遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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13.意分畏怖侠絵鰤寝具,藍侠戸椎糸.

 迷宮探索は順調だ。

 まァ地図があるってのがデカい。その道中に化け物はいるものの、超攻撃的且つ回避に長けた金髪お嬢様と、ある程度は面の攻撃が出来て防御に秀でるポニテスリットのコンビは強かった。攻守ともに充実しているから傷も負わないし、殺傷能力も殲滅力もバランスがいい。

 魔法少女ってな覚醒や発見が周期的ってワケでもねェから、俺にァ同期らしい同期はいねェものの、この二人は多分長いんだろう。魔法少女歴が何年か、っつーのは、なんだ、女性に歳聞くみてェでやれてねェんだが、機会があったら聞いてみるのもいいだろう。

 さっきのポニテスリットの反応からして50年以内なのはわかってるしな。

 

「強いね、あの子達」

「あァ。……私はホントにいらねェみてェで」

「不要なのはそうだね。でも、【即死】が役に立たないわけではないと思うよ」

「あン? この先役に立つことは無いって言ってたじゃねェか」

「君の実力はあの子達についていけるほどではないよ。けれど、【即死】自体は強い魔法だ。君がB級なだけで、使う人が使えば、あるいは君がもっと強くなれば、【即死】はSSSにも届き得る」

「そりゃ、どの魔法もそォなんじゃねェのか」

「いいや。どれだけ頑張ってもSSSには踏み込めない魔法は数多く存在するよ。本人がどれだけ頑張っても、SSとSSSには大きな隔たりがある」

 

 ……そういうモンかね。

 殲滅力と殺傷能力が魔法少女の等級を決める。SもSSもSSSも俺的にァそう大差ないと思うんだが、ベテランの意見ってな貴重だ。

 何かあンのかね。隔たるに足る差って奴が。

 そういや、学園長殿はこの迷宮を浮かせたって話だが、それでSSSに認定される魔法ってのはどういう了見なんだろな。浮かせることに殲滅力も殺傷能力もないように思うが。

 

「しかし、この迷宮の化け物共はどォして外に出て来ないんだ? さっきから見てる限りじゃ、A級だのS級だの、外に出ても通用しそォなのがいんのに」

「迷宮の外では、身体を保つことができないからね」

「保つことができない?」

 

 そりゃ……なんだ。また知らねェ知識だな。

 だってんなら掃除の必要も無さそうだが。

 

「迷宮の魔物は迷宮専用の魔物だよ。後から住みついた小さな魔物は外に出ても問題は無いけど、迷宮の魔物は迷宮以外では生きられない。代わりに、迷宮ではずっと生きていられる」

「でも湧きポはあンだろ?」

「無いよ。あれらは必ず同じ場所に形成されるけれど、明確な形成地点は存在しない。あるいはこの迷宮自体が形成地点といえるのかもしれないけどね」

「……じゃァ、この迷宮の攻略ってな、どういう意味だ。過去に攻略されたンだろ? 何か……こう、征服した、っつー証あってこその攻略じゃねェのか」

「迷宮の主を倒したからね。迷宮の主を倒した事と、迷宮の魔物が迷宮内で形成され続けること、迷宮の魔物が迷宮外で生きられないことは、何も関係ないよ」

 

 そりゃ、困る。

 さっきの決意はなんだったんだ。俺がこの迷宮の湧きポ全部潰してここで死ぬ魔法少女を生まなくする、なんてのは……前提からしてできねェってのか。

 

「この迷宮から、化け物の一切を消すってな、無理か?」

「不可能ではないよ。けれど、出来得るのはSSS級の魔法少女だろうね」

「そォか。じゃ、私はできる可能性があンのな」

「うん。そう言った。君が【即死】をもっと理解することで、あるいは──あらゆる魔物を殺す事も可能になるだろうね」

「今は無理なのか? まァ魔力量的にデカすぎんのは無理ってわかるが」

「そういう意味ではないけれど、これ以上説明する気はないよ」

「そォかい」

 

 ま、全部聞いてちゃ学びは無ェか。ちったァ自分で考えねェとな。

 それに……なんだ。

 キラキラツインテが全てを知っている、というわけではないようにも思う。俺が知らない事で、俺が知りたい事で、キラキラツインテが知らないことで──誰にも知られていないこと。

 それがあるように、思う。それこそ、【即死】で湧きポが殺せるって誰も知らなかったように。前例を作らなければ、誰もできると思わない、みたいな常識の壁がある気がするんだ。

 

「ほら、言っている内に、【即死】が役に立つときが来たよ」

「ン?」

「梓さん! 色々言っておいてとても申し訳ないのですが──お願いしますの!」

「すまん、防御はする! 頼む、梓!」

 

 んん?

 なンだ、二人揃って。お前らに倒せねェ敵が俺に倒せるって。

 

 あァ。

 

「なるほど」

 

 そこにいたのは──半透明の青いヒトガタ。

 ポニテスリットの【波動】やお嬢の斬撃に雲散されて、けれど霧消せずにもとのカタチに戻る。

 

「精神体ね」

 

 そういや精神体を殺せる近接って、もしかして俺だけか?

 

えはか彼

 

 精神体を【即死】させた分の魔力を魔煙草で回復しつつ、それ以外なら問題ないとばかりにガンガン進む二人を追う迷宮散歩。……いやマジで散歩なんだよな。全然こっちに敵回してもらえないし。まァ回されたらされたで死にかねんので良いんだが……良いのか、俺、って。

 ポニテスリットに言われた引き際という言葉が反芻する。

 確かにそろそろ──敵の姿が見えなくなってきた。そンなちいせェ敵ってワケでもねェのに、姿が見えねェ。なんなら俺より図体のデカい化け物もいンのに、その姿を目で追えねェことがある。

 

「ほら、余所見しない」

「ッ! ……すまねェ、してたつもりはないんだが」

「じゃあ、完全についてこれていないね。もう無理なんじゃないかな、君では」

 

 気付いたら、目の前にトカゲみてェな化け物がいた。

 キラキラツインテがその突撃を受け止めてくれてなかったら、俺の頭はぶっ飛んでただろう。キラキラツインテはそのままトカゲの頭蓋に手を入れて──何かを潰す。

 ぐじゅっ、と。まァ、場所的に、脳を。

 

「……いやこえー魔法だなホント」

「でも、私ではAで限界だね」

「限界、か」

 

 限界。言っちゃなんだが、こういう敵の漏らしが出てきたってのも、二人に余裕がなくなってきた証拠だろう。俺を守ってちゃ、後ろを気にしてちゃ、本気で戦えない……か。

 けど、俺が引き下がって……帰ったとして。

 本気で戦っても、死ぬんだろう。

 

「そろそろ帰る?」

「いいや。二人に迷惑かけてでも、私ァ二人を死なせたくない」

「矛盾している自覚はあるんだね」

「ある。全体を見たら、あるいは魔法少女として考えたら、帰った方がいいってのはわかンだ。お飾りB級がいていい領域じゃねェってのはもう身に染みてわかってる。感情でどうにかなる場所じゃないってのもな」

「ふむ。その上で、譲れないものがあるんだね。……私達にとって、苦痛とは死を跨ぐための手段でしかないけれど、君にとっては違う。どうしてそう思うのかな。まだ、死んだことが無いから?」

「私にとって、死ぬことは喪失だから、だ」

「……どこで育てば、その価値観に行きつくんだろうね」

「別に、国の子供でもそォなるだろ」

「いいや。13歳でそうも死を忌避するのは、尋常ではないかな。思うに、そこまで死を嫌うのは──魔法少女ではない、誰かを、亡くした事があるのかな?」

 

 鋭いなァ。

 あァ、あるよ。何度も何度も。その度に泣いたし、永遠の別れに……途方もない喪失感を覚えて、それでも前に進んで。そういうモンだってのが、43年分染みついてる。死ってな、痛い程の傷を心につけるもんなんだよ。

 

 それに。

 

「じゃあよ、キラキラツインテ。お前は、いつ悲しいんだ?」

「……」

「私ァよ、あいつらが死んだら悲しいんだ。いてェって、苦しいって言うのが悲しいんだ。それが嫌でさ。まァ、蘇生したら、また会えるんだろう。また話せるんだろう。そっから楽しい思い出でも作れるんだろう。実際今までそうだったし、なんなら私が殺したこともあった。……でも嫌なんだよ。その度に私ァ苦しくてさ。痛くてさ。悲しくてさ。私ァ死が悲しいから、死を嫌う」

「悲しい、か」

「あァさ。悲しいのは嫌だろ。私ァ他は別にいいんだよ。苦痛と死以外なら受け入れる。何が起きたって何をされたって別に良い。ただ、その二つは悲しいから嫌だ」

 

 それは我儘とか大人になれてねェとかじゃない。おじさんになってもそうだった。身内が苦しんでンのは、死ぬのは、つらくて、苦しくて、痛くて、悲しいんだ。

 どォしたって割り切れない。どォしたって引けない。本人から懇願されたら──流石に折れる。それは。だってそれは、願いだから。だけど、俺から、ってのは無理だ。どォ頑張っても俺ァ、それを受け止め切れねェ。

 

 俺が俺である限り。

 

「最後に悲しかったのは、国が滅んだ時かな」

「……魔法少女になってからは?」

「無いよ。死が、終わりが。──とても、軽くなってしまったから」

 

 やっぱりそォいう事なのか。

 50年。50年も魔法少女やってたら。あるいはアイツラも、長年魔法少女をしていたら。

 死が、軽くなっちまうんだ。

 

 ……俺はまだ短いから、なんて。そんな怖い事は無い。

 俺はこの先、変わっちまうんだろうか。

 

「でも、わかった。私も……また、滅びを。このエデンが滅びたら、悲しいと思う。それが嫌だという気持ちはあるよ。君にとっては、それが死なんだね」

 

 そうか。

 魔法少女達は、国のため、EDENのため、エデンのために戦ってる。

 それは失いたくないからだ。俺にとっての終わりが死であるように、彼女らにとっての死はエデンの滅亡。あるいは国の滅亡。見てる距離が違うってだけだ。

 終わらせないために、滅ぼさせないために、死を手段として見ている。あるいは俺が、死を回避するために、効率を捨てた作戦を取るように──過程はまァ、逆だが。

 

「君の嫌が、ただの我儘ではないとわかった。だから、もう一つ助言をしてあげる」

「ありがてェ」

「身体強化という魔法は部分的にかけることができる。身体全体では魔力が厳しいのなら、頭部だけ、とかね」

「そいつァ、確かにそうだな。学園で習ったよ。足だけ強化して、とか、腕だけ強化して、とか」

「でも、使っていない。どうしてかな」

「目で見えても身体がついていかなかったら意味ねェんじゃねェかって」

「君の【即死】は、何か、動作が必要なのかな」

 

 ……あァ。

 っとにダメだな、俺ァ。近接っつーのは全身を強化してぶん殴りに行く、みてェな偏見があったんだ。周りがそういうのばっかだから。違うんだ。

 たとえ身体がついていかなくとも──俺ァ、いいんだ。

 

 ダメだ。魔法に関して勉強してきたつもりだったけど、全然だ。

 もっともっと知識を付けなきゃなんねェ。

 

 んで。

 

「ほら、いま()()()()()()

 

 世界が遅くなる。

 自分と、自分以外。いやさ、頭とそれ以外かもしれねェ。

 その世界で──死ぬほど重い身体と、その中でも俺が走るくらいの速度で向かってくる銀色のトカゲの化け物。

 その口先が、俺の顔を噛み千切らんと開く。

 触れる。身体は重い。避けられはしない。けれど、触れた。俺からじゃねェが、確実に触れた。

 

 だからソイツは──【即死】した。

 

 口を閉じる力が無くなったのを感じる。それを察知して、世界を段々速くする。

 頭とそれ以外の境を曖昧にして──そんで。

 

 ぐわん、と。俺ァ大きく仰け反った。

 

「ッ……勢いはやっぱ殺せねェか」

「でも、死んでない」

「あァ」

 

 元の重さに戻った体で、顔に張り付いたトカゲを取る。

 ……ちょいと遅かったか。側頭にピリっとした痛みを感じる。噛まれたな。

 それに、集中が強化に行きすぎて、部分的に【即死】させるってのが出来なかった。いつも通り全体を浸して【即死】させちまった。

 もっと、もっと効率化出来る。

 

「……流石にこんなレベルのたけェとこで練習すんのはキツいが、適当な等級のトコでやれば……私ァ、もっと強くなれる」

「そう。でも、今はここを進むしかない。あの子達を救いたいのなら──ここで実戦を積むしかない。魔力はどうかな」

「結構減った。全体の【即死】を使っちまったせいだ。だが、これならフリューリ草食えば大丈夫だ」

「……フリューリ草を直で食べる子は、初めて見たかな。どうして持っているんだろうとは思っていたけれど」

「魔力増やす方法わかったらこんな不味い草食べねェよ」

「じゃあ、好きになるしかないね」

 

 目だけ強化しても意味はない。目と脳だな。だが俺ァそんな器用な事は出来ねェ、っつか、結構強化入れたつもりだったんだがそれでもあのトカゲは速かった。さっきはキラキラツインテが来るタイミング教えてくれたからいいものを、突然来た時に目と脳だけ、って判断は今ンとこ無理だ。

 常に頭部を強化しつつ、フリューリ草を食いつつで行くか。

 

 身体は超絶重い。ダメだ、常に強化だとダメだ。

 もっと上手くやらねェと動けねェ。これ修練塔で試す事であってこんな場所でやることじゃねェな。くそ、C級で構わねェとか言ってた過去の俺を殴りたい。なんだ監視塔の上でトロピカルジュースって。なめてんのか。

 あァ、C級は努力してねェって言われる理由がわかる。知識として知っちゃいたが、っとに何にもやってなかったんだな、俺ァ。

 

 ──強化して、【即死】させる。

 

「え?」

「ん?」

「……今の、どうしてわかったのかな」

「何がだ? あァ、後ろから来たのに、ってか? 音がしたからよ。……あァそうか、頭部強化は聴力の強化にもなるのか。なるほどね、そうやって気配っつーモンを探るのか」

 

 目と脳と耳だけを。

 ……いやいや、今すぐにってのは無理だ。もっと身体を慣らさねェときつい。

 でも、今のは上手くいったな。飛んできたのがトカゲだってのもわかったから、脳だけを【即死】させられた。跳躍の瞬間を聞き取れたから、身体を反らして直撃も避けられた。

 

 もしや、目より耳の方が大事か?

 いや、早計だ。何が大事なのかはもっと実戦積まなきゃわからねェ。脳はマストとして、他のどこにリソース割くかを考えねェと。魔力量は限られてる。回復できるからっつってバカスカ使えるモンじゃねェ。効率化だ。脳だって、脳全体である必要はあんのか? 反射神経……っつか、知覚神経とか反射そのものとか姿勢反射とか、そういうのを強化した方がいいんじゃねェか?

 ……仮にそうだとしても、今脳の中身を探るのはきちィな。どこになにがあんのか、とか感覚じゃわかんねェし。

 

 ──強化して、【即死】させる。

 

 後頭部に鈍痛。避け切れなくてその図体がぶつかったンだ。あァ、やっぱ聴覚刺激を鋭敏にすんのは大事だな。動作の始まりを聞き取るっつーのは全方位に及ぶ。目ってな前だけしか見れねェ。いやまァ耳も構造上前の音の方が聞き取りやすいんだが、後方を悟るのは耳に頼るしかねェ。

 

「……中々上手くいかねェもんだな」

「でも今等級試験を受けたら、君は実力だけでB級に至れるよ」

「お飾りじゃなく、か」

「そう」

 

 消費した魔力をフリューリ草で回復する。

 脳だけを【即死】させる場合、相手の脳がどこにあるかを知っておく必要がある。今でこそ俺の知ってる動物っぽい化け物ばかりだからいいものを、話に聞くアダマンタイタンみてェなのは脳も心臓も無ェだろう。ああいうのを相手取るなら、部分的に殺していくべきか。腕から、あるいは手から、とか。

 

 ……ン? じゃあよ。

 

 強化された聴力が音を捉える。正面からだ。視覚強化に切り替えて、暗がりから飛び出してくる──小せェヘビみたいな化け物を見る。

 鋭い牙だ。パカっと開いた口は俺の顔に噛みつき、食い破るつもりか。それとも毒でも流し込むつもりか。

 もう、触れる。

 触れた。【即死】。全体を浸してから殺す──ではなく。

 

 少しずつ、化け物の細胞一片一片を──全て死滅させていく。

 死んでいく。死んでいく。即座に死んでいく。

 

 そんで、潰れて行くんだ。

 ヘビが俺の顔にぶち当たるより、俺がヘビを殺す方が早い。なんたって【即死】だからな。死滅したヘビの頭部に後続がぶち当たって潰れる。それも殺して、その先が詰まる。脆い。いや、脆くなった、か。死んだから。もう生きてはいないから。筋肉も骨も何もかもが死んで、砕けて行く。

 遅くなった世界で込める。意思を込める。死ね。速く死ね。死ね、死ね。死滅しろ。【即死】しろと。ヘビを──その身を構成する全てを。

 

「──できたな」

「消費魔力は?」

「全体を浸してた頃と変わらねェ。いや、強化の分こっちの方が多い。だが」

 

 だが、だ。

 だが──俺の身体は、仰け反ってもいないし、痛みを覚えてもいない。

 顔面にヘビの死骸がぶつかったっつー不快感はあれど、一応これで、完成だ。

 

「ノーダメージだ。【即死】による絶対防御……あァ、あとは効率化だ。強化の割り振り、切り替えのタイミング。そういうのをちゃんとやれば、私にァ何も効かなくなる」

「うん。いいね。私とおんなじ」

「あァそォか。つーことは、反魔鉱石投げられたらやべェな、私ァ」

「……折角助言してあげたのに」

「冗談だよ。つか自分で自虐してたクセに弄られんのは嫌なのかよ」

 

 オトシゴロか。

 ……いやまァ、無かったよ。俺のデリカシーも。調子に乗りすぎたな。

 

「さて、あいつら追いかけるか」

「それが良いと思うよ。結構離れてしまったから」

「んじゃ脚を強化して、とか調子に乗るとすぐ死にそうだからよ、そっちはまだ普通で行かせてもらうぜ」

「うん。走力を上げたとしても、君の耐久性が変わるわけではないからね。硬い魔物にぶつかったら君がさっきのスネイクみたいに潰れちゃうんじゃないかな」

「怖い事言うなァ」

 

 ……お嬢も、自分の【神速】に慣れるために、努力したんだろォな。

 だからこそのSS級だ。ポニテスリットだって、背中メッシュだって太腿忍者だって。

 みんな頑張っての、A級以上だ。

 

「いつか君が、戦場を歩くだけで、進む先にいる魔物の全てを死滅させる……そんな、SS級のような光景を見る日が来るかもね」

「それになるにァ、効率化しまくらねェとなァ」

「魔力量も」

「いやそれは増やせねェんじゃねェのかよ」

「私が知らないだけだよ。誰に聞いてもわからないだけ。増えたという話は聞かないし、減ったという話も聞かないだけ。それだけ」

 

 可能性はゼロじゃねェって?

 あァさ、まさに俺の考えてた事だ。俺の考え付くことくらい、キラキラツインテにも思いつくか。そォだよな、コイツだって努力でAに上り詰めた側の奴だ。

 

 ……よし。

 

「この迷宮無事に出たら、私ァA級目指すよ。そのために、こんな迷宮さっさと踏破して、外の空気でも吸いに行かねェと息が詰まる」

「この迷宮を踏破出来るのなら、S級に届くと思うけれどね」

「ちったァやる気の出る発言はできねェのかお前」

「現実を教えてあげているだけだよ」

 

 まァ、それはわかってるけどよ。

 

 ……いいか。今はとりあえず、あいつらに追いつこう。

 話はそっからだ。

 

 そっから、俺を新しく始めよう。

 死なせたくねェなら──見合う実力を付けた俺になるために。

 

えはか彼


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