遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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122.地出美琉図栗廃流.

 初手【痛烈】。

 もうあっきらかな死の気配──夜の使徒かどォかはともかく、確実に生者じゃねェソイツにそれをぶつけて──何の反応もしねェのを見て、笑みを深める。いいね、隠さないのは好きだぜ。わかりやすい。

 

「何か、した?」

「先行くぞ、メイアート」

 

 斬りかかり──。

 技術もへったくれもねェソレは、けれどクロムクラハの膂力と速度によって、必殺に近い威力を持つ。クリスが壊れねェからな。それを信じての、力任せの一振り。

 確実に捉えた。側頭に入った──この世ならざる物質であるクリスは、けれど、止まる。

 少女だ。少女の体だ。だというのにクリスはその身を進めることができない。

 

「殺したくない。けれど傷つけなければならない。ならば一生残る痛みを、傷を……あくまで、死なない範囲で、治すことのできない傷を刻む。……引くわぁ。そういうの、執着心の強い女のコがやることであって、男のそれは醜いだけよー?」

「男女差別か、今時流行らないぜ、そォいうの!」

 

 ヴァスでぶっ叩く──フリをしながら、【天愍】の発動。周囲の水晶に【鉱水】を作用させ、左右背後からの奇襲を行う。遠慮は要らねェ。コイツは敵だ。最初っからフルパワーで行く。

 が。

 

「もー、勿体無いなぁ。こういうコが生まれる可能性もあったってことでしょ? 人類の損失よね。コレとか……ふわぁ、揉み心地最高」

「っ!?」

 

 いつの間に懐に入った!?

 

「おい、ぼーっとしてンじゃねェ!」

「あン? ぼーっとなンて……」

「してるしてる」

 

 また胸を揉まれる。

 感覚神経なンざとっくに行っちまってるから然程問題は無いとはいえ──なんだ。時間を操る魔法? いや、この感じは……【弱化】か?

 

「【傾刻】だ。対象者の体感時間を変動させる魔法。時間を操る魔法など、それは権能の域だ。存在しない」

「……着物狐の魔法じゃなかったか、それ。奪われたのか?」

「返してもらっただけだけど?」

 

 が、まァ種が割れたらどーってことはねェ。全身強化して──。

 

「さっきから何やってやがる!」

「きゃー」

 

 気が付けば、クロムクラハが目の前にいた。目の前にいて──クリスで奴の攻撃を受け止めている。

 足りねェのか。全身強化じゃ。

 

「──零。助けてくれ」

「気安くオレの名を呼ぶな。だが、良いだろう。いつの間に紛れ込んだか──ソイツはキスキル。神の敵だ」

「助かる」

 

 目を瞑る。

 カッコよく駆け付けといてこの体たらくじゃァお嬢も着物狐も安心できねェだろう。ハハ──なんぞ、神の敵らしい。そりゃなンだ、ポマネイ・リコで肩透かしも良いトコだったラスボス戦。それに相応しいと言えるだろう。

 おあつらえ向きってェ奴だ。

 

「近づいてきている」

 

 左足を軸に、バックステップで下がるフリをしながらの――【天愍】。ヴァスに纏ったソレは、しかし空を切る。手応えが無い。

 

「……目を瞑った程度で対処できる魔法じゃないはずなんだけどー」

「あァちょっとズルしてる。で、キスキルつったか。一応聞いておくぜ。お前さん、生きてェか?」

 

 軽く聞く。

 いつもみてェな命運を分ける問いじゃねェ。どう答えても俺の行動は決まってるからな。

 だから──軽い問いだ。

 

「っぷ、なぁに、それ。もしかして──強大な力を得たから、相手の命は自分の掌の上にある、みたいな勘違いしちゃってる? ぷぷぷ、おかしいの。貴方なんて──誰1人守れずに、目の前の命すら救えない臆病者のクセに」

「──褪戦死遠(【死漸】)!」

「ちょっと、今私こっちのと話してるの。貴方はそっちで大人しくしてなさい」

「う──ぐ!?」

 

 クロムクラハが水晶の中に閉じ込められる。

 精神体を閉じ込める水晶だァ? 魔力なンて感じられねェのに……クロムクラハは驚いた顔のまま動かない。

 

「顔を狙っているぞ」

「ハハ──なンだ、なんでも知った気になって得意面か? 見てきたワケでもねェだろうに、随分と面白い性格してやがる。見聞きしたモンを自分の実力だと思い込むタイプだなァさては」

「……また避けた。さては、何かいる感じ? 私の魔法の届かない何かが憑いてる……なら、遮断してあげる」

 

 途端、零の声が聞こえなくなる。

 ……ズルはできねェと。へいへい、じゃァ身1つで頑張りますよ。

 とりあえず──【鉱水】で、この場全部の水晶を液体化する。

 

「こ……ぅ、はァ。クソ。なんだ今の……」

「よォお目覚めか。精神体が魔力も籠ってねェ石ころに封印されてちゃ世話ねェな」

「うるせェな。俺が役に立たねェってンならとっとと殺せよアイツ。今の俺にゃわからねェけど、夜の使徒だろ、アイツ」

「使徒かどうかはわからねェが、生者じゃねェなァ」

 

 液体化した水晶。それに沈んでいく──わけでもなく、その水面に立つキスキルを見る。

 不思議そうな顔をして足元を踏みしめて、それを掬ってみて零して──ソレだけ見れば、年相応の少女だ。

 

 ま、興味持ってくれてンなら都合がいい。そのまま固めて。

 暗闇。

 

「?」

「いいわねこれ! 水晶って尖ってるから、投げたり飛ばしたりすると殺しちゃいそうで困ってたのよー。でもこれなら、いくらやっても大丈夫! ナイスアイディア!」

 

 掴まれたンだ。顔を。

 そのままぶん投げられた。反応できる速さじゃねェ。いや、俺が遅いのか。

 ……クロムクラハにァ効いてねェっぽいのが開路かね。

 

 さて、考えよう。

 決めた。

 

「クロムクラハ!」

「ああ!」

「逃げな!」

「──あァ?」

 

 開路も活路も関係無ェ。別にマトモに相手してやる必要はないンだ。

 むしろ正面からぶつかるってなコイツの思う壺。だったら逃げた方が良い。

 

「お前、壁すり抜けられるンだろう! 輪廻の車輪壊してる奴ら連れて逃げな! そんで、王としての、主としての役割を果たせ!」

「……りょーかい」

「え、あれ。頷いちゃうんだ。貴方なら"ふざけンじゃねェ!"とか言って口論し合うと思ったのに。なぁんだ、つまんなーい」

 

 キスキルの誘いに乗らず、壁をすり抜けて消えていくクロムクラハ。

 その背を追うってな気ァ無いようで、つまらなそうに俺へと向き直る。向き直って──キスキルは、にやりと笑った。

 

「それで、1人になっちゃったけどー、もしかして勝てるとか思ってる?」

「あン? たりめーだろ。つかもうお前さんは負けてるよ」

「──ぷぷ、なにそれ。何の強がり?」

 

 ヴァスは刺又の形に。

 何度か回して──うん、いける。

 

「そうだ、良い事思いついちゃった。ね、子作りしない?」

「誰がてめェみてェなチビとするかよ。もっと大人になってから言いやがれ」

「んー、たとえばこれくらい?」

 

 言って。

 ──酷い既視感を覚えさせる姿が、そこに現れる。

 青い異装はどこへやら、纏うのは病衣。短く揃えられた黒髪。世を憂うよォな、少しばかり垂れた目。退屈で退屈で──だからこそ、俺と話すのが楽しいのだと言ってくれた、あの時の顔。口元のほくろ。身体も、顔も。雰囲気も。

 

「ハ──成程。神の敵。つまり──悪魔か」

「この姿なら、子作りできる?」

「馬鹿が。誰が死体とヤるもんかよ。出直してきやがれ」

「……我儘ー。じゃあコレとかどう?」

 

 次は、冷静メイド。その次は着物狐。

 他、俺の会ったことのある──ちっとでも心惹かれた女性のカラダに、キスキルはウネウネと変化していく。

 

「気味悪ィなァオイ」

「もー。据え膳食わぬは男の恥じゃないの? 貴方の好みの姿になって、ヤらせてあげるって言ってるんだからとびかかって来ればいいのに。そ・れ・と・も。遠慮してる? 姿を模しているだけとはいえ知り合いのカラダを好き放題するのは気が引ける、みたいな?」

「誰になろうと、どォなろうと、中身がてめェじゃなんとも思わねェよ」

「──じゃ、されるのが好きなんだ?」

 

 いつの間にか。

 いつの間にか──押し倒されていた。液状化した水晶の海に、仰向けで。俺に馬乗りになったキスキルが、その顔を近づけ──口付けを落とす。

 

「焦らすンじゃねェよ。馬鹿が、それを待ってたンだっつの」

「何、もしかしてリードされたい派なの? うわぁ、なよなよ系かぁ。結婚できなそー」

「あァさ大丈夫だ。()()()()()()()()

 

 ぎゅ、と。

 キスキルの体を抱きしめる。今は元のキスキルの姿で、且つそのまま大人になったみてェな容姿。それを、逃がさねェように、離さねェように抱き締める。

 

「ちょ、いきなり情熱的──」

「大正解だ」

「……? 何が?」

「だから、大正解だっつってンだよ」

 

 ザク、と。

 音がする。見えねェからな。音で判断する。灼熱を訴える胸なンか知らねェ。ただ──目の前の顔が。キスもたるやという顔が苦痛に染まるのを見て、さらに強く抱き締めた。

 

「う──?」

「お前の予想は当たってるってことさ。──俺が。どれだけ変わろうと、変じようと、俺が。たとえ相手が俺であろうと──」

「誰かを見捨てて自分だけ逃げる、なンてこと。するワケねェだろ」

 

 俺ごとキスキルを貫くは黒い刀身。白のラインが入った波打つ剣。

 誰かを見捨てて自分だけ逃げる、なンてことはしない。──その上で、その覚悟を見初めたのなら──怪我をさせてまで成果を掴み取ることに躊躇はない。その相手が俺だってンなら猶更だ。

 

「ハ──ハハ。痛いか? 痛いよなァ。あァさ俺も痛ェ。いいだろ? 2人が抱き合って痛みを共有して──これをしたかったンだろ? 俺もだよ!」

「ッ……なんで、私の体にそんなものが、通る……」

「なンだ気付いてなかったのか? 【凍融】つってよ、温度変化なしに対象を凍らせたり融かしたりできる魔法があるンだ。……なンて、ちょっとでもされたらクソ痛ェはずなンだけど、一回目で気付かなかった時点で効果的だってなわかったよ」

 

 胸を揉むだとか、弄るだとか。

 どォにも女の体に興味があるみてェだったからな。こっちがノり気じゃねェ雰囲気出してりゃ痺れ切らして襲ってくると思ってたよ。押し倒して唇を奪う──ハハ、悪魔のやりそォなことだ。

 だからまァ、一度クロムクラハを壁の中に隠して、俺が確実に拘束したところをぶっ刺す。確実な方法さ。【痛烈】が効かなかった時点で魔法の効き目ってな怪しかった。だから【痛烈】に混ぜて【凍融】を試し、内側と外側、どっちもちゃんと死ぬ生物だって確認した。

 

 なら──もうやるこた決まってる。

 

「【天愍】──あァさ、まずは裁定させてもらう」

「ぐ……ぶ」

 

 俺ごと胸を貫かれたキスキル。

 どォせまだ終わりじゃねェだろうから第二波として【死漸】を使おうとして──気付く。

 その生命力が、如実に減っていっている。

 

 ……死んだ?

 

「……」

「終わった、か?」

「……」

「……」

「……おい、メイアート。なンか言えよ。まさかお前まで死んだってこた──」

 

 抱き締める。

 強く強く──絶対に離さない。

 生命力が目減りしてる? ハハ、何言ってやがる。

 ソレで油断すると思ったのか?

 

 てめェが夜に属するモンだってなわかってンだよ。

 

「ん-、熱烈だねー。私としてはこのぱふぱふに顔を埋められるから役得なんだけどー、そろそろ面倒くさいかなー?」

 

 既に【死漸】は発動させている。だが、死なない。

 魔力は浸透している。だってのに死んでいない。これは、この感覚は。

 

「……生物じゃねェのか?」

「そっちの方がそうでしょ」

 

 なんだ。

 キスキルを抱きしめている腕の感覚が、無い。否、肌を合わせているというのに……体の触れている感じがしない。体温が無いのか? いや、これは。

 これは──。

 

「クロムクラハ! 俺ごとぶっ飛ばしてくれ!」

褪戦死遠(【波動】)!」

 

 下方から盛り上がるよォに衝撃が来る。

 それによって。

 

 散り、砕けた。

 

「ありゃりゃ、気付くの早いね。このままフィギュアにしちゃおーかと思ったのに」

「……そりゃまァ、ご勘弁さ。【鉱水】」

 

 砕けたのは、俺の腕。

 水晶化した俺の腕だ。その他、キスキルに触れていた部分も水晶みてェになっちまってる。

 痛みが無いのが罠だった。【侵食】や【白亜】と同じだ。ただし、対象に気づかせねェってな厄介だが──世界を変質させる系統の魔法。

 否、権能になンのかね。

 

「ついに両腕か」

「はン、言ってろ」

 

 隣に降り立つクロムクラハに目立った傷はない。対して俺は両腕を失い、体表に少なくない水晶を背負ってる状態と。

 腕自体は【鉱水】でどォにでもなる。今まさに【鉱水】で作り上げた腕でヴァスを持ち、体の水晶も動きやすいよォにならしてあるが……これ、多分生命活動に支障あるよな。

 

 ハナから先の短ェ身体だったが、これでグンと縮まったな。

 どーでもいいか。どうせ人形だ。

 

「うーん。1つ聞きたいんだけど」

「なンだよ」

「貴方、何が目的なわけ?」

「あァそりゃこっちの台詞だが」

「私は別に、封印されてたのを解放させたから、ちょっと多方にちょっかいかけて遊ぼうかなーってしてただけ。けど玩具は奪われちゃったし、男には興味ないんだよねー。こういう事してもそんなにダメージないだろうし」

 

 こういうこと。

 そォいった直後に、俺の腹が膨らむ。

 ……まるで妊娠しているよォに、ってか?

 

「ほらね」

「いんやさ、てめェが俺の身体の大半水晶にしたンじゃねェか。だってのに今更生体の腹ァ出てきたってなんとも思わねェよ。幻かなンかだろ、どうせ」

「そういうトコがつまんないって言ってるんだけどなー」

 

 何かが収縮する──ばくんと、外側が脈を打つ。

 なんだ。これは……世界が縮んでいる?

 

「だから、何が目的なの? 貴方、さっきの玩具回収して、じゃあどっかいけばいいじゃん。私に何か用があるの?」

「アンタが大人しくこの世界から出てくってンなら特に用はねェよ。あるいは消えてくれンならな」

「そっか。じゃあ無理だねー」

「だろ? んじゃま、問答なンざしてねェで、楽しく戦おうぜ。まァ安心しろよ。互いに夜に属するモンだ──命の取り合いにはならねェだろ」

「そうねー、それは安心。それじゃ、ちょっと本気だしちゃおっかな!」

 

 その言葉が皮切りだった。

 脈動。けれどそれは世界の、ではない。目の前のキスキルから──液体化した水晶を波立たせ、力があふれている。魔力じゃァない。

 

犯照喪丹産無(【失楽】)

 

 これは、水晶か。溢れ出すのは……この空間にあるモノと同じ、水晶。水晶だ。

 芸が無ェ、わけじゃねェ。これが世界を変質させる権能だとするのなら。本気を出す、という言葉が──俺達に向けられたものではないのなら。

 

 ──"痛い"

 ──"苦しい"

 ──"助けて"

 ──"助けて"

 ──"助けて"

 ──"助けて"

 ──"助けて"

 

「世界だ! 世界が侵蝕されてる! ──クロムクラハ、始の点を!」

「わーってる! だがわかってるな!? 今度ばっかりは戻ってこねェぞ!」

「馬鹿が、人命最優先だよ!」

 

 クロムクラハが壁をすり抜け、上方へ消えていく。ルルゥ・ガルとアズサのとこに行ったンだろう。輪廻の車輪の破壊……できたのかどォか知らねェけど、できてなかったら諦めてもらわなきゃならねェ。

 こりゃ無理だ。なんでこんなのが今まで大人しくしてやがった。なんでこんなのが世界の中心にいやがんだ。

 

「また不意打ち?」

「いんや、こればっかりはちゃんとした撤退さ。アイツにゃ救わなきゃならん奴がいっぱいいるんでな」

「そっか。貴方にはいないの?」

「俺は殺すのが役割でね。なァに安心しろよ。お前が生物じゃなくても、きっちり殺してやっからさ」

「楽しみにしておくねー」

 

 瞬間──爆発的に水晶が溢れ出す。

 1秒と経たずに部屋を埋め尽くした水晶は、当然ながら俺の体も圧し潰してくる。【鉱水】や【凍融】じゃ間に合わない。纏うべきは、まァ決まってる。

 

「【世涯】……でも、そォ保ちそォにねェな」

 

 いんやさ、全く。着物狐とお嬢は何してたンだか。最大限厄介なモンを叩き起こしてくれやがって──まァ知らないまま世界に【占幽】してたら侵食され尽くしてたかもしれねェけど。

 世界が泣いている。すまねェなァ。もう少しの辛抱だ。

 キスキルもお前も、ちゃんと殺してやるから。もう少しだけ待ってくれ。

 

「まァ、なんだ。自己紹介くらいはしておくか。なァ。俺は太陽の使徒メイアートってンだ。魔法少女から魔法を裁定する者であり、世界を殺す者となる。お前さんは?」

「こんな状況で自己紹介とか、マイペースだねー。いいよ、私はリラ。リラ=キスキル。最初のヒトとか、大悪魔とか、色々言われてるかな」

「そりゃァけったいな通り名だ。んじゃまァ──どっちが強いか勝負しようぜ」

「いいよー」

 

 水晶の侵蝕は止まらない。

 世界を殺す魔法である【世涯】さえも侵蝕し、ゆっくりとではあるがこの球体の中にはいり込んできている。となれば世界はその比ではないのだろう。あァさ、苦しいよな。痛いよな。

 

「──【天愍】と【世涯】、【傾刻】の役割を掌握。基点の合成開始……不可。知るか。開始だ開始。……変数設定。引用接続。合成不可。……新規言語作成。完了。呼出変数名を【天元】に設定。【天元】と()()の役割を……掌握してねェけど掌握! 基点はなんでもいいだろ! 変数設定、引用接続、合成。合成! 呼出変数名を【天元】から【始原】に設定」

 

 水晶の腕で侵食してくる水面を抑える。無理だな。取り込まれてる。

 いい、いい。気にしねェ。

 

「.阿武陀不意田美瑠阿留詩不離(魔法のアップロードを開始)……苦傍(エラー).具礼琉牟田沙里(接続されていません)

 

 あァそうか、さっき遮断されてたンだっけ。

 んじゃまァ、ちょいと思う所がないわけじゃないが──繋がってるのは知ってるからな。

 

「.汲矛鐚具礼琉初者途或多雨美瑠民(アップロード先を)"(レイ)"異苛(から)"或美斜塔或不破霊吾知(亜空間へと変更)"」

 

 ついに──水晶の侵蝕が止められないところにまで来た。

 腕は勿論、肩も胸も首も腹も顔も足も──全身が水晶に変わっていく。

 恐ろしいのァ痛みが無い事。まるで水にでも浸るかのよォに、痛み無く──しかし感覚だけが無くなっていく。

 

 まだ。

 まだいける。

 水晶になっていく顔で、口で、【鉱水】を発動。ヴァスを持ち上げ──自分の胸にぶっ刺す。

 

「無駄無駄ー。死にきる前に綺麗なクリスタルにしてあげるからねー」

「ハ──勘違いも良い所だな、キスキル。俺がクリスタルになるのを恐れて自殺するよォな奴に見えてンのか。ちったァ観察眼ってモンを鍛えな」

 

 二又の矛となったヴァスが捕らえたのは──俺の魔法少女の因子。メイアートの、と言った方が正しいか。

 "役割の統合"をしまくって凄まじい色になってるソレを、亜空間ポケットに入れる。

 当然、これにより【鉱水】も【始原】も使えなくなった。だから──水晶が全身を侵蝕していく。あァさ、もう脳にまで来てるな。

 

「ハハ──ハハハ! 最期だ! 最後の大盤振る舞いだ! !稲羽身砂利跡久刃白単炭田或琉社無私(それは太陽を讃える失われた理想), 江洲椅子斗衛眠図出夢迂韻徒下司歩寧皇丹玖(それは風と共に繋ぎ紡ぐ年代記)! (それは)……糸伊豆阿止理負不伏零矢堕千経度戸地内途(それは夜に捧げる祈りの物語)!」

 

 叫ぶ。

 吠える。

 遠く遠く、遮断されよォがジャミングされよォが関係ない。

 冥界の神々に届くよォに──叫びたてる。

 

「【召天】!」

 

 矛先は直上。キスキルじゃなく──アイツらがいる方向。その先を切り開くための衝撃波。

 メイアートは、もうしまいだ。

 こっからは──アンディスガルの時間だぜ、ってな。

 

 

 

えはか彼

 

 

 

「おいお前ら! 輪廻の車輪は壊せたか!?」

「……」

「……すまねェ、出力が足りねェ。罅入ったけど、私の全開の魔力でも……ダメだった。世界言語ってのまで使ってみたンけどな……」

「あァさじゃァ諦めな! 早いトコ離脱しねェと、飲み込まれンぞ!」

「飲み込まれる? 何に?」

 

 魔力の籠ってねェ水晶をスイスイ泳いでいけば、水ン中に出た。

 そのさらに行った場所。そこで2人がちっくせェ回し車をどォにか壊そうとしてる場面に遭遇する。輪廻の車輪。前にセイタスと来た時はこんな中心部まで来なかったからな。まさかホントに車輪があるたァ思わなんだ。

 けど、今はンな事言ってる場合じゃない。

 

「下に見えてる水晶にだ! ──やべェ、侵蝕スピードが上がってる。おい! 落ち込んでねェで行くぞ!」

「……いや、私はここでコレを壊すよ。もう一回やれば……」

「私も。純朴ちゃんが残るなら、残るわ。それで死ぬのなら仕方のないこと。どの道輪廻の車輪によって新しく生まれるのだろうし──ふふ、その時同じ魔物だったらいいわね、純朴ちゃん」

「……そうだな。ってワケだ、クロムクラハ。お前は始の点の主って役割があンだから──」

 

 いやァうるせェうるせェ。

 おいオーディン、てめェの力使うぞ。

 

「【移様】」

「おわっ!?」

「──これ、オーディンの……!」

 

 命あっての物種だ。輪廻の車輪なンざどうでもいい。後でウィドアルあたりに頼めばなんとかなるだろ!

 今は脱出を──。

 

「【終焉】」

「ッ──っぶねェな、オイ! 何しやがる!」

「先に行けつってンだよ! 私とお前じゃ背負ってるモンが違い過ぎる! 私は死んだって問題無ェが、てめェは違うだろ! てめェ、迷宮の主の自覚あンのか!? 王である自覚あンのか!? お前が死んだら──始の点に乗ってる奴ら、みんな死ぬんだぞ!」

「はァ!? ぶっ飛ばすぞてめェ、よォやく生きる理由も友達もできたクセに、てめェが死んだって問題ねェだと!? ナマ言ってンじゃねェ、このやろ、気絶させてでも連れてってやる!」

「ちょっと、喧嘩してる場合じゃ……」

 

 う。

 寂しんぼに仲裁されるとは思って無かった。

 反省しよう。反省しようだが無理矢理連れて行こう。それが俺の義務だ。こいつらは死の運命にはないはずだ。生きるべきだ。俺はもうアンディスガルじゃねェけど、生きて良い2人なはずだ。

 

「──待て、お前世界言語使ったつったか?」

「あァ、意味はわからねェけど、思い浮かんだ言葉を使ったよ。それに【終焉】の最大威力を乗せた。それでも罅しか入らなかったンだ。……悔しいけど、私じゃ多分これが限界なんだと思う」

「どれだ。夜の言葉か?」

「え……いやだから、わかんないんだって。私は世界言語知らないから……」

 

 水晶の増殖速度はやべェの一言に尽きる。

 だが……確かに、輪廻の車輪には"終わり"がしみ込んでいるよォに見える。

 

「寂しんぼ、お前さんは判断できるか」

「多分、夜と太陽と風、全部よ。風に関してははっきり聞こえたし」

「そ、そうなのか」

「……」

 

 おいおい、全部って……精神負荷大丈夫か? 尋常じゃねェ痛みのはずだぞ。

 だが、そうか。それなら。

 

「ルルゥ・ガル」

「何よ」

「コイツ連れてできるだけ浮上しといてくれ」

「嫌よ。私は純朴ちゃんと一緒に──」

「手伝うからよ。輪廻の車輪壊し。安心しろ、アズサ。お前の最大威力、確実に届いてる。アレはウィドアルが作ったモンだからな、三属性の世界言語なンざ想定してねェんだろう。いいさ、それなら俺だってやりようがある」

 

 メイアートから預かったまま持ってきちまったクリスを取り出す。

 ……頼む。お前が俺のモンじゃねェのはわかってるから──それでも、梓・ライラックってな存在のために、形を変えてほしい。

 

 ああ。ありがとう。

 

「……狙撃銃か。それでアレを?」

「コイツの弾丸は特殊でね。俺の魔力を使う。冥界ではなく死の魔力──死者の概念弾丸だ。まァその辺の説明はいつかにしよう。今は時間が無い。──俺を信じるのなら、2人で行けるとこまで行っといてくれ。必ず追いついてお前らを始の点に戻しに行く」

「じゃァ、ここにいるよ。お前の事信じらんねェし」

「そうね。純朴ちゃんならともかく、アナタみたいな野蛮人、信じるに値しないわ」

 

 ……。

 へいへい。仲のよろしいこって。

 

 スコープは覗かない。すぐそこだしな。

 水中であることは考慮しない。魔力の弾丸だ、ンな余波は受けねェ。

 

 問題は──。

 

「ま、問題ないさ。──それは夜に捧げる一節の祈り」

 

 神さんの声は聞こえない。

 俺が神になっちまったからな。祈りを捧げるンじゃなくて、捧げられる対象になっちまった。捧げてくれンのは……アオンくらいかね。

 

「本来は私がやるべきなのに……ごめん。だから、頼む」

「らしくないわね。何震えてるのよ。まっすぐ前を見なさい。貴女は王なんだから」

 

 ……これは信者カウントしてもいいもんなのか?

 いっか。じゃあ3人に祈られてるってことで──単純計算、今の俺の力は3倍だ。

 世界言語使ったって特に問題はないものとする。

 

「──褪戦死遠(【即死】)

 

 撃つ。

 既にアレは終わっている。ならば──止まれ。機能を止めろ。

 死ね。

 

 ──衝撃波が通り抜ける。

 

「……余計なコトしやがって」

「え?」

「あァ、なンでもねェ。行くぞ」

 

 今のは俺の言葉じゃねェけど、俺が言おうとした言葉でもある。

 輪廻の車輪に関する話じゃねェ。ンなもんが壊れるのは確定だった。そォじゃなくて──水晶の奥の話だ。

 今。

 メイアートが、壊れた。それがわかった。

 ……まァ、割り切れてるかっつったら、やっぱこれもキチぃンだよな。アイツの胸ぶっ刺した俺が言う事じゃねェってなわかってンだけどさ。

 アイツはメイアートを人形だと思ってたみたいだけど……ちゃんと心臓あって、ちゃんと生きててさ。それを認めちまったら、冷静メイドの移動法も、なんなら魔法少女の蘇生も認めてねェとおかしいっつゥか……。

 

 なんだろうねェ。

 アイツも壊れてきちまったのか、それとも俺がうだうだこだわってるってそんだけか。

 

「なんだ、こりゃ」

「馬鹿が残した置き土産だよ。まっすぐ進めるンだ、特に文句はねェだろ」

「……野蛮人。連れられている身で申し訳ないのだけど、もう少し速度上げられる? ──追いつかれるわ」

 

 一瞬振り返る。

 うわ。やば。

 

 翼を大きくしならせる。否、もっと、もっとだ。俺はもっと先にいる。

 痛いンだろう。苦しいンだろうが──認めてくれ。俺はもっと先にいると、世界よ、認めてくれ。

 既に水中ゾーンを抜け、溶岩や酸がある地帯に来ている。が、関係ない。全部ぶち抜かれてるからな。まっすぐ真っすぐ上を目指すだけでいい。

 

 水晶は水も溶岩も酸も何もかもを侵蝕している。ありゃやべェな。さっき閉じ込められた時も思ったが、魔物は何もできずに封殺される感じがある。

 

 海……じゃねェ、干上がった盆地を抜ける。

 久しぶりの太陽だ。始の点は──あった。速度を落とさずに駆け込む。

 

「受け身は自分たちで取ってくれよッ!」

「うわ!?」

「ちょっと──!」

 

 アズサとルルゥ・ガルをぶん投げて、座に就く。

 高度上昇。

 

 ──俺達が出てきた穴から、水晶がもりもりと氾濫してきているのが見える。覆われているンじゃない。全部が水晶に置き換わっている。ありゃマジでまずいな。

 

「冷静メイド、こいつらの処置頼む」

 

 亜空間ポケットから取り出すは金髪お嬢様と着物狐。怪我は多いが、まァ致命傷はない。包帯とかでいけるだろ。

 

「承知いたしました。尚、クロムクラハ様が懸念されていたEDEN第二拠点の蘇生槽はそのまま持ってきましたが──いかがいたしましょうか」

「壊せ、ンなもん」

「まだ蘇生の終わっていない魔法少女がいますが」

「壊せ」

「……承知いたしました。ちなみに蘇生の終わっていない魔法少女がいる、というのは嘘です。既に全員蘇生済みとなります」

「あァそうかい。どうでもいい話だ」

 

 終わっていようがいまいが関係ない。

 死んだら死んだで終わりだ。蘇生できてねェとかどうでもいい。俺ァそこ曲げたつもりはねェぞ。

 

「ザグルス、これから脱出をする。天幕ってな突き破っていいモンか」

「問題ないでしょう。ですが、お気を付けください。世界は既に縮み──角度によっては、あれなる侵蝕に箱舟の尾を掴まれます」

「レーテー、マッドチビ先生! この舟が冥界に行くってな場合の改造は終わってンだろうな!?」

「うん」

「終わってるわ! あと、今牢に入れてあるけど──シエナと私の偽物も格納してあるから、処遇はアンタが決めなさい」

「あァメイアートから聞いた。もう何もできねェから解放していいとは思うが、まずは脱出だ」

 

 始の点の高度をさらに上げる。先端を上にし──天幕を目指す。

 目指すまでもねェ。かなり縮んでやがンな。……ちょいやばめじゃね、これ。

 ここで船体傾けると最後尾掴まれちまう。移動するか。

 

 目を瞑る。

 水晶の一番すくねェ場所。……う、魔力で編まれてねェから感知がしづらい。これは……あー。どこに、いけば……。

 

「北方山脈の裏。ジョームンガンダーやフルオブズヴィトニーがいたところに行くと良い」

「了解」

 

 始の点を移動させる。

 

「……理由を聞かないのかい?」

「魔物がこんだけ乗ってる舟を危ねェ場所に連れていくたァ思えねェからな。頼りにしてるぜ、ウィドアル」

「……しょ、しょうがないな! うん、全力で案内してあげよう」

 

 チョロ。

 

「──クロムクラハ様! 後方、水晶の柱より飛翔体を検知しました!」

「飛翔体? 魔物か?」

「いえ──水晶で出来たバード種のように見えます。ただ……」

「あれ、魔物じゃないわ。精神体がない。さしずめ模倣体とでも言ったところかしら」

 

 ……まさか、船体に張り付く気じゃねェだろうな。

 そっから侵蝕できる、とかだったら──冗談じゃねェ。

 

「おい遠隔! まだ魔法少女のままの遠隔ァ迎撃頼む! だが死ぬなよ! 危なくなったら下がれ!」

「退却は任せて。攻撃されそうな魔法少女は全員【亜空】に取り込む」

「それ最強。──魔物も、遠隔手段がある奴は行け! 無い奴は外を見ろ! 俺はまだ始の点の操作に慣れてねェ、敵見つけたら迅速な報告を! じゃねェと避けられねェ!」

「なら、魔物たちの情報処理は私がやるわ。フギン、始の点内部を回って今の言葉を伝えて」

 

 あァさ──ちょいと、魔煙草を吸わせてもらう。

 このところずっと魔物を食ってねェからな。世界言語の使用は……クる。少しでも癒さねェと。

 

「私は……」

「お前は休んでな。自分が思ってるより疲れてるはずだぜ。世界言語……太陽と夜と風を使ったンだ。精神へのダメージがでけェはずだ。何、休みきったら戦ってもらう。【終焉】は有用だからな」

「……わかった」

「ザグルス」

「はい」

「ちなみになンだが、始の点ってこう、迎撃ミサイルとか」

「あるとお思いですか?」

「声が冷てェ」

 

 冷ややかな目が過ぎる。

 あるかもしんないじゃんか。別にいいじゃんか。

 

「進むぞ──迎撃組は振り落とされンなよ! 危なくなったらプライドとか考えずに助けを乞え! 安心しろ、誰1人見捨てたりしねェからよ!」

 

 さァ──脱出劇と行きますかね!

 

 

えはか彼

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