遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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魔法少女育成学園エデン ~全てを導いた英雄譚~ -二年生編- 『ぶちまけられた地獄』

 お話。

 そう畏まって言うってこた、それなりの話題を持っているんだろう。

 

「──最初に。知っているかと思いますが、この学園エデン、及び周囲の建造物であるEDENを作り上げたのは私達です。ゆえに、EDEN内部の構造は私達が最も理解しています」

「あァさ、まァそりゃそうだろうな」

「では、貴女はEDENの6つの塔について、どれほど理解していますか?」

「それが聞きたい事、か?」

「いえ、確認です。余計な注釈を入れないための」

「ふぅん」

 

 国家防衛機構・浮遊母艦EDEN。改め、この世界における名を私立魔法少女育成機構EDEN、及び魔法少女学園エデン。もっぱらエデンの名で呼ばれるここは、所謂お嬢様学園だ。質の高い勉学や魔法の学習制度の整った、国内有数の私立校。

 通う生徒たちは品行方正。且つ、強力な魔法を扱い得て、しかも暴走させない。

 

 んでそんなエデンが組み込まれてるEDENは、まァ元の世界とほぼ変わらない。

 

 学園塔、修練塔、司令塔、教員塔、隔離塔、中央塔の6塔からなる5角形の建物。それを囲う円形の敷地はそりゃァもうでっかく、多分国を上空から見下ろしても一瞬でどこにあるかわかる程。

 各塔の役割は、まァ元の世界とはちょっと違う。まず、軍事塔は完全に教員塔になってる。軍事は国がやるもんだからな。で、司令塔も司令なンて名がついちゃいるが、軍事的なことをするんじゃなくて、……あー、放送室みてェなもんだ。EDEN内部への広報やら放送やらを担当する。

 学園塔、修練塔はそのまんまで、隔離塔だけが大きく違う。

 隔離塔。前は封印措置の為された魔法少女の置き場兼戦えなくなった魔法少女のための病院、って感じだったけど、この世界における隔離塔は()()()()()()()()()()、なのだとか。

 ダンジョンて。

 迷宮じゃないのか、とか。なんじゃそりゃ、とか。色々思う所はめちゃくちゃにあるンだけど、今は構ってらんないので無視。

 で、中央塔。他の塔と違って恵理須における内部構造をあんまし知らない俺としては違いを説明しづらいンだけど、まず蘇生槽のあるルームがない。そこはでっけェホールになってて、聞いた話だと時たま行われるパーティなんかの会場になるらしい。

 その上は完全にブラックボックスとでもいえばいいか、1階の会場から直でこの最上階まで渡されるから、何があるかはマジでわからん。

 

「ってトコかね」

「十分な理解です。では、聞きたいことなのですが、よろしいでしょうか?」

「あァさ」

 

 ダンジョン。そういうの聞くと一気にファンタジーになるよなァ、とか。いんやさ魔法魔力の時点で十二分にファンタジーなんだけど。

 正直、死に死なれ、殺し殺されが強すぎて気にしてらんないんだよな、この世界のファンタジーさみてェなの。あとファンタジーファンタジーしてねェ魔法が多いっつゥか。俺の【即死】とかカルトであってもファンタジーじゃねーだろう。

 あーでも、群塔魔閣の【飲影】とかは正にファンタジー! って感じだったな。

 

「梓・ライラックさん。貴女はダンジョンの向こう側から現れた存在──この解釈は、間違っていますでしょうか」

「ン──?」

 

 ん、ごめん、俺今話聞き飛ばしたか?

 ん?

 

「あー……というと?」

「いえ、大丈夫です。その反応でわかりましたから」

「勝手に納得しないでくれ。俺が今一切納得していない。なんで俺がダンジョンの中から来たって思ったンだ?」

「今日の貴女側からの"聞きたいこと"はそれでよろしいですか?」

 

 ……うわメンド。

 

「いんやさ、確認だよ。余計な注釈を入れねェためのな」

「成程、それならば答えなければなりませんね。とはいえ、明確にこれ、という理由があるわけではありません。ただ、あのダンジョンは死の世界に繋がっている、という噂があるのです。ふふふ、貴女ならば理解してくださるのでは?」

 

 死の世界。

 ……それは、マジか。いや、いや。どうだ。あり得るかどうかを考えろ。

 天幕は無かった。この世界の宇宙がどーなってンのかは知らないが、星も無い。宇宙、あるいは世界にこの惑星しかない。ただ、ダンジョンだけが冥界と繋がっている? それだけがゲートで……他は隔離されている?

 

「もう1つお教えするのであれば、今彼女らが魔法学校の建立を行っている輝きの園。そこにもダンジョンが存在し、それもまた現地民から"死の世界に繋がっている"と言われています」

「グロア、それは機密……」

「ハイドレート、大丈夫ですよ。梓さんは口の堅い方です」

 

 冥界に繋がるダンジョン。それがまた星の表裏の両側にある、って?

 ……怪しさ全開。で、それを踏まえて俺がそっから来たって言うってこた、学園長殿は自分が死んでるってことだけじゃなく、俺が夜の使徒だってことも、夜の使徒に関する知識もあるってこったな。

 となると……答えはこうだ。

 

「そこから来たのはほぼ間違いねェだろうが、隔離塔は通ってねェ。この答えで満足できるか?」

「ええ、問題ありません。それでは貴女の聞きたいことをどうぞ」

 

 本当に問題ねェのかわからねェが、まァ良い。

 

「学園長殿。アンタ、この世界の名を知っているか?」

「……難しい質問ですね。大陸の名であれば、有死無至穏と」

「世界に名は無ェのか」

「認識したことがありません。知っているとすれば、神のような存在だけではないでしょうか?」

「神」

 

 いるのか、こっちにも。

 ……ほとんどの神はSS級に殺し尽くされたって話だが。

 

「神が──いるのか。遭ったことがあるのか?」

「聞きたいことは1つまで──と言いたいところですが、先ほどの質問に対して明確な答えを差し上げることができていませんからね。フフフ、いいですよ。──神は、います」

「名は」

「ジーウィース」

「あァ……そういう、そういうね。そういうことね」

 

 要は、()()()()()()()()()()()()()()ってことか? エ?

 仮にそうだとして──いんやさ、説明の1つくらい寄越せってンだ。そしてそうだとしたら、マジでキラキラツインテは何者だよ。アイツジパングの一般市民じゃなかったか?

 

 チャイムが鳴る。

 

「あら、時間ですね」

「みてェだな。そっちの3人は今度でもいいが、脳筋娘は俺に用があンだろ。放課後、どっかで待ち合わせしようぜ」

「え、あ、うん。……教員塔の入り口付近で待ってるから」

「おう」

 

 なんぞしおらしい。脳筋娘ってもっとアッパーな奴じゃなかったか?

 いやまァメイアートの時に敵対した脳筋娘はしおらしかったけど。

 

 んじゃとっとと教室に戻りますかね。

 

「そうだ、もう1つだけ」

「ん?」

「ダンジョンに入りたいのなら、どうぞ好きな方にお声がけください。誰を連れて行っても構いませんからね」

「……ヤだね。なんだその絶対権。まるで俺が選ぶ立場にある、みてェな言い方されんのは御免だ。行くなら1人で行くよ」

 

 学園長室を出る。

 出たところに──冷静メイドがいた。

 

「教室までお送りいたします、ライラック様」

「結構だ。自分で行ける」

「ですが、既に貴女を姫抱きにしておりますゆえ」

「なん──」

 

 だと。

 え、マジで気付かなかった。

 いや、いや。

 そうだ。最近そーいうのとんとなくてアレだったけど、俺ってば即死攻撃とか致命傷攻撃じゃない限り察知能力そんな高くないんだった。いやァ戦う敵戦う敵全員やべーからさ、それがデフォルトになってたけど……こうやって悪意も害意も無く近づかれて抱き上げられると、どーしようもない。

 あァさ。

 ま、身を任せるか。暴れてもどーせ離してくれないだろうし。

 

「冷静メイド」

「? 私のことでしょうか」

「……あァ、アンタのことだ。冷静なツラしたメイド。アンタのあだ名さ」

「成程、安直ですが、的確ですね」

 

 1年目の俺。

 去年の俺は、冷静メイドと関わり無かったのか。

 ……なんか寂しいな。マッドチビ先生ともあんまり関わってなかったみたいだし。何やってたンだろうな、俺って。

 

「到着いたしました。それでは」

「あァさ。……あ、いや、冷静メイド」

「はい」

 

 なんか、ちょっぴりの寂しさから引き留めてしまった。

 しまったけれど、特に言う事は無い。

 

「……ぼ、じゃねェ、エミリーとキリバチは、元気か。後リヴィルも」

 

 咄嗟に口走ったのは、暴走繭達の事。

 失言だったかな。俺と冷静メイドに繋がり無ェのに、俺があいつらを知ってるのはおかしいよな。

 

 そんな俺の問いに、案の定冷静メイドは目を細めて──。

 

「はい、貴女様に救っていただいたおかげで、エミリー様もキリバチ様も異状無く。姉は初めから問題ありませんでしたが」

 

 笑った。

 ……笑った?

 いや、いや。確かに冷静メイドはすんごいわかりづらいけど笑う奴ではあった。けどこんなわかりやすく満面の笑みを……つか、なんだって? 俺が救った?

 

「そ──そうか。そりゃ、良かった」

「はい。ですから──どのような用向きであれ、私をお使いください。死力を尽くし、貴女様の役に立ってみせます」

「そりゃ要らねェけどよ」

「そうですか」

「あァさ」

 

 ……これは、なんか。

 俺のためなら死をも厭わない、とか言いそうだ。あァ、嫌だねェ。

 折角理解者とも言える存在になってたのにさ。ま、切り替え切り替え。リセットリセット。こいつは別人だ。だから悔いても仕方がない。

 

「じゃあな。俺は授業に行くから」

「はい。──また」

 

 どこか万感の思いの詰まった「また」。

 怖いねェ。

 

「あ、そうでした。言い忘れていました」

「今良い感じに別れたと思うンだがそれを覆してまでなんか言いたいことあンのか」

「えるるーに心労をかけすぎないでください。彼女が過労で倒れた場合──私は貴女に何をするかわかりません。以上です」

 

 言って、冷静メイドは大きく跳躍して中央塔の方に戻っていく。

 あれェ? 命の恩人、みてェな雰囲気どこいった? なんか、それはそれ、これはこれ、って感じだったけど。

 つか、何?

 えるるーって先公だよな。

 ……付き合ってンの? みてェな弄りはセクハラになるのでやめとくけど、そんな感じがひしひしと……。

 

「ライラック。まさかとは思うが、遅刻したいがために教室の前で待機している、ということはないよな?」

「まっさかー。いやね、今先公の小指がいたモンで」

「私の小指は常に私の手にある。意味の分からん事を言っていないで教室に入れ」

「へーい」

 

 見逃さない。

 その指に、薬指に嵌められた指輪を。

 ……"前"と同じ意味だとすれば……。いやそんなことあンのか?

 

「ライラック。私も何度も同じことは言いたくないんだ。そして、それでも動かないというのなら実力行使に出なければならない」

「あァすんません。行きます行きます」

 

 そういえば、恵理須でも終ぞ結婚に関しては調べなかったな。

 どういう事するんだろ。お嬢の新生した魔法少女の衣装が花嫁衣裳って感じだったけど、お嬢は別にそれを前面に押し出してはこなかったし。

 

 教室に入る。

 ……当然のごとく揃っているクラスメイト。中には知らない奴もいる。そりゃそうだ。クラス替えしたからな。

 

 俺の席は──教室左後ろ奥。何かと何かとを言われるポジション。

 つっても移動教室の多いエデンでは、そこまで重宝される席でもないが。

 

 席まで歩く。

 歩いて──。

 

「……気のせいか」

 

 今一瞬、全身強化をしそうになった。

 死の気配がしたンだ。でも、それは一瞬で消えて。

 

 椅子に座る。

 

「伏せろ」

「え?」

 

 動いたのは、体が先か、口が先か。

 隣にいた子──申し訳ないけど名前をまだ覚えていない──を抱きすくめて、そのまま倒れ込む。空気を切り裂く短い音。

 今度は明確な死の気配。コースは──ドタマだ。避けたらこの子に当たるな。んじゃ迎撃だ。

 

 ──"梓・ライラック様。射角はほぼ180度――つまり、この教室と同程度の高度からの狙撃です"

 

 補助記憶装置と言われて渡されたバッテンから念話に近いものが聞こえる。勿論シエナだ。そも、コレを連れて行ってほしい、と言われた理由がコレ。自身の修復を行う間、外界の記録を行いたいとのことで、これをアクセサリー状に彫金し、俺に渡してきたのだ。

 正直、これもオーバーテクノロジーだと思う。シエナの体自体がそうなンだけど、亜空間ポケットを通して通話してるようなモンだろ? やべーって。

 

「ライラック?」

「カーテン閉めろ! 狙撃だ!」

 

 すぐに窓際の生徒達が対応してくれる──が、2発目は間に合わない。

 ──知覚強化。小さな音を拾うのではなく、遠くの音を拾うための強化。思い出せ、クロムクラハの時代。あの頃の戦い方。

 クリスを使ったトリッキーな戦い方は、生身の今じゃできねェけど。

 

 真似事なら、できらァな。

 

「お前、柄でも十分だろ?」

 

 皮肉気に語り掛ければ、何故か「誰にモノを言っている」と零の声で返事が再生された。絶対に零由来の剣じゃないんだけど、もしクリスに人格があったらこんな感じな気がするんだよな。

 

 発砲音。少し高い所からだ。俺達が伏せたから、角度を変えたか。

 カーテンの閉まり気ってねェ窓を抜け──ソレは突っ込んでくる。死の気配と、そして魔力の一切を感じさせない弾丸。反魔鉱石の弾丸だ。珍しいっつかクソ高いだろうに、よくもまァ。

 

 それを、足裏から出したクリスの柄にぶち当てる。

 すぐにクリスを引っ込めれば──あ、やべ。

 

「窓際から離れろ! 誰か壁焚ける奴ァいねェか!?」

「アイスウォール!!」

「はい! マッドブロック!」

 

 教室の窓全体が凍り付き、更には土のブロックがせり出してくる。……でも、魔法だ。反魔鉱石には敵わない。

 直後ズガガガガガと、工事でもしてンじゃねェかって音が鳴り始める。フルオートとかそーいうレベルじゃねェな。ガトリングかなンかか。

 だが、氷の壁も土のブロックも壊れない。

 反魔鉱石はやっぱり高いか。丁度いい、この2発は回収させてもらう。

 

「大丈夫か?」

「あ……うん」

「よし、じゃあ廊下の方行ってくれ」

 

 守った子を逃がす。

 よしよし、守るモンが無けりゃァもちっと派手に動けンな。

 

「ライラック」

「あァさ、どこの馬鹿か知らねェが、学園への襲撃だ。先公はお上への連絡を──」

「必要ないだろう。ふふ、ほら……この1年で、彼女らも成長したのだ」

「──待て」

 

 逃がしたはずだった。

 でも、その知らない子も。知ってるヤツも。お嬢たちまでも。

 

 狙撃のあった方向。今まさに壁が壊されんとしている方向を向いて──好戦的な笑みを浮かべている。

 

「ただ逃げ回り、殺され続けるだけの弱々しい生徒などどこにもいない。今ここにいるのは、誇り高きエデンが魔法少女だ。もうお前だけを死地に立たせるようなことはしないさ」

 

 たとえ反魔鉱石が混じっていなくとも、氷と土の壁では限界がある。

 次第に、次第に。

 罅が入って。

 

「この壁が割れたら開戦の合図だ! どこの誰かは知らんが、我らがエデンに喧嘩を売ったことを心の根まで後悔させてやれ!!」

 

 ──そこに、地獄がぶちまけられた。

 

 

えはか彼

 

 

 

 遠くに見える武装集団。男女入り混じるソレは──なんだ? 国の奴らじゃないように思う。昨日国を駆けずり回った限りでは、似たような魔力の気配を見た覚えが無い。

 彼ら彼女らは魔法ではなく武器を──銃火器を持ち、こちらにギラギラとした目を向けている。空には機関銃搭載のヘリコプターが2機。ヘリコプター……?

 

 そしてそれらと戦うは、生身の少女達。

 弾丸に撃たれ、火炎に巻かれ──それでもそれでもと向かっていく、文字通りの屍兵。恵理須の魔法少女達よりも凄惨だ。だって、どんな傷を負っても、死んでも、何をされても──その場で蘇生する。復活する。失った血液はどうなっているのか。吹き飛ばされた、千切り飛ばされた肉片はどうくっついたのか。

 周囲に赤という赤をまき散らしながら──武装集団を圧倒していく。

 しているのは、魔法で、なのだろうか。それとも、蘇生で、なのだろうか。

 

 あァ、けれど。

 武装集団も──ソレは変わらない。

 

 燃やされようと、凍らされようと、貫かれようと潰されようと──即時蘇生し、再度火器を手に取る。

 痛みはあるはずだ。だって苦悶の声を上げている。のたうち回る者もいる。

 

 それでも、それでも、それでも、と。

 

 

 ──その戦争は。

 武装集団側の火器がすべて潰されるまで、続いた。そこでようやく──終結した。

 

 

 

 

 

「どうだ、ライラック。お前がいなくとも、襲撃くらいなんとかなる」

「何が、どうだ、だ」

 

 俺は。

 俺は──動けなかった。受け入れられなかった、という方が正しいか。意味が分からなかった。

 なんだ? 今のは。何が起きた。

 

 なんで──今、こんなにも沢山の命が失われた?

 

「あい、つらは」

「フールン高の奴らだろう。覚えていないか? 昔、お前のやっていた事を揶揄し、妨害しようとした──」

 

 フールン高。

 覚えている。知っている。

 そこは──あの子の。

 

「ガンニアサンダー」

 

 空に紫電が溜まる。 

 待て──待て。何をやっている。

 

 もう終わっただろう。相手の火器は潰れた。攻撃のしようがない。

 なのに──何やってンだ。

 

「クリス」

 

 人目も憚らずクリスを出す。形は狙撃銃。込める魔力は勿論死の魔力。狙いは適当でいい。撃て。

 

 撃った。

 放たれた魔力の弾丸は一直線に飛び、紫電迸る雷雲へと突き刺さる。突き刺さり、かき散らす。

 

「……梓、何を?」

「何を、じゃねェ。もうそいつらは戦えねェだろうが。もういいはずだ。殺し合いなんざ──」

「でも、まだ諦めていない」

 

 背中メッシュ。きょとんとした顔の背中メッシュが俺の方に振り返った。その瞬間を狙って、彼女の足元に倒れていた奴が──ニヤりと笑う。

 ──膨張する身体。赤熱する肌。ひび割れていくその魔法は。

 

「シェイブアサルト!」

 

 ソイツをポニテスリットが蹴り飛ばす。

 何の容赦もない──恐らく【波動】に似た何かを纏った蹴りは人体を軽々と打ち上げ、ソイツは上空にて爆散した。

 間違いない。今のは指揮官殿の【自爆】だ。それではない何かなのだろうが──確実に。

 

「皆、同情をするな! 早く()()()()! ──そいつらは、まだ諦めていない!」

「ええ──わかっていますの。敵が諦めるまで、殺し続ける。えるるー先生、私達は1年生ではないのですから、大丈夫ですのよ?」

 

 折れていない。

 諦めていない。

 死屍累々でありながら、心が死んでいない。魔法の使える少女らはその機会を。使えない男衆は足を握り潰さんと。

 

 そこを──魔法が襲う。

 襲う。襲う。食い散らかす。

 

 地獄だ。これは。

 なァ──なんだ。何がしたかったンだ、キラキラツインテ。

 俺をこの地獄に送り込んで、何を見せたかったんだ。これを見て、これを体感して。

 

 俺が。

 

「……」

「どうした、ライラック」

 

 予言の子。

 世界を壊し尽くす者。

 この世界のふーちゃんが遺したという予言。

 

 ならば──今すぐにでも。

 

糸伊豆阿派青磁負不伏零矢堕千経度戸地内途(それは夜に捧げる一節の祈り)──」

「ダメ。もう少しだけ抑えて、梓」

 

 いつの間にか。

 いつの間にか、目の前に脳筋娘がいた。

 違う。

 俺が移動した、のか?

 

「よォ」

「ん……え」

 

 声は、良く知ったもの。

 そいつは木に背を預けていて。いや、そもそもここは……どこだ。国外のどこかの森? なんで? 一瞬で……【傾刻】か? それとも【弱化】?

 

「混乱してる、って顔だなァ。まァ無理も無ェが」

「梓。私がわかる?」

「……わかる。わかるよ。脳筋娘」

「いやそのあだ名はホントはやめてほしいんだけど……うん、そう。私よ。()()()()()()()私」

 

 ガバッと身を起こす。

 その名は。いや、そうだ。そもそもコイツがいる。

 

「クロムクラハ……」

「おォさ。久しぶりだな」

「お前、始の点は」

「その辺含めて詳しく話すからさ。今は怒り抑えて、授業に戻ってくんねェ? 放課後、脳筋娘と約束してただろ? 俺達の隠れ家で現状を伝える。今いなくなるとまたお嬢たちとの鬼ごっこが始まるだろ」

 

 怒りを、抑える。

 深呼吸。

 

「……ふゥ。あァ、すまねェ。ありがとう。あそこで【世涯】でも使ってたら、大変なことになってたかもしれねェ。……抑えてくれて、助かった」

「うん、大丈夫。……というか、すごいね。貴女まだ14くらいでしょ? それなのに、そんなに自分を律せるなんて……」

「あァいやそれはまァ」

「あーいやそれァまァ」

 

 重なる。

 一瞬目が合う。……コイツ、普通に"前"のこと覚えてンのな。

 

「んじゃ戻すぜ。適当に理由考えときな」

「【隠涜】」

「え──」

 

 待て、その魔法は裁定したはず──。

 

「【移様】」

 

 また、いつの間にか。

 俺は先公の前にいた。

 瞬きの間ですらない。本当に一瞬で、何事も無かったかのよォに。

 

「なんだ、いるじゃないか、ライラック。また抜け出したのかと思ったぞ」

「ん、あァ、ちょいとお花摘みにな」

「花? 誰かに送るのか」

「あァさ。懐かしい友人を思い出してね。……なァ、先公。なんでフールン高の奴らは、襲撃してきたんだと思う?」

「お前含め、私達が気に入らないのだろう。奴らは自らを卑下するあまり、優等生たるエデンの生徒を狙う。……それがわかっていないあたり、本当に奴らの事を覚えていないのだな。まぁ木端も木端な存在ではあったが……」

「そうじゃなくてさ」

 

 死が、命が軽い世界。

 地獄のような世界だと思っていた。前の世界ですらそう思っていたけれど、こっちはもっと酷い。

 

「絶対さ、勝てないじゃんか。お嬢たちがいて、みんながいて、なんなら別クラスの奴らもいて──自惚れるよォだが、俺もいる。どんな武装で襲撃してきたって、絶対勝てないだろ。なのになんで、ってさ」

「ふむ」

 

 心を、折る。

 言葉にするのは簡単だ。でも、実行するとなれば──あァ、それは酷いものとなる。

 無駄に形容をしたくない。したくないが、欠片ばかりを伝えるのなら──"少しずつ"である。だってどうせ生き返るから、と。暴走繭がトラウマになったソレが、目の前で。

 

「そこまで頭が回らない、という解は望んでいないだろう」

「あァ。俺は先公がそこまで誰かを見下す奴だって思いたかない」

「ならば、簡単だ。──折れていないからだ」

「じゃあ、もうアイツらは襲ってこねェか」

「さてな。今日折れても、また発起する奴もいるだろう。私達は死なない。死んでも生き返る。立ち向かわんとする心ある限り、どんなことをされようと、どれほどの苦痛を受けようと──必ず目的を果たさんとする。皮肉にも、お前から教わった在り方だがな」

 

 また、俺。

 1年前の俺。去年の俺。

 ……何してンだよ。仮にも俺のくせに。

 

「えるるー先生! 終わりましたの!」

「そうか。では誰か、敷地外へ排出しておいてくれ。その後、全員身を綺麗にしてから授業に戻れ。いいな」

「はーい」

「シャワーでもいいですかー?」

「いいが、時間をかけるなよ。以上!」

 

 シャワーでも。

 ……それ以外に何がある。

 

 まさかとは思うが。

 

「シャワー、絶対混むよね。死んだ方が早くない?」

「今そう思ってたとこ。あ、でもまずコレ運ばなきゃ」

「いいよー、私やっておくから。重力魔法得意だし」

「私も付き添いするよ。まだ折れてないの残ってるかもしれないしね」

「ありがと!」

「じゃ」

 

 少女らは、互いの顔に手を当てて。

 

 駆けだす。

 抑えろと言われたが、これくらいは許せ。無理だ。それを看過するのは。

 

「死のっか」

「うん。せーのっ」

「【即死】」

 

 両者から放たれた魔法を殺す。拳銃だ。二丁拳銃の形にしたクリス。

 

「え?」

「あれ?」

「……馬鹿な事してねェで、とっととシャワー行ってきな」

「魔法消えちゃったけど……もしかしてやったのライラックさん? ()()()()()()()()()()?」

 

 言葉に、背後を向く。

 ──声に出してたのが、きゃいきゃいしてたのが、コイツらだけだった、ってだけで。

 

 あァ。

 

 そこには──"綺麗になった"、魔法少女達の姿があった。

 

「それでも、だよ。つか、あんだけやったんだ。逆にシャワー空いてンだろ」

「あ、そっか!」

「じゃあシャワー行こっか!」

 

 言って、2人仲良く手ェ繋いで駆けていく背中を見つめる。

 ……あーあ。

 

 これで救った気になってンの、最悪過ぎるな。

 

「キツいなァ、おい」

 

 この世界。

 

 

 

えはか彼

 

 

 

 昼休み。

 また学園長室への呼出があった。今日は罰則を受けるよォなことしてねェにも関わらず、だ。

 ちったァ平凡な昼休みを過ごさせろ、とか思うンだけど、学園長殿との一問一答は有益なので渋々向かう。

 あー、早く授業終わらねェかな。

 アイツらと合流してェ。

 

「来たぜ、学園長殿」

 

 言いながら学園長室の扉を開ける。

 

 そこには──。

 

「あ、来たね! 噂の英雄さん!」

「理央、まずは挨拶と自己紹介からです。失礼なことはだめですよ」

「……全てを導いた、英雄」

 

 見知ったような、見知っていないような。

 約一名見知り過ぎている誰かを含めた3人組が、俺を待ち構えるよォにして立っていた。後ろで優雅に茶ァ飲んでる学園長殿がムカつく。

 

「あー……すまんな。俺は学園長殿に用があるんだ」

「うん、知っているよ。でも、君を呼び出して貰ったのは私達なんだ。ああ、自己紹介をしておこう。私は李・理央。1年生さ」

「リキュア・アールレイデと申します。いつも姉がお世話になっております」

「……ミズメ」

 

 うーん。

 なァそれ変装、だよな? うーん?

 なんか気配が違うよう、な? 上手く隠蔽されてて掴みづらいが……。

 ま、いっか。その辺はクロムクラハ達との会合でわかるだろ。

 

「しかし、えるるー先生に学園長を動かす力があったとはね……」

「理央、そういう事を言うのは失礼ですよ。えるるー先生にも学園長にも」

「……どの道、丸聞こえ」

「んー、姦しいのァ結構なんだがな。なんだ、用って。手早く済ませてくれると助かる」

「お、いいね。じゃあ私達の用件を言おう。何、簡単だ。貴女は答えてくれるだけでいい。──題して」

「件の英雄に直撃取材! 英雄、梓・ライラックの真実とは! です」

「……校内新聞の取材応対。簡単でしょ」

 

 学園長殿を睨めば、にっこり笑顔でパルリ・ミラの茶菓子をチラつかせられた。

 ナメられてンなァ。

 

「手早く頼む。っつか座らねェか? そこな狸……じゃねェ、学園長殿の食べてる美味い菓子でも食ってさ」

「い、いえ。フフフ、これはお客様用ですから……」

「はン、俺がお客様じゃなくてなんだってンだ。んで、お客様たる俺のお客様がこいつらだろ。茶請けくらい出せよ。な?」

 

 知ってるよ。実はそんなに無いんだろ?

 ハッハッハ、俺を出し抜きたいンならそォいうウィークポイントは隠しておかなきゃなァ。見せびらかされたらそりゃァ突くさ。

 

「これは……早速記事にできるね。梓・ライラックは学園長と対等、と」

「ええ、やはり英雄は違いますね……」

「……パルリ・ミラのお菓子」

 

 うん、やっぱりコイツアズサだな?

 

 

えはか彼

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