遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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魔法少女育成学園エデン ~全てを導いた英雄譚~ -二年生編- 『創られた夢の世界』

「まずは、1000年に1度の大侵攻と呼ばれた我が国への大暴走(スタンピード)! あれを事前に察知し、単身で食い止めたという伝説──その時の心境についてお願いします」

「ン──~~~」

 

 なァにそれ。

 大侵攻……は、あった。懐かしい話だ。国の小学校の校庭に湧きポが作られたあの戦い。

 ……そういえば、湧きポ作る能力って結局誰の何なんだ? 寂しんぼの能力、ってわけでも……いや、そもそも寂しんぼって何のオリジンなんだ? アイツって何ができるんだ。知らないな。

 で、えーと。

 それを事前に察知して、単身で食い止めた……ってな。

 うーん。無理でしょ。なんか魔物の発生装置とかがあるンならともかく。そもそもなんで魔物が侵攻してくるンだって話。魔法少女の因子狙いでもなし……あァいやスタンピードっつったか? じゃあ何かに追われて、あるいは何かがあっての大暴走。となりゃ、確かに何か発生源たるモンがいた可能性はあるな。

 

 それを単身で、ってなると……まァこっそり行って【即死】か?

 ……ないか。そもそも去年の俺ってどうだったンだ。魔法、どんくらい使えたンだ? 魔力量の概念があるのはわかってて、で……ライトニングスピアだのシェイブアサルトだのと変な魔法がある。それは固有魔法ってワケじゃなくて、得意不得意はあれど誰でも使える……らしい。まだ使った事ないンでわかんないンだけど。

 恵理須の頃と似たような魔法、ってンなら……即死魔法がある、とか? いやでも即時蘇生するよォな世界で【即死】って意味あンのか? あ、いや、魔物は別に即時蘇生じゃないのか。……エ、じゃァこの世界魔物にとって不利すぎるというか……なんか、やっぱいびつだな。

 

「まァ、心境って程覚えてるモンはねーけど、無我夢中だったのァ確実だよ。そこまで冷静だったわけじゃねェしな」

「成程成程……ちなみに質問なのですが、どうしてお仲間を頼らなかったのでしょうか。お姉様やミサキさん、オリジナル魔法で有名なシェーリースさん、そしてなんといっても単体性能最強と名高いユノンさん! これほどのお仲間がいて──何故、お1人で?」

 

 何故1人で。

 あの時はポニテスリットがいたけど、確かに俺は1人で行くつもりだった。ポニテスリットが同行を申し出てくれなければクソ遅い足で走り回って──結局間に合わず、大惨事に気付いておきながら何もできなかったヤツ、になってただろう。

 1人で。

 あァなんかそれ、お嬢にも言われたな。全部1人でやろうとして、頼らないって。

 

「つらいから、じゃねェかな」

「……つらい?」

「あァさ。仲間連れてったら、つらいだろ。それで傷ついて死んで。俺はそれがつらかった。あァあの時の話だぞ。今は違う」

「なる、ほど? 怪我や死がつらい……というのは、どういう感覚なのかな。痛いのが嫌いってことかい?」

「……さてな。お前さんらにゃわかんねェよ」

「……あまり、好かれていない、様子」

 

 パパラッチ好いてる奴ァ少なかろうよ。

 ま、ここで俺の倫理を説いた所で意味はないだろう。このミズメってながアズサかどうかはともかく、それを問うてくる時点で無理なのはわかる。

 

「えーと、それでは次の話題に移ります。港湾都市ガンダラにおける海洋系の魔物の大発生事件! 後にあれは"計画(プラン)"の一環だったと判明しますが、それはおいておいて──作戦における判断ミスにより、現地に1人取り残されてしまったライラックさんは、救助が来るまでの間何をしていたんですか?」

「何をって、報告通りだよ」

「報告?」

 

 ……あ、やべ。

 そうか、この世界のEDENって別に軍事に携わってねェから、報告もクソもねェのか。……なら作戦って何? 判断ミスって……班長の話じゃねェのか?

 えーと、えーと。

 考えろ。なんだ。軍事的じゃねェ作戦。少なくとも海洋系の魔物の大発生事件、ってなは発生してて、それが事件と呼ばれる程だ、救援要請かなんかが来てたんだと思う。あるいは噂が立ってたか。

 港湾都市ガンダラってなは触腕の森になってた廃墟群の事だ。元は国と行かないまでも都市クラスの規模はあったンだなって。

 

 だから、多分なんか……臨海学校的なアレで、行ったのかな? 修学旅行とか、遠足とか、まァなんでもいいけどみんなで足を運んで──魔物に取り囲まれた? それで、逃げようってなったンだろう。多分そん時のみんなはまだ魔法を上手く使えなくて、逃げることになったんだ。

 いくら即時蘇生するからってこっちに火力が無かったら意味が無い。殺され続ける結果になるだけだ。あるいは魔法や魔力を上手く扱えない一般人もいたのかね。港湾都市ガンダラの住民達が。

 だから、まァ逃げましょうになって。

 その最中、俺はまーた取り残されたと。

 

「あァまぁ教師陣に報告書出したンだよ。色々あったからな。すまねェ、知らねェのは無理もなかったわ」

「成程成程、それは是非とも見てみたい所ですが……その上でお答えいただきたく」

「ん-」

 

 あの時。

 班長達を()()()()()()1()()()()()()

 その時の心境。何をしていたか。

 

「後悔、かな。みんなを守れなかった……どころか俺が足を引っ張っちまったことに対しての後悔。悔やんで悔やんで──けど、悔やんでる時間は無くて。だから必死に逃げ回って、けど反撃の機会も見つけて、最後の方は破れかぶれになって突っ込んでって……その策自体は成功したものの、敵のが上手で。お嬢が駆けつけてくれてなかったら、どォなってたことか」

「へぇ、じゃあやっぱりあの噂は本当だったんだ」

「噂?」

「本人は知らないか。──フェリカ・アールレイデ。リキュアのお姉さんが、貴女のためだけにエデンの規則を破って貴女を助けに来たって話。ミサキさんも一緒にいたみたいだけど、どうにも情報が隠されている──というか緘口令が敷かれているのか、曖昧な証言ばかりでね。貴女の今の言葉で裏付けが取れたよ」

 

 なんでそんなことに緘口令が敷かれてンだ。

 エデンの規則を破るってなそんな悪い事なのか?

 ……罰則が意味を成さない分、何か別の……。

 

「じゃあ、次です」

「はい、そこまで。アールレイデさん、李さん、ミズメさん。そろそろ昼休みが終わりますよ」

「え──あ、本当だ。……口惜しいけど、ここまでのようだね」

「理央、なんだかそれは悪役の台詞っぽいです」

「……次は移動教室」

 

 時計を見る。

 まァ、確かに良い時間だ。

 だが俺的にもそこ以降は気になってたンだよな。俺が次に遭遇する事件って迷宮攻略だろ? あとそれ以前……遠征任務に行く以前の暴走繭とか鬼教官とのアレコレも無いのかな。流石に冷静メイドの反応からじゃわかんねェんだよな。

 

 ただ、パパラッチ3人組はもう満足したようで、もう学園長室を出ようとしていた。

 ただ1人──ミズメだけが、こちらをじっと見て。

 

「ミズメ? まだ何か聞きたいことがあるのかい?」

「ミズメさん、行きますよ?」

「……うん。でも、1つだけ」

 

 ミズメの口が、音を出さないままに開く。

 ……へいへい。やっぱりか。

 

「あァさ」

「ミズメさん、そろそろ本当に遅れてしまうので、担ぎます!」

「リキュアは頭を! 私が足を持つよ」

「……乱暴」

 

 まァそんな感じで──3人は去っていった。

 うーん。

 嵐、だったな。

 

「対価は?」

「あれだけお菓子を食べ散らかしておいて、まだ求めますか?」

「育ち盛りなンでな」

 

 今回は学園長殿と話す時間もなさそうだから、あいつらの相手をさせられたことへの対価を要求する。

 学園長殿は困ったよォな顔をして……けれど、何かを思いついた、とでもいうように手を打って。

 

「では、こういうのはどうでしょう。ダンジョンの自由探索権限の付与、というのは」

「それ、今回の件が無くても出すつもりだっただろ。じゃなきゃ聞きたいこと、なンつって俺に情報を与えたりしねェもんな。アンタにメリットが無さすぎる」

「けれど、欲しいでしょう?」

「……手打ちだ。満足してやる」

「ええ、ありがとうございます」

 

 ヤだねェ。

 俺この人苦手だわ。腹に幾つもやべーもん抱えてる。

 

「んじゃ、俺も行くよ」

 

 朝と昼と、2回も呼び出されてンだ。

 そろそろ変な噂が立ってもおかしかねェ。もう立ちまくってンだろうけど。

 

 会話に肩肘張るのも疲れたしな。

 

「じゃァな」

「ええ、また。──そして、口は閉じておくといいですよ」

「ん?」

「許可もなく貴女を運ぶからです──では」

 

 見事に舌を噛んだ。

 

 

 

えはか彼

 

 

 

「あァ……終わった、終わった。だりィな普通の授業……」

「お疲れ様です! それでは私はこれで! また週明けに!」

「じゃあね」

「……ホントは、梓さんと商店街に行きたい所……ですが! 今日は家の用事があるので失礼しますわ……」

「フェリカ、服を噛むな。流石にはしたないぞ」

 

 らしい。

 ポニテスリットも何か用事があるらしく、これまたお誂え向きにフリーになったわけだ。

 なんで──まァ、人目を避けるよォにして教員塔の前まで来たら、脳筋娘がちゃんといた。

 

 ちゃんといて。

 

「来たね。……じゃあ、行くけど。大丈夫?」

「何がだ」

「心の準備」

「必要なのか?」

「……貴女にとっては、辛いコトになると、思う」

「そうか。覚悟しておくよ」

 

 それが真実に繋がってンなら。

 

「じゃあ──【隠涜】」

「【移様】」

 

 気付けばそこにいた。

 まただ。クロムクラハの権能、あるいはオーディンの権能なんだろうけど……ワープに近い事をやってのけるたァ流石神、って所か。

 

 でも。

 そォいう感心は、ぶっ飛んじまった。

 声が出せないまま──後退りをした。ここがどこなのかとか、警戒をするとか。そォいうのは考えられなくて。

 1歩、また1歩と後退って──壁にぶつかって。

 

「──久しぶりだね、梓」

「……」

「直接の関りがあったってワケじゃないけど、いつかぶり、だねぇ」

 

 いたんだ。

 ──俺が殺した、その3人が。

 

 

 

 

「落ち着いた?」

「……あァさ。落ち着いた。……落ち着けるワケがないンだけど、落ち着いた」

 

 魔煙草を吸って思考を純化させる。

 ぐちゃぐちゃになった感情を無理矢理落ち着かせるにはコレが一番だ。

 そォいう整理をしちゃァいけないンだろうけど、自分で整理しきるには長い時間がかかりそうだったから、クスリの力を頼ったってな……笑えない話だ。

 

「ごめんね。最初に引き合わせておかないと、拗れるだろうな、っていうのが私達の判断でさ」

「あァさ、良い判断だ。……そういう判断ができるってこた、お前らは全部知ってる、ってことだよな」

「その辺りの説明はハナからやってやるからよ。とりあえず今は前を向けよ」

 

 クロムクラハに諭されて。

 窓際で吐きそうになってた俺は、振り返って。

 彼女らを見る。

 

「……久しぶりだな。あァさ──あんまり言いたくねェ言葉を使うけどよ。元気してたか?」

「梓、お前に笑いのセンスは無いな」

「そうかい? 面白いジョークだと思うけどねぇ」

「あはは……でも、そこまで重く受け止めてくれなくていいかもです」

「……互いに、使命があった」

 

 彼女ら。

 見える顔全て──俺が魔法を裁定した魔法少女らだ。殺した3人を含めて、魔法少女から人間へと戻した少女ら。

 それが、勢揃いとまではいかないが、各々料理に舌鼓を打っていた。

 

「当然だけど、私もいる」

「……ミズメ」

「なンでだよ。普通にアズサって呼べ馬鹿」

 

 裁定対象ではなかったアズサ。そしてクロムクラハ。

 奪ったけどいない奴でいえば、まずマッドチビ先生、青バンダナ、太腿忍者……とそれなりにいるけど、まァ、居る奴の方が多い。

 

「ここはどこなンだ」

「私の家さ。これでもさる令嬢でね。別荘という形で邸宅を与えられている」

「……班長」

 

 そりゃ、いるよな。

 尖り前髪もこっちにいて……ジパングにいるとかじゃなく、単純にエデンに通ってなかった、と見るべきか。

 

「それで、一応聞くけど、これは何の集まりなんだ。太陽の使徒メイアート被害者の会か?」

「アッハッハッハ、それはいいね。それに改名するかい?」

「い、いえ……それは流石に」

「……」

 

 流石に卑下しすぎか。空気読めてねェな。

 あーダメだ。そうなるとは思って無かった──いつか出会うことはあれど、そォいう風に引き合わされるとは思って無かったから、結構苦しい。

 

「私達は、謂わばレジスタンスになるのかな」

「レジスタンス……?」

「この世界に対する反抗組織。あるいはこの世界の神を討たんとするテロ組織」

「おいおい、物騒だな。つか、この世界の神っつーと、ジーウィースか? アイツなら異空間の狭間で」

「違う。ジーウィースは確かにこの世界の神だけど、私達が討滅しようとしている神じゃない。……正確には、この世界をこんな風にした神を討とうとしているんだ」

 

 この集まりにあっても班長がリーダーなのか、神妙な顔をして──その名を告げる。

 

「ソンヒューィ。君との……太陽の使徒メイアートとの闘いによってジーウィースが事実上眠りについた事で台頭してきた神であり、同時にこの世界の最高神が1柱を務める神だ。私達の倒すべき神は、それになる」

「……ソイツは、おかしい。俺が……メイアートがジーウィースを異空間に封印したのはついこの間だ。でもここの奴らはこのおかしな世界を昔からの事だと認識していた。時間が合わねェ」

「それは問題ないのさ。何故ならここは──」

 

 魔煙草の煙を肺に多く吸い込んで、班長の言葉を取る。

 

「夢だから──か?」

「ああ、そうだ。この世界は夢幻。誰かが見ている夢に過ぎない。けれどこうして私達は人格を持ち、世界は進んでいる。誰かの夢の世界からジーウィースは召喚されて、メイアートによってそのまま絡めとられた」

「じゃァ下手人っつか誰が夢見てンのかは簡単だな」

「……わかるのかい?」

「だってアイツの魔法はそういうモンだったろ。自分の書いた話を現実にする魔法。実際そォなりかけてたンだ。ジーウィースの召喚によってそれは急速に加速した。夢に描いていた世界が現実に降りてきた。アイツの意思は関係ないのさ。ただアイツにはそういう力があったってだけ」

 

 謎なんて何にもねェ。予想通りだ。

 

「ピンクカチューシャ……始の点を作り上げた魔法少女、プリメイラ。ここはアイツの妄想世界。そォいうこったろ」

「異議を唱えるのだ!!!」

 

 キーンとする声が奥の方から響く。

 ぴょこんと飛び出る低身長は、魔法少女の衣装でもねェのにピンクで纏まってて、さらにはピンクのカチューシャつけてて。

 

「……お前、どーやったら起きる?」

「だから、異議を唱えるのだ! 私のせいじゃないのだ!」

「状況証拠が揃ってンだよ。どう考えてもお前の魔法かお前の素質だろ。夢を具現化させてンのが誰か別の奴だとしても、お前の妄想が原因なのは火を見るよりも明らかだろ」

「私だったらもっとラブラブイチャイチャな世界にするのだ! こんな地獄みたいな場所考えつかないのだ!」

「でもお前人間で迷宮作ろうとしてた奴の1人なンだろ」

「──!! ……それを言われると、すごく、弱いのだ……」

 

 確かにコイツからも魔法を裁定した。だからここにいるのはおかしくない。

 けどまァ、夢見てる本人が夢に出てくるってなそう珍しい事じゃねェ。

 

「梓、落ち着いて。たとえプリメイラが現実で起きたとしても……というか、既にプリメイラは起きているんだ。多分ね。その上で、彼女の妄想の世界が勝手に乗っ取られて固定されている。そういう状況だと認識してほしい」

「ヴェネット、妄想って言うななのだ。せめて夢って言えなのだ」

「説明中は少し黙っててほしいな」

「あぅ」

 

 他人に厳しい班長は初めて見たかもしれない。

 まァ俺がEDENを離れてからそう然したる関りがあったワケじゃねェしな。

 

「あるるららだ」

「キラキラツインテが、どうかしたのか」

「奴が全ての原因だ。私達は奴の魔法を勘違いしていた。【透過】などと……よくも今まで……」

「カネミツ、早とちりはよくないと何度も言っているだろ? そうではないのかもしれない。言えない理由があったのかもしれない。──けれど、あるるららが関係しているのは確かだろうね」

「……ん-、まァそっちの推論がどーなってンのかは知らねェが、キラキラツインテが関わってンのは間違いねェよ。だって俺、この世界に来る前にアイツと会ってるし、何よりアイツに妙なコト言われてこっち来たンだ」

「……次会ったら、確実に斬る」

 

 思うところはあるのだろう。

 仲間であるがゆえに。あるいは。

 

「キラキラツインテの魔法は、なんなんだ」

「……彼女の魔法は【同化】。世界と同じになる魔法」

 

 その名は──裁定対象だ。

 つまり、最高等級の魔法。

 彼女は言っていた。自分の魔法を使う感覚は、世界に自分を溶かす感じだと。初めは【通過】。次は【透過】。そして【同化】。三度の"役割の統合"を果たした魔法だというのなら、その規模は恐ろしいものとなるだろう。

 A級などと、嘘ばっかりだ。

 

「いくつか確認したい」

「うん。そのための会合だ。互いの情報を出し合って、今やるべきことを見つけよう」

 

 魔煙草を1本取り出す。

 もうさっきのは吸い終わっちまったからな。さてはて。

 

「まず──ピンクカチューシャ」

「う、なんなんのだ?」

「お前、俺に【帰述】使ってたよな。俺がここにきてから2日ちょいだが、あり得ねェタイミングでありえねーことが沢山起きた」

「え? いや、使ってないのだ。というかプリメイラ様の魔法はそこまで効果範囲のあるものではないのだ。ゲヘナが隣にいたら話は別だけど、基本的にあたしは目の前とか、広くて部屋の中とか、その程度にしか作用させられないのだ」

「……」

「わっ、睨まないでほしいのだ! ほ、ホントなのだ! あたしはもう梓には嘘吐かないのだ!」

「……いや、いい。ちょいと考えを巡らせただけだ。睨んでねェ。そう見えたンならすまねェ」

 

 この世界に来てすぐに起こった様々な事。それに【帰述】は関係していないと仮定する。だが、それっぽい雰囲気は感じ取ったンだよな。"役割の統合"後【帰述】を使用したってなこたねェから感覚でしかないが、同系統のものが俺に作用したのは確実だ。

 ……いや、そうか。この魔法かなり異質だから特異なモンだとばかり思ってたけど、下位互換がある可能性はあるンだよな。

 

「あー、班長。アンタっつかアンタらはどこまで覚えてンだ?」

「始の点で新たな生活が始まった──それくらいまでかな。恵理由知穏なる場所がまだ安定していなくて、新たな3柱の神が尽力しているとかその辺りを聞いたあたりから、記憶はぶつ切りだ。気付いたらこっちにいたし、つい最近までこの世界の常識に囚われていた」

「その言い方だと、誰かが解放してくれたって感じだが」

「君だよ。ああいや、クロムクラハ、と。そう呼んだ方がいいのかな」

「……成程ね」

 

 クロムクラハ。

 神になった俺。オーディンを食らった俺。

 

「お前はなんで気付けたンだ?」

「それを話すにゃ、まず俺がなんでここにいるかってなトコから話さないといけねェ。さっきの話聞いてて認識の摺り合わせができてなかったのを痛感した。まず俺の話をしてもいいか?」

「頼む」

 

 窓の縁に腰を下ろす。

 夜風が心地よい。なんだか懐かしい感覚だ。これが夢だとは、到底思えないが。

 

「始の点の主となった俺は、ザグルスのサポートの下、冥界の空を航行していた。そんなある日、シエナ……あァガーゴイルの方のな。アイツから報告が入ったンだ。"眠ったまま起きなくなってしまった方がいます"って」

「そりゃ」

「あァさ。魔法少女だって寿命が存在する。だから──ついに来ちまった奴が出たんじゃねェか、ってさ。まァ俺は夜の使徒でなくなったとはいえ、その信念は持ってる。だから供養しに向かったよ。そしたら」

 

 クロムクラハは肩をすくめる。肩、ぼんやりしてるからわかりづらいけど。

 

「地面に転がる人、人、人。魔物たちも困った様子でよ、何が起きたのかわからねェって泣きついてきたのさ。あァ、自分たちは何もしてねェぞって弁明付きでな」

「すげェな。転がってる人間を食わねェのか」

「恵理須の頃と一緒にするな。食う必要の無いモンは食わねェよ。そもそも人間ってな不味いらしい……とかはどうでもいいや。で、詳しく容態を見て見りゃ、全員眠りこけてやがる。魔法少女も人間も、全員グースカピースカ眠ってンだ。頬叩いても瞼無理矢理開けても起きやしねェ。流石におかしいと思ってザグルスに相談しようとブリッジに戻れば、冷静メイドやお嬢まで眠りこけてると来た。これはいよいよなんかが起きてるなって思った俺は、唯一眠ってなかったレーテーに聞いたのさ。"何しやがった"ってな」

 

 いきなり喧嘩腰。

 もっと穏便にいけねェのか、って思うけど、俺らしいなァとか思ったり。

 まァ状況証拠的にそうだろうし。

 

「そうしたら、アイツ平然とした顔で言うんだ。"神の思し召しです"ってな」

「……神」

「あァさ。だから聞いたよ。誰だ、って。冥界に残ってる神はレイ、ハキタ、ウィドアルと、テンショウ、シャミャコ、アルテネルだけだ。だからどいつだ、っつって詰めれば、其夢盗だと言いやがる。あり得ねェのはわかるな?」

「全くおんなじことをアイツに詰めたよ、俺も。そしたら、自分の背後にいるのが其夢盗であるかどうかは関係なく、神であることが重要だと言ってきた」

「俺もおんなじ風に返された。だがまァ、こっちの場合は実害がでけェ。早くやめろ、でなけりゃその神殺すぞ、つったのさ。夜の神だ。生者への干渉にしちゃやりすぎだからな」

「で、気付いたらこの世界にいた、って?」

「……お前さ、元々俺だからって話の先を読むのやめねェ?」

 

 フリューリ草の煙が脳を巡る。

 其夢盗を名乗る夜の神。集団睡眠事件。レーテーの凶行。キラキラツインテの奇行。

 

「ルルゥ・ガルは?」

「ん?」

「アイツは寝てたのか? 起きてたのか?」

「起きてたよ。アイツ別に魔法少女じゃねェし」

「じゃあ、L・アルカナは?」

「ソイツはハナから始の点には乗ってねェよ。安藤さんもな。なんでも別の世界の神だとかで、リゾ・マータって奴を連れて行こうとしてたから、奪い返しておいた」

 

 L・アルカナ。安藤さん。リゾ。

 リゾはマジの一般人だろうからいいとして、前者2人は人間じゃない。安藤さんは加具土命だったか。んでL・アルカナは──。

 

「L・アルカナ。懐かしい名だな。遠征組観測班アルカナ隊だけがEDEN中枢……つまりソイツはゲヘナと繋がっていた、という事実は必要か、梓」

「──良い情報だ、尖り前髪」

 

 別世界の生命体。神。それがゲヘナと繋がっていた。

 ゲヘナが呼び出したジーウィースはこの世界の神。何故ゲヘナがそれを呼び出し得たのか──その存在を知り得たのか。

 それは事前に教えられていたからではないだろうか。他ならぬL・アルカナ、まァあるいは安藤さんに。

 

 で。

 そうだ。太陽の使徒である事に気を取られていたけど──L・アルカナも魔法少女だった。

 D級魔法少女。魔法名は。

 

「【作為】。正体不明、内容不明の魔法……常にふわふわ浮いてる鼠浮かべた変な奴」

「あァさ。【作為】だ。──いかにも、だろ。【帰述】程の強制力があるのかどうかは知らねェが、作為性のある展開(ご都合主義)を作り出す魔法ならわかりやすい」

 

 あの時零に言われた裁定しなければいけない対象。その全てを聞き出したワケじゃないが、いくつか知らねェ魔法が交じっていた。

 まず【有引】。委員長の【引力】に関わりのありそうな魔法。【鎮静】。【弱化】や【静弱】に関連しそうだ。【重力】。アムリタ・アールレイデが【重圧】を使っていたな。【必中】。【的中】に関係あるだろ。【候誕】。……これは完全にわからんが、確かリキュア・アールレイデが【転候】という魔法を使うンだったっけ。

 で──【界磁】。そう、これだ。

 真っ先に思いつくのはリゾの【渡磁】。これが"役割の統合"を果たしたら、【界磁】になりそうだ。で、L・アルカナや安藤さんがそのリゾを連れて行こうとした。

 

「そのリゾはレーテーが懇意にしてる、と。……あるなァ、色々。考えりゃ全部繋がってくる」

「だが、おかしな点があると思わねェか、梓」

「魔法は肉体に宿る──って話か?」

「あァさ。この世界が夢で、みんなが眠ったがゆえにこっちに来たってンなら、魔法は使えないはずだ。確かに事実、使えてねェ……なんぞ14歳くらいの奴が考えた魔法名でドカンドカン魔法使ってる奴もいるが、そうじゃねェのもいる」

「私の【隠涜】とか」

「私も【凍融】を使えるね」

「……俺が奪った魔法だけ、か?」

「いや、私も【飛斬】を使える。奪われた覚えはない」

 

 ……爆速で魔煙草を消費する。

 あんまり純化しすぎると良くないが──これは、どういうことだ。

 

「その、あー。……委員長達は、どうなんだ」

「……不可」

「使えないねぇ。アタシ自慢の青太陽は奪われちまったまんまさ」

「うん……私も、【引力】は使えないかな。この世界の魔法は勉強したけど……」

 

 まだ、やっぱり話しかけづらい。

 自分が殺した相手に話しかけやすい奴なンていねェだろうけど──あァ。

 

「梓、ごめん。思う所はあるだろうけど、今はこっちに集中して。君が頼りなんだ」

「……なんで俺なンだ? 確かにメイアート関連は俺にしかわかんねェだろうけど、クロムクラハとアズサがいりゃ大抵の事は紐解けるだろ。あとピンクカチューシャ」

「ついで!?」

 

 俺は確かに策を弄じる方だけど、だからっつって決して頭の良い方じゃねェ。早とちりも多けりゃ間違った事を信じ込むこともある。

 俺を頼ったって、出てくるのは俺が一番苦しまない方法だけだ。最善なンて掴み取れやしねェ。

 

「──それは、君が最も平等な視点を持っているからかな」

 

 ふと、月明りに影が差す。

 窓辺。俺を暗がりに落とすのは。

 

「【飛斬】──」

「ごめんね、【凍融】」

 

 2つの魔法が飛ぶ。世界を切り裂く斬撃と世界を凍らし融かす魔法。しかしそれは、彼女の体を通り抜ける結果に終わった。

 

「──何やってンだ!」

「おい、何故こちらに怒鳴る。奴に──」

「今の、アイツが【透過】だか【同化】しなかったら死んでただろうが! ちったァ考えて魔法使え! てめェらのは殺傷能力に秀ですぎなンだよ!」

「……【即死】使いがそれを言うか」

 

 繰り返し。焼き増し。

 似たようなやり取りを何度もやっているということだ。

 その上で、コイツらは変わらないという事でもある。

 

「で? 平等だって? 誰が?」

「君が。梓・ライラック。君の価値観、世界観は平等だよ。常に一歩引いて世界を眺めているよね。常に一歩引いて世界を記録しているよね。──だから、移ろいやすい彼女らは、君に縋る。そうでもしないと自分を見失ってしまうからね」

 

 空。

 月明りを遮るよォに浮かぶのは──キラキラした髪飾りをつける、ツインテールの少女。

 

 あー。

 

「誰だ、お前」

「──? そういう冗談なら、ごめんね。私にはわからないや」

「冗談じゃねェよ。お前さん、誰だ。キラキラツインテじゃねェな」

 

 純化した思考が言葉を紡ぐ。

 見た目はキラキラツインテに近い。だが髪色がかなり黒寄りになってるのと、目の色も違う。ただまァそれだけならイメチェンで済んだだろうが──俺が命の気配を見間違えると思ってンのかって話。

 

「再度聞くぜ。誰だお前。キラキラツインテの身体使って何してやがる」

「ソンヒューィ」

「そうか。キラキラツインテはどうした」

「興味本位に【同化】してきたからね。食べてしまったよ」

 

 ざわつく背後。

 ……。

 

「嘘だな」

「どうしてそう思うのかな」

「確かにキラキラツインテは好奇心旺盛な奴だが、引き際は弁えてる。一回失敗したからな。アレ以降、勝てる戦いにしか乗ってこねェ。まァそういう理由は後付けだ。アンタからキラキラツインテの気配がしない。それはつまり、糧にすらなってねェってことだ。3度目だ。キラキラツインテの体使って何してンだてめェ」

 

 臨戦態勢なのは、クロムクラハとアズサ。他の連中も何かあればすぐに、って感じだな。

 まァソンヒューィの名前自体はわかってて、それが最大の敵だと知ってるんだ。そうもなるか。

 

「ふむ、ふむ。いいね。あるるららの言った通り──面白そうな子だ」

「あァさ、そっち側にいるにはいるンだな」

「いるよ。興味本位に【同化】してきたのも本当だ。けれど、食べる事は出来なかった。食べようとしたらするりと逃げられてしまってね」

「だろうな。で、なんでキラキラツインテの身体使ってンのか聞いてる。4度目だ」

「この【同化】という魔法は使いやすくてね。ただそれだけの理由だよ」

「そうかい」

 

 魔煙草を吹かせる。

 で。

 

「で、何の用だ。俺の視点が平等だ、ってな話をするためだけに来たのか? 酔狂な奴だな」

「勿論そんなことは無いよ。ただ、挨拶をね。──どうかな、この世界は。()()()()()()()()を目指して作ったんだけど、気に入ってくれたかな」

 

 ふむ。

 限界か。

 

「──褪戦死遠(【死漸】)

「【終焉】!」

「【即死】──」

 

 掌はいつも通りくるっくるだ。

 班長達を怒った手前申し訳ねェが──まァ神なら死にはしねェだろ。

 

「危ないな」

「避けンのか」

「当然。君たちの魔法は──特に、【即死】は神をも殺す魔法だからね」

「そうかい」

 

 さて──相容れねェってことがわかった所で、んじゃどうするかって話だ。

 コイツを殺せば、夢は覚めるのか。

 それとも何か別の方法が必要なのか。

 

「──夢から覚める方法は、とても簡単だよ。起こしに行けばいい」

「あン?」

「ダンジョンを作ってあげたんだ。君たちの世界に繋がる──繋がる可能性のあるダンジョンをね。だから、そこから君たちの世界に行って、眠っている君たちを起こしてあげればいい」

「起きなかったから困ってンだがな」

「当然普通の方法では起きないさ。──必要なのは、目覚めたいと思う心。この世界の――全世界のすべての民が、早く起きたいと願えば、そう願っていれば、頬に少し触れるだけでも起きるだろうね。けれど、この世界の誰かが1人でも続きを見たいと願っているのなら、夢は続く。ここはそういう世界だ。不安定な世界だよ」

 

 もうその仕草にキラキラツインテの要素は無い。

 自分に酔いしれる誰かだ。芸術家……自分の作り出したモノが好きで好きでたまらないタイプかね。

 

「明らかに始の点や奪われた国にいる人々よりこの世界の人口は多いように感じるけれど?」

「良い事をいうね、ヴェネット。その通り。この世界の半数以上……いや、4分の3は、ただの再現映像だ。そこにいる3人のように、過去死んだ者達の亡霊と思ってくれていい。けれど彼女らも世界に続いてほしいと思う1人であることに変わりはない。彼女らも改心させ──夢を覚ませたいと。死にたいと。そう思わせる事が出来たら、あとはダンジョンから自分たちを起こしに行くだけ、と言う事さ」

 

 あァさ、魔煙草の消費が激しいなァ。

 まァ俺を激昂させたいっつーか怒らせたいのはわかったよ。死にたいと思わせる。それだけ聞けば、俺は違う方法を探すだろうさ。

 

 けどなァ。

 

「死んだ奴が再度生きてェって思う方が間違いなンだよ。馬鹿が、そこのスタンスを変えた覚えはねェぞ」

「……そうかい。それでもいいよ。好きにすると良い。──君が殺した命を含めて、生存と破滅の楽しい楽しい夢物語を始めよう。何、安心すると良い。この世界で起きる事はすべて夢。誰が死んでも、誰が苦しんでも、誰の心がぐちゃぐちゃになっても──ちょっとした悪い夢だ」

「あァさ、だからお前其夢盗名乗ってレーテー動かしてたのか」

 

 全く。

 なんだってラスボスってモンは、姿を偽りたがるのか。

 堂々としてろよ。ジーウィースみてェによ。

 

 ……あァさ、そういやジーウィースが封印されたから台頭してきたンだっけ、コイツ。

 じゃあジーウィースの封印解いてこっちに戻したらどーなるンだ。

 

「お前、行った事ねェんだろう。残念ながらここはカシヨの村には程遠いよ。あっちの方が寂しいし、孤独だ。けど、こんなクソみてェな場所じゃねェ。──ハハ、ハハハ。そうか。やるべきことがわかれば簡単だなァ」

 

 道化だ。

 いや、喜劇だろうか。

 

 何にせよ──コイツはラスボスの器じゃねェなァ。まだキスキルとかのが……あ、やめとこ。名前出すと出てきそうだし。

 

「もし冥界に帰る事が出来たら、真っ先に是磑の封印解くよ。んでこの世界に送り返す。それで満足だろ、存彪位」

「……訂正しよう。君は全く面白い子じゃないね。もっと苦悩し、もっと躊躇してくれるものだと思ったのだけど──ここで摘んでしまおうか」

 

 みんなが動く気配を感じる。

 だーいじょうぶだって。

 

「コイツにそんな勇気は無ェよ。死ぬの、怖いンだろ」

「──……ッ」

 

 どろり、こぽりと何かが出る。

 芯の部分から──俺が彼女と繋がっている証が。

 

「生きてェんだなァ、てめェ」

「……当然」

「じゃァダメだ。ハハハハ……久しぶりに見つけた。俺が立ちはだかるべき奴。──生きてェなら、俺はお前の前に立ちはだかろう。だから、全力で超えに来い。でなけりゃ死ぬぜ、お前」

「何を言っているのかさっぱりだ。──けれど、その笑みは不快だな。まるで全てを見透かしているかのような目も。……いいよ、今日の所は帰ってあげよう。この世界で好きに過ごすといい。そして絶望しろ。ジーウィースを連れてこようと、何をしようと──この世界を望む者がいる限り、この世界は続いてしまうのだという事実に。打ちのめされろ。そしてこの世界に永遠閉じ込められてしまえ」

 

 ソンヒューィの姿が世界に溶けていく。

 おいおい、三下もいいところな捨て台詞だなァ。

 

 もうちっと神らしくはできねェのか。

 

 

「──ちゃんと殺してやるから、安心しろよ」

 

 

 なァ?

 

 

 

えはか彼

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