遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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110.藍鈍斗破風対夢塔夏油炉止.

「敵性存在確認! ルルゥ・ガル、メイアート──そして、クロムクラハです!」

「……問題ない。そのままEDENへの襲撃を行わせろ。【隔膜】による防壁が破られた事を確認したら、マルハーバンに【断裂】の発動を」

「了解」

 

 EDEN第二拠点──。

 国のあった場所に作られたその拠点は、元来のEDENのようなごつごつした装飾のあるものではなく、まさに秘密基地といった様相の見た目をしている。一見、岩石で。一見、森で。一見、自然物だ。

 反魔鉱石によって作られた外壁は魔力感知を許さず、それに頼る者からの完全な防壁として機能する。

 そこから地下に作られた空間に拠点としての機能を持たせ、地上に出ている部分には監視塔にいた魔法少女達がいる。

 悲しいながら、というべきか、かつてのEDEN程の監視範囲は存在しない。存在しないが、守るべきものが無い分見なくていいものも多く、機能という意味では従来通りと言えるのかもしれない。

 

 そんな第二拠点──そのすぐ近くを飛んでいく3つの影。

 少し前からEDENに敵対行動を取り続けている知性ある精神体ルルゥ・ガル。ほんの先日から全魔法の裁定を宣言している太陽の使徒メイアート。

 そして、一度はEDENへの不可侵の素振りを見せた──元、梓・ライラックだという精神体、クロムクラハ。

 創設者が1人ハイドレートが想定していた襲撃者はクロムクラハを除いた2体だけだった。

 そのために彼女らの敵意を買い、そのために自分たちの元拠点を"餌"にしたというのに、支障があっては敵わない。

 

 だが──。

 

「案ずるな。普段の言動はアレだが、奴らは十二分に強い。そして、勝てずとも良い戦いだ。奴らもそれは理解している。納得している。我らは徹底した観察と──その結果を見届ける事を使命とする。奴らの"犠牲"を無駄にしないためにも、な」

「……はい」

 

 懸念をしても仕方がない。

 杞憂をしても仕方がない。

 

 監視組監視班の面々は、唇を噛みながら、その方向を見続けた。

 

 

えはか彼

 

 

「……」

「ケトゥアン。いつになく緊張してたりします?」

「……どう、だろうな。……死地に臨む。歓喜に、震えているのか。……死に抗う。恐怖に、怯えているのか」

「私もです。この感情は複雑ですね。……遠征組調査班として、ああも強い敵性存在に相対することはありませんでしたから。──無駄死にになるかもしれない、という覚悟はありますか?」

「……無論だ。"魔法少女は国のための資源だ。我等は死せども蘇る。その命に重み無し。文字通りの盾となれ。"」

「"魔法少女は国に仇為す全てを打ち砕く。故に彼女らには等級が存在する。高ければ高い程、殲滅力と殺傷能力を持つ個体として。"」

「……A級魔法少女【槍玄】、ケトゥアン」

「A級魔法少女【引力】、フィニキア・各務」

「参る」

「はい。行きましょう」

 

 残酷な話だ。

 この作戦は──立候補制だった。

 自由意志を与えるため、ではあったのだろう。だけど、自ら死にに行くために手を上げる、というのは、精神的に無理な者が多かった。特に怠惰病にある者達は、どうでもいいとばかりに。第二拠点に逃げる事さえせずに、学園塔の寮内にいる。

 その中で、2人は手を挙げた。

 

 作戦の中で必要とされたのは近接魔法少女1人と遠隔魔法少女1人。

 誰もが手を挙げあぐねる中で、2人は意気揚々と自薦をしたのだ。彼女らの愛する者、オーレイアには別の"役目"がある。残府知子にも結・グランセにも別の役目がある。

 だから、残り物の自分たちは、と。

 

「接続します。今回は──貴女の安全は考えません。ケトゥアン。存分に」

「……ああ」

 

 見せかけだけの復旧工事。それは当然EDENを修復するものではなく──ただ、そこを戦場にするためのもの。至る所に罠が仕掛けられ、至る所で設置型の遠隔魔法が仕掛けられている。

 旧EDEN。あるいはEDEN跡と呼ばれるようになったそこは、今の時間──夜であることも相俟ってか、廃墟が如き雰囲気を見せていた。

 

 そこへ。

 そこへ、飛来する──3つの光。

 青と灰は赤黒の群れを引き連れて。銀と白は3対の翼を携えて。金と黒は太陽が如き威圧を振りまいて。

 

 単体ですらSS級3人を相手取って余りあるとされる魔法少女の敵。それが、3体。

 

「相手にとって不足なし」

「はい!

 

 身体強化を行ったケトゥアンが一足で踏み込む。

 身体に纏うは【槍玄】。自らを槍に見立て、余剰魔力を防壁とし、敵だろうが地形だろうが関係なく突っ込んで貫いていく近接魔法。

 その手綱を握るのは【引力】。手慣れた手つきで彼女を引き、離し、操作する。

 必要なのは勢いだ。何回も何回も回転させて回転させて──威力も速度も増していく。

 

「行ッ、けぇっ!」

 

 魔法の紐が延ばされる。

 それを受けたケトゥアンは、真っすぐに──狙い済ました一撃が、ようやくEDENに辿り着いた3つに直撃する。

 

 ──"入った!"

 

 と、誰もが思った事だろう。

 事実避けられはしなかった。けれど。

 

「重いし、痛ェが──残念だったな。近接魔法少女は俺に近づいたらダメだ。まだ学ばねェか、EDEN」

「……!」

「【裁断】」

 

 止められた。陶磁器の杖。

 簡単に割れてしまいそうなソレで、いとも容易く、ではなかったようだが、止められた。

 そして──奪われる。ケトゥアンの魔法が。

 

 奪われて。

 

「……掴んだ」

「!?」

 

 それは、首枷だった。

 ケトゥアンの首に付けられた首枷。それは両側のものであり、魔法少女ではなくなったケトゥアンが──それでもと、決死の思いでその片側をメイアートへ付ける。

 がちゃり、と。嵌った。

 

「馬鹿、ンなことしたら──」

「引き摺り落とせ、フィニキア!」

 

 あるいはケトゥアンの生涯において最大音量の叫びだったのかもしれない。

 覚悟の決まった顔。それはケトゥアンの体に【引力】をつけたフィニキア・各務も同じ。たとえケトゥアンが魔法少女でなくなろうとも【引力】は作用する。身体強化の使えなくなったケトゥアンにとって、【引力】の力は全身の骨に多大なる負荷をかけるもの。

 その痛みは、魔法少女になってからずっとずっと忘れていた死の──否、生の痛みである。

 

 引っ張られて。

 ──けれど、ケトゥアンは離さない。自身の首が千切れないように首枷と首枷を繋ぐ鎖を握りしめ、メイアートを強く引きずり込む。

 

「くそっ、てめェ死ぬ気か!? この勢いで地面にぶつかったら──」

「……当然死ぬだろう。それが、なんだ」

「ッ、てめェも死にたがりか! なンでだよ! 魔法失ったって、生きる道はあンだろ!」

 

 地面はもう近い。フィニキア・各務に力を緩める気はない。

 この勢いで頭部を打ち付けたら──確実に死ぬ。

 

「己1人が生き残って何になる……! 太陽の使徒メイアート! 貴様が見据える世界の滅び! ……我等魔法少女は、国を、家族を守るためにある! 世界が死ねば、国も死ぬのだ!」

「ッ」

 

 それは激昂だった。

 それは咆哮だった。

 

 ケトゥアン。彼女もまた、国に家族がいる。他国からの移民でありながら、温かく迎え入れてくれたこの国に恩義がある。友がいる。ケトゥアンの容姿に何も言わず、友となってくれた人達が大勢いる。

 何より──愛する女性がいる。

 

「死ね──」

「クソ、馬鹿が、んなの──無駄死にだ!」

「本望!」

 

 ぐしゃ、という音がした。

 果実を握りつぶしたかのような音。それは真っ赤な液体を地面にまき散らす。

 もう助からない。死まで秒読みだ。けれどケトゥアンは成功させた。餌としての役割を十全に果たした。ゆえにフィニキア・各務も──。

 

「ク、ソがッ!!」

「ぶぐ、がァっ」

 

 追撃をしようとした。

 仲間の死を悼むのは後だと、"次"に備えようとしたその瞬間。

 

 敵の武器──メイアートがヴァスと呼んでいたソレが、ケトゥアンの首を潰し貫いた。

 致命傷だったはずだ。否、もうほとんど死んでいたはずだ。それを、メイアートは──まるで「自分が殺さなければ気が済まない」とでもいうかのように、単なる人間であったケトゥアンを殺し尽くした。

 

 その光景は、流石に。

 どんなに割り切っていても──フィニキア・各務の心にクる。

 

「ぁ……」

「【裁断】」

「くっ! ──第一作戦失敗です! すぐに第二作戦へ移行!」

「あァ?」

 

 ──天空。

 そこに紫電が迸る。そこに雷雲が立ち込める。

 次に起きる事象を知っている。メイアートは。──そしてクロムクラハは。

 

「クロムクラハァ! 防御任せた!」

「任された! ──褪戦死遠(【静弱】)!」

 

 メイアートがフィニキア・各務を掻き抱き、着弾点から離れる。

 しかし、何かに気づいたように咄嗟に彼女を放り投げた。

 

 響き渡るのは乾いた破裂音。

 大きく仰け反ったメイアートはヴァスを握り直し、放り投げられた各務はしっかりと受け身を取って、再度それを構える。

 

「──ハ、拳銃たァな! 随分と手癖が悪くなったじゃねェか、委員長!」

「敵を殺すのに魔法は必須ではありませんから。事実、貴女が今ケトゥアンを殺したように」

「俺を殺せる、って? ただの人間が?」

「魔法少女とて脳漿をぶちまけられたら死にますよ」

「違い無ェ」

 

 撃つ、撃つ、撃つ。

 各務が魔法少女になった時の身体。少女の体で撃つには些か威力の高すぎるソレを撃つ。痛む肩。痛む腕。けれど、けれど──仲間の死は無駄にしない。

 だから、殺せないことなどわかっていても。

 

 最後の最後まで抵抗を──。

 

「【極覇】」

「──ッ、く、ぁ、ああっ!」

 

 メイアートから放たれた衝撃波。

 それはたった一撃で各務を吹き飛ばす。手に持つ拳銃も取り落とすほどの威力。最大限手加減されているのだろうそれは、しかしただの人間にはキツかった。

 

「投降しろ、フィニキア・各務。抵抗しねェンならこれ以上傷つけはしねェ。それでも、というのなら、四肢を潰す。どうする」

 

 メイアートの問いかけ。

 返答は投擲だった。割れた地面の石。小ぶりなソレがメイアートに迫り──ヴァスによって砕かれる。

 拳銃はもう遠い所にある。無理だ。だから、せめてもの抵抗をした。

 

「そうか」

「もしかして──私達魔法少女に、命乞いをする姿でも望みましたか」

「あァ。魔法を失って人間になった。無力な人間だ。ソイツなら、自分の命が大切になってもおかしかねェと思ったんだがな。どこぞに作ってあンだろう新しい蘇生槽──それすらも使えなくなった状態で、尚も死を望むなんざ正気の沙汰じゃねェ。だから」

「だから、私達は戦うんです。そうでない子たちのために、そうである私達は命を賭します」

 

 彼女の瞳に諦めの意思はない。 

 彼女の顔に汗に1つたりともない。

 

 心の底から思っているのだ。はったりではなく、強がりでもなく。

 明らかな絶望──太陽の使徒メイアートを前に、啖呵を切る。

 

「太陽の使徒メイアート。貴女が世界を殺すというのなら、私達は世界を救います!」

「──馬鹿が。世界ァそれを望んでねェって──」

 

 言葉は最後まで紡がれなかった。

 影が差したからだ。各務とメイアート。両者を覆う影が。

 

「そこ、までして」

「はい。この世界には──そこまでの価値があります。たとえ私がいなくなったとしても」

 

 倒壊する。

 倒れてくる。

 ──修練塔が、2人に向かって。

 

「──【極覇】ァ!」

 

 修練塔。

 その全てが、EDENから消し飛ばされた。

 

 

えはか彼

 

 

 当然だが──あの極限状態で、作用させる対象を選ぶ、ということはできない。

 だから、これもまた当然。

 単なる人間が、太陽の使徒メイアートのSS級魔法に巻き込まれる形となる。

 

「……殺し、ますか」

「放っておいても死ぬだろ。──だから、殺すよ」

「なる、ほど」

 

 ヴァスを振り上げる。

 

 命に優劣など無い。好悪はあるだろう。関係値によって順位も付けられるだろう。

 それは。

 それは、もちろん──ある。

 俺にだってある。

 

「……殺し、たくない、と。顔に、書いてあります」

「当然だろ。仲間だぞ」

「ふふ……」

 

 あるンだ。

 エルバハ・イドラとはほとんど絡みが無かった。それでもあんなに苦しかった。

 過激無口とはあんま喋ってなかった。それでも心から苦しかった。

 

 委員長は。彼女は、ちゃんと。その人となりを知っていて。 

 それを殺す。殺すンだ。

 殺す。放っておいても死ぬなら──あるいは、その死を何者かに冒涜されるくらいなら。

 

「1つだけ、聞きたい」

「なん、でしょう」

「生きたいか」

 

 ヴァスが、その石突を鋭利な二又の矛へと変える。

 これをまっすぐに突き下ろせば──委員長の首は胴体と泣き別れるだろう。

 

 もっと話してみたかった。クルメーナの一件からずっと喧嘩別れみてェになってたンだ。オーレイア隊の面々とは、ずっとずっと、過激無口も委員長も、ずぅっと──ずっと、仲直りがしたかった。

 こんな結末は。

 

 望んでるワケが、無かった。

 

「生きたいと、言って。──貴女に何ができますか。世界を殺すために遣わされた、太陽の使徒。人間の命を救えますか」

「救えない。ただ、生きたいかどうかを聞いている」

「──生きたい、とは。思っていません。……ただ、心残りがあります」

 

 わかる。

 これが時間稼ぎなンだってわかる。上空ではクロムクラハが遠隔魔法少女を相手にしているし、EDENの周囲ではルルゥ・ガルと魔物たちが近接魔法少女と戦っている。

 そして──俺の体には。

 威力の高い遠隔魔法。そして、封印をし得るのだろう特殊魔法。それらが向けられている。視界に入っている。そんなの零に言われなくたって気付いている。

 

 けど、この問答だけは外せない。

 

「それは、なんだ」

「1つは──贖罪を。私達はベテランもベテランだというのに、新人の子に深い傷と、悲しみを負わせました。……空にいる彼女が、"そう"だというのなら。深い謝罪を。どうか、お伝えください」

「……あァ。承知した」

「そして、もう1つ」

 

 もう、無い。

 彼女は長くない。死神というものがいるのなら、すぐそこにまで迫っていることだろう。

 

 だから──ンなモンに渡す前に。

 俺がやらねェと。

 

「──隊長に、愛している、と」

「必ず」

 

 振り下ろす。

 矛はその細首を確実に貫き千切る。

 瞬間、俺に向けて放射された様々な魔法──それを【極覇】でぶっ飛ばす。

 

 それだけじゃねェ。身体強化を施した足で遠隔魔法を撃ってきた魔法少女らの元に一瞬で辿り着き、次々と【裁断】していく。知ってる顔。知らねェ顔。

 クラスメイト。教員。

 

「あァさ。死ぬなよ。魔法失ったくらいで。死ぬなよ。死を前提に作戦を組み立てンなよ」

「メイアート」

「あン?」

「分が悪ィ。俺は──あいつらを殺したくねェ。食いもしねェ命を奪えない。お前ァ違うのかもしれねェけど、俺は……ちょいと、きちィ。なんなら過激無口と委員長を殺したてめェを許せなくなってるくらいには、きちィ」

「……だろォな。いいぜ、離脱してくれても。お前ァ魔物食って頂点目指してろよ。俺は魔法集めて頂点目指してンだ。──いつか交わり、あるいは敵対することもあるンだろうけどさ。──それまで、互いに。見たくねェモンは見ねェでおこう。だって俺達が戦ったところで千日手だ。隙も突けねェんだ、だったら引いた方が良い」

「……そォだな。あァさ、そうさせてもらう。それに……ちょいとな、気になる魔力がある。中央塔に3つと、北方山脈に1つ。中央塔の方は多分ニヤニヤ丸眼鏡達だろうが、北方山脈の方は──」

「負け犬か」

「あァさ。多分な」

 

 背を向け合う。

 無理だ。俺同士だとしても──分かり合えはしない。

 

「頼んだぜ」

「あァさ。──お前も、心壊すなよ」

「あァよ。じゃあな」

 

 クロムクラハが高速飛翔で場を離脱していく。

 追撃せんとする遠隔魔法少女ら。あァ、出本が見えりゃこっちのモンだ。

 

 1人1人。丁寧に、しかし素早く【裁断】していく。裁定対象だろォがなんだろォが関係なく奪っていく。

 

「SS級は1人もいないな」

「あァ。ほとんどA級以下だ。……捨て駒、たァ考えたくは無ェが」

「捨て駒にしては計画的に配置されているな。気をつけろ、何か狙っているぞ」

「わーってる。その上で無計画に【裁断】してンだよ。──罠だからってやめちまったら、それこそ本末転倒だ。失った命は戻らねェ。ま、委員長が改宗してくれたのァ素直に嬉しいがね」

「神の前で引き抜きとは良い度胸だな」

「はン、信者の1人1人を認識してもいねェ神の台詞じゃァ無ェなァ」

 

 ヴァスの形は刺又だ。捕縛能力もさることながら、打撃にも使える優れもの。

 監視塔から監視塔へ、建物から建物を飛び移って遠隔魔法少女を裁定していく。

 

「"それは突然のことだった。戦いと死と太陽の神クロムクラハが離脱し、風の使徒ルルゥ・ガルが外側へ追いやられた瞬間を狙って──ソレは降臨する。降誕する。供物は捧げられた。魔力は満ちた。ああ、空を見よ。天を見上げよ。信徒の声に応えるのは太陽の神だけではない。夜の神だけではない"──」

 

 聞こえた。

 風に乗って、これァ──ピンクカチューシャの声か?

 

 まるで小説の一文みてェな文言。流暢に、流麗に。

 紡ぎ言祝がれる描写の魔法。

 

「──完全な想定外だ。メイアート、死ぬなよ」

「あン? 何を──」

 

 天だ。空だ。

 降臨する。降誕する。ただの人間に戻ったはずの過激無口と委員長の死体から、何かが掠め取られる。【裁断】によって人間になった元遠隔魔法少女達から、何かが流れ込む。

 一条の光。お嬢じゃない。

 これは。

 

 これは。

 

「ッ、!稲羽身砂利跡久刃白単炭田或琉社無私(それは太陽を讃える失われた理想)

「呼び出しに応じた。──我が名はジーウィース。召喚者よ、命令を寄越せ」

「単純だ。目の前にいる太陽の使徒の殲滅──殺せ、ジーウィース」

 

 いつの間にか、中央塔のてっぺんに立っていたニヤニヤ丸眼鏡が言う。

 

 わかる。

 わかる。

 

 こいつは──神だ。

 オリジン、ではない。種別的にァそーかもしれねェが、コイツは神だ。間違いなく。紛う方なく。

 ウチの神さんや零と同じ、成立した神。

 

「ジーウィース……」

「如何にも」

「何用か、と。問う」

「召喚者に従い、貴様を殺す」

 

 ──。

 なァ。

 

 まさか、とは思うけどさ。

 今までの──あんまりにも無茶な突貫は。明らかにわかるほどの無駄死には。

 

 ただ、コイツを召喚するためだけの儀式か?

 俺を殺すための。

 俺を撃退するための。

 

 神を降ろすための──犠牲か?

 

「零。コイツは何だ。どこの神だ」

「風と夜と太陽の神だ。クロムクラハなる虫けらの、最上位互換。そう思え」

「ハ──」

 

 ヴァスの形を変える。

 刺又じゃねェ。矛でもねェ。相変わらずクリスは呼び出せねェが──あァさ、いい。それでいい。

 

「それでは死ね。我に貴様への恨みはない。ゆえ、貴様は我を恨むがいい。殺されるのではなく、処理されることへの無常を」

「冗談。なンで見ず知らずの奴を恨まなきゃなんねェんだ。死に残るべきァ幸福だけさ。恨みつらみは現世へ置いていけ。無常は冥界へ持っていけ。てめェが何を代償に呼び出されたのかは知らねェが──はははは! なンだ、てめェ、俺に勝てるとでも思ってンのか!?」

 

 ヴァスを振りぬく。

 形は刀。刀身に【極覇】を纏う、世界をぶった切る剣。

 

「軽い言葉だ。死ね」

「あァ──」

 

 瞬間、俺の体は大陸の端にあった。

 

 ……なんつってな!

 

「ハハハハ! 調子に乗ってる、だって!? 馬鹿言え、馬鹿言えよ! これは! こ・れ・は! 死地にて抗い、絶望に立ち向かうってな──俺の本領だぞ!? 馬鹿だろう! 馬鹿だろう! 何度も言うが馬鹿だろう!! てめェも、コイツを俺に寄越した奴も! ハハハハハハ見込み違いが過ぎる! 見誤りが過ぎる!! 俺を殺すのに俺より強いモンを持ってくる!? ははは、はははは! あァ天才的だ、すげェ、すげェよ。てめェが、後ろにいるてめェが俺のこと何にも知らねェのが伝わってくる! アハハハッハアハケホッゲホッうわ涎出てきた」

 

 あァ面白い。

 あァなンて喜劇だ。

 

 シエナに伝言音声登録してた辺り、俺の正体はわかってそォなもんなのによォ。

 俺の事なんにもしらねェんだ。何にもわかっちゃいねェんだ。

 

 それが面白くって仕方がない。

 それが笑えて仕方がない。

 

 俺は梓・ライラックだぞ。

 たとえ今メイアートを名乗っていようと──ハハハ、俺の持ち味ってな、ジャイアントキリングだぜ!?

 

「零。すまねェな、この体ァぶっ壊すかもしれねェ。精々最大限サポートしてくれ。俺を信じてンならな!」

「貴様、恐怖で言語野がやられたか? だが、良いだろう。好きにやれ。生憎だがこの神相手にオレの力は通じん。本来このような場に出てきていい神でもない。というより、恵理須の中への召喚など、恵理須が一層苦しむだけだ。これの退去をさせるというのなら、オレが貴様に施しをやるのも吝かではない」

「そいつァ重畳!」

 

 どっくん、と。

 大きく、大きく、それが脈打つ。

 この前はギリギリで抑えたソレが──どろりと溶けるよォに落ちてくる。

 

 不快感は体の根幹から。

 あァさ笑える。笑いが止まらねェ。

 

 こんなもののために!

 あいつらは死んだって!?

 

「太陽神との歓談は終わったか?」

「ハハ──なンだ、聞こえてンのか。自信満々の攻撃外して落ち込んでンのかと思ったぜ」

「無礼な木端だ。だが、それも許そう。貴様は今ここで死ぬのだから」

 

 ズ、と。

 突き入れる。自身の手を──自身の胸に。

 致命傷も良い所なその行為に、目の前のジーウィース以外からの動揺が見て取れた。

 

 ハ。

 たりめーだろ。

 だってこれをやるンだ。なら──生の象徴は、あっちゃいけねェ。

 

「カ──ハハ。ハハハ」

「……自らの心臓を取り出し、笑うか。召喚者よ。とんだ狂人を相手取っていたようだな」

「ああ……ここまでだとは、思っていなかった」

 

 近づいてくる。

 急速に近づいてくる。

 あァさ、こんなトコで使う気はなかったよ。

 こんなトコでやる気はなかったよ。

 

 だがまァ、零が最大限サポートするってな言質は取った。

 

 だから──ぶちぶちと取り出した心臓を、亜空間ポケットに入れる。

 出血量が凄い。視界が白黒する。音が聞こえない。マトモに立てているかわからない。

 

「放っておけば死ぬが、それでも殺すか、召喚者」

「殺せ、ジーウィース。確実に。影も残らぬくらいに」

「良いだろう」

 

 迫りくるのは、金剛の鎌、だろうか。あるいはハンマー? ハハ、見分けがつかねェや。

 けどまァ──掴んで、止める。

 

「!?」

糸伊豆阿止理負不伏零矢堕千経度戸地内途(それは夜に捧げる祈りの物語).」

 

 ざわつき、ざわめく魔力。

 黄金の髪が黒に染まっていく。黄金の装飾が漆黒に変わっていく。

 暖かな太陽の気配は静かな夜のソレに変貌し、きめ細かなハリのある肌が真黒い炭のよォなものに覆われていく。

 

 そうして、顔まで。

 角まで。

 

 あァさ、ここまで来れば──わかるだろう。

 

「移り気の激しい奴ですまねェなァ。──神さん、頼むよ。俺ァやっぱこっちのがあってる」

 

 湧き出てくる。

 染み出してくる。

 太陽の使徒の体には正直言って毒にしかならない魔力。本来の使徒なら防護の魔法を張るレベルの猛毒。

 

 冥界の魔力。

 冥界の底。つまり天空に溜まった、濃い濃い濃い、凄まじい濃度の魔力。

 

「威武理須……?」

「不服か?」

 

 さァ行こう。

 我が名はアンディスガル。夜の神へ仕える忠実なる僕である。

 

「死に行けよ、神。それが望まれた事なれば」

「ならば我は貴様を殺そう。それが召喚者の望みなれば」

 

 ヴァスの形は円に近い。

 あるいは鎌か。もっとも近い形を挙げるのなら、ハルパー、とかいう古代の武器に似ているか。

 

 さて、ぱっぱと殺すとしよう。

 でなけりゃ──俺に死が定着しちまうンでな。

 

 殺して、無駄だと示そう。神を呼び出そうとも、俺にァ勝てねェと。

 

 そうすりゃ。

 

 ──そうすりゃ、どうなるンだ?

 

「死ね、太陽の使徒!」

「あァ自己紹介が遅れたな! 俺ァメイアートってンだ! よろしくな、ジーウィース!」

 

 なんだ、今の疑問は。

 俺は何か──何かを、間違えている?

 

 

えはか彼

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