遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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10.Suit bet want false to kiss call.
112.鈍斗炉須祭斗負不湯上羽派洲.


 EDENにいるSS級魔法少女は10人。【神光】が金髪お嬢様、【凍融】が班長、【青陽】がエルバハ・イドラ、【寄生】がネイビー・ブルー。

 んで、俺の知らねェかかわった事の無い奴らが6人。

 内エデン生が2人。軍部にいンのが4人。S級魔法少女の人数は知らん。それなりにいる。結構いる。

 で、ソレを全部サシで片付けていくってな──無理だ。時間かけりゃいけるンだろうけど、そりゃ各個撃破できるって場合に限る。ついでに言うとこっちの身体ァ【裁断】持ってないンで【天愍】も使えない。

 

 が──そォいうのガン無視するなら、できることがある。

 

地理便具(生ける者).織琉理便具寝具洲(生きとし生ける者達よ).僧都風譜羅伏是阿宇韻具須(夢を見ようと)塔恣意是阿度利伊無図(空に羽ばたく者達よ).」

 

 死者には何の意味もない言葉だ。

 というか通常状態の冥界においては何の意味もない言葉。

 

糸伊豆減琉陽阿(ここなりしは冥界).」

 

 この宣言は──夜の使徒であるからこそ使える言葉。

 

亜割琉土上阿絵鰤寝具伊豆不応輪具(あらゆるものが堕ちていく世界).地世霊守帝或浴美主(天空の奈落が)泥威張地増会座加韻世苦途(羽虫を食い破る).」

 

 そも。

 生者が冥界で活動し得るのは──夜の神から加護を得ているからだ。

 俺と来た時は、俺から神さんに。

 今回はおそらく──ニヤニヤ丸眼鏡が。

 

低句追譜湯上炉武(羽衣を脱げ).巣鳥伏亜上意湯上泥敷衍巣(護りを剥げ).地洲回導図能登数津有(空は貴様らのものではない).」

 

 だから、それを剥がしてやれば。

 落ちろ。落ちろ。

 魔法は使えない。魔力の出力も低下する。魔物は分解され、蘇生槽との経路も切れる。

 

 これで──。

 

「……再度加護がかかった。はァ。想定済みか」

 

 剥がした加護がかかる。

 神さんのモンじゃねェ。やっぱりニヤニヤ丸眼鏡だ。アイツが──まさか、遠隔でかけてンのか?

 やべェなそりゃ。俺とは技量が違い過ぎる。

 

 剥がす。付けられる。

 剥がす。付けられる。

 

 ダメだ。剥がしきれねェ。

 クソ、ラジコンもいいとこだ。自分は恵理須の中でぬくぬくやって、尖兵にした魔法少女に冥界の神々ぶっ殺させるってな作戦。あァさ効率がいい。

 んで自分トコ来たらジーウィースの召喚だ。多分まだまだ手はあるンだろう。あァ──。

 

 

 

 

 

「っ、げほっ」

「起キタカ」

「……あァ。寂しんぼ、じゃねェ、ルルゥ・ガルは?」

「今呼ンデ来テヤル。待ッテイロ」

「了解」

 

 メイアートの体を起こす。

 全身が痛い。冥界の魔力は抜けきっちゃいるが、浸されて死んだ器官まで戻るこた無い。こりゃ長くねェな。まァわかっててやったンだけど。

 心臓は……あァ、ちゃんと治ってる。まァ零にそれを要求したンだ、治してくれてなきゃ困る。つってもこっちも一時的かね。……そんなにゃ長くねェ。感覚でわかる。

 

「おい零。お前ァ大丈夫か」

「問題ない。オレ以外の太陽神は死んだが」

「死んだ? なンでだ。神は永遠だろ」

「神が永遠であるのは、神であるがためだ。神でなくなった時、神は永遠を失う」

「……なンかそーいう道具があるってことか」

「そういう解釈で構わない。しかし貴様、何故アンディスガルとしてこちらに来なかった? 太陽の庭園にまで来れば、施しの1つでもやったというのに」

「アンディスガルにァいらねェからメイアートに寄越せ。この体じゃ戦えねェ」

「……良いだろう。ただし、オレは万能でも全能でもない。夜の神でもない。ゆえ、太陽の神として、太陽の使徒にできることをする。それでいいな?」

「あァ」

 

 瞬間、暖かいモンが全身に滾る。

 魔力……じゃねェ。太陽の……なンだ、そのままの太陽というか。

 

「それは貴様の魔法化を抑えるものだ。気付いていたのだろう。世界言語──太陽の言葉を使い続けた先に何があるのか。夜の言葉であれば死者に近づく。風の言葉であれば頂点へと己を駆り立てる。ならば太陽は」

「魔法に近づく……最終的に、魔法になる」

「そうだ」

 

 500年前の大国のように。カンコウとなったミチサネのように。

 

「貴様は無理をして【裁断】と【極覇】を統合した。仙女や魔法少女が魔法になる、という事例はいくつも見てきたし、オレの使徒が魔法と化す場合もあった。だが──権能になる、という事象はオレの知識にない。権能という事象と化すのか、魔物や魔法になるのか──あるいは神となるのか。オレにはわからん。ゆえの処置だ」

「コレつけてる間ってな世界言語使えなくなる、とかじゃねェよな」

「問題ない。それはあくまで安全装置だ。貴様にはそれが壊れそうになる感覚がわかることだろう。そして、ソレが壊れた時が、貴様が権能に飲み込まれる時だと思え」

「役に立つのか立たんのかわからンモン渡してきたな……」

「貴様の体を冒している力は夜の性質が強い。神々は優劣というものがない。同等だ。ゆえ、太陽の肉体に夜の神が干渉することは難しいし、冥界の魔力に太陽の神や風の神が介入することは至難だ。オレにできることは少ない。……だが、なんだ。流石のオレもオレの非を認めてやらんでもない。施しというにはあまりに少なすぎる」

「へェ、殊勝だな」

「故に助言をやろう」

「おォ」

 

 なンか懐かしいな、ソレ。

 キラキラツインテとかブラックホールとか尖り前髪にも貰ってた。

 ……あいつらは、敵なのかねェ。

 

「見失うな」

「あン?」

「貴様の目的はなんだ。冥界の神々の復讐を果たすことか? ハキタを苦しめた者を殺すことか? この事を仕組んだ外辺邪を殺すことか?」

「……」

「貴様の肉体を奪った虫けら。アレから肉体を取り戻す。あるいは魔法を裁定し、世界を滅ぼす。本来の【死漸】を取り戻しさえすれば、恵理須は殺せる。それが出来ないから、妥協案として太陽の使徒になっている。忘れるな。見失うな。貴様の目的を」

 

 まァ、なンだ。

 うるせェ。と言いたいところだけど……その通りだ。

 復讐なンてしてる暇は無いンだ。神さんをあんなにした……あんなにされたことへの怒りはある。俺の故郷をズタボロにしやがったことへの恨みはある。

 けど、それより先にやるべきことがある。

 

 はは。あァ、そうだ。

 落ち着け。

 

 流石に。

 亜空間ポケットから魔煙草を取り出して一服する。

 

「ねぇ、それやめてくれない? 臭いで鼻が曲がりそう」

「あン?」

 

 暗がりから来るのは、ルルゥ・ガル。

 ただ、その身体はうすぼんやりとした……精神体。あの人形は回収できなかったか。

 

「匂いなんざ感じねェクセに何言ってんだか」

「私じゃなくて、みんなが、よ。……ね、貴女。あの口悪ちびなんでしょ?」

「あァ──なンだよ、これは言えンのか」

「どうして太陽の使徒なんてやってるの? 貴女、夜の使徒じゃなかった?」

「色々あんのさ。……さて、俺ァもっかいEDEN襲撃に行くけど、お前はどうする?」

「もう一回って……また返り討ちにあうと思うけど」

「まァそん時はそン時さ」

 

 しかし、フリューリ草を集めたり花を集めたりする魔物が、魔煙草の臭いはダメなンだな。余計な香料ついているとかか?

 

「なァ、ルルゥ・ガル」

「何よ」

「アイツ……俺を乗っけてくれた奴は、どォなった」

「死んだわ」

「……そうか。すまねェ」

「何よ、今更。散々殺してきたくせに」

「そう、だな」

 

 そうだ。

 散々殺してきた。襲われたからだけど、襲われてなくても殺してきた。演習だとか言って的にしたりもしたさ。そうだ。今更だ。

 

「……魔物を貸せ、たァ言わねェ。つかお前ら逃げな。それでも戦いてェんなら、クロムクラハの加勢にでも行ってやれ。EDEN潰すのァ俺1人でやるよ。ちょいと、頭来ててな」

「ああ、それなんだけど……私は少し、別行動を取ろうと思うわ」

「そりゃまた、なンで。せっかく集ったってのに」

「仲良しこよしをする気がない、というのはあるけれど……どうにも気になる場所があって」

「気になる場所?」

「始の点」

 

 ……ふむ。

 確かに気になる。

 もうあそこにEDENの魔法少女はいない──が、ブゥリやアームドゥラ、あるいは見た事のないザグルスっつー迷宮の主がいる場所。シエナが名乗っていた座具留守という名。

 解明していない謎の1つではある。冷静メイドが持ってた紋章……シエナの姉とかいうのも気になりはする。

 

 結局。

 クロムクラハとも、ルルゥ・ガルとも、長い間の共闘ァできねェか。

 ま、敵同士だ。いいさ。

 

 あァでも。

 

「ソイツ、連れていきな。いても邪魔だしよ」

「ッ!?」

「え?」

 

 草むらを指差す。

 何もない場所。そこへ、【鉱水】を伸ばして──浚う。ついでに足に付いた反魔鉱石も回収。

 

 浚ったやつ──アズサを目の前の地面に転がす。

 目を白黒させていたアズサは、けれど俺達を見て普通に立ち上がって。

 

「……純朴ちゃん?」

「あー。できりゃその言葉、コイツの前で使ってほしくなかったンだけど……久しぶりだな、安直ちゃん」

「え、何そのあだ名センス無さすぎだろ」

 

 両方に蹴られた。

 

「お前、なンでわかったンだよ。私がそこにいる、って。ちゃんと疑似【隠涜】使ってたのに」

「馬鹿かお前。安藤さんの魔道具ってな結局は魔法を科学で再現したモンだ。魔石の類は使ってるみたいだが。つまり、命の気配や鉱石の気配を消せるワケじゃねェんだよ。足音まで消す光学迷彩ってなワケわからんが、【鉱水】を統合した俺にとって、反魔鉱石なンて異質な気配引っ提げてりゃすぐに気づくっつの」

「純朴ちゃん、やめといたほうがいいわ。この口悪ちび……じゃなくなったから野蛮人に戻すけれど、この野蛮人と話していると純朴ちゃんまで汚れてしまうもの。さ、行きましょう? 始の点──始まりの場所へ」

「え。あ、おう。……あ、でも」

 

 ルルゥ・ガルに手を引かれ、あと見えねェオオカミだろォ大きさの魔物に乗っけられるアズサ。

 あァ、行け行け。さっさと行け。って思ってたのに、なんぞ振り返るアズサ。

 

「なンだよ。早く行けよ。オレもさっさと行きてェんだから」

「私はお前が嫌いだ。幸せを享受しようとしないお前が大嫌いだ。……けど、死ぬな。私は決して、お前に死んでほしいとは思っていない。私にとってお前は──」

「あァわかってるわかってる。恨めしくても、どんだけ憎んでても、殺したくはねェし、死んでほしくはねェんだろ。わかってる」

「……わかってねェよ、お前は」

 

 わかってるさ。

 魔煙草を大きく吸う。

 あァ。

 

「ルルゥ・ガル」

「何よ」

「ソイツのこと、頼んだぜ。ソイツ、思い込みが激しい上に罪悪感で自分潰しちまう奴だからよ。適度に励ましてやってくれ。ハハ、俺の友達なンだ」

「何言ってやがっ!」

「言われなくとも。それに、この子は私の友達だから。貴女のじゃないわ」

「そうかい! そりゃァ──良かったな。あァ、やる気ってモンが出てきた。──ルルゥ・ガルはともかく、アズサ。お前さんとはいずれ敵対するンだろう。お前は権能の持主だが、あいつら側だ。俺のやることに理解ァ示さねェんだろう。だから、ここが最後だ」

「何を──」

 

 ヴァスを取り出し──ガガガガッ、と地面に線を引く。

 

「境界線だ。魔物たちと生きるも、魔法少女達と生きるも好きにしろ。俺は世界を滅ぼす。お前が俺を殺さんとするのなら、俺は全力でお前の前に立ちはだかる。精々残された期間を楽しく過ごせ。猶予はもうないぞ!」

 

 ヴァスをくるくると回し、向けるのは──背後。

 アズサが先ほどまで隠れていた草木。ハハハ、お前さん、随分とその魔道具信じてるみたいだけどさ。

 

 敵に安藤さんがいるかもしれねェんだ──それを見破る装置が作られててもおかしかねェだろ。

 

 なァ!

 

「【天愍】!」

「ッ、散れ!」

 

 撃ちだすァ【極覇】の衝撃波。

 ハハハ──アズサを尾行すりゃ、弱った太陽の使徒を仕留められるとでも思ったか。

 いいねェ。その思考は好きだぜ、俺ァ。

 

 今じゃなければ手加減してやったがな。

 今の俺ァぷっつん来てンだ。目的を見失うな? あァわーってる。

 

 魔法、全部回収すりゃいいンだろ?

 

 ──両手で顔を掴む。

 

「!? ガ──」

「な、にッ!?」

 

 知らねェ魔法少女だ。恰好的に軍事部か。あるいは監視組かね、尾行なら。

 だがよ、遅いよ。精鋭ではあンだろうけど──遅い。

 

 掴んだ顔。2人だ。

 それを、地面に叩きつける。

 

「ギ、ぃッ!」

「かぁっ……!」

「【天愍】」

 

 裁定してから叩きつけたンじゃねェ、叩きつけてから裁定したンだ。だからダメージは少ない方だろう。それくらいの配慮はしてやる。

 目的を見失うな。そして、自分を見失うな。

 俺ァ殺人鬼じゃねェ。神さんは死んでないんだ。復讐者でもねェ。

 

 まだいる。

 いるが──いい。どうせA級だろう。こいつらの介護でもしてな。

 

 駆け出す。走り出す。

 途中で【隠涜】を纏い、さらに速度を上げる。

 

「零!」

「気安く……いやいい。今はそのような事態ではないだろう。なんだ」

「封印してある新造三神の様子はどォだ!」

「オレもそれは気にかけている。今のところ魔法少女らが来る気配はない」

「あァさ十分! ついでに、できたら宙の莽の様子も見ておいてくれ!」

「良いだろう」

 

 辿り着く。

 早いって? そりゃそォだ。ここはEDENじゃねェからな。

 

 ──元、国のあった場所。

 すでに木々が生え揃い、ここに国があったなンて誰も信じねェだろうソコ。

 

「馬鹿が。数か月でここまでになる方が不自然だろォが」

 

 発動するのは【喧槍】。

 1本でなく、数多の槍を作り出して──射出する。

 凄まじい音とともに地を剥がしていく槍は、しかし途中で止まる。砕けるよォに。溶けるよォに。

 

 反魔鉱石だ。

 だから続けざまに【鉱水】を発動。ソレを覆っている反魔鉱石をズルズルと引き剝がして──飛んできた苦無をヴァスで弾く。

 

 名乗りはしない。挨拶もしない。

 その姿を確認して、そのまま踏み込んでヴァスによる殴打。防がれた。苦無──じゃねェな、懐刀って奴か。

 何も言わない。両者何も言わずに戦闘が始まる。

 多量の暗器。懐刀。そして、ノーモーションで放たれる【光線】。あァさ、強くなった。文句なしのS級だろう。チャージ時間こそまだ必要みてェだが、どっから放たれるかわからねェ以上いつチャージしてンのかもわかりづらい。すげェよ。色々と努力したンだろう。

 

 ヴァスで横合いから殴打すれば、くるくる回りながら跳んで避けられる。縦ならば横。変形させて突けば往なされ、刺又にすればその小柄さを生かしてするりと抜けられ。

 あァさ、実は忍者じゃねェと言っていたな。だが──十分だ。十分、すごいぜ。

 

「【天愍】」

「ッ、遠隔でも使えッ──あ、ぐ!?」

 

 やったのァ単純。【凍融】で足凍らせて首掴んだだけだ。【天愍】は使ってない。

 どんだけ早くとも、みえねェ程じゃねェ。お嬢レベルじゃねェ。梓・ライラックの時より知覚神経の強化は上がってンだ。見続ける、なんざ簡単でね。

 

「1人じゃ、ねェだろ」

「──……」

「ま、言わねェよな。我が身の可愛さが第一だとしても、あそこはお前の居場所だ。それをむざむざ壊すくらいなら──死を選ぶ」

「……」

「そして、死を選ぶくらいなら──道連れも考える。お前がどんだけヒノモトの内情に関わってなくとも、その精神ってな受け継がれてる」

「!」

 

 全身にチャージしていた──体表のあらゆるところから【光線】を出そうとしていたその身体を、地面に叩きつける。それでも一切意思の衰えない目。

 いんやさ、今まさに放とうとしているソレ。

 

「下、だな?」

 

 笑う。

 全身から放てるはずの【光線】。けれど、地面の方に向けていた砲口を閉じたのがわかった。

 なるほど地下か。いいね、空に浮いてたEDENの代わりとしちゃ面白い。

 

「【光線】──ッ!」

「【天愍】」

 

 爆発するよォに光り輝くその身体。

 貫かれる。焼かれる。

 知らねェなァ。

 

 ──【光線】の球体に手ェ突っ込んで、それを簒奪する。

 そのまま行うのァ"役割の統合"。【光線】と【喧槍】を統合し、【光槍】として新生する。

 

 傷が塞がる。治る。

 反対に──さっきまで輝いていた身体から、光が失われた。

 

「貴女が、太陽の使徒、メイアート」

「そうだ。【光線】のユノン」

「……命乞いをすれば、助けてくれるんですよね」

「あァ。命を奪うつもりはない」

 

 ユノン。

 太腿忍者は──「良かった」と呟いて。

 

「助けてください。──死にたくないです、私」

 

 そう、言った。

 

 言った瞬間。

 

「ぁ……」

 

 地面が、崩れる。

 崩れる。違う。崩壊、ああ、違う。

 崩落している。落ちている。

 

 地下に新拠点がある?

 違う。違った。

 

 これは──これは、ただのバカでかい穴だ。

 

「ッ!」

 

 落ちていく。

 瓦礫に飲み込まれて、土塊に挟まれて──ただの人間になった太腿忍者が、落ちていく。

 

 飛行魔法を使用。崩落する地面を蹴り、太腿忍者に近づく。

 自由落下なんかより飛行魔法の方が速い。あァ、後ちょっとあとちょっとで。

 

 掴んだ!

 

「ごめんなさいです!」

「──ぐッ、が!?」

 

 掴んだ瞬間だ。

 太腿忍者は俺の体を引き寄せ、腕を捩じって俺の上に立つと、その身体を足場に、ぴょいぴょいと崩落する地面を駆け上がり始めたではないか。

 魔力は使えないはずだ。なら、単なる身体能力で、か?

 ンな馬鹿な。太腿忍者は魔法少女になる前は侍衆でも忍軍でもなかったはず。鍛える、なンてことはなかったはずなのに。

 

 わからねェ。

 わからねェけど、とりあえず体勢を立て直して──ア、ン?

 

 眠気?

 

「善意、ありがたく頂戴しました! お礼にコーネリアス・リヴィルさんの麻痺毒をプレゼントしたので、よく味わってくださいね!」

 

 上の方から太腿忍者の声が響く。

 コーネリアス・リヴィル。【劇毒】か。そりゃ確かに太陽の使徒にも効く毒が作れらァな。

 ハハハ──いいね。最後の最後まで狡い奴だ。自分の中では真っすぐで、他人から見りゃ虎視眈々ってな──それでこそだろう。

 

 だけど──毒?

 毒だって? おいおい、馬鹿言っちゃいけねェよ。

 俺ァフルオブズヴィトニーぶっ倒すよォな毒だって自らかっ食らったンだぞ。

 

 こんなもの──。

 

「朗報をやろう。貴様が現在落下中の大穴。底面に凄まじい魔力反応がある。魔石だな。それも……これは、【皇爛】か? なるほど、【皇爛】を魔石に込めるとは、中々、というより凄まじく器用な技師がいるようだな」

「それの何が朗報なンだよ!」

「言っただろう、魔石だと。それを自在に操り得る魔法を裁定しているだろう、貴様」

 

 発動するのァ【鉱水】。

 落下する。落ちる。

 着地する。した瞬間に爆ぜるはずのその魔石群──それを一瞬で【鉱水】に変える。

 液体に変じた魔石は気泡を多く持ち、その中に【皇爛】が揺らめいている。……なるほど、こォなンのか。

 

「朗報ついでに貴様に良い事を教えてやろう。EDENは貴様から見て丁度眼前だ。まっすぐに前だ。──あとはわかるな?」

「ほらな! やっぱり地面のトンネル工事のノウハウは意味あったじゃねェか!」

 

 が──前みてェにゆっくりはしねェ。

 北方山脈ぶち抜くくらいの勢いで……いや待て。もし避難が終わってなかったらどォする。A級以下の、俺が奪いまくった魔法少女達。それが逃げ遅れていたらどうする。EDENの下部ぶちぬいて落とした時、死んじまわねェか?

 

「貴様、妙に慎重になっているな。なりすぎている。ここまで教えてやるつもりはなかったが、いい。現在EDEN内に人間はいない。どこへ行ったかまではわからないが、いるのは魔法少女だけだ」

「……なンでンなことわかる。アンタにわかンのは魔力だけじゃねェのかよ」

「生命力もわかる。何度か貴様の生命力について触れたことがあっただろう」

「あァ、確かに」

 

 そうか。

 じゃァ──いいんだな?

 

「【天愍】」

 

 ぶち抜く。

 眼前、開けられたクソでけェ竪穴の底から水平方向に、EDENに向かって──これまた馬鹿でけェ穴をあける。

 何の支えもないンだ。当然上にあった地面は全部落ちてきて──その陥没した道の先に、あった。 

 崩壊したEDEN。ジーウィースと戦った時と何ら変わっていないそこが。

 

 波に乗る。【鉱水】の波。【皇爛】を閉じ込めた【鉱水】の波に乗って、その形を変えながら進んでいく。道中にあった鉱石の全てを取り込み、でかくでかく、高く高く──なァよ、マッドチビ先生。ドラゴンつったらよ、LOGOS型もアリだけど──こっちもアリだろ。ベルウェーク型は論外として。

 

 水神サマ(ドラゴン)、つったらコレだろうよ。

 

「さァさドラゴンのお通りだ! 炎蓄えた龍に食われたくなきゃ道開けなァ!」

 

 目的を見失うな。

 パフォーマンスは大事にしろ。

 EDENを落とすなンてのはいつでもできる。だから、今必要なのは──外辺邪退治と、ピンクカチューシャの裁定!

 

 そのための突撃だ!

 

 

えはか彼

 

 

「……この辺り、だと思うンだがな」

「あ、お帰りクロムクラハ」

「ん……アオン、何してンだ?」

「なーんにもっ。クロムクラハが突然どっか行っちゃってから、何もすること無いなーって。だから何もしてなかった」

「そォかい」

 

 いやはや。

 なんつーか、俺っつーのァどんだけ分裂したら気が済むのかねェ、とか思ったりして。

 冥界に置いてきたはずのアイツは太陽の使徒になってて。その本体は負け犬に乗っ取られてて。アズサはアズサでどこぞにいるンだろうし、俺は俺でもう完全に魔物だ。

 ……オリジン達も、みんな食っちまったしな。

 

「アオン」

「何?」

「俺、っぽいの。見なかったか?」

「???」

「あァ結構。まァ見たら覚えてるよな」

「うん!」

 

 そういえば、アオンの幼児化というか、年相応な感じがどんどん進行していっている。

 俺をクロムクラハにまで仕立て上げた時の狡猾さ、みてェなのはどこへやら、受け答えだけじゃなく知識量や思考回路までも、まるでもう役目は終わったとばかりにちびっこ相応になって来てるンだ。

 あんまり好きじゃねェ考えだけど、アオンは本当に俺をクロムクラハにするためだけに存在していて──だから、本当にそォなった以上、知識だのなんだのへかかってたブーストが消えたんじゃねェか、って。そう思う。

 

 そうなると困ったことに、コイツそんなに嫌な奴じゃなくなるンだよな。

 未だトラウマじゃねェけどそういうことされた、っつー苦手意識はある。ある、が……今のアオンに嫌な感じは覚えない。なんかふつーに慕ってくる子供、って感じだ。

 ……いんやさ、おじさんだからさー。おじさんはおじさんだからさ。結構厳しィんだよね。そう、普通に慕ってくる子を無下に扱うってのは。

 

 だからまァ、最近は普通に受け答えするし、普通に雑談することも多い。

 

「ちょいと、一緒に歩くか」

「え?」

「ん、嫌か?」

「……ううん! 行く!」

 

 なんか。

 今までぞんざいに扱ってきた分の帳尻合わせ、じゃねェけどさ。

 かまってやりたくなるっていうか。

 

 勿論アイツが今死ぬほど頑張ってンのもわかってる。

 でも世界のために誰かを蔑ろにする、ってな考えはまた別な気がすンだよな。早く殺されたい世界と、まだまだ生きていたい魔法少女。食い合って死にたい魔物と、何かを画策している魔法少女。

 

 まァ、等価だろ。

 命の重みに優劣は無い。──等しく無だ。

 ってなうるせェオーディンの言い分で、俺にとっちゃなンだろうな。等しく1かな。それは無と同じだってうるせェンだよ。

 

 もう、わかっている。

 アイツが俺をオーディンと呼ぶ理由。

 確かに俺の中にオーディンがいる。それは変えようのない事実であり、確かにこっちを乗っ取ろうとして来てるのもわかる。

 

 わかるけど、なンだろうな。

 俺は別に何の記憶も失ってない、っつーか。

 前世43歳のおっさんだったことも忘れてない。絵具髪から始まり、アイツが──病院の屋上から飛び降りたとこまで。いんやさ、それを助けた……助けられたかどォかはわからねェが、まァそこまでの記憶はある。んで神さんに拾われてこの世界に出されて。

 だから、やっぱり偽物扱いは……うーん、って感じ。

 冥界の魔力もクリスも魔煙草さえもアイツの手に渡っちまった辺り、世界の……なンだ、システム的な判定? では俺が偽物になったンだろうことはもう納得している。

 

 けど俺……俺かァ、っていう。

 

「ね、クロムクラハ」

「なンだ」

「クロムクラハは、好きな人っているの?」

「好きな人? ……いねェなァ。好いてくれてるっぽい人はまァ、いたし、いるンだが」

「それは私もそう!」

「へいへい」

 

 今ちょっとチクっと来ちまったなァ。

 俺は多分、このまま魔物っつか神のままなんだろう。戦いと死と太陽の神クロムクラハとして在り続けるンだろう。頂点に辿り着くまで俺が死ななきゃ……俺は俺のままなんだろう。

 多分、生身には。

 肉体……つまり魔法少女か人間には、戻れないンだろう。なんでって、多分、俺が本物じゃない、から。

 

 そうだとすると──お嬢とか、ポニスリとかとはもう、仲良くってな無理なのかね。

 まァ俺から拒絶したってなあるよ。神への対抗心を失っちまったあいつらを拒絶したのは俺だ。けど、全部終わったら、ようやくなんも考えなくて良くなったら、一緒に──とか、ちょみっとだけ考えてたンだけど。そのさ、告白云々はまだ自信ないし、恋愛対象にゃ見れねェけど……またお菓子パーティだのなんだのやってさ。

 平和、ってなを享受できるンじゃねェかって。

 そう、思ってたンだけど。

 

 無理そうだよなァ。

 

 だって。

 

「……なァ、アオン」

「なーに?」

「明日、世界が滅びるとしたら。お前、何がしたい?」

「クロムクラハと一緒にいたい」

「……そォかい」

 

 世界を殺す。

 聞こえるンだ。啜り無く声が。

 苦しい苦しい。殺して殺して。早く、誰か、どうか、お願いだから。

 ……ずっと、ずゥっと聞こえる。

 そんで──アイツにはそれを成す手段がある。

 だから、アイツは一刻も早くするだろう。それは正しい、と思う。正しいだと語弊があるか。

 

 なんつーかなァ。

 泣かないでくれ、ってさ。もうゆっくり休んでくれ、ってさ。

 そう言ってやりたい気持ちは、日に日に強くなっていくンだ。増していくンだ。

 

 でも、そのために。

 世界が死にたがってるから、殺して。

 じゃァ世界の中の人はどうなる。動物。魔物。植物もだ。

 

 ……困る、だろ。

 はァ。どうしちまったンだろうな。今の今まで、ついこの間まで俺はアイツとして動いてたのに。オリジン纏め上げて負け犬殺しに行って、世界も殺そう、って。そう思ってたのに。

 

 これもオーディン取り込んだせいなのかなァ。

 

「──そのために私達は新たな世界を用意したのよ」

 

 首に指を添える。

 俺の体はそれくらい素早く動けるよォになっている。

 

「ご登場たァ、余裕だな」

「ええ、もちろん。だって、触れた相手を即座に殺し得る魔法を持っているのだもの」

「ならそうすりゃいい。でもしねェだろ。なんで、って。こーやってのこのこ出てきたのは──俺を説き伏せて、言いくるめて、仲間にしてェから。ここまででなんか違うトコは?」

「……ご明察、とだけ。言っておきましょうか」

 

 はン。

 追い詰められた悪役のやることなンざ大体そうだろ。昼ドラでよく見たわ。昼食によく使う店がずっとおんなじch流してっから興味ないのに覚えちまったよ。

 

「え──クロムクラハ……と、あ、なんだっけ、えーと、あず、さ?」

「ええ、そうよ。こんにちは、アオン・ガフス。私が梓・ライラックよ」

「絶対違う……。あの子こんなお姉さんじゃなかった……」

 

 うん。俺こんなんじゃねェよ。

 それは合ってる。

 

「それで、何用だ。目論見は一発で外れた上で、何がしてェ」

「騙そうとしていたわけじゃないのよ。さっき言ったのは本当の事。この世界はもうそろそろ殺されてしまう。太陽の使徒メイアートを止めることはできないわ。だって背後に太陽神レイがいるのだもの。今はうまく渡り合っているゲヘナ達も、いずれやられてしまう。そうなったら──世界は本当に死ぬ。比喩ではないのよ。世界が死ぬの。殺される。そうしたら、世界に住まう者達も死ぬ。貴女も、アオンちゃんも、EDENの魔法少女達も、何もかも」

「──あァ、そうだな」

「だから、提案。私は新たな世界を作り上げた。本当はね、魔法少女は置いていくつもりだった。新たな世界にいる魔法少女は私達だけでいい。あとは人間だけでいい。魔法少女と魔物はこちらに取り残して、潰れ行く世界と共に死んでもらおう、って。そう思っていたわ」

「だが、そーも行かなくなった。ってワケだ」

「ええ。魔法少女は世界の役割というものを独占しすぎている。今、あちらの世界に人間を放っても、すぐに死んでしまう。世界が世界として機能していないから。だから、魔法少女を残していく、ということはできない」

 

 大体予想通りだ。

 あっちの世界が機能してねェってな初耳だが、アイツがあっちの世界に国が無かった、って言った時点でそォいう想像はできてた。

 

「それで?」

「けど、今。太陽の使徒メイアートが魔法の裁定を行っている。広がりすぎて、散らばりすぎて、魔法少女がいなければ移転は難しいと思われていた世界の移し替えは──メイアートが作っている"究極の魔法"

により解決する。アレをあちらの世界に還元すれば、あちらの世界は世界としての機能を獲得し、人間が住みうる環境になる」

「あァ、そこまではいい。理解してる。俺が聞きてェのはその先だ。俺に何を求めるか、だ」

「強奪を」

「……」

 

 やっぱりか。

 だよなァ。

 

「嫌だね」

「どうして? 国の人間に傷はつけていないわ。輝きの園の人間にもね。そして、今魔法を奪われた魔法少女達──つまり人間になった者達もあちらの世界へ招待するつもり。太陽の使徒メイアートは魔法少女の因子ごと裁定しているから、覚醒の心配もない。そうして彼女が全てを奪いきったら、それを貴女が強奪して、太陽の使徒メイアートごとあの世界を終わらせる。夜の使徒なら太陽の使徒は嫌いでしょう?」

 

 あー。

 魔煙草吸うか。ちょっと貰ったしな。いんやさ、アイツちょっとって言いつつ半分くれたンだよ。マジで俺って感じ。ちょっとやるよ、って言いながら渡した分が自分より少ないと変な罪悪感覚えちまうンだよな。超わかる。

 

「なンで俺が、アイツが頑張って集めたモンを掠め取らなきゃなンねェんだよ」

「……何言ってるの? 敵じゃない」

「じゃまずその身体俺に返せよ。俺がみんなと傷ついて、みんなと頑張って来て、時に敵対して時に背中合わせて、夢ン中でさえ頑張ってよーやく得た身体と魔法なンだぞ。それを横から掠め取りやがって。ンな奴の事信用できるか、ってンだ」

「い」

「いいわよ、っつって、返す代わりにクロムクラハでありオーディンであるコッチを奪うンだろ? 見えてンだよ」

「……じゃあどうしろっていうのよ。どうしたら貴女は私に協力してくれるの?」

「どーあっても協力しねーっつってンだよ」

 

 負け犬は──「そ」と言って。

 目の前から消える。ふん、やっぱりか。

 ンな簡単に首取られるようなヤツじゃねェ。【幻影】みてェな魔法持ってンだろうと思ったよ。

 

「少し、残念。だけど──」

「【断巻】」

「きゃ!?」

 

 まだ何かを言いやがろうとしてた負け犬と俺の間に刃の竜巻が生まれる。

 おー。

 

「偉い?」

「おう。すげェ偉い」

「偉くないわよ! どういう教育してるのよ!!」

「ウチは自由奔放が家訓でね。教育はしてねェのさ。ただまァ──うるせェ虫は早めに黙ってもらう、ってな常識でね」

「っ、この、【死漸】──!」

「悪霊退散、って奴だ。じゃァな」

 

 アオンを抱える。そのまま上空へ飛翔。

 更には亜空間ポケットから──何気無しに入れてあったツイウの家塞いでたでけェ黒曜石を出す。

 この攻撃方法かなり良いと思うンだけど、なンでみんなやんねェんだろうな。

 

「ちょ──!?」

「ハーハッハッハッハ! 魔法じゃねェただの石ころだ! 当たったら痛いじゃ済まねェぞ!」

「普通に死ぬでしょ──」

 

 声が遠ざかっていく。

 いやさ、アオンの判断は正しかったンだ。

 なんか、ずっとずっと嫌な予感がしててさ。

 

 早く上空に上がった方が良いって──死の気配がさ。

 

 直後。

 

「──……」

「しんだ?」

「死なれると困る」

「でもあれ」

「大丈夫だろ。アイツラスボス臭いし」

「らすぼす?」

 

 ──北方山脈をくり抜く、溶岩の蛇。

 魔法か、あるいは魔物か。わかんねェけど。

 

「……ちょいと、行ってみてェ場所があるンだ。ついてくるか、アオン」

「うん!」

 

 EDEN周りは、メイアートが暴れくるってるっぽいからな。

 危ねェ。

 

 なんで──俺は、始の点にでも行ってみますかね。

 ブゥリに会いたいし。アームドゥラは……わからん。あの牛も言葉わかるよォになってたりするンだろうか。

 

 

えはか彼

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