遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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134.異聞畏怖有出内糸,是阿亜寒寝具素座頭初琉粘遅延時. 『癒えない言葉』

「それで、連れてきてしまった、と」

「言い方悪いなァ。ダンジョン壊すにァ連れ帰るのが一番だったってだけだよ」

「全く同じですわ。……ですが、良いんですの?」

「何が」

「私の知る限り、エルフ、というのは御伽噺や創作物の中にしかいない存在ですの。それを連れ出すというのは」

「ここだって誰かの夢なンだろ。じゃ大丈夫だ」

「……」

 

 気休めだが、魔煙草を吸って傷ついた精神を癒しにかかる。

 クロムクラハができたンだから俺にもできるだろ理論は通らない。俺の精神は世界言語を使えば使うほど傷つき、最終的には壊れてしまう。あんだけ自殺自決自死を嫌っておいて自分が、ってなあり得ねェ話さ、自重はする。

 けど。

 

「やらなきゃいけねェことがもう1つできた、って感じだなー」

「……それには、同意しますの。キスキルの結晶……あんなものが各所にあるのだとすれば、破壊は必至。ダンジョンから出ても治らない、というのがキスキルの嘘であるとわかった以上、体を犠牲にしてでも壊す必要があるでしょう。……何も死んで、とは言っていませんのよ。それに、そうならないように努めるための作戦であり努力ですわ」

「フェリカ、梓。説明が欲しい。キスキルとはなんだ。あの魔力塊はどのような性質を持っている?」

 

 そいや、お嬢も"見慣れ過ぎていて気付かなかった"って言った辺り、魔力塊ってなは結構ポピュラーな存在なのかね。

 

 ──"少なくとも恵理須にはありませんでしたね。魔力は単体で結晶化することのないものでしたので、この世界の魔力は何か根本から性質が違う、という可能性があります"

 

 この世界……大陸名で呼ぶけど、有死無死穏が異世界なのは確実だ。夢の世界だってなが今まで出てる情報だけど、そう言い切るにァ歴史がありすぎるし、色々違い過ぎる。始の点の誰かが見ている夢だというのなら、その夢はソイツの知識によって構築されるはずだ。こうも違うものを考えつけるとは思えない。

 同時に、カシヨの村だって誰かが思いついたものかと問われると微妙だ。 

 だからやっぱり、神が作り出し、何かを引き込むために置かれたどこぞか、というのが判断として正しいのだろう。

 カシヨの村は奈落……冥界の天空にあった。とすれば、ここは。

 

「名を」

「ン?」

「名を、聞きたい。貴女たちの名だ。私はロティス。改めて、名を聞かせてほしい」

「あァよ。俺ァ梓・ライラックってンだ。他にも名前はあるけど、まァ名前っつったらコレだな」

「フェリカ・アールレイデと申します。現状多分最強の魔法少女ですわ」

「ミサキ・縁だ。比べてみないとわからない、と言いたいところだが、その【神光】とかいう魔法を加えれば指を銜えざるを得ないな」

「シェーリース」

 

 まー、そうだな。

 俺には勝てねェだろうけど、お嬢は現状最強だろう。こっちの魔法と【神光】を十全に使えて、……あ、でもどうだろうな。案外尖り前髪とかのが強そうだけど。班長は……見えないとキツいか。

 

「これからよろしく頼む」

「……ん? 何が?」

「え? 連れていくつもりなのではないのですか?」

「まさかここに置いていく気か?」

「いや1人でも十分生きられるだろ。別に楽しい旅でも無し、無理矢理連れていくこたねェよ」

 

 これが漫遊旅行とかだったら連れてってもいいんだけどな。

 今からやりに行くのは世界を壊すための一端だし、トラウマになってそォなキスキルの結晶壊しもやるわけだし。

 

「梓、鬼畜」

「流石に拾っておいて捨て置くというのは……」

「おいおい犬猫みてェに言うンじゃねェよ。ロティスだって別に初対面も良い所な奴らと旅したかねェだろ」

「いや、他にも私達と同じような目に遭っている者がいるのなら──それを解放をしたい。ゆえに同行させてほしい」

「マジか」

 

 ……。いや、いんやさ、良いんだけどさ。

 そういう使命感で動いてる奴って……すぐ死を選びそうで怖いんだよな。

 

「腕にはそこそこの自信がある。梓、貴女には手も足も出なかったが、完全に身を隠した状態での奇襲は任せろ」

「別に弱くたって構わねェがよ。絶対に死ぬなよ。それが守れねェなら俺ァその辺の集落にお前押し付けてどっか行くからな」

「理由を問うてもいいか?」

「俺が嫌だから。死ぬな。そんだけだ。他何してもいーよ。逃げたっていい。だけど死ぬな。何も失うものがないのだとしても、死ぬな。いいな」

「……承知した」

 

 おお、聞き分けの良い奴は好きだぜ。

 

 んじゃ、話もまとまった所で。

 

「目標は元地脈吸入点。だが道中に野良の……自然形成のダンジョンがあったらかたっぱしから潰していく。いいな」

「ロティス。飛行魔法は使えるか?」

「問題ない」

 

 別に今使うってわけじゃねェが確認は大事だァな。

 さて──。

 

「あァそうそう、一応聞いておくが、EDENのダンジョンやその他ダンジョンでキスキルの結晶を見た記憶は?」

「魔力塊自体は何度もありますの。それがキスキルの結晶であったかどうかの判別は、残念ながら今は難しいですわ」

「そーかい」

 

 そんなに似てるのか、あるいは()()()()()。……その可能性は考えたかねェけど。

 でもキスキルやら安藤さんやらこの世界出身だと仮定すると、そう、である可能性は高いワケで。

 

「あ、でも、そんなもの無いダンジョンも多くありますのよ。隔離塔のものなどまさにそうですし」

「そいつァまァ助かる情報だ。全部潰して回らなきゃいけねェとなると骨が折れる」

「ええ、ですから、自然形成でないダンジョンは基本飛ばして良いと思いますわ」

 

 ……ふむ?

 そォいや自分でも流れるよォに言ってたけど。

 

「自然形成じゃねェダンジョンってな、なんなんだ。ヒトが作ったのか?」

「ヒトが作った、神が作った、魔物が作った……などなど。ここのように自然物に融合しているものは自然形成である確率が高いですが、人里を嫌い、ツリーハウスなどを作る魔法少女もいますので、そういう場所に作られたダンジョンは人工のもの」

「つまり?」

「見分けるには現地調査が必至、という事ですのね」

「明らかに人工物だな、ということくらいはわかるがな。確実に自然形成かどうかは判断できんという話だ」

「時間をかければ、私も作れる」

「マジか」

 

 そこの問題。

 ずぅーっと、ずぅ~~~っと解決してねェ類似の問題があるンだよな。

 

 魔物の湧きポの話。

 自然形成のソレの仕組みはわかったけど、結局寂しんぼか、あるいは負け犬のどちらかが作っていたのだろう人工の湧きポについて。

 恵理須の崩壊によって湧きポは全部潰えただろうから、始の点に乗ってンのは湧きポに依らない魔物だけ。でも寂しんぼが湧きポを作れるとなると……とかって考えちまう。

 今人間だけが寝てて魔物は起きてンだろ? ……アズサは信用してたみたいだけど、ちょいと怖いよな。

 

「梓」

「ん、どした、ロティス」

「あの時お前が引き込んだキスキルの結晶のことだが……決して目を離さないでくれ」

「あァよ。ま、そこまで気にしなくていい。お前にゃわからんだろォが、【即死】はマジの【即死】なんだ。ただ剣でぶっ刺しただけじゃねェのよ」

「……そうか」

 

 まァ零の魔法に理解無い奴からしたら心配になるのもわかる。

 零の魔法は元権能だから、理由も原理もなく概念みてェなモンなんだよな。

 ……そう考えるとこっちの魔法は使いやすいはずなんだけど、俺が思う一番簡単な魔法ってな……やっぱりわかんねェなァ。

 てな話はおいとこう。最近話ブレまくりでかなわねェ。

 

「そろそろ出発するけどよ、墓だのなんだのは要るか?」

「墓?」

「ン? そういう文化無ェか? 死人を弔うために墓碑立てンのさ。何々の誰々ここに眠る、つってな」

「いや、墓はわかるが……ここは既にロートス一族の森ではないし、皆の魂は既にここにない。この先も一族が続くのならば、守護霊として見守ってもらうために墓を建てる事もあるだろうが、私がここを離れるというのなら皆を縛りつけるものは無用だろう」

 

 ……へェ。

 さっぱりした考え方だな。

 

「あァさ、いいならいい。んじゃ、何度目かわからねェが──行くぞ」

「ああ」

「うん」

「……」

「……」

 

 ン。

 ん?

 

「振り向く必要は、無い。梓が恋心を、わからないというだけ」

「俺がどォいう条件で名前呼ぶかは教えたはずだから、その嫉妬はよくわかんねェんだけどな」

「だから、そういうトコ」

「?」

 

 まァ振り向くなと言われたンだ。

 俺らしく前だけ見ていきますかね。

 

 

 

えはか彼

 

 

 

 それは道無き道を進んでいる最中のこと。

 向かう場所が向かう場所なだけに、いちいち街道なんざ通ってられねェからな。獣道ですらねェ場所を行っていたンだが──。

 

「数は16。女はいねェなァ。武装はナイフ」

「便利ですわね、それ。命の気配でしたか」

「俺的には魔力をもっと細かくわかるよォになりてェんだけどなァ」

 

 囲まれている。そんな近かないが、俺達の移動に合わせて移動している。

 野盗、という奴だろう。

 

 どうなんだろう、とは正直思う。

 いんやさ、人間が働くのって、食わないと生きていけないからだろ? でもこの世界は食わなくても死んだら蘇生する。俺はそれを便利だなンて決して言わないが、こォいう奴らからしたら都合の良い事この上ねェはずだ。

 働かなくても死ねばいい。そう考える奴だって少なくないだろう。

 それを……何を以て、奪い、盗み、殺しに走ることがあるのか。それは単なる快楽のためか。あるいは、何か別の理由で居場所を追われたからか。

 

「殺しはしませんわ。手足を使い物にならなくする、というのは、アリですの?」

「あァ、いいよ」

「それをされた結果、死ぬとしても?」

「それは別に自然死だろ。不幸な死は嫌いだ。幸福な死が好きだ。つったって災害に巻き込まれて死ぬことに憤りを覚えることはない。それは悲しいだけだ。……這いずってでも生きて、仲間と共にとんずらこけば、死なないんだ。俺はその選択肢まで潰した覚えはないよ」

「何の話だ?」

「あァさ、命の話だ」

 

 誰もが満足して死ねるワケじゃねェことくらいわかってる。

 そんな両極端じゃねェ。事故死ばっかりはどうしようもない。気を付けることはいくらでもできるだろうが、天の采配ばかりは俺の関与するところじゃねェ。

 命を狙ったんだ。

 その結果が傷であるのなら、その先に不幸が待ち受けていることもあるだろう。

 

「たァいえ手ェ出してくるまで待機な。先手譲るくらいワケねェだろ、お嬢」

「勿論ですの」

「お前、まだその理念持っていたのか。……"手ェ出してくるまで仲間の可能性はある。面倒臭さに負けて、その可能性捨てンじゃねェよ"、などと言っていたのが懐かしいな」

「単純に、ついてこられると、うざい」

 

 去年の俺とやらの言動に感心しようとしたら、背中メッシュが身も蓋もない事言い出した。

 ……いやでもそれはそう。

 

 つか、仕掛けてこねェのはどういう了見なんだ。眠ったり休憩したりすンの待ってンのか?

 面倒だな。

 

「飛ぶか」

「それが最も楽ですわね」

「わかった」

 

 それぞれが飛行魔法を使用し、宙に浮く。

 飛行魔法もなー、結構色々種類があるンだよな。たとえばポニテスリットと背中メッシュのはこっちのエデン式。制動力より持続力を主とした、まァ外敵の想定というよりは飛んでいる事そのものを重視した感じのもの。金髪お嬢様のはあっちのエデン式。高い制動力で相手を攪乱できるよォな構造で、だから燃費も悪い。クルメーナへの遠征で、みんなが休憩をしなければいけなかったのはそのため。

 そんで、ロティスの奴は……これも燃費悪いな。クロムクラハだった時にウィドアルにやらせたよォな上昇気流や追い風といった、外部からの圧力により飛んでいるって感じだ。

 

 で、俺のはシエナを参考にしてるから噴射式。これも燃費悪し。

 魔法の改良はちょっと考えないとなー、とか考えながら──急速に高度を上げていく。

 

「一気に振り切るぞ。魔力量に自信無かったら、お嬢に運んでもらいな」

「問題ない。これでも私はロートスのエルフだ。見下すわけではないが、人間種に引けを取ることはない」

「残念ながら俺にァロートスのエルフってながどんだけすげェのかわからねェけど──問題ねェならいい。飛ばしていくぞ」

 

 瞬間、俺達は爆速で飛び始めた。

 ……その背後にぴょいと飛んできたナイフは、見逃してやるよ。

 

 

 

 

 

 村があった。

 

「こんなトコに村なんてあるんだな」

「別に不思議なことではありませんのよ? この世界は平和ですし……魔物の縄張りにさえ近付かなければ、人はどこにでもいますの」

「へェ」

 

 小規模な村だけど、アオンのいたトコに比べたら大きい。

 なんつーか、開拓村って感じ。あんまり潤ってる感じもしねェしな。

 

「こォいうとこ、寄って行ってもいいものか?」

「別にいいですけれど、歓迎されるかはわかりませんのよ?」

「あァそーいうのいいんだ。単純に興味の問題だから」

 

 言いながら、返事を待たずに降りる。

 ヒーロー着地……はしない。そんな勢いよく降りてきたら怖いだろう。

 

 いんやさ、おじさん的感性というか、日本人的感性からすると、こォいう辺鄙な村は排他的で余所者受け付けませんが基本なんだけど、ここはどーにも()()って感じがしたンでな。

 そういう、ちょいと気になって、だったりする。

 

「お嬢ちゃん、都会の子だろ。どうしたんだいこんなとこまで来て」

「おォ話しかけられると思って無かったから驚いているぜ今」

「そりゃアタシだって話しかけるつもりなんてなかったから驚いているよ今」

「へェ、なんだ、変な奴だなオバチャン」

「アンタこそ変な奴だよ。喋り方含めて」

 

 なんだこの人。

 いきなり話しかけてきていきなり変な奴呼ばわりたァどーいう了見だ。

 つか、なんだなんだ。村の住民どんどん集まってきてンな。

 

「カリンバ、どうしたんだいその子。えらく小奇麗な……アンタ、孫とかいたかい?」

「いないよ。旦那がいないんだ、どうして子がいるんだい」

「そうはいうけど、ほら、ジンガラの奴とか妙な人脈持ってるじゃないか。この前来た可愛い子に久しぶり、とか言われていたし」

「あれは……あれはなんなんだろうねぇ。ジンガラがこの村を出た覚えはないから、昔この村を出て行った子なのかもしれないけれど」

「おいおい、ババア共で話し込んでんじゃないよ! お嬢ちゃんが困っちまってるじゃないか!」

「フォコ婆にババア呼ばわりされたら終わりだねぇ」

「ハッハッハ、フォコ婆の齢を超えるのは、どこぞの島にいる魔物くらいじゃないかい?」

「うっさいねアンタ達! ちっとはその口閉じれないのかい!?」

「あんまり怒るなよフォコ婆。まーた血管切れて死んじまうよ?」

 

 うるさい。

 ……すげー、うるさい。

 

 いや。

 いやね、俺が違和感覚えて降りたのは()()が理由ではあるんだけど、まーうるさいのなんの。俺に向けられていた話の矛先は、一転二転三転として転がって行って、もう内輪の話になっちまってる。いやいーんだけどさ。そういうの眺めてンの楽しいんだけどさ。

 

「っと、すまないねェお客人。して、なんでこんな辺鄙な場所に? 見ての通り、ここにはなぁんにも無いよ」

「いんやさ、アンタらがいるだろ。ま、客人って程何かをしに来たわけじゃねェよ。ちょいと旅をしててな、こんな辺鄙な場所に村があったから、興味持って寄って来たってだけさ」

「あっはっは、失礼極まりない子だね。ここに住んでるアタシらが辺鄙な場所っていうのはいいけれど、普通外部の旅人は言わないもんだよ。お世辞の1つも覚えていないのかい?」

「世辞が必要たァ驚いた。必要ならもうちょっと必要っぽい顔をしてくれねェと判別つかねェよ。婆さんら、1つ世辞でも言おうモンなら心開いてくれねェ気がしてたンだが違ったかいね?」

 

 言えば、ちょいと目を細める婆さん。フォコ、と呼ばれていた婆さんだ。

 そう、婆さんら。

 見える限り──ここにはおばちゃんか老婆しかいない。男もいなければ少女もいない。フォコ婆なんか杖突いてるしな。

 国じゃ見られねェ光景だ。前も今も。だから、気になった。

 

「……ヒッヒッヒ、試すようなことしてすまないね。アタシらみたいなババアになると、どうしても変化を嫌う。アンタはどう見てもこの村に新しい風を運んできそうだったから、みんなで追い返そうとしちまっただけさ。ほら、みんな。家に戻りな! 小手先の技はこの子にゃ通じないよ!」

 

 パンパンと手を叩くフォコ婆。

 それだけで、最初に話しかけてきたおばちゃん含めた全員が家の中に帰っていく。圧倒的権力者か。……あるいは。

 

「ほら、家におあがりよ。()()()()()()はどうするね?」

「ン──まァ、ちょいと言ってくるよ。連れてはこねェから安心しな」

「そうかい。じゃ、さっささとするんだね」

「あァさ」

 

 鬼が出るか蛇が出るか、なんて思ってたけど。

 これは、とびっきりの蛇が出てきたなァ、なんて。

 

 とりあえず上で様子見していてくれたお嬢たちに事情を話して、どこぞで待機しててもらうことに。

 再び舞い降りたこの村の雰囲気は──初めのモノとは、打って変わっていた。

 

 

 

えはか彼

 

 

 

「気になっていることがあるんだろう?」

「あァさ。いなくなったのか、いなかったのか、追い出したのか、今出ているのか。どれだ、婆さん」

「ヒッヒッヒ、随分と話を急くじゃないか。お嬢ちゃん、名は?」

「梓・ライラック。アンタはフォコ婆だな」

「フォコ・コルン。ここ、ルーホラコルンの村の村長だよ」

「へェ、見た目にそぐわねェ可愛らしい名前だな」

「アンタこそ、性格にそぐわない可愛らしい見てくれだねぇ」

 

 蛇はお互い様ってことで。

 出された茶は飲まない。何が入ってるかわかったモンじゃねェってののと、魔法由来の毒じゃねェと殺せねェからな。危ない危ない。

 

「今出ている、が正しい」

「んじゃ、外の野盗はこの村のか」

「そうさ。見ての通り貧しい村だからね、近く通った旅人襲って身包み剥いでんのさ」

「悪ィ村だな」

「ヒッヒッヒ、見ての通りだよ」

 

 さて、だとするとお嬢たちが危ない……ことはないな。こっちのが確実にオーバーパワーだ。

 

「一応理由は聞いておくか」

「貧しい村だから、と言ったはずだけれど?」

「死は恐れずとも、貧しさは恐れるか」

「何言ってんだい。当然だろう? 死んだって腹は膨れない。生き返るからって金が降ってくるわけでもない。こんな老いぼれの時間が止まったって、なぁんにもなりゃしない」

 

 ……時間が、止まる。

 やっぱり……最初から、じゃないのか。この世界が出来た時の法則じゃない。後々になって施された即時蘇生。ジーウィースの統治していたころはこんなんじゃなかった、って感じかね。

 普通に死ねて、普通に老いる……。それを存彪位がぶっ壊したと。

 

「──生きたいか、婆さん」

「さてね。ただ、世界は案外アタシを求めてる。村の連中だってそうだ。アタシがいなくなればどうなっちまうことか」

「……隠し事」

「あん?」

「もう1つあるな。村ぐるみで野盗やってる事だけじゃねェ、もう1個なんか隠してる。……いや、守ってるって感じか? 明らかにヘイト自分に向けさせようとしてる辺り、なんか困りごとがあンだろ、婆さん。話してみろよ。案外役に立つぜ、俺」

 

 裁くなら自分をやってくれ、みてェな話し方しやがって。

 もっとやべェ事してる身内がいるか、もっとやべェことになっちまってる守りたい誰かがいるか。

 そんな感じだ。

 

「俺は正義の味方じゃないンでね、村ぐるみで野盗やってることについちゃどーでもいいのさ。だが、アンタが死のうとしてまで守ろォとしてるものには興味がある」

「今日きたばかりの余所者に話すと思うのかい?」

「話さねェなら自分で見つけるよ。──地下に、1人いるよな」

 

 命の気配は見逃さない。

 けど……なんだ、この気配は。波打つような気配。周期的な気配。

 

「……アンタ、誰だい?」

「梓・ライラック。自覚は無いが、"予言の子"らしいぜ」

「!」

 

 反応は早かった。

 めこ、と音を立てて潰れるは──家。

 突然中身が真空にでもなったかのよォに、フォコ婆の家が内側に潰れていく。

 

「これはどっちだ。絶対に逃がさない、か、絶対にここで殺す、か」

「──あの子の元には行かせない。アタシらじゃアンタは殺し得ないだろうから──ここで向こう1000年眠っちまいな」

「アンタはどうするよ。このままじゃ、アンタも死ぬぜ。死ぬどころじゃねェ、家に潰されて封印に巻き込まれる」

「この身1つでどうにかなるなら、本望さ」

 

 さっきさてね、とかいってたのにか?

 ハハ──死にたくねェんだろ。婆さんよ。

 

 せめて大切なその子が解放されるまでは。

 

「ハッハッハ──なんだ、オイ。立て続けによ、これも【作為】か? まァいいけどよ」

「潰れな──死神!」

「【即死】」

 

 収縮が止まる。

 倒壊が止まる。

 魔法だ。だから殺せる。魔法じゃねェ方法なら殺せてたかもだがな、魔法に頼っちゃダメだよ、婆さん。

 

「チィ……!」

「死神たァ、まァ、大層な呼び名を頂いてありがたい限りだ。死を奪う死神と名乗ったことはあれど、罵倒として死神呼ばわりは初めてじゃねェか? ハハハ、だが残念だ。少なくとも俺は神じゃねェよ。その下僕でね」

「──あの子に手を出してみな! 許さないよ……地獄の果てから呪ってやる!」

 

 冥界の住民を地獄の果てから呪うってな、まァおもしれえ話だが。

 

「成程。タイミングか」

「……!」

「あァダメだな婆さん。隠し事してェんなら顔に出しちゃダメだ。ハハハ、奇怪な老婆を気取ってるつもりだろォが、そりゃ母親の顔だなァ。ダメだぜ、悪い事してェなら我が子を想っちゃ。心を鬼にしねェと、こォいうのに目ェつけられる」

「……ライラック、と。そう言ったね」

「あァさ」

「アンタ、親は?」

「いるよ。どっちも健在だ」

「そうかい。──ちゃんと愛せているようには見えないねぇ」

「ハ」

 

 まァ、痛いところを突かれた、とは言っておこう。言わねェけど。

 両親を愛せているか。今も亜空間にあるあっちの国の両親を。こっちの国で、去年の俺を愛した両親を。

 愛せているか。

 

 ……さてな。大事には想っちゃいても──。

 

「隠し事はわかった。俺は今からそれを解決しにいく。ついてくるかい、婆さん」

「……ついて行かなかったら、アンタ、村の地面掘り進めるつもりだろう」

「当然。隠し扉とかわかんねェからなァ俺は」

 

 フォコ婆は、はぁ、と溜息を吐いて──ようやく折れた。

 

「案内してやるよ。ついてきな、死神」

「だから神じゃねーって」

 

 さて、はて。

 

 

えはか彼

 

 

 

 村民から心配そうな表情を向けられながら入ったボロ倉庫。

 その奥の奥に、隠し扉はあった。そこから階段を下っていけば、隠し部屋へ繋がる。

 

 そして。

 

「……」

「言葉もないかい? ……アタシもね、そうだったよ。最初はそうだった」

 

 言葉は出ない。

 だって──あまりに、むごい。

 

 それは、人だった。

 人だ。ヒトガタの人だ。

 年のころは30。女性。

 目はかっぴらき、口は閉じては開きを繰り返し、ずぅっと「あ、あ……」と言葉にならない音を発し続ける。

 

 死んでいる。

 でも、生き返っている。

 

 即時蘇生をするたびに、死んでいる。

 

「病でね。あの日は……もう駄目だって。だから、村総出の見送りだった。ごめんね、安らかにね。もっと丈夫に生んで上げられたら。病など罹らなければ。色々な言葉が並べられ、けれどこの子は気丈にも、大丈夫だから。こっちこそ、ごめんね。こんなに早く。皆より先にいって。ごめんね、ごめんね、って」

「……」

「そうして──この子が、息を引き取る。そんな時さ。()()()()()()()()()()()

「……やっぱり、最初っからこう、じゃねェんだな」

「何百、何千何万と前の話だけどね。……でも、確かに、こうではなかった時代がある。アタシらが証拠さ。いないだろ? 都会には。こんな老いぼれババア達」

「1人しか知らねェな」

「……私達は、こんなになるまで、普通に歳を取っていた。この子は、こんなになるまで、普通に苦しんで、死なんとしていた。──それを」

 

 タイミングだ。

 あるいはソンヒューィにさえ、そんなつもりはなかったんだろう。

 世界を切り替えた、置き換えたタイミングが、丁度そうだった、というだけの話。その犠牲者が──彼女であった、というだけの。

 

「どうにもできないだろう、アンタには。殺す、以外に……どうにも」

「そもそも殺しなンかしねェよ。解放したって、病で死ぬ。それは避けられねェ。俺が命を奪うワケじゃない。つか、ここで俺が殺しをやった所で、この状態は変わらない」

「じゃ、何をしに来たんだい、アンタ」

「……」

 

 死に際の即時蘇生。

 ……これは多分、彼女だけではない、気がする。老衰で死に行く中で、世界が置き換わってしまった者。戦いの傷言えぬまま死に絶えんとして、切り替わってしまった者。

 いるんだろう。世界には──目立つところにいないだけで、そういう苦しみ方をしているものが、たくさんいるんだろう。

 

「手段はある」

「……」

「まず、この状態からの解放……死を定着させ、眠りを与える」

「それは殺す、ってことだ」

「次に、殺す。ここの世界を丸ごと殺す。そうすれば、世界にかかってる法則なンて関係ない。この人は死を迎えるだろう」

「だから、殺すってことだろう?」

「生かしたいのか?」

 

 問い返す。

 何を言っているんだとばかりに。

 

「そりゃ……」

「見送らんとしたんだろう。眠りにつく彼女を、村の者総出で。その言葉は偽りか?」

「まさか。あの時は、本心から」

「生き返って、欲しいのか。──死者に」

「死んでないだろう!」

 

 大きな声だった。

 地下室に響き渡る、大きな声。

 

「まだ死んでいない! 勝手に死者にするな、死神!」

「そうだ。死んでいない。だから問うている。これから死に行くものに。死の運命にあるものに。生きてほしいのか。生き返って欲しいのか。これから死して、土となり、灰となり、その後に生き返って欲しいのか。その後にまた笑いかけてほしいのか。生き返ったよと。戻って来たよと。その言葉が欲しいのか、フォコ・コルン」

「当たり前だ! 自分の娘にそう思わない母親がいるものか! 出ていけ。出ていけ、死神! 親も愛せぬお前に、親の愛がわかるものか!」

 

 ……この女性の死は変えられない。病だというのなら病を治せばいい、という話でもない。死に至る程に進行した病だ。今どう手を加えたところで、直後には死に、元の状態へ復活し──また死ぬ。

 死の気配は濃い。苦痛。悲痛。それはフォコ婆も同じ。

 

 苦しみ続ける事を見過ごし、見なかったことにするか。

 反対を押し切って俺のエゴを通すか。

 

「……しゃァねェなァ。あんまりこォいうサービスはやっちゃいけねェんだ。前例作ると他が乗っかるからさ。けどまァ、俺が好きでやることならいいだろ。見逃してくれよ、神さん」

「何を……」

 

 一瞬アンディスガルとして対応しかけたけど、やめやめ。

 堅苦しいのァポニテスリットとかロティスに任せとけってな。

 

「婆さん。1つ確認だ」

「……なんだい」

「コイツがさ、もう死にてェって言ったら──アンタ、諦められるか?」

 

 それは、あるいは、カシヨの村の住民たちのように。

 もう──苦しいと。死にたいと。

 彼女自身が、そう言った時。

 

 親であるアンタは──その手を離せるか。

 

「言ったら、だ。言わせたら、絶対に嫌だというよ」

「あァさ、そこが割り切れてンならいい。……ふゥ」

 

 本来なら。

 本来ならば、即座に【即死】っつか【世涯】で解放するものだ。

 けど、こういうサービスの1つくらいしていかねェと、改宗者も増えねェだろうしな。

 

糸伊豆阿派青磁負不伏零矢堕千経度戸地内途(それは夜に捧げる一節の祈り).」

 

 文字通り出血大サービスってな。ハハ、笑えねェ。

 

褪戦死遠(【傾刻】)──」

 

 対象は2つ。

 この人と、フォコ婆も含めて。

 体感時間の操作。

 普通は速めて遅らせるモンだが、今回は。

 

 これでもかと、引き伸ばす。

 

 出来上がるのは──。

 

 

 

えはか彼

 

 

 

 場所は変わっていない。

 ただ、体が恐ろしく重い。知覚神経の強化を最大限にやっちまってた頃に似ている。

 思考だけが超速で巡り、肉体がおいついていけねェ状態。

 それに2人を巻き込んだ。

 

「こ──れは」

「お、なンだ。念話の経験があるのか? そりゃ楽でいいな。そっちのはどうだ」

「……私は」

 

 おお、なんだなんだ。

 なんで全員念話経験があるンだ。昔は普通だったのか?

 クロムクラハになる前の精神体時代に培った念話ってな手段だってのに、こんなバリバリ一般人に使われると俺の色々があれこれであーだーこーだだぜ。

 

「ロコ! ──!?」

「……お母、さん?」

「あァすまねェが体は動かねェ。おお勘違いすんな? 止めてるワケじゃねェぞ。止まってンだ」

 

 恐らく抱き着こうとしたのだろう。だけど動かない身体に、睨みつける……ような意思が飛んできた。

 

「【傾刻】っつってね、相手の体感時間を操作できる魔法なンだが、どうだ。不便はねェか? 動けないってなクレームは受け付けねェ」

「……いや。ない。大丈夫だ。……魔法、といったか。嘘を吐くなよ、死神。これは明らかに神の権能だ。やっぱり死神なんじゃないか」

「あァさそこはどうでもいい。ンな問答してる暇あったら我が子と言葉を交わせ。永続させられるほど俺の精神は丈夫じゃねェんだよ」

 

 神の権能まで知ってるとは、何者なんだこの婆さん。

 口ぶりから察するに云万年の昔からいるみてェだが、その頃は神が普通に存在してたのかね。

 

 った、はァ。

 きちィな。息なんて吐いてねェんだが、あァ、ガリガリ来てる。精神を鑢で削がれるよォな感覚。いつも来るパキっとした罅の痛みじゃねェ、拷問みてェな感じだ。

 ふゥ。一服してェが、体が重すぎてどォにもならねェなァ。

 

「ロコ。ロコ。アタシだよ。わかるかい?」

「……お母さん。なんで……私、生きて」

「良かった。ロコ、いいかい? 生きたいと言うんだ。何も聞かなくていい。いいから生きたいといいな。それだけでお前は──」

「おいおい、そりゃズルだろ。アンタが俺に課した事はアンタも守れよ。フェアじゃねェ」

「ちょいと黙ってな! 親子の会話だ、余所者が入り込んでくるんじゃないよ!」

 

 ……へいへい。

 

「ロコ。生きたいと言いな。それだけでいい。この死神に、自分が生きたいことを伝えるのさ」

「……お母さん」

「なんだい、ロコ。なんでもいいな。お前が生きたいとさえ言ってくれたら、アタシはなんでもやるよ。お前のためなら、死神だって退ける。病だって、神だって。アタシは、お前のためなら──」

 

 頑張って保たせて──後、5分。体感時間側の話だ。現実時間は2秒くらいだろう。

 これをこの精神にダメージが入る、ってなコスト無しに使えたら、そりゃァ強い。そりゃSS級だ。……が、SS級の再現は……あァさ、器じゃねェんだろう。クロムクラハならあるいは、もうちょっと保たせられたのかもしれねェが──梓・ライラックには。

 

 あァ──。

 

「死にたい。お母さん。私ね、もう死にたいの」

 

 大丈夫、そうだ。

 

 

 

「……なんで」

「痛いから。苦しいから。……私はね、お母さん。嬉しかったよ。この年になって、結婚もできない娘をさ。こんな、ずぅっと可愛がってくれて」

「それは! あの男がお前を捨てたからッ!」

「そうだと思う。そこから……私は気力を失って。不摂生な生活をするようになって、病気になって。……でも、ずーっと、私がどんなに冷たく当たっても、お母さんは。ううん、村のみんなも、みんなみんな、ずっと励ましてくれて、楽しい話をしてくれて。情けないね。私だけ、いつまでも子供だった。もっとすっぱり諦めてしまえばよかったんだけど……」

 

 女性の歳の頃は、30くらい。

 即時蘇生の無い……つまり恵理須の頃と同じくらいの歳の頃と考えりゃ、相当だ。中世よりは近代よりたァ言え、女性の婚姻時期ってなかなり早めだったからな。

 おじさんからすりゃまだまだ華だたァ思うが、彼女らからすりゃそォもいかねェんだろう。

 それで、塞ぎ込んで。鬱まで行っちまったのかどォかはわからねェが──引き籠って、不摂生極めて。

 病が何かはわからない。死に至る病なんて沢山ある。

 

「でも……いや、だから、生きたいだろう? お前は、もっと幸せに……こんな、まだ全然じゃないか。沢山生きて、楽しい事を経験して。結婚なんかどうだっていい。世間の目なんてどうだっていいんだ。そうだ、知らないだろう? アンタがこうなっちまった後から、世界は変わったんだ。死んでも生き返る。誰もがだ。何をしてもそうさ。高い所から落ちたって、首を切り落とされたって──生き返る。そんな世界になった。見てみたいだろう? 世界は──もう、お前に厳しい事をしないんだ」

「それは、嘘だよ。お母さん」

 

 きっぱりと、言う。

 表情なンか動かせないはずなのに、そこに笑顔を見た気がした。

 

「嘘なんかじゃ」

「……お母さん。私ね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 脳が死んでりゃ良かったんだろう。俺はそれを良かったとは言いたくないが、それでもそう言うしかない。

 彼女は──ずっと。

 死して、生き返って、死んで、蘇生して。

 その渦中を。何万年の繰り返しを。すべて、全て覚えている。

 

「……もう、疲れたよ。お母さん」

「話は──」

「黙ってろって言っただろう!?」

 

 とはいってもな。

 もうすぐ解けるぞ、この魔法。2度目はきつい。そもそもが全快状態じゃねェんだ。あんまり長くはできねェ。結論を急きたくはないさ。俺だって鬼じゃねェ。死んでるけど鬼じゃねェ。

 けど早くしてくれねェと、結局答えの分からねェままになっちまう。

 

「お母さん。──もう、無理だよ。嬉しいし、嬉しかったし、ありがとうって気持ちでいっぱいだけど……もう、生きたくないよ。もう苦しみたくない。もう痛いのは嫌。──何度、安心したらいいの? 何度安堵して、何度──裏切られたらいいの? もう眠りたいよ。もう楽になりたい。もういいよ。もう──お母さんの悲しい顔も。ごめんね、って言葉も。聞きたくない。聞きたくないよ」

 

 少しずつ、体が動くよォになっていく。

 時間切れが近付いている。……。

 

「ロコ……」

「すまねェが、そこの婆さんの言う通りでな。俺ァ殺すことしかできねェ。死を救済だなンて言いたくはねェし、殺しがしたいってワケでもねェ。その上で口を挟ませてくれ。時間はな、無限じゃねェのさ。これは俺の力不足。だから、簡潔に頼む。すまねェ。ホントはもっと話したいよな。ホントはもっと色々やりてェよな。親子の会話ってのを、愛した家族の会話ってのをしてェんだと思う。だからこれは、俺の努力不足を呪ってくれ。俺自体を呪ってくれてもいい」

 

 問う。

 何度もした、その問いを。

 

「生きたいか。ロコ・コルン。アンタは確実に死の運命に在り、確実に死ぬ。決定された死の運命を覆し、生きたいか」

「いいえ。──ありがとう、鼬さん。お別れを言う場所を、用意してくれて」

「ハ──」

 

 いや、おいおい。

 何者だよこの親子。念話使えたり、神について知っていたり。

 挙句の果てに俺のホントの姿見抜くとか、怖いにもほどがあるんだけど。

 

「お母さん。ありがとう。──私はもう、死にたいです。生きたくない。生き返りたくない。──どうか、叶う事ならば。殺してほしい。もう、この苦痛を味わうのは──嫌だから」

 

 急速に世界が近付いてくる。

 時間切れだ。

 が──。

 

 もうちょいだけ、保たせろ。

 最後の言葉くらい言わせろ。それくらいのサービス精神持てよ、俺。

 

「ロコ……ロコ」

「だから、お願い。お別れの言葉を」

「……」

 

 いってェ……が、痛みなンか今更だろ。お前、今まで何経験してきたんだよ。

 そもそも死人が痛み訴えてどォする。今はまだ生きてンだよ、目の前の奴は。馬鹿が、人命最優先だっつーの。

 

「お母さん。──さようなら」

「……ああ。おやすみ、ロコ」

 

 切れる。

 効果切れだ。

 このまま──繋げる。また苦しまないように。もう、さようならとおやすみだけで、終われるように。

 

糸伊豆阿止理負不伏零矢堕千経度戸地内途(それは夜に捧げる祈りの物語).」

 

 身体のふらつきが抑えられない。どうでもいい。倒れ伏しながら、言葉を紡ぐ。祈りを上げる。

 

褪戦死遠(【世涯】)──……ッ」

 

 世界言語の連続使用。回復なし。

 確実にやべェ罅が入った気がする。だからなんだ。夢ン中だろ、ここ。

 

 そうじゃねェと知っていても、知らねェを通すのが世話焼きのおっさんってモンさ。

 ハ──。

 

 死ねよ、世界。一瞬で良い。

 この子が、死ねるように。

 眠りにつけるよォに──ただ、一時だけ。

 

 

 

えはか彼




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