魔法少女育成学園エデン ~全てを導いた英雄譚~ -二年生編- 『刻まれた苦しい記憶』
「消えていった奴さんはまァおいとこう。肉体の話だ。説として挙げるなら2つ。肉体はあっちにあって、魔法が使えンのは思い込み説。思い込みか、まァ制限されてるとか、そのあたりのなンかだとする説だ。もう1つは、肉体もこっちに来ちまってる説」
「それは、どォなンだ。少なくとも俺の意識が途絶える前、みんなの肉体は始の点の至る所にあった。誰1人失われちゃいなかった」
「あァさ、だからまァ、1個目の説で良いんだろう。じゃあそれを念頭に、なンで魔法が使えるかだ。ここが夢の世界だとして、どうして俺達の固有魔法が使える」
「一応言っておくと、私のは権能だ。魔法じゃない。権能は精神体が持つものだから、私が使えるのはおかしくない」
それは知らなかった。
……いや、そうか。だって神とか肉体無いもんな。
「あるいは権能化したってな可能性は?」
「それはまぁ、8割方無いのだ。魔法少女の魔法は権能にはならないのだ。正確に言うと、複数回の"役割の統合"によって成ることはあれど、そのままの状態でなることはあり得ないし、"役割の統合"でそれが権能になっていたのなら、魔法少女も神になっているはずなのだ」
「いきなり饒舌じゃねェかピンクカチューシャ。詳しいのか?」
「全部受け売りなのだ。対メイアートの作戦会議時にゲヘナから聞いたのだ」
「へェ」
信用度は低いってことね。
まァ頭の片隅に置いておくよ。
「しかし、それが無いとなると、どーいうこったって話だ」
「案外思い込み説は有力かもしれないのだ。何故ってここは元々──」
「お前の思い込みで造られた世界だから、か」
それが本当にそうだとして。
「【死漸】……には、ならねェな」
「思い込みの力が足りないのだ。世界は自分を中心に回っている、くらいの妄想力が必要なのだ」
「そー思って生きてンのかお前さん」
「勿論。そうすればみんな人生楽しいのだ」
そりゃ、まァお幸せなこって。
ん-、まだ決定打に欠けるなァ、どれもこれも。
ただ……確かにここが、カシヨの村に近い場所だってンなら、思い込みでなんとかなるってのは本当かもしれねェ。あそこもそうだった。
……。そういえば。
「なァ、クロムクラハ」
「ん?」
「着物狐はどうだったンだ? アイツは来てないのか?」
「あァ、お前知らねェのか。アイツはもう魔法少女やめたンだよ。【傾刻】がキスキルのものになってただろ? そもそもアイツが魔法少女でいたのってそれを食らってたからとかで、ソイツを返上したから単なる魔物……オリジンに戻ったのさ。つったって輪廻の車輪があるわけでもなし。余生は隠居して過ごすとか言ってたよ。みんなが眠っちまった時にも、普通に起きてた」
「……そうか」
冷静メイド、着物狐、マッドチビ先生が頼れねェってことだ。
俺の中の三大頼れる奴がこっち側にいねェ。お嬢も……あンなだし。
勿論メンタルケアの点で冷静メイドとマッドチビ先生は頼っても良いんだろうけど、事情を知ってるワケじゃない──記憶も無いとなると、困るな。
クロムクラハに接触して記憶が戻ったっつーンなら、とりあえず全員に接触してもらいてェとこだが、この世界の魔法少女は前の世界よりイノシシだ。思うところはあるだろう。
「とりあえず、ダンジョンってトコに行こうとは思う。一度行って、どうなってンのか確かめてくる必要はあるだろう。誰かこの中でダンジョンに行った事あるヤツは?」
「アタシはあるよ」
「中はどォなってた?」
「アタシん時は、だだっ広い砂漠だったねぇ。そこで現れるゴースト種やホートン種と戦って、致命傷食らったと思ったら隔離塔前に吐き出されてた」
「その後も砂漠だったか?」
「そうさね。1人で行くときは絶対に砂漠だった。ただ、複数人で行くと内容が変わることがある。アタシ以外の奴が1人で行った時は、大海原のど真ん中の島だったとか、遥か高空の山頂だったとか、色々だよ」
行くやつによって内容が変わる。
……その上で、死の世界に繋がってる、ってな噂がある。つまり……死の属性、みてェなのを持ってる奴がこの世界にァ少なからずいて、そいつらがダンジョンに入ると冥界に繋がるって感じか?
だとすりゃ、その噂流した奴と一緒に行くのが効率良いな。
それを、脳筋娘も思いついてくれたらしい。
「じゃあ、私は輝きの園へ戻って噂の出どころを確かめる」
「アタシらもEDEN内部で誰とダンジョン入ると死の世界に繋がるのか、ってのを調べるとするかね」
「……EDENに住んでンのか」
「あはは、それ以外行くとこありませんから」
「……魔法は、関係ない」
そうか。
じゃあ。
……銀バングルたちも、EDENにいる、のか。そうだよな。そっちの方が普通だ。
というか……みんな忘れてるだけで、本人、なのか。どういう仕組みで記憶や魔法を持ちこせてるのかはまだ検証が必要だけど、じゃあお嬢はお嬢なんだな。
「──1つだけ、いいかい。梓・ライラック」
「なンだ、エルバハ・イドラ」
「他の2人は知らないけどね。アタシに未練はないよ。戦って、その果てに死んだ。アンタ、覚えてるだろ。アタシが笑って死んだこと。仲間ァ守るために死んだんだ。そのための作戦だったし、それを受け入れていた。──だから、この訳の分からない夢が覚めても、何の問題も無い。さっき話してただろ? 生きたいとか死にたいとかってさ。アタシはこの通りだってことを、せめて伝えておきたかった」
「……無論、己もだ」
「私は……どう、なんでしょうね。心の整理がついたかどうかはわかりませんが……あの謝罪が、貴女に届いていたのならば……もういいと、そう思えるのかもしれません」
なんだそりゃ。
覚悟決まり過ぎだろ。
「死んでもいい、ってか、オイ」
「うん? あぁ、そう言っているんだよ。アンタさっき言ってたじゃぁないか。死んだ奴が生きたいと思う方が間違いだ、って。アタシもそう思うってだけさ」
「馬鹿言え、今意識があンのに死んでもいい、なンて思う奴がいて堪るか。俺の言葉程度に流されてンじゃねェよ。俺の信念はそうだ。俺の信仰はそうだ。だけど、お前らは生にしがみつく魔法少女だろうが。何勝手に死のうとしてやがる。許さねェぞ」
「……あー、と。アタシはコイツの事そんなに知らないんだけど、いつもこんななのかい?」
俺がそれをおかしいと言って否定したからって諭されなきゃいけねェなんて決まりは無ェんだよ。
生きてンのに死んでもいいとか、何に妥協してやがる。この世界の存続が全体の不利益になるなら個を殺してもいいとか考えてンのかくだらねェ。
「てめェら、仲いい奴いるだろ。魔法少女になったことで、長い年月に耐えられず死んでいった親族でもいい。もう死んじまった仲の良かった奴。そいつらがこの世界では生きてて、再会したンじゃねェのか。それで何か──思う所があったンじゃねェのか」
「そりゃまぁあったよ」
「……部族との再会が叶うとは、思っていなかった」
「はい……隊長とまた会えるとは、思っていませんでした」
「……ム」
あァイライラする。
何諦めた顔してやがる。死んだ奴は生き返らねェ。それは絶対だ。
だからってそこを納得する人間がいてたまるか。しょうがないって、別離を受け入れる奴がいてたまるか。悲しいンなら掴み取れ。引き戻せ。壊そうとする奴を打ちのめせ。
「この世界の在り方がおかしィンならあの神モドキをどうにかすりゃいい。それで、普通の世界になったこの夢で一生楽しく過ごしていろ。一抹の夢だとしても、こうして意思を持ち、存在できているというのなら生きている。冥界では死んでいるけど、この世界じゃ生きている。それを死んでもいいとか、死んでも言うンじゃねェ。そんなことに覚悟使うくらいなら、どォにか現実に迷惑かけねェでこの世界を存続させる方法でも考えてろ」
「……だな。命はみんな1個だ。だけど、誰かの妄想の住民として生きるってことを、俺はずりィとは思わねェ。生き汚ェとも思わねェ」
「俺は全力でこの世界を壊す方向で動く。それが夜の使徒の役割だ。だけど──」
アズサとクロムクラハを見る。
夜の使徒ではない2人。班長。尖り前髪。エルバハ・イドラ、委員長、過激無口。ピンクカチューシャも、他、見知ったいくらかの面々も。
「お前らはどォにかして生きるために足掻けよ。あるいは俺と敵対して、俺を妨害して。自分が生きるための最大限を尽くせ。ふん、起きてェ奴は起きて、眠っててェ奴は眠り続ける。ンな世界が出来りゃ上等だ。俺はそれを許さないが、世界の滅びを1個経験したンだ、それくらいはやってみろ」
「苛ついてる時に上から目線な口調になるの、俺の悪い癖だぞ」
「そもそもお前に命令される筋合いは無ェんだよ。私は、っつか私達はしたいことをする。この中で誰かがお前の手下になったかよ」
申し訳ねェたァ思うさ。
夜の使徒ってなクソ面倒くせェ立ち位置なンだ。
だから──お前らはシンプルに生きてくれ。
全体の利益とか考えンな。世界のためとかどうでもいい。もうお前らのせいで苦しんでる世界はいないンだから。
「っつーわけで、俺はレジスタンスには入らねェ。この世界にいる、この世界を続けたいと思ってる死者を殺すために動く。勝手に神もぶっ飛ばすし勝手にダンジョンも調べる」
「あァさ、お互い勝手にしようや」
「私は最初からアンタに従うつもりなンてなかったけどな」
「……はぁ。全く。一筋縄ではいかないだろうな、とは思っていたけれど、レジスタンスにも入ってくれないとは思わなかったよ。私達と出会った頃の、あの素直な梓はどこへ行ってしまったんだい?」
「……」
黙る。
俺もクロムクラハもアズサも。記憶を探している。
素直な俺……いたっけ。そう、クルメーナ地下までは記憶共有してっから、3人で探せば一瞬くらいは……。
「ふん、素直なコイツなど、戦闘指南を受けている時くらいだ。基本は何をするにも口を出し、運ばれている身だというのに指示を出す。強くなろうとそれは変わらん。結局コイツは何をするにも自分本位というだけだ」
「オイオイ言い草だな尖り前髪。大正解だ」
さァて、良い子はそろそろ眠る時間である。
会合は終わり。それでいいだろう。
「あァそうだ、お前の英雄譚。聞かなくていいのか?」
「いいよ。多分やってるこた同じだろ。仮にも梓・ライラックなンだ、どうせ俺でも同じような行動してここに立ってるよ。それについて聞かれたら、覚えてねェで押し通す」
「あ、因みにあたしが本にしたためて販売中なのだ。ノンフィクションの英雄譚だから売上すごいのだ」
「1部寄越せよ」
「本なのだ? 39巻完結だけど、1部でいいのだ?」
「本じゃなくて収入に決まってンだろ」
「それはちゃんとした書類での契約じゃないとダメなのだ」
他人モデルにしといてよく言う。
「まァ良い。じゃァな。別に完全に敵対するってワケじゃねェんだ、また会うこともある。EDENで会ったら適当に仲良くしてくれや。っつーことで」
窓から──身を倒す。
強化を施しつつ。
「琿内,安堵羽生阿無椅子努利伊夢!」
「……いや聞き取れる奴少ねェって」
夜は更けていく──。
「ライラック!!」
「うス。なんすか」
「……ム? いや、すまない。遅刻だ、と言おうとしたが、全く遅刻ではないな」
「ういス」
遅刻なンてしてられねェ。
あさイチでダンジョンに潜るつもりなんだから。宣言通り1人で。
いや実際、他の誰か連れて行くより俺1人で行った方が冥界に繋がりやすいと思うンだよな。属性とか要素が関係してンなら特に。
学園長殿から貰ったダンジョン通行許可証もあることだし、さァて隔離塔に。
「……」
「何をしている。行くぞ」
「いや……」
昨日さ、敵対するワケじゃないけど決別、みてェな感じになったじゃん。
なんでいんの?
「そもそも私は毎日ダンジョンに潜っている。良い修練地だからな。それに、私には未練らしい未練を持つ相手がいない。あって殿や侍衆の連中くらいだが、そも我らは死を隣人とするもの。それに縋る程自分を変えたつもりはない」
「そォかい。じゃあ勝手にいけばいいだろ。なンで俺と」
「お前はダンジョンからの帰り方を知っているのか?」
「……知らねェけど」
「もし、冥界以外に出て──帰る事が出来なくなったら、どうするつもりだったか言ってみろ」
「なんとかするだろ。どォにかして」
「最初の1歩くらい先輩を頼れと言っている」
あー、そうだった、そうだった。
コイツ面倒見良いンだった。放っておけなかったのかね。知らんけど。
ま、言ってる事は尤もだ。帰り方どころか中身を知らない俺じゃ、死にに行くに等しい。冥界以外に出たらやべェってなまさにそうだ。まずは慣れてから、そっから1人で、にした方がいい。
うん。
焦ってたな、俺は。
「頼むわ」
「昨日の会話を経て素直になる事を覚えたか」
「因みに言うと、普通の生徒はダンジョンに潜る場合それなりの金銭が必要なんだ。だから君のその永続無料パスに肖ろうとしているだけの可能性もあるよ」
「……そんなことはない」
ひょこっと出てきた班長が言う。
へェ、金かかるんだ。アコギな商売してンなァ。まァ維持費とかになんかかかんのかな?
で、俺のコレはフリーパスと。
「なんだ尖り前髪、生活費キツいのか?」
「そんなことはないと言っている」
「遠征組は無くなったようなものだからね。敵と戦うという機会がほとんどないから、元々戦っていた魔法少女はこうしてダンジョンに潜るのが日課になってるんだ。けど、お金がかかる。毎日毎日、さらには四六時中潜るなら、それはもう膨大に」
「隊長、そろそろその口を閉じてくれ。斬りたくなる」
「おお、怖い怖い。というわけだよ、梓。私もタダ乗りに参加させてくれないかい?」
……。
さっき商業区画で買った魔煙草を1本取り出す。本店の方にはまだ行けてねェ。
「んじゃよろしく頼むよ、センパイ」
「ああ、よろしくね」
「腕が鳴るな」
えェと。
じゃァ、即席混成パーティで──いざ、ダンジョンへ、ってな。
それは隔離塔に入ってすぐのこと。
隔離塔の前にはかつて警備班だった魔法少女が立っていて、一瞬睨まれはしたものの、通行証を見せたら通された。
隔離塔の構造ってな、まず入口があって、下へ向かう封鎖された階段と上へ向かう階段がある、みてェな感じなンだけど──ここは、真っすぐな1本道。
明らかに。
明らかに──隔離塔の直径よりも長い1本道が、そこにあった。
「……これ、既にダンジョン内か?」
「いや、ここは誰もが通る。恐らく別空間に繋がるための変換場ではないかと推測している学者がいたな」
「ふゥん……」
長い道。けれど確かに、先に光がある。出口がある。
光。
……じゃ、冥界じゃなくね?
既に隔離塔の直径を超えた。
超えて──よォやく、出る。そこに出る。
「──」
「……ここは、なんだ?」
「初めて見る景色だな……どこかの都市、だろうけど」
ガツンと頭を殴られた気分だった。
なンでこんなとこに出る。それは──これは、もう。
終わった話だろ。
「梓には、見覚えのある景色なのかい?」
「……あァ」
「懐古に浸っている所悪いが、出てくるぞ」
そちら。
真っ白のシーツがかけられたそちらの奥。階段。扉。わらわらと群がって来るのは──病衣を着た、アンデッドの群れ。
知っている。
すれ違ったくらいだ。よくいる、ってくらいだった。俺の目的はアイツだけで、だから脳裏に残ってる程度の顔ぶれだ。
それが。
「──
「【凍融】!」
「【飛斬】」
わらわらと、ゆらゆらと。
苦しみを訴えるかのように──向かってくる。屋上。屋上だ。ここは。
1歩下がれば。ああ、どうだろう。真下には。
血だまりが、広がってやしないだろうか。
「梓!」
「集中しろ! こいつら──想像以上に強いぞ!」
この人たちが死んだかどうかは知らない。知る前に俺が死んだから。
けど、少なくともここにいるこいつらはアンデッドだ。命の気配がない。奴さんの言葉を借りるのは癪だけど、再現映像みてェなモンなんだろう。
だから、殺す。
何の躊躇も無く。
俺が躊躇うと思ったのか?
「……ジパングの、古い者達に顔立ちが似ているな」
「カネミツ、アンデッドの顔立ちなんてわかるのかい?」
「隊長は全部融かしてしまうからわからないだろうが、多少はな」
まァ、なんだ。
随分と悪趣味と見た。
「行こう。ゴールはわかってる」
「そうか」
「……どうしたんだい、梓。少し……怒っている?」
班長の言葉に、振り向く。
俺の顔はどうなっているかな。
「あァ。狂うほどに」
人の思い出を汚しやがるのなら、相応の対価を払ってもらわないと。
ってな感じで始まったダンジョン攻略だけど、まァ強い強い。
誰がって──班長が。
「……なァ、いつもこんなんだったのか?」
「そんなことはない。基本は私達が前に出ていた。隊長の魔法が強力すぎるが故に、痕跡などを辿るのに向かん。……が、敵に知性が無く、魔法を揮うことになんの障害もないのならば」
角からよたりと老婆が出てくる。融ける。
奥の方から子供が出てくる。凍る。
背後に青年が湧く。融ける。
SS級魔法【凍融】。裁定対象にして最高等級。対象の状態を変化させる遠隔魔法の極致。
知っているつもりだったが──ここまでとは。
「それで、最終地点を知っているとの話だったが」
「あァさ、知ってるつもりだったンだがな。どうにも空間が歪んでやがる。3階の12号室なンだが……読めねェよな、お前ら」
「このダンジョンの文字か? ……形はヒノモトの文字に似ているが、読めんな」
「梓は読めるのかい?」
「あァさ。……なんつーか、ここは俺の原風景みてェなもんだからさ」
引き戸を開けて出てきた女性を切り裂く。アンデッドに【即死】は意味ねェからな。普通に斬る。
……嫌な感触だ。宙の莽でも思ったけど、人体を切り裂くってな感覚は慣れるモンじゃァない。
「ここは、私達の世界の隔離塔、のようなものと見たけれど」
「ン、あってるよ。病院さ。つっても入ってるのは軍人じゃなく一般人……国にある病院とおんなじさ」
「【飛斬】……異様な気分ではあるな。国防のための私達が、民を切り裂くなど」
「宙の莽で斬りまくってたじゃねェか」
「相手がお前ならば特に躊躇はない」
「ひっでー」
しかし、ダンジョンっつーから罠の1つでもあるかと思ったら、そうでもねェのな。
迷宮と然して変わらんっつーか。……あるいは、迷宮をモデルにピンクカチューシャがダンジョンとして設定したのか?
「尖り前髪だけの時はどういう場所なンだ?」
「……夜の墓場……あるいは戦場であった場所、だ。湧いて出てくるのは同胞……の姿をしたマリオネッタ種。そこで夜明けが来るまで戦い続け──最後には、奴が出てくる」
「奴?」
「ナリコだ」
「あー」
……なんつーか、そォいう場所なのか?
「班長は?」
「……君との闘いの場、かな」
「マジすか」
「私達の推測では、各自のトラウマや最も強く思い出に残っている場所がダンジョンとして再現される、と。ただそれだと、死の世界が最も強く思い出に残っているというのがよくわからないんだけどね」
「……」
やっぱり俺じゃん。
ここは……まァ確かにトラウマの1つだけど。
死後の世界を強く記憶に残してンのは、俺だろ。
「お」
「どうかしたのかい?」
「あったよ。3-12。ここだ」
閉められた扉。
ネームプレートにはアイツの苗字。
「特に他と変わった場所には見えないけれど」
「……だが、強い気配だ」
「おーい来たぞー。寝てばっかじゃねェで読書とかどーだ」
慎重な素振りを見せる2人の横で、どうせ相部屋の奴がいねーってな知ってるが故の乱暴さで引き戸を開ける。
見慣れた病室。
ズカズカ歩いてって、一番奥……大部屋を贅沢にも1人で使ってるアイツに会いに行く。カーテンをサァと開ければ。
「……よォ」
「来ないで、欲しかった。そういうのは……ずるいかな」
「ずりィよ。……名は、名乗るなよ」
「勿論。それは、ズル、ですもんね」
にっこりと笑って。
──あァ、イライラする。俺の心を掻きむしる。
その頭を、掴む。
「上っ面の記憶だけ掠め取りやがって。お前がその笑顔を見せたのは──」
「……ごめんなさい」
「──お前が死ぬ直前だけ、だろォがよ」
発動する。【即死】。
それによって命は絶たれ──。
──全身強化。ただのバックステップでいい。2人のいる所にまで退け!
「ッ! 【凍融】!」
世界が凍る。病室が凍る。
そればっかりは止められない。
尖り前髪の横にまで転がりながら下がれば──周囲の景色は一変していた。
さっきまで病室だったはずなのに、最初に降り立った屋上に。階下へ繋がる扉はなくなっている。
俺達は3人とも"あの時"の俺の位置に。
そしてあいつは。
「くッ……【凍融】が、弾かれる……!?」
「気をつけろ! コイツは冥界の量産型とは違う──本物に程近いと思え!」
「まさか」
光が漏れる。光が溢れる。
その身の大きさでは蓄えきれぬ魔力が光輪を作り、その背に翼を生やす。
フルアーマーの体。しかし中身は無い。虚ろなる光の天使。此度の武器は、ロングソード。
──クリスを下から上に振り上げろ。
「ッ──」
右腕に持ったロングソードの振り下ろしに対し、真向からの勝負。
クリス自体は折れないが──その膂力に負ける。メイアートの頃よりかなり力が下がっている事を忘れるな。
だが、一瞬でも止まった。それが隙だ。今のうちにコアに触れて──。
「【飛斬】!」
俺とソイツの間を斬撃が通り抜ける。
俺の腕を狙って、ではない。ロングソードを持ってない手で俺の顔を掴もうとしてたから、それを斬り飛ばしてくれたンだ。
「悪ィ、助かった!」
「油断するな! 前に言ったことを思い出せ!」
あァ。そうだ。
俺は【即死】が絶対的な殺傷能力を持ってるから……無駄な攻撃はしねェで、避けに徹しろ、って。
それが基本だ。基本のキ。
「【凍融】の効きが悪い……あの鎧か、武器か。何かに魔法を阻害するものがある!」
「なンだそりゃ。反魔鉱石か?」
「この世界にはそういうものがある!」
「マジか、勉強不足だ!」
横薙ぎ。
狙いは一番弱い俺──ではなく、武器を持たない班長。
「遠距離攻撃があるンだ、尖り前髪は班長の近くで護衛! 班長は効かなくてもいいから【凍融】をかけ続けてくれ!」
「了解!」
「私の斬線からできるだけ避けて戦え!」
「あァさ──【光槍】!」
手に取り出すは光の槍。クリスはしまう。クリスって実は切れ味自体は低いからな。
基本のキ。
その逆だ。
一切【即死】を考えずに、純粋に戦う。
「尖り前髪、その阻害装置とやらが何かわかったら、俺に構わず斬り飛ばせ! できるな!?」
「誰にモノを言っている。多少、時間を稼げ」
「あァよ!」
ロングソードを光の槍で受け止める。魔力で編まれた槍さ。斬れねェだろ?
が──両腕でやっとだ。膂力が足りない。強化を追加。……さらに追加。
しゃがみ込み、力を受け流して股下へ。コイツの構造的に蹴りが出てこねェことは知ってるンでな。こうして下へ行って、槍を回しながら進んで──即死、は無理だな。離脱。ダメだ。一瞬でも考えるな。そもそもその阻害装置とやらで【即死】がちゃんと効かない可能性もあるンだ。余計な事考えンな。
すれ違い様の【光槍】での斬りつけは、ほとんど傷を与えていない。やっぱりコレは槍だ。どちらかというと突きに特化した槍。斬撃タイプの槍もあるンだけどな。
ゴロゴロ転がって──けれど一瞬で距離を詰めてくる天使に、杭柵をぶち当てる。
「あァさ、アンゲルの弱点って何だっけ!?」
「無い!」
「そォだよ、な!」
天使。アンゲルだ。
あいつが死んで天使が出てくるとか悪趣味にもほどがある、ってなはもっと前に言うべきこと。
ギリギリの戦い……っつか、強化した膂力で受け止めて、小賢しく逃げ回るだけの戦闘だ。屋上ってなは狭いンでな。あんまり暴れてると落ちちまう。
「──班長、一瞬だけアイツの動き止められるか!」
「勿論だ! 【凍融】!」
ピタっと止まるアンゲル。けれどすぐギギギと動き始める。止められる秒数は1.3秒くらいか。
「俺が合図したら、もう一回頼む!」
「わかった!」
新しい魔法の使い方を夢想する。
できる。
「【光槍】参式──
左右上下から出す杭柵。それは確実にアンゲルへ噛みついて──。
「班長!」
「ああ!」
合図をしながら、大きく距離を取る。屋上の縁ギリッギリまで。
足裏から出したクリスでブレーキをかけながら、大きく引き絞った身体を──弓なりに戻す!
当然、射出するのは【光槍】だ。
「
「うるせェ喋んな!」
「【飛斬】」
アンゲルの光輪。天使の輪と呼ばれるソレが、【飛斬】によって斬り飛ばされる。
溢れ出た魔力によって形成されたもの──とされていたそれは、しかし蛍光灯か何かのよォに斬れて割れて、カランコロンガシャンと落ちた。
「【凍融】」
「──
「だから、喋んな。【即死】」
途端凍り付き動けなくなるアンゲルを殺す。
……安らかな雰囲気とか見せンじゃねェ。俺の中で──お前はまだ、死んだかどうかわからねェままなンだから。
「……じゃァな」
アンゲルを殺した、その瞬間。
──周囲の景色が隔離塔の入り口に戻った。
……このメンバーでは二度と行きたかねェなァ。