遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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116.脳又訪藤有微噛夢,有阿須散琉地制無

「【飲影】」

「ではまず貴女様から、ということで」

「何ッ!?」

 

 戦闘は熾烈──ではなかった。

 クロムクラハに向かう魔法は騒々しいが、決着は静かなもの。

 コーネリアス・ローグンの恐ろしさを知らない群塔魔閣の者達が、次々と無力化されていく。ロクな情報共有もされていない、文字通りの捨て駒。

 

 まだ。

 クロムクラハは、割り切れていない。

 あれ程の魔物を殺し、食らいながら──魔法少女を殺す、という決心がついていない。それは一朝一夕でつくものではないし、この先に在ってもつかないものなのかもしれない。

 必要であれば犠牲も仕方がないとするアズサ。自分以外の要因で死ぬというのならその前に手を下さんとするメイアート。

 

 フェリカ・アールレイデ達はクロムクラハを「変質してしまった」と称したが──元の梓・ライラックに最も近いのはクロムクラハなのかもしれない。他が、あまりにも変わり果ててしまったから。アズサ等はそもそもが別人なのだが。

 だから、というわけではないけれど。

 クロムクラハは──少し、迷っていた。

 

 最初の一撃。世界言語で再現した希風川(ヴァン)による魔法少女側の被害はそれなりに甚大。【壁塞】の魔法少女やその他防御系の魔法少女がギリギリだとしても防ぐと思っていた──それが起こらず、各自散開して、避けられなかった者は捨て置く、などという戦法を取ってきたものだから、やっぱりクロムクラハは困っていた。

 つまり、これ以上を出していいものか、と。

 これ以上の事をしたら──死んでしまうのではないか、と。

 

 それを見て、だろう。

 再びクロムクラハの傍に戻ったコーネリアス・ローグンが、ある提案をする。

 

「クロムクラハ様──これは余計なお世話かと思われますが、1つ」

「あァ。余計なお世話じゃねェだろうから、頼む」

「救援を。呼ぶべきです」

「救援? 何言ってやがる。俺の仲間なんざ、アオン以外は大体食っちまったよ」

「クロムクラハ様。貴女がたとえ、自らを魔物や神と定義しようとも──貴女を貴女であると認識し、駆け付けた者が近くに待機しています。立場上自ら、というわけにはいかないのでしょう。ですが、貴女からの救援要請が入れば動き得ます。ですから──」

「あァ、いいよ。わかった。何がいいてェのかわかった」

 

 クロムクラハは──拳を大きく握る。周囲の魔力がそれに連動し、うすぼんやりとした拳の形を作り上げた。

 身構えたことだろう。EDEN、S級の魔法少女達や、群塔魔閣の魔法少女達は──どんな攻撃が来るのか、と。

 だが、甘い。それはクロムクラハを理解していなさすぎる。

 そっと。静かに耳を塞ぐコーネリアス・ローグン。

 

「あァさ──マッドチビ先生!!」

 

 叫ぶ言葉は魔力で形作られたトンネルによって増幅される。爆音だ。周囲、始の点の壁さえもビリビリと揺らすような大音量。爆音。

 飛行魔法を用いていた魔法少女らが堪らず落ちていく中で、それを粛々と拘束していくローグン。音波、音撃とでもいうべき声は未だ続いていて──だから、来た。

 彼女は期待に応えるだろう。何故なら今までの鬱憤がたまりにたまっているから。

 

 それは。

 その、銀の龍は──始の点の壁を叩き割って現れる。否、良く見ると割られる前に自ら開いたようにみえなくもないが、とにかくこの緑豊かな休憩地点に、超巨大なガーゴイルが出現したのは事実だ。

 首についたハッチが開く。

 出てくるのは勿論──。

 

「アンタね! 遅いのよ! 戦いが始まった瞬間に呼びなさいよ!」

「ふむ……さて、アインハージャでもないヒトの身でどこまでやれるか……」

「ウィジ、下がってて」

「リジ、それはできない相談だ。アインハージャでなくとも、私はウォムルガ族の戦士。戦場を前にして逃げるなどあり得ん。違うか?」

「邪魔だから下がってて」

「……断る」

 

 どこか雰囲気の変わったマッドチビ先生に、アインハージャの2人。シエナはいないのか。

 だが、なンだ。

 これで──。

 

「5人体制……ハハ、なんだかんだ言ってこォなンのか?」

「前と違う点があるとすれば、梓様が役に立つ、ということでしょうか」

「うっせ」

 

 正直、助かる。

 魔法少女を殺す。人間を殺すってな──やっぱり、俺にァ無理だ。割り切れねェ。だって魔法少女を殺したって何の糧にもしてやれねェ。命が1つ減るだけだ。俺の糧になるってンなら少しは考えようもあったのかもしれない。そうだとしても殺せなかった可能性のが高いが。

 だから──やっぱり、メイアートは……ちょっと、難しい。対応が難しい。

 エルバハ・イドラを殺したという。そして、俺の目の前で委員長と過激無口を殺した。そうする他無かったことはわかっているけれど、逆に守るくらいはできただろうに。

 

 ……覚悟ができてねェのは俺だけ、なのかねェ。

 

「つか、マッドチビ先生戦えンのか? 【鉱水】無いンだろ?」

「アンタは知らなくていいやり方っていうのがあるのよ。ほら、ウィジ。槍を作ってあげたから、使いなさい。【鉱水】のそれよりは強度の無いものだけど、アンタならやり方はいくらでもあるでしょ?」

「助かる!」

「……俺の知らなくていいやり方ってこた、外道の類か。マッドチビ先生、だもンなァ」

「知らなくて良いって言ったでしょ! あと魔煙草! 1本私に寄越しなさい。ないとやってられないのよ」

「へいへい」

 

 起動した状態のものを投げれば、突然床から生えてきた樹木がそれを受け取り、マッドチビ先生の所まで運んだ。

 ……【鉱水】じゃ、絶対ない。これは。

 

「【樹意】……?」

「さぁね。で、アンタのお望みはどうせ無力化なんでしょ? いいわ、【鉱水】ほど自由自在に、とはいかないけれど──全員何もできないようにからめとってあげる」

「ディミトラ様。あまりこの場を壊すことのないようにお願いいたします」

「壊れたら直せばいいのよ!」

「ローグン。今のディミトラに何言っても無駄。頭の中ぐちゃぐちゃなんだって」

「ローグン。今のディミトラはかなり無理をしている。あまり複雑な指示をしないでやってくれ」

「うるさいわよ!!」

 

 マッドチビ先生にァ絶対に使うことのできない魔法。頭ン中ぐちゃぐちゃ。かなり無理をしている。外道行為。

 ……大体絞れたが、まァいいさ。そォいう人だって知ってる。そもそも魔法少女の精神体をガーゴイルに入れるのだって、魔物の精神体をガーゴイルに入れるのだって、受け入れることができたかっつったら微妙だしな。

 

「……ディミトラ」

「あら、オーレイアじゃない。なるほど、アンタが派遣されてたのね。他の子は?」

「……結と知子は別行動。フィニキアとケトゥアンはEDENで──太陽の使徒と対峙しているはずよ」

「へぇ、あんなに大事にしてきた子達を置いてきたのね。──それほどこっちの任務が大事だった?」

「当然。魔法少女の存続のために。それは私達の存続のためでもある。……ディミトラ。ほんの少し前までは、私達良いお付き合いが出来ていると思っていたのだけれどね。それは幻想だったのかしら」

「変わったのよ。情勢も、立場も、私も貴女たちも」

 

 そうか。

 遠征組調査班オーレイア隊と、マッドチビ先生は──因縁がある。浅からぬ因縁だ。利用された。その後のことも、その前からも。俺に纏ろうことであると同時に──様々な事の始まりとなった事件。その加害者と被害者。

 

「──どんな因縁があるのか知りませんけど──【水縄】」

「【静弱】」

 

 飛んできた水の縄を半透明の盾が防ぐ。

 赤い粒。翼を広げ、赤スカーフの体を掴んで急上昇する。

 

 起こるのァ──爆発。

 連携、になンのかね。【水縄】の中に【爆塵】を仕込んでぶつけてきたンだ。【水縄】自体は【静弱】でつぶれるが、それによって外に排出された【爆塵】は想定通りの効果を発揮する。

 つまり、【静弱】の盾なんぞ関係なく、周囲を巻き込む大爆発だ。

 相手さんはそれをわかってる。だからハナから【壁塞】で自分たちを覆っている。

 ──銀バングルやEDENの魔法少女以外。

 

 まだ連携が出来上がってねェとみるべきか──なんぞ、無駄なプライドでもあるか。

 

「まァお相手さんの言う通りだぜ、マッドチビ先生、銀バングル。ここァお喋りの場じゃねェんだ。逆らう気が起きねェくらいのコトして、EDENにも返さねェままここで縛り付けて置こうぜ」

「へぇ、アンタにしては良い考えじゃない。逆らう気が起きない程の調()()ね。腕が鳴るわ」

「そういうことでしたら私の亜空間ポケット内にとっておきの媚毒ポーションがありまして」

「お前まだそれ捨ててねェのかよ」

 

 あァ、ダメだな。

 こいつらといると一気に和気藹々しちまう。和気藹々するとは。

 

 ……しっかし、なンだ。

 この様子だと──知らねェんだろうな。委員長と過激無口が死んだこと。

 そりゃそうだ。俺やLOGOSの飛行速度ってな、魔法少女の飛行魔法の何倍もある。着物狐の紙燕もそォだろう。

 だから、銀バングルがEDENを出た時にァまだ壮健で。

 その道中に──か。

 

「銀バングル。お喋りは後っつったのァ俺だが、1つ聞いて起きたい」

「……貴女は、梓、なのよね。何?」

「生きてェか? それとも──生きていてほしいか?」

「……? よくわからないけれど──私だけが生き残りたいとは、一時たりとも思ったことはないわ」

「そォかい」

 

 俺はもう、夜の使徒じゃねェ。変わったつもりァ無いンだけど、そんな気がする。神さんの声聞こえなくなっちまったしな。

 だからこの質問に意味なンてなかった。生きてェと抗うンならそれに立ちはだかるのが夜の使徒だが──誰かを生かすために死を選ぶのなら、風の使徒はその道に靄をかけよう。

 

「だったら、戻った方が良い。光眼鏡と虹色ロング。()()生きてるンだ。隊長として、あるいは恋人として。そっちを守りに行きな」

「……どう、いう」

「そのまんまだよ。──過激無口と委員長ァ死んだ。太陽の使徒によって殺された。アンタが近くにいなかったからだ。──生かすために、生存のために尽力してるってンなら、逃げろ。こっから。帰れ。今すぐまだ生きてる2人のトコに向かえ」

 

 亜空間ポケットから取り出すは──フルオブズヴィトニーの爪剣。

 この世のあらゆるものを切り裂く、たァ誇張された文言じゃねェ。クリスと、なンだっか、あれ。ヴァスだっけ。アレ以外は確実に斬れる。この世のモノであればどんなものでも切り裂ける。──その威圧感は、この場にいる全員に伝わった事だろう。

 これは死の象徴だ。彼女が登り詰めた高き場所。冥界という死にほど近い位。

 魔法少女が魔物と大差ないというのなら──わかるだろう。

 

「手足が無くとも、生きてァいられる。それは俺が証明してる」

「待って、まだ話は……」

「最後の機会だ、と。そォ言ってンだよ。未練があるなら。心残りがあるなら。行け。俺はもう夜の使徒じゃない。だから、生きようと抗うてめェらの前に立ちはだかるよォなことはしない。行け。帰れ。踵を返せ。ここ──始の点は、戦いと死と太陽の神クロムクラハが占拠した。それでも向かうというのなら、容赦はしない」

 

 全身強化。

 複数の足音。溜息は吐かない。それはもう、覚悟への侮辱だ。

 

「魔物風情が──」

「クロムクラハ!」

「今更、」

 

 斬る。

 俺の技量じゃねェ。フルオブズヴィトニーの爪の切れ味が良すぎるンだ。どんなに強化されてたって、少女の手足程度のものァ一瞬で切り裂ける。何の抵抗も無く、何の引っ掛かりも無く。

 6人の少女が、その四肢から血液をぶちまけた。

 

「──殺せ、梓」

「ア?」

「このまま失血を待つつもりか? どの道死ぬのだから──自身が手を下さぬように、とするか?」

「……何言ってンだ青バンダナ。手足失ったって魔法少女は」

「なら、私がやろう」

 

 ざく、と。

 止める暇なんかなく──青バンダナは、その手に持つ木の槍で、最も近くに転がっていた少女の首を貫いた。

 

 ……。

 

「何やってンだ」

「殺してやったのだ。苦痛は嫌いだと、お前は言っていたはずだ。私達と出会う前はそうしていたのだろう? フェリカから聞いたぞ。怪我を負い、部位を失い──そうして苦しむ仲間を、それから解放するために殺してやっていた、と。それがなんだ、梓。苦痛を負わせる側になったのか」

「──」

 

 それは。

 そう、だ。俺は。今まで、ずっと。

 

「傷をつけずに無力化する、ということがどれほど難しいか、お前は知らん。【即死】などという魔法とずっと付き合ってきたのだ。それも致し方ないだろう。だがな、梓。四肢を失ってもまだ生きていられる、など──アレは、ディミトラや他の者達の尽力があったが故だ。お前は何度も死にかけてきた。その死地から蘇ったのは、お前が強かったからではない。お前に仲間がいたからだ」

 

 青バンダナ──ウィジは、言う。

 裁定によって単なる人間となった少女が、俺をまっすぐに見つめて言う。

 

「わかっているのだろう。この者達は捨て駒だ。ジャハンナム。アレが今EDEN上層部にいる、というのがどういうことか考えろ。()()()()()ということだ。私達の知らない、魔法少女を尖兵扱いするEDEN。よく見ろ。彼女らは仲間などではない。寄せ集めの尖兵だ。()()()()()()()()()だ」

 

 また、1人。

 また、1人。

 ウィジは──殺していく。四肢を失い、苦痛に喘ぐ魔法少女達を。

 

「殺せ、梓。殺せぬというのなら、下がれ。邪魔だ。どれほど高位の魔物になろうと、神と呼ばれる存在になろうと──お前が変われぬというのなら、それまでだ。戦いと死と太陽の神、だったか。なるほど、お前の肩書には殺しが入っていない。必然ではあったのかもしれないな」

 

 そして、最後。

 木の槍を振り上げたウィジに──倒れ伏す魔法少女が、ニヤリと笑う。

 

 逡巡。

 そんなものァ無い。俺にとってどっちが大切か、なンて決まってる。俺は結局そォいう奴だったンだ、なンて後悔は後にしろ!

 

「【自爆】──!」

褪戦死遠(【死漸】)!!」

 

 フルオブズヴィトニーの爪剣から、死飛沫が飛ぶ。

 間に合うか。魔法ごと──魔法少女も殺す魔法。それは放つつもりのなかった絶対。

 

 間に合うか。

 間に合う──。

 

「ワケが、無いだろう。ライラック。近接に、チャージ時間は、無いのだから──」

 

 光があふれる。光だ。熱だ。

 これが【自爆】。死飛沫じゃダメだった。直接殺しに行かなきゃダメだった。否、たとえ直接殺しに行っていたとして──【自爆】の発動後じゃ、意味は無かったのかもしれない。

 だから後悔は後にしろ。俺の体は丈夫だ。この一撃でどォにかなるこたない。多少のダメージは避けられないが、死にはしない。

 

 ンなことより、青バンダナを。ウィジを。

 

 

「──見てられねーなぁ。ちっと眠ってな、クロムクラハ」

 

 

 その声は──内側から聞こえて。

 

「【移様】」

 

 俺の意識は落ちて。

 

 

 

えは

 

 

 

「行くわけねェだろ、クソが、出てくんじゃねェ!」

 

 一瞬奪われかけた意識を取り戻す。

 クソ、どォなった。状況は──。

 

「……ああ、クソ」

 

 左腕に、青バンダナを抱いていた。

 目の前にァ──凄まじい爆発があったのだろう、未だ深紅に燃える草原と、円状に焦げた地面。四肢を失い、殺された魔法少女も纏めて爆散している。

 防衛組防衛班ジュニラ隊が【自爆】のジュニラ。その等級区分は、S。

 

 名に恥じぬ、という奴だ。

 

「……お前は、梓か」

「もう、違うンだろう。それは俺がよくわかってる。抑えつけてたつもりだったが、隙をついて出てきやがった。あァさ──今のが、オーディンだ」

「そんなことは聞いていない。お前は梓か、と。聞いている」

「……自覚はそうだよ。でも、クロムクラハでオーディンなのは事実だ。俺はもう……」

「うるさい。聞いてもいないことを喋るな、梓」

 

 俺の左腕に俵抱きにされたまま──言う。ウィジは、言う。

 

「お前は梓か? 死を忌み嫌う梓・ライラックか?」

「だから、そォだよ。俺は梓・ライラックだ。他の……どんな奴に、なんだって命名されようと、名義されよォと、定義されようと。俺は梓・ライラックだ」

「そうか」

 

 俺の手を振り程いて、青バンダナが下りる。

 

「ウィジ!」

「リジ。どうした」

「大丈夫?」

「問題ない。梓が守ってくれた」

 

 オーディンを抑え込む。守ったのはオレ様ってうるせーよ。

 

「梓」

「なンだ。まだ戦闘ァ終わってねェぞ」

「殺せ。覚悟を決めろ。今、お前は梓として、私を優先し、ジュニラを殺さんとした。今の【死漸】が当たっていれば、ジュニラは死んでいた。確実だ。緊急事態だったから、など理由にならん。殺せ。お前はもう殺す覚悟ができている。悔やみはしよう。苦しみはしよう。だが──仲間を守るために敵を殺さんとする覚悟が」

「すまねェ。それはできてねェ。無理だ。俺は魔法少女や人間を殺すってなできねェ」

 

 続きそうだった言葉を遮る。 

 無理だ。俺にはできない。さっきの【死漸】だって、【自爆】を殺すためのものだった。

 青バンダナは生粋の戦士だ。俺とは違う。覚悟なンて、いつまで経ってもできる気がしない。

 

 踵を返して戦場を見る。

 ほとんど、圧倒してる。拮抗のキの字もない。

 マッドチビ先生と冷静メイドが強すぎる。あの2人だけで制圧できンじゃねェかってくらいの強さだ。マッドチビ先生なンか本調子じゃねェってのに、よくもまァやるもんだ。

 

 あとは──こっちに残ってる、銀バングルか。

 

「梓、話を聞け」

「聞かねェ。聞いたって変わらねェ。お前は自分が強い事を自覚しろ。ゴミみてェに弱い俺に信念なンざ押し付けてきてンじゃねェ」

「ウィジ。梓の言う通り。アインハージャの、ううん、ウォムルガ族の教えを押し付けてはいけない。梓は少し前まで戦いも知らなかった子なんだから」

「リジ。だが、今が最後の――」

「ウィジ。……こういうことは、言いたくないんだけど。今の危険も、ウィジに力があれば自分で対処できた。ウィジがただの人間だったから、梓は動こうとした。足手纏いになっているのは梓の覚悟じゃない。貴女」

「む……」

 

 わかっている。

 俺が間違ってンのはわかっている。命のやり取りの場で、ずっとずっと迷ってる俺が悪いのァわかりきってる。

 それでも割り切れねェ。それが俺だ。

 ──いつか、メイアートに聞いてみてェもんだ。その辺り、どォ思ってるのか。

 

「こっちでゴタゴタしててすまねェな、銀バングル。で、どォだ。答えは出たか?」

「……あの時から何も変わっていない貴女を見せつけられて、こっちの覚悟が定まると思うの?」

「あァ。だってそっちは簡単だろ。助けに行くか、行かないか。行くンなら邪魔しねェ。なんなら送ってってやる。行かねェならあっちで樹木や石にぐるぐる巻きにされてンのと同じ道を辿ってもらう。【白亜】化した場所ァさっきできたからな、手段は同じだ」

「……」

 

 そろそろ──決着がつく。

 気のせいじゃなけりゃ、明らかに【樹意】以外の魔法も使ってるよォに見えるンだが、何かね。【四象】みてェな魔法なのかね。

 

「2人は、死んだのね」

「あァ。魔法少女として、じゃねェ。太陽の使徒に魔法を奪われて、人間になった上で死んだ。俺ァそれを確認してる」

「そう。──そう」

「"あの子達も任務を果たしたのだから、私も"──とか、考えてねェよな」

「いいえ。さっきの会話を聞いていたからじゃないけれど……私も、そんなに強くはないのよ。……そっか。ホントに、死んじゃったんだ。そっか」

 

 銀バングルは……その場に座り込んで。

 疲れた、とでもいうように。膝を囲って、顔を埋めて。

 

 ……。

 そうだよな。クるよな。調査班は……長年メンバーが変わらない。文字通り身を引き裂かれるよォな思いだろう。

 この作戦を了承したのだって、冷静メイドと同じでニヤニヤ丸眼鏡になんかされたンじゃねェかと睨んでる。

 

「連れて行って、と言ったら。本当に連れて行ってくれるのかしら」

「あァ。俺は殺しはしねェ。……見殺しにも、しねェ。行くなら手を取れ」

「……ええ」

 

 フルオブズヴィトニーの爪剣をしまう。

 そして、手を差し伸べる。

 

 銀バングルは、その手を──。

 

 

えはか彼

 

 

「【天愍】……魔法と権能の統合など聞いたこともないが、どう見る、プリメイラ」

「やばいのだ。今は単なる衝撃波として使ってるけど、もっとやばいことがたくさんできるのだ」

「それはそうだろうな。ジーウィースを分断して異空間に飛ばしたあの技を見るに、様々な役割を持っていることに違いはないだろう」

「何よりもやばいのは、プリメイラ様を含む魔法少女の最大の天敵である太陽神レイがメイアートについている事なのだ。レイにだけは勝てないのだ……」

「レイ自身が出てきたら私が抑えるのだがな。使徒相手では、私も手こずろう。普通に死ぬかもしれん」

「死にたくないのだ……。せっかく梓から"物書きとして平和に生きろ"って道を与えられたのに、太陽の使徒に殺されるのも、世界が滅んで死ぬのも……嫌なのだ」

「ふ、ならば抵抗するしかあるまいよ。──なぁ、そう思うだろう。キリバチ」

 

 ゲヘナとプリメイラ。

 2人が座る机の、先。いくつかの作戦が書かれたコルクボードに──彼女は磔にされていた。

 

 目は潰され、手足には杭が打たれ。

 まるで見世物のように体を大の字に開かれ。

 

「……期待、したのだがな」

「ふん、何をだ?」

「旧友が……改心したと。同胞のために、尽力するように、なったのだと」

「……クク、それは……希望的観測が過ぎる。それに、旧友だと? 笑わせる。私が生きてきた時間と、貴様に出会ってからの時間。どちらが長いかなどわかりきったことだろう。──当然、野望の大きさもな」

 

 無残に潰された目で、キリバチはゲヘナを睨む。

 杭の打たれた手足から出る血はもう固まっている。ただ痛みだけが彼女を苛む。

 

 そして、その様子に──プリメイラは気付かない。

 いることさえ、わかっていない。

 

「そういえば、ゲヘナ。1つ考えがあるのだ」

「なんだ、プリメイラ」

「封印措置を受けた、あたし達以外の魔法少女。あれも解放したらどうなのだ? 悪行からの封印であるなら、戦力にはなりそうなのだ」

「それは……どうだろうな。一応言っておくが、私が在任期間中での封印措置だぞ? その意味がわかるか?」

「あー。残忍冷徹無慈悲ゲヘナからしても封印しておいた方がいい、って思ったのだ?」

「よしよし、では残忍冷徹無慈悲ゲヘナ様から貴様に言い渡すことがある。早く勝利の物語を書け。締め切りはとっくに過ぎているぞ」

「ウッッッッ!? し、締め切り……嫌なコトバなのだぁ!」

「もうすぐ冥界に行ったSS級らが帰ってくる。イントロストップ、脳眠、ソテイラの封印結晶も持ち帰るよう指示をしたから、貴様の元班員にも会える。良い報酬だろう?」

「……わかったのだ。頑張って書くのだ」

「そうしろ」

 

 言って、部屋を出ていくプリメイラ。

 ゲヘナは少しばかり笑って──キリバチに向き直る。

 

「どうだ、キリバチ」

「何がだ」

「──世界の様相は」

「滅びは、避けられない……のだろう。ならば……」

「箱舟も簡単には手に入らないだろう。シエナも諦めてはいないだろうしな。神々は殺し尽くされ、梓・ライラックは完全に敵対した。正直に言えば──魔法少女に未来はないと、私は思うがね」

「ならば、何故。未だ魔法少女であろうとする」

「単純だ」

 

 一息置いて。

 ゲヘナは──哂う。

 

「これほどの大騒動。これほどの物語。──当事者にならなくてどうするというのだ」

 

 なぜならそれが、ゲヘナが恵理須に逃げ込んだ理由なのだから。

 それは変わることなく。その物言いに、キリバチは笑うしかない。乾いた笑いを零すしかない。

 

 

「──じゃァ、これがページの最後だよ、ニヤニヤ丸眼鏡ェ

 

 

 だって、ソイツが壁を砕いて入ってくるのがわかったから。

 キリバチは、まだ。

 機を窺う──。

 

 

えはか彼

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