133.魔法少女☆即死のあずさ ~全てを導いた英雄譚~ -二年生編- 『琿内』
「とりあえず地下にはないな!」
「ダンジョンというもの自体、広さそのものは無限に近いと言われている。それを当ても無く掘り続けるというのは……中々、精神的に参るものがあるな」
「威力の、高い魔法。使うと、埋まる」
そォなンだよな。
森っつったってこの辺は開けてて、だから木の根も少なくて。
貫通力ある魔法でドーンと掘ればいいじゃねェか、っつったらンなこたない。生き埋めが嫌ならせっせこせっせこ掘るしかない。
で、ざっと500mくらいは掘った。500mって相当なンだけど、そこはまァ魔法少女だから。高い威力じゃなければ魔法使えるし。
そこまで掘って──コレはないな、と。
「ってこた、上か」
「ああ。フェリカの救援に行こう」
「……」
「どした、背中メッシュ」
まだ下の方を見ている背中メッシュ。
まさか下の方になンかあるとか言わないよな。
「考え事、してた」
「あァさ。何を考えてたンだ」
「ダンジョンのボスには、必ず護衛がいる。仮にアレが、ボスだったとして。誰もいないのは、おかしい」
「ふむ。そォいうもんなのか、ポニテスリット」
「例外も多く存在するが、このような自然形成のダンジョンではそうだろうな。先ほど出ていた条件の話でもそうだが、まずその護衛を殺さなければボスには一切の傷を与えられない、というダンジョンも……」
「それだな」
「……そうだな」
「だから、おかしい。それを、考えていた」
だんまり緑が護衛、ってこたねェだろ。アイツがボスっぽくない理論と同じで、前に出てきてて、しかも弱かった。アレは戦士エルフと戦ってる間に後ろから撃ってきてぐあーってなるヤツだ。
……あるいは。
「何にせよ上行くぞ。ちょいと気になることがある」
「わかった。行くぞ、シェーリース」
「うん」
飛行魔法を使ってちょちょいと外に出れば──丁度、お嬢がエルフの群れを殲滅しているところだった。
「手伝いは?」
「無用ですの」
言葉と共に光条が増え、周囲にいたエルフの全てが息絶える。
だんまり緑は、無事だな。
「空も収穫無しか」
「ええ。周辺域を高速飛行してみましたが、何もなく。その様子ですと、地下もダメだったみたいですわね」
「まァな。だが、ちょいと思いついたことはある」
「何をお求めで?」
「俺を乗せて、木々にぶつかることなく森の中を駆け巡ることのできる速力」
「余裕ですの」
よっこいせ、とお嬢の背に乗る。
ジト目は──ポニテスリットの視線か。
「背中メッシュ。俺達今から森ン中駆け巡ってくるからさ、森の上空に光の槍が上がるの見えたら、そこに最大火力の雷撃落としてく。ポニテスリットは背中メッシュの護衛。いけるか?」
「うん、大丈夫」
「比重的には私の方が高いように思うのだが、まぁいいだろう。行ってこい」
ハイヨー。
んじゃ、出発お嬢号だ。
「行きますのよ」
「あァ」
次の瞬間には、体は森の中にあった。
「ちなみに俺の考えてる事わかってるか?」
「いいえ? 何か突拍子もないことなんだろうな、とは思っていますけれど」
「良い信頼だ。いいか、俺にァな、自分が死ぬかどうかの気配ってモンがわかる。自分だけじゃねェが、自分のが一番わかりやすい」
「ええ、聞きましたの」
「だから──たとえどれだけ仄かであっても、自分を殺す可能性のあるものには、気付く。めちゃくちゃ感覚研ぎ澄ませなきゃいけねェけどな。そォいう察知系あんま得意じゃないから」
「なるほど」
両手を地面に当てて、目を瞑って。
周囲で聞こえる剣戟の一切を無視して。
その刃が、その槌が、俺の身に届かないと知っているから──信頼して。
探る。
自分の髪がぶわりと広がるのを感じる──が、マッドになりかけチビ先生から貰った髪留めがそれを防いでくれる。早速役に立った。
感覚としては【排斥】に近いか? こう、自分の領域をゆっくり広げていって、範囲内に入った気配を色分けして……命の気配のない世界だから、それは除外できて、魔力の気配と死の気配の色分けだけでよくて。
いる、いる。
森の中にエルフがわらわらと。そしてそれは──形成されている。殺された直後に新たな……否、完全に同一の個体が形成され、同じ行動をし始め、その後でこちらの騒ぎに気が付いて駆け付けようとしている。
これは……なんだろう。
ある一点でこの空間の時間をセーブして、何かあったらロードしている、みたいな。だから数が減ることは無いし、学ぶことも無い。こいつらにとっては常に初見なんだ。となると、だんまり緑が殺さないでっつったのァ忘れちまいたくないからか。アイツは多分、長いこと忘れてねェんだ。自分たちがそォいう存在であること。あるいはそォいう存在になっちまっていること。
悪趣味だな。
なんつーか、まァ生き物じゃねェンで夜の使徒としては何とも思わねェが、おじさんの倫理感が言ってるよ。
こんなとこ壊しちまえ、ってさ。
「お嬢、南南西方向だ」
「今私達どっち向いてますの?」
「西北西」
「左後方45度ですか……。さっきこの辺りまで来た時に気付いていてくださいな」
「いーから連れてってくれ」
「直進ですの?」
「あァ、でけェ樹があるはずだ」
「ここですの?」
「ン? いや、だから……アレ」
「話している間に着きましたの。相変わらず遅いですわ、梓さん」
いや……お嬢ってそこまで速かったか?
今まで手加減してただけか? それとも成長してる?
……今はいいか。
「それで、これが?」
「あァ──この森の、本来の取り巻き。迷宮でいうアンゲルさ。【光槍】」
真上にぶん投げて、距離を取る。
数十秒後──瞼を突き刺して尚眼球を焼かんとするレベルの雷が落ちた。
一瞬にして炭化する樹木……は、周りの木々だけ。燃えたり、黒くなったり折れたり……ダメージ負うのは周囲の森だけだ。
こいつには何のダメージも入ってない。
「おい、起きろよ。お前、意識あンだろ」
「……何用か、小さき者」
対魔物はクロムクラハが一番なンだけどな。
今来てくれ、って呼ぶわけにもいかねェ。マッドになりかけチビ先生にボディ渡してからなーんでかシエナも黙ったまんまだし。
だから直接呼びかける。
返事はすぐに来て。
「俺はキスキルの結晶を壊したい。お前だろ、アレに結界かなンかかけてンの」
「……そうか。其方が"予言の子"か」
「ンー」
またそれかー。
ふーちゃんさァ。どんだけなの。というか何なの君。たった1000年しか生きてない魔法少女、じゃないの? どんだけ色んなトコに関わってンだよ。
「まァいいよ。そういうのは。お断りしてんのさ。……だから、とっとと解きな。アレ、アンタが止めてくれてるから周囲に侵蝕してねェとかそんなトコだろ? 俺達が壊してやるからよ、安心しな」
「……予言の子。我らにも責任がある。この時代を託され、"流れ"より切り離されたモノとして──今の予言の子にその実力があるかどうかを確かめねばならぬ」
「そーいう事情か。──2個聞きたい。あいや、3つ」
「……良い」
今にも臨戦態勢、って感じだったのを待ってくれる辺り、良い奴なんだろうなって。
でも。
「まず──この森に、元々アンタらは住んでたんだな。この森。ダンジョンとなっていない昔の昔の森に」
「……然り。この森は我らの住処であった」
「2つ目。アンタ、名は?」
「ジジフス」
「そうか」
ざわざわと根が蠢ているのを感じる。枝が急速に伸び、葉の1枚1枚がギラリと光る。
次で最後だ。それだけでいい。
「生きてェか、ジジフス。エルフの奴ら連れて、この森を今の"流れ"に戻し──また、陽の光を浴びたいか」
「……否。既に滅びているべきもの。既に終わったもの。生きたいと願う事はあってはならない。──我等ロートスの一族。聖なる言葉を予言の子に伝えよう」
隣でお嬢が剣を構える。
オイオイ、落ちてくる葉っぱ全部斬る気か? ンなことしたら余計危ねェよ。
たとえあれが全部刃だとしても。
「"行くは地獄。帰りも地獄。訪れぬ安寧を齎す者よ。まずは聖木に眠りを。世界を壊す1歩目は、美しき森の中で"──」
「【即死】」
その幹に触れて、発動する。
ホントは【死漸】のが役割的には合ってたンだろうが、持ち合わせが無くてね。悪いな。
俺の触れた個所。そこから、一瞬にして灰色が広がる。普通の木が死ぬのとは違う。【即死】──死んだ。今、殺した。眠れずに在ったソレを、忘れずに紡ぎ続けた言葉だけを吐き出させて。
幹が死ねば根も死ぬ。枝も、既に空中にあった葉さえも。
一瞬だ。瞬きをする間に死んだジジフスが、ぼろぼろと塵のよォに崩れ去っていく。
感傷。
「してたらてめェが来るよなァ、ハッハ!」
「ッ、流石に警戒してるかぁ」
話についていけていない、といった様子のお嬢を手で下がらせて、クリスをぶん回す。
此度は1人。持ってる武器は違うが──さてはて。
「よォ、リラ・キスキル。随分と弱くなってるよォで何よりだ。──本体は出てこれねェモンなァ?」
そこに、寸分違わぬ悪魔がいた。
今の俺でも頑張りゃなンとかなりそうなくらいの、大悪魔サンが。
「お嬢は2人の安否確認。確認出来たら最速で戻ってきて俺の援護。できるだろ、【神速】」
「今は【神光】ですの。──どうか、ご無事で」
あァさ、説明が欲しいって顔してたのに、頷いてくれる辺り最高だよ。
ありがたい限りさ。
「あれ、良かったの? あの子いないと一瞬で終わっちゃうけど?」
「一瞬で終わんなかったンだからお前今そこにいるンじゃねェか。そんだけ弱体化してたらメイアートじゃなくたってぶっ潰せらァな」
「弱体化じゃなくて、ただの分体なんだけど……その辺貴方に言ってもわからないかぁ」
「あァ、わかんねェな!」
踏み込み、クリスでの切り上げ。鼻先を掠める事すらなく避けられ、そのままハイキック。俺の手……クリスの持ち手に当たったソレは凄まじい痛みを生み、思わずクリスを離しちまう。
その隙を狙って突っ込んでくるキスキルに、何も持っていない左手を振るう。当然ンなモン気にしねェキスキルは俺の懐にまで潜り込み──直後、大きく屈んで刃を避けた。
ハハ、クリスは自在に出したり消したりできンだから、弾き飛ばしても意味ねェんだよ。
なーんて余裕ぶっこいてると足払いされ──そォになるンで、振りぬいて右方の地面にぶっ刺したクリスを基点に横回転。取った背後はたったの一瞬。その一瞬で、拳銃クリスを奴さんの後頭部へ向け、撃つ。
弾かれる弾丸。石頭も良い所だ。そのまま6発ズガンズガンズガン。全部が効かねェ。
地面から結晶が侵蝕してきてたンで、バックステップで下がる。
見れば奴さんの通った道筋や突っ立ってた場所は全部結晶化してる様子。ハハ、メイアートみてェなあの特別な身体でさえ侵蝕されたンだ。梓・ライラックが耐えられるワケがない。
「それがどォした、つってな!」
「踏んじゃダメってわかってて、突っ込んでくるんだ! 本当にお馬鹿さん──」
「足の1本でてめェ殺せりゃ儲けモンだろォよ!」
1歩目、2歩目で左足に結晶化が始まる。ツタでも伸びるかのよォに登ってくるソレは、芯にまで至っていることだろう。
それが何かと問うて、地面の結晶を蹴り砕いて加速。
「援護、待たなくていいの? そっちの方がそんな無茶しなくてよかったかもよ~?」
「馬鹿が、アイツら手籠めにしてェってな見え見えなンだよ。んで──じゃァな」
クリスを大きく振り上げ──上段から一気に切り裂く。
幻覚ではない。確実に斬った。
「【即死】」
その上で殺す。知っている。それが解放する方法だと。
今、身代わりにされた再現映像のエルフ。それを、他の者より一足早く解放する。
死を救済だと思いたくないと言った。救いを否定すると謳った。
だが、生を縛りつけられ、何度も死に続けるモノを、俺は。
「余所見厳禁~」
「余所見してたら手のひらから切っ先ァ出てねェと思うぜ」
「ッ──っとと、危ないなー。今の私は簡単に斬られちゃうんだから、少しくらい手加減してくれない?」
「馬鹿言え、やる気上がったわ」
「けど、いいの? さっき私の結晶に侵蝕された足。もう元に戻らないよ。ダンジョン出てもそのまんま」
「何が悪い。ちィっと割れやすいだけだろ。ハハ、そもそも俺ァ両足失ったことだってあンだ。これくらいどォってこたねェ」
今【鉱水】はない。
だから、割れたらおしまいだ。一旦国に帰って車椅子もう一個作ってもらうか、お嬢たちに運んでもらうか、どっちかだろう。
「生憎だがな、キスキル。俺ァこの世界壊しに動いてンだ。俺の身体がどーなろうと知ったこっちゃねェんだよ」
「えー、やめてよ。この世界壊されたら、私達の住処がなくなっちゃうじゃん」
「知らねェなァ! 文句なら俺をこの世界に呼び込んだ存彪位に良いな!」
声のする方へクリスを振る。もう一度。もう一度。
その間に足の侵蝕ァどんどん進んでってるが、何、痛みを感じない一発限りのハンマーが2つできたってことだ。重畳。
「──
「──きゃ!?」
自分の体から衝撃波を放つ。
それにより地面がめくれ上がり、同じくキスキルの結晶もぶっ飛ぶ。
ピシリ、と罅の入る音。
上昇する土煙が──ヒトガタを捉える。
「──死んどけ」
足が割れ砕ける事を認識しながらの跳躍。さらには【槍玄】と【的中】。
これによって加速した俺の身体は、確実に標的のヒトガタへと接近し──その剣をぶっ刺した。
覗くのは、金髪。
「【即死】」
「!? ちょ、ちょっとは動揺とか」
「お嬢は俺に刺される程遅くねェからな」
断末魔はそれだけだった。
はン、【即死】さ。何かを言い残す隙なンて与えねェ。
キスキルの体は驚愕の表情のまま動かなくなり──刺された胸の辺りから、結晶化していく。
慌ててクリスを引き抜けば、刀身の真ん中辺りが完全に結晶に侵されちまってた。
ので、一旦消して、もっかい出す。
おし直ったな。
「梓さん!」
「梓!」
おお、特急お嬢号が到着したらしい。背にポニテスリットと背中メッシュとだんまり緑を乗せて……光の噴射は使わずに、走ってきたみたいだ。
だからちょいと遅れたのかね。
さて、けれどまだ土の雨が降り注いでいる。コレを払ってからにしねェと。
「ダートスフィア!」
豪ッ、と。
ビーチダンジョンで見たソレのように、めくれ上がった土がお嬢の掌の上に集まっていく。
へェ。アレそういう使い方もあるのか。お掃除用ね。埃用のとか作ったら便利そう。
「足、ないよ」
「あァ。また失くした」
「……また?」
「なんだ、こっちじゃなくしてねェのか、俺」
足。両足が無い。さっき地面蹴って自分で割り砕いたからな。
結晶化するところは痛覚が無くなるせいか、前より痛くねェのが救いかね。
「……ご無事で、と。そう言ったはずですが」
「何言ってンだ。生きてるだろ」
「……いえ、そうですわね。それに、ダンジョンを出たら直っている、という話もよく聞きますし」
「直んねェらしいぜ。さっき言われた」
「アレの言葉を信じますの?」
「確かに」
お嬢が指さすは、胸に穴の開いたキスキルの結晶。
それにだんまり緑が近付いて。
「お、触るなよ。こォなるぜ」
「わかってる」
わかってるなら何よりだ。
──その周囲に置くのは、俺に投げてきた爆弾。番えるのァ火矢。
「……離れていて。このダンジョンのボスは、もういない。キスキルの結晶になってしまった」
「おー、結構饒舌に喋れるじゃねェか」
「このダンジョンも、直に壊れる。──安心して。貴女たちは排出されるだけ。ありがとう、キスキルを倒してくれて」
離れていて、とのご注文。
飛行魔法を使用し、足無しユーレーがふよふよ近づいていく。
「離れていてと言った。威力は見せたはず」
「でもお前もだろ。その距離で射たら死ぬぜ」
「とうに」
死んでるから、死んでもいいって?
だからお前あだ名つけたくなったンだな。
「爆発に巻き込まれて、焼けながらバラバラになって死にてェと。そういうこったな?」
「……凄惨な事なら、もっと沢山あった。──私はこのダンジョンで唯一の女だから」
「はァ。どこの世も変わらないってか? やっぱ一緒にいるのァ同性に限るねェ」
「森のみんなじゃない! ……ダンジョンに入ってきた、お前たちみたいな者だ」
「そりゃまァ」
……魔法の使えない野郎でも、旅なンかをしてる奴はいると。
んでその中にゲスがいると。脳裏メモ脳裏メモ。
「まァわかったからさ、こっち来いよ。焼けるってな痛いぜ。俺ァ経験者だから知ってンだ。身体の一部がぐちゃっとなンのもやべェ痛い。知ってる。経験してきた。──だから、こっちに来いよ。コイツはもう死んでるよ。俺が殺したンだ、当然にな」
「わかっている。コレに命が無いことくらいは。──ただの私怨だ。私達を散々弄んだことへの、ジジフス様をあれほど疲弊させたことへの」
「その爺さんも俺が殺したよ」
「ジジフス様は女性だ」
「あァジジだから勝手に爺さんだと思い込んでたわ」
復讐はある。私怨はある。
それを無駄だとは言わん。心がすっきりするだろうからな。それを空っぽって表現するのァあとの自分だ。今の自分はそれをすっきりと言ってくれるだろう。
だが。
死ぬ必要の無い命が目の前で散る事を、俺は望まない。
「だんまり緑。色々喋れるよォになったンだろう。名を聞いておくぜ」
「すぐに目の前で散る者の名だ。覚える必要はない」
「あるさ。俺が知りてェ。それだけだ」
後ろの3人が黙ってンのは、俺がやること理解してるからだろう。
そう願ってる。
「……」
「黙るなよ、だんまり緑」
「名は、教えてやる。それと同時に矢を放つ。だから少し離れろ。恩人を巻き込んでまで私怨を晴らしたくはない」
「あァ、教えてくれンなら下がるよ。ん-……この辺りでいいか?」
「……石片などが飛ぶかもしれないことだけは考慮しておけ」
「おォさ。ありがとう」
──"爆発物の範囲は前方に見えます黄色の木の辺りまで、とお思いください。そこまで退けば爆風は来ませんが、爆発物が固定されているわけではないので思わぬ場所での爆発がある事への留意が必要です"
あれ、なンだ。
ボディ他人に預けたから拗ねてたワケじゃねェんだ。
「──恩人達よ。ありがとう! 我が名はロティス! ──さらばだ!」
番えられた矢が引き絞られる。
後ろで地面を蹴る音が響いた。放たれた矢。抱き締められ、遥か彼方へ連れ去られていくロティス。
「シェイブシールド!」
「サンダーバリア」
俺の前に出る2人。それぞれが防御魔法だかいうのを張って──ハハ、馬鹿野郎、俺を守ってどォすンだ。
「お嬢、こっちだ! やれることってなまだあンのさ!」
爆風を完全に押しとどめてくれている2人には感謝をしよう。お前らの1年は決して無駄じゃなかったンだろうさ。そして、俺の経験してきた1年も無駄ではなかったと、ここに証明しよう。
まだだ。
まだ、だんまり緑の死の気配は消えていない。
それではアイツが、ただ己が目的を果たせぬまま、恩人に迷惑をかけただけで終わってしまう。
急速にこっちへ戻ってくるお嬢。
俺ァ傍らに亜空間ポケットを開き──かける言葉は勿論。
「投げろ!」
「了解ですの!」
「りょ、了解するな!?」
豪快なオーバースロー。まっすぐ飛んできただんまり緑を亜空間ポケットに収める。
「すぐ追いつくから、ダンジョン崩れて俺が帰ってこなくても心配すンなよ! ちょいとここ壊してからいくからよ!」
「今度こそ、ご無事で!」
「あァさ!」
そして俺も亜空間ポケットの中へ。
一緒に入り込もうとしていた端末を【即死】させ、ポケットの入口を閉じる。
瞬間、失くしたに思われていた足が復活した。
「……なンだよ。嘘じゃねェか」
アレか? そォいえば怯むとでも思ったのか?
馬鹿が。俺以外には効いたよ、それ。あとクロムクラハ以外。あと冷静メイド以外。
さて。
「よォ」
「……ここは」
「ここは亜空間さ。あァ大丈夫。今存彪位の目は潰した」
大量の土が遠くにある。いくらかの鉱石や魔煙草、フリューリ草、それに似た草花。
他、雑貨類やら……まァ冥界の土とか、色々。
その中で、上手く姿勢を保てずにいるだんまり緑に近づいていく。
「……何故だ」
「馬鹿が。目の前でやけくその自殺とか認められるワケねェだろ。俺ァ自殺自決自死がいっちゃん嫌いなンだよ」
「……どのみち、同じだ。この空間から出れば、私はダンジョンの一部として解体される。早いか遅いかの違いでしかない」
「そりゃァ嘘だな。だってお前がこのダンジョンのボスだろう」
流れるよォに言えば、だんまり緑は目を見開いた。
嘘下手だなァ。だから黙ってたって部分はあンのか?
「否……だ。ボスはもういない。次点たるジジフス様は、ボスがお亡くなりになられた事を受けて、全身全霊を用いてキスキルの結晶を封印した。だから」
「森のボスの話だろソレ。村長か何か。でも、ダンジョンのボスはお前だ」
クリスを引き抜く。
亜空間ポケットの中で亜空間ポケットを開くのは違和感が凄まじいな。まァクリスの収められている場所が亜空間ポケットかどォかは知らねェんだが。
でまァ、抜いたクリスを──だんまり緑に向ける。
「ボスはお前だ。村で唯一の女の子。ようやく生まれた、魔法を使い得る少女。ジジフスを継ぎ得る少女。お前のためならば村の全てが命を投げ出そう。──そんなエルフの村。遥か昔にあったこの村は、これ幸いにと利用された」
ふよふよ浮いて来た岩に座り、クリスを肩に担ぐ。
「ダンジョンの、その森にとっての要がボスになる。ジジフスに見えるのァそう見せるため。お前が戦闘に参加するのァボスだと悟らせないため。ボスだと悟らせてしまえば──
「……そうだ。私は、単体ではあまりに弱い。ゆえに、初めの戦いで殺されてしまえば、そのまま挑戦者たちを排出できる。無理に、無理矢理に私を隠さんとすれば──まるで報酬とばかりに、私やジジフス様への暴虐が待ち受ける」
「そォいうダンジョンになったワケだ。エルフの村は。そして──ソレを誰かにバラされないよォ、キスキルか存彪位か、あるいは他の何かから制限が課された。喋ればボスであるお前を殺し、挑戦者達を強制排出するよォに。……なるほど、その場をダンジョンにする、ってな行為に必要なのがキスキルの結晶か」
恵理須の中心。
精神体であるはずのクロムクラハが結晶に閉じ込められたアレは、そういうダンジョンだったから、か? んじゃアイツの言う
……ちょっと納得いかねェな。保留。
「だから、お前はなんとしてでもキスキルの結晶を壊してほしかった。ジジフスが必死で抑えつけてるソレを。そうするにはジジフスを殺すしかないと知っていて、それでも尚。そうすればようやくダンジョンが瓦解する。崩壊する。ボスが要なら、キスキルの結晶は差し詰め主だ。その消失によって、ダンジョンと言う舟は地に落ちる……か」
さて、まァ疑問の解消は終わった。
小難しい話はここまでだ。
「お前が死んでも、この亜空間にいたままでも──あのダンジョンは続く。なンでかわかるか?」
「そ──そんなわけがない! キスキルの結晶は壊したのだ! ならばもう、我らは、解放されて!」
「だったらキスキルが死んだ瞬間に崩壊が起きてるよ。俺ァ仮初の世界が崩壊する様も見たことがある。キスキルの結晶が砕け散っても尚、アレはキスキルの結晶として機能する。欠片に、粉粒になっても尚、だ。キスキル自体は殺せよォが、キスキルの結晶は消えない。──さァ、ここで問題だ」
人差し指を1本立てて。
ニヤりと笑う。
「どうすればこのダンジョンを壊せると思う? ──キスキルの結晶を壊してもダメ。お前が死んでもダメ。ジジフスが死んでもダメ。じゃァどうすりゃいい。ダンジョンを殺すには──何が必要だ」
「……わからない。それがわかるのなら……私は」
「聞き方が悪かったか? もう一度聞くぜ。──ダンジョンを殺すには、
ダンジョンがどォなれば、機能停止するか。
迷宮で散々学んだだろう。なァ。その記憶は、あっちでは滅んでいたお前等にゃァないんだろうが。
「……──私が、出て、行けば。いいのか」
「大正解だ。迷宮の要が迷宮を出ていく。勿論あの結晶も持っていく。主と要をダンジョンから持ち出せば、ダンジョンはその機能を果たせなくなり、瓦解する」
「……だが、それはできない。私は死者だ。とうの昔に死んだ者。生き返ることは、あってはならない」
「ところがどっこい、お前の場合は特殊ケースだ。お前らは
だから、何が言いたいかってーとさ。
「お前はまだ、生きている。夢の中で何百、何千と死を経験しようが、それは死とは呼ばない。お前が帰るのはお前が生きていた時代ではないが──お前自身はあの頃と同一だ」
「ならば、森の皆も」
「残念ながらそれは無理だ。アイツらはダンジョンの主要素じゃない。アイツらの1人誰かがいなくともこのダンジョンは機能する。お前が重要だからこそできる芸当さ」
岩に乗ったまま逆さになって、立ち上がる。
選択の時間だ。そろそろ世界が再構築される頃合いだから──決めなければならない。
「問うぜ、だんまり緑。森の仲間を捨て、ジジフスを捨て、村長の尊厳を踏み躙り──この村を出ていくか。残り、仲間と共に、ジジフスと共に、永遠に変わらない時代をダンジョンのボスとして過ごし続けるか。たった2択だ」
亜空間ポケットが開いていく。
求めているのだろう。ダンジョンが、ダンジョンのボスを。
その白い靄のよォなものを、【即死】を纏ったクリスで切り裂いて行く。
無粋な奴らめ。乙女の一大事だぜ。
黙って見届けろよ。それがこの世界の真理だろう。
「……私は」
「行け! ロティス!」
靄の奥から声が響く。
男の声。エルフのものだろう。好青年、と言う感じがする。
「行け、行け! お前は自由を手に入れろ! その対価に、我らは眠りを手にする! 何度死ねども記憶を消され、何度も何度も、幾度とない争いの果てに──お前の幸福があるのならば!」
「行け! 我らが愛娘よ! なぁおいてめぇら! なにボサっと寝てやがる! ロティスの一大事だ! 門出の時だ! 盛大に祝え──そのために、この程度の霧は打ち払え!」
エルフ。エルフだ。
男エルフの怒号が響き続ける。行け、行けと。逃げろ逃げろと。
それが、双方を救う結果になるのだと。
「私、は……みんなを、見捨てるなんて」
そこか、引っかかってンのは。
まァだろうな。挑戦者とやらがいねェ時には普通に暮らしてンだろうし。それが、来るたびにリセットされて、外敵を追い払うだけの働き蜂になって。
……なら、いいか。
「──問う! エルフの森の皆々様方よ!」
「応!」
「生きたいか! 誰を犠牲にしてでも、何を犠牲にしてでも──生きたいか!」
「生かしたい!! 私達の愛娘を!」
「我らが愛しき子を! どうか外へ連れて行ってやってくれ!」
「このまたとない機会で──どうか、どうか! 神をも退ける者よ! 夜に愛されし異子よ!」
バチンと掌に拳を打ち付ける。
十分だ。願いは受け取った。
あとは本人だけだ。
「私は……」
「
決められない者もいるだろう。決めきれない事もあるだろう。
俺はそれを悪いとは言わない。天秤が吊りあうことを──俺は、その名を冠した者として、決して罵倒しない。
ただ、その手を。
「残念だったな、
その手を、無理矢理引く。
左手に出現させた【光槍】をぶん投げ、あの程度の爆弾では罅程度しか入らなかったキスキルの結晶を【引力】で掴んで収納し、出来上がった直通の道を行く。
「行ってこいロティス! そして、我らの墓前ででも、旅の話を聞かせてくれ! ──それと、そこの銀髪!」
「あァ!?」
「ロティスに手を出したら、一族郎党貴様を恨み殺すと思え!」
「ハ! 逆にぶっ殺してやるよ! じゃァな、未練があるならウチに来な! 安寧の冥界へ。残るのなら、また利用されねェよォに気を付けなァ!」
ロティスの手をぐい、ぐいと掴んで駆け上がっていく。
入口で見た渦巻。そこに──ロティスを引っ張り上げ、腰を抱いての、ダイブ!
「きゃっ!?」
「わ」
「ハハハ──……っだァ、疲れた」
背後。
ダンジョンの入口で、ピシリピシリと音が鳴る。
渦巻の鏡面に罅が入り始めているのだ。それはまさしくダンジョンの崩壊を示し。
「みんな!」
「馬鹿が、笑って送れよ。ようやく眠れるンだぞ。おやすみなさい、って。そォいうんだぜ」
魔煙草は……ま、今はいいか。
ただの木の洞になっていくそこ。
そこに。
ロティスは。
「……おやすみ、みんな。また──どこかでね」
そう言って、目を閉じた。
黙祷。