遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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118.理場初図須田安須.

「……そればっかりは、止められねェよ」

 

 呟くは──俺の手を取るその瞬間に、真白の彫像となってしまった銀バングルへ。

 差し伸べた手は取られること無く。

 銀バングルは手を伸ばした体勢のまま、【白亜】に飲み込まれた。

 

「……梓」

「あァ。悪いな。結局こォなっちまった」

「いや……」

 

 クるものがある。

 何を思ったンだろうか。何を決意したンだろうか。

 その魔法を俺に使うのではなく──自分に使ったのは。どんな葛藤があったンだろうか。

 

 俺の前で。

 俺の目の前で。

 

 命を落とす、なんて──あァ。

 

「はい──アンタで、最後!」

「【円閃】ッ!」

「背後にお気を付けを」

「あっ!?」

 

 どうやらあっちも終わったらしい。

 いんやさ、申し訳ない限りだ。俺ァ結局何もできてねェ。

 

「こっちは終わったわよ! ……って、アンタ、それ」

「……自決を選びましたか。成程、【白亜】は己をも対象にできるのですね」

「みてェだな。……こーなった場合、銀バングルはどこへ行くンだ。蘇生槽に戻るのか?」

「完全に心臓が止まった後、そうなります。現在はまだ【白亜】化した身体の中で、生命活動を続けている部分があると思われますので、この場に留まっているものかと」

 

 俺のオーダー通り、マッドチビ先生と冷静メイドは完全にあいつらを傷つけずに無力化したらしい。これでもかってほどに絡みついた樹木と人の肌や肉。まーグロテスクな光景だけど、流石の仕事っぷりだ。

 

「それで、マッドチビ先生は何用でこっちまで来てたンだ」

「ここを占拠するためよ」

「……EDENの連中と変わらねェってことか?」

「というか、アンタに助けを乞われるその寸前まで私はEDENの協力者として動いていたわけだし」

「……じゃァ、ブゥリを……殺すのか」

「いいえ? そもそもなんでオーレイアが自決という手を取ったのか、わからない? ──ゲヘナが死んだ……あるいは封印されたのよ。私から【鉱水】を奪ったメイアートとかいうのによってね」

 

 ──そうか。

 ギリギリで、最後の最後で──自分を取り戻したのか。

 もしかしたら、その寸前までは俺を【白亜】に染める気だったのかもしれない。俺を【白亜】にして、それを足掛かりに全てを、と。

 けど、彼女の心の何某かを操っていたニヤニヤ丸眼鏡が消えて。

 

 ……その結果が、自決は。

 ダメだろ。……ダメだよ、銀バングル。

 

「じゃあ、EDENとの協力関係も無くなったマッドチビ先生は、今何を目的にしてンだ」

「ここの占拠が目的なのは本当よ。別に魔物を殺す気はないというだけで。もっと言えば──」

「呼んだのは私だから。黙っててゴメンね、梓お姉ちゃん」

 

 茂みから出てくるは黄金の龍。

 ……と、その下でアオンと手ェ繋いでる少女。

 

「ブゥリ」

「うん。……たった今、"創作者"の権限が移譲されたのを検知した。だから──これより始の点は変成する」

「変成?」

「大きく揺れるから、振り落とされないようにね」

 

 言葉の瞬間、ずしんと揺れがあった。地震?

 ──違う。この浮遊感は。

 

「迷宮の主ザグルスへの申請──始の点を第二形態へ移行。拡散器の役割を終了し、揺籃の形へ全魔力の集中を行います。──承認確認。始の点修復開始……」

「おいおい、説明っつーモンをだな」

「クロムクラハ様。全ての準備が整い次第、それは行います。ので──少し黙って見ていてください」

「……まァいいけどよ」

 

 なンだこの、俺だけなんも知らねェ空気。

 ブゥリはいきなりシステマティックな事言い出すしよ。"創作者"の役割移譲ってなンだ。ピンクカチューシャになんかあったのか?

 

「──世界の限界を計算中……迷宮の主ザグルスより主の譲渡申請がありました。戦いと死と太陽の神クロムクラハ。こちらへおいでください」

「……わーった。わーったよ。行けばいいンだろ」

 

 なんか知らねェことが知らねェ内に起こってるみたいだけど、いーよいーよわかったよわかったよ。

 やりゃいーンだろ。

 

 ブゥリの前に立つ。

 アオンの……心配そうな、それでいて少しキラキラした目。なんだ、期待?

 

「手を」

「……あァ」

 

 手。

 うすぼんやりとした、けれど一応手の形はしている手。

 それを──ブゥリの小さなのソレに重ね合わせる。

 

「──この時を待っていうるせェな引っ込んでろ」

「……譲渡完了。クロムクラハ。これより正式に始の点は貴女の管理下に置かれます。始の点の全体修復8割終了……()()()()()()9()0()()()()()()()()()()()

 

 この時を待っていたらしいオーディンをひっこめる。

 知ってたよなんか狙ってるコトくらい。けどダメだ。この体は俺のなンだよ。いつか返す身体なンだから、大事にしねェはずねェだろ。

 

「飛翔? 飛ぶのか?」

「そうよ。飛ぶの。LOGOSも格納して、魔法少女も入れて、世界中を飛んで様々なものを回収して──世界を飛び出すの」

「天幕の向こう側へ参ります。クロムクラハ様。全てが整い次第、質問にお答えいたしますので、もうしばしのご辛抱を」

「……飛ぶなら、アイツら連れてこなきゃだな。ちょいと行ってくるわ」

「え」

 

 それは、誰の「え」だったのか。

 多分事情を知っているほとんどの者の「え」だったのだろう。

 知ーらね。あらかじめ説明しねェそっちが悪い。

 

 翼を広げる。飛ぶ。

 既にトップスピードだ。

 そのまま始の点を出て──。

 

「……おお」

 

 振り向けば、その全貌が見えた。

 持ち上がっていく始の点。ぶっ壊された底面の修復が進むと同時、その部分からどっか見覚えのある三角錐ができあがっていく。

 ダイヤモンドの底辺に三角形がくっつく形になるのか。

 

 まァ綺麗だが、ンなことより……あァいたいた。

 

「おーい! お前ら!」

 

 

えはか彼

 

 

 それは突然のことだった。

 大きく揺れる地面。否、正確に言えば──天。

 

 ウィドアル、安直ちゃんに色々と説明をしている最中の出来事だ。あァ既に井戸の底からは抜け出してて、だからこそ何が起きてるのかは一瞬で理解できた。

 

 始の点が、浮かび上がっていっている。

 

「……これは」

「始まったようだね。……梓。輪廻の車輪については、もう少し後にしよう。今はアレに乗る事を優先した方が良い」

「乗るつったって……」

「おーい! お前ら!」

 

 空から声がかかる。

 聞き覚えのありすぎる声。けれど威光を覚える──正直ウィドアルの何倍も神っぽい気配。

 

「クロムクラハ!」

「あァ! ──そっちの緑髪のなよなよしィ奴がどこの誰だかは知らねェけど、来な! 飛ぶぜ!」

「初対面に対する言葉じゃないね!?」

「うるせェなどうせウィドアルかなンかだろ。オーディンが言ってたぜ。一番()ってて無為な期間だった、って」

「やっぱり君はうるさいな……!」

 

 降り立つは──わかる。わかる。

 さっき海ですれ違った時ァほとんど感じなかったのに、今になってわかる。

 やべェ。

 

 コイツは、王だ。

 

「……貴女、短時間で雰囲気を変えたわね」

「ん? あァなんぞ始の点の主になったンでな。まァそんなことはいい。ウィドアルっぽいのはどーせ死なねェからいいとしても、お前らはやばそうだからこっち来な。巻き込まれるぞ」

「残念だけど、それは無理なお誘いよ。見えていないだろうけれど、ここにはたくさんの魔物がいるの。私の家族がね。だから──」

「あァウィドアル。一度や二度の特例も変わらねェだろ。あン時の上昇気流出せよ。ここにいる魔物たちが浮かび上がれるよォな奴」

「このっ、私を好き勝手使うのもいい加減に──」

「時間無ェんだよ。それともなンだ。そこな寂しんぼ一家を殺してェか。おい、アズサ。お前からもなんとか言ってやってくれ」

「私には頼まないのかしら?」

「お前、魔法少女と仲良くやる気なンざサラサラ無いだろ」

 

 展開が激しい。

 今なお地震は続いている。私達の立つ地面もところどころひび割れが起きていて、もしかしたらさっきの地下空間に崩落していく可能性がある。

 ……どういう風に転がるにせよ、ここは提案に乗る方が良い。

 

「ウィドアル。私からも頼むよ。私は安直ちゃんやボスたちを殺したくない」

「純朴ちゃん……。はぁ、わかったわ。ウィドアル、私からもお願い。私達とみんなを始の点まで連れて行って。──フギン達は自力で行きなさい。偵察よ。けれど、殺しはダメ。向かってきた場合だけ対処なさい」

「ああもう! わかったわかった! わかったよ! ホントは私達三柱は恵理須に干渉しちゃいけないんだ──というかできないんだぞ!? これがどういう無理をしているのか、」

「ウィドアル、早くして」

「……うぅ、愛し子が怖いよぅ」

 

 そんな弱気な発言とは裏腹に──ウィドアルが、彼女が地面に手を付いた途端、凄まじいまでの気流が生み出される。暴風。そういって差支えの無い風は、私達程度軽く持ち上げる。

 そこを、クロムクラハが飛ぶ。体重移動が上手くできずに飛び出してしまった奴や、目的の場所ではない方へ行ってしまっているのを回収して……って、アイツ見えてンのか?

 

「一応聞くが! てめェはどうする!」

「言っただろ。私達は恵理須には過干渉できないんだって──」

「あァじゃァ世界の外に行く箱舟には乗れるな。来い、この際だ、万全にサポートしてもらうぜ」

「あっ、ちょっ」

 

 クロムクラハから伸びた……魔力の手? みてェなのが、ウィドアルをぐわしと掴む。

 ありゃ……なンだ。クロムクラハ由来のものじゃねェな。私の元になった魔物に似ているような、一切似ていないような……。

 

「アズサ、ボーっとしてンなよ。そろそろホントに世界が終わるンだ。その先を生きるにせよ、終えるにせよ──気を抜く時間なンざ無いと思え」

「……うるせェな。てめェに何がわかンだよ」

「ははっ、それが何にもわかんねェんだ。さっきも……救いたかった命を救えなかった。それを悔いる暇も無く、あれよあれよと迷宮の主にされて、今こォしてお前らを引っ張りに来てる。笑えるだろ」

「全然」

「そォかい。やっぱお前とはギャグセンが違うかねェ」

 

 そろそろ、本当に世界が終わる。

 その言葉に上を向けば。

 

「……天幕が」

「あァ。──行くぜ、零しの無いよォに世界を回るンだ」

 

 空に、罅が入っていた。

 

 

 

えはか彼

 

 

 

「……よし」

「【運誓】、【酷帛】、【万障】の裁定を確認した。……その上で、【天愍】に変化なしか」

「あァ。確か最終的にァ究極の魔法になるンだよな。"全役割の統合"を果たしたら。それはなンて名前なンだ?」

「【魔法】、と」

「……へェ。そりゃ、なんとも」

 

 封印措置を受けた魔法少女からの裁定は簡単だった。

 反魔鉱石の一部分だけを【鉱水】で取り除いて【裁定】すりゃいいだけだから。

 過去、悪行を働いて封印された魔法少女たち。

 中には勿論、ふーちゃんもいて。

 宣言通り元の姿がわからねェよう直方体に形を変えておいた。

 

「さて、あとは戻ってくるSS級と姿の見えねェ創設者たちか。まァ第二拠点とやらにS級はわんさかいそうだけど」

「……それなのだがな、メイアート」

「ン?」

 

 SS級はアンディスガルによって排出してある。

 神さんはこれでゆっくり体を癒してほしいモンだ。後は俺がやっからよ。

 

「……オレとしては弱気な発言になる」

「なンだよ、随分と溜めるじゃねェか。いいよ、驚かねェから言えよ」

「いない」

「ん? 何が?」

「SS級──貴様らがそう名付けた魔法少女達が、だ。冥界にも、この世界にもいない。……反応が無い」

 

 ふむ。

 ……。ふむ。

 

「やばくね、それ」

「ああ、喜ばしくはないな。最高等級の魔法の収集が行われない限り、恵理須に安寧はない。一刻も早く探し出すべきだが──オレの探知に引っかからないとなると探しようがない」

「……冥界以外の……あァ、あの青い天体。恵理由知穏だっけ。あっちは?」

「出入りは監視している。その上で、あの世界には魔力が無い。あそこに最高等級の魔法が入ろうものなら即座に検知できる」

「あー」

 

 ン。でも待てよ。

 

「完全に無いのか?」

「完全に無い」

「なら良いんじゃねェか? 魔法少女ってな役割を司るモンなんだろ。まァ魔法少女が司ってンのか魔法が司ってンのかは知らねェけど。それが完全になくなったってンなら、恵理須からも消えたンじゃねェの」

「……成程。そうか。……その可能性はある」

「どこ行ったかが気になるのはわかるけど、まァ結果オーライだろ。あとは──」

 

 ヴァスを矛の形にして背後に突き刺す。はずれ。手応えなし。

 ──知覚、脚力強化。狭所は不利と判断し、外に出る。──出口付近に妙な魔力反応。薄膜のようでいて奥行のある……亜空間ポケットか?

 地面に触れてる足から【鉱水】を発動。液状化した地面を蹴ってその薄膜を突き破らんとすれば、やはり飲み込まれていく地面。

 

「【天愍】」

「ッ!」

 

 それを発生させているナニカごと異空間に飲み込もうとしたら、薄膜が消える。ナニカも消える。

 ……避けられた。ジーウィースにもニヤニヤ丸眼鏡にも避けられなかったコレを避けるか。

 

 EDEN、崩壊した外周路。中央塔を取り囲むここは、今や無人。【裁定】した生徒は避難済みのはず。そォでない、なんぞやる気の無かった連中は俺が外に出しておいた。

 

 だから。

 

「──何者か、は。問うておくぜ」

「【亜空】の魔法少女。レーテー」

「──……!」

 

 目深にローブを被ってたから、名乗られるたァ思ってなかった。

 その上で──その名に驚く。

 

 それが裁定対象の魔法だったから、ではない。

 

 既に懐かしくなった名前だからだ。

 あァ。

 それは──聞けるのか。

 

「レーテー。……リゾには、会えたか?」

 

 聞けた。規制されてねェ。

 されてねェ、ってことは。

 

「……? 何故貴女がその名を知っている? ──まさか、あの子に何かした?」

「一緒に土いじりしたよ。収穫は何も無かったけど」

「そう。どれくらい続いた?」

「俺ァずぅっと続けてたがね。アイツはすぐにやめちまった」

「あの子は飽きっぽい所がある。うん。信用する。貴女はリゾの友達」

 

 いいのかそんな認証方法で。

 

 で、まァ信用してもらえたワケだけど──警戒は解かない。

 なンでこんなトコにいンのか、ってのもそうだけど、さっきの感覚は多分亜空間ポケット。つか確実に【亜空】だ。俺にそれをやろうとしてきたって時点でまァまァ怪しい。つか黒い。

 

「それで?」

「? ああ、リゾには会えていない」

「それじゃねェよ。まァそれも気になるンだが」

「何用か、という話?」

「わかってンじゃねェか」

 

 ……EDEN内。魔力反応は4つ。1つはレーテー。アホみてェな魔力量してる。お嬢よりも上の奴なンざ初めて見た。

 そんで、そんな俺達を見下ろしてンのが1つ。なんぞ覚えのある魔力。知り合いかもな。

 最後が……これは、なんだ。魔法少女……いや、魔物? わかんねェけど、これも強い魔力。で、俺。

 

「零。周囲の魔力反応の監視を頼む」

「良いだろう。だが気をつけろ。【亜空】は本来権能として渡すものだ。その汎用性は──わかるな」

「あァ」

 

 クリスは──取り出せねェか。つまり、知り合いがどっかで見てンのは確定と。

 じゃまァヴァスで行くけど。

 

「太陽の使徒、メイアート」

「あァ」

「貴女に退去を求めに来た」

「……退去、っつーのは?」

「そのままの意味。世界から退去してほしい。この世界を安らかに眠らせるために、全ての魔法少女を一度【亜空】へと封印する。そうすることで世界は役割を失くし、とうの昔に過ぎ去っていた寿命を迎える」

「あァさそりゃ俺がやってることだな」

「貴女が全世界の魔法少女から魔法を奪うより、私がやった方が早い。貴女が集めた魔法はそのまま太陽神レイに返すとして、貴女がこの世界にいては意味が無い。だから退去を要求する」

 

 ……なンだ。

 全部知ってる、って顔だ。

 ふむ。それが可能なら──それも良い。良いが、なんだろうな。

 

「既に多数の役割を持つ魔法少女を格納している。残すは【侵食】、【劇毒】、【鎮静】、【候誕】、【界磁】、【傾刻】、【樹意】、【雲演】、【死漸】だけ」

「【幽拐】や【槌憶】は?」

「協力関係にある。【亜空】に入ることを了承済み」

「ほーん」

 

 かなり持っていかれてンな。

 かなりどころじゃねェか。あン時は零の言葉を俺が遮ってたンだ。その後に続いたモンも持ってかれてるとなると……コイツはかなり前から動いてたか、行動が凄まじく早いかのどっちかだ。

 

「貴女が外に排出した人間たち。及び避難所にいる人間たちも格納してある。世界の滅びをやり過ごすために」

「やり過ごす?」

「そう。──今、始の点が生き物を運ぶ箱舟として変成している。人間、動物、魔物、魔法少女。それらを乗せて箱舟は冥界を飛ぶ。冥界に耐え得る構造になっている。私が【亜空】に入れた者達もまた、その箱舟の中に排出する。そうすれば──」

「世界の滅びは滅びとして、魔法少女も生き永らえる、ってか」

「そう。つまり、【裁定】などという野蛮な行為をする必要もなければ、抗って死ぬ必要もない」

 

 亜空間ポケットから魔煙草を取り出して、吸う。

 ふゥ。

 ヤになるねェ。

 

 つまり──なンだ。

 正解を付きつけにきた、って。そォいう事かい? ヒヒ、アンタにゃ一方的に感謝してたンだけど、嫌いになりそうだぜ。

 

「零。今の理論に綻びは」

「無い。貴様が【裁定】しようと、奴が格納しようと結果は同じだ。恵理須の滅びは安らかなものとなる」

「そォかい」

 

 あー、不味いねェ。

 魔煙草も、状況も。

 なァ。じゃァよ、委員長や過激無口の死は。死んででも俺を砕こうとしたエルバハ・イドラは。重傷負ってる鬼教官は。なァ。

 

「その箱舟には、誰でも乗れるのか」

「無論」

「魔法少女の因子はどォする。取り除かねェと覚醒するぜ」

「問題ない。私でも因子は取り除ける」

「船出してどォする。行先があンのか」

「無くても問題ない。箱舟は単一の世界として機能する」

 

 魅力的だ。

 あァさ──魅力的だ。そっちの方が絶対に良い。

 笑えちまうほどに、良い。

 

「【神光】ってな捕まえてあるのか?」

「……【神光】には逃げられた」

 

 口角が上がる。

 それでこそだぜ、お嬢。

 

「【波動】は?」

「了承を受け、格納済み」

「【神鳴】ならどォだ」

「格納済み」

 

 まァポニテスリットは真面目ちゃんだから納得だし、背中メッシュは面倒くさがりな部分が大きいからな。抵抗するよか、って方を選んだか。

 太腿忍者は……俺が【裁定】したからな。アイツは人間枠かね。

 

「【透過】は?」

「その魔法は現在【同化】に"役割の統合"を果たしている。その上で格納済み。【飛斬】も同じく」

「へェ? アイツら、ンな素直に封印を受け入れたのか」

「無理だと判断した。ゆえに閉じ込めさせてもらった」

「……ハッ、良い判断だな」

 

 ぜーったい抵抗するもんな。

 つかキラキラツインテなンか強くなってたのかよ。教えろよ。

 

「問答はこれで終わりで良い?」

「ん-」

 

 ヴァスを矛の形にする。

 

「何のつもり?」

「いんやさ、まァ大体の話はわかったよ。けど、ちょいと言いてェことがある」

「聞く」

「言いてェんだがな、零の検閲で言えねェんだ。あっちとあっちにいる奴ら離れさせてくンねェ?」

 

 指さすは、さっき感知した奴らの魔力。

 俺達を見下ろしてるヤツのせいで言葉選ばないといけねェのがダルい。

 

「……わかった」

 

 レーテーが手ぶりをする。

 それで、それだけで魔力反応が遠ざかったのがわかった。

 

「これでい、」

「いいぜ!」

 

 思いっきりクリスで斬りつける。下がらせたってな証明も兼ねてだ。

 けどそれは──止められた。亜空間ポケット、じゃねェ。外側に開いてるあたり【亜空】か。

 続けざまに膝を入れようとして、そこにも開いてきた【亜空】に下がる。うわだるィ魔法使うなァ。無敵かよ。

 

「攻撃してくると思っていた。でも、意図がわからない」

「ん? いんやさ、アンタの話におかしなトコが一個も無かったからさ。こりゃ嘘吐いてんなって。あるいは何か隠してンなって思っただけだよ」

「理解不能。おかしな所がないのなら、納得すべき」

「ん-、まァ行動やら何やらを見抜くってンなら頭が良い、で片付けられるンだけどな。世界の仕組みまで知ってて、神のお墨付き貰える程正確ってな──まァおかしいだろ。そっちのバックにも神がいる、とかしか思い浮かばねェ」

 

 けど、恵理須に関わった神は三柱だけだ。

 ウチの神さんと、零と、初殊図。内風の神である初殊図……ウィドアルだけは会った事ねェけど、アイツは魔物の神だ。魔法少女に助力するたァ思えん。

 魔法少女に助力する神は太陽か夜のどっちか。且つ、この三柱でないものが関わってるとなれば。

 

「……成程。こちらの情報開示が足りなかった。それによって不信感を持たせた。理解。ならば、こちらから情報開示を行うものとする。その上で納得を得て、再度の退去を願う」

「あァ、いいぜ。情報次第で考えてやる」

「私の背後にいるのは──()()()。私は彼女から、世界のあらゆる知識を授かった」

「──なら、退去はしねェ。ソイツはあり得ねェからな」

「異なことを言う。真実を話した。誰にも言っていない秘密を明かした。その上で?」

「ソイツはいねェのさ。もう。この世のどこにもいねェ。だからあり得ねェ」

「繰り返す。異なことを言う。今もなお、其夢盗は私に語り掛けている。そも──神は死なない。いなくなることはない。神自身が自らを手放さない限り」

「だから手放したンだって──……」

 

 過る。

 役割と位。それを手放す方法。

 

 押し付ける事で、そうではないものになった事例。

 あの時。

 俺が──何の抵抗も無く其夢盗を殺し得た理由。

 

「──レイ!」

「叫ぶな。オレも今調べている。夜の神は太陽であるオレには感知しづらいのだが……其夢盗の気配は、冥界はない。それは確実だ。だが、冥界でないところとなるとわからん」

「まさか、カシヨの村がまだあるってのか!?」

「どこだそれは。恵理須の中の地名までは知らんぞ」

「違ェ、夢の世界だ。夢の先。夢から逃れ得ぬ者達が辿り着く場所」

「知らんな。そんなものを作り得るのは、確かに夜の神だけだろうが」

 

 まさか、殺せていなかった?

 あるいは──あの瞬間、誰かが役割を押し付けられた?

 それで、誰かが。誰かがずっと──あそこで役割を? いや、いや。違う。レーテーはずっと前から動いてたンだろ。俺がカシヨの村に行ったのは精々3か月前とかだ。そんな直近のはずがねェ。

 考えろ。いや、聞け。

 目の前にいるンだから、聞け。

 

「……レーテー。アンタ、いつから魔法少女だ。いつから其夢盗と会ってた」

「魔法少女となったのは5万年前。ゲヘナがこの地に落ちた時と同じ。我が神に出会ったのもほぼ同じ。故、死んだ、という事実はない。こちらこそあり得ないと返す」

 

 じゃ──なんだ。

 カシヨの村にいた其夢盗が、偽物?

 

「容姿は? 実際に会ったことあるか?」

「否。彼女は冥界にいる。会ったことはない」

「レイ」

「先程も言ったが、其夢盗は冥界にいない。これは確実だ。奴は古い神だからな、いたらわかる」

 

 ……落ち着いてきた。

 俺が殺したのァ確実に其夢盗だ。

 そンで──5万年もの間、レーテーに情報を与え続けていた神。ソイツが、偽物だ。其夢盗の名を騙っている何者かだ。

 誰だ。

 

「──こちらから問いをしても?」

「……あァ。いいぜ」

「こちらの背後にいる神が誰であれ、私の背後には神がいて、その知識は正確なものであり、ゆえに私の行動に粗がないのは当然のこととして──それでも納得は、退去は願えない?」

 

 ……。

 そうだ。別に背後にいるのが誰でも、コイツのいう言葉に曇りがねェなら、素直に従うのも手だ。

 そんだけ自信があンなら。そんだけ──確実なら。

 

「とは、ならねェんだよなァ」

「あくまで邪魔をすると?」

「前から言ってンだけどよ。世界は俺が殺す。他の誰かに譲るってこたねェンだよ」

「……世界を殺した。そういう肩書を欲している?」

「ハ!」

 

 肩書き? ハッハッハ。

 

「冗談。肩書きなンざ気にしたこともねェわ。あ、嘘吐いた。ちょっと前までァお飾りB級とかお飾りA級とかって僻みまくってたわ」

「そう」

「いんやさ──まァ、ンなこたどうでもいい。ここまでの問答ありがとう。すべて無駄になるが、交渉は決裂だ。世界殺しは俺がやる。アンタこそ退去してくれ。魔法少女全員吐き出してからな」

 

 クリスを突き付け、ヴァスを肩に乗せる。

 まだクリスを出していられる。ってこた、近くに他の魔法少女はいねェってことだ。知り合いに限るが。

 

「……残念。ならば──【亜空】に飲まれるといい」

「【天愍】!」

 

 足元に開いたバカでけェ【亜空】に対し、おんなじでかさの【天愍】を開く。

 亜空と異空。似ているようで違う空間同士は互いを引き込み合い──バリン、と。割れる音がした。

 

 こちらの【天愍】は異常なし。

 

「……同系統。それも、そちらは権能。こちらの【亜空】も本来は権能だけど、発現自体は魔法としての発現だった。ゆえに負けた」

「ってこったろォな」

「【亜空】」

「やると思ったぜ!」

 

 バックステップ。直後、さっきまで俺の心臓があった位置に【亜空】が開く。

 ハハ、そりゃそォいう使い方もできらァな。だがまァ、俺に対して即死攻撃はダメだぜ。たとえ今【即死】や【死漸】を持っていなかろうと、そんなに殺気籠ってたら気付ける気付ける。

 

「しっかし、良いのかい? 俺ァリゾの友達だぜ。殺しちまったら、アイツに悲しまれるだろ?」

「問題ない。太陽の使徒とはいえ体は魔法少女。核さえ持ち帰れば後に蘇生できる」

「そりゃまァ──魔法少女らしい考えだ!」

 

 全身。あらゆるところに開いていく【亜空】を避けつつ、全部を小まめに【天愍】で割っていく。

 こっちからの攻撃も忘れない。が、まァ斬撃も打撃も【亜空】で防がれるンであんまし意味はない。俺側から【天愍】で、ってなるとニヤニヤ丸眼鏡みてェにバラバラにするしかなくなるンだけど、俺ァコイツにそこまでの害意を抱いちゃいねェからな。

 まァなンだ。魔法は強力も強力で知能もあるが──戦い慣れてねェ。防御には秀でている。どっから斬撃が来るか、どっから不意打ちが来るか。全部わかってて的確な場所に【亜空】を開けるだけの目がある。

 けど、どォ攻撃したら獲物を仕留められるのか、ってなわかってねェ。

 おんなじだ。

 

 俺と同じで──殺し慣れてねェんだ。

 さては【亜空】への封印ばっかしてきたな?

 

「1つ! 聞きたかったンだがよ!」

「何」

「どォしてリゾを送り出したンだ。世界言語なンて、体に負担がかかるだけだろ! お前さん、夜の使徒でもねェんだ──なんでリゾを。なンでアイツだけを外に出した!」

「決まっている」

 

 大きな──EDENそのものを飲み込む程大きな"口"が開く。

 口角が上がる。それに【天愍】で対処しつつ、それに。その──感情の大きさに。

 

 笑う。

 

「唯一、あの子だけは──家族だと。そう思っている」

「そりゃ、最高だ!」

 

 打撃。ヴァスによるそれは──けれど【亜空】に飲み込まれていかない。

 応用だ。【即死】しか使えなかった頃にやってた様々応用。浸したり、飛ばしたり。【天愍】は水のイメージってよりは面、皮みてェなイメージだからな。ヴァスに纏わりつかせたのさ。ハハ、ぶっ叩いたモンを異空間に飛ばす杖の出来上がりさ。打撃力ァ落ちるが、【亜空】には効果的だろ。

 

 で、なんだって?

 家族だから、って?

 

 ハハハハ。

 そりゃ良い。そりゃ最高の理由だよ。俺はそれを評価する。俺はそれを──生きる理由と、見定める!

 

「キリがない。手打ちにはできない?」

「そっちがしてェならそれでいいぜ。俺ァ退去しねェが」

「それでは意味が無い」

 

 上空に【亜空】が開く。すぐに【天愍】を──と思ったけど、切り替え。

 ()()()()()()()()()を【凍融】で凍らせる。同系統だが同じじゃねェってなが今ここで出たな。

 

「ヒトの上に溶岩垂らしちゃいけませんってママに習わなかったかよ!」

「習わなかった。私には親がいない」

「あァそりゃすまねェな! ちなみに俺ァあったかい家族に囲まれて育ったよ!」

「そう。羨ましい」

 

 開く。開く開く開く開く。

 その数──100に近いか。これが有効と断じたのだろう、その【亜空】1つ1つから、様々なものが落ちてくる。果たして何を格納していたのか。酸やら毒やら鋼鉄やらと、ハハハ──殺意マシマシだねェ!

 

「【天愍】──」

「何故」

 

 それらを全部異空間に飛ばす。

 ……実を言うと、この【天愍】の開く異空間ってなが繋がってるかどォか知らねェ。だからもしかしたらニヤニヤ丸眼鏡やジーウィースがやばい思いするかもしれねェんだけど、そォなってない事を祈っておく。殺したいワケじゃねェしな。

 

「何だ、お喋りタイムか」

「何故──殺さない」

「あン?」

 

 熾烈だった【亜空】の連続攻撃が止む。

 完全に止んだワケじゃねェが、単調になったか。

 

「報告を聞く限り、【天愍】はそれだけの魔法じゃない。衝撃波を出したり、他、統合した魔法を使うこともできるはず。私に触れられない以上【裁定】はできないだろうけれど、それ以外の魔法は使い得る。それこそ今、【凍融】で私を凍らせればいい。融かせばいい。【痛烈】で痛みを与えればいい。何故それをしない?」

「殺したくないからだよ。──あァ、今回は言えたな」

「何度も言っているが、貴様と梓・ライラックを結び付けることができない相手に対しては特に規制しない」

 

 成程。コイツとはガチで何の接点もないからほとんどしゃべり放題と。

 でもそれってどォなンだ。あとでコイツが俺の知り合いに話すかもしれねェのに。

 

「そうなったらその時に入る」

「そーかい」

「殺したくない。──何故?」

「あン? じゃあオマエ、人を殺したいのか?」

「特にそういう欲求は無い」

「俺にも無ェ」

 

 クリスで斬りつける。

 ──が、寸前で止める。だろうと思った。

 こいつ、【亜空】を開きやがらねェでやんの。

 

「止めた」

「あァ。殺したくないからな」

「何故?」

「同じこと言わせんな。殺したくねェからだ」

「自身が命を狙われているのに?」

「自分の命が狙われてたら人殺したくなンのかよオマエ」

「特にそういう欲求はない」

「俺にも無い」

 

 何度も繰り返した問答だが──ここまで深く追及してくンのは初めてかもな。

 納得できねェとばかりに、何度も何度も。

 

「退去を願われている。貴女の目的を阻害している。貴女にとって、私は邪魔なはず」

「そォだな。おまけに殺したはずの神を名乗るナニカを引き連れてて気味悪ィし、さっきから一歩も動いてねェの気に入らねェし、何考えてンのかわかんねェんで役満だ」

「役満?」

「あァ気にすんな関係ねェ話だ」

 

 麻雀無いもんな。

 会話に余計な要素挟んだわ。

 

「で、なんだよ。そんだけ邪魔だから──殺さないのはおかしいってか?」

「そう。邪魔なら殺す。夢を、目的を阻害するのなら壊す。障害は取り除く。何故、しない」

「殺さねェのが目的で夢だからだ」

「でも、世界は殺す」

「世界を殺すのァ俺の目的で夢だよ」

「……そう」

「あァ」

 

 矛盾している、とは言ってこない。

 ──いいね。思慮深さはある。ちゃんと考えて喋ってる。もしかしたら今まで会ってきた奴の中で、最も賢い奴かもしれねェ。

 マッドチビ先生? ありゃポンコツだよ。負け犬もな。

 

「──最後に。リゾと会ったのは、どこで?」

「いきなり質問の系統変えたな」

「私なりに連続性がある」

「そォかい。──恵理由知穏という所だ。ここではない世界。アンタが忘れじを言祝いでアイツを飛ばした世界。何もない──"何"すらない、生まれたての世界」

 

 ピタりと。

 攻撃が止む。すべての【亜空】が閉じて。

 

「──既に、世界がある?」

「ある。だが、そこにァ何の役割もない。精神すら宿っちゃいない。シエナっつー奴がこの世界から精神を抜き去ってあっちの世界に移植しよォとしたが、それァ俺が阻止した」

「世界の精神になる条件は」

「風と太陽と夜であること」

「……情報、感謝する。もう貴女に退去は求めない。これより私も箱舟に乗り、世界を出る。そして、貴女に1つお返しとなる情報と──迷惑をかけた対価を置いていく」

「待て待て、行かせるたァ言ってねェぞ。魔法少女置いてけ」

「これは最大限の譲歩。──シエナ。本名をポマネイ・リコ。シエナとは結局のところ他者からつけられたあだ名に過ぎない。ゆえに死を得ることの無い者、などという噂は噂に過ぎず──彼女が求むるは永遠の身体や不死ではない」

「……なンでそんな事知ってやがる」

「私は長生き。それ以上に理由がある?」

「無い。……で、そンだけか。アイツの情報なンざ興味無ェんだがな」

「私は今から退去する。──そして、私の退去から5秒後。ここにシエナを排出する。どうするかは貴女次第」

「何勝手なコト──くそ、【天愍】!」

「じゃ」

 

 レーテーの背後に開いた【亜空】を割り砕けば、レーテーは足元に開けた【亜空】に落ちていった。

 クソ、子供騙しも良いトコなひっかけに引っかかった!

 

 ……ああ、クソ。

 確かに戦い慣れちゃいねェが、落ち着きはあっちのが何千倍も上か。そりゃそォだよな。俺なんかヒヨっ子もいいとこだ。

 

 それで。

 

「あだっ!? ちょ、何よ……って」

「──よォ」

 

 きっちり5秒後。

 

 そこに──俺が排出された。

 よォ。会いたかったぜ。

 

 

えはか彼

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