そもそもの話。
どーしてこの世界は即時蘇生なンてものが可能なのか、を考えた。
あんまり注視したかなかったけど、世界全体で行われる即時蘇生は、ベルウェークが蘇生する姿によく似ている。
つまり、条件を満たさなければ殺し得ないオリジンと同じ法則。
即時蘇生をしているのではなく──死ねていない、というべきなのだと。
じゃァ、条件を成立させてるモンがどっかにあるンじゃねェかと思ったわけだ。
「待て……さっきから何を言っている? 前の世界? この世界?」
「本当に思い出せないんですの? 私達にはそれぞれ固有の魔法があって、EDENは空に浮いていて……」
「理解、不能」
「シェーリースの言う通りだ。そもそも、そんな簡単に魔法が使えるのならば、私達が紡ぎ、発展させてきた魔法学はどうなる。私達が今学んでいる魔法の歴史は──紛いものだとでも?」
「あァそー言ってる」
「……どうしてしまったんだ。2人とも、熱心さに差はあれど、あれほど魔法学に取り組んでいたというのに」
「ちなみに今俺なーんの魔法も使えねェぜ。知らねェから」
「……お前、あれほど時間を割いて教えてやったというのに……」
これも、何の条件があるのか。
恵理須……前の世界の事に関しては、どれほど説明しても、どれだけ単語を並べても思い出せねェみたいだった。クリスを見せてもダメ。ポニテスリットも背中メッシュも、むしろこっちを狂人じゃねェかと見ているよォな口ぶりで。
そーいやマッドチビ先生も思い出せなかったンだよな。
「ちなみにお嬢、今でも魔法って使えンのか? こっちの奴」
「ええ。特に問題なく」
「……そりゃ、単純にパワーアップだな。俺にも教えてくれよ」
「だから、少なくともB級と言えるくらいには教えただろう!」
「忘れちまったから教えてくれっつってンのさ」
魔法。
この世界で発展しているそれは、基本的にァ全部魔力らしい。どーいうことかっつーと、魔力がまずあって、それに使用者の嗜好やアイデアを詰め込んだモンに名前を付けただけ、らしく、炎だろうが水だろうが魔力であることに変わりはないンだとか。
ある意味で、全員が【魔法】を使っている……とも言えるのかもしれない。終ぞ俺の辿り着かなかった、究極なる魔法。
「けど、どォいうことだ? こっちってな魔物の脅威はそこまででもねェんだろ? なんだっけ、暴走の危険性とかを制御するためだけなら、強い魔法なンざ必要ねェだろ」
「危険だから必要としていた、のではなく、あったから高め合っている、のですわ」
「……成程、芸術かなんかに近いワケだ」
実用ではなく娯楽として。
日常なんだ。魔法が。絵を描くとか、音楽を奏でるくらいの。
「ちなみによ、お嬢。一番簡単な魔法ってなンだ」
「難しいですわね。梓さんが簡単だと思った魔法が一番簡単な魔法ですの」
えェ……じゃァ、即死……なんだろ、デス! とか?
いや別に即死を簡単と思ってるワケじゃねェな。一番難しいと思ってる。なんだろ、一番簡単な魔法。正直菫のウォーターボールもお嬢のアクアスフィアとやらも、俺にはできる気がしねェんだよな。魔法魔法しすぎててっつか……うーん。
えェと、43歳おじさん一般魔法知識で言うと、まァファイアボールとかになんのか?
……だとして、どうやる? まずどっから火を……そもそもアレって火種とかどーなってンだ? 種となるモン無しでいきなり中空に炎が集まって球状になってンだとしたら、何かがそれをそこにとどめてて……あァそれが魔力か。うーん、だとしてもだな。たとえば【青陽】なんかはありゃ青い小型太陽だ。実はすさまじい引力があれの中心にある。その範囲が限定されてるから周囲に影響齎ささんだけで、中心近くの構造は太陽に近い。あとはアレか。安藤さんの【業焔】。アレなんか魔法じゃねェらしいンだけど、あれはちゃんと立ち昇る炎なよな。【皇爛】とかもそうだ。えーとえーと、だから、魔法だっつってもあんまりにも逸脱している奴じゃねェんだわ。だわさ。いや【飲影】とか【侵食】が逸脱してンのは認めるけど、なんだっけ、マッドチビ先生の言ってた自然のうんたらが概念になった奴はそこまでじゃねェんで……。
だから、零の魔法に原理があったとは言わねェけど、この世界の魔法もしっかり仕組み理解できてねェと簡単とは思えない。そうこれが結論。
「ものすごく悩んでいたようですけれど、魔法は使えそうですか?」
「俺には無理だとわかった」
「お前な……」
そもそも魔法学とやらを知らないのが問題かもしれない。教科書くれ。締め切り明日までってンなら明日までに覚えてくるから。
まず魔力を感じ取るトコから? いや魔力はわかるンだよ。そもそも魔力を辿って今目的地に向かってンだし。ただ魔力を加工するってなが……うーん、身体強化、飛行魔法、亜空間ポケット……と、同じ感じ?
「丁度、いい」
「何がだよ」
「ダンジョン……管理されて、いない。やつ」
「ン?」
背中メッシュの指差す先。
そこに、でっけェ木があった。木っつか樹っつか。
で、その洞に……ぐるぐると渦巻く紫と黄色と水色の……よくわからん結界みてェなもの。【防膜】に似ているかもしれない。
「え、ダンジョンってそんな乱立してンの? EDENと輝きの園にしか無いんじゃ?」
「そんなことはありませんわ。魔力が集中した場所に何かがあれば、そこにダンジョンが形成される──というのがこの世界の常識ですの。だから国にもいくつかありますのよ。というか、そうでもなければ国家防衛機構でもない此度のEDENが1つしかないダンジョンを占領できるわけないですわ」
「確かに」
それは、確かに。
やべェもんな。芸術みてェに魔法を高め続ける世界で、その試し場……ヒトサマに迷惑かけねェ場を一学校が占領してる、ってな。おかしいか。
えーと、で?
「入るって?」
「魔法の、練習」
「ふむ。確かに丁度いいな」
「……お嬢。ここの中身もEDENのと同じ感じか?」
「いえ、EDENにあるものは最高難度の1つ。入る者によって中身が変わるダンジョンなど、早々あるものではありませんの」
あー。
だから、誰かと行くと死に繋がる世界に行く、ってなダンジョンが隔離塔のと輝きの園の奴だけ、ってだけで、死に繋がる世界に行かないフツーのダンジョンはいっぱいあンのか。
ふーん。
「危険性は?」
「無論ですの」
「だよなァ」
……無視で良いと思う。別に魔法の練習とか要らねェし。わざわざ危険冒してまで腕試しってな意味わからんし。得るもののない迷宮ってことだろ? いーだろ行かなくて。
「ちなみに私は賛成ですの。【波動】と【神鳴】を使い得ないお2人の実力を把握しておくべきですわ。貴女は指揮をする立場なのですから」
「……それは、確かに」
シェイブアサルトだっけ? と、ガンニアサンダーだっかしか見てねェんだよな。【波動】っぽいものと【神鳴】っぽいもの。ソレ以外にも選択肢があるってな、まァ助かる。別にそんな危険な旅路になるとは思えねェんだが、最終的にあの小物神と戦う可能性があるってンなら必要か。
必要か? 安全なトコで見せてもらえばよくね?
「行くぞ、梓」
「いや待て、必要性はそこまでじゃ、」
「あれだけの事を成しておきながら魔法の1つも使えなくなったお前の今の実力を確かめておきたい。私達にとっても今のお前は未知なんだ。理解しろ」
「フェリカが、また強くなっただけ、というのが、ずるい」
「ふふん、悔しかったらお2人も早く思い出してくださいまし。いつまでも妄言扱いされるのは面倒ですので」
そのまま、首根を掴まれて──自然湧きダンジョンとやらに放り込まれた。
……なんか強引になってねェか、ポニテスリット。
「アレ、さっきの森?」
「いえ、ちゃんとダンジョン内部ですわ。お気を付けを。前の世界の迷宮や形成地点のある地と同じくらいには敵が出てきますので」
「へェ、そりゃ」
「ガンニアサンダー」
会話の途中に、背中メッシュが雷を飛ばす。【神鳴】と同じく上空で帯電してから落ちるタイプのソレは、初手、森に火をつけた。
「何してンだお前」
「見晴らしが、悪い」
「シェーリースは炎系が苦手だからな。回りくどく思うだろうが……ではないのだったか、今のお前は」
森だ。
さっきまでいた、歩いていた森と何が違うのかわからん森。
雷が落ちたあたりからパチパチメラメラと炎が燃える音が響き始めてるが──そんだけだ。さっきと変わったところ。
……。
「あァさ、なるほどね」
命の気配はしない。ベルウェークの時も、病院の時もだけど、もしかしてダンジョン内部の生物からは命の気配しねェのかな。再現映像だから、みてェな。
けど、死の気配はする。誰かは知らねェが、狙ってやがんなァ。
クリスを引き抜く。
「先程の剣か……」
「梓が、剣で戦う。想像も、つかない」
「お嬢、去年の俺の武器って何だったンだ?」
「特に何か武器を持っていた、という印象はありませんのね。基本少ない魔法と魔力量、及び作戦で全てなんとかする……というのが英雄梓・ライラックですわ」
「マジか。頑張ってたなーそりゃ」
クリスが無い時代でさえ銃使ってたってのに。
まァ真っ当な……"前"の知識もない俺だってンなら理解もできる、か? 足りない戦力を補うのに銃を使う、剣を使うってな発想には至らねェよな、一般女子中学生は。
……いや43歳おじさんが絶対に思い至るとは言わねェけども。いやでもおっさんだったら銃に行くのはあるよな。スコープ覗いてタァン、ってな、相手が魔物……化け物だって認識してたンなら猶更に。
とかってなどーでもよくて。
「クリス、久しぶりに狙撃銃さ。こっちでも頼むぜ」
当然返事は無いが、ぐちゃりとその身を溶かし、銃の形を取るクリス。
「……なんだ、そのおぞましい武器は」
「気持ち、悪い」
「わかりますの。正直気味が悪いですの」
「うるせー俺にとってはコイツが相棒なンだよ。つかお嬢は見慣れてるだろ」
「見慣れているからといって気味の悪さは変わりませんのよ」
酷い言われ様だ。
大丈夫だぞクリス。俺はお前の事相棒だって思ってるから。
それに、武器ってな──見た目やら雰囲気じゃねェさ。
「──まず、お前だ。戦端開いてからこっそりってな魂胆だったンだろうが──そォは行かねェ、ってな」
死の気配は落雷の辺りからわらわらと群がってきている。
けれど、それより濃いものが後方の1つだけ。俺の頭ァぶち抜くようにあったソレを、撃ち抜く。
──知覚神経強化。前方に転がり込んで回避を選択。同時に声をかけろ。
「すまねェ仕留めきれなかった! 相手は弓と剣使うヒトガタだ! 弓使いは1人! 他は剣と、多分魔法!」
「エルフか。成程、それなりに面倒なダンジョンだな」
「トールスピアー」
背中メッシュが次の魔法を用意した辺りで、ソレがわーっと出てきた。
……人間に近い見た目。耳の長い……だが、命の気配のしないそいつら。
クリスを剣に再形成。飛んできた矢を切り落とす。
銃弾避けるレベルに動ける弓兵だ。詰めた方が良いだろう。
「そっちは任せて大丈夫か?」
「……実力を見る、という目的だったんだがな。良い。お前の好きにやれ、梓」
「気は配っておきますの。ご存分に」
「えい」
雷の槍が投げられる。ありゃニヤニヤ丸眼鏡の言ってたライトニングスピアってなとは違うのか。わかんねェな魔法。名前の法則とかあんのかな。
とまァ、いい。最近戦闘中に余計な事考えすぎだ。
「さァて」
なんぞ──思い出すな。
クロムクラハだった頃を。
森ン中を駆ける。死の気配を頼りに進むから、相手の位置がわかってるワケじゃない。ただ、時折見える。強化された視界が遠くの射手の姿を捉える。
対象は高速で森の中を移動中。ダンジョン内部の敵だってのに、逃げるンだ。そォいうのもいるのかー、ってな思いつつ、たまに放たれる偏差完璧な矢を切り払って進む。
自分が逃げたのを追ってくることを見越しての偏差撃ち。しかも弓でだ。どんな頭してやがる。演算能力高すぎるだろ。
「【光槍】」
左手に光の槍を出現させる。今の俺の速度は相当だ。一切減速せずに走ってるからな。
それの勢いを利用し、声には出さないが【的中】もかけて──ぶん投げる!
ちなみに【槍玄】は使ってない。アレ方向転換できないンだよね。それこそ【引力】に引っ張ってもらうとかしないと。
「ッ、ミストアロー!」
遠く、だが声の聞こえる範囲まで来た。
対象から放たれた矢が光の槍を捉える──が、無駄だ。【的中】は【的中】するから【的中】っていうんだ。殺傷能力も殲滅力も無い魔法ではあるが、正直これSS級でよかったんじゃないかと思ってるくらいには使い勝手がいい。
「エル・ヒ・ボム!」
光の槍が矢をものともせずに進むのを確認したか、今度は……爆弾? を投げてきた。
爆弾て。さっきポニテスリットがエルフつってたけど、爆弾とエルフ繋がんねェなオイ。
ま、それすらも意味はない。
止まらない光の槍。対処しながらの逃走だ。俺もそろそろ追いつく。
クリスはしまってない。まだ何があるかわかんねェからな。
──捉えた!
「ま」
「あン?」
声。こいつら喋るのか?
「──待って、助けて!」
「ッ!? ──クソッ!」
クリスを狙撃銃形態に変える。【引力】は、無理だ。届かない。
狙いはほとんど定めてねェが、あんだけ光ってりゃ十分だ。スコープ覗いたら目ェ焼けるんで覗かない。撃つ。込められたのァ勿論死の魔力。
流石に俺がぶん投げた速度より弾速の方が速いからな。それは【光槍】の最後尾を捉え──雲散霧消させる。
が、そんだけで終わらない。走る速度をそのままに詰め寄って、【引力】をソイツにつける。その上で──急ブレーキ!
「きゃっ!?」
へたり込んだソイツの真横を通り抜けて、かなり行ってからの停止。
……ふゥ。
「とりあえずその弓向けンのやめろ」
「……!」
「ア? おい、助けてっつったから助けたンだぞ。なんで敵意マシマシなんだよ」
「……この魔法は、何。バインドスナップ?」
「似たようなモンだ。ふゥ。つか、ホントに喋れるンだな。ダンジョンに住んでンのか?」
こっちに弓を向け、矢をつがえたままの姿勢のソイツ。
……見た目は、なんつーか、誰もが想像するよォなエルフ。の女。
「違う」
「そォかい。で、なんで助けを乞うた。死にたくなかったのか?」
「……違う」
違うのか。
……いや、やめてくれねェかな。病院の時もそーだったけど、喋らないでほしい。鈍るよ、ちったァさ。
命の気配がしないから、生き物じゃねェたァわかってても……鈍る。
「助けて、欲しい」
「さっき聞いたよそりゃ。なんだ、じゃあ。命じゃなけりゃ、何を助けてほしい」
「……」
遠くで雷がまた落ちる。
なんだあいつら、【神鳴】と【波動】以外を使う、つったってやってることほとんど同じじゃねェか。得意魔法苦手魔法がそのまんまなンじゃねェの?
「助けて、欲しい」
「だーから、何を、つってンだ。命以外に何を助ける。生き物じゃねェてめェは俺に何を求める」
「……」
「そこ言わねェのなんでだ」
そこわかんなきゃどォしようもねェだろうが。
……それともなんだ。
「言えねェのか?」
「ッ、気付いちゃダメ──」
──後方。雷が如き速さ。なんだコイツは。知覚強化。全力で強化しても追いきれない。クリスを振る。ダメだ。知覚側に回したモンを流しても追いつけない。狙いは? 軌道は俺、じゃない。コイツか。どっちもダンジョンの敵だ。それが何故同士討ちをする。それが何故、こんなにも怯え、こんなにも──。
「お嬢!」
「呼ぶのが遅い!」
おいいつもの丁寧言葉どこやった。
が、まァ助かった。
ハハ、俺の全力強化で追いきれない程度の速さなら、お嬢のが速い。虎の威を全力で借りさせてもらうがな、てめェの攻撃程度止められねェワケがないんだよ!
「──ッ!」
「嘘、止めた……?」
「お嬢、ソイツの相手頼むわ。ちょいと事情聴取中なンでな」
「相手、と言われましても。もう斬ってしまいましたわ」
止めた、に終わらなかった。
俺……じゃねェ、エルフの女を狙ってきた奴。小柄で、黒い外套を纏うソイツは、真っ二つに切り裂かれている。
はっや。
「んじゃ護衛頼む」
「ええ。あちらももうすぐ終わりますので、合流もできますわ」
「……頼もしい限りだな、オイ」
結局力の差みてェなのは変わってないなって。
やっぱ一番弱いの俺じゃねェか。別に強くなりたいたァ思ってねェけどさ。
「ってなワケだ。言ってもダメ、気付いてもダメ。何故なら殺されてしまうから──だろ? けど、大丈夫。守れるぜ。だから」
「……助けて、ほしい」
「あァ。だから、何を助けてほしいのか言えよ」
「……」
ん-?
お嬢ってな過剰戦力を見ても言えねェのは何だ? それ以上に怖いモンがあるのか?
「あの」
「ん、ちょっと待ってくれな、お嬢。何をダンジョンの奴らに話しかけてンだ、って思うだろうけど、俺にとっちゃ大切な事でよ」
「いえ、まさにその通りで……こういった自然形成のダンジョンというのは、誰が入っても内容が同じ……つまり、これも梓さん以外の者に追い詰められた場合、同じような対応をし、同じように……あるいはさっき私が殺した敵に殺されていたものかと」
「あァさわかってる。再現映像ってことだろ? でもそこ俺にはどーでもよくてよ」
たとえこれが、AI的なアレでも。
なんかな。
感じるんだ。命の気配のしないはずのこいつらに。
……この前のビーチで、確信を持った死の気配。
それがするンだよ。こいつから。
命を持たないはずなのに、死の気配がするんだ。
それは俺を殺すとかじゃなくて。
悲惨な死を遂げる──お嬢たちと似た気配。
「話してくれ。あるいは連れて行ってくれるだけでもいい。何を助けてほしい? 何がお前たちを苦しめる。──俺にできる事は、なんだ」
そんな。
まるで英雄のよォな──問いを。
「で、ダンジョンの敵についていくことになったと……」
「相変わらず、意味不明」
「ダンジョンの仕組みは何度も言っているのですが、聞かなくて……」
襲ってきたエルフたちを全滅させたというポニテスリット、背中メッシュも合流し、どこかへ連れていく気になってくれたらしいソイツの後を行く。
他のエルフが殺された、あるいはこの道中でも襲い掛かってきた奴らをお嬢たちが殺した──としても、何の動揺も示さない辺り、同族じゃねェンじゃねェか説も上がっている。俺ン中で。
「なァ、お前。名は?」
「……」
「よし、だんまり緑な」
「……?」
黙ってて、全身緑コーデだから。
まァ他のエルフもそうなんだけど。
「だんまり緑、どこ向かってンだこれ」
「……」
「そォかい」
「え、今何か伝わりましたの?」
「話す気が無い、ってな伝わっただろ」
「あぁ、そういう……」
ま、無口な奴たァそれなりに付き合いがある。
過激無口もだが、アオンも最初の頃は喋らなかったしな。背中メッシュだって……まァ無口っちゃ無口か? マイペースなだけで喋りはするから無口ってほどでもねェかもだが。
「……前方、何かありますのね。魔力塊……でしょうか」
「なにそれ」
「魔力が集中した際に出来上がる塊だ。一説によればダンジョンの卵、という話もあるな」
「ダンジョンの中にダンジョンがあンのか?」
「稀にある。深層ダンジョンというのだが、より強い敵、あるいは生き難い環境になるものが多い」
「へェ」
魔力感知……は、うーん。
あー。まァ、確かに、あるな。周囲4人の魔力がデカいからわかりづらいけど、なんかある。
いんやさ、やっぱお嬢はすげェな。気付くの早すぎだろ。
そのまま歩いて。
ソレに、辿り着いた。
「──【即死っ、っぶねェなオイ!」
殺す。
発動せんと、触ろうとして。
横合いから俺の手に触れてくるソレを見て、ギリッギリでキャンセル。
手で触れての【即死】は謂わば【即死】を手に纏っているよォな状態だ。触れられるのはまずい。触った後なら敵に浸透させてるから良いんだけど、発動前はダメだ。
「触っては、いけない」
「……そうなのか。じゃァ助かったよ。怒鳴ってすまねェな」
「……」
触れちゃダメだったか。
んじゃクリスをーっと。
「あの、梓さん? 何故いきなり【即死】を? コレが何か知っていますの?」
「ン? お嬢だって知ってるだろ。あんときいたんだし」
「……私には単なる魔力塊にしか見えないが」
「純度は、高い」
コレ。
それ。
それは──。
「この結晶は、どーみてもキスキルの結晶じゃねェか。何のつもりか、どォいう事か知らねェけど、殺すなり壊すなりしておかないとぜってーやべェことになる」
「なるほど。見慣れているがゆえに気づきませんでしたわ【神光】」
シームレスに全力の光条をぶつけるお嬢。
うん、普通の反応だよな。
「待て待て、私達にも説明をしろ。魔力塊に何故攻撃を、おいフェリカ!」
一切待たないお嬢。
俺も拳銃クリスでガンガン撃つ。……クソ、やっぱり【即死】は通らねェか。んじゃ【光槍】に【槍玄】かけて……。
「この結晶は、俺達の前の世界をめちゃくちゃにした代物なのさ」
「めちゃくちゃにしたのはどちらかというとメイアートでは?」
「魔法少女が抵抗しなけりゃめちゃくちゃにはならなかっただろ」
「抵抗するでしょう普通。しかし、これ、どうしますの? 全然効きませんの」
「ちなみに滅ぼしたのァ俺だ。そこは譲らねェ」
「聞いてないですの。出力上げますけれど……罅一つ入らないとは、気に食いませんのね」
「お嬢様は気に食わねェとか言わねェだろ」
「うるせーですの」
マジで硬い。
お嬢の【神光】も【槍玄】かけた【光槍】も一切ダメージ入れられねェって、ほんとなんなんだ。
いや。
そういえば、キスキルが本気を出す、って言ってた時に聞いた気がする。
俺やクロムクラハが使う褪戦死遠に似た、世界言語による魔法の使用。あるいは権能か?
ふむ、権能であるとしたら、魔法は通らねェな。
「こっちの世界の魔法なら通るかもしれねェ。ポニテスリット、背中メッシュ。良い感じに頼む。触らない魔法で、なんとかしてくれ」
「雑な……というか、本当に壊していいものなのか? ダンジョン内部の、」
「ガンニアサンダー」
落雷。
話が早くて助かる。
……が、ノーダメージ。
「傷ついた」
「いや傷ついてねェよ」
「私が、傷ついた。結構強い、自信があった」
「そりゃ大丈夫だ。お嬢の【神光】でも無傷なモン相手だ、そこまで気にしなくていい」
「フェリカより、強くなりたい」
「100年早いですわ」
ここ、ちょっとしたライバル意識あるよな。
魔法名が似てるのもあるけど、最初のアールレイデ隊じゃSS級とS級だったわけだし。背中メッシュも昇級試験毎年頑張ってたみたいだし。
「……ふぅ。わかった。空気が読めていないのは私のようだ。──リングシェル!」
よーやく諦めたらしいポニテスリットが……なんだあれ。
こう、空間が歪んだ……【波動】のリングみてェなのが、キスキルの結晶に突っ込んで──弾ける。
つまりノーダメージ。
「ふむ。……たしかにへこむな」
「で、だんまり緑。これがお前をそォさせてる原因、でいいんだな?」
頷くだんまり緑。
喋れはしねェがジェスチャーはOKと。
「しっかし、どうすっかこれ。壊さず見捨てるって選択肢は無ェんだけど、触っちゃいけねェ攻撃効かねェってなると……」
「正直な話をすると、私もお手上げですの。こちらの魔法で【神光】に勝る威力のものはありませんし、普通に私もへこみ気味ですわ」
「……」
「シェーリース、そこまで落ち込むな。私も……今までの1年が無駄になった気分だ」
「お前も落ち込んでンじゃねェか」
ん-、クリスでぶっ叩く……として、クリスって侵蝕されンのかな。されたとしても消してもっかい出せばいい話な気も……。
ただ相手が権能ってなるとなー。
……よし。
どうせこの体は夢幻。本来は夜の使徒。炭化梓ちゃんが俺の元来なワケで。
「失うものなど無いから世界言語を使ってしまおう、などと考えていたりはしませんわよね」
「……ハハ。まさか。そんな無謀な奴に見えるか? ──
うるせー大正解だ。
「
権能には権能ぶつけンだよ! ってな。
……。
……え、嘘だろ。
「……嘘だろ」
「これに懲りましたら、次からは後先考えずにリスクを背負うことはしないように」
「いや、いや。これ最大限だって! 今の俺にできる最大限……精神に瑕負ってまでやる最大火力だぞ!?」
「今のは、なんだ」
「衝撃波……?」
クソ、本体のキスキルもいねェのに俺達の攻撃全部無効化だと。
なめやがって……! よォし異空間に飛ばすのもやっちまうかコラ!
「少しくらい止まることを覚えろと言っていますの」
「じゃーなンか案あるのかよ」
「……何か、条件があるとか」
条件。
……それは、アリだな。
即時蘇生も何か条件があって死ぬことができていないと考えた。で、このキスキルの結晶もそう……何か条件を満たさなければ攻撃が通らない、的な。
じゃァ条件って何っていう。
「ダンジョンってさ、なんかボスみてェなのを倒したら出られるんだよな」
「ええ、基本は」
「ここのは?」
「未だ見つけられていませんの。そちらの方かとも思いましたが、あるいは梓さんに一撃で倒されていた可能性がありますのでどうにも違うように思いますし」
「こういうフィールド系のダンジョンはそれが少し面倒なのだ。基本的にボスがいる場所はその場の要となる場所……EDENであれば学園長室、というような場所になる」
「だんまり緑、ここの森の要ってどこだよ。つかボスの位置どこだよ」
「……」
だんまり緑が指さすのは──キスキルの結晶。
ええー。
「コレがボスなのか?」
「違う」
「そこは喋れンのか。あー、じゃァコレにボスを潰されたとか?」
「違う」
「ふむ」
コレがボスではなく、コレにボスを潰されたワケではなく、けれどこれがボスの位置。
じゃ、下か上か。
「お嬢、上は頼んだ。俺ァ下掘ってみるわ」
「多分地下だった場合相応の入口があってそこから入るものと思いますが、いいでしょう。上空、何も無かったら手伝いに行きますので──【神光】」
光の翼を広げ、飛んでいくお嬢。
んじゃま。
「【光槍】。……何やってンだ。お前らも掘るんだよ」
「もう少し、説明というものをだな」
「ライトニングスピア……ライトニングスコップ」
「シェーリース、今考えついた魔法だろうそれは」
掘るぞー。
地面掘りくり返すのァな、得意なンだ。
少なくとも1年以上やったンでね。