遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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魔法少女育成学園エデン ~藍宇遠宙塔凝琉見媒毎寧矛年生編- 『甘酸っぱいとは違う』

「梓さん、梓さん」

「どォしたお嬢」

「デート──しませんこと?」

 

 それは、ダンジョン攻略翌日。

 今度ばっかりは俺1人でダンジョン攻略すべく、休日の学校に赴いた──ら。いた。

 まるで待ち構えていた、と言わんばかりに、金髪お嬢様がいた。

 

「……なンで?」

「何故、と問われましても……私がしたいから、ですわ」

「何が目的か、って聞いたンだけど」

「ですから、私がしたいから、ですわ」

 

 人のいない……ってことはない、けれど閑散とした学校。

 周囲に命の気配は無い。

 

 ふむ。

 

「ちなみに、どこに?」

「ダンジョンに、です」

「あァさそーいう事ね」

 

 なんだー、そっかー。

 あぶねェ、おじさん特有の早とちりをするところだったぜ。

 

「なんだよ、お嬢も金に困ってンのか?」

「いいえ? アールレイデ家が金銭に苦難することなどあってはならぬことですわ」

「じゃ、単純に俺と一緒にダンジョン行きてェだけか」

「はいですの」

 

 ふむ。

 俺としてはとっとと冥界に行っちまいたい──が、ここで断んのもな。

 何度も言うが俺ァ神さんを攻撃したお嬢を許せたワケではない。が──このお嬢が本物だったとしても、今は覚えてねェって可能性が高い。

 それに……あんまり怒りってな維持できねェんだよな、俺。

 

「いいぜ。行くか」

「はい! ちなみにミサキさんは家の用事、ユノンさんはご家族の方に会いに行かれるとかで、シェーリースさんはわかりませんけど気配はありませんわ」

「あァよ、どーしても2人で行きたい、ってな伝わったよ」

 

 んじゃ、行きますか。

 お嬢と俺だと──どこになンのかねェ。 

 

 

 

 

えはか彼

 

 

 

 

「……どこだ、ここ」

「綺麗な場所ですわね……」

 

 あの真っ暗な道を抜けて、光に踏み入れば──なんぞ、南国の島、みてェな場所に出た。島っつってもマッドチビ先生と流れ着いたよォな場所じゃなく、ぐるりと囲む海が見えるくらいの孤島。日差しは強いが特段熱くない。

 俺の記憶には無い場所だ。"前"も"今"も。

 

 ってこた──お嬢の記憶だと思うンだが。

 

「梓さん、見てくださいですの! この海……底の方まで透き通って見えますわ!」

「おー……マジに綺麗な海なんだろうな」

 

 当のお嬢も心当たりがないと来た。

 誰かがこっそりついてきているってこともない。

 

 ──"私の記録にもこの光景は保存されていません"

 

 あァお前がいたな。けど知らねェと。

 じゃなンだここ、ってなるワケだ。

 

「……あの、梓さん」

「ん? なんか思い出したか?」

「いえ……そうではなくて」

 

 何か、言い出しづらそうな雰囲気を感じる。

 珍しい。太腿忍者程ではないにせよ、基本ズバズバ言うお嬢が言い淀むなンて。アレか? もしかしてここ、お嬢にとってトラウマはトラウマでも恥ずかしい方のトラウマとか? こう、おねしょした的な。うわセクハラが過ぎませんことおじさん。考えるだけでセクハラですよ。

 

 話を聞こう。

 

「危険生物もいないようですし……少し、ゆっくりしませんか?」

「……というと?」

「え? ……いえ、ですから、これほど綺麗な海で、これほど平和な場所なのですから──その、少し遊びませんか、と」

「遊ぶ……?」

 

 周囲を見る。

 透明度の高い海。打ち寄せる波は低く、真白の砂浜に特有な波模様を作り上げる。中央に幾本か立ったヤシっぽい植物の下にはちょうど2人分が隠れるくらいの影ができていて、地面も特に汚いという印象を受けない。

 危険生物がいない、というお嬢の言葉通り、俺の探れる範囲内に命の気配がない。正直魔力察知はまだ苦手な部類だから少し離れたところに精神体とかがいるって可能性はあるけど、それにお嬢が気付かないとは思えない。

 

 まァ、ゆっくりする、っつー条件は整っている。

 

 でもダンジョンだぞ?

 魔物が襲ってこねェンだから、現実でやった方がよくね?

 

「その……学園指定のものですけれど、水着もありますの。予備の、一度も使っていないものもありますので……」

「ん~? 準備良いなァ」

「い、いえっ! これはホントに偶然ですのよ!? というか梓さんが持っていないことが驚きというか、つい先日プールの授業が中止になったばかりなのに、そもそも持ってくる気が無かったのではないかとか、ごにょごにょ」

「自分でごにょごにょ言ってちゃしょォがねェ。……けど、まァいいよ」

「ホントですの!?」

「お、おう。いいよ、俺ァここで眺めてるから、泳いできな。何かあったらすぐ飛行魔法で──」

「脱がしますのよ?」

「着ます」

 

 コレがな、お嬢は。

 俺の事純粋な奴だって思ってねェから、朴念仁のフリしても詰めてくるンだよな。

 

 ……いや……いや、どうなんだ。

 こういう悩みすげェ久しぶりだけど……未使用と本人談とはいえ、他人の水着を着る。しかも女生徒で……おじさんで考えれば1億万正那由多劾以%アウトなんだけど、一応今は女同士で……。

 えーと、まァ? 一応マッドチビ先生と肌を見せ合った仲というか。いや、でもあれは押しに負けただけというか。今も押しに負けてンだけど。圧し負けてンだけど。

 

 しかも……そのさ、あのさ。

 ん? そうだっけ? いやエデンってプールの授業とかないからわかんないんだけど、あれそうだっけ? 中学ン時の授業の水着……。

 前とおんなじ、スク水、だっけ? ん? デザインは多少違うけど、もう少し布面積多くなかったっけ?

 

 これ……着るのか? 43歳おじさんが?

 きっつ。きっつ~~。

 

「梓さん。脱がしますのよ」

「わーった、わーった着るから待ってろ!」

 

 とりあえずなンか嫌なのでシエナのサブメモリーを亜空間ポケットにしまう。亜空間が閉じるギリッギリまでシエナの"──えぇぇえええ~~~!?"とかいうアイツ人間なンじゃねェかって声が聞こえてたけど気にしない。つか見たかったのかよ変態かよ。

 

 ……着替えるか。

 

「ヘンだなァ。お嬢の身長は俺より遥かに高いはずなのに、ぴったりだァ」

「こ、子供の頃の予備ですから!」

「子供の頃の予備持ってきて何に使うつもりだったンだよ」

「突然身体が縮む可能性もありますし……」

「ねーよ。あー……あー? うわ、んー? ダルいな。なんだこれ、ここどうなって……」

「捻じれているだけですわ。直してさしあげますの!」

「あァさ頼まァ」

 

 肩の辺り、腿の辺りのねじれを直してもらう。

 羞恥心はあるが、だからつって直せるかっつったらンなことはない。一生違和感抱えて泳ぐより今直してもらった方がまァいいだろう。聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥っつってな。この状況が恥だっつったら元も子もねェんだが。

 

「はい、終わりましたの」

「ん」

 

 振り返る。向き合う。

 ……だろうなァ、という光景。

 

 そもそもエデン生は発育の良い子が多いンだ。そこにスク水とか、()()なる未来しか見えん。()()なったかはご想像にお任せするが、設計者にはドロップキックをかましたい所存である。

 

「では──」

「ンな畏まった挨拶いらねェって。遊びてェんならもっと素直に誘いな」

「きゃ!?」

 

 海に向かって息を吸い込んだお嬢の膝をカックンする。

 そのまま彼女の体を持ち上げて。

 

「ちょちょちょ、ちょっと!? 梓さん!?」

「どうせこのダンジョンもどーにかして細工して連れてきたンだろ! だったら──」

「きゃあ!?」

 

 海へばしゃばしゃと入って行って、ぽーんとお嬢を投げる。普通の人間なら水面にぶち当たって痛いレベルの高さでも、魔法少女の肉体強度ならそこまでじゃない。

 

 へん、準備が良すぎるってンだ。

 どうせダンジョンの内部をある程度操作するアイテムとかがあるンだろ。それで偶然装って連れてきてのデートとか、狡すぎる。【神光】の名が泣くってなァ!

 

「あ……ん?」

「──1本釣りですの!」

 

 投げられたお嬢の方にぐんと引っ張られる。足は浮き、弓なりに──。

 この感覚は、委員長の【引力】? 

 

「バインドスナップ──ふふん、私を出し抜きたいのでしたら、もっと策を」

「【引力】」

「へ?」

 

 ソレは俺が裁定したンだ。

 だから当然俺も使える。空中で引っ張られた奴が引っ張ってきた奴を引っ張り返したらどォなるか。

 そりゃ当然、空中のが抵抗すくねェんだから加速して──。

 

「回避! ですの!!」

「っぷはっ、受け止めてくれねェのかよ!」

「あ、当たり前ですわ! 今の突進は普通に危ない速度でしたのよ!?」

「ンなこたねェだろ。アレで危なかったら今まで何度死んで来たことか」

「だから危なかったって言ってるんですの! ダンジョン内部では1回でも死んだら外に排出されてしまうんですのよ!?」

 

 ん?

 なんか話噛み合わねェな。

 

 ……あァ、そうか。こっちのお嬢は……今まで何度も死んでンのか。

 あの程度の攻撃で。

 

「何かいきなり妙な落ち込みを見せたところ申し訳ありませんが──やられたらやり返すのがアールレイデですの!」

「どわっ!?」

 

 身体が持ち上げられ──逆さにされる。

 そのままジャンプして、落下。まさかこれは、ブレーンバスター!?

 

「その方が危ねェだろ!」

「下は水ですから大丈夫ですの!」

「く──このっ!」

 

 危険行為にァセクハラ上等だ。お嬢の腹や脇を触り、くすぐる。痛みに鈍感な魔法少女といえど、ここは弱い。俺ァ知ってンだ。やられたからな! 虹色ロングに!

 

「こ、この姿勢でそれは余計に危なっ、ひゃうっ!?」

 

 体勢が崩れた。よし、このまま!

 

「ちょっと──キレましたの。そこまでやるなら仕方ありません! 梓さんが使えない魔法まで使ってやりますわ!」

「あァさだったらこっちも!」

 

 お嬢の掌に水が集中していく。菫が見せたウォーターボールとやら──の、比じゃねェなァ。

 しゃーないンで一旦お嬢の体から離れる。自分から片手外してくれたからな。抜けるのァ簡単だった。そのまま【引力】で海底の石を掴み、【槍玄】で加速。海ン中に身を沈め──また【引力】で、今度は水を掴む。

 水を掴む、なンてなは初めてやったが、ハハ、できるもんだ!

 掴んだ水を集めていく。【引力】で出せる腕には限りがあったはずだが、【裁断】した後と前とじゃ色々変わるってな【青陽】で検証済みだ。水を固めておく【引力】と水を集める【引力】を同時に操作しながら、お嬢のソレに巻き取られていく足場に【槍玄】でしっかりと立つ。

 

「ッ、これは卒業してから習う魔法ですのよ!? 梓さん、貴女そんなに勉強熱心でしたか!?」

「ハハ、なァに言ってンだお嬢。俺がそんな勉強熱心な奴に見えるかよ!」

「見えないから問うているんですの!」

「見た通りだ、よ!」

 

 集め固めた水を持ち上げ、ぶん投げる。別になンかコアがあるわけじゃねェからな。圧力自体は低いだろうそれは──しかし、付与された【的中】によって全てがお嬢の方へ向かう。

 

「アクアスフィア!」

 

 完成した魔法は──正直、天と地ほどの差があった。何がって、大きさが。

 でけェのは勿論お嬢ので、小せェのは俺の。

 

 衝突したそれは、けれど簡単に飲み込まれる。

 

「新しい魔法を知っていても、練度が足りませんの! 球流に飲まれ、水を大量に飲み込み、私に人工呼吸されるといいですわ!!」

「ハ──練度は確かに無ェよ。俺のじゃねェからな。だが、こっちのが強度は高いぜェ……?」

 

 巨大な水の球体。

 そこから飛び出るは、小さな球体。金髪お嬢様に【的中】する、という概念の付与された水が巨大水球の中を通り抜けてお嬢に飛来する。

 んで俺は。

 

「【即死】」

 

 アクアスフィアなる魔法に掌を当てて、魔法発動。

 魔法としての在り方を失い死んだ水は当然元の形に戻り──。

 

「ちょ、なんですのこれ! 纏わりついて……」

「水集めすぎだろ──!?」

 

 それァもう、大きな波を生んだ。

 

 

 

えはか彼

 

 

 

 砂浜に2人、仰向けに寝転がる。

 何やってンだって話である。ダンジョン内だぞ。疲れたわ無駄に。

 

「……満足したか、あンなんで」

「……ええ。楽しかったですわ。あんなので」

「一応言っておくけど、先にやり出したのお嬢だからな」

「ふふ、わかっていますの。……面白い話ですわね。いつもは……先を行くのは、梓さんなのに」

 

 どっちが先にやったかを言い出すのは大人げなさすぎたな、と反省している矢先、何やらお嬢から……寂し気な雰囲気を感じる。

 これは……こっちの俺の話、か?

 

「どこへ行くにも、何をするにも、貴女が先を行って、私達は貴女の後ろを彩るだけ。決して振り向いてはくれない貴女に、目的地がどこなのかもわからない貴女に、必死でついていくだけ。」

「……悪いとは、言わねェぞ」

「ええ、それが梓さんです。……ねぇ、知っていますの? ミサキさん、梓さんが好きみたいですのよ」

「感じ取っちゃいたがよ、それ、お嬢が言っていいのか。アイツが自分の口から言うべきだろ」

「どうせミサキさんは言えませんし、梓さんは聞き入れませんもの。私の時と同じように、真向から振る未来が見えますわ」

 

 そこまで同じ、なのか。

 あんな危機的状況で告白してきたお嬢に対し、ソレをフる。そんなとこまで同じなのか。

 

「……私、ある予感がありますの」

「予感?」

「ええ。……もうすぐ、貴女はいなくなってしまうんだろう、って」

「そりゃ……物騒な予感だな」

「死ぬ、という意味ではありませんわ。……貴女は、この世界を見て回るために。どこかへ行ってしまう。()()、私達の前からいなくなってしまう」

「──!」

 

 思考の中ですら言葉にしていなかった予定を言い当てられて、ビクっとする。

 ……そうだ。俺は、エデンを出ていくつもりだった。

 国を出ていくつもりだった。平和になったンだ。他にも国があるンだ。滅びてない。なら──見に行って、調べなきゃいけねェこと全部調べて──俺の予想通りにソレがあるのなら、そこからこの世界をぶっ壊す。そのつもりだった。

 冥界に繋がるかもしれねェ、って方が希望的観測だ。だってそうだろう。あの小物染みた意地の悪い神が、ンな逃げ道用意しておくはずがねェ。どうせ行けたとしても記憶の中の冥界で、本物の冥界じゃねェ。

 

 カシヨの村に似た場所だってンなら、多分そうだって踏んでる。

 

「嫌、ですの」

「……そォかい」

「ねぇ、梓さん。何度も言っていますけれど──私は、貴女が好きなのです。貴女が──なんらかの理由で私を嫌っても。貴女にとって、もっとも触れてはならない部分に私が触れてしまったのだとしても。それで貴女が私を許せずにいるのだとしても」

「……」

「何度でもいいますわ。私、貴女が好きです」

 

 何か、お嬢なりに察してンだろうな。

 俺からの……この怒りを。

 

「梓さん。私がなんで貴女を好きになったか、知っていますの?」

「……いや、知らねェ。EDENの森での出来事がきっかけじゃねェンなら、他はわからねェ。正直なんでお嬢みてェなすげー奴が俺を好いてンのか、一切理解できてねェ」

()()()使()()()()()()()()()()()()()()の事ですの? ふふ、あんなのは貴女に興味を持つきっかけであって、好きになる理由ではありませんのよ。まぁ、気になり始めたのがそこであることは認めますけれど」

 

 ……それも、こっちであったのか?

 いや……太陽の使徒、なンて言葉までも、こっちにあるとは思えねェが。

 

「相変わらず自分の思い込んだ事からは中々抜け出せないんですのね」

「まさか」

「ええ──私は、覚えていますのよ。私達の世界がどうなったのか。あの世界において、私達が何を成し、何を失い──そして冥界にて、私が何をしたのか」

 

 それは。

 じゃあ。

 

「……知らねェフリをしてたのか」

「いいえ。思い出したのは最近ですの。つい最近……貴女が教室で、クリス、と言いましたか? あの恐ろしい剣を出した時に、全てが巡り戻りましたの」

「クリス。恐ろしいってよ」

 

 手元の空間から引き抜いて声をかければ、一瞬そっぽ向いたよォな……気がしなくもなくも。

 

「思い出してンならあの程度の突進受け止めろよな」

「あの時受け止めていたら、貴女の首が負けていた可能性がありますの。……私の中の梓さんは、たとえ新生したとしても魔力量もそこまでではなく、戦闘経験も私達には及ばない……そんな方ですのよ」

「あァそりゃァ怖いな。受け止めなくて正解だ」

 

 右腕失って、左半身に火傷負って、右目失って、両足失って。

 それでも頑なに戦場に出てきて、弱っちィくせに前線張って危なっかしくて攻撃避けもしなくなって。

 

 そんな奴が、突然"役割の統合"して新生して飛び起きて、自分たちを冥界に連れて行って──帰ってこなくなって。

 見つけたと思えば神になってて、クローンになってて、炭化してて。

 あァさ、そりゃァ人間の梓・ライラックは弱いまんまだ。壊してしまわないかと恐れる気持ちもわかる。

 

「にしちゃ、アクアスフィアだっけ? アレに手加減無かったように思うが」

「梓さんなら【即死】でなんとかできると思いましたので」

「信頼されてねェんだかされてンだか」

 

 ここはダンジョンだ。

 周りには誰もいない。シエナさえも見ていない。あの神が見ている可能性はゼロじゃないのがネックだが、夜の気配がしないので問題は無いだろう。

 

「お嬢。お嬢が俺を好きになった理由とやらを聞く前に、俺の話をさせてほしい」

「……はい。心して、聞きますわ」

 

 仰向けで、寝転がって。

 心しても何も、たァ思うが──まァ正座されてもかなわねェしな。

 内心でクツクツ笑いながら。

 

「俺はさ、アンディスガルって言うんだ。夜の使徒……の中でも、一番上の存在。夜の神に付き従い、その意向をサポートする。んでもって──夜の神を尊敬し、崇拝し──愛している。そういう存在だ。あ、そういう存在として創られたとか、そういう存在に仕立て上げられた、とかじゃないぞ。それだけのことがあったからだ。俺は──お嬢、お前がめった刺しにした神さんを、愛してる」

「……はい」

「だから、俺は怒ってる。愛してんだ。俺は、神さんを。──ただこれは、恋愛感情かっつったら、まァ微妙でさ。どっちかっつーと親愛だ。家族愛かな。俺を拾ってくれて、俺の苦しかったことを聞いてくれて。俺は神さんの事を、家族だって思ってる。お嬢も、家族傷つけられたら怒るだろ? って、あァ、アールレイデは特殊なンだったか」

「そう、ですわね。アールレイデの誰かが傷ついても……私は何も思わないでしょう。けれど、家族が、あるいは友人が傷つけられて怒る、という感覚は理解できますの。初めてルルゥ・ガルと遭遇した時──私はそうであるがゆえに、ロクな情報も取ることなく彼女を八つ裂きにしたのですから」

「あァンなこともあったなァ」

 

 亜空間ポケットから魔煙草を1本取り出す。

 片手で良い感じに起動して、口元へ。

 

「要るか?」

「要ると思いますの?」

「あァ。好きな奴と同じモン使いてェだろ」

「そんな嗜好はありませんけれど。……いただきますわ」

 

 もう1本、起動したものを投げ渡す。

 仰向けだから、ちゃんと受け取ったのかは見てない。まァ大丈夫だろ。

 

「だから俺は怒ってる。何度も言うよ。お嬢が言う、俺がなんらかの理由で怒ってるってな、コレだ。たとえニヤニヤ丸眼鏡……ゲヘナの権能によるものだとしても、お嬢が神さんを傷つけたってことに俺は怒ってる」

「う、相変わらず不味い……」

「聞いてンのか?」

「聞いて、っぺっぺ、聞いてますわ。けほっ」

 

 はン、魔煙草の味にゃ慣れねェか。

 慣れてる方が正気じゃねェってな、マッドチビ先生やツイウ見てりゃわかることだが。

 

「……どうしたら、許してくれますの?」

「どうしたらいいんだろうな」

「ごめんなさいと、謝って済むことなら、貴女はそんなに怒っていない。私はそう考えます」

「あァ。許せねェ」

 

 自分でもな。

 わからない。どうすれば許せるのか。どォすれば……この怒りが収まるか。

 違うな。ちょいと時間が経ち過ぎた。怒りが小さくなって、燻って、消火できねェ状態のまま抱えてる……みてェな心境だ。そんなに怒ってねェ。神さん死んでなかったし。怒ってるって状態を維持できねェまま、怒ってる事実だけが残ってる。

 どうしたら許せるか。

 

「私が──夜の使徒にな、」

「馬鹿言うンじゃねェよ。それは死ぬってことだぞ」

「でも、梓さんは生きていますわ」

「……それ脳筋娘にも言われたけど、厳密には……違うンだよ。俺は生きてねェ。俺の身体……肉体である梓・ライラックは生きてるかもしれねェけど、俺は生きてねェんだ」

「……なら、どうしたらいいんですの? 私は許されたい。貴女が好きだから、貴女に怒りを向けられたくない。貴女に嫌われたくない。貴女に──また、背中を預けられたい。貴女を振り向かせたい」

 

 要求も欲求も多いなァ。注文が多いぜ。そのままひん剥かれちまうンじゃねェかってほどに。

 

「……俺の在り方は、知ってるだろ。俺が何を嫌ってて、何を好いているのか」

「いいえ。梓さんが何を嫌っているのかは知っていても、何を好いているのかは知りませんわ。甘いもの、とかですか?」

「いや甘いものは好きだけど。そォいう事じゃねェよ」

「わかっていますの。──貴女が嫌いなものは、死。理不尽な、あるいは無駄な、そして──悲しい死。自殺。自決。自死。幸せでない死の悉くが嫌い。……それは、知っています。けれど、たとえば平和が好き、というわけでもないでしょう。蘇生が好きと言うわけでもない。いいえ、生きているものが好き、というわけでもない」

「別に好悪が表裏にあるとは限らねェさ」

「本当は何も好きではなくて、嫌いなものがあるだけ、なのではないかとすら思えます」

「そこまで尖がってねェよ」

 

 つか、今答え言ったじゃねェか。

 

「お嬢が今言った通りだよ」

「……どれですの?」

「幸福な死。死の間際には幸せでいてくれ。笑顔でいてくれ。苦痛を負うな。悲痛に苛まれるな。最後の最期には──おやすみ、ってさ。そォ言えるような大往生。俺が好きなものはそれなンだよ」

 

 死が嫌いで、死が好き。

 夜の使徒らしい話だ。

 

「じゃあ、私が何故貴女を好きになったのか、を話しますの」

「ン? オイオイ、時間飛んだか? まだ俺の話の最中だろうが」

「え? だから、梓さんの好きなものは幸せな死で、嫌いなものは幸せでない死で、私に対しては怒っていて、どうやったら許せるかは梓さんご自身ですらわからない──で、終わりじゃありませんの? それ以上に何か出てきますの?」

 

 ……。

 ……。

 

「……いや、出てこねェけどよ」

「はい。では、私の話です」

 

 癪だから、口元から離されてる魔煙草を奪い取ってその口に押し付ける。あ、俺のじゃないぞ。お嬢が俺の方の手に魔煙草持ってたからこれ幸いにっつー話だ。

 

「~~~! っぺ、っぺ! もう、貴女は、悪戯しかできませんの!? 今真面目な話をしているんですの!」

「はン、お嬢の今からする話なンて、どうせ"実は好きになった明確な理由はありませんの"で終わりだろ」

「……な、なんでそういうトコだけ察しが良いんですの……?」

 

 当たったわ。

 ふーちゃんの二代目継ごうかな。

 

「どうせそんなこったろうと思ったよ。だってあの事件の後、そこまで大した出来事なかったしな。俺がアールレイデ隊に編入されて、仲良し4人組の中に入るからってギクシャクすンじゃねェかと思ったらみんな優しくて、まァ太腿忍者はちょいとバリバリの文句言ってきてたけど、そっから特に何もなかったし」

「最初は、興味の欠片、程度でした。太陽の気配を殺し尽くした魔法少女。その魔法を【即死】。【神速】よりも強そうだと感じたのに、蓋を開けてみればC級もいいところ。魔力量も無く、他人に運ばれなければお荷物でしかない。ならば知識で行くのかと思えば授業に出る気がなく、何より──死んでほしくない、なんて意味の分からない言葉を紡ぐ、意味の分からない子」

「ちなみに俺からのお嬢の第一印象は"金髪お嬢様"だ」

「知ってますわ」

 

 だから「オーッホッホッホ」とか言うンじゃねェかってちょっと思ってた。

 

「そこから様々な演習や授業を共にして、貴女にあって私に無いものが浮き彫りになりましたの」

「へェ? なンだ、粗暴さか?」

「導く才、ですわ。……私は、アールレイデとして魔法少女を導く存在になる、と。しかも──初めからSS級で、期待されているのだから。アールレイデ隊などというものを与えられ、SS級として駆り出されることも多いのだから、と。実際、梓さんが来る前のアールレイデ隊は私が隊長で、私が指示を出してましたのよ」

「へェ。お嬢が? 突っ込んでって声聞こえないから指示届かないって未来しか見えねェけど」

「実際そういうミスは何度かありましたわね」

 

 あったンだろうなァ。

 

「でも、貴女が来て、貴女は火力を担当できない代わりに指示役となって──皆の動きがよくなって。それで、あーあ、と。私にはそういう才能、無かったんですのねー、と。不貞腐れましたの」

「まァ【神速】だからな。どう考えても一番に突っ込んでいく役目だろうさ」

「そう。だから、そういう事は出来なくても──真っ先に突っ込んでいけば、皆がついてくる。そう思いましたの。そうしたら、どうですの。あのアビスワームの演習事件。予定外の精神体がいて、私は簡単に負けて」

「そりゃまァ、誰だって予定外予想外の奴がいたらミスるさ」

「結局あの時も、導きを示したのは梓さんでした。そして、何より──私はあの時、足を引っ張りましたの」

「精神体に負けた事か?」

「いいえ。──貴女の【即死】を拒否したこと、ですわ。いえ、そんな顔をしないでください。言葉を間違えました。…………もっと前。私はできたはずですの。岩を避けて敵の後ろに回り込む、というくらい。【神速】なら、できて当然だった。けれど、私は妥協して。その結果梓さんに余計な負い目を作って」

 

 お嬢は──魔煙草を、自ら銜える。

 

「その時、気付きましたの。自身が全力ではなかったことに。全力を出すことを怖がっていたことに。だって、それが限界だったら、怖いから。……けど、貴女は常に全力でしたわね」

「まー、そォしなきゃ死ぬからな」

「死んでもいい。……結局のところ、それが……私の。いいえ、魔法少女全体から"全力"というものを奪い去った理念なのかもしれません。その実、太陽の使徒メイアートを迎え撃つ時は、皆全力であったと聞きます。魔法を奪われ、魔法少女でなくなれば、蘇生できなくなる。それを恐れての、全力」

 

 結局みんな、死は怖いンだ。

 蘇生できるから怖くないって思い込んでただけで。

 

「そろそろいーよ。振り返りは。なんでお嬢が俺を好きになったのか、ってな、明確な理由はないンだろ。それでも好きで居続けられる理由はなんだよ」

「……梓さんって、飽き性というか、我慢というものができませんわよね」

「知っての通りだが」

「それはそう、ですの。……この気になる、が。このおかしい、が。この気付きが、この──敗北感が。好き、へと変じたのは、紛れもない迷宮の中」

「そこまでは好きじゃなかったのか? あんな毎日毎日好き好き言ってたくせに」

「肌を重ね合わせたいほどではありませんでしたわ」

「急に生々しい表現すンなよ距離取りたくなったわ」

 

 実際に距離を取ろうとして、腕を掴まれる。ヒィ。

 

「格上も格上のアンヴァルに対し、自分が前に出る、と言った時。残りは任せる、と言われた時。私はこの人についていきたいと思いました」

「それは恋じゃねェんじゃねェかなァ」

「そしてアンゲルにボッコボコにされた時、私が守らなければ、と思いました」

「それも恋じゃねェなァ」

「──けれど、私でも、ミサキさんでも歯が立たなくて。そんなアンゲルを──完全に往なして殺し尽くした時、私は貴女を敵だと認識しました」

「あれ、あんときお嬢意識なかったンじゃないっけ? ──つか、え? 敵?」

「はい。……その後、何度も何度も頭の中で考えました。私が梓さんを殺す方法を。他の方であれば、殺し得ます。SS級、SSS級。その他誰であろうと殺し得ます。ですが──梓さんだけは殺せなかった。私の方が速い。私の方が強い。私の方が研鑽を積んでいて、私の方が勤勉で、私の方が、私の方が──と。その上で、どうやっても絶対に勝てないと思いましたの。──何故かわかりますか?」

 

 ふむ。

 まァ確かにお嬢には負ける気がしない。全部致死攻撃だから、多分避けられる。

 しっかし物騒なシミュレートしてンなァ。

 

「確かに何千回やっても俺が勝つよ。お嬢の攻撃おっそいし痛い痛い痛いっ!?」

「そういう話をしているのではありませんわ。抓りますのよ」

「進行形進行形!」

 

 腕の、肘の真横の、痴漢撃退とかに使う一番痛いトコ掴んできやがって。

 

「どうやっても、寸前で刃が止まりますの。貴女は死に至る攻撃を全て避ける。ならば死に至らない攻撃なら通るはず。だというのに、全てが寸前で止まります。刃でなくとも、拳でも、蹴りでも、頭突きでも──貴女に瑕1つ与えられない」

「怖い妄想してるし今まさに傷つけられて」

「なぜか、と。ずっと考えて、気付きましたの。わかりましたの」

 

 お嬢は──俺の腕を掴んでいるのをいいことに、ごろん、と。

 起き上がり、転がり、砂浜へと俺を抑えつける形になった。サラサラと砂が落ちる。魔煙草を銜えているのに──ニヤリと上がった口角が、怖い。普通に怖い。

 

「恋をしているから、ですわ。いつの間にか貴女に恋をしていたから、貴女に攻撃ができなかった。貴女を殺せなかった」

「で、でもLOGOSで俺が冥界に失踪した後殺そうとしてきたじゃ」

「例外を出さないでくださいまし。私、今テンションが上がっているので──何をするかわかりませんのよ?」

 

 両腕を抑えつけられる。身長差があるから、足を絡めたりはされないものの、いんやさ腰を脚で挟まれる。

 

「いつからかは知りませんけれど、私、貴女が好きですの。貴女に恋をしていますの。貴女と肌を重ね合わせたいと、そこまで想っていますの」

「えーと、俺はそもそも神さんを攻撃したお嬢に怒りを抱いていて」

「けれど、貴女は私を傷つけようとしませんの。殺さず傷つける方法を貴女は既に持っているはず。先のクリスという剣など、あれは殺さずに傷つけるためだけに生まれた剣でしょう? 傷口を縫合できないように波打つ刃になっている。他にも、貴女の今の魔力量であれば、部位だけの【即死】だって叶う。でもしませんの。私にはしませんの。貴女はそれをしませんの。何故ですの?」

「そりゃ、仲間にゃしねェよ。そんな危ねェこと」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 目を──見開く。

 何故。それを知っているのは。俺とメイアートを繋げられるのは──。

 

「仲間でしょう。彼女らも。たとえ致し方の無い状況になってしまったのだとしても、あるいは自ら殺されんとしたのだとしても──貴女は、相手が私であれば、手をかけない。演習の時とは違う。今の貴女は私には手をかけない。イドラさんであれば殺したでしょう。あれは私が殺したのですが、貴女がそういうのなら、自分がやったことにしたいのならば、そうしたのでしょう」

「……なんで」

「貴女は、私を殺しません。私を傷つけません。そのような状況になれば──貴女は逃走を選ぶ。私を傷つけたくないし、殺したくないから。知っていますのよ。ユノンさんとも対決したことを。まぁ彼女は相変わらずの様子で貴女を蹴落としたと言っていましたけれど、ユノンさんですら傷つけかけた。でも貴女は私を殺しません。たとえ、あの時。ヴェネットさんと私の双方を裁定できたとしても、貴女は私に傷をつけなかったでしょう。私があの武器から脱しようと暴れようものなら、それで傷つこうものなら、すぐさまあの武器を外していたことでしょう」

 

 あの時。

 俺がメイアートだった時、お嬢たちは冥界にいたはずだ。

 そこで神殺しを──。

 

 あの時冥界にいたのは、神さんと、零だけ。ウィドアルはずっと始の点の下にいたから。だから。

 

 アイツか──。

 

「話を聞け」

「え」

 

 ダンッ、と。

 顔の横に、手が振り下ろされる。いつもの丁寧語は、お嬢様言葉はどこへ行ったのか。

 いっそのこと冷たい目で──俺を見下ろす1対の瞳。

 

「貴女は思考が死に囚われ過ぎている。だから、自分の気持ちに気付けない。貴女は何か遠い所から1歩引いて見ている。だから貴女は当事者になり切れない。貴女は何を言われても、別の事を考えることができる。だから──相手の気持ちを、本気で捉えることができない」

「……けどさ、お嬢」

「まず、名前を呼んでください。あだ名ではなく、家名ではなく、名前を」

「無理だ」

「……何故」

 

 振り向かせる、どころか。

 顔を動かすこともままならない状態にされて──けれど拒絶する。

 完全に暴走している。このままでは何をされるかわからない。

 

 それでも、ソレは拒絶する。

 

「何故かと聞いているんですの!!」

 

 怒鳴られる。

 黙っていたからだ。

 

「──だって、死ぬだろ、アンタ」

 

 夜の使徒には、死の気配がわかる。【即死】を持っているからじゃないと気付いたのはクロムクラハだった時。あの時は【即死】も【死漸】もなかったのに、死の気配がわかった。ジャカンと戦った時とか顕著だった。

 わかるんだ。

 死の気配が。自分が死ぬかどうか、だけじゃない。

 

 ──相手が死ぬかどうか、わかるんだ。

 

 だから、なのだろう。

 アオンにあだ名をつけなかったのは。レーテーにあだ名をつけないのは。

 あるいは──既に殺してしまったエルバハ・イドラに、あだ名をつけないのは。

 

 死なない。違う。不幸に死なない。満足して死ぬ。

 それがわかる。あの時、本人の言う通り、エルバハ・イドラは満足して死んだ。だから。恐らく、アオンも、レーテーも。他の――魔物たちも。

 幸せな死を遂げるものを、俺は悲しいとは思わない。あだ名をつける必要がない。

 

 でも、でも。

 

「でも、違うだろ。お前は……何回死ぬ気だ。何回非業の死を遂げる。何度犠牲となる何度意味の無い死を繰り返す。その先に待っているものが幸せな死であるはずがない。わかるんだ。お前が──今のお前は、苦しみの果てに死ぬのだと。悲痛の果てに、泣いて、苦しんで、何故あの時ああしなかったと後悔して死ぬのだと。俺にはわかる。だから、名前で呼べない。怖いんだ。そんな奴と仲良くなるのが。そんな奴を好いてしまうのが。俺の心は弱いから、耐えられない」

「……」

「悪いとは思う。情けないとは思う。悔しい。苦しい。あだ名で呼ぶってことは、守れないとわかっているということだ。俺は……アンタを守れない。救えない」

「知っていますのよ?」

 

 けろっと。

 少女は、何を今更、という風に。

 

「梓さん程度に守られる私ではありませんし、梓さん程度に救われる私でもありません。貴女、自分で言ってるじゃないですか。弱いって。そうですの。貴女は雑魚ですの。全っ然強くありませんの。弱い弱い。とーっても弱いんですの。エデンの……いえ、EDENの誰もが知っていますのよ。で、それがなんですの?」

「……怖い」

 

 何言ってンだか。

 俺は、こんな少女にさ。何弱音吐いてンだか。

 

 もういいだろ。変なこだわり捨てちまえよ。そうすりゃこの場は切り抜けられるだろ。

 

 

「じゃあ、もう死にませんの」

 

 

 軽い言葉で。

 言って。紡いで。

 

 少女は俺に──キスを落とす。

 貪るよォなキスだ。ディープなソレだ。どこで覚えたのか──っつか、肌を重ね合わせたいとか言ってたっけ。おいおい、水着だから余計色々と、あ、いや、その。

 

「考え事をしないでくださいまし。私だけを見て。私の眼だけを見て。私の事だけを考えて」

 

 ……大人な台詞だなァ。

 つか魔煙草がさ、いや、あの、邪魔なンだよね。せめて吐き出してからにしない?

 

「邪魔なら飲み込んでください。いつもやってるでしょう」

「い、いやフリューリ草食うことはあっても魔煙草食べる事はぐむっ」

 

 魔煙草は主要原料がフリューリ草ってだけで、包み紙とか色々あったりしなかったりするんだぞ。

 それを食えって……。

 ……我慢するか。

 

「それはそれでつまらないですのね。取り除きますわ」

 

 ヒョイポイっと俺の口の中から捨てられる魔煙草。ああ勿体ない。

 

「もう一度言いますの。名前で呼んでください」

「……無理だ」

「どうして? もう死にませんの。決めましたから。もう死なない。この世界でも、現実でも。たとえ貴女のためであっても死なないと心に決めました」

「わかるんだ。アンタは死ぬ。わかるんだ。俺には」

 

 まだだ。

 そんな宣言をした所で、消えていない。死の気配は──まだ、纏わりついている。

 だから呼べない。

 

「お──ごっ!?」

「ふぅ、間一髪」

 

 お嬢、と呼ぼうとして、口に拳が突っ込まれた。

 

「あだ名も気に入っていましたけれど、もう嫌ですわ。名前で呼んでくれない限り、この拳は入れたままにしますの。ダンジョンから出た後も」

「……!」

「あら、そんな熱心に舐めて。私の手の味が好きですの?」

「! ──!」

「あらあら、涎が……拭いてあげますの。それとも舐めとって欲しいですか?」

 

 うわ、なンかスイッチ入ってる。

 これやべーよ。マジで呼ぶまで終わらない奴だよ。

 

 でも、死の気配が消えない。

 なんでこんなにはっきりとわかるンだ。

 こんなに、こんなに、くっきりと──。

 

 ──【光槍】! 杭柵!

 

「きゃ!?」

 

 砂浜から光の杭を出す。

 それは大きく伸びて──上空から降ってきたモノを一瞬食い止める。

 

 驚いたお嬢の手から脱出。砂が口に入るとか気にしてらんねェ。すぐさま次の【光槍】を作り出し、【的中】をかけて。

 

「無粋、ですの」

 

 ソレが──粉微塵になったことで、無意味を知る。

 

「はぁ。あと少しだったのに」

「う……ふゥ、何があと少しだ……」

「何ってあと少しで梓さんを落とせると思ったってことですわ」

「だから何があと少しだっつってンだよ。俺は一切折れる気なかったからな!」

「えー」

 

 スク水から──魔法少女の衣装に切り替わる。

 だって、まだだから。

 

 まだ終わっていない。

 

「このダンジョン、お嬢が用意したとかじゃねェのかよ」

「だから、本当に偶然ですわ。水着を持っていたことは、まぁ、いつか着せようとしていたことは認めますけれど。──たまにあるんですのよ。探索系のダンジョンがほとんどなのですけれど、こうやって平和を装って、対象が油断に油断を重ねた所で──誰もがどうしようもないと嘆くような魔物や障害を投下する。悪趣味なダンジョンが」

「ま、悪趣味は悪趣味だが……ちと芸が無ェな。俺にとってもお嬢にとっても、コイツは敵じゃねェだろ」

「またあだ名を……」

「呼ばせたかったらその死の気配全部振り解いてみな! どうせ見えねェし感じ取れねェだろうけど!」

 

 無意味は知ったが消しちゃいなかった【光槍】を投げる。技術もへったくれもねェそれは、【的中】によって確実に奴に突き刺さった。そのまま飛行魔法で頭蓋に──。

 

「──!!」

 

 気付いた時にはでけェ掌が横にあって。

 その次の瞬間には、遥か上空に抱えられていた。

 

「本当に、このザマでよく私を守るとか、救うとか言えますのね」

「お嬢、さっきから口調が悪すぎるって」

「うるせーですわ。貴女に許されるのに私に許されない理由がわかりませんの。だから」

 

 金髪お嬢様は──その背から、金色の光を放出する。

 この世界で発展している魔法ではない。光り輝くソレは。誰よりも、何よりも鮮烈なソレは。

 

「【神光】──久しぶりに使いますけれど、万全ですの。ああいえ、万全だぜ」

「無理矢理しなくていいから。……で、まァよ、アイツ殺すのは俺がやるから、無力化は任せるぜ、お嬢」

「ええ。存分に」

 

 ぽい、っと落とされる。

 もうちょっとやり方あるだろ。

 

「──なァ、ベルウェーク!」

 

 俺に向かう腕が、【神速】の剣によって切り落とされる。雷が、光条によって防がれる。足をドタバタさせようが、体を雑に振ろうが関係ない。

 その全てを無力化され──けれど再生せんとするベルウェークのど真ん中に、【光槍】をぶっ刺す。

 

「ハハハ──アインハージャが矛の成分入りだ、効くだろ!」

「笑ってないで、とっとと倒す!」

「へーい」

 

 所詮夢だ。本物の威圧感なんて出せやしねェし、本物も大して強くねェ。

 

 これを悪夢に選ぶってな、センスがないね。

 

「【光槍】、【槍玄】、【的中】、【引力】──」

 

 4つの魔法で、ヨーヨーみてェにベルウェークの頭をめった刺しにする。

 それによって露出するは懐かしき多胞体。魔法少女の核と同じ形をしたソレに、触れる。

 

「──怖さすら感じねェ再現映像が、生き物の邪魔してンじゃねェよ」

 

 発動する。

 それは全てを殺す魔法。

 名を──。

 

「【即死】」

 

 

 

えはか彼

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