遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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十八、変状編
魔法少女育成学園エデン ~全てを導いた英雄譚~ -二年生編- 『お巡りさんの定義』


 学園生活2日目。

 特に何もない和気藹々とした日常──なワケがない。

 いや、空気っつゥか雰囲気はもう完全にソレなんだけど、俺は情報収集に奔走と疾走を重ねている。

 

 まず、前と違うこと。

 一番でっけェのァ、この世界の住人ってな誰もが魔力を使える、って点だろう。魔法まで行くと女性しか使えないみたいなのはちょいと引っかかるが、野郎でも魔力そのものは使えていた。レーテーが魔法少女の因子の除去に失敗したのか、因子の除去をしても魔法ってモンが浸透しちまったのかのどっちか。あるいはまったく別の世界ってな可能性もあるけど、そんなん考えたらキリがないんでこのどっちかと仮定する。

 前者の場合、なんらかの方法で因子、あるいは核の存在を確認できりゃァやりようはある。俺の【死漸】は【始原】に統合して零に返しちまったから使えねェけど、世界言語による魔法使用でなんとかならんでもない。また精神ズタボロになるけど、元に戻るだけだ。

 後者の場合は──ちょいと、まずい。

 ンな原因不明のもの、俺じゃ対処できない。専門家みてェな奴に協力を仰がないと無理だ。けど専門家って誰だって話になってくる。

 

 これが1つ目。

 

 で、この1つ目があるから2つ目に大きな影響を与えている。

 ──魔法少女が……とりわけEDENの魔法少女が、屍兵扱いじゃねェってことだ。

 なんでかって、当然誰もが魔力を使えるから。イーブンなんだ。今まではそこに差があったから、化け物として見られて──だから魔法少女は生体兵器だった。けど、誰もが魔力を扱えるよォになっちまえば、"同じ"になる。まァEDEN……つかエデンに通える生徒は所謂エリートで、そーいうやっかみはあるみてェだけど、恵理須ン時とは天と地ほどの差だ。

 国を歩いても。

 休暇を取っても。

 誰も、何も言わない。魔物の群れに突っ込んで死んで来い、なンて命令は絶対にない。

 

 なんならそもそも魔物とは敵対していないってのもある。

 

 なんでかって、まず魔物が魔法少女を襲わない。人間も襲わない。っつか、魔物も獣も同じ扱いになってる。だから旅先で魔物に遭遇したとしても、クマに遭っちまった、みてェな感じになる。

 魔法少女と魔物が明確に敵対してたのァ、魔物が魔法少女の因子を狙ってきてたからだ。それが無いとなれば、魔法少女側から魔物にアプローチをかける意味はなくなる。

 

 それに……これはまだ確認してないことだけど。

 輪廻の車輪を壊した、と。アズサとクロムクラハが成し遂げたのだと、全てが終わってから聞いた。零に。正確にはウィドアルの伝手として。

 だから──魔物は死を目指す必要がなくなったンだろう。無理に死を選び、究極なる一なンてもんを目指さなくてよくなった。ある意味で蘇生槽を持ってない魔法少女のよォなもんだ。命が一個になったから、慎重になった。やんなくていいことはしなくなった。

 

 とはいえ魔物は魔物。

 野生のクマに近づいてみましょう! なンて教育は無ェからな、一応危ないモンとして認識されている。

 

「……いない、か」

「梓さーん! 梓さーん?」

「あァさ流石に速いなァ。魔力追って来てるとかか? ……けど、今捕まるワケにゃァ行かないンだ」

 

 脚部を強化し、路地裏を駆け上がっていく。三角飛びって奴だ。

 

 これも前と違うトコ、になンのかね。

 この体は──魔力が潤沢だ。SS級。そう称されていいくらいの魔力がある。俺がクロムクラハだった頃、アンディスガル状態の時、メイアートだった頃……それぞれを平均したくらいの魔力量。つまり人間並みじゃねェってこと。

 これが昨日先公の言ってた「特例扱い」に関わってたらしい。俺が去年何をしたのかってな調査中だけど、随分とやらかしているみたいで頭が痛い。とりあえずEDEN中に俺の顔は知れ渡っているし──心の底から、気持ちの悪い事に。

 

「梓、皆が待っているぞ。()()()()()()()()()()()()

「──うるせェ。俺ァ今探し人してンだよ。ほれ」

「? ──っう!?」

 

 廃棄された小麦粉の入った袋を投げつける。

 古典的な目くらましだが割と効くだろ。

 

 そう。

 気持ちの悪いコトに──俺ァなんだか、英雄視だか神聖視だかをされている、らしいのだ。

 過剰なヨイショ。1日目はそれで酷い目にあった。

 なんでも人類を救っただのなンだの。誰だよソレ、って感じ。1年生の時にそれを大々的にやったがためにやらかしであり特例でありヨイショでありと、まァまァ面倒くさい状況だ。誰もが優しくしてくれる。誰もが憧れてくれる。誰もが期待してくる──ってな、まァ疲れる。その矛先が俺じゃねェってわかってるからな。余計にだ。

 

 前と違うトコはこんくらいかね。EDENが浮いてない事とかヒノモト、群塔魔閣が壊滅してないとか色々あるけど、おっきいのはそんくらいだ。

 で──前と同じトコ。

 

「もう! 怒りました! 梓さん連れて行かないと私達まで成績落ちるんです! だから、止まらないと──()()()()()!」

「照準、設定……」

 

 背後。

 集まっていく魔力と光。空にァ紫電。

 こんな街中で。

 真昼間から。

 

「ライトレーザー!」

「ガンニアサンダー」

 

 ──光線と雷撃が重なる。

 どちらも当たれば怪我どころでは済まされない。光線だけならなんとかなろうが、雷撃は無理だ。そして威力もさることながら──その速度は常人に捉えられるものではないだろう。

 撃たないことを願っての路地裏への逃走。その選択肢は失敗だった。

 

 ……国にとっての天敵がいなくなろうと、貧困の差というのは存在する。こういう路地裏だからこそ──襤褸布を纏って座り込んでいる奴がいることは、今の国ではなんらおかしいことではない。

 避けたら当たる。当たれば死ぬ。おあつらえ向きのよォな絶体絶命は──だからこそ、それに乗っかるしかない事に歯噛みする。

 

「【即死】!」

 

 果たしてそれは聞こえたのだろうか。

 雷の轟音に掻き消された──そォ見るのが一番だ。何故って誰も気づいていない。あり得ないのに、気付いていない。

 

「っぶねェだろうが! 常識ってモンが無ェのかてめェらは!」

「常識が無いのはそっちですわ!」

 

 ふ、と身体が持ち上げられる。

 いつの間にかの姫抱き。見上げれば、自慢げな顔のお嬢。

 

「捕まえましたのよ」

「よくやった、フェリカ。さ、連れていくぞ」

「はいですの」

 

 英雄譚。あるいは──()()のよォに。

 ()()()は持ち上げられ、その行動の細かな所は見られない。

 

 一度統合したからな。

 わかる。

 

 これは──多分【帰述】だ。

 キラキラツインテも探さなきゃなンないけど、ピンクカチューシャも探す必要が出てきている、ってワケだ。

 

 んで。

 なんで俺が【即死】使えるか、ってトコなんだけど……まァ簡単に言うと、【死漸】は統合したけど残り滓の方の【即死】は残ってた、ってなが俺の見解。俺は零じゃないんで正確な事って言われると難しけど、同じように最高等級じゃなかった魔法は使えたンで、"役割の統合"に持っていかれたのはあくまで上澄みだけで、下位の魔法は問題ないっぽい、ってな感じ。

 これでわかるのは、俺はメイアート、アンディスガルから地続きの俺である、ということ。またぞろ別の体に入れられたとか、クローンになったとか、そォ言う事じゃない。それはありがたいっつか安心できることだ。

 だけど。

 

 だけど、だよ。

 

「講義なンかする事はねェ。俺ァ今ある人探してンだ。放せよ、()()()()()()

「……もう、どうしちゃったんですの? いつもみたいに金髪お嬢様と呼んでくださればいいですのに」

「ふん、仲直りした覚えァ無いからな」

「え……私、何か梓さんを怒らせるようなことしてしまいましたの? ご、ごめんなさい。私、全く覚えていなくて……」

 

 高空を飛んでいくお嬢。

 その顔を見ていたくなくて眼下を見れば──そこには地獄絵図が広がっていた。

 

 誰もがにこやかに、楽しそうに。買い物をしたり談笑をしたり、子供と外で遊んだり、学校の行事なンかをやったり。

 

 遊びと称して魔法を撃ち合ったり、喧嘩に魔法を使ったり、それで、それで。

 

 それで──人を殺したり。

 

「ッ……」

「あ、梓さん? その、ごめんなさい。本当に覚えていなくて……」

「……」

 

 直後。

 死んだ人間が──生き返る。

 それはあるいは、俺は見た事ねェけど、アインハージャ達の言う"その場での蘇生"が如く。「痛ってーよ」とか、「ゴメン、私が悪かった!」とか。日常会話の内に──たとえば頭を軽く小突くとか、その程度の扱いで、魔法が使われている。

 死が使われている。

 

 魔法少女は屍兵ではなくなった。

 ──代わりに、国民までもが簡単に死を扱うよォになりました、ってな。

 

「その……」

「いいよ、もう。期待してねェから」

「う……」

 

 あァさ。

 俺も子供だよ、ほんと。この地獄絵図にいっぱいいっぱいなンだ。

 このお嬢が──神さんを殺しかけたお嬢とは違うのかもしれねェ、ってこたわかってる。わかってるけど、割り切れない。

 そのせいでこんな悲しそうな顔をさせている。

 

 なァ。

 助けてくれよ。ここは──この世界は、キツすぎるって。

 

 

 

えはか彼

 

 

 

「それで、また逃げてきたと」

「キツいよ、俺。無理だよ。助けてくれチビ先生」

「助けを乞うならその呼称を止めなさい」

「……ディミトラ先生」

「……なんでかしら。素直なのも苛つくわね」

 

 また来た。

 さるお屋敷クルメーナ。彫金彫像造形で稼ぎに稼いだチビ先生の財産で築き上げた牙城──結構セキュリティもしっかりしているココに忍び込んで泣きつけば、チビ先生は来ることがわかっていた、とでもいうよォに「ちょっと今忙しいのよ。作業中のアレコレを終わらせたら構ってあげるから待ちなさい」俺を受け止めてくれた。

 この世界じゃ俺とチビ先生ってほとんど関わり無かったらしいンだけど、いんやさ、マジで良い人。

 

 ……両親や菫に相談するってな手もあるんだけど、チビ先生くらい倫理観ぶっ飛んでた方が今の状況の俺についてァ話しやすい。

 

「それで、何? 人が死ぬのが嫌?」

「……あァさ。だっておかしいだろ。アイツら死をなんとも思ってねェみたいに……」

「そりゃなんとも思って無いからでしょ。アンタ中学生でしょ? じゃあ社会の歴史の授業でやらなかった? 発生から歴史の浅い人類が何故ここまで急速に発展できたか、って」

「……死なねェから。どんなに危ない作業も実験も、死ななきゃできる。何やったってその場で即時蘇生するから──だから、人類ァ簡単に難問をクリアしてきた」

「そうよ。そんな人類が今更死に対して恐怖を抱くと思う? 私だって一切抱いていないし、エデンなんてお嬢様学校に通う子達が抱くとは思えないわ」

 

 チビ先生は、今まで持ってた常識とか先入観とか捨てて、一回完全に俺の立場になって色々考えてくれる。その上でこの回答だ。ってな、ホントに何も思わねェんだろう。

 そも──この即時蘇生がどォいう仕組みなのかはわからない。アインハージャ達が蘇生する技術が関わってるとは思うンだけど、じゃあそれが何かっつったら、わかんのはポマネイ・リコくらいだろう。

 

 ……いるのかな、アイツ。

 

「別に、どうでもいいじゃない。アンタの話曰く、アンタはその冥界とやらに帰りたいだけなんでしょ? ってことは、この世界の住民……私達とはいずれさようならをするってこと。そんな人間が死ぬ事を、なんでアンタが気に病むの?」

「……たとえ顔も名前も知らねェ奴でも、目の前で殺されかけてたら……助けてェって思うだろ」

「全然。生き返ってやり返すだろうし」

 

 ダメ、なのか。

 こればっかりは──ここも安息の地ではないのか。

 

「なァ、世界全体なのか?」

「即時蘇生の事? ええ、そうよ。世界全体で、たとえどこにいようと私達は即時蘇生ができる。お腹が空いたら死ねばいい。転んで怪我をしたら死ねばいい。殺したくなったら殺せばいい。──それがこの世界よ」

「狂ってるよ」

「そう? 私からしたら、アンタの話す魔法少女の在り方の方が狂っていると思うけれどね」

「あァさそれは否定しない。"あっち"の魔法少女も狂ってた」

「何? つまり、正常なのは自分だけ、って? ──それ、自分だけが狂人です、って言っているようなものよ」

 

 そう、なるんだろう。

 この世界において俺は異物だ。いんやさ、恵理須の中にあっても異物だったが。

 ……あァ。

 

「ちょいと──煙草、吸っていいか」

「唐突ね。いいけど」

 

 亜空間ポケットから魔煙草を取り出す。

 ……この中身も同じだ。地続きなのは間違いない。

 

 起動して……ふゥ。

 

「……な、チビ先生」

「何よ」

「この世界はおかしいんだって言ってるヤツはもう1人いるんだ。だから俺だけが狂人ってワケじゃない」

「へぇ? それ、誰なの?」

「グロア。──EDENの学園長殿さ」

 

 そうだ。

 俺だけじゃあない。学園長殿もちゃんとこの世界がおかしいンだって言ってた。そして──自分が死んだことも、自覚していた。

 正直あんだけ突き放した態度取っといて縋るってなカッコ悪いンだけど、今頼れるよすががそれくらいしかねェからな。

 

「グロアが……。……で? グロアも言っているから、この世界はおかしいと信じろ、って?」

「いんやさ、そォは言わねェさ。積み重なった、培った経験や価値観ってなそォ簡単に崩れるモンじゃねェって知ってるからな。その上で──お願いだ。俺を否定しないでほしい。すげェ勝手なお願いだってわかってンだけど、今俺が頼れる相手ってチビ先生くらいでさ。……だから、俺からふっかけといて何言ってンだって話だけど、あんまり狂人とか狂ってるとか言わないでくれ。……俺も、チビ先生の前じゃ言わないように気を付けるから」

「はいはい、それくらいなら別にいいわよ。そんな神妙な顔しなくたって気を付けてあげるわ。……それに、少し血が騒ぐのよね」

「?」

「職人としての勘──とでもいえばいいのかしら。この屋敷の周りに並んだ私の作品群。けれどそれは──本当の完成ではない、という気もしていたのよ。動かないままでは。それでは、終わりじゃない、って」

「いやソコはできれば取り戻さない方向で頼む。マッド部分は引いたままでいいから」

「やっぱり、先があるのね?」

 

 失言である。

 ……あァさ、でも、やっぱりこーでなくちゃ。

 チビ先生じゃカッコつかねェもんな。マッドじゃなきゃ──マッドチビ先生じゃねェよ。

 

「じゃ、対価はソレね」

「……何の話だ?」

「何って、だから、私の家を、そして私を心休める場所として使っていいから──代わりにアンタは発想を出しなさい。技術でもいいけど。私の作品が完成に近づくための、この世界のものではないという知識を」

「あー。……あーなー」

「何よ。そんなに出し惜しみするものじゃないでしょ」

「いや、いんやさ、正直なところ教えたところでできねェ事知ってるから教えてもいいんだけど──適任が他にいる、気がするっつゥか」

「へぇ? 誰?」

 

 なんかな。

 ずっと──いる気がしてンだよな。

 

「その人探してくるから、それでチャラにしてくんねェ?」

「よくわからないけど、いいわよ。つまり技術者を連れてくる、ということね」

「あァさ」

 

 

 

 

 

 

 ってな事があって、俺は今探し人の真っ最中なワケだ。

 授業を抜け出し、ほっぽり出して国を駆けずり回る。その人の魔力は特徴的だから、それっぽいとこを徹底的に叩く。まァそれっぽいって思ったとこ今の所収穫ゼロなんだけど。

 国民全員が魔力使うせいで魔力感じ取りづらいのなんのって。さらには追っかけてくるアイツらもいるからだるィだるィ。

 

 あー、【隠涜】使いてェ~。

 アレって統合前はなンか違う名前だったのかなァ。魔法名さえわかりゃ下位互換の魔法も使えそうなモンなんだけど。

 魔法は魔法名言わずとも発動する、つったって、知らねェ魔法が身に宿ってる、なんて場合は流石に魔法名わからねェと無理だ。何をどォ発動すりゃいいのかわからねェし。

 

「探し人、人探し。あー、交番とかねェのかな。前はあったけど大して機能してなかったが……お、あるじゃん」

 

 とりあえず、交番に来てみた。

 前の国と同じ場所にあった交番。この世界の常識が常識なンで警察機構とかいうモンが機能してるのかどォか怪しいンだけど、とりあえず尋ねるだけ尋ねてみよう。

 

「すんません、人を探してるんですけどォ」

「つまらんな。もっと面白い話題を持ってこい。却下だ」

「──ハ?」

 

 バックステップ。【喧槍】……じゃねェ、【光線】と統合した【光槍】を手に出現させて、臨戦態勢を取る。ヴァスは出せない。クリスは試していない。【即死】。あと使えるモンはなんだ。

 

「なんだ、警察に楯突く気か? その制服、エデンのものだな。良いだろう、楽しい楽しい面談と行こうではないか」

「──何やってンだ、アンタ」

「職務だが?」

 

 構えは解かない。

 いるはずのない存在。零が解放したわけでもねェ限り、そォ易々と出てこられるワケがねェ存在。

 

「全く、最近の子供は躾がなっていないな。初対面の相手をアンタ呼ばわりか。それに、魔法……それはライトニングスピアか? 手元に武器が如く待機させるとは、流石のお嬢様学園。他の学校に追随を許さん教えだ。だが──」

 

 手が翳される。

 次に起こることを予見し、【光槍】を消す。【光槍】は一瞬バチッと暴走しかけて、けれど大人しく消えた。

 

「ほう、良い読みだ。自分が何をされるのかわかったのか?」

「……コイツが不安定な魔法だってのを見抜いて、【増幅】かけて暴発させよォとした、とかそんなとこだろ」

「ふん、成程。口は悪いが学はある。【増幅】とやらが何かは知らないが──概ね正解だ。お前の魔法にストロンガップをかけて、お前の半身を吹き飛ばそうとした」

 

 油断はしない。

 コイツは全部わかってて演技ってな可能性も十分にある。

 使える魔法を探せ。無いなら、最悪世界言語使ってでももっかい封印を──、

 

「よし、良いだろう。お前は面白い。探し人だったか、聞いてやろう。ソレの名を言え」

「……それァありがたいが、まずアンタの名を聞かせろ。それ次第だ」

「お前、自分がものを頼む立場であると理解しているのか? ……した上での態度か。いいだろう」

 

 そいつは。

 黒髪長身の――キツい目をした女性は。

 

「私の名はゲヘナ。この地区でお巡りさんをやっている。気軽に頼ると良い。面白そうだったら協力してやる」

 

 ……お巡りさんとか言うなよ。

 気ィ削がれるだろォが。

 

 

 

えはか彼

 

 

 

 

「はぁ」

「落ち込んでますねー、これは。物凄く!」

「意気、消沈」

「ま、梓があの態度ではな。また抜け出しているようだし」

 

 学園エデン。

 所謂お嬢様学園であり、且つエリート校であるここは、毎年毎年優秀な魔法少女を排出することで有名な学園である。そんな場所であるから、不良生徒などというものはいない。

 

 1人を除いて。

 

「アールレイデ。落ち込んでいる所申し訳ないのだが……」

「あぁ、大丈夫、ですの。連れ戻してきますわ……」

「……2年になってからのライラックの脱走は度が過ぎている。去年も相当だったが、今年度はまだ2日目だというのに10を超える。……本来であれば退学処分も考えるが……」

「いえ……梓さんはエデンにとって欠かせない人材ですわ。それに……」

「それに、退学処分になってしまったらフェリカさんは恋心を伝えられないですからね!!」

「えっ、いやっ」

「流石ユノン、遠慮が無い」

「本当に尊敬するよ……。私にはそういうことはできそうにない」

 

 梓・ライラック。

 学園エデンにおける唯一の不良生徒。過去にはもう1人いたのだが、その生徒は既に卒業済みだ。だから、唯一の不良生徒になる。

 1年の時も"致し方無い理由"があったとはいえ授業をすっぽかして外に出て、2年に上がってもこれだ。しかも今回は"致し方のない理由"ではなく人を探しているだけだという。何でも屋や探偵にでも依頼すればいいものを、なんでもかんでも自分でやりたがるのは確かに梓・ライラックらしいが──と。

 

 1年と同じく彼女らの担任となったえるるーは額を揉む。

 ただし、それだけではない……青春たる恋心も介在しているらしいから、そこを眺めるのは楽しいのだが、と。

 

「改めて、頼む。学園組AクラスA班アールレイデ()。梓・ライラックを連れ戻してほしい」

「はい、ですの」

 

 言うが早いか即座に学園を出ていく4人を見送り、えるるーは再度溜息を吐いた。

 問題児を抱える事には慣れている。だが、こうまで、というのは今まで無かったことだ。

 

 そんなお疲れモードなえるるーに声をかける存在が1人。

 

「お疲れですね。老化でしょうか?」

「……何用だ、ローグン。今の私は教師だぞ」

「ええ、知っています。ですから、私も非常勤職員としての職務を果たしに来ました」

「嫌な予感しかしないが」

「では──"梓・ライラックの罰則はすべて学園長室の掃除にすること"。以上です」

 

 大きなため息を1つ。

 あの秘密主義の学園長はまた何かを画策しているらしい。どうにも梓・ライラックを気に入っているらしい。歳を考えろ歳を、とか思わないでもないが、流石に失礼すぎるので言わない。

 ただ、目の前の通達役に──ぽふ、と。肩を預ける。

 

「おや? 今の貴女は教師ではなかったのですか、えるるー」

「うるさい。誰も見ていない事は確認済みだ。後から来てもお前が気付くだろう。……私は疲れているんだ。少しくらい甘えさせろ」

「ライラック様、ですか。まったく、えるるーをこんなにも疲れさせるとは感心しませんね」

 

 もたれかかってきたえるるーを抱き寄せ、その頭を撫でるローグン。

 その様子は──誰がどう見ても。

 

「──少し、お説教をしましょうか」

「いや、いい。やめておけ」

「大丈夫、手加減はしますよ」

 

 微笑。その顔に手加減の文字は無い。

 

「ライラックの心配はしていない。お前の心配をしているのだ」

「……私、ですか?」

「……1年。1年だ。担任としてライラックに関わってきたが……アイツは危険だ」

「と、言いますと」

「アイツに深く関わってはいけない。それが自らに破滅を齎すと、私の根幹の部分が言っている」

「ふむ。えるるーの予感は的中率10割なので、信用したいところですが……それでも私はライラック様に興味があります」

「そこまで言うなら、止めはしないさ。私は危険と感じたが、お前なら大丈夫かもしれないしな」

「はい。私も危機を感じたらすぐに戻ってきますよ。──だから、そんな顔をしないでください、えるるー。折角の可愛い顔が台無しですから」

 

 また。

 撫でて──抱き合う2人。

 その姿はどー見ても。ドーーー見ても。誰がどおおおお見ても。

 

「それでは、失礼します。学園長の言葉──お忘れなきよう」

「ああ。……助かったよ。気分がいくらか回復した」

「これくらいで回復するのならば、今日の夜にでも──」

「おい、流石にそれは……ここは学園だぞ!」

「そうでした。それでは、本当に失礼いたします」

 

 嵐のように過ぎ去っていった、趣味でメイド服を着ている女を見送って。

 えるるーは背後を向く。

 そこには窓。中庭に繋がる窓。

 

「……隠れているのはわかっている。ちなみにその撮影機は壊しておいた。弁償はしてやる」

「な──バレていたんですか!? あと盗撮していたこちらに完全に非がありますので弁償は要りません!」

「そんな、あり得ない。先生は今完全にイチャイチャちゅっちゅ状態だったはずだ……!」

「……先生特有の、予感。視線に敏感」

 

 そこにいたのは、1年生の3人組。

 流石に梓・ライラック程ではないが問題児な少女達。リキュア・アールレイデ。李・理央。そしてミズメ。

 ここは国内有数のお嬢様学園なのだがな……と額を揉むえるるー。

 

「ミズメの言う通り、私は誰かの視線があるとそれを察知できる。新聞屋の真似事をしたいのなら次からはそれを意識することだな」

「成程……つまり、見ずに写真を撮ればいいと……え、そんなの無理です!」

「ふふ……やはり強者の集まる学園エデン。写真1枚撮るのにもそんな技術が……」

「……もう撮ってある。2人抱き締め合う所も全部」

「何ッ!?」

 

 今度はえるるーが狼狽える番だった。

 ミズメが簡易撮影機から印刷して出した写真。それにはしっかりとえるるーとローグンの抱き合う所が激写されている。

 

「……撮影画角を理解していれば、覗かなくても、被写体を真ん中に収める。楽勝」

「流石ですミズメさん! これで明日の一面は決まりですね!」

「にしては中心点まで完全に合っているようだけど……」

「……何が目的だ」

「真実です!」

「ライラック先輩と話してみたくてね」

「……ライラック……センパイと、話がしたい」

「わかった。その写真と引き換えに場を用意しよう。お前もそれでいいな、リキュア」

「……わかりました。自分のネタは自分で、ですからね」

 

 ここに契約は成立する。

 当人のいないところで、パパラッチ3人組と話題の少女の会談は約束されたのだった。

 

 

えはか彼

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