遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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12.沙栗符哀須絵鰤寝具符応澄無.

 キラキラツインテが加わった事で、迷宮探索はサクサクになった……なんてことはない。【透過】は特に殲滅力に長けるわけでもない上、小さいものに対しては普通に殺した方が早いと、あのふわふわした感じからは考えられない程武闘派な姿を見せつけられた。

 具体的には、ネズミは蹴って、蝙蝠は掴んで潰して。

 50年も魔法少女やってるとなると、どこに何が来るのかは割とわかる、のだとか。あくまで割とであって、罠には弱いんだけどね、なんて自虐も混ぜてくるキラキラツインテに、俺は渇いた笑いしか出ない。

 

 A級ねェ。

 遠いな。つか無理だろ。魔力増やせねェとどうしようもない。

 

「なぁキラキラツインテ。魔力ってどうやったら増えるんだ?」

「難しい質問をするね。それが知られていたら、今頃魔法少女はS級だらけになっているよ」

「知らねェのか。じゃあ最初からそんだけ魔力あったのか、お前は」

「うん。あんまり増えた減ったという例は聞いたことがないかな」

「そうかい。じゃ、A級になるってなどうしたらいいんだ」

「魔法の効率化。これに尽きるね」

 

 なんか前線二人が張り切っちまって見る敵出る敵全部潰していくもんだから、俺のやる事がマジでない。背後から来るのや横合いから来るのはキラキラツインテが的確に処理するし、遠征の時よろしく運ばれているだけ、って感じだ。

 

 だから、比較的暇なキラキラツインテに魔力量向上についてを聞いてるんだが……予想通りの答えが返ってきた、って次第。

 

「効率化、ねェ。使いまくって覚えんのが一番なんだろォが」

「君の場合、相手が必要だから、難しいよね」

「そォなんだよ。……あ、私で試す? とか聞いてきたら怒るからな」

「怒りそうだったから、言おうと思ってた」

「わかってンのに言おうとしてたのかよ」

 

 EDENには修練塔っつー魔法の修練をするための塔もあるんだが、【即死】に関してはそこに行ったってなんにもならなねェ。相手がいねェと練習できねェ魔法でありながら、ピーキー過ぎんだよこの魔法。だからっつって化け物相手に単身で、ってのも難しい。俺は弱いから。

 本来なら死をも厭わぬ戦い方で掴んでく、ってのが近接魔法少女の効率の掴み方なんだろーけど、……死にたかねェしなァ。

 

「ちょっとだけ助言をしてあげようか」

「助言?」

「私も、本来はD級かC級の所を、使い方でA級にまで上がった魔法少女だからね」

「あァ、確かにそォか。【透過】に殲滅力も殺傷能力も無ェもんな」

「うん」

 

 工夫、って奴だ。

 キラキラツインテは本来ただ通り抜けるだけの魔法を──どんな敵でもぶち抜ける槍にまで拵えた。

 効率化もそうだが、【即死】にも別の使い道がある、ってか?

 

「例えばだけど──このケイブバット」

「お、おゥ」

「どうやって【即死】させる?」

 

 いきなり素早く手ェ動かして、鷲掴みにしたコウモリを眼前に、って。

 驚くってば。

 

「そりゃ、触れて、だが」

「その時──どういうイメージをしているのかな。手に【即死】を纏わせている? 【即死】で相手を貫いている? それとも、【即死】で相手を覆ってる?」

「ン……ん? ちょいと待ってくれ」

「うん」

 

 どういうイメージ、か。

 ふむ。

 考えた事も無かったけど、そういえば俺ってどうやって魔法使ってんだ?

 

 いや、魔力を集中する方法とか、魔法の発動方法はわかってる。学園で習う事だから。

 でも……確かに、近接魔法少女ってそォだよな。こう……変幻自在とまではいかねェけど、ポニスリの【波動】みてェに形変えられたり、出力変えられたりは出来るはずだ。

 俺は……どうやって敵を【即死】させてる?

 

「とりあえずやってみようか」

「……あァ、わかった」

 

 キラキラツインテからコウモリを受け取る。

 もう十分に弱ってて抵抗する力も無ェらしいコウモリに、【即死】を使う。

 

 当然、コウモリは死んだ。

 

「今ので、わかったね」

「わかったのか?」

「うん。君は、相手を【即死】で浸す事で殺している。ケイブバットが痙攣もせずに死んだのがその証。心臓を殺すとか、内臓を殺すとかじゃなくて、このケイブバット全部を殺してる」

「……なるほど」

 

 確かに、そうかもしれない。

 つかそォだ。あの遠征の時に腹殴られながら殺したあの透明なタコも、アレが透明なタコだ、ってわかったのは、その形を一回認識したからだ。

 外ならぬ【即死】で浸して、無意識にタコだって認識した。でけェタコだって気付いたのは魔力消費量からだって勝手に思ってたけど、あの時口が先に動いてたはずだ。はず、だ。

 

「多分それは、それが最も苦痛の少ない殺し方だって理解しているからじゃないかな」

「苦痛の……」

「苦痛に喘ぐ仲間を【即死】させるのが嫌というのは聞いたよ。けれど、懇願されると、苦しみながらもやっている、ということも知っている。その時、出来るだけ苦しませずに殺すために、【即死】で相手を浸して、全部を殺しているんじゃないかな。そしてそれが癖になっている」

 

 キラキラツインテは、まるで見てきたかのように言う。

 その通りだ。俺は、仲間に【即死】を使う時……これ以上苦まねェように、って。だから、何も感じねェように、って。そうやって殺してた。

 

 全体を浸して、全部を殺す。

 心臓も内臓も脳も細胞も何もかも──【即死】させる。

 

「それじゃ、効率が悪い」

「……あァよ。ようやく理解した」

「じゃあ、はい、これ」

 

 渡されるコウモリ。

 先程のより抵抗の激しい化け物は、隙あらば俺の手に噛みつこうとしてくる。

 

 それの、胸の部分に、指で触れる。

 

「【即死】」

 

 普段魔法名をいう事は無いんだが──あァ、なるほど。

 言葉にすると、形が分かりやすいな。

 

 俺の滴り落ちた【即死】は、指先から直線状にある細胞と心臓だけを死滅させた。それにより、コウモリの化け物はビクンと跳ねて、ピクピクと翼を痙攣させたのち──動かなくなる。

 

「これだけ小さいと、消費魔力の差はわかりづらいかな」

「いんやさ、十分にわかる。すげェ差だ。これが効率化か」

「私からあげられる助言はこれくらいだけど、他にも私みたいに工夫をしている魔法少女はいっぱいいるから、そういう子に聞いてみるといいよ」

「あァ、礼を言う」

「いいよ。これはお詫びだからね」

 

 成程。成程な。

 魔法ってな、こう使うのか。こうやって工夫を図るのか。

 

 ……どの道修練塔じゃわかんなかった事だが、俺ァもっと【即死】について知る必要があるな。今のだって細胞と心臓が【即死】しただけで、コウモリが【即死】したわけじゃない。やろうと思えば翼だけ【即死】させるとか、脳だけ【即死】させるとかも出来るわけだ。その結果まだコウモリが生きていようと、魔法はちゃんと発動してる。んで死んでるから回復もしねェ、と。

 これさ、ちゃんと練習すりゃ……ヒト相手にも戦えるようになるよな。俺だって博愛主義じゃねェ、命を奪うのには抵抗あるが、ソイツの腕を殺すくらいなら出来る。たとえその腕が一生使えなくなったとしても──出来る。まァ敵の魔法少女は何の気兼ねなく死んで蘇生してきそうだが。

 

 いやすげェな、ベテランってのは。

 ちゃんと知識持ってんだ。あァ、久しく忘れてたな。先輩に頼る気持ち、っての。俺が教えるのがもっぱらになって来ちまってたのが悪ィ。俺ァ今生徒なんだ、ガンガン乞うてかねェと遅れちまう。

 

「二人ともー! ようやく休憩地点ですのよー!」

「ん、あァ! 今行く!」

 

 死なせねェ、ってんなら、俺が強くならなきゃいけねェ。

 ……A級に上がる努力、ちゃんとするかね。

 

えはか彼

 

 迷宮には休憩地点ってモンがある……んだと、今さっき聞いた。

 そもそも他で迷宮ってのを見た事がねェからほーんって感じなんだが、化け物もなんでか寄って来ねえ休息ポイントが用意されてんだと。

 

 ってなると、やっぱりこの迷宮ってのも人工物臭ェよな。学園長殿が浮かせたって話だが、そもそもなんで当時の魔法少女達はこれを攻略しようとしたのか、にも繋がって来そうだ。

 たとえば──敵の拠点だった、とか。

 

「梓、何をしているんだ?」

「ん? あァ、ちょいと魔法の……って、危ねェから近づくなよ」

「危ない?」

 

 魔力を放出せずに、形を変える練習をしながらの考え事。

 当然この魔力は【即死】の効果がある。遠隔魔法少女ならここから更に遠くへ伸ばしたり飛ばしたり、飛ばしたモンを操ったりと色々出来るんだが、俺ァ近接なので無理。精々体のどこに【即死】を表出させるか選ぶとか、さっきみてェに触れた対象にどうこうする、とかしか出来ねェ。から、そのバリエーションを増やせねェかって練習。

 

「そういやポニテスリットはどうやって魔法使ってんだ?」

「どうやって、とは?」

「あー。なんつーの? どういうイメージで【波動】を出してんだ?」

「ふむ。この籠手もそうだが、鎧のようなもの、として認識している。変幻自在に形を変える事の出来る金属、でもいい。いや、金属ではないか。……いざ言われると難しいな」

「何の話ですの?」

「あァお嬢も」

 

 同様の説明をすると、お嬢は「それなら簡単ですわ!」と目を輝かせて言う。

 

「簡単?」

「あァまァ【神速】は足とかか」

「いえ、()()()()()()()という方が正しいですの」

「……んん?」

 

 お嬢今さっき簡単、っつったよな。

 その概念的な表現が簡単、なのか。

 

「私の中から、私の外に出た時、魔力は世界に触れますわ。それを使って、世界の手を妨害する……といえばわかりやすいかもしれませんわね」

「いや全くわかりやすくないんだが」

「ええー!?」

 

 金髪お嬢様的には自信満々の回答だったらしい。

 自分の中から、自分の外に出た時、魔力は世界に触れる。

 それを使って世界に干渉する。だから世界は金髪お嬢様に干渉できなくなって、金髪お嬢様は速くなったように見える……って感じか? 嚙み砕くと。

 ……お嬢は、世界、というものを……完全に捉えている?

 

「あるるららさんは、どう使っていますの?」

「私は、世界に溶ける感じ」

「ほら! 似てますわ!」

「言われてみれば、私も世界を押している……圧力をかけて、押しのけているような感覚だな」

 

 待って、待って待って。

 これ、俺がおかしいのか、もしかして。

 俺に──俺に、前世なんてモンがあるから。純粋なこの世界出身じゃねェから、世界を感じ取れていない? 

 

「……」

「どうしましょう、更に考え込んでしまいましたわ……」

「効率化の工夫を教えたのは私だけど、そんなに深く考えすぎてもあんまり意味はないよ」

「言葉にすると言うのは、難しいな……」

 

 世界。世界ってなんだ。

 この世界ってなんだ。

 

「じゃあ、面白いことをしてあげよう」

「ん?」

 

 考えに耽っていた俺の前に──キラキラツインテが来る。

 キラキラツインテは、座り込んだ俺を無理矢理立たせて。

 

 ぎゅ、と。抱きしめた。

 

「え、ちょ、ちょっと何してますの!?」

「なんだキラキラツインテ、どうし……う、ン……?」

 

 少女の温もりに包まれた──のも束の間。

 じわり、と。水が浸み込むように。

 何かが溶け込んでくるように。

 

 キラキラツインテの身体が……俺の中に入っていく。

 

「なん……だ、こ、れ」

「世界に対して、私を溶かすように。君に対して、私を溶かしただけ」

「わ──わ、わかったから、出て行ってくれ!」

「どうしようかな」

 

 気持ちが悪い、のとは違う。不快感は無い。けど、奇妙だ。

 自分と似た形の何か温かいものが、自分に重なっている。酷く、眠くなる。立たされたけど、そのまま崩れてしまいそうになる。風呂にでも入っているような気分だ。

 これは──不味い。

 

「あ」

「……ふゥ。あァそうか、【透過】は別に憑りついているってわけじゃねェもんな。私が動けば、ついてこれねェのか」

「ばれちゃった」

 

 バックステップで抜け出せた。

 抜けたら抜けたで喪失感っつーか、底冷えするような感覚を覚える。

 

「今の……なんだか、とてもイケナイモノを見てしまったかのような……」

「これが50年か……」

「何言ってんだお前ら」

 

 アホ二人は置いておくにしても、少しだけわかったことはあるかもしれない。

 俺とキラキラツインテは違う、ってことだ。

 何を今更な話だが、アイツが溶け込んできてわかった。アイツは俺じゃない。だから異物だと認識した。

 

 ──"世界に対して、私を溶かすように。君に対して、私を溶かしただけ"

 

 これがそういう事なら、世界ってのは、俺じゃないモノ、か。

 

「いつか必要になるかもね」

「……いつか世界を、ってか?」

「さあ。私は未来が見えるわけではないし」

 

 つくづくふわふわした奴だ。

 けど……確かに、今の感覚をここで得られたのは、良かったのかもしれない。

 化け物も、そしてそれらを統率する魔法少女も。何をしてくるかわからねェ敵ってのがいる以上、知識は大いに越したこたねェんだ。

 A級を目指すってんなら、尚更な。

 

「そろそろ行こうか。あんまり休んでいると、行方不明者扱いになっちゃうからね」

「そんな時間はかかんねェだろ。……この中にいると外の時間が速く進む、とか無いよな?」

「どういう発想だそれは。どこにいたとしても、時間の歩みが変わるわけがないだろう」

「私は遅くできますのよ!」

「そりゃ体感だろって」

 

 良かった。

 そォいうファンタジーは無いらしい。いんやさ、魔法にはありそうで怖いよな。時間停止とか遅延とか。

 魔法って括りだと、なんでも有りに思えてくる。……【即死】だって何でもありの一つだけどよ。

 

「では──最深部目指してはりきっていきましょう!」

 

 よォし、こっからは俺も戦うとするかァ。

 

えはか彼

 

 まァ無理だった。諦めが早いって、だってアイツラ二人が全部やっちゃうんだもん。

 

「が……種類が変わってきたな」

「この辺に小さな魔物が寄ってくると、食べられちゃうからね」

「アレとかに?」

「そう」

 

 今、二人が戦っているもの。

 大蛇だ。このクソ狭い迷宮で、大蛇。

 苦戦はしてい……る? いない? 外皮が固いから攻撃が通んねェと。で、頭探して口から剣突き刺せば死ぬだろうと。

 だから今二人は蛇の頭を探し回ってる。が、蛇も蛇でちゃんと抵抗するっつーか、上に乗られて走られたら不快なんだろう、じたばたするんで、走りづらくて苦戦してるって感じかね。

 

「これさ、私がやったらダメかな」

「良いと思うよ。けれど、全体を覆ったら」

「あァさ、このデカさは無理だろォよ。だが」

 

 だからといって部分的に殺したってあんまり意味はないと思う。それこそ頭部をやらなきゃ無理だ。

 しかし、そんならコイツの出番、ってな。

 

「銃を使うんだ」

「ン? あァそうか、遠征の時は、キラキラツインテが捕まってから武器使ったからお前は見てねェのか」

「そう。無様にも気絶していたからね」

「いやそこまでは言ってねェよ」

 

 俺の使う銃弾ってのは、毎日寝る前に【即死】を込めた空の魔石入り弾丸だ。戦闘の無い日は10発、演習だので使った後は出来て4発。だから安藤さんに1000発の注文したりしたが、アレ全部にすぐ【即死】を入れられるかっつったら無理だ。

 その代わり、今の今まで普通に【即死】だと思ってた量の【即死】……つまり、全体を包んで浸して殺す、っつー想いが込められているし、空の魔石いっぱいになるまで【即死】が込められてるんで、威力は折り紙付きってな。

 

 それを、蛇の胴体に撃ち込む。

 

「……あン?」

「答えは、わかるかな?」

「いやいや、嘘だろ。この前のエメラルドローパーだって一撃で仕留めたんだぞ。あんときはSRの方の弾丸だったけど。あの大きさを仕留めきれて──コイツには足りない、ってのか?」

 

 そんなはずはない。あの触手の化け物は、十二分にデカかった。他の魔法少女の魔力も取り込んでたし、少なく見積もってもS級くらいの強さがあった。

 それを、こんなたかだかでけェだけの蛇が超えるワケ──って。

 

「貫けて、ないのか」

「うん。正直に言って、その威力では【神速】ちゃんの適当な一振りにも敵わないよ。あの子が切り裂けなかった外皮を、そんな弾で貫けるわけないよね?」

「だが、私のコレァ、掠っただけでも【即死】の効果を与えんだ。たとえ外皮が固かろうと……」

「だから、掠ってすらいないんだよ。さっきみんなで話していた世界と自分の話。このスネイクは、自分に世界の侵食を許さない。今までその弾丸が掠めた事で【即死】していた魔物は、掠めたから【即死】したんじゃなくて、その弾丸に詰め込まれた【即死】に浸されて死んでいた」

「ってェことはアレか。コイツを殺すには、私自らが触るか、それこそ口ン中にでも弾丸撃ち込まねェと無理なのか」

「もしくは、だけど」

 

 言って、キラキラツインテは俺の太腿辺りを触る。一瞬くすぐったい温かさが通り抜けて──弾倉が一個抜き取られた。

 それを持って蛇の胴体に近づき。

 

「こうすることも、出来るよね」

 

 弾倉を──蛇の中に突き入れた。

 

「……え、今それ、どうやった? お前の【透過】は他人にはかけられないんじゃないのか?」

「他人にも、物にもかけられないよ。けれど、私の身体が何を【透過】するのか、しないのかは選べるから、握り締めたものを【透過】しないで、スネイクの身体だけを【透過】して、置いてくる事はできる」

「手がフィルターになるってことか……?」

「そんな感じ」

 

 その説明の後──大蛇の身体が、ビクンと跳ねる。

 キラキラツインテが手を引き抜く頃には、その体から生命力は感じられなくなっていた。

 

「さっきやった、ケイブバットのでも、まだだめ。【即死】させたいものだけを殺して、させたくないものは殺さない。それが出来るようになったら、君はもっと強くなれるよ」

「……もしかして、あれの身体に触れて──心臓だけを【即死】させる、ってことも」

「出来るだろうね。君にスネイクの構造の理解があれば、だけど」

 

 ある。

 ヘビの解体はやったことがある。どこにあるかはわかるが、このヘビの大きさがわからない以上は意味が無い。だが──たとえば、コイツそのものは無理でも。

 こっから上だけを【即死】させる、とかやれたら……半分の消費魔力で済むわけだ。

 指向性。展開。

 魔力量と効率化だけじゃない、工夫すりゃ出来る事はいっぱいあんのか。

 

 つか、そォだよな。

 俺ってまだ魔法少女になってから数ヶ月なんだわ。さっきも思ったけど、学びの身なんだ。凝り固まった偏見でかかっちゃいけねェ。ベテランの前で得意ぶるのもそろそろ無しだ。前世での経験なんざ、魔法の前には簡単に打ち砕かれんだから。

 キラキラツインテはふわふわしてるけど、魔法少女歴50年の大先輩。班長にだってそォだが、あんまり偉そうなこと言えたもんじゃねェ。後で思い返して恥ずかしくなるだけだな、こりゃ。

 

「……あるいは」

「何かに気付いた?」

「いや」

 

 ちょっと、考えただけだ。

 魔法を使う対象を選べる、というのは。【即死】させたいものだけを【即死】させる、というのは。

 

 医療にも、発展できるんじゃねェかな、って。

 この──苦痛に喘ぐ魔法少女を痛み無く殺せる、なんて悲しい価値だけじゃなくてさ。たとえば癌だとか、あるいは体内に入り込んだ何かだとか。そういうのを取り除ける……そういうのだけを殺せる、ちゃんとした価値のある魔法なんじゃねェかって。

 

「ちょいと、希望っつーのかな。展望が見えただけだ」

「それはよかった」

 

 俺の生まれた意味がさ、【即死】なんて魔法に目覚めた理由がさ。

 そんな悲しい、ヤなモンじゃなくてさ。

 本当に何かを救えるものだったら最高だ。【回復】だの【治癒】だのが無いこの世界で──ヒトを救い得る魔法なら。

 

「梓さん! 大丈夫ですの!? こんなに大きいものを【即死】させたら、魔力が!!」

「別にお前は戦わなくてもいいというのに……」

「あァ大丈夫。銃使ったからよ」

「……あぁ、あるるららさんが【透過】したんですの?」

「そンなに即座にバレんのかい」

「だってあの銃、そんな威力出せませんもの。それができるなら私がやってますのよ!」

「ソレが通用するなら私の【波動】でも潰せる」

 

 そんなボコボコに言わなくても。

 ……え、この銃そんなに威力低いの? 低いのは知ってるけど、そこまでじゃ……いや、違う。コイツラが強すぎるだけだ。そうだ。あぶねェ、A級以上の常識に騙されるトコだった。

 

「ま、私もちったァ役に立つってことで」

「今の実力じゃ、この先で役に立つ機会があるとは思えないかな」

「悲しいこと言うなよキラキラツインテ……」

 

 助けさせてくれ、とか。強くならなきゃ、とか言ったけど。

 真剣にやんなら、武器の見直しからってことね。安藤さんと相談だなー。

 

「もうすぐで半分ですわ!」

「おォ。……5割でこんな化け物が出てくんのか」

「進めば進むほど強くなる。この程度の魔物ではないぞ、最深部周辺は」

「あァ、気を引き締めるよ」

 

 尚も心配そうな目で見てくる二人に。

 少しでも安心させようと……あァ、これ何言っても無理だな。ホントに強いんだろう、奥の奥は。

 いつでも【即死】防御が出来るようにしておかなきゃな。

 

「心配ですけど、行きますのよ」

「止めはしないといった手前何も言えんが……引き際という言葉もあるからな」

「わーったって」

 

 足手纏い、なんだろォなァ。

 

 ……引き際、か。

 

えはか彼


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