遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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106."楼瑠院手愚礼紫遠".

「上出来なのだ」

 

 EDEN隔離塔地下──そこに数人の魔法少女らがいた。

 少し前、【鉱水】によって作られたロックスライムによって破壊しつくされたEDENは現在復興中、ということもない。既に太陽の使徒メイアートがEDENから退去しているのは確認済みなので、兼ねてからの予定通り、元国のあった場所へと拠点を移す計画に本格移行した次第だ。

 よって今EDENにいるのは極僅かな面々……太陽の使徒について"本当の"情報共有が為されていた者達だけとなる。

 その極僅かの中でもさらに一握り。

 世界の真実──その一端を知る者達が、ここに集っている。

 

 この場において一番目立つのは、一番偉そうにしているのは、なんといっても全身を桃色と白色でまとめ上げたフリルの多いミニドレスのような衣装を着た少女、プリメイラだろう。彼女は胸を張り、コルクボードに貼り付けた紙類を指差しながら、さらにこう続ける。

 

「計画の第一段階は無事終了したのだ。太陽の使徒メイアートに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()──被害は最小限で済み、災害は去った。これ以上ない戦果なのだ」

「プリメイラ。ダメだよ、そんなことを言っては。計画を聞かされていなかった子達は心を痛めている。特にそこの……計画を知っていた上で黙っていて、さらには見殺す結果になってしまった彼女の目を見てごらん」

「うっ、今にも殺されそうなのだ……!?」

「──いえ。申し訳ありません。問題ありません。作戦に私怨を挟むつもりはありません」

「作戦外だったら挟むのだ!?」

「はい」

「ひぃ」

 

 掌に爪が食い込むほど──血を流すほどの怒りは、しかし発露されることはない。

 コーネリアス・ローグン。エミリーに仕えるメイドであると同時、エミリーが魔法を奪われる際にその身を守りに行かなかった、真実を知る者の1人。

 エミリーは防衛組だ。防衛組防衛班エミリー隊。本来はローグンもその姉リヴィルも彼女に付き添っていなければいけなかったけれど、()()()()()()()()()()という作戦方針から、アクシデントにより分たれる演技が必要になった。

 コーネリアス姉妹の魔法は強すぎる。太陽の使徒メイアートが【隠涜】を奪う前に諦めて撤退してしまえば、様々な計画が台無しになる。

 だから、強すぎる魔法少女は当てない。それが計画の第一方針。たとえエミリーの魔法【壊線】がSS級魔法に認定されていようと、対個人において部類の強さを発揮するというわけではない。ゆえの人選。

 敬愛し忠節を誓う女性が()()()に使われたのだということに憤りを覚えないわけではないが、同時に今何が必要なのかも理解している。

 

 だから、ローグンは耐えた。

 傍から見て、耐えきれているかと問われたら──否、と首を振られるかもしれないが。

 

「でも、本当に良かったの? 元使用者である私が言うのもなんだけど、【隠涜】は本当に厄介な魔法よ。それを奪わせる、なんて……」

「ビーファン、何度説明させるのー? ハイドレートの読み通り、ちゃんと帰ってこれたんだから、そろそろ信じても良いと思うよー」

「それは、そう、だけど」

 

 ビーファン。

 創設者が1人、元【隠涜】の魔法少女。

 メイアートに魔法を【裁断】され、魔法少女ではなくなった──人間に戻った少女。その顔に悲痛なものやショックを受けているような色はない。ただ。

 

「まぁビーファンが【隠涜】らしい性格か、と言われたら難しい所があるからね。君が疑ってしまうのは無理もないことだ。でも、思い出してみてほしい。昔々のその昔。私達に出会う前の君は、割とこそこそ隠れている引っ込み思案な子だっただろう?」

「……それは、否定しないけど」

「そういうことさ。魔法は魔法少女の生き様を表す。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ゆえに【隠涜】は何をしてでも奪わせるべきだった。あれさえ宿していれば、太陽の使徒メイアートの行動力を鎮静できる。

 被害を消すことはできない。太陽の使徒は必ずやってくる。ならば奪われる魔法を調整し、その動きをこちら側でコントロールする──それが計画の第一段階。

 

「まぁ、ディミトラの【鉱水】が奪われていたのは予想外だったけれどね。防衛組の証言通りなら、【喧槍】も、か」

「ディミトラ様達はクルメーナへもう1人のディミトラ様を探しに行っていました。その道中で狩られたとみるべきでしょう。……ただ、疑問も残ります」

「なぜメイアートがクルメーナ近辺にいたか、なのだ?」

「はい。何用があったと見ていますか?」

「それは多分、メイアートがだから……え? あれ?」

 

 その正体を口に出そうとしたビーファンが、音を発せなくなった口に驚いた顔を見せる。

 何度その名を口にしようとしても声が出ない。訝しげにビーファンを見つめる者がほとんどの中、プリメイラとハイドレート、そしてつまらなさそうに成り行きを見ていたゲヘナが口を開く。

 

「それは"検閲"だな。貴様が今口にしようとした言葉は太陽……レイの奴にとって余程不都合な言葉なのだろう。貴様がすでに魔法少女ではないとしても、この世界にはレイの力が多く混じっている。この世界にある限りそれが外れることはない。諦めろ」

「そういえばビーファンはメイアートと直接話したのだ? アズサは頑なに口を開いてくれなかったのだ」

「う、うん。話したけど、だから今それを」

「その内容が太陽にとって不都合、か。少し気になる所だけど……プリメイラ、今はとりあえず計画の第二段階の事を話そう。時間はあまり残されていないんだろう?」

「あ、そうだったのだ。じゃあ話すのだ。みんな、準備は良いのだ?」

 

 ジャハンナムに諭されようとも何度も何度もその言葉を口にせんとするビーファンを後目に、プリメイラは新たな説明を始める。

 

「第二段階。それは太陽の使徒メイアートに拠点を作らせる作戦──」

 

 

えはか彼

 

 

「拠点? いや要らねェだろ。亜空間ポケットに入りゃいいじゃねェか。つか、魔法少女なンだ。腹も減らねェ喉も渇かねェ、そんな存在に拠点なんざ必要あるかよ」

「貴様、馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、そこまでか。良いか、拠点とは衣食住を保証する場所、ではない。現状では勝てない敵と遭遇した、あるいは損傷を負った等の際に逃げ込んで安全であれる場所を指す。貴様がそこまで強くないということはクルメーナという島で実感しただろう。そうでなくとも、オレの助言無ければ魔法少女の相手も覚束ないことばかりだと。ならば"そこにさえ帰れば態勢を立て直すことができる"という場所は必要だ。貴様が何者も寄せ付けぬ程に強いのならば話は違うのだがな」

「……うわ必要に感じてきた自分がうぜェ」

「必要だ。貴様は弱いのだから」

 

 拠点。

 俺にとってはEDEN、あるいはLOGOS。もしくは夜の宮か。

 確かに帰ることのできる場所がある、ってな安心感が違う。そこなら休息できる。そこなら気を張らなくて済む。そォいう場所があるに越したこたねェ。

 

 だが、どォやって作る。

 

「"役割の統合"を行え」

「あン? どォいう意味だ」

「何を言っている? 貴様が裁定した魔法があるだろう。それらの統合を行えと言っている」

「……」

 

 ……。

 ふむ。もしかして、【裁断】するだけじゃダメなのか?

 そういえば確かに現状【鉱水】は【鉱水】として、【壊線】は【壊線】として使っている。これじゃあ"全役割の統合"たァ違う、ような。

 

「まさかやり方がわからない、などとふざけたことを抜かさないだろうな」

「まさか。やり方わかんねェから教えてくんねェ?」

「……」

 

 おお、コイツ黙れるンだな。

 いんやさ、確かに俺は【即死】を"役割の統合"して【死漸】にしたよ。でも故意にじゃねェっていうか、やり方わかった上でやったことじゃねェし。それを能動的に、ってな難しい。

 

「オレは今、自身が全能でないことを酷く後悔している」

「使徒選び間違えた、ってか?」

「裁定者選びを間違えた」

「はン、そりゃハナからわかってただろ。俺なんぞをスカウトしてきた時点でアンタは間違いだらけだよ。神さんが俺を使徒にしてくれたのは色んな事があった末のそれだ。ほとんど初対面のアンタに俺のパーソナルな部分がわかるかっての」

「貴様の内面などどうでもいい。やり方を教えてやる。いいか、魔力の濃い場所を探せ。貴様の魔力を観る目を鍛える事込みで、オレは口出しをしない。自分で見つけて見せろ」

 

 マジで面倒見良いよなコイツ。

 教えてばかりじゃ相手が成長しねェってのまでわかってるの本物だよ。言葉がキツすぎんのは確かに問題だけど、それ差し引いても教育者の才能がある。口調は俺とおんなじくらい結構なアレだけど、見てくれも実は良いしな。割と、まァ、その、うん。結構良い。

 結構妙齢の女性……金髪で尊大でクッソ偉そうだけど。

 

 そんなことは本当にどうでもよくて。

 えーと、魔力の濃い場所ね。

 

 ……。

 

「無くね?」

「恵理須の延命措置が失われた今、魔力は必ずどこかに偏る。見渡して見つけられないのならその先に行け。良い事を教えてやる。高い所に上ると遠くまで見渡すことができるぞ」

「口出ししねェんじゃなかったのかよ」

「探索範囲を広げる事すら知らないのかと思ってな。魔力を探す、ということに口出しはしないが、生物として基礎的な行動ができないというのならそこの教育はしてやる」

「要らねェから黙ってろ」

「良いだろう」

 

 とりあえず適当な木の上に登る。そこそこ高い木だ。

 そっから周囲の魔力濃度を見る。……うーん。

 

 薄いなァ。

 まァなァ。魔力流出こそ止めたものの、流出した魔力が戻るワケじゃねェ。始の点上部の穴が塞がったワケじゃねェから魔力そのものは流れ込んできてるけど、そりゃ通常量だ。元々魔力の無かった世界なンだから、水を吸うスポンジのよォに、とは行かない。

 ……となると、今一番魔力が濃いのは始の点か?

 けどソレは……遠いなァ。こっからまた海越えて、となるとかなり時間がかかる。メタ推理だけど、零が探せ、って言ったンだ。だから近くにあるンじゃねェかって思うんだよな。何か──わかりやすい場所で。

 

「待てよ。魔力濃度の高い場所、なら良いンだよな」

「……」

「なら、丁度いいのがある。場所もわかる」

「……」

「そうだ、あそこなら」

「貴様の取柄は異常なほどの行動力ではなかったか? 思いついたのならとっとと行け」

「へーい」

 

 んじゃ、向かいますか。

 なンというか──ちょっぴり因縁のある場所。

 

 ──午後の森へ。

 

 

 

 

 午後の森。

 元々EDENがあった場所にそこそこ近いのは気になる所だけど、まァここに拠点を作るってワケじゃねェ。"役割の統合"をするだけだ。

 また結構湧いてる魔物を、しかし相手にしない。【隠涜】すげェ。真横通っても、枯れ葉踏みつぶしても気付かれねェ。そりゃァSSSだわコレは。

 

 相変わらずの夕焼け空。時間はまだ正午前だってのに、だ。

 魔力密度が高すぎて光がおかしくなってる場所。密度高いンだから濃度も高いだろっつー安直な考え。

 実際来てみて、っつか午後の森が見えてきた辺りで感知してみたら、ちゃんと高かった。そこにだけ蜃気楼でも立ってンじゃねェかってくらい濃い。

 

「上等だな」

「おォ、そりゃ重畳。んで? どーやるンだ」

「オレが全て説明するのも良いが、貴様の理解度も試したい。貴様は"役割の統合"についてどこまで知っている?」

 

 ……効率求めるクセにコレだもんなァ。

 幾柱かいる太陽の神の中で、恵理須を生むのに神さんがコイツならできるって思ったのも無理は無い、っつーか。ウィドアルの方は知らんけど。

 

「同系統の魔法を統合して上位魔法にする、ってなが俺の知ってる事だ。統合数は2から3……だったが、全役割の統合なンてもんがあるンだ、上限は無いのかね」

「ふむ。理解度は1割と言ったところか」

「マジか」

 

 何にも知らねェじゃん俺。

 ……いんやさ、ほとんどの魔法少女が知らなかったンだから……いやでもキラキラツインテは知ってたな。俺が無知すぎるの、か?

 

「まず、魔法とは何か、という所からだ。貴様の理解として魔法とはなんだ」

「えーと、魔法少女の因子が発現、覚醒した時にアンタから与えられる超常の力……的な?」

「良いだろう。初歩の初歩からだな。良いか、魔法とはオレの使徒が用いる能力のことだ。貴様にわかりやすく例を挙げるのならば、ジョームンガンダーなる風の使徒が使っていた虚滅雨(クハリジャ)という技。あれはあの風の使徒の能力であると言える。他、基本的に高位とされる魔物はそういった能力を有している。わかるな?」

「あァさ、カンコウの雷と雨とか、ジャカンの炎とかだよな」

「小さき者の個体名までは知らんが、おそらく正解だ。その上で、オレの使徒は必ずそういった能力を持つ。それを魔法と呼ぶ」

「じゃァあってンじゃねェか。魔法少女ってな全部太陽の使徒だろ」

「違う。魔法少女になってもオレの声の聞こえないものは太陽の使徒とは言えぬ。太陽の下僕ではあるかもしれんが、使徒が持つ程の力は有さん」

 

 そりゃ……おかしな話だ。

 何がって、そォいうのが生まれるのが、だ。

 コイツの声が聞こえない魔法少女が生まれる。その事実自体がおかしくなってくる。だって、使徒っつーのは。

 

「そう、本来使徒というのはオレが選出し、オレが認定するものだ。ゆえに過去──恵理須が生まれる前まで、太陽の使徒はその全てがオレの声を聴くことができたし、魔法を使うことができた。だが──恵理須が出来てすぐの頃、ある事件が起きた。オレの使徒の1つを殺し、その因子を奪い去って恵理須の中に逃げた愚か者が現れたのだ」

「あっ」

「ふん、あの温厚なハキタでさえ嫌う神……ゲヘナという神だ。まぁ、貴様にとっては知らぬ顔でもあるまいが。アレがオレの使徒の因子を持って恵理須へ降り立った事から全てが始まった。全てが狂った。奴の様々な行為によりオレの使徒の因子は恵理須中に拡散し、オレの声を聞くことができないままオレの使徒の力を行使する者達が現れ始めた」

「……それが、魔法少女」

「そうだ」

 

 やっぱりあのニヤニヤ丸眼鏡全部の元凶じゃねェか。そりゃ嫌われるわ。

 負け犬もピンクカチューシャやアズサじゃなくてニヤニヤ丸眼鏡を封印しとけよ。何やらかすかわからねェじゃねェか。

 

「つまり、なンだ。最初の話、魔法っつーのはアンタの元来の使徒が持ってる能力、ってことだよな」

「そうだ。ゆえにオレはオレの使徒の能力を把握することができていた。それがゲヘナの暴挙以降、勝手に分配されるようになった。その点ばかりは、オレが全能でない事を恨む。オレが使徒へ魔法を授ける、というのは法則に近い。ゆえ、魔法少女の因子の覚醒が起きたからには魔法を与える必要があり──その内容をオレが選ぶ、ということはできない。オレの声が届かんからな」

「あー、それはつまり、今までは"貴様にはこの魔法を与える。だからこういう風に生きろ"ってコトをやってたってことでいいか?」

「そうだ。能力に見合った生き方、役割を与える。当然だろう」

 

 人事やってたら突然知らねェ部署の中間管理職に飛ばされて、欲しいなンて言ってねェのに毎年毎年言うこと聞かねェ新人が入ってくるってこった。

 ……うん、それは大変だ。ちょっと同情する。

 

「で、"役割の統合"ってな?」

「オレの使徒が休息に入る、あるいは寿命を迎える際、その"引継ぎ"が発生する。他の使徒に分割して分配される場合もあれば、同等の使徒に役割を明け渡し、その使徒の役割を一新する。オレはその"引継ぎ"を認可し、晴れて登録完了……"役割の統合"が完了となる」

「同等、ってこた、同系統じゃなくてもいいんだな」

「構わない。貴様の身近な者で言えば、【神速】が【神光】になったというのが好例だ。速く動くことと光の条を発射すること、浄化の光を放つこと。それらが同系統であると思うか?」

「いんやさ、思わねェ。なるほどな、割となんでもいい訳だ」

「割と、ではない。同等ならば何でもいい」

「……あー、じゃァアレか。【喧槍】と【鉱水】は同等じゃねェワケだ」

「そうだ。此度貴様に裁定対象として教えているのは最高等級の魔法のみ。ゆえにすべての魔法が統合可能になる。だが、貴様の独断で下位の魔法を【裁断】してしまった場合、それの統合先が無くなってしまう。あるいは【喧槍】を同等の魔法と統合し、【武神】にまで上げてから、であれば統合可能だが、既に【武神】がいる以上その統合は失敗に終わるだろう」

「【喧槍】を奪ったのァ完全に無駄だったと、そォ言いたいワケだな」

「完全に無駄ではないがな。此度の目的には無駄であるというだけだ」

 

 なるほどねェ。

 いんやさ──マジで勉強になる、っつーか。

 

 んで、本題だよ、本題。

 

「知識は十分だ。どォやって"役割の統合"を故意にやンのか教えてくれ」

「"役割の統合"自体を視認した事はあるか?」

「あァ、何回かな。魔法のダウンロード及びアップデート、インストール。俺がわかりやすい言葉に変換されてンのかホントにそー言ってンのかはわからねェが、太陽の言葉でそォ聞こえた」

「貴様がわかりやすいように変換されているに過ぎん。そのような珍妙な言葉は使っていない。意味は分かっているか?」

「新たな魔法をアンタのトコから持ってきて、今持ってる魔法混ぜるか昇格、それを自分に馴染ませる。あってるか?」

「十分だ。ならばやってみせろ」

 

 ……え、そこ放り出すンだ。

 あー。

 えー。

 えー?

 

 やってみせろ、って。……。

 ふむ。

 

 えーと、確かにダウンロード……【裁断】によって魔法を奪った俺は、他の魔法少女から魔法っつーデータを移動、あるいはダウンロードした状態にある、のかもしれない。【鉱水】と【壊線】、【隠涜】。EDENの等級区分じゃ結構離れてる魔法だけど、あんなの参考にならん。零の示した回収リストにこれら魔法はちゃんとあったので、少なくともこの3つは同等であるはずだ。

 だから、これが今俺ン中にダウンロードされてて。

 アップデート……混ぜる。んじゃまず【鉱水】と【壊線】と【隠涜】がどこにあるか、ってなを把握する必要がある。

 

 どこに?

 

 ……えーと、えーと。

 まず、今外側に【隠涜】を纏ってるだろ。まずここに【隠涜】がある。じゃあこの状態で【壊線】を出す。午後の森の木々に触れた【壊線】が樹皮に罅を入れる様を見ながら、ダメ押しとばかりに近くにあった石を触って【鉱水】状にする。

 おいおいマルチタスク要求しすぎだろ。えーと、えーと。

 

「安直すぎる。且つ、非効率が過ぎる。良いか、魔法というものには核がある。魔法少女の因子の話ではないぞ。核……基点といってもいい。たとえば【隠涜】であれば己が身を核としているだろう。【壊線】であれば自らの目だろうな」

 

 ふ、ふむ。

 成程?

 

 だから……。

 

「……魔法【隠涜】と魔法【壊線】の役割──掌握。基点の合成開始……」

 

 要はオブジェクト指向だ。魔法の1つ1つがオブジェクトだと考えりゃ、それを統合するというのがどォいうことなのかもわかりやすい。

 今の俺の状態はオブジェクトを関係性の手続き踏んで個別に使用している状態。これを、一回の操作で両方とも動き、別の結果を出すようにしたい。

 ならばまず開始指令……わかりやすいのは【壊線】の"見る"という行為。目で見た瞬間に発動することを条件に、世界に罅を入れる【壊線】と世界から身を隠す【隠涜】の展開ができるように組み上げる。同じ変数で2つのオブジェクトが引用されるってなことだ。オブジェクトそのものを合体できりゃ世話無ェんだが、同系統の魔法じゃねェから短時間で熟すのが俺には難しい。

 ……うわコレ魔力食うな。集中力もいる。

 

 午後の森。

 魔力。世界の魔力か。……これ、食えンのかな。

 目には見えない魔力の奔流。

 それに──口をつける。瞬間ぶっ飛ばされそォになる口。なんとか踏みとどまって、少しずつ吸っていく。うわ不味いなァ。魔煙草ほどじゃねェが、あんまりいい味じゃない。

 けど……回復、は、してンのか? わかんねェな。使用魔力の方が大きすぎて。

 

「変数設定……引用接続……合成完了。呼出変数名を【破覆】に設定……」

 

 多分零のやり方じゃァないんだろうけど、俺のわかりやすい形で……なんとか、やってみた。

 どうだろう。

 

「【破覆】──メイアート。役割を2つ統合し、ここに新生する」

 

 そこまで口に出した──その瞬間。

 

 背中にあった無数の傷が消えたのを感じる。溢れ零れる魔力を感じる。

 

「──っふゥ。あァ……あァ、息すンの忘れてた。あぶねェ」

「やり方はオレのものとは違うが、結果は良好だ。そのやり方でも構わない。続けて【鉱水】も統合しろ。それと、周囲の魔力を取り込むことに気づいたのは良いが、不純物の選別くらいはしろ。今の貴様の肉体は太陽の使徒だ。冥界の魔力をそのまま飲めば後で不調を来すぞ。輝くものだけを飲むのだ」

「あー、了解」

 

 ……アレ、今の言葉の中に、罵倒無かったンじゃね?

 単純に褒めた? コイツが?

 

 へー。しかも心配してくれた感じか?

 なんだよ、ちょっと絆されそうになっちまったじゃねェか。いや俺チョロ。

 

「魔法【鉱水】と魔法【破覆】の役割──掌握。基点の合成……不可。あン? ……あァそうか、【鉱水】は接触型だから……どっちかを変えないとダメなのか」

 

 クラスが違うんだ。

 鉱石に触れて発動する【鉱水】と、目で見て、あるいは念じることで発動する【破覆】。これを合成するには、どっちかを改造してからじゃねェといけない。

 ……いや。違う。違うな。そんなんじゃ"役割の統合"にはならねェ。

 一回で全部できるよォになるには。その魔法が両者を内包するよォになるには。

 

「……魔法【破覆】を肉体の一部として再認識。遠隔、近接魔法から特殊魔法へ変換……不可。近接魔法から遠隔魔法へ変換。デメリットを承認。魔法の接触によって生じる変数と魔法【鉱水】の呼出変数を等号で繋げ……ツリーとして再設定。魔力やべェな。ええと選別? ……面倒だなァ。いいだろ全部魔力だし」

「貴様、助言くらいは素直に聞け」

「はいはいキラキラしたもんね」

 

 言われた通り輝きの強い魔力を選んで吸う。

 あー。確かに? ちょっと不味さが低減した、よォな。気が。しないでも、ない、気が……しなくもなくもなくも。

 気がしねェわ。気休めだろこんなん。

 

 が、まァ魔力はこれでオッケー。

 

「【破海】──メイアート。役割を3つ統合し、ここに新生する」

 

 ……ふぅぅぅう。

 

「どうだよ、オイ」

「良いだろう。初めてにしては十分だ。いや、初めてではないか。なら時間をかけすぎだ」

「あァへいへい。まァ許してくれや。次からはもっと効率化するからよ。……ちょいと休みたい。集中力を使い過ぎた」

「どうだ、拠点の重要性を理解したか」

「いんやさ、亜空間ポケットでいーよ。今言ったからな。亜空間ポケット入るぞ、って。じゃァな。ちょっと俺ァ寝るわ」

「……良いだろう。それくらいは許してや、」

 

 亜空間ポケットに入って。

 聞こえなくなった零の声と──相変わらずごちゃごちゃした亜空間内部を見て。

 

 ……こう、良い感じにベッドとか作れねェかな。

 

 拠点づくり……じゃねェけど、恵理由知穏の土を使って、ベッド作りを始めたのだった。

 

 

 

えはか彼

 

 

 

「でも、太陽の使徒を討ち取るためとはいえ、よく頷いてくれたのだ。時間が進むことを恐れたりしないのだ?」

「え、あ、うん。それはね。もう、いいかなって。そう思ったから」

「もういい?」

「うん。──グロアがさ、死んじゃったから。多分、私達の時代は終わったんだな、って。その時に思ったよ。創設者、なんてカッコつけてさ、けど私達のしてきたことはただ魔法少女を集めただけ。彼女らが無惨で理不尽な死を遂げないように、魔法少女に覚醒した、というだけで人間扱いされない、みたいなことがないように、魔法少女だけの楽園を作る──その目的は、けれど前時代的なものなんだろうな、ってさ」

「そうだね。ビーファンの言う通りだ。私達の役目はもう終わっている。もしかしたら、500年前……あの国を壊した時に全て終わっていたのかもしれないけれど。そこから長く生きた。……そろそろ、私達も歩き出して良い頃合いだ」

「実に耳の痛い話だな」

「あはは、ジャハンナムは500どころか云百万なのだ」

「そんなに少なくはないが、まぁ、貴様らよりも歳を食っているのは事実だ」

 

 雑談の時間、ということは無いが、今すぐにやることの無い組が集まって歓談をしている。

 魔法少女から魔法を奪う。【裁断】。裁定者。

 人間に戻るコト。

 

「……これから先、貴様は通常の人間と同じ時間を生きることになる。通常の人間と同じように歳を取り、取れば老い、そして寿命が来たのなら死ぬ。大きな怪我を負えばその時点で死ぬし、病に罹るやもしれん。奪われた後に脅すようで悪いが、それらの覚悟はできているのか? ──今の貴様を使っても、蘇生槽すら作れんぞ」

「うん。わかってる。……正直言うとさ、私にとって魔法は……重荷だったから、助かったな、って。そう思っちゃってる自分がいるんだ。魔力も含めて、私が持っているには過ぎるものだなって。だって私、馬鹿だし、作戦立案とかできないし、世界を動かす器ってわけでもないし。何でもかんでも殴って解決、が私だったし。……だから、普通の女の子に戻った、っていうのは、ちょっとだけ。ちょっとだけね、安心してる」

「普通の女の子は武器を持った太陽の使徒に殴りかからないのだ」

「それは、……もしかしたら()()()()()()()()()()()()っていう希望だったのかも。あ、死にたいワケじゃないからね。……でもさ、何もできなくなった私の居場所ってもう無さそうだから、あそこで終われたら楽かな、とか」

 

 乾いた笑いを浮かべるビーファンに──ハイドレートとモーゲン・真凛は頷き合って。

 その後頭部を丸めた紙でぶん殴った。

 

「超痛い!?」

「ビーファン。君、グロアが自分の死期を悟ったって言ってきたとき、あんなに悲しそうな顔をしていたのに……私達に同じ気持ちを味合わせるつもりだったのかい?」

「人間に戻る覚悟は止めないけど~、老衰じゃなく戦死して、とかはやめてほしいかなー。こっちが苦しいからさー」

「……ごめん」

 

 背後で「うげ、真凛ソレ本気で言ってるのだ? 自分が傷つくの嫌だからムガモゴ」余計なことを言おうとしたプリメイラの口にくしゃくしゃに丸められた紙が押し込まれる。妙に神妙な顔をしたジャハンナムが「プリメイラ。貴様私に空気を読めないなどと言った割に貴様も読めていないな。これはこいつらの問題だ。私達が口をはさむべきではない」と喉奥まで入った紙に苦しむプリメイラを引き摺って部屋の隅に行く──ような事があったように思うけれど、ビーファンは完全にそれを無視した。

 

「でも、どの道殺してはくれなかったと思う。彼女はどうやっても私達を殺そうとはしないだろうから……あ」

「"検閲"。……もしかして、君とアズサが行方を晦ましていた時間に、少し仲良くなった──とかだったりするのかい?」

「仲良くなったわけじゃないけど……話し合いの余地はある、と思う。何のためにそれをしてるのか、本当に世界を殺したいのか殺してしまった時、貴女の大切な人達がどうなってしまうのかというのをちゃんと考えているのかどうか」

「余程深い所にまで突っ込んできた、というのは伝わったよ」

「……正直に言うなら~、グロアがいなくなって、ビーファンが人間に戻るなら、私も戻りたいなー、とか、思っちゃったりしてる~。……ペルチットも、いなくなっちゃったし」

 

 真凛の発言に思わず沈黙が落ちる。

 ペルチット。ほんの十数日前までは普通に話をしていた身内が、いつの間にか太陽の使徒へ堕ち──下位の魔法少女達を殺さんとしていた事実。そして、それがある神によって葬り去られた事実。

 グロアが死んだ時と同じくらいの心の痛みは、けれど太陽の使徒に堕ちた、という事実が幾分かを怒りに変えてしまっている。

 

 太陽の使徒。

 魔法少女は太陽の使徒だと言われるが、少し違う。高位の魔法少女は太陽の声を聞くことができるが──それに乗る、乗らないは己が意思に依る。効率ばかりを求める太陽の声に逆らい、感情を優先する魔法少女の方が遥かに多い。その声を無視することは非常に高い忍耐力が必要で、けれどみんな頑張って逆らっていて。

 

 その中で、まさかペルチットが堕ちてしまう、だなんて。

 

「……っぷは、げほ、ごほっ……の、喉奥にまで紙詰め込むのは外道の所業なのだ……」

「ちなみに詰め込んだのは貴様が書いていた原稿だ」

「なんてことするのだ!?」

 

 暗い雰囲気を吹き飛ばすのは空気の読めない2人。

 少しばかりの抗議の視線を2人に向ければ、2人は、というかプリメイラは胸を張って口を開く。

 

「魔法少女続けたくないのだ? なら太陽の使徒に頼んで裁定してもらえばいいのだ。プリメイラ様がこうやって太陽の使徒討滅計画を必死に考えてあげたのは、あくまで君達が魔法少女を続けていたい、人間に戻りたくないからなんじゃないか、っていう推測からなのだ。魔法少女でありたくないのなら、積極的に2人をメイアートに立ち向かわせる作戦を取るのだ」

「私はもとより人間ではないから、その戻りたい、という感覚はわからんが……正直に言おう、今回現れた太陽の使徒はかなり優しい。私の知る太陽の使徒は破壊の権化だ。命を奪うことのできない冥界において戦闘が発生した場合、太陽の使徒は真っ先に敵将を叩きに行く。容赦なくグチャグチャのメチョメチョにして二度と逆らう気が起きないよう何度も何度も対象をバラバラのドロドロにする。……それが、あのメイアートなる太陽の使徒は、此度の襲撃において負傷者の1人すら出していない」

 

 それは本当だった。

 ロックスライムに飲み込まれた魔法少女含め、誰1人怪我をしていない。魔法を奪われたことによる戦意喪失こそあれど、誰もかれもがこう口にしている。

 

「"怪我をしたくなかったら退け。大人しくしていれば傷つけない"──そう言われたそうだ。私の記憶にある太陽の使徒の真逆を行く。言い方はアレだが、こんな"アタリ"の太陽の使徒は今後現れん可能性がある。魔法少女から人間に戻りたい、というのなら、この機会を逃す手はない。メイアートを討滅した場合、次なる太陽の使徒が来ることは自明の理だからな」

 

 優しい。あるいはアタリ。

 敵対者を殺さない太陽の使徒、メイアート。

 

「ま、私とプリメイラは魔法少女をやめる気がない。その辺りはお前たちで考えろ。だが、投降する気があるのなら早めに言えよ。プリメイラの脚本にあまり大きな修正は加えたくないのでな」

「その大切な脚本の原稿がここにくしゃくしゃの涎塗れになって捨てられてるのだ……」

「ああ、違うぞ。これは貴様が趣味で書いている『百合少女育成学園エデン ~焦がれるあの人との蜜月~ -来訪者編-』の原稿だ。流石に現実に存在している少女らの実名での二次創作は如何なものかと思ってな。ゴミとして処理させて貰った」

「あらゆる状況の原因のクセに変な倫理観だけ持ってるのやめるのだ!! ……後で部屋でこっそり具現化して眺めようと思ってたのに……!」

 

 最後まで空気を読まない……というか沈んだ創設者達の空気を物ともしない2人のコントを最後に、歓談の時間は終了を告げることとなる。

 

 そろそろ、時間なのである。

 

 

えはか彼

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