遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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十六、裁定編
103.藍夢阿利取琉時鰓巣.


 始の点──まァ、久方ぶりに来る場所だ。

 ピンクカチューシャが作ったつー迷宮で、そォ考えるとアイツの魔法もまたよくわからんなァとか思ったり思わなかったり。

 どっかで平和に暮らしててくれると嬉しいンだが──まァ、アイツの魔法もかなり強力だからな。内訳こそ未だ明かされてねェものの、裁定対象になってるって可能性はある。そン時は大人しく渡してもらいたいところだ。

 

 さて、そんな始の点だが、今は半壊状態にある。

 底部にあった輝きの園が持っていかれちまってるからな。その外面を煌めく透明な壁もバリバリだし、頂点近い場所にある心臓っぽいのも心なしか弱っているよォに見える。

 

 守るべきモンがなくなった今、あっこにいるとされる魔法少女はパッパラメガネとビリビリタイツだけ。内ビリビリタイツは太陽の使徒に覚醒しそこなったとかで不在。

 EDENからの派遣人員がいなければ、マジのねらい目ってワケだ。

 

 そんな始の点を、輝きの園があったとされるクレーターを歩く。

 何も隠すことなく隠れることなく、慣れない視点とチラつく金を揺らしながら、歩く。

 

 近くにL・アルカナはいない。どーせいても戦えねェらしィんで、まァだったらどっか隠れててくれた方が楽だ。守らなくていい。アイツは守られたがってねェんだけど、俺がそれは嫌だからな。

 

 パッパラメガネ。

 モーゲン・真凛の魔法【槌憶】は、対象の記憶を奪う、あるいは封印することのできる魔法だ。たァいえその施術の際にァ紺碧ベルトみてェな魔力の塊を相手にぶつける必要があるンで、そォいうのに見慣れてりゃ見える。

 そォいうの殺せるなら防げる。

 だからSSS級つってもそこまで大したことはない。闇討ちや内紛起こさせることにおいてァ超つえーってだけだ。

 ぶっちゃけ創設者たちの中で気をつけなきゃいけないのは脳筋娘とビリビリタイツくらいで、他の2人ァ特に問題ないと思ってる。

 

「……ハ」

「何を笑っている。早く探せ。魔力を探知すればわかるだろう」

「うるせェな。人が懐古の感傷に浸ってる時くらい静かにしろ」

「貴様に新たな肉体をやったのは貴様に感傷を覚えさせるためではない。オレの娘を殺させるためだ。わかったなら早く動け」

「あァへいへい」

 

 ま、その通りだ。

 なんのために不正みてェなことして世界に降り立ったのかって話さ。ホントは命ってな1回こっきりのはずなのに、俺ァその戒律を破ったンだ。何回目だかな。だったらまァ、やるべきことくらいはやんねェと。

 

 で、魔力だっけ?

 いーよ、それァ面倒だ。

 

「おい、コソコソ隠れてねェで出てきな! 太陽の使徒が来たぜ!」

「……」

「ハ」

 

 あァ──なんだってンだ。

 ハハハ。

 俺ァホントに運が良い。

 

「──異邦の魔法少女とお見受けしましたわ。この地にどのような用があるのか、お答えくださいまし」

「ヒヒ、お嬢が初手とは参ったね……って、なンだよ、それも制限かかんのかよ」

「それは貴様の存在証明に繋がる言葉だ」

「へいへい」

「お答えください。できないというのなら、無力化いたしますわ」

 

 フェリカ・アールレイデ。

 いんやさ、全く全く。

 なんでこんなトコにいやがるのか。ここには守るべきモンなんか何もねェだろォに。大事な仲間もいねェ、いるのァ頭パッパラパーな創設者だけさ。

 それが。

 それが、俺が来るタイミングで、ピンポイントに?

 

 運命運命運命運命!

 ハハハ。

 

クリス……おいおいうぜェな。何がダメなのか後で紙にでも書いといてくれ」

「アレと貴様を結び付けて考えられる者がいる場では出せぬ」

「何者か、お答えいただけないようですわね」

「零。武器寄こせよ。クリスに代わる武器だ」

「良いだろう。貴様が持つには荷が勝るが──ヴァスと、その名を呼べ」

武存主(ヴァス)

 

 陽光から一条。

 差し込んだ光の1本が──杖になる。見た目粗い陶磁製の杖。黒の身に、金色のラインの入った、どっかクリスに似たデザインのソレ。

 

 ハハハ、無茶言いやがる。

 今まで銃と剣で戦ってきた俺に、いきなり棒術ってか。知るかよ棒術の戦い方なンざ。

 

 だが、良い。それでも良い。

 

「一瞬ですのよ」

「ヒヒ──狙いが丸わかりなンだわ。お嬢……あァうぜェな。アンタ、ちょいとまっすぐすぎるよ。そんなんじゃ──簡単が過ぎる」

「そのままお言葉をお返しいたしますわ」

 

 その身を掴もうとした。

 剣を棒で防いだから、魔法少女の衣装を掴んで魔法を使おうとして、けれどいつの間にか背後にいた彼女に笑みを深める。

 そうだ。それでいいぜ、お嬢。アンタは俺にとっても光なんだ。こんなトコでコケてもらっちゃァ困る。

 

 背後から切りかからんとするお嬢。それを止めるのは、またヴァスだ。左手に持つそれの上部を右掌底で強く弾き、杖の石突をお嬢の方へ向ける。

 避けた音がした。だからそのまま上体を前に倒し、右手で杖の上部を握る。居合する直前みてェなカッコになったら、いんやさまだまだ体を倒す。杖の上部を地面に、それを基点に前転。隙ありとばかりに斬りかかってくるお嬢の顔面に向かって蹴りを繰り出せば、それも避けられる。

 

 それそれ。

 ヒットアンドアウェイ──ヒットできてねェが、それができるから【神速】、あるいは【神光】って奴は強いんだ。

 ハハハハ。

 

「よォ、アンタ人に名を聞くくせに名乗りもしねェのか」

「──それは、失礼いたしましたわ。私はフェリカ・アールレイデ。遥か遠方にある魔法少女組合EDENがSS級魔法少女。これでよろしいでしょうか?」

「問題ねェ」

「ならば、貴女のお名前をお聞かせ願えますでしょうか。所属と目的も」

「太陽の使徒メイアート。所属はまァ、太陽の神直属の部下ってトコかね。目的は魔法の裁定。魔法少女から魔法と魔力を奪うのがお仕事さ」

「──なるほど、貴女が」

「あン?」

 

 なんだその反応。

 まるで──俺が来ることはわかっていた、みてェな。

 ……おいおい、ふーちゃん、また、じゃねェだろうな? また──クソみてェな予言残してねェだろうなァオイ。

 

「メイアートさん」

「なんだ、お喋りか? ケッ、悠長だねェ」

「いえ──貴女の、貴女方の目論見は失敗に終わります、と。そう告げたかったのですわ」

 

 ──ヴァスを思い切り地面に突いて、体を地面から弾け!

 ──そのまま飛行魔法と身体強化を併用しつつ、始の点の側面を駆け上がれ!

 

「ッ!」

「外した──ッ!?」

「チッ、気付かれたか!」

 

 直感に従う。これは太陽の言葉じゃなく、俺の直感だ。

 これってな【即死】や【死漸】を持っているが故の死の気配だと思ってたンだが、違うのかね。今は持ってねェんだ、発動しねェんじゃねェかと思ってたけど。

 

 しかし──ハハハハ。

 すげェな。誰だよ漏らした奴。

 

 始の点にはパッパラメガネしかいないって?

 ケケ──オイオイ、いっぱいいるじゃねェか。しかも。

 

「SS級3人か。そりゃまァ骨が折れる──おっと」

 

 飛んできた光条を避けながら、始の点の方を目指す。直感は側面を駆け上がれって言ってる。そりゃそォだろう。

 だって、相手が相手だ。

 

 SS級【神光】、フェリカ・アールレイデ。SS級【凍融】、ヴェネット。SS級【青陽】、エルバハ・イドラ。

 正直初手で当たる相手じゃねェ。ま、それ言ったらジャカンも初手で当たる相手じゃなかったが。

 遠隔SS級魔法3種。その対処をすんなら、地の利でも取らなきゃやってられねェ。つか無理なんじゃね? 勝てるか? クロムクラハの俺でも無理じゃね、コレ。

 

「逃げるってな選択肢は?」

「構わない。貴様に今死なれては面倒だ。次の使徒を見つけるのには時間がかかる」

「そりゃ甘美な返答だ。ちなみによ、ここで逃げたらどォなると思う?」

「自分で理解していることを聞くな。──裁定者の出現は全魔法少女に伝わり、警戒は強くなるだろうな」

 

 ──【凍融】の対処法。要は視界内から外れりゃいい。あらゆるモンには使い時がある。持ってるだろ、大量に!

 

「使える時に使わねェモンはゴミってな言うがな、使えるときに使えたらゴミじゃねェのよ!」

 

 取り出す──それは、亜空間ポケットに収められた、土、土、土。

 大量の土だ。

 温度変化なしに対象を凍らせたり融かしたりする魔法、【凍融】。これも魔法の中じゃかなり異質だ。それの対処法はまァ、冷静メイドから十二分に聞いてるからな。

 

「35秒!」

 

 灼熱。雲の全てを吹き飛ばす青き太陽。

 背後の始の点など関係ないとばかりに放たれたそれは、確実に俺を焼き潰すコースだ。

 

「あァさ、だが術者を守るヤツがいねェぞ、魔法少女!」

 

 だから、始の点の面から垂直に飛ぶ。杖での突きも加わった加速から飛行魔法に切り替えて、今まさに【青陽】を放ったばかりのエルバハ・イドラに──抱き着いた。

 容赦はするな。考えるな。

 俺は裁定者であるのなら──そこに情など必要ない。

 

「【裁、」

「アールレイデ! アタシごと貫きな!」

「承知!」

 

 ──ヴァスでガードする。

 抱き着いたエルバハ・イドラの身体。それを串刺しにするよォに伸びてきた細剣は、確実に俺の頭を貫く軌道だった。

 それはもちろん、エルバハ・イドラに対しても致命傷で。

 

「先に帰る……伝達は任せろ。存分にやりな、若いの!」

「ええ、仕留め損なうことはありませんわ」

「【凍融】」

 

 土でガードする。

 ……ちょっと間に合わなかったか。毛先がドロっと融けてる。はン、怖い魔法だことで。

 

 あァ。

 ま、そうだよな。魔法少女なンだ。

 奪われる可能性があるンなら、殺しちまった方が安全だ。

 

 ……ふゥ。

 

「零、効率の良い話がある。まずァ蘇生槽を全部壊すべきだと思うンだ。じゃねェと、今みてェに奪う前に死なれる」

「良い判断だ。それで、オレに助力を乞うのか?」

「たりめェだろ。俺ァ今アンタの使徒だぞ。信者くらい助けろよ、神」

「信者を名乗るのならその生意気な態度を改めろ。──だが、良い。ヴァスを投げろ。太陽の光をみせてやる」

 

 言われた通りに放る。

 瞬間。

 

 ──凄まじいまでの光が始の点一帯を包み込んだ。

 

 

 

 

 

「……逃げましたのね」

「ああ、そうみたいだ。それにしても、本当にここに現れるとは……。予め真凛様に避難しておいてもらってよかったね」

「ええ。ですが、油断はできませんの。私の突きを何度も防いだあの手腕。太陽の使徒メイアート。その所業、目的も含めて、必ず仕留めなければならない存在ですわ」

「うん。──じゃあ、私達も帰ろうか?」

「はい。ああ、死に戻る必要はありませんの。私が運びます。最高速で行きますので──気を、失われぬよう」

 

 ……。

 ……。

 

 ふゥ。

 

「よいしょっと」

「貴様、今どこにいたのだ」

「あン? 亜空間ポケットの中だけど」

「……その技術、今後使う時は一言寄越せ。追跡が難しくなる」

「あァじゃァてめェのお小言がうるさくなったら亜空間ポケットに逃げりゃいいのね」

 

 ヴァスは……ないか。

 

「ヴァス。おお、クリスと同じく取り出せンのな。……今は言えるのか。なァこの縛り面倒なンだけど」

「慣れろ。どの道貴様が自らの体を取り戻すまでの契約だ。その程度の忍耐もないのか」

「あァへいへい、俺が悪ゥござんした。……しっかし、なんだってんだ。さっきの会話聞くに、俺がここに現れるコトばれてたみてェだけど」

「運命に干渉する魔法はすでに回収済みのはずだが」

「【運誓】は?」

「……あれは、貴様が心を殺しただろう」

「そりゃそーだけど、肉体は残ってンだ。なんらかの方法で封印が解かれてそん中に魔物でも入ってたりしたら、使えちまうンじゃねェのか?」

「可能性はある」

 

 となれば、あァさクソ面倒だ。

 ふーちゃんの魔法はマジで厄介だからな。文句なしのSSSなんじゃねェかってくらい。全未来の予知ができるってワケじゃねェとか言ってたが、ちょっとくらいなら他人の運勢も操れるンだっけ?

 ……こえーなァ、そりゃ。

 

「しっかし、お嬢も班長もザルだな。あの光に紛れて逃げたンなら周辺域にいるンじゃねェかって探すくらいはしてもいいと思うンだが」

「貴様と違い、あれらは魔力の感知ができる。範囲内にいないと判断したのだろうな」

「へェ、亜空間ポケットって魔力まで断てるのか」

 

 いんやさ、だったらマジでなンで防御に使わねェのかますますわからんくなってきた。

 便利だろ、コレ。しかも太陽に捕捉されないとか。

 ……ン、てこたァこれ魔法じゃねェのか? いやでも魔力で開くしな。

 

「過去、【亜空】という魔法を与えたことはあったが、そのように誰もが使えるものではなかった」

「へェ。んじゃソイツが改良したのかね」

「魔法を? ──神より賜りしモノに手を加えるとは、冒涜も良い所だな」

「ン、結構みんなやってるだろ。使い方変えるくらい、そォ珍しいことじゃねェ」

「自らの魔法を誰の魔力でも再現できるようにすることを"使い方を変える"で済ませるか。ならば貴様の【即死】、あるいは【死漸】も誰しもが使えるよう改造しろ。そうすれば貴様に頼る必要はなくなる」

 

 ……ふむ。

 そォ言われると、すんごい難しいことに聞こえてきた。

 いや、いや。確かにそォだな。

 自分の魔法を他人に与える。改造、改良して、他の奴が使えるよォにする。

 

 無理だろ。

 

「ま、アンタにも予想できねェコトってなあるって話だな」

「それは当然だ。オレが全知全能であれば、初めから貴様になど使命を与えていない」

「ごもっともで」

「それより、効率の良い手段を取ったと言いたいのならば、急げ。蘇生槽含め、あのEDENなる場の守りが固くなる一方だぞ」

「あァへいへい。今行きますよっと」

 

 浮かび上がる。

 魔力量があるからな。飛行魔法を使える。

 

 L・アルカナは……ああ、ちょいと離れたトコ飛んでんな。

 あいつなー。魔法自体はまァD級らしいからいいんだけど、人間じゃねェからなー。戦えンじゃねェかってちったァ思うンだけどなー。

 

「……あ、それよか、ちょいと寄りてェ場所がある。いいか? 返事は聞いてねェが」

「勝手にしろ。必要なことであれば問題はない」

「そォかい」

 

 んじゃ。

 ちょっくら──寄っていきますかね。

 

 ──色々な因縁の地、クルメーナへ。

 ブゥリには、まァいつかまた。

 

 

えはか彼

 

 

 さて、クルメーナである。

 今は無人──人っ子どころかガーゴイルっ子1人いない。ガーゴイルっ子とは。

 

 ただ、今にも動き出しそォな彫像がいくつかあるのが怖い所……ってな。

 

「ここは……」

「造物島クルメーナ。人口の島でな、【鉱水】っつー魔法少女が造り上げたンだ」

「……なるほど、地脈吸入点か」

「あァさ」

 

 この屋敷から地下に潜ってくと、どんどん島の中心点を離れてあの変な空洞に着く。が、まァ今は海水で埋まってるだろう。あるいはマッドチビ先生が閉じたかもしんねェけど。

 

 それよか、ずっとずっと気になってたことがあったンだ。

 

「直上と、直下。過激無口が言ってた強い気配。……今なら、わかるなァ」

「確かに何かいるな。風の気配を感じる」

「あァ、魔物……それもオリジン種だ。上のァ目視できねェから意味わからんが、下のァマジの地下だろう。んで多分そこにマッドチビ先生の蘇生槽もある」

「それを壊しに来たのか」

「あァさ」

 

 それと、もう1つ。

 恐竜島で、マッドチビ先生は「蘇生槽との経路が繋がらなくなった」って言ってた。

 でも、蘇生槽と経路を繋ぐ、っつーのは魔法少女の因子であるコアを蘇生槽に入れる事だって俺ァ学んだ。群塔魔閣のその製法が間違ってねェんなら、マッドチビ先生の言い分はおかしいってことになる。

 だって、あの人の言うことが正しいンなら──あの人の核はどっかに持ち去られたか、あるいはここにずっとあるはずだ。

 

 それをマッドチビ先生が取り返しにいかねェってなあり得ねェ。波ヘアピンが泣いて集める程大事なモンだ。魔法少女の核ってな、魔法少女にとっての心臓なンだろう。

 正直な話をすると、俺……今のメイアートではなく、梓・ライラックの核がどこにあるのか、ってなわからん。登録をした、という記憶はないけど、しなかったら死んだときに戻れない。だから魔法少女になってEDENに上がった直後にでもしそォなモンなんだけど、胸開いて核取り出す、なンてことした覚えがない。

 

 あるいは群塔魔閣での製法が間違っていたか、だが。

 間違っていた──あるいは別の方法があったか、か。

 

「さて入口入口……っと」

 

 屋敷の中じゃねェ気がする。

 あるとしたら、ホントに突飛なトコ。蘇生槽なンて大事なモンへ続く入口だ。誰も考えつかないよォな、変な所に──。

 

「貴様、余程魔力感知が下手と見る。一瞬でわかるだろう。その場にいないオレにわかって、何故貴様にわからんのか理解に苦しむぞ」

「うるせェな。死の気配だの命の気配だのにァ慣れたが、魔力の気配はまだ練習中だったンだよ。つか精神体になってた頃は息をするよォにできたから練習もしてなかったしな」

「怠慢、怠惰。呆れるな。貴様、それでよく"死にたくない"などとほざくものだ。死にたくないのなら死なぬよう感知を最大限に鍛えろ」

「言い返す言葉無いからそろそろやめてくんねェ?」

 

 その通りなンだよな。

 尖り前髪にも言われたことだけど、俺ァ魔法が強くて体が弱いンだから、避けて避けて避けてって知覚の方をバリバリ鍛えるべきなンだよ。それをまァ、クリスやらなにやらに頼って成長を疎かにして……って、今ァいいンだよンなことは。

 

「で、どこだよそれ。言えよ時間無ェんだから」

「貴様の眼前にある彫像の2つ右にある彫像がわかるか」

「……あァ、なンか鳥みてェなのコレか」

「形は知らん。オレには見えん。そこから島の外に向かって北へ直線的に進め」

「……島の外に出ちまうけど」

「入口は海中だろうな。島の側面に、魔力がある。……貴様、わかっているのか? オレは冥界から貴様の位置を把握して、貴様の周囲にある魔力反応を見る、という非常に細かい作業をしている。この冥界から1本の毛髪を見つけるが如き作業を前に、何故貴様が先に入口を見つけられん。場所は示した。早く行け」

 

 そンなアナログな方法でやってるんだ。

 頭に住み着いてるとかじゃねェんだ。この頭のあったけェの、GPS的なソレなンだな。

 

 魔力感知、ねェ。

 ここさ、魔力吸入点だからさ、周囲の魔力がバカでけェせいでよくわかんねェんだよなー。

 

「もういい。ヴァスを投げろ。場所を示す」

「おーそりゃ良い。初めからやってくれ」

「貴様……。いや、良い。叱るだけ無駄だ」

「あァさそれも良い判断だ」

 

 ヴァスを投げる。 

 陶磁器の杖はぺかーと光りながら海中に入っていく。それをおっかっけて……え、結構深いな。

 息をもう一度吸いなおして、身体強化。

 一気に潜水して──ヴァスの指し示す場所にたどり着いた。

 

 ……何もない、気がするが。

 

「砂面に魔力を込めろ。隠し扉の類だろう」

 

 へいへい。

 砂に腕を突っ込んで、魔力を流す。

 いやァ、肺機能の身体強化はいいね。自分の思ってる100倍くらい息が続く。

 

「何か、魔力を感じる。変化はないか?」

 

 今変化中。

 ザラザラと砂が落ちる。ガリガリと金音が響く。

 どォいう仕組みなのかは知らねェが、さっきのさっきまで砂面だったそこが大きく穿たれ、窪みができた。

 ちょいと深度を上げる。

 すると、その窪み、その天井にハッチみてェなのがあるじゃねェかと。

 鍵の類は……無さそうだな。よし。

 

「おい、返事をしろ。そのあたりに入口があるはずだ。惚けていないで探せ」

「っぷはァ、るっせェって。もう入ったよ」

「冥界にいた時と同じに思うな。オレは状況が見えていない。貴様は逐一報告する義務がある。オレを頼るならな」

「頼ってねェだろ。アンタが勝手に痺れを切らしたンだ」

「……そうか。ならばここから先は勝手に進め。何を検知しようともオレは何も言わん」

 

 ありゃ、拗ねちまったか。

 ま、脳裏でガンガンに響く声が無くなるのァ重畳。もうちょい音量調節してほしい。テレビのボリューム36くらいの大きさで聞こえてンだよ。どんだけうるさいかって話。選挙カーかよ。

 

「っと……こりゃ、また」

 

 ──そこは、地下通路、という名に相応しい空間だった。

 まず石造りじゃねェ。鉄の通路だ。明かりはない。が、ヴァスがほんのり光ってるンで明かりにはなる。まァ魔法少女の目は真っ暗でも結構見えたりするンだけど。

 で、その通路は南東へ通じていて、成程確かに島の中心へ向かっている。

 1歩。また1歩と進んでいく。

 魔力感知は相変わらず無理だ。地脈吸入点が近づいているせいで、その滝のよォな魔力に掻き消されちまう。罠の類があってもわからねェ。慎重に進んで、なンかあったら飛び退く準備をしておかねェと。

 

「貴様、オレを苛立たせる天才か? そこに貴様を待ち構える装置の類はない。最奥の風の気配以外は何もない。そも、考えろ。そこにあるのが蘇生槽であるというのなら、それを使う魔法少女が自身の這い出る道に罠を仕掛けるわけがないだろう」

「何も言わねェんじゃねェのかよ。堪え性無ェなァ」

「こちらから見て何もない場所をジリジリと進む愚かな使徒を見てオレは深い悲しみを覚えている」

 

 俺は深い苛立ちを覚えてるよ。

 ……はいはい、なんもないのね。じゃあ気楽にいくけど、なンかあったらブチ怒るからな覚えとけよクソ太陽。

 

「つか、この魔力吸入点の中でよくンなもんわかるな。これはマジな話、吸入魔力が多すぎて周囲の感知ができねェんだわ」

「……成程。貴様、魔力の種別を知らないのか。いや、冥界の魔力と己の魔力の違いくらいはわかるだろう?」

「ん、あァ。まァよく使うしな」

「同じだ。冥界の魔力が始の点によって濾過されたものが魔力吸入点へ入る魔力。ゆえに貴様にとっては親しみのある魔力であるはずだ。その肉体にとっては違うだろうが、貴様の……アンディスガル、と言ったか。夜の使徒である貴様には馴染みのある魔力。それが吸入されている魔力になる」

「へェ。あァ、確かに」

 

 確かに、なンだ。色に見覚えあるっていうか。

 ほかの色も混ざっちゃいるが、どっかどす黒さが混じってる。気がする。

 

「だが、オレの使徒の体に宿る魔力や風の使徒の体に宿る魔力は一度恵理須を通った魔力だ。ゆえに、純度が低い。様々な物質、様々な生物を通った魔力は濾過された冥界の魔力より多くの不純物を持っている。貴様にもし魔力を色、あるいは音で捉える力があるのならば、それを基準に聞き分けてみるといい」

 

 ……なンだよ。

 いきなり面倒見良いっつか。ちゃんと教えてくれるじゃねェか。

 

 しかもちょっとわかりやすいじゃねェか。聞きながら試してわかったよ。確かに周囲の莫大な魔力と、俺の持ってる魔力には差がある。盛り上がる系の錯視見てるみてェでちょっと気持ち悪いンだけど、確かにわかる。

 ……なるほどなァ。

 こういう、なンだ。実践経験だけじゃなく、座学も足りてねェか。隔離塔にいる時にそォいうのもっと勉強しておくべきだったなァ。あンだけ時間あったンだし。まァ一日の中で起きてられる時間なンてほとんどなかったンだけど。

 

「理解したか?」

「あァ。わかりやすかった。ありがとう」

「……貴様、礼が言えたのか」

「言えるよ。どんだけ気に入らねェ奴でも、良い事言ってくれたら礼はする。アンタのやり方は嫌いだけどな、アンタが俺の生存確率を上げてくれてるってンなら感謝もしようさ」

「ふん、貴様に好まれずとも良い。理解したのなら早く行け。蘇生槽を壊すのだろう?」

「あァさ」

 

 進む。

 一本道。突き当りは結構すぐで。

 そこから──真下に向かって、穴。

 

 感じる。

 魔物がいる。蘇生槽らしき魔力の周囲に、魔物がいる。

 

 殺せるのか、俺。

 食べるわけでもねェ魔物を。

 

「風の使徒は殺しても命が失われるわけではないだろう。それは魔法少女にも言えることだが。輪廻の車輪に戻るだけだ。気にすることはない」

「それを気にして生きてきたンだよ俺は」

「そうか。無駄なことをしてきたな」

 

 あーやっぱり嫌いですコイツ~~~~。

  

 ふゥ。

 

「零、1つ質問がある」

「気安くオレの名を呼ぶなと言っている。なんだ」

「魔物の肉ってな、魔法少女が食べてなンか起きるか。デメリットはどォでもいい。何か、益はあるか」

「単純に魔力が増えるだろうな。なんだ、知らないわけでもないだろう。魔法少女と魔物はほぼ同一の存在だ。因子以外での違いがあるとすれば、俺が魔法を与えたか風に浚われたか、くらいだ。ゆえに、魔物を食らえば魔力が増える。魔物が魔物を食らって同じことが起きるように、だ。ただし、蘇生したが最後、糧となった魔物はすべて輪廻の車輪に帰る」

「それは──俺が死なねェ限り、ソイツを輪廻の呪縛から外してやれるってことか?」

「言い方を変えればそうなるな。だが貴様の命は仮初のもの。貴様の肉体が戻ればその体は死ぬ。その時点でその肉体を欲す何者かが現れたのなら話は別だが、その肉体に宿る魔法は取り上げるつもりだ」

 

 ……それは、知らなかった。

 魔物を輪廻の呪縛から解放できる。……そうか。

 それは、メリットだ。

 

 それは──殺す理由に足る。

 

「んじゃ、行くか。寄り道だが──太陽の使徒メイアート。蘇生槽の破壊及びその守護者の討滅を開始する」

 

 まずは対話でも試みるかね。

 

 

えはか彼

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