遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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108.伏爛奈亜図恩磁簿泥.

 EDENはもう新しい蘇生槽を作っている。

 それはお嬢と班長のやり取りからして確実だった。

 

 正直業腹……というか、やるせない気持ちが強い。

 そォかァ。っていう。

 

「【凍融】に【青陽】。順調だな。それは褒めてやろう」

「……そォだな」

「して、概念の話だったな。"役割の統合"によって起きる概念の変更」

「……あァ」

 

 既に【覇海】への【凍融】の統合も終わっている。【極覇】。どんどん物々しい名前になっていく。あ、ちなみに言っておくとコレ俺が考えてるってワケじゃないから。なんつーか、思い浮かぶモンだから。

 

「貴様が今所有している【極覇】。それにより、恵理須から状態変化というものが失われた。正確に言えば統合されたことになるが……根幹とも言える魔法の1つが統合されたことにより、恵理須の死期は近付いた。良い調子だ」

「……状態変化が失われたっつーのァ、どォいうことだ」

「そのままの意味だ。世界は停止したに等しい。【凍融】は最高等級の魔法の中でも強く概念に作用する魔法だった。理解できないのならば、その辺の海に【青陽】でも投げ込んでみるといい。何も起こらんからな」

 

 言われた通り──海に【青陽】を投げ込む。

 ──そこで【青陽】は停止した。海を蒸発させることもなければ破裂もしない。ただ、青き灼熱が海をへこませ、そこに鎮座している。

 ……なんだこれ。

 

「貴様が見ている通りだ。状態変化という概念が失われた以上、温度による物質の相転移は起こらない。それが当然になったのだ。恵理須の中ではもう、湯を沸かすという行為も、モノを冷やすという行為も、それをしようという発想そのものから失われている」

「じゃあ、"全役割の統合"ってなをしたら」

「当然だが、恵理須から世界としての役割は失われる。貴様が究極の魔法を所有し、冥界に帰り、その身体をオレに返還することで契約は成る。──当然だが蒐集対象には貴様の【死漸】も含まれる。あの虫けら探しも忘れるな。見つけ次第その魔法を裁定しろ。ただし、【死漸】を裁定した場合のみ、その場で統合せずに恵理須殺しに使用しても良い」

「……」

 

 考えろ。

 そうだってンなら、奪う順番考えないとやばくねェか?

 たとえば……お嬢の【神光】を簒奪して統合しちまった場合、この世界から何が失われる? 光、か?

 ……確か、群塔魔閣の方に影を操る魔法少女がいたよな。アレとかも概念に作用しそうだ。他、なンだ。【侵蝕】や【劇毒】も……奪ったときに何が失われるのか考えねェと、やばい。

 

 同時にずっと悩み続けてるのァ愚策で悪手だってのもわかる。

 EDENが新しい蘇生槽を作った以上、これ以降も量産される可能性がある。そればっかりァなんとしてでも止めなきゃなんねェ。

 

「零。EDEN以外の魔法少女の位置ってなそっからわかンのか?」

「わかると思うのか? 少なくなったとはいえ、恵理須中を魔力が流れているのだぞ。オレがわかるのは、貴様に近づく高濃度の魔力反応くらいだ」

「そォか。使えねェな」

「貴様が目を鍛えろ。オレに頼るな」

「……ふゥ。さて、行くか」

 

 殺した。

 人を殺した。

 ──今まで殺してきた奴らに貴賤は無い。優劣なンか無いはずだ。けど、やっぱり俺の中で、人殺しってな──デカい。

 エルバハ・イドラ。大してマトモに話した記憶の無い女性。どの場にあっても敵対していた気がする。防衛組攻撃班イドラ隊隊長。

 恐らく文字通りの火力最強。

 

 死が、誇りだと言って。

 生きてェとも言わずに死んでいった。道連れにしたかった俺ァ新生して無傷。

 

 どう、なンだろうね。

 俺は……。

 

「どうする気か、とは問うておこう。貴様、まさか無策にEDENなる場へ突っ込むわけでもあるまい」

「まァそりゃな。流石にそこは当初の予定通り各個撃破が望ましい。けど、隙を窺うってなヒマは無ェ。だから強制的に1人になっちまわざるを得ない状況を作るのがベストだ」

 

 EDEN側が何か手を打ってきてンのもわかってる。

 俺の拠点が一瞬で潰された事を含め、「メイアートを釣る」って発言も気になる所の1つだ。

 参謀は創設者の誰かだろう。紺碧ベルトかビリビリタイツかパッパラメガネか。あァいや、ビリビリタイツは太陽の使徒になったンだったか? どォもその辺よくわからねェんだけど。

 

 零の言う通り、太陽の使徒として裁定を行う──だけでなく、本来の目的である負け犬探しもしなきゃなンねェ。どこに身を潜めてやがんのか知らねェけど、多分北方山脈の向こう側にはいないンだろう。なんでってクロムクラハが探してるらしいから。アイツの目は掻い潜れねェと見てる。

 じゃァ、こっちだ。

 クロムクラハが来ないこっち。ジパングかEDENか、あるいはリジのいたノモスってとこか。

 その辺りにいそうなンだけど……。

 

「……そうだ、シエナ。アイツって今何してンだ?」

「知るか」

「いやアンタに話しかけてねェよ」

「なんだ独り言か。可哀想な奴だな」

「うるせェ」

 

 シエナ。シエナ。

 負け犬の方じゃねェ、ガーゴイルのシエナだ。

 

 聞くところに拠ると、シエナは冥界においてお嬢たちと敵対したとかなんとか。安藤さんに命令されてとかなんとかで、ものっそい強かった、みてェな話を聞いた。

 もし、シエナにまだ隠された機構があンなら。

 それが鍵になるって可能性はある、よな。

 

「よし、やっぱりEDENに行こう。後魔力の流れもちゃんと見て、新たな蘇生槽が作られてねェかも確認しないといけねェ」

「馬鹿か貴様。いくら最高等級の魔法を多く統合したからと言って、無策に突っ込めば刈り取られるぞ。先日の襲撃が成功したのはあくまで蘇生槽を壊すという目的のみを達成することが最終目標だったからであり、それよりも多くを求めるのならばより多くの犠牲が必要となる」

「わーってる。今回も裁定対象の魔法の全裁定とかが目的じゃねェから大丈夫さ」

「ならば、何が目的だ」

「誘拐」

 

 うん。

 もちろん裁定もしなきゃなンねェ。蘇生槽があったらぶっ壊すつもりでもある。

 でも、今はなンか……慎重に動くべき、みてェな気がするンだよな。

 

「……1つ、言っておくことがある」

「ん?」

「貴様が頻繁に利用する亜空への侵入。……あまり推奨しない」

「アンタが見えなくなるからか?」

「それもそうだが、亜空という空間をオレは知らない。正確に言うと、知識として知ってはいるが、オレの干渉し得る場ではない。たとえば──亜空間なる場で死した場合。その精神、魂がどこへ行くかはわからない。血肉が魔力素として分解されるかはわからない。あるいはその精神体が一生亜空間内部で彷徨う結果になる……可能性もある」

「やけに脅すじゃねェか。そんなに俺が観測できなくなるのが嫌かよ」

「貴様がいなくなった所で面倒ごとが1つ増える程度だ。オレに大した損害は無い。だが、()()()()()()()()()()()()()()のは痛手だ。また創り出さなければいけなくなる」

「あァはいはい俺じゃなくて魔法の心配ね」

「当然だろう。貴様の根本は夜の使徒だ。ハキタの愛し子にオレが手を出すはずもあるまい」

 

 ……あ、そォいうとこは配慮してくれるンだ。

 

 やっぱまだよくわからねェな、コイツのこと。

 

「ま、わかったよ。緊急回避以外にゃ使わねェよォにする。それでいいだろ?」

「ああ。……オレの方でも少し、その亜空なる場について調べてみよう。杞憂ならばどうでも良い話だが……」

 

 こんな歯切れの悪い零は初めてだ。

 なンかあったのか?

 

 ……ま、突っ込んでも話してくれなそうだし。

 んじゃ行くかね、EDEN。復興作業中申し訳ねェけど──太陽の使徒再襲来だ。

 

 

えはか彼

 

 

「姉、ですか?」

「はい。完全に忘れていた……というよりは、渡す機会が無かったのですが、安藤アニマ様がEDENを去る直前、私に渡されたものとなります」

 

 そう言って亜空間ポケットから取り出しますは、1枚の紋章。

 何の変哲もない、といえば嘘になりますが、込められた魔力量も、刻まれた意匠も然したる特徴の見られないソレ。ですが、安藤アニマ様の作られたものとなれば──何かあるのではないか、と勘ぐってしまうのは無理もないことでしょう。

 シエナ様。その姉だというこの紋章。

 

 それを見たシエナ様は()()の格子の奥から手を伸ばそうとしますが──バチン、と。薄い膜に阻まれ、その手を戻します。

 魔法【隔膜】。【断裂】よりは効果の低い魔法ですが、術者が近くにいなくとも設置しておける、という【断裂】にはない力を有す魔法です。等級区分はA。術者のマステマ様は今ここにいませんが、そのお力はしっかりと発揮されている、ということで。

 

「心当たりはありますか?」

「姉妹機がいる、という話は聞いたことがありません。そもそもこの機体……ええと、私の部品というのは、MYTHOSで造られているため、量産する、ということは難しいはずです」

「そうですか」

「そォか」

 

 ──地面から骨を抜き出し、上段から振り下ろします。重い感触。報告にあった「陶磁器のような武器」ですね。ただ、この感触は確実にそんなものではありません。

 湿り気。水気。魔法でしょう。エルバハ・イドラ様、ヴェネット様、アールレイデ様によって報告された魔法の数々。息をするように奪った魔法を統合するその力。裁定者。

 

 接近戦は愚策です。

 

「おいおい、血気盛んじゃねェか。お喋りはしないのか?」

「──太陽の使徒メイアート様。お噂はかねがねです。我が最愛のエミリー様より"戦い、守る力"を奪った張本人。なればこの身は、彼女の手足となり、剣となり盾となり──貴女を殲滅いたします」

「そりゃァ物騒だ。だがよ、冷静メイド。今回ばっかしは魔法少女より興味あるモンがいるのさ」

 

 言うが早いか、メイアート様はその武器を【隔膜】に叩きつけます。

 ──ただそれだけで、叩き割れる【隔膜】。あり得ません。【断裂】より効果が薄いと先ほどは述べましたが、それはあくまで規模の話。強度は十二分のはず。

 いえ。そういえば、メイアート様は【断裂】も破っていましたね。

 

「狙いはシエナ様でしたか。では、少々本気を出させていただきます」

「本気? いつもは本気じゃねェってか?」

「いつも、なる時がいつなのかはわかりませんが──普段はしていないことがあるのは確かです」

 

 親指を噛み千切ります。

 当然のように溢れ出る血液。噴き出る赤に、メイアート様は少しばかり驚いたような表情を見せました。

 

「何を──」

「【侵食】」

 

 血液の降りかかった場所。

 隔離塔。その素材のほとんどが反魔鉱石ですから、可能な場所は限られてきますが──まぁ、全部使う勢いでも良いでしょう。

 さぁ──這い出てきなさい。

 

「……おいおい」

「メイアート様。多勢に無勢をお許しいただきたく存じます。──これらすべてが、私なれば」

 

 普段は、というか梓様が共にいるときはやらないことです。あの方はこれを嫌がるので。

 

 這い出てきましたのは、全てが私。

 寸分違わず──いえ、私だけ親指の先がありませんので、そこだけ違いますが。

 それぞれが亜空間ポケットより衣服を取り出しまして。いえ、流石に全裸で、というのは、羞恥がございますので。

 

「それ……お前が動かしてンのか?」

「どうでしょう。勝手に動いているのかもしれません。私が死んでも、私がいなくても、彼女らは動き続けるかもしれません。──そも、ここにいる私も、そのうちの1つかもしれませんから」

「──ハ。流石だな、最悪の魔法【侵食】。裁定はまァがっつり対象だが──【侵食】されたモンを【裁断】したって意味は無ェと。ハハハハ。そりゃ──すげェ屍兵だ。殺せども殺せども、死ねども死ねども、お前に然したるダメージは無いわけだ」

「強いて言えば、衣服は有限ですので。殺され続けたのならば、途中から衣服の無い私で戦わなければならないでしょう」

「ハハハハ!」

 

 良く笑う方ですね。

 おかしくなった状態の梓様の用です。あの方はもう少し楽しそうですが。

 この方は……嘲笑、でしょうか。

 

「【極覇】」

「!?」

 

 メイアート様より放たれた衝撃波──らしきものが、【侵食】により生じた私をぐちゃりと潰します。

 ……【壊線】のような力を持つ液体を操る、と聞いていたのですが、【凍融】や【青陽】の統合によって新たな力を得た、ということでしょうか。

 しかし、それは困りましたね。

 私の魔法【侵食】は非常に強力な魔法──とされていますが、私以上のものは出せない、という欠点があります。殺傷能力は確かに凄まじいのですが、殲滅力はそこまででもないのです。なので、実はA級という評価は正しかったりします。昔のS級は過大評価でした。

 

 さて。

 だから何だ、という話でもあります。

 

 潰された肉体──そこから這い出てるは私。潰される、斬られる、バラバラにされる。

 ええ、効果的でしょう。同時に意味の無いことです。私は私からですら【侵食】できるのですから。

 

「ちょっとな。嬉しいンだ」

「嬉しい? 何が、でしょうか」

「お前さ、出てこなかっただろ? 暴走繭と俺が戦った時。隣にいるべきなお前は出てこなかった。いなかった。アイツがむざむざ俺にやられるって時に、お前はEDENの中にいた。正直失望したよ。作戦がどォであれ、暴走繭第一のお前はどこに行ったンだよ、って。どんな事情があったンだとしても、多より一を優先できるよォになった──作戦に犠牲ってな前提があンなら、それを是正することを覚えたお前が、それを良しとしたって事実にさ。心から失望した」

「……知ったような口を利くものですね」

「あァさ。だが、今嬉しい。安心したンだ。お前、ちゃんと怒ってるな。ちゃんと俺を殺してェって思ってる。──それでいい。ホントはお前が出てこねェってな作戦かなんかにも苦渋の決断って奴だったンだろ? アッハッハ、それがわかりゃ良い。それがわかりゃ──」

 

 メイアート様は──その手に持つ武器を、強く通路に打ち付けます。

 溢れ出るのは──【鉱水】。それは周囲の反魔鉱石を巻き込み、液体状にしていきます。

 ……"役割の統合"。それがどういったものなのか、私にはわかりかねますが。こうも別系統の魔法を操り得るもの、なのですね。

 厄介どころではありませんが。

 

「シエナは貰っていく。あァ、そうそう。お前も、お前の姉も。鬼教官……面倒だな。キリバチも裁定対象だ。殺しておけよ」

「逃がすとお思いで?」

「それと、コレ。姉だっけ? コレも貰っていくぜ」

 

 言われ、咄嗟にあの紋章を入れたポケットを見ますが──盗られてはいませんでした。

 代わりに、先ほどまで目の前にいたメイアート様と──そして破れた【隔膜】の中にいたはずのシエナ様の姿が消えていて。

 

 ……見事に、そして無様にひっかけられましたね、これは。

 

「──プリメイラ様。第四段階を先に完了してしまいました。どうなさいますか?」

「問題ないのだ。一応中央塔に戻って報告をするのだ」

「承知」

 

 どうなる、のでしょうか。

 確かに、今ここで私から【侵食】を裁定しなかったのは、【隠涜】を取り込んだことに寄る慎重さが出ている、とも取れます。ですが行動そのものは大胆であるような。

 プリメイラ様、ジャハンナム様、ハイドレート様による"先読み"。メイアート様を読み切れるものなのかどうか。

 

 ……そして、メイアート様の……妙にこちらの内情を知っているような言動。

 

 考えることは山積みですね。

 それでは、帰投いたしましょうか。

 

 

えはか彼

 

 

 

 え、第四段階って何?

 俺まだ隔離塔の中にいるンだけど。【隠涜】で隠れただけなンだけど。

 ……で、プリメイラ様っつったか? おいおい折角逃がしてやったのになにやってンだお前。いやまァEDENのために対太陽の使徒の対策顧問として働いてる、とかなら理解できなくもないンだけど、にしたってなんでそんな中枢に入り込んでやがる。

 あ、そうか。ここってニヤニヤ丸眼鏡もいるんだ。アイツが口利きしたって可能性はあるな。同じ裏切られた同士だし。

 

 しかし、なんだ。

 マジで……マジで読まれてるのか? 掌の上で踊らされてるのか?

 

 とりあえず……出るか。

 スリープモードに移行させたシエナは亜空間ポケット……には入れないでおこう。なンか散々脅されたしな。んじゃ普通に担いで……いや重ッ。

 しゃーない、ちょいと身体強化していくか。

 んで、新しい拠点へGO、ってな。

 

 

 

 

 

 拠点が潰されてた。

 オイオイオイオイ。今回は崖の中とかいうクッソわかりづらいトコに作ったんですけど? 【鉱水】で道切り開かないといけない場所に作ったのに崖ごとぶっ壊されてンだけど何事?

 えー。じゃあ2つ目の予備拠点……。

 

 

 も、壊されていると。

 これは3つ目も?

 

 壊されている、と。

 

「おいおい。え、何? マジでふーちゃんか? それらしい気配はしなかったつーか、隔離塔にふーちゃんの身体あったからあり得ないと思うンだけど」

「確かに、妙だな。オレの方でも少し気を張ってみたが、【運誓】の発動は確認できていない。それを無しでここまでの的中率となると、貴様の行動予測ができる人物がいると考えた方がまだ現実味がある」

「……俺の行動予測」

 

 ってーと、アズサか?

 いや、俺とアイツの考えは結構違うンだよな。アイツの逃げ先を俺が2、3回外すくらいには違う。つかそもそもメイアート=梓・ライラックを知ってないといけねェわけだから、となると脳筋娘か? ……なンで脳筋娘が俺の行動予測なンかできンだよ。

 他にメイアート=梓・ライラックを知ってる奴って、まァ班長は知ってるか。……でも班長も行動予測ができるほど仲良いかっつったら微妙なンだよな。

 

 他、他。

 ……クロムクラハ、とか? いんやさ、なンで魔法少女に協力してンだよって話になるか。

 

 ん-、わからん。

 

「零、1つ質問がある」

「気安くオレの名を呼ぶな。なんだ」

「【亜空】の魔法少女ってな、どこにいるかはわかるか?」

「何度も言わせるな。オレにそのような細かいことがわかるのならば、すぐにでも貴様に【死漸】の居場所を伝える」

「あァ確かに」

 

 わからねェトコつつくより不確定要素潰してった方が早いと思ったンだがな。

 EDENにいねェ、あるいはまだ"役割の統合"をしてねェ魔法の収集。それをするには、色んな所をビュンビュン飛び回る必要がある。

 EDENばっかに固執してられねェんだ。始の点近辺にも行ってみねェとだし、クルメーナとか、あとあの負け犬の拠点だった島にも行ってみてェ。

 

 ……島。

 島か。

 

「島、作るか」

「成程、貴様にしては良い考えだ」

「いやまァ二番煎じなンだけど」

 

 マッドチビ先生から奪った魔法でマッドチビ先生と同じく島を作るってな──まァ、ちょいと思うところが無いわけでもないけど。

 そんなのハナから、だしな。丁度さっき隔離塔で奪った反魔鉱石もあるし、よし、防御特化の島づくりと行きますかね。

 

 

 

 

 

 中々に芸術センスがあるかもしれん。

 

「貴様、なんだその魔力反応は。反魔鉱石か?」

「あァよ。え、反魔鉱石に魔力反応とかあンの? 反魔なのに?」

「馬鹿か貴様。恵理須には元々魔力など無かったのだぞ。その恵理須から採れる鉱石に、魔力を打ち消すもの、などあるはずがないだろう」

「それはまァそうなンだけど、そういう由来だったとして、なンで反魔鉱石に魔力反応があるンだよ」

「何度も馬鹿と言わせるな。恵理須に元々なかったものだと言っているだろう」

「……冥界産ってことか?」

「違う。貴様、冥界の住民のくせに何を見てきたのだ。あんな鉱石が冥界にあったか?」

「いや無かったけど」

 

 ふむ。

 いんやさ、俺の芸術センスを褒めてもらえるかと思ったンだけど、そういやコイツ見えてるワケじゃないんだったな。

 素晴らしい島が出来上がったのになァ。

 それよか気になる事言われ過ぎて俺の興味もそっち行っちゃってるンだけど。

 

「えーと、つまり冥界のモンじゃなくて、且つこの世界産じゃねェモン……だから、魔物か魔法少女関連か?」

「そうだ。反魔鉱石とは蘇生槽と経路を繋がないままに死んだ魔法少女の核。その蓄積物だ。魔法そのものは他者に"引継ぎ"が為されるが、そいつ自身の核はその場に残る。大抵の場合は魔物が取り込むが、なんらかの事情によって核が取り残され地中に入り込んでいった時、鉱石へと転じることがある。それを反魔鉱石と呼ぶ」

「……」

 

 震える。

 反魔鉱石の産出量が少ない、っつーのは知ってた。そりゃ、そうだ。

 そんな由来なら──ンなたくさんあるワケがない。

 

「おい、何をしている。島を作ったのだろう? ……崩しているのか?」

「あァ。すまねェ、そんなモンだとは思ってなかったンだ。俺が単なる太陽の使徒だったらよかったンだがな。──外ならぬ夜の使徒が、死者を冒涜することはあっちゃいけねェ。そこに意思がなくとも、コイツが魔法少女の命の結晶だってンなら──俺は、コレを武器に使うことはない」

「そうか。無駄な感傷だが、こちらから強制するつもりもない。勝手にしろ」

「あァ。姿も、名も知らぬ少女達よ。安らかに眠れ。夜の使徒がここに鎮魂を謳う──ん?」

 

 なんだ。

 今なんで言えなかった?

 

「特定暗号入力確認。休眠形態解除。人格分割型戦闘用ガーゴイル・死得無(Ashes)、起動します」

「……おい零、てめェ何言いやがった」

「オレの声が届くわけがないだろう。貴様が何か言ったのだ」

「記憶の整合性確認中……終了。視覚情報整理中……太陽の使徒メイアートを確認。殲滅形態に移行しますか?」

「移行しない。日常モードだ。通常モード。あるだろ」

「太陽の使徒メイアートからの要求を確認。……これを拒否」

「拒否すンな。あァ面倒だな。おい零、亜空間ポケット使うぞ!」

「待て、何故今、」

 

 返事を待たず、シエナを亜空間ポケットに入れる。

 俺も入る。

 

 言葉の軛が外れていくのを感じて──なンか物騒なモン取り出そうとしてるシエナに抱き着いた。

 

「組付きを確認。疑似飛行魔法による振りほどきを──」

「シエナ。俺だ。梓だ。今はちと姿形が違うが、梓・ライラックだ。だから」

基礎締結(アンカーボルト)射出完了。伝言音声再生──"ふん、かつての仲間だからと油断したか? ──残念だったな。改造済みだ"。再生終了。魔力炉露出。疑似魔法【自爆】発動。発動まで5、4、3、2、1──」

「【極覇】」

 

 吹っ飛ば──せない。

 空間に固定されたボルトが彼女の体を縫い付けている。

 なんだ。

 今、何が起こっている。

 

「自爆します」

「何言って──」

 

 瞬間。

 世界が純白に染め上げられた。

 

 

えはか彼

 

 

「外道だと、そう罵るか?」

「……どうだろうな。私の心根はそこまで良い子ちゃんではない」

「ふん、どうだか。なるべく犠牲は出したくない。顔と手が物語っているぞ。そら、詰手だ」

「……これは抵抗できないな。ふぅ。この勝負は負けだ」

 

 EDEN。

 中央塔を含め、EDENは既に使い物にならないほどボロボロだ。

 太陽の使徒メイアートへのアピールとして復旧工事をしているが、完全に直す気のあるもの等1人もいない。既に本拠地は別の所に移っている。だから、このボロボロになったEDENの、中でもさらにボロボロになっている中央塔でキニセルを打つ大人2人など、奇異の目でしか見られないだろう。

 惜しむらくは周辺に人影がないことだ。あれば「ついにおかしくなったか」と可哀想な目で見てやることができただろうに。

 

「第一段階、奪われる魔法の調整。第二段階、拠点を作り得る場所の限定。第三段階、蘇生槽はいくらでも作り得るという虚勢。第四段階、発信機と自爆回路を取り付けたガーゴイルによる情報収集及び魔法を用いない攻撃……」

「ここまでは順調、と?」

「さてな。犠牲者も出ている。魔法を失うだけならばまだしも──命まで落とすとは。前にも言ったが、此度の太陽の使徒はアタリだ。命を奪う気概が一切ない。だというのに命を懸けたのは、効率から言えばあまりに勿体の無いことだ。だが」

「引き締めには、なった、か」

「ああ。……それが良い事なのか悪しきことなのかまではわからん。私は人間ではないしな」

 

 キニセルを敷きなおし、2人はまたゲームを始める。

 浮かない顔なのはどちらもだ。

 

 ジャハンナム──あるいはゲヘナと、キリバチ。

 

「あの少女は、死んだのか」

「少女?」

「シエナというガーゴイルだ」

「ああ。死んだ、というのがどれを指すのかはわからんが、記憶の予備記録は取ってある。適切な身体をもう一度作れば記憶を戻すことも可能だ」

「そうか」

「それを死と捉えるかどうかはそいつ次第だろうな」

「当然、私達は捉えない。それは私達と同じだからだ」

「どうだろうな。少なくともお前は──死を一段と気にするように思うが」

「それは、見込み違いだ。詰手」

「……ふむ。手早いな。良いだろう、この試合は負けだ」

 

 太陽の使徒、あるいは太陽の神に詳しいゲヘナと、想像力に長けるプリメイラ。ゲヘナにとっても少しばかり謎なハイドレートと、そしてもう1人の助力によって、計画は順調に進んでいる。

 

「シエナ……ディミトラを名乗っていた方の居場所はわからないままか」

「アレが本気で隠れようと思っているのなら、私達には見つけられまいよ。砂浜から蟻の眼球を見つけるようなものだ」

「……それの対処をするくらいなら、メイアートを相手取った方がマシ、か」

「裁定者など、過去何度も遣わされてきたからな。対処法くらいわかる」

 

 夜は進む。

 夜は更ける。

 

 大人の会話は、続いていく。

 

「世界の死、か。やはりまだ、実感が湧かないな」

「湧かずともやってくる。それを退けるためには」

「ああ。太陽の使徒の撃退は必須。全力を尽くすさ」

 

 月は──。

 

 

えはか彼

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