遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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100.地罰金具負不亜流坐.

 朔。あるいは新月とも呼ばれるそれァ、この冥界においてはただそう見えるだけの天体だ。宙に浮かぶ真っ黒い球体。光の輪が並々溢れ囲うその物体に、太陽の神とされる者達は住んでいる。

 世界の外側。俺達の生まれた世界は恵理須という名であり、それは世界の外側たる冥界からしてみればとても小さいもの。その外側における天体ともなれば、恐ろしい大きさが予想される──が、実際はそんなでもない。でけェこたでけェけど、「うっわでっけー」ってなる程度だ。

 

「一応、確認しておくけどよ」

「あン?」

「お前が少なくとも俺を名乗るンなら、魔法だのなンだのの戦闘技能ァあるってことでいいんだよな?」

「お前ほど自由に振り回せる魔力ァ無いけどな。ま、冥界だ。戦力ァ十二分だよ。お前さんの方こそ、神さんの助け無くて大丈夫かよ」

「一々突っかかんじゃねェよ。どーあっても俺をオーディンにしてェのはわーったから、円滑に会話を進めやがれ」

 

 ……コイツが何なのかは未だわからん。

 偽物本物……で済ませられる話ではない、ような、気がしなくもなくもない。

 

 オーディン。

 確かにその血肉、あるいは卵みてェなもんを俺ァ食った。壊すのだから、殺すのだからと、それを体内に入れて、捕食した。

 けどそれだけだ。いんやさ、それだけで俺にオーディンの属性とでもいうべきモンが付け足されるってンならじゃァ俺はオーディンなのかもしれねェけど、別に梓・ライラックじゃなくなったってワケじゃねェ。クロムクラハでもあるのかもしれねェし、アンディスガルでもあるのかもしれねェけど。

 ……名前、増えてきたなァ。

 

「そら、そろそろ出てくる頃合いだぜ」

「あァさ──太陽の尖兵」

 

 一体目は、もう目の前にいた。

 黒い翼。金色に輝く胴体。手に持つ剣がゆらりと流れ、その眼光は確実に俺達を貫いている。荘厳な装飾の為された籠手と、目に見える程に圧縮された魔力。それらは光球と天輪を召し上げ──この黒き天体に光の波を作りあげる。

 そうさ、この朔が後光差してンのァこいつらがいるせいだ。

 こいつらが──うじゃうじゃいるせいだ。

 

 迷宮のアンゲル。あれは結局、夜の天使に過ぎない。ゲヘナ、ソテイラの使徒。そういう意味じゃ俺達とおんなじなンだけど、こいつらは完全に護衛に徹した魔物といえるだろう。

 終の因がなくなった今、あの迷宮にいたアンゲル以外の魔物は全部自然形成に切り替わったンだろうけど、アンゲルだけは別だ。あれなるは迷宮の魔物に非ず。

 ()に使われし者。ゆえの天使。

 実を言えば夜の宮にもいる。いるけど攻撃はしてこない。つーか俺ァ最初あれを銅像かなンかだと思ってたくらい動かない。

 

 世界に降りると色々忘れちまうからな、迷宮じゃわからんままだったが……ここでなら、その弱点も動きもわかる。

 

鈍斗微譜来頓導(怯むな)!」

座頭伊豆地御琉電網(あれなるは黄金の軍勢).」

場途,有為亞韻武印子坊(しかして我らの敵に非ず).」

亜笆度亜笆度業亜笆度(進軍せよ、進軍せよ、進軍せよ)!」

 

 声が重なる。

 こいつ、どこまで……いや、良い。単純に俺が2人になったンだと思えば、できることも増える。

 

「尖り前髪、キラキラツインテ! 着物狐! 俺を信用できンならこっちに来な! 左方から敵陣をぶっ叩く!」

「あァ勝手に決めやがる。だがまァ良い。オリジン達はこっちだ。あと! 聞こえてると思うけど! マッドチビ先生たちも無駄なコトいつまでもやってねェで空に来な! こっちのが潰し甲斐があるぜ!」

 

 別に夜の神と太陽の神は敵対してるってワケじゃねェ。こいつらは単なる自動防衛機構っつか、この朔に近づくモンを役割通りに撃退せんとしているだけだ。普通に冥界の住民がここに近づこうとすりゃ出てくる。まァ大抵は首根っこ掴まれて放り投げられる程度の対処だが、こっちの武装が武装だからな。

 勝手なコト言った俺っぽい奴ァ、一瞬だけこっちを気遣うよォに見た着物狐達を引き連れ、左方に展開していく。効率を見りゃそうだ。この大所帯で一点突破したって得られるモンは少ない。魔力少ないとか言ってたしな、あるいは【即死】や【死漸】を使えるかもしれねェって考えたら、魔法少女は魔法少女同士でつるんだ方が色々と楽だろう。

 

 でまァ、予定調和通りに俺ァ魔物扱い、ってか?

 ハハ。

 

「あ、クロムクラハ。置いてかれちゃったから私こっちでいいよね!」

「……そういやいたなアオン」

「酷い!?」

 

 アオンを知らねェとなると、とか思いかけたけど。

 ……あいつも忘れていっただけだったりして。

 

「ちなみに私達も忘れられている」

「ウィジ。多分魔法少女枠に入れられてない」

「……やっぱりアイツ偽物だろ。まァ良い。よし、俺達ァ右方から回る! この黄金の騎士共はいくら壊しても湧いて出てくる尖兵だ。適宜対処しつつ、朔の裏側を目指すぞ! あァちなみに食っても何にもならねェからな、力任せにぶっ壊した方が良いぜ!」

 

 それを聞き、スーグとシュジが真っ先に黄金へ突っ込んでいく。

 腐っても、っつかマジにあいつら強ェオリジンだからな。正直アンゲル一匹じゃどォにもならねェ。十匹でも無理なンじゃねェかな。

 たァ言え、出てくンのは十や二十じゃねェ。だから──。

 

「さァ行くぞてめェら! 力の見せ所さ! 黄金食い破って太陽に直談判だ!」

 

 続け、続け。

 左方に行った俺っぽいのに負けないためにも。

 

 

えはか彼

 

 

「ク──吾の妻その2。策はあるのかえ?」

「俺が突破口を開く。尖り前髪が斬撃飛ばす。キラキラツインテが金アンゲルのコア抜き取る。着物狐が紙でも魔法でもなンでも良いからアンゲル壊す。他に聞きてェことは?」

「うん、こっちの子も確実に梓だね」

「クルメーナへの遠征前にはザイフォンが"ちゃんと考えろ"というような言葉を助言した、と聞いていたのだがな……。私の言葉も届いていなかったか」

「何言ってンだ馬鹿かお前。全部大事に覚えてるよ。その上で突っ込めっていってンだ。できるだろてめェら。キラキラツインテはどォか知らねェけど、2人ともSSァ軽いンだろ?」

「ククッ、吾はそうだと言われたがな。頭領がそうかは知らぬぞ?」

「私はA級魔法少女だ」

「けど、その言い方だとまるで──君も、そうだと。言っているように聞こえるかな」

「あン? そりゃ──」

 

 クリスは剣の形で。

 潤沢に溢れ出る魔力で知覚を強化し──迫りくる剣を受け止める。

 重い。なンつー膂力だ。つか、後ろの黒翼で後押しもしてやがンのか。ならこっちも、と行きたいところだけど、ンな愚直にパワー任せにするこたねェんだ。

 

「【死漸】」

「──!?」

 

 クリスから染み出した冥界の魔力が金アンゲルの剣を死なせる。

 半ばからぽっきりと行っちまった剣に驚き、しかし瞬時に退がろうとする判断ァ流石だ。だけど──距離を取ったって意味ァ無い。なンせ。

 

「なンせ、こちとら銃使って長いンでな──ハハ、弾けなかっただろ。冥界の魔力で作った銃弾さ。お前らが冥界に属す限り、弾くなンてことはできねェ。できたら冥界に居られねェからな」

 

 距離を取った。

 その、姿勢のまま──墜落していく金アンゲル。

 

 冥界の住民は死なない。既に死んでいるから。けどそれは天使には適用されない。

 まァこの世界で言う天使ァ別に生きちゃいねェんだが、アイツはもう死んだ。冥界の住民が死なねェってな、けど命を落とさねェってだけだ。

 天使が死んだら、なんになるかって。

 役割を終えて自然に還ンのさ。

 

「とまァこんな感じで十分に戦えるってワケだ」

「撃破速度が遅すぎる。そんなことを何千体と来るアンゲルに行うつもりか? 効率を知れ」

「まだまだだね」

「クク──どれ、SS級の戦闘なるものを吾はフェリカくらいしか知らぬがな。それに勝るとも劣らぬ光景を見せてやろう」

 

 尖り前髪から【飛斬】が飛ぶ。大きく振りぬいた刀──そこから放たれる斬撃ァ、俺が知っているモンなら単にまっすぐにしか飛ばねェそれのはずだった。振りぬいた範囲にしか斬撃を発生させられねェ、それだけだってクソ強い魔法。

 それが──放射状に。

 尖り前髪を中心点に、扇状の水平線が、ぱっくりとぶった斬られる。

 

「妖術・式鬼城郷──クク、魔法ではないがな」

 

 金アンゲル達だって別にお行儀よく水平に並んでるってワケじゃねェ。だから【飛斬】から逃れた個体も相当数いて──けどそれらは、真っ二つにされた個体から這い出る紙束によって覆い隠されていく。紙。紙だ。壊れた個体のそれぞれが紙となり、紙片となり、黒き天体の表層を白で埋めていく。

 

「 TAGAIWO KURAITE MOUIWOSHIMESE 」

 

 紙が流れる。紙が舞う。

 形成されるは──巨大な鳥。いんやさ、鷲か。

 それらは、そいつらは、互いを互いに啄みあって、どんどん狂暴に、どんどんデカくなっていく。今は無事でいられている金アンゲルを集中的に狙い、ひとたび戦いが発生すれば他の所から紙の鷲達が集い、攻撃しあってそれも紙にする。

 

 ……いやさ、前から思ってたけど、着物狐の能力マジで異質だよな。

 ほかのオリジンと比べても、明らかにやべェっていうか。

 

「キラキラツインテはなんか無いのか?」

「うん? 私は君の言う通り、A級魔法少女だからね。あんな殲滅力はないよ。今まで見せてきたものがすべてかな」

「あァそうかい。なンか安心したよ」

「でも」

 

 紙の嵐から逃れ、こっちに突っ込んできた一体がキラキラツインテを通り抜ける。

 俺が対処しよォかと思ったンだが……余計なお世話だったらしい。

 

 いつものよくわからんニコニコ笑顔で、その手には揺らめくコア。背後にはコアを失い崩れ落ちていく金アンゲル。

 うん。

 そォだった。殲滅力がなくても、十二分にやべェんだよな、こいつ。その魔法もだけど──判断力とか、魔法への理解量が。

 

「さ、暴れるのはあの2人に任せて、私達は先に行こう」

「あァさ」

 

 進む。

 クリスの形態変化もかなりスムーズになってきている。まァずーっと土掘りさせられてたしな。クリスに意思があったら、鬱憤溜まってるどころじゃねェンだろう。

 近寄らんとする奴ァ剣で斬り、死漸を浸して殺していく。遠ざからんとする奴ァ拳銃で撃ち、余裕ができたらSRでバァンだ。キラキラツインテの心配は必要ないからな、ガンガン進んでいく。

 

 その間にも紙の鷲は金アンゲルを駆逐する勢いで展開しているし、その鷲ごと【飛斬】が切り裂いて行くンで……なンか。

 いや、すげェんだけどさ。そのさ。背後でさ。

 

「ク──頭領、味方の式鬼を攻撃するとは、どういう了見ぞ?」

「ふん、私の斬線上にいるのが悪い」

「クク、そうか、あれなる金色と吾の式鬼の見分けさえつかなくなったか。ククク、老いたものよなぁ。耄碌……あぁ、魔法少女は老いないのだったか。ならばなる前からそうであったのだろう」

「私の【飛斬】にそこまでの速度はない。その程度の攻撃も避けられん式鬼など雑魚も当然。あれらと見分けがつかないのは当然だ。どちらも雑魚なのだから」

「ク──」

「ふん」

 

 仲良いなァ、って。

 口に出すとこっちに【飛斬】と紙が飛んできそうだから言わねェけど。

 

「仲良いよね、あの2人」

「そういうトコあるよな、キラキラツインテって」

「避けられるからね。煽り放題」

「やっぱずりィよ【透過】」

 

 いや別に煽り放題が羨ましいわけじゃねェんだけどさ。

 

 ……いかんな。真面目にやろう。真面目に。

 世界からの魔力流出が止まったとはいえ、おそらくマッドチビの計画ってな着実に進行してンだ。ちゃんと警戒しとかねェと。

 

「……」

「どうしたの?」

「……いや、ちょっとだけ、考えていいか? 時間無いのァわかってンだけど、なんか引っかかる」

「カネミツ、ナリコ。梓が考え事をしたいみたいだから、守ってあげて」

「お前が守ればいいだろう、あるるらら」

「クク、狭量よな、頭領は。良い良い、吾が守ってやる。存分に思考しろ。しかし、剛毅よなぁ。これほどの敵を前に思考に耽りたい、など。流石は吾の妻だ」

 

 いんやさごもっともなンだけど。

 ちょっとだけな。

 

 ちょっと……整理したい。

 

 まず、全体の目的からだ。

 マッドチビの狙いは未だわからないまま。神になりたいワケじゃねェってンなら、なんになりたいのかわからねェ。アイツが死にたくねェんだろうことはわかってて、新しい神を登録したり、精神に作用する魔法……確か【占幽】だっけ? を使えるってなわかってる。

 最初の想定じゃ、あっちの世界を作り上げて、精神体をこっちの世界から引き抜いて、心をアズサにして、って寸法だと思ってた。だけどそんな延命措置をするくらいなら自分が神になった方が早いから、だから神になった、って思った。

 それが無かったンだってわかったら、やっぱり最初の想定があってたか?

 けど、それならおかしいことがある。

 

「【飛斬】──……少し、数が多くなってきたか」

「クク、限界かえ? 良いぞ、休んでいるか」

「一々煩い狐だな」

 

 俺とリゾがいた世界。あそこはちゃんと世界だった。時間は進んでなくとも、世界といえるだけの広さがあった。

 それを作った理由が最初の想定通りだってンなら──魔力を送り込む経路の中継点に、オーディンの血肉なンてもんは使わない。いや、使う必要があったのかもしれねェけど、護衛も無しにはしない。加えて俺がくるってわかってンだ、だったら殺すのも目に見えてる。そんなもんをこれ見よがしに置いておくのは、確実に罠だとして──それが何になる?

 まず、あっちの世界への魔力供給は途切れるな。それで、俺が弾き出される。そォなって俺が"役割の分割"をして、あの世界に寿命という概念を教え込む。

 そこまでがストーリーだとして、じゃァそれが出来なくなったら、次の手は何になる?

 リゾがあの世界にいたのが偶然か故意かまではわからねェが、どっちも何もせずに出てきちまったら、目論見通りに行かなかったら──次の手はなンだ。

 

 用意しているはずだ。準備しているはずだ。

 俺の性格を考えりゃ思った通りにコトが運ばねェなんて目に見えてる。だから、次策を用意してるはずだ。

 

 たとえば。

 

 スペア、とか。

 

「待て、待て、一個の考えに囚われるな。それだけじゃねェ。それだけだって十分行動の背を押せるが、それだけじゃねェ。頭冷やせ。もっと考えろ」

「……うん。もっと考えよう。君はそれができる子だからね」

 

 クロムクラハをオーディンにしたのはなンでだ。マッドチビとオーディンは協力関係にあったのか?

 シエナ。死を得ることの無い者。ニヤニヤ丸眼鏡と同時期に現れたっつー魔物オーディンと、何の協力関係にある。クロムクラハをオーディンにして、マッドチビは何を得る?

 単純に俺をあっちの世界に弾き出すためだけか? それならもっと前、【占幽】で俺の身体奪った時にやった方が早い。あの時俺の精神体を弾かないで、どォにかしてあっちの世界に詰め込んで、もう一度体を戻したほうが百万倍早い。

 

 わざわざ俺をクロムクラハになるまで強くして、オーディンと同化させた理由。

 

 そんなの、オーディンが新たな身体として強い存在を望んだから以外に無ェだろう。

 じゃあ、オーディンがクロムクラハの名を手に入れたとして、何が起きる。まず、魔物が大量についてくる。魔力も潤沢だ。フルオブズヴィトニーとジョームンガンダーを食ったその体は魔物として最上級に位置するものとなっているだろう。

 その上で……俺の記憶がある。世界言語を使用できる。魔法まではわからねェが、夜の言葉で太陽の技や風の技を使った実績までついた、とびきりの記憶が付いてくる。その実績までを想定してたかは知らねェが、なるほど、世界言語を使いまくっててそれに造詣の深い俺の記憶ってな結構なレアモンだ。

 

 オーディンがそれを欲していた、と仮定する。

 じゃァやっぱりオーディンとマッドチビは協力関係にあっておかしくねェ。オーディンから何かを提供する代わりに、オーディンは見返りとして肉体を求めた。

 シエナはオーディンから何をもらった?

 

 ……今、じゃない、のか?

 それは……とうに過ぎた事か?

 マッドチビ先生が精神体を抜いてガーゴイルや他人に定着させてる技法ってな、マッドチビ先生本人が開発したモンだ。【鉱水】ありきの技法だ。

 安藤さんの疑似魔法とやらの中にも、少なくとも疑似【鉱水】ってなは見た事がない。俺が知らねェだけかもしれねェけど、あんな便利な魔法使わねェはずがない。何よりシエナ……ガーゴイルの方のシエナが言ってたはずだ。【鉱水】がないと魔石燃料の選別作業が難しい、って。

 だから、マッドチビは【鉱水】の疑似魔法を有していない。マッドチビは【鉱水】で精神体を抜いているわけじゃァない。

 

 いや、【幽拐】でも同じことはできる、のか? あれは精神体を抜く魔法だけど、入れる魔法じゃない、気がする。あれで抜いた精神体をルルゥ・ガルは普通に持っていた。魔物に入れるでもなく、ただ所持していた。それは……取引材料だったンじゃねェか?

 つか、そもそもルルゥ・ガルは別に魔物に魔法少女の精神体を入れたりはしてないンじゃねェか? 俺が見てきた事例ってな全部魔物の精神体を魔法少女の肉体に入れたのばっかで、魔法少女の精神体が入ってるのァガーゴイルだけだ。マッドチビ先生が作ってたやつだけ。

 

 ……だから。

 やっぱり【幽拐】じゃ同じことはできなくて。

 違う技術だ。違う技法だ。

 神さんにも、太陽にも、風にもなってきた──次々と別の肉体に移り込む、移り変わるヤツの妖術だ。

 

 ベルウェーク。否、オーディン。

 その取引は過去に行われた。100年前を境に長らく現れていなかったオーディン。ソイツは多分、その時にマッドチビと取引をしたンだ。

 肉体と精神を移し替える妖術の提供。その代わりに、新たなる強き肉体の提供。

 ……そうだ。それで、その何十年後かに、マッドチビは実験をしている。太腿忍者とあみあみ忍者。その精神体を入れ替える悪魔の所業。

 

 500年前にあったという大国。その前、その後。世界の至る所で精神と肉体と心に対する実験を行ってきたマッドチビは、100年前にその技術を手に入れ──そして今。俺が来て。

 

「結論を急ぐなよ。見落とすな。引っかかった場所を見逃すな」

 

 筋書はこんなところなンだろう。クロムクラハをオーディンにしたのは過去の取引の清算であって、自分の目的を組み込んだものにすぎない。

 うまくいかなかった時の策はスペアを用意してあって。

 それで、それで。

 

「どうして、新たな神々を作り上げたのか。どうして、神々はこんなところなんかに隠れているのか。──今、黒幕とされる子は」

「──誰になっているのか、だ」

 

 この肉体は確実に梓・ライラックのものだ。【死漸】の宿った魔法少女の肉体。

 じゃあ、【占幽】で俺に成り代わったはずのマッドチビは、どこにいる。元の身体に戻った? そんな非効率なことするか? そんな勿体ないことするか?

 だって、そもそもの話。

 俺にやらせなくたって──俺になって、自分であの世界の中で"役割の分割"をすればよかったんだ。

 それをしなかった理由は。

 

「アイツが神々を新しく作ったのァ言うこと聞く神々が欲しかったとかそんなとこだろう。なンでここの後ろに隠れてるかってな、別にどこでもよかったンだろう。時間さえ稼げりゃどこでもいいんだ。ただ、どォにかして隠れてる必要はあった。なンせ俺を害するンだ。俺を愛してくれてる神さん……夜の神に目ェ付けられることになる。その目から逃れるためには、地平にまで逃げるか、この天体に隠れるのがベストさ。難しい事じゃねェ」

「国はどこにあると思う?」

「亜空間かどっかだろう。それも難しい話じゃねェ。国民は怖がってるかもしれねェが、どォにかして巨大な亜空間ポケットを開けたら可能だ。……あるいは、レーテーがそう、か? あれも安藤さんの貰いものだしな。俺が付けてたのを取ったのはそういう理由と見た」

 

 俺にならなかった理由。 

 俺として事を運ばなかった理由。

 俺じゃダメだった理由は。

 

「……寿命はスペアに任せりゃいい。心は新たに作り得る。俺がいる限り、いくらでも隙はある。考えろ。マッドチビはマッドチビ先生みてェなポンコツとは違う。馬鹿なことも好きっぽいが、意味のない事はしない。その行動には必ず意味がある。たとえば」

 

 たとえば。

 ──宙の莽のアンデッドを全部俺の姿にしていた、のとか。

 単なる嫌がらせ。

 

 な、ワケがない。

 

「……あれが、たとえば。失敗作、だったとして」

 

 俺のクローンを作ろうとしていた、として。

 アズサではダメだった。違う魔法が宿った。それが故意であるのか偶然であるのかは知らねェけど、アイツはそれであるがゆえに世界の心として使用されていた。加え、俺が思うままに動かなかった時用のスペアにされようとしていた。

 だから、一部分から蘇生では不可能だと判断して。

 何度も、何度も、何度も何度も……実験したンじゃないか?

 失敗作は迷宮に放って。だってほら、あいつら【死漸】使ってきたじゃないか。体はアンデッドのそれだったけど、肉体に宿るはずの魔法を使ってきたじゃないか。

 

 だから。

 だから。

 

 じゃあ。

 

「……偽物は、俺、か?」

 

 スペア。

 いんやさ、違う。アズサはもう別人だ。【終焉】は寿命としても死としても使えない。

 俺である必要はあって。

 けど俺じゃァもったいなくて。

 

 だから、もう1つありゃ。全部解決だ、って。

 

「ハ」

 

 あァ。

 全部仮説の域を出ねェ。けど、それならわかるンだ。

 自分は俺の身体奪って、その体のクローン作って、あっちの世界に置いといて。

 クロムクラハをオーディンに渡したその時に──俺の精神がどこに行くかって言ったら、そりゃこっちの世界じゃなく、肉体のある方のあっちの世界に引っ張られる。

 

 俺は。

 俺は、クローンか。

 

 

 

「──だからなンだよ、ってな」

 

 クリスをSRの形に変えて、撃つ。 

 狙いなンか定めてねェ。金アンゲルの集合体。そこに向かって放たれた弾丸は、しかし金アンゲルの全てを避けていく。

 当たらない。

 だから。

 

「危ないじゃない。私は冥界の住民じゃないんだから、簡単に死んじゃうのよ?」

 

 だから──そいつに届く。

 銀の髪を揺らす、13歳くらいの少女。こちらを見下すよォな笑みを浮かべて、その隣には三柱の神を従えて。

 背後には──ピンクカチューシャの時と同じ、よくわからん材質の水晶っぽいのに入ったアズサを浮かべて。

 

 俺が、いた。

 俺の姿をした、マッドチビがいた。

 

「久しぶりだなァ。元気してたか?」

「ええ、おかげさまでね」

「オーディンはいいのかよ」

「死にはしないでしょう? それに、太陽の神を食らえるのなら御の字よ。あれほど強大になれば、それも可能でしょう?」

「ハハ、随分と舐め腐ってンなァ神を」

「ええ。だって、あんな欠陥世界しか作れない神だもの。見下しもするわ」

 

 あァ。

 あァ。

 ハハハハ。

 

 わかる。あっちが本物だってわかる。

 いいねェ。

 

 じゃァ今から、俺は。

 俺を殺さないといけないわけだ。ハハハ。

 

「それにしても、やっぱり貴女は膝を折らないのね。後ろのと違って」

「あン?」

 

 後ろ。

 ……あァ。どんだけ意気込んでも無理なモンは無理か。抵抗はしちゃいるが、尖り前髪も着物狐も……あれ?

 

「あら。貴女、神の威光に耐えられるの?」

「【透過】しているからね。圧力は通り抜けていくよ」

「……ふぅん? なんだ、二人っきりのダンスだと思ったのだけど、そうではないのね」

「ハハハハ。馬鹿が、二人っきりってンなら横の三人どォにかしろや。つか、ソテイラ。何黙々と付き従ってやがる」

「……」

「無駄よ。すでに意思なんてないわ」

「そォかい。それは、殺したってことで?」

「いいえ。封印しているだけ。この【死漸】って魔法、中々使い勝手が悪くてね。精神だけを殺す、というのには、もう少し使い慣れないと無理そうなのよ」

「ばァか、使い慣れる機会ァ訪れねェよ」

 

 クリスは拳銃の形態に。

 死なねェ死なねェと。死にたくねェ死にたくねェと。ずっとずっと──それだけァしたくねェと。

 避けに避けてた結果がここか。

 

 まさか、自分の体に銃向ける機会が来るとはなァ。

 

「それ、何かしら」

「さァな。お前が知らねェこと俺が知ってると思うか?」

「ええ、思うわ。だって貴女には、貴女を形成する経験が圧倒的に足りていない。貴女の記憶はすべて閲覧させてもらったけれど──その中に、貴女が貴女になるきっかけが1つもない。いいえ、正確にいうのなら、()()()()()()()()()()()()というべきかしら」

 

 あァ──笑みが深まって仕方がねェ。

 夜の宮の方から心配してそォな気配が伝わって来てる。

 それだけで十二分さ。嬉しいね。

 肉体が偽物でも、精神体を巣食われていても。

 

 俺は俺だって。

 何より神さんが認めてくれてる。

 

「キラキラツインテ。後ろの2人下がらせな。神の威光の届かねェとこで、金アンゲルの掃討しててくれ」

「1人でやるの?」

「あァさ。ま、1人になるかどうかはわからねェが──ハハ、ちょいと今の俺は"前"に近いよォでな。周りを気にできるほど余裕がねェ」

「うん。わかった。落ちてきたら拾ってあげるね」

「あァよ」

 

 冥界の魔力が纏わりついてくる。

 クロムクラハの方にも、目の前の俺にも行かずに──俺に、俺にだけ、俺を抱くように、冥界が心を向ける。

 

「……貴女を貴女足らしめるものは、何かしら」

「俺が俺である理由? ハハ、何思春期の中学生みてェなコト聞いてきやがる。決まってンだろ」

 

 いつか、終の因でも思ったことだ。

 俺は別に死地で笑うよォな奴じゃなかった。何かが変わったんだと。俺はやべェ状況で、こォも楽しくなっちまうよォな戦闘狂じゃなかったンだ。だから、"前"と"今"で──何が変わったのか。

 

 決まっている。

 

「俺には、愛してるヤツがいる。愛されてることじゃねェ。俺がソイツを愛してるから──俺は俺だ。ハハハ、ハハハ!! わかるか? わからねェか。何百年、何千年生きたって──1度も誰かを愛したこと無さそうなてめェにはわかんねェよな! ハハハハハハハ!」

 

 残念ながら、お嬢じゃない。 

 残念ながら、ポニテスリットでもない。

 残念ながら、着物狐でも、ない。

 

 俺は愛情を覚えた。

 恐らく。勘違いでなければ──"前"は愛されていたこともあったのだろう。若くして死んでしまった皆に。絵具髪や、アイツに。もしかしたら、愛されていたのかもしれない。それを確認する前に彼ら彼女らは命を落としてしまったけれど。

 だからこそ。

 だからこそ──ここで手に入れたものを、俺は手放さない。

 

「愛、ねぇ。そんなものを──貴女は初めから持っていた、と? それじゃあ、まるで」

「あァさ。俺には"前"の──生まれる前の記憶がある。前世さ。聞き覚え無いだろ? こっちの世界でも、あっちの世界でも、冥界でもないトコで生きてたのさ。ハハハ──聞かせるのは神さん以外じゃてめェが初めてだ。喜べよ。ケケ、お嬢が真っ先に聞きたがってたが、あァ、楽しくてついついしゃべっちまった」

「……別の、世界」

「ハハハ。あァ、決めた。そろそろな、被って面倒だと思ってたンだ。マッドチビじゃマッドチビ先生に被るし、シエナじゃガーゴイルの方に被る。お前の呼び名、面倒くせェ面倒くせェと思ってたが──今決めた。今、お前のあだ名を決めた」

 

 吐く息が黒くなる。銀の髪が輝きを増す。

 見えァしないが、多分眼球も黒くなって来てる。

 黒。黒。黒。

 冥界の色。夜の色。

 銀の髪だけは同じだ。ずっと変わらねェ。この身が偽物だろうと関係ない。ハハハ、ハハハハハ。

 

 謳え、謳えと──冥界の魔力が叫びたてる。

 

「今、この時から、てめェのあだ名は負け犬だ。ハハハ、だってそォだろ。お前ァ色んなことをしてきて、色んな策を講じてきて──結局何もできてねェ。結局誰にも勝ててねェ。お前の実験はその先のためのものだとして、だが全て阻まれる。俺に。アズサに。魔法少女に。魔物に。世界に!」

「……安い挑発ね。そ。まあそう呼びたいのなら好きにするといいわ」

「あァさ。それが俺でね。相手が拒否しても、気に入らなくても、勝手にあだ名つけて回るのさ。それでよ、なンで俺が相手にあだ名つけるか知ってっか?」

「勿論。死んだときに悲しくならないため、でしょう。貴女の記憶はすべて閲覧したのだから、それくらいわかるわ」

 

 全身。その肌さえも黒く染まっていく。

 今の俺の見た目ァ銀の髪した黒い魔人。そんな感じだろう。果たしてコイツがそれを見て何も思わねェのか、それとも俺なんぞ眼中にないのかは知らねェが。

 

 ハハハ。

 ここに紡ぐ。

 

「あァ。だから、仲間につけるあだ名は俺の自己防衛だが──敵に付けるあだ名は"必ず殺す"という宣言だと知れ」

 

 近づいて、その顔を、ぶん殴った。

 

 

えはか彼




2部のここまでの主な登場人物紹介
名前あだ名【魔法】等級
学園組AクラスA班アールレイデ様
フェリカ・アールレイデ金髪お嬢様【神光】SS
シェーリース背中メッシュ【神鳴】S
ユノン太腿忍者【光線】S
ミサキ・縁ポニテスリット【波動】S
学園組
リキュア・アールレイデ【転天】A
李・理央【嵐気】S
ティアゆるふわにゃんこ【光弾】B
遠征組突撃班ヴェネット隊
あるるららキラキラツインテ【透過】A
カネミツ尖り前髪【飛斬】A(SS)
遠征組観測班アルカナ隊
L・アルカナふわふわ鼠【作為】D(??)
防衛組防衛班エミリー隊
エミリー暴走繭【壊線】S
コーネリアス・ローグン冷静メイド【侵食】A
コーネリアス・リヴィル怒りしょんぼり【劇毒】A
防衛組防衛班キリバチ隊
キリバチ鬼教官【痛烈】A
群塔魔閣
フェイラン飛蘭【斬滓】
ミィワン愛王【爆塵】
シャオメイ小娘【水縄】
リュウイン劉韻【壁塞】
リンリン凛鈴【暗針】
ウーウェイ鳥遠【円閃】
創設者たち
ハイドレート紺碧ベルト【幽拐】SSS
モーゲン・真凛パッパラメガネ【槌憶】SSS
ペルチットびりびりタイツ【仙導】SSS
ビーファン脳筋娘【隠涜】SSS
グロア学園長殿【畏相】SSS
その他
ディミトラマッドチビ先生【鉱水】S
シエナ負け犬【占幽】SSS
ウィジ青バンダナ【喧槍】S
リジ赤スカーフ【静弱】S
ナリコ着物狐【傾刻】SS
アオン・ガフス【断巻】S(暫定)
リゾ・マータ【渡磁】B(暫定
レーテー【亜空】SSS(暫定)
フクン・ティザンふーちゃん【運勢】SS
安藤アニマ安藤さん【業焔】SS
プリメイラピンクカチューシャ【帰述】SS
ジャハンナムニヤニヤ丸眼鏡
名前呼び名・姿区分種別
梓・ライラック口悪ちび夜の使徒死者
ルルゥ・ガル寂しんぼ風の使徒オリジン
ソテイラ夜の使徒オリジン
セイタス黒いクジラ魔物ディフォリー
ラハブ白いクジラ魔物ギガント
カンコウミチサネ魔物オリジン
ベルウェークドラゴン()魔物オリジン
ブゥリドラゴン迷宮の魔物オリジン
グクマズドラゴン魔物オリジン
クトウ犬頭の海蛇魔物オリジン
マフク夜叉魔物オリジン
バツの3位天女魔物オリジン
スーグ白黒の虎魔物オリジン
シュジ鮮やかな虎魔物オリジン
ティオイジ針虎魔物オリジン
ジャカン九尾の狐魔物オリジン
ツイウ片腕の戦士魔物魔法少女
ボーグル赤い骸骨魔物魔法
フルオブズヴィトニー巨大な銀狼魔物オリジン
ジョームンガンダー巨大な白蛇魔物オリジン
ヨウキ九尾の狐魔物オリジン
シエナメイドさん魔物人造オリジン
其夢盗黒髪の女性夜の神オリジン
外辺邪黒髪の女性夜の神オリジン
黒無暗刃銀髪の少女戦いと死と太陽の神オリジン
鳥有為預銀髪の女性夜の神オリジン
棒動作銀髪の少女古き神オリジン
初殊図緑髪の女性風の神オリジン
金髪の女性太陽の神オリジン
須留途深紅の巨人火の神
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