遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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114.地握恩逸羅止例具須.

 始の点。それはもう無残なものだった。

 輝きを放っていた外壁には無数の罅が入り、底面にあった輝きの園はその面ごとざっくりと持っていかれている。

 迷宮としての機能が残っているせいか、時折魔物が迷宮部分から落ちて──その身を溶かして死んでいく。迷宮の魔物は迷宮の中でしか生きられない。そういうことだ。

 

「わー、綺麗……」

「あァさ。俺も、初めて来た時にァ綺麗だと思ったもんだよ」

 

 逆さダイヤ。表現的にァそれが一番しっくりくるこの迷宮は、俺が魔法少女の頃に一度来て……けど、アレか。基本的に戦闘の全部は記憶失くしてた紺碧ベルトがやってくれたから、俺ほとんど戦ってねェんだよな。まァ迷宮外、っつか底部の井戸ン中の先にあった広い空間で、ドンパチやって……車椅子梓ちゃんになりました、と。

 懐かしい話だ。あァその前に右目潰されてたンだっけ。

 

 ……。

 

「クロムクラハ。あれ、なに?」

「ん」

 

 あれ。アオンが指差すソレ。

 ──前に見た時より、酷く弱った……弱々しく鼓動を響かせる、巨大な心臓。

 迷宮の主、ザグルス。外から見ると心臓に見えるだけで、中から行けば普通に魔物ってな話だが。

 

 ザグルス。あの時。俺が新生し、冥界へ向かわんとする前の話だ。聞かなきゃいけねェからって聞いた……無理矢理聞き出した、シエナが名乗ったホントの名前。座具留守。

 同じ名だ。シエナは始の点の迷宮の主を知らなかった。

 ……順当に考えンなら、シエナの精神体がザグルスってな話だろう。でもそれなら、始の点が稼働してンのがおかしい。ブゥリも「ザグルスに話をつけてくる」みてェな事言ってたし、ちゃんとザグルスはザグルスとしているはずなンだ。

 じゃァなんでシエナがザグルスなんて名をつけられているのか。

 そも──シエナは、負け犬の人格を分割して作られた存在、のはずだ。あんだけ言っててそォじゃねェってンならもう知らねェけど、人格分割型戦闘用ガーゴイルってンだから、そら人格分割して作られた戦闘用ガーゴイルなンだろう。

 そのあたりの考察ァまァ済ませてる。カシヨの村で、そして冥界で。

 

 だからおかしィんだ。

 ザグルスの入る隙ってモンがねェ。

 

「……とりあえず行くか」

「行くってどこに?」

「迷宮の内部さ。中腹……あー、休憩ポイントにな、いるンだ。ブゥリって奴と、アームドゥラって牛が」

「牛?」

「あァさ」

 

 うん。

 わかんねェよな、それだけじゃ。

 

「ってなワケで、俺達ァ中に行くけど、お前さんらどーするね?」

 

 背後に声をかける。

 背後。っつか、ちょい下。

 

「一緒に行く、って言うと思うのかしら」

「いんやさ、そォは思ってねェよ。お前らの目的知らねェしな。ただ、もし行くなら一緒に行った方が効率良いってだけだ。……魔法少女組ァ、なんぞ違う目的もってるっぽいしな」

「あ? なンだよてめェ、ナリコと冷静メイドの事信用してねェのかよ」

「んー、信用してェ気持ち2割、どォにもキナ臭ェ感じ5割。残り3割ァ勘だ」

 

 なンかな。

 気になるっつか──何用だろうな、って。

 俺はブゥリに会うってな明確な目的がある。こいつらは……まァなんかあるンだろ。風の使徒暦はあっちのが上だし。

 ただ、魔法少女が半壊した始の点に何用か、って考えると、ちょいとわからねェ。わからねェし、なんだかなー。ヤな予感がすンだよな。

 

「ぜんっぜん信用してねェのか」

「あァさ。ま、俺がそーってだけだ。お前が信じてェんなら止めやしねェよ、アズサ」

「……私は、別に。そもそも安直ちゃんがなンでここに来たのか知らねェし」

 

 前から思ってたけど、コイツ流されやす過ぎじゃねェ?

 なんか見てて心配になるわ。中学までたァ言え俺の記憶持ってンだろ? もー少し警戒心をだな。

 

「あー、寂しんぼ」

「……あ、私? そういえばそんなあだ名つけられてたわね」

「ソイツのこと、頼むよ。危なっかしい奴だからさ。お前らがなにするつもりか知らねェけど、あんま危ねェことはさせねェでやってくれ」

「なッ、何言ってンだてめェ! 母親面かよ! 気持ち悪ィからやめろ!」

「あァはいはい反抗期反抗期」

 

 飛んできた【終焉】を避ける。

 オイオイツッコミが本気すぎるだろ。お前それ一応【即死】と同等くらいにァやべェ代物だってわかってる?

 

「んじゃ俺達ァ行くから」

「貴女に頼まれる筋合いはないけれど、わかったわ。というか、別に危ないことなんてさせるつもりないし」

「あァさ、そんならいいんだ。……よし、アオン。しっかり掴まってな。爆速で駆け抜けるぜ」

「うん!」

 

 翼を広げる。

 ……コレも、元の体にァ無かったはずなのに、随分と慣れたなァ。いつからあったんだっけ?

 

 んー、まァいいか。

 魔法少女じゃなくなってから、物忘れが激しい……というか、普通の人間くらいの記憶力になったのはちょっと痛いンだよな。魔法少女ってな物事絶対に忘れないから。

 誰かの死を忘れる、なンてことだけは絶対に避けたい。それは俺の根幹だから。

 

 よし。

 マイナス思考終わり。

 これからブゥリに会いに行くンだ、再会は笑顔でしてェよな。

 

 ──背中から魔力を噴射する。

 別に冥界の魔力とかじゃなくて、普通の魔力な。

 落ちる角度は30度くらいで、見た目的にァ風なんぞ掴めるはずのない翼を何度かはためかせる。これがちゃんと速度に影響すンだから、ファンタジーだよなァ。

 加速。加速加速加速加速。

 既に太腿忍者の最高速度とおんなじくらいにァなってるはずだ。お嬢は知らねェ。多分お嬢のが何千倍も速い。

 

 その速度で、ぶっ壊れた迷宮の通路に入る。

 

「ク、クロムクラハ!? ぶつかる、ぶつかる!」

「大丈夫大丈夫」

 

 ──知覚を強化する。

 俺の体は精神体ではあるものの、顔やら肺やらってな形成されてる。全身全部がカタチあるワケじゃねェけど、知覚はちゃんと人間っぽくなってる。その上で透けるンだけどな。

 それを強化する。懐かしい感覚だ。

 オリジンらと食い合った時にこの術はより強靭になったと思う。特にマフクがな。あの夜叉、先読みして斬ってきやがるから結構肝を冷やしたモンだ。肝ねェんだけど。

 

 必要なのァ音だ。風の音。 

 どっからどこに、どォ流れてンのか。ぶっ壊れたっつっても上部の方は無事だから、普通に迷路をしている。魔物もいる。迷宮の魔物は自然湧き、あるいァ自然形成の魔物と違ってこっちの意思なンざ伝わんねェからな、本来は倒さなきゃいけねェんだけど──はは。

 

「アオン、耳の周辺だけ強化してな。身体強化、できるだろ? 前一緒にやったもんな」

「う……うん。わかった」

 

 三半規管オンリーを強化するってなコトができりゃ世話ねェンだけど、流石に人体構造を説明するのァ面倒なンでそういう指示を出す。

 身体強化。アオン程はS級はあるだろうからな。教えたらすぐに、たァ行かなかったけど、結構早めにできるよォになったよ。

 

 さて──いいね、世界が遅い。

 視界に映るモン自体はクッソ速いンだけど、強化が世界を遅くしている。爽快感はありつつ情報収集能力が上がった上で情報処理能力が逼迫してる、みてェな状態。

 いやァ、死地とかじゃねェけどさ。

 こりゃァ良い。今度林の中とかぶっ飛んでみようかな。

 

「っ、クロムクラハ! 前!」

「気付いているさ」

 

 前。

 そこには、木で作られたゴーレム。……いんやさゴーレムっつかぬりかべみてェな形なンだけど、まるで通路を塞ぐよォに立ちはだかるソレがいて。

 いたから、思いっきりスタンプキックしてぶっ飛ばす。

 再度魔力噴射で加速。ぶっ飛ばしたウッドゴーレムに乗っかって、翼で抑えつけながら先を行く。

 波も雪もねェがサーフィンさ。大丈夫大丈夫、こいつらゴーレムだから、こんな物理攻撃じゃ死なねェ。痛みも無いはずだ。

 殺し合いになンなら名乗り合いはするけどな、流石に邪魔だからどいてくれってな要求に名乗りなんざ上げねェし、そもそもコイツら名前あンのかわかんねェし。

 

 風の方向──は、右。ほぼ直角。

 なンでウッドゴーレム蹴っ飛ばして足を迷宮の壁に擦り付ける。精神体に摩擦力とは、って感じだけど、まァなんでかできるンで気にしないでほしい。オーディン取り込んでからこォいうの多いンだよな。実体と非実体を切り替えられるっつーか。

 まァどっちにしたって魔力こもった攻撃は通り抜けられないンだけど。そう考えるとやっぱりキラキラツインテはずるい。

 

 体勢を整え、曲がり角に来た瞬間にジャンプ。

 速度はそのまま、っつーのは無理だけど、完全に停止するよりァ速度保ったまま進んでいける。

 

「アオン、大丈夫か?」

「うん! 大丈夫。クロムクラハも、無理しないでね」

「無理ァしてねェさ。むしろ楽しんでる」

 

 風の方向。魔力の気配。

 強化された知覚は迷宮のマッピングをしていく。

 始の点は逆ダイヤってな形だ。だから上層に行くにつれ、狭くなっていく。終の因とは真逆ってことだ。

 だからまァ、この壁の高さでこォいう形で、あの外見の大きさならこうなってて……みてェなのが考えられる。外見と内側の大きさが違う、みてェなファンタジーは流石に無いンでな。亜空間ポケット以外。

 

 マッピング。懐かしい言葉だ。

 おじさんがまだ学生も学生だった頃はインターネットとかあんまり普及してなくてねぇ~、攻略サイトなんて無かったから、自分たちで紙にマップ書いて攻略していったんだよぉ~とか変なマウント取ってくる上司がいたなァ、とか。

 俺自身は学生の頃にゲーム自体ほぼやんなかったからそんななンだよな。大人になって若手との付き合いでゲームだのアニメだのを押し付けられることはあったけど……あァさ、懐かしいなァ。

 

「体感、もうそろなンだけどなァ。アオン、木々のざわめきとか川のせせらぎとか聞こえねェか?」

「あ、それならさっき通り過ぎた通路の上の方にあったよ」

「……あった?」

 

 急ブレーキ。迷宮の壁を蹴りつけるよォにして止まる。

 向かってくる迷宮の魔物はフルオブズヴィトニーの爪──自分で加工した奴──で作った剣で切り裂いて、アオンを降ろす。

 

 ふゥ。

 

「あった、って。なンだ? 聞こえたとかじゃなく?」

「ん-とね、なんかね、わかるの。風の場所? 風がいるところ? どこにどういう風がいるのか、わかるの」

「……ほーォ。成程、【断巻】が司ってるモンが風ってことか」

 

 マッドチビ先生の【鉱水】みてェに。

 アオンの魔法は役割として、風を担っているンだろう。

 

 ……とすると、ちょいと不味いな。

 アオンは覚醒したばっかだから対象外だと思ってたンだけど……アイツの、メイアートの裁定対象の可能性がある。

 別に俺ァアオンに魔法が無くてもいいとは思うけど、俺と一緒にいてェってンならこれ以上弱くなられるときちィ。

 

 どうにか便宜図ってアオンの魔法裁定するのァ最後にしてもらえねェかな。

 観察した限り、魔法奪った時点でァ死ぬとかは無さそうだし。

 

「クロムクラハ?」

「ん。あァ、なんでもない。じゃあその場所に連れて行ってくれ。魔物ァ俺が対処するからよ」

「わかった!」

 

 ……太陽の使徒メイアート。

 何の証拠があるってワケじゃねェ。本人の証言のみだが──アイツは俺だ。俺っつか、冥界で死にかけてる方の俺。ホンモノの、俺。

 ちょい、とな。

 ちょいと──好きにはなれねェなァ、って。

 

 過激無口と委員長。

 食うワケでもねェのに殺して……あァさ、勿論平気な顔はしてなかった。俺らしいっつかアイツらしいっつか、まるで自分が刺されたみてェに、それ以上のことされたみてェに何かを噛み締めて。

 でも、それするくらいなら……できたンじゃねェのか。

 反魔鉱石で包んで隔離するとかさ。【鉱水】も裁定したンなら、できるだろ。

 

 なんで……なんで、かねェ。

 

「ここ!」

「……梯子?」

「え、うん。でも絶対ここだよ!」

 

 梯子。

 あれ、前来た時普通に階段だった気がするンだけど。

 ……一応警戒MAXで行くか。迷宮つったらにがーい思い出があるンでな。

 

「俺が先に……いや、負ぶっていくから、乗りな」

「わかった」

 

 先に行く。あるいは先に行かせて──何かあるかもしれねェと至った。

 俺と一緒にいるのが一番安全だ。なんたって俺ァクロムクラハ。しかもオーディンとりこんだ、紛う方なき神格。非力な梓・ライラックじゃねェからな。

 

 さて──。

 

 

えはか彼

 

 

 

「あれ? 梓お姉ちゃん……?」

「……でっかい」

「おー、よく俺だってわかったな。気配はほとんど変質してるだろォに」

 

 梯子を抜けた先。

 そこは、特に何にも変わらない休憩ポイントだった。階段の時とは出る場所が違うって点はあれど、景色は何にも変わってない。

 

 中心にいるでっけェ牛と。

 

 その傍らにいる──でっけェ牛のさらにでっけェドラゴン。金色のドラゴン。LOGOSよりでけェドラゴン。

 やーっぱカッコいいよなァ、とか。

 これでいて声は少女も少女だから頭バグるンだよな。

 

「やっぱり梓お姉ちゃんだ」

「あァさ。久しぶりだな、ブゥリ」

「うん!」

 

 休憩ポイントは、なんつーか平和なものだった。

 基底部があんだけボロボロたァ思えない平和さ。木々のざわめき、川のせせらぎ、キラキラ光り昇っていく粒子……ん-?

 

 なンだこれ。

 

「く、クロムクラハ。大丈夫、なの?」

「何がだ」

「ここ……凄いよ。世界中より、ここの方が風がある。ここの方が──世界、みたい」

 

 知覚強化をする。

 魔力感知の強化。命の気配の感知強化。ついでにオーディン食ってからできるよォになった──熱量の感知の強化。

 

 ふむ。

 ふむふむ。

 

「やべェな」

「でしょ!?」

「あァ──ここ、こんなだったのか。前来た時は気付かなかった」

 

 凄まじいまでの生命力。

 命の根源にでも来たンじゃねェかってくらい、あらゆるものが満ち溢れている。それはアオンの言う通り、外の世界よりも厚く、重く、濃い。

 

「梓お姉ちゃん、そっちの子は?」

「ん……あァさすまねェ、ほっぽっちまってたな。コイツはアオンだ。アオン・ガフス。紹介としちゃ……なンだろうな。俺を魔物にした奴?」

「も、元から魔物だったじゃん、クロムクラハは!」

「そりゃそうなンだよな。だから……やっぱ俺を神にした奴、になンのかねェ」

「もしかして、ザグルスに会いに来たの?」

 

 おー。流石。流石の察しの早さだ。

 賢いンだよなーブゥリは。言動は幼いけどちゃんと賢い。うんうん。

 

「梓お姉ちゃん」

「ン?」

「ザグルスに会うなら……というか、会ってもいいけど、できれば、傷つけないであげてほしい、かな」

「あァそりゃ勿論。聞きてェ事あるだけだから戦闘はしねェよ。襲ってきたらまァ……逃げるか。ブゥリの頼みだしな」

「襲ってはこないと思う。ザグルスはあんまり戦い好きじゃないから」

「へェ」

 

 じゃァなんだ。

 あんまり戦い好きじゃねェ奴をぶん殴って服従させたのか脳筋娘は。こーわ。

 

「あ、そうだ。ブゥリ」

「なぁに?」

「輝きの園が持ってかれた時、お前らはなンかされなかったか?」

「何か来たけど、燃やして追い返したから大丈夫だったよ」

 

 そうか。

 そりゃよかった。

 

「んじゃまァ──」

 

 亜空間ポケットから石ころを一個取り出して、後方に射出する。

 状況も手段も違うけど、なんともまァ懐かしい感じだ。

 

「【侵食】──危ないですね、梓様。いえ──クロムクラハ様」

「何言ってやがる。この空間まるごと【侵食】しよォとしてたやつの言い草じゃねェだろ」

「失礼な。丸ごと、などという非効率なことはしませんよ。迷宮の要、ブゥリ様とアームドゥラ様。そしてアオン様だけです」

 

 流石にな。

 流石に──魔煙草を吸う。はァ、やってられねェ。

 どーしてヤな予感ってな当たるンだろうね。どーして、一番当たってほしくねェのが当たるンだろうね。

 

「え……え?」

「ブゥリ、アオンをどっか適当なトコまで連れてってやってくれねェか。お前らも奥まで避難しな」

「……わかった。アオンちゃん、こっちに来て」

「いんやさ、すまねェな。何度も何度もここを戦場にしちまって。心休める休憩地点での戦闘ァ御法度のはずなのによ」

「大丈夫。私も何度もやってるから!」

「あァそうかい。そんじゃ、心置きなく、ってな」

 

 亜空間ポケットから抜き出すのァフルオブズヴィトニーの爪の剣。

 加工は俺の口でやった。つまりガジガジ噛んでの形成だから、ガッタガタだ。だからこそ斬られたらクソ痛ェだろうが。参考にしたのは勿論クリス。俺のじゃなくなっちまったのが痛すぎる。

 

「どうあっても戦いは避けられませんか、クロムクラハ様」

「あァよ。ま、単なる乗っ取りだってンなら見逃してたかもしれねェが──ブゥリ達全員殺すってなると、俺も黙っちゃいねェってな」

「……お見通しでしたか」

「別にお見通しってワケじゃねェよ。さっきアオンに言われて気付いたンだ。お前らがなンで始の点に来たのか、ってな」

 

 吸う。

 フリューリ草に含まれた冥界の魔力が体に染み渡る。思考は純化され──性格が獰猛になる。

 オーディンはうるさいので黙っててもろて。

 

「世界の滅びは避けられねェ。その結論は、多分ニヤニヤ丸眼鏡やピンクカチューシャ、あるいはマッドチビ先生達をしても"確定である"と出ちまったンだろう。今メイアート撃退に動いてる下の奴らが知ってるのかは知らねェが、お上は無理だとわかっちまった。どーしようもないってな。なんせニヤニヤ丸眼鏡……最古の魔法少女がそっちにいるンだ。何もかもを知ってる夜の神がそっちにいるンだ。わかるってな不思議なコトじゃねェ」

「はい。ジャハンナム様の知識、プリメイラ様の計算、ディミトラ様の穴埋めにより──どのような方法を以てしても、世界は滅ぶ、と。なお、これらは特筆禁止事項……口外を禁止されているため、此度の同行者であるナリコ様ですら知らないことです。まああの方はあの方なりの感覚で知っておられるようでしたが」

「着物狐はそりゃな。アイツはオリジンだ。魔物の方が世界の現状は理解してるよ」

 

 世界は滅ぶ。

 必ずだ。当たり前だけど、延命措置たる始の点がぶっ壊れたンで、寿命で死ぬ。

 ただ魔法や魔力があるとその死を妨害するし、苦しみながら死ぬことになっちまう。それを避けるためのメイアートの行動だ。且つ早めるための――これ以上の苦痛を感じさせないための世界殺しだ。

 つまり、遅いか早いかの違いでしかねェ。この世界は必ず滅ぶ。

 

「──だから、箱舟が必要だった。ピンクカチューシャが造り上げた始の点……冥界の魔力を無害なものに変換する、っつー埒外且つあまりにも魔法少女にとって都合の良い機構を備えた迷宮。冥界の魔力を直接受け取っているはずなのに、全世界よりも濃厚で心地の良い魔力に溢れたココを見りゃ一目瞭然だ。EDENはここを手に入れりゃ万々歳。ここを手に入れて、ニヤニヤ丸眼鏡や製作者のピンクカチューシャらが始の点を再改造。世界の外でも存在できるよォにする。さらにァ迷宮としての機能を消しちまえば、はい完成。世界が滅んでも問題無い、冥界の魔力を濾過できる移動要塞始の点、ってな」

「お見事です、クロムクラハ様。──そして、その実現のためには、この迷宮の要たるブゥリ様、アームドゥラ様、ザグルス様がいては困ると──ジャハンナム様からのお達しでございます」

「ハ──」

 

 言ったのがピンクカチューシャでない辺り、アイツは反対したンだろうな。

 アイツ、自分の作品大事にするタイプっぽいし。あァだからアイツだけ神にならなかったのか? 始の点壊されたから。

 

 魔煙草の煙を形成された肺に入れる。

 ふゥ。ハハ。

 

「で、なンでお前なンだ。ニヤニヤ丸眼鏡がお前を直接任命したのか?」

「──障害となるのはクロムクラハ様、あるいは梓様であると、ジャハンナム様は見抜いておられましたので。お2方が最も戦い難いであろう私を、と」

「ハ──ハハハハ」

 

 あァさ。

 その読みは正しい。正しい──正しかった、だな。

 俺はメイアートじゃない。魔法の裁定なんざできねェ。その上で殺し合いに慣れてる。

 まァだからって魔法少女殺せるかっつったら否だ。

 否、だが。

 

「舐めすぎだァなァ、そりゃ」

「私を殺し得る、と?」

()()()()()()()と言っている」

 

 最も死に難い魔法少女。

 死を厭うが故でなく──その魔法の性質から、死に難く、生き延びることに長けた魔法少女。

 

 それだけ、だ。

 彼女の意識改革なんざ、いっちゃん最初に終わってる。何よりも、誰よりも。

 

「じゃあ聞くがよ、冷静メイド」

「はい」

「俺を殺せるか?」

「──」

 

 金髪お嬢様やポニテスリットよりも──俺に近い。 

 それは、だって。

 暴走繭を愛しているから。あの日。クルメーナから逃げて、負け犬のアジトの砂浜で言い合った暴論ってな、そう簡単に忘れるモンじゃねェ。

 なァ。

 冷静メイド。それさえも忘れちまってンなら──。

 

「成程。いえ、おかしいとは思っていたのです。魔法を失ったエミリー様。単なる人間となり、身を護る力を失ったあの方を1人にしておく、など。そんな危険なことはありません。姉や他の魔法少女がいるとはいえ、この私があの方の元を離れ、貴女を殺しに行く、など。そんな命令を受け入れること自体がおかしい。おかしいけれど、自身で決めた事ですから──おかしくはない、と」

「あァそりゃ確かにそうだな。なンでお前さんここにいる。お前さんである必要ァ無いだろ」

「はい。全くその通りで。──……なるほど、そのための接吻ですか。同じ精神感応系による相殺? まったく、あの方は行動が読めませんね」

 

 何やら1人納得してる冷静メイド。

 安心する。必要が無いっつーのは、俺も冷静メイドも互いを殺したくはねェはずだって意味だ。

 

「──お気を付けください、クロムクラハ様。当然、私だけではありません。他にも来ています」

「【白亜】」

褪戦死遠(【死漸】)

 

 吐き飛ばされた指をキャッチする。

 それを近くの木に付けてやれば──ずぞぞぞ、と。冷静メイドが出てきた。

 

「ま、どこにいンだろな、たァ思ってたよ」

「……梓、なのね」

「あァさ久しぶりだな銀バングル。本当に、久しぶりだ」

 

 服を着る冷静メイドをおいて、気さくに喋る。あっちはおっもい顔してるが。

 本当に久しぶりだ。

 

「成程……凄まじいまでの生命力だ。ここならば、確かに」

「そっちも久しぶりだなァおい。俺の事覚えてるか? 指揮官殿」

「貴様のような魔物と知り合った覚えはないな」

「そうかい」

 

 いつぶりか。

 ベルウェークの討伐時以来か? ハハハ、勢揃いも勢揃いだなァ。

 

 んで。

 なァ──ハハ。

 俺ァ、それを"気に食わねェ"と称すぜ。

 

「本当に、いた」

「よォ。お前さんも久しぶりだな。後ろのも含めて。──なァ、わかってるか? てめェらの扱いは"捨て駒"っていうンだぜ。──なァさ、波ヘアピン」

「──クロムクラハ!!」

 

 核さえあれば、魔法少女は蘇生できる。

 蘇生槽はEDENが新たに作りやがってた。

 あとは──波ヘアピンが、EDENに辿り着きさえすれば。あるいはメイアートが蘇生槽を壊す前に辿り着いてた可能性もあるが、まァそういうこった。

 

「さて、冷静メイド。準備はいいか?」

「はい。問題はありません」

「いつぞやのクルメーナと一緒だ。──拘束する。安心しな、硬い石ころならいくらでも持ってるからよ」

「承知いたしました。──骨折程度はアリですか?」

「アリだ。背骨とか、大事なトコ以外はな」

「甘くなりましたね。ナシだ、と言われると思っていました」

「ハハ、まァアレだよ。──俺も尖ったってことさ」

 

 翼を大きく広げる。

 周囲の魔力を掌握。これはオーディンの力だ。移り変わる権能。自分を相手に移したり、相手を自分に移したり。

 俺にソレが効かなかったのはまァ単純に容量の問題だろォが、それはおいておいて。

 

「まずは一発でけェの行くぞ。適当に防いでみなァ!」

 

 親指、人差し指、中指を閉じて魔法少女らに向ける。

 あァ、これさえも懐かしい。俺がやったンだったか。それとも誰かが俺にやってきたンだったか。

 

 それとも、俺じゃない誰かが、俺じゃない誰かにやられたンだったか。

 

褪戦死遠希風川(ヴァン)!」

 

 食いもしねェ奴ら相手に世界言語ァじり貧になるンだがな。

 それでも一発目の恐怖は大事だろう、ってな!

 

えはか彼




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