交友関係NTRアンハッピーセットを食らって女性不信拗らせた親友と朝起きたら女になってしまった俺   作:北京院

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不治の病を患いまして

 朝目が覚めたら女の子になっていた。

 なるほど、夢のあるシチュエーションかもしれない。人は誰しもが『自分ではない誰か』になってみたいと思っている、というような話を聞いたことがある気がする。

 自分ではない誰か、ということは本来の自分と離れた存在であるほどよいともいえる。

 冴えない普通の男である俺ならば、思わず目を惹く女、といった具合であろうか。

 

 ……うん。現実逃避はやめよう。

 

「おい、本当になんなんだあんた?」

 

 親友が問い詰めてくるトーンは本気だ。うん、朝起きたらなんか知らん女が同じ部屋にいたら怖いよな。

 しかも彼女と後輩ちゃんと先輩さんを寝取られ報告受けた翌日である。なんだったら3人の寝取られの裏には謎のヤンデレがいて、そいつが自分を孤立させようとしていた、とか思うのではなかろうか。

 うわぁ、怖い。非現実が起きているんだから全然ある話だ。で、翌朝に「やっと二人きりになれたね」なんて言ってくるやつだろう。

 ……まさに今のシチュエーションでは? そうだね。

 

 俺が男の時から翔太のほうが体格がよかったことを鑑みるに、パジャマがだぼだぼの現状からしてどうやら俺は縮んでしまっているらしいことを重ねてみれば普通に考えて腕力で勝てるとは思えない。

 なのに翔太が声から怯えをにじませているのは、俺が怖いからに違いない。そりゃあそうだろうとも、謎の女といきなりのおはようございますはびっくりする。

 

 しかも昨日の感じからして女子に対して警戒心が増しているおまけ付きだ。女子ってわからないって何度聞いたかわからない。

 これで昨日の今日でもなければおふざけのひとつやふたつするのだけれど、流石に今ふざけるのはキャパオーバーだろう。

 

「……信じらんないとは思うけど。俺だよ、(いつき)だよ。なぁ、やっぱ見てもわかんないレベルで別人か? 完全に女の子になってる?」

「はぁ?」

 

 何いってんだこいつ、って顔で見るのはやめて欲しい。俺だって混乱してるんだから。

 というか若干距離を取ろうとするんじゃあない。やべーイカれ女と思ったのか? いや、気持ちはわかるけれど。

 ……仕方ない。こういう時の鉄板は二人だけの思い出だろう。

 

「あー……小2の時に家族みんなで旅行行ったら季節外れの台風直撃したよな」

「なんでそんなこと知ってるんだ……?」

 

 いや、本人だからなんだが。でもこれだけだと特になんでもない話だ。

 当事者の俺たちだけが知ってる話があるだろう? 

 

「で、テンションがあがって大雨の中全裸で駆け回っただろ? 水鉄砲持ってはしゃいでさ。雨の中じゃただの水じゃ意味がねえっていって、おしっこてっぽう! とかふざけてしようとしたら水鉄砲の給水口にチンコ挟んで抜けなくなって、泣きながらおばさんに見せたらめちゃくちゃ笑われて──」

「バっ、はっ、はぁっ!? おまっ、なんで!?」

 

 そう、当時の我々はバカだった。小便を水鉄砲に充填しようとした翔太はちんこを挟み、泣き、家族に泣きつき、笑われ、泣いたのだ。

 俺? おしっこでっぽうとかいうアホのゲームをうけてたとうとしたところで対戦相手が泣き出したので完全勝利して指差してずっと笑ってた。

「ちんちんとれちゃうぅー!」って泣き叫んでるのを見て笑わない方が無理だ。今では俺のちんちんがとれてしまったわけだが。笑えない。

 

「だから、俺だよ。樹だって……いや。信じられないのもわかるけどさぁ……」

 

 こんなことを知っているのは当事者しかいない。流石に誰にも話してこなかったネタだ。

 それは翔太も当然同じだろうし、つまりは俺の身分証明になるというわけだ。ならない? なってくれ。

 

「……いろいろ言いたいけど、わかった。納得してやる」

 

 何か言いたげだったがぐっと堪えた様子で翔太がいう。納得できたならよかった。

 ……で、どうしようか。学校行くか? せんせー、わたし、おんなのこになっちゃいました、きゃはっ! って? 

 うーん、流石にちょっとね……いや、俺本当に女の子になってる? なんか重力がどうこう、みたいなことが起きたせいで体格が変わって胸に脂肪が集まっただけだったりしない? 

 

 一縷の望みをかけて洗面所に移動してみた。胸まで届く長い黒髪に少し幼い顔つき、元の身体からふた回りは縮んだ身長、そこそこ豊かな胸。あと、股の間になんにもない喪失感。

 うーん。かわいい。これが俺じゃなきゃ好きになってたところだ。振り向いたら翔太が警戒するように俺のことを見ていた。いやん、えっち。

 

「なぁ……マジで樹ならどうすんだよ、今から」

「さぁ……?」

「さぁってお前……」

 

 そういわれても。どうすればいいかなんてさっぱりなのは事実だ。

 だってめちゃくちゃ可愛い女の子になってしまった時のことなんて考えたこともなければ教わったこともないんだもの。

 

「……っあ"ー……学校電話して今日休むって言っといてくれ、俺の分も」

 

 絞り出すように指示を出されたので従うことにする。その間に翔太はいろいろ電話をしていたようだった。こいつはバカだがおばさんが頼りになるのでたぶんそっちに聞いていたんだろう。

 こっちもこっちで先生に「なんか朝起きたらちんちんがなくなってたので休みます」とは言えないので身内を装って不審がられたりしていた。

 電話が終わった辺りで着替えるように言われたので大人しく着替えた。いや、うちにある服全部ダボダボだったが夏の寝巻き用の半袖半ズボンは多少マシだったのでそれを無理やり着た。

 

 サービスショットなりなんなりでからかってやろうかとも思ったが、俺がちょっと肩を出した時点でトイレに駆け込んだのをみてやめておくことにした。

 おかずにするために駆け込んだっていうならまぁ、気色悪いがからかいがいもあっただろうが思いっきり吐いている気配がしたので笑えなかった。

 なに、女体にトラウマできたの? 気持ちはわかるけど。

 

 

 

 しばらく待ったらおばさんが車で我が家まで来てくれた。忙しいだろうに頭があがらない。

 そこからはあっという間に1日が終わってしまった。病院やら市役所やら、ずっと付き添ってくれたおばさんに感謝だ。

 必要ないのに翔太がついてきていたのは一応俺のことを心配してのことだろう。気持ちは嬉しい。

 

 そして俺の現状だが──なんと。不治の病だそうだ。聞かされたときはびっくりして固まっちゃったね。

 隣の翔太が大声で問い詰めていなかったらその後の言葉も耳に入らなかったかもしれない。

 おかげで冷静になれたので命に別状はないという大事な部分を聞き逃さなかったし。

 

 さて、この不治の病がどういったものなのか。不治、というよりはもう治ってしまっているというのが正しいらしい。

 簡単に言うと不可逆的に性別が変わってしまい、そのあとはただの健康的な身体が残るだけで痕跡もほとんどなし。

 年齢が変わってしまうことすらあるが、記憶と知識の連続性には問題なし。

 

 別人になってしまったストレスで身体を壊す人がいるので最近ようやく政府の支援を受けられるようになったのだという。

 そんな病気もサポート体制も知らなかったが、市役所その他を駆け回って申請ができた。月一で採血したりするだけで補助金がもらえるらしいので、遊ぶ金が増えたなとおばさんと翔太に笑いかけてみた。気まずい沈黙が返ってきた。やらかした。

 

 だぼだぼの男物を着ているのはまずいだろう、と女物の服一式をおばさんに見繕ってもらえたので、ましな格好に着替えられたのもよかった。

 下着なんて付け方もわからなかったし……翔太は売り場に近寄ろうとしただけで調子が悪そうだったので休ませておいた。スカートとか履いて寄ろうものならその場で吐きそうな勢いである。

 そういうわけで、着替えは身体のラインが出にくいゆるめのパーカーにスリムなジーパンという俺自身の抵抗感と翔太の体調に配慮した中性的な格好に落ち着いた。

 おばさんも最初は翔太が照れていると勘違いしていたが本気で体調が悪そうだったので心配していた。まぁ、理由は話せないよなぁ……

 

 着替える時に脱いで改めて鏡で確認したが、今の俺は美少女といって過言ではなかった。

 そんな美少女の裸が見放題だったのにまったく興奮しなかったので、性別が変わったときに起こりうる様々な精神反応のひとつとして性欲が消え失せたのかもしれない。

 そういうこともある、と医者には聞かされていた。母さんに電話したら「そういうこともあるかぁ」と言っていた。そんなことある? あるね、たった今現在進行形であったわ。

 

 というか一人息子が娘になっちゃったって話を「そんなこともある」ですます我が母には脱帽である。

 いいの? いろいろと問題が起きているんだけれど。ついでに孫の顔を見せられなくなったような気がするんだけれど。本当にいいの? 

 

「今日は疲れたでしょう、うちでご飯食べてく?」

「あ……はい。ありがとうございます」

 

 いいのいいの、と笑うおばさんに感謝する。久しぶりにオムライスを食べられるのは嬉しい。

 服を買ったデパートの食品売り場へ降りていく。割と元気が出てきた。

 隣の翔太のほうが調子が悪く見える始末だ。……いや、本当に顔色悪いなコイツ。

 

「おい、大丈夫か?」

「悪い……ダメだ。吐きそう」

 

 肘で小突いてやったが、余裕がなさそうだ。婦人服売り場あたりからずっと調子が悪そうだったがいよいよ限界って感じか。

 案内板を見まわしてトイレを探す。歩けるか聞くが、どうにも辛そうだ。肩を貸してやったら、余計に顔色が悪くなった。

 心配で背中をさすってやれば楽になるか、と思って撫でた。

 

「おえぇっ……ぁっ……」

 

 ──それが、引き金になってしまったようで。

 おニューのパーカーは親友の吐いたゲロでべちゃべちゃになってしまった。

 泣きそうな顔で「ごめん、ごめん」と繰り返し、ガタガタと震える姿はとてもじゃないが見てられなかったが、俺が触ると悪化しそうだから離れて「気にするな」ということしかできなかった。

 

 清掃員の人がすぐに来てくれて、店員さんにも大変心配されたが大丈夫だ、で通した。片付けてくださった方々には大変感謝している。

 おばさんは俺のことも心配してくれたが、何のことはない。昔は小便をひっかけあおうとした仲なんだから、ちょっと服にゲロを吐かれた程度で幻滅するような間柄じゃない。

 改めて似たパーカーを買ってもらってしまったのは悪いな、と思ったがここを遠慮しても仕方がないのでありがたくいただいた。補助金が来たらお返しするつもりでいいだろうか。

 

 

 しばらくしてからようやく落ち着いた翔太と俺は少し外に出ていた。

 買い物はおばさんがやってくるとのことだったので、落ち着けるようにとのことだ。ぶらぶらと意味なく駐車場を歩く。車をとめたのは立体駐車場の中だったが、ここは平面駐車場。それほど多くの車も止まっていないし、ぼーっとしていても危なくない。

 ほんのり肌寒いぐらいの風にあたって頭が冷えたのか、翔太が改めて「ごめん」と言い出した。

 さっきまでの様子とは違い、ちゃんと目を見ているし調子も落ち着いたらしい。とりあえず一安心だ。

 

「ま、気にすんなよ。服はおばさんに買ってもらっちゃったわけだし今更ゲロぐらいでヒく話でもないだろ」

 

 昔っからバカをやりあったバカの仲であるからして、文字通り吐くほどの大食い対決までしたことがあるのだから気にするような話ではない。

 たぶん、俺が同じようにやらかしたのなら翔太も「気にするな」と笑って許すだろうと思うし、もしわざとなら本気で殴り合いの喧嘩をするだろうと思う。

 つまりは、体調不良ならば仕方がない、で話を終わらせよう。そう思っての提案だったが、翔太の表情は冴えないままだ。

 

「……違うんだよ、俺……お前が支えてくれた時にさ、柔らかいなって思ってさ……」

「えっ、セクハラ?」

「ちがっ……わ、ねぇ、わ……そうだよ。そしたらさ、彼女のこと……思い、出して……」

 

 軽いジャブで返したつもりが、どんどん表情が沈んでいく。昨日寝取られ通話してきた彼女さんのことを思い出してしまっているらしい。

 こいつ、めちゃくちゃ浮かれてたし童貞拗らせて「初エッチっていつ誘うもんなのかなぁ!?」とか相談してきてたもんな。俺も童貞だったから知らねーよで済ませたが。

 

「そしたら、怖くて……お、お前が女なんだって思ったら、ひょっとしたら……」

 

 あぁ、なるほど。思っていた以上に親友の心はズタボロになっているらしい。昨日は笑って話せたがあれは昔からの親友で同性の俺相手だったからであって、意味不明な謝罪付きエロ動画&エロ画像で一方的に別れを告げられたせいで女が信じられなくなってしまったのだ。

 これで俺が元の身体であったのなら「童貞拗らせすぎて一生魔法使いコースだな」と笑ってやれば済む話なのだが。肩を支えて背中を撫でてやった俺の身体がどうしようもなく女なのだと意識してしまって怖くなった、と。

 ……いや。俺の心は変わらず男だが? 

 

「なーに言ってんだ。俺は変わってないっての……俺のことを好きになる男とかいたらホモだぜホモ」

 

 ケラケラと笑ってやるが、それでも表情は変わらない。相当のダメージを食らっているようだ。

 なんだか気に食わない。ちょっと身体が変わった程度で10年以上の付き合いがなくなってしまうと思っている親友に腹が立つ。

 

「俺は俺だよ、バカなこと思うなよ。それにお前にはもっといいやつが見つかるって」

 

 少なくともバキバキちんちんとのツーショットとか謎の謝罪付きビデオレターとかしゅきしゅき完堕ち報告通話とかしないまともな女子に好かれるべきと思う程度には普通にいいやつなのだ、コイツは。多少バカで、とてもアホなところがあるだけで。

 身体が女になったからか女子にムラムラしなくなった今、昨日見せてもらったドスケベ画像たちはなかなか腹立たしいものだったのだと分析できた。相手含めて痛い目見せてやろうか。

 

「……ああ、悪い。お前の方が大変なのに、変なこと言って」

「お前の方が大変だろ。知り合い3人同じ日に寝取られる奴なんてそうはいないぞ」

 

 弱弱しく笑う親友に、からかうように言葉を返す。

 翔太は少し怒った素振りで「お前なぁ!」と声を出したが、後に続いたのは文句ではなく感謝だった。

 

「……ありがとな。おかげでちょっと楽になった……しばらく女が怖いのは治んないかもしれないけどさ」

「そりゃあよかった。じゃあ、こちらこそ。ありがとうな」

 

 感謝を口にすると、翔太が驚いて目を丸くした。そんなに驚くことか? 

 朝起きて性別が変わっていて、どうすればいいかまったくわからない状態の俺を見て。助けてくれようとしたのは翔太だ。

 

 彼女の名前と同じ名前のキャラを見ただけで吐き、女の身体の肩を見ただけで吐き、背中を女にさすられただけで吐くような状態で、こんな身体になった俺を信じて案じてくれたのは、親友だ。

 

「おかげでいろいろ助かった。まぁもう少し迷惑かけるかもしれないけど、よろしくな」

 

 ニッと笑って手を伸ばした。女になった、柔らかくて小さい手だ。でも、俺の手だ。

 

「……ああ、任せとけ」

 

 女が怖いと言っていた手で、しっかりと俺の手を握り締めて。翔太はいつもみたいに笑った。

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