朝には平熱に落ち着くんじゃないだろうか。

 布団の中があったかいので、そのせいでちょっと高めに出ただけな気もする。

 

 LINEを確認したが、特に新着はなし。朝に送った内容が既読になっていただけだった。

 まぁ、そんなもんだろう。一応起きたことだけ伝えておこう、とスタンプ画面を開く。

 

『おやすみ』と可愛らしいキャラクターが手を振って布団へもぐりこむスタンプを送り付けてやる。

 身体の汗をタオルで拭いて、全身ちゃんと着替えるとずいぶんとさっぱりした。

 伸びを一つして、最後のひと眠りをしようとしたところで通知が鳴る。

 

 デフォルトの可愛くないキャラクターの「おやすみ」とだけ書かれたスタンプが帰ってきていた。

 

「かわいくねぇ~」

 

 なんだかおかしくて笑いがこみあげてくる。布団に潜り込んでからもう一回通知画面を開いてみた。

 やっぱり可愛くないスタンプが「おやすみ」と宣言して鎮座していたので、もう眠ることにした。

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