遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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135.笛在異帝留守羽生早運令損停取留.『妖精と月の山脈』

 フォコ婆はただ一言「悪かったね」とだけ言って姿を見せなくなった。

 代わりに他の村人がぶっ倒れた俺の世話をしてくれァしたが、村の雰囲気はあんまり良くない。

 ま、余計なお世話オブ余計なお世話だったからな。たとえロコって奴の心境が悲痛のそれであれ、村人にとってはいてくれるだけでよかったンだろう。フォコ婆が素直に何があったと話すとも思えねェし、単純に俺が殺したか、俺がぶっ倒れたタイミングでロコが死んだか、そのどっちかに思ってるのやもしれねェが。

 

 ちなみにお嬢たちはというと、懲りずに襲撃に来た男衆を縛り上げて持ってきたそうだ。

 そのまま倒れてベッドに寝かされてる俺を発見し、今ァ看病してくれてる。

 ちょいとな。精神の罅がでけェんで、フリューリ草むしゃむしゃ食べてるトコだ。クロムクラハ程の効果は見込めねェものの、気持ち程度は回復する……こともなくもなくもなくも。

 

 ンなこと考えてたら。

 

「ほら、できたよ。煎じ薬だ。飲みな」

 

 と言ってフォコ婆が……えーと、見間違えなければ見覚えのありすぎる色の液体を湯吞に入れて……あァシトラスハーブのいい香り。

 

 恐る恐る口をつけりゃ、成程、クソ不味い。

 が──回復力が桁違いだ。魔力への効果もそうだが、癒しがここにある。

 

「……それをごくごく行ける奴は初めて見たねぇ」

「いや……作ってもらったことがあってな。そン時慣れた」

「製法自体は特別なものじゃあないけど、材料が希少だ。そいつはね、フリュクシル……春の目覚め、なんて呼ばれる草を使ってる。地獄の果て、奈落の底、空の淵……とにかく誰も寄り付かない場所にしか咲かない花。──なんて呼ばれているけど、実はその逆。どこにでもある花。この世界になってからは特に、どこにでも咲くようになった花のエキスを抽出したものさ」

「フリューリ草じゃねェのか」

「同じ科の別種だねぇそりゃ」

 

 フリューリ草は春の暴風だっけ? なンだ、春になんかあるのか?

 

「で……なんだよ、婆さん。いいのか、娘殺した奴にこんな施しして」

「別に、ロコが死ぬことは知っていたからね。……"予言の子"。古い人間……というか、この世界が置き換わる前から生きてる存在ならだれでも知ってる事さ。昔は誰の夢にも現れて、色々な予言を残していった神様がいたからね」

「それが、フクン・ティザンか」

「なんだ、知ってんのかい」

「知り合いだよ」

 

 またお嬢たちの入ってこれねェ話題で申し訳ねェが……っと。

 起き上がれるようになったか。凄まじい効能だ。クソ程不味いけど。

 

「フクン・ティザン……封印措置の魔法少女ですのね」

「【運誓】の魔法少女……。【運誓】自体は零の魔法だが、多分それ以外の部分で権能は持ってたンだろうな。……なァ婆さん。フクン・ティザンは、何の神なんだ? 初めて会った時夜だって感じなかったンだが」

「運命の神さ。是磑様が生命の神。ソンヒューィは悪夢の神。……そうだね、アンタ、知っている事と知らないことの差が激しいようだから、少しだけ昔話をしてやるよ。そっちの嬢ちゃん達は、聞いてて眠くなったら上のベッド使っていいからね」

 

 おい、なんでお嬢たちにァそんな優しいンだよ。

 ……いや別にいいけどさ。優しくしてもらわなくて。

 

「まず……この世界が夢の世界である、というのは知っているかい?」

「……知ってる。けど、アンタらがそれを知っているとは思っていなかった」

「現代の子は知らない子の方が多いだろうね。かつてこの世界は"山脈月"と呼ばれていた。ここ、大陸アルシナシオンも昔はでかい山だったのさ。開拓され尽くして、今や山の影もないけどね。昔はもっとボコボコで……海を隔てたその山々に、アタシたちのようなちんまい部族が住み着いていた」

 

 始まった昔話は、正直恵理須のソレとは違い過ぎるもの。

 だが──それにしては、似過ぎている。現代が。

 

「ある時、世界の寿命が発覚した。受け入れた者と受け入れられないもの。それらは派閥にわかれ、受け入れられないものは集って1つの国を作り上げた。受け入れた者達は抵抗をせずに、そのまんまだった」

「……関係の無い話ではありませんのね」

「ああ」

 

 世界の寿命。

 どこの世界も抱えてンだなァ。

 

「山脈月はね、夢の世界だ。というのも、種族として人間以外のものが住み着き過ぎている。エルフ、レプラコーン、グレムリン、ドワーフ、ゴブリン……所謂妖精と呼ばれる奴らがわんさかいる。ヒッヒッヒ、アタシらも妖精なのさ。元々はね」

「だったら妖精の世界、とでも言った方がいいンじゃねェか。夢の世界ってな……どォにも、自己否定が過ぎる」

「それは対抗心さ。ソムヌス、という神をしっているかい?」

「あァ。会った事ある」

「……神の知り合いが多いね。ああ、そもそもアンタ神の使徒だったか」

「おォさ」

 

 それは関係ないけど、まァ口は挟まないでおく。

 

「最初にいたのは是磑様とソンヒューィ、そして今は亡きバーステット。生命の神、悪夢の神、覚醒の神。それらがこの世界を作り上げ──けれど、そんな山ばかりの世界だったからね。一向に発展して行かない世界に腹を立てたのか、ソンヒューィが世界に手を出し始めた。是磑様は基本放任主義、バーステットは平和ならそれでいい、みたいな神様だったのが大きいだろう。ソンヒューィは好き放題できてしまった。できてしまったがゆえに──同時期に出来上がったエリスという世界から、気に入ったものを写し取ってこの世界に転写し始めた」

「子供か」

「そうさ。是磑様とバーステットに比べて、ソンヒューィは子供だった。反転神……元は老齢な神だったのが、新しく生まれ直した神だからね。子供も子供さ。……そしてソンヒューィの目は、エリスにおけるもっとも平和な国に向いた」

 

 恵理須におけるもっとも平和な国。

 どこだ。あァでも昔ってンなら、ポマネイ・リコが作ってた国か? 一番でけェ国だったらしいし。

 

「カシヨの国。それは現実に無く、それは夢の中にだけ存在し──誰も死なず、誰も困らず、誰も苦しまない世界」

「あァ……そいや其夢盗が言ってたな。昔は国だった、って」

「同じ夢の神が管理するその国に、ソンヒューィは対抗心を見出した。大体の地形を転写して、その上で()()()()()()()()()()()()()と──この世界への"置き換え"を試み始めた。その頃から、山脈月は夢の世界だと言われるようになった」

「じゃあ実際に夢の世界ってワケじゃねェんだな?」

「さてね。ソンヒューィが起こしたその"置き換え"によってこの世界の実体は失われた。同じくしてコレ……死んでも生き返る即時蘇生が為され、コピーされたエリスの国々には世界の寿命を受け入れなられなかった者達が配属された。実際、ソンヒューィの置換によって世界の寿命はなくなったからね。彼らからしたら、地形がどうなろうが、生死がどうなろうが、ソンヒューィは崇めるに値する神になったんだろう」

「で、受け入れられなかった奴らはコピーされてねェ場所で細々と生きてる、ってか?」

「そうさ。そのほとんどが妖精族……そこのお嬢ちゃんのようなエルフや、アタシらルーホラコルンになる」

 

 成程。

 エルフの村、ロートス一族なンてものが恵理須になかったはずだ。無かったんだから。

 

「バーステットはなんで死んだんだ」

「ソンヒューィに対抗したのさ。無論、戦争みたいな話じゃない。沢山の神を生み出すという方法で──ソンヒューィが好き勝手できないように、この世界のいくつかを固定化した。それによって力のほとんどを失ったバーステットは単なる妖精の1人に戻り、神ではなくなった。今も生きているかもしれないけど、神としては使い物にならないだろうね」

「ジーウィースはそんなことになっても放任か」

「ああ。その是磑様でさえも、最近いなくなっちまった。バーステットが生み出した神々も他の世界に遊びに行ったり面白くないからやる気がないとか言ったり……まぁ、あんまりソンヒューィに対抗できるものじゃない。だから、今もやりたい放題さ。誰もソンヒューィを……あの子供を止められない。止める気があるヤツがいない」

 

 あー、なー。

 ジーウィースなー。

 

 ……出そうと思えば出せる、よなァ。余計なおまけが2つついてくる可能性があるのが厄介だけど。

 

「エルフに、レプラコーン、グレムリン、ドワーフ、ゴブリン……全部御伽噺の存在ですの」

「フェリカには、私がおとぎ話の存在に見えるか?」

「あ、いえ。……そうですわね。ロティスさんがいますから、そんなことを言うのは失礼でした」

「あ、いや。落ち込ませるつもりで聞いたわけではない。……ミサキ、このような場合、なんと繕うのが正解だろうか」

「私に聞くな。私が一番わからん」

「口下手しか、いない」

 

 うん。正解。 

 背中メッシュ大正解。

 

「もっといろんなのがいるよ。悪魔もいるし、巨人もいる。そういうのはあんまり表にゃ出てこないけどね」

「……悪魔、ですか」

「おっと、そう殺気立たないでおくれ。何か嫌なことがあったんだろうが、アタシらは別に繋がっていない」

「いえ、申し訳ないですの。少々どころじゃなく嫌な思い出しかないもので」

 

 リラ・キスキルもこの世界出身か。

 世界の関所どーなってンだ。緩すぎだろ。パスポート制にしろ。

 

「それで、バーステットが生み出した神の中に、フクン・ティザンがいたンだな?」

「あぁ、そうだ。運命の神フクン・ティザン。初期に生み出された神だからね、その分強力な存在だった。ある時……1000年くらい前か。ふらっと"ハーレムを作ってくる"と言ったきり帰ってこなくなった放蕩神。けど、アレの残した予言は世界各所で色んな余波を残してる。……タチが悪いのは、悪い予言をするくせ、それを変えようとどう頑張っても未来は変わらない、ってとこだろうね」

「俺が来たよォに、か?」

「ああ、そうさ」

 

 クロムクラハも、世界を壊し尽くす大魔王だかも、まァそうだな。

 不吉な予言残して絶対変わらねェとかホントにタチが悪い。その上で"ハーレム作ってくる"つって出てって、封印されて、もう飽きたから殺してほしいつってたのかアイツ。

 ……もう飽きた、部分にはアンディスガルとして後悔はないが、ちょいとその生き方もっと聞いておくべきだったかな。

 

「……仕方ないから、2歩目の予言をくれてやるよ」

「え、いいよいいよ。要らねェ」

「"遠からん島。浅からん夢。訪れぬ安寧を齎す者よ。狭間の子を眠らせ、磔の子を眠らせ、明るみの翼に傷をつけろ。世界を壊す2歩目の唄は、古の村によりて"」

「要らねェつったのに!」

「ヒッヒッヒ、アタシらには一応聖なる言葉を伝える義務があるのさ。黙って聞きな」

 

 聖なる言葉って……。

 ふーちゃんに似合わなすぎる。つかふーちゃんあのキャラでずっと予言の巫女やってたンかな。尊敬されなそうなんだけど。

 しかし、ジジフスにフォコ婆に……これで2つ目と。ふーちゃんは妖精にだけ予言を遺してるって認識でいいのか?

 

「次の予言とかは聞いてねェの?」

「アンタが次に行く場所にそれを伝えようとしている妖精がいるだろうねぇ。ヒッヒッヒ、あんまり神を舐めない方がいい。アンタが思っているより、フクン・ティザンは怖い神だよ」

「知ってる。出会い頭にキスしてきたし」

「……いやそういう意味じゃないけどね」

 

 あァ、わかってるよ。

 神を侮っちゃいけねェなんてことくらい。よく知ってる。

 

「んじゃ、そろそろ行くわ。茶、ありがとな、婆さん」

「えっ、大丈夫ですの? もう少し休んでいた方が良いんじゃ……」

「大丈夫大丈夫。いざとなったらお嬢に運んでもらうから」

「それは……それで、構いませんけれど」

 

 やめとこ。

 がんばろ。

 

「けど、いいのかい? アタシらは野盗稼業をやめないよ。ロコがいなくなったって、貧しいものは貧しいんだ」

「はン、狐や狸が人間化かすよォなモンだろ。それを懲らしめたりするほど俺達ァ暇じゃねェのよ。ロコってなはともかく、アンタらは別に死の運命にいねェんだ。俺の干渉する話じゃねェ」

「そうかい。それじゃ、1つだけ」

「あン?」

 

 ──知覚強化──キャンセル。必要はない。何故ならここには、彼女がいる。

 

「──!」

 

 鼻先三寸。

 突き付けられているのァ──バカでけェ針、かね? ルーホラコルン。レプラコーン。成程。

 

「あの……避けられるものは避けてくださいません? これ、前にも言いましたわよね。一度避けられるだろうと思って見逃した後、避ける動作がない事を確認してから動く、というのはそれなりに心臓に悪いんですのよ?」

「見逃すなよ。お嬢にとって俺ァ雑魚なんだろ。だったらもっとしっかり守れや」

「ぶっ飛ばすぞ」

 

 最近マジでお嬢の口調が心配だ。

 アールレイデ家の誇りはどこへ。

 

「で、何のつもりかは聞いておくよ、婆さん」

 

 杖だと思っていた。

 仕込み刀ならぬ仕込み針だった事にァ驚きだが──その程度の速度、お嬢が止められねェはずがねェ。単なる人間に向けるには、そしてその歳の婆さんがやるにァあんまりにも高速の突きも、お嬢の前じゃ形無しってな。

 

「──エルフは純朴な種族だけどね。基本、妖精っていうのは人間を騙すものってことさ」

「そりゃァ知ってるよ」

「いいや、知らないさ。──また会うことがあれば、よろしくやろうじゃないか、人間。いいや、夜の使徒、アンディスガル。その時はまた、フリュクシルの茶を振る舞ってやるよ」

 

 仕込み針を引いたフォコ婆が、こつんと床を小突く。

 

 その瞬間。

 

「ッ、これは──」

「無害だ。焦らないでいい」

 

 家が。否、世界が色を落とした絵具のよォに溶け落ちる。

 さっきまであった家具類も、村としてあった全ても。色が落ちて、真っ白になって──それが割れて。

 

 ──そこには、ただの森が広がっているばかりだった。

 

「……ロティス」

「レプラコーンは1夜にして居を移す。そこまで驚く話でもない」

「……狐か狸に化かされたよォなモン、か」

 

 なんつーか。

 あァさ、妖精は騙すもの、ね。肝に銘じておくよ、婆さん。

 

 

 

えはか彼

 

 

 

 俺以外はまる1日休んだよォなもんだ。

 そのまま北上していく。歩いた方が自然形成のダンジョンは見つけやすいンじゃねェかと問うたら、そんなことはないらしい。

 なんでも自然形成のダンジョンってななんにでも形成されるワケじゃなく、元々そこに何かないとダンジョンにはなり得ないンだと。

 少しでも過去の……昔の地理に詳しいロティスが上空から見て、昔あったのに無くなっちまってるってな場所に降り立つって方が効率良いとかなんとか。

 

 それで今空を飛んでいるワケだが。

 

「どーいうことだ、こりゃ」

「? 何が?」

「いや、何が、って……甘ェし」

「甘雲だからな。甘くないわけがない。だがあまり食べるな、不衛生だぞ」

 

 なんか、雲に乗れた。

 いや、いや。あるよ? ファンタジーとして、発想としてあるよ? 雲に乗る。うんうん、ファンタジーらしいらしい。

 ん-? そういうファンタジーだっけ? というかそれメルヘンであってファンタジーじゃなくね?

 

「これがあるということは、魔女の隠里はまだ健在かもしれない」

「魔女の隠里?」

「ああ。ここからもう少し北西に行ったところにある村だ。健在ならダンジョン化はしていないだろうから、立ち寄る必要もない」

「……魔女と魔法少女は、何が違うンだ」

「え?」

「お前、そんなこともわからないのか。はぁ。まず自分が何なのか言ってみろ。神だのなんだのは抜きで」

「あー、まァ一応魔法少女だ」

「そうだ。では魔法少女とは何かを言ってみろ」

 

 魔法少女とは何か。

 魔法を使う少女。……だと、鬼教官とか指揮官殿とか、もう"その域"にいねェ人が該当しなくなるンだよな。冷静メイドですら少女って歳じゃねェし。

 いや、いや、それについてはずーっと気になってたさ。なんでこいつら自分たちの事魔法少女って呼んでるんだ、って。この世界じゃそォいうものなのかな、で済ませてたけど……魔女なんてのがいて、それがおとぎ話の存在になってくると色々違う。

 つーかそもそもこの世界ってEDENに属していなくとも女性は魔法使えるし、男も魔力使えちゃうから……え、魔法少女とは。何?

 

「おい、まさか答えられないとは言わないだろうな」

「梓さん、恵理須での定義とそう変わりませんのよ。大丈夫ですわ」

「……」

 

 恵理須での定義……も、知らないな俺。

 嘘だろ。教本に書いてあるだろそれくらい。教本の内容は全部覚えてンだ。……が、該当知識なし。

 

「えーと、魔法を扱い、学び、発展させていく者の総称、とか?」

「それだと全世界の人間が魔法少女になるだろう。いや、人間以外もか」

「……だァって、それしかわかんねェよ。なんだ。答えを言え答えを」

 

 絞り出した答えがコレだよ。

 なんだ、魔法少女って。魔法使う少女じゃねェのかよ。

 

「魔法少女とは、魔法と共に成長し続ける女性を指す言葉だ」

「……俺の答えと何か違うか?」

「魔法を扱う者、学ぶ者、発展させる者。それぞれいるが、それらは魔法少女とは言わん。魔法使い、魔法学者、魔法研究者……ゆくゆくは私達もそれになるかもしれないが、私達はまだ魔法少女だ」

「あー、つまり、まだ子供なワケだ。ひよっこっつーか、ちょいと違うな、あー、だから、まだなんにでもなれる存在、みてェな?」

「そうだな。可能性の塊を指す。……一部には、殻を破くことのできていない者、などと揶揄する輩もいるが」

「殻、ね」

 

 成程ねェ。年齢的な少女じゃねェのか。

 なんだ。新米? まだ配属されてねェ状態、みたいな。大学3年生か4年生みてェな。あるいは院生みてェな。あァまァ高3でもいーけどよ。

 そんな感じか。

 

「そして、魔女というのは魔法と一体化した者達……魔法になった者、として描かれる生物ですの」

「……そりゃ」

「ええ。恵理須での知識を取り戻した私にとっては……それがなんなのか、少しわかります。もしかしたら、ですけど」

 

 魔法と一体化。

 ……恵理須じゃ、魔法に食われたと……そォよんでいた存在。

 ヒト上がりのオリジン種、か。

 

「なるほどなァ。まァスルーするってな賛成だ。そこに死がないのなら、俺が干渉することもない」

「それなら特に関りの無い場所だろう。何故なら魔女の隠里は、不死の研究をしていたのだから」

「──……」

「不死の研究、ですか。でも、この世界では……その置換とやらが為された後では、意味のないことなのでは?」

「そうかもしれない。私も訪れたことがあるわけではないからわからない。だが、今の世における即時蘇生は死なない、ではなく死んでも即座に生き返る、だ。もしかしたら魔女たちの目指す場所とは違う可能性がある」

「不死か……どういう存在なのだろうな。身体に刃を通さない、とかだろうか」

「刃が通らなくても、殺せる」

「たとえ話だ」

 

 不死の研究。

 ……うーん。うーーーーん。う~~~~ん。

 余計なコトする必要はない、と思う。キスキルの結晶がないのなら、俺が変に干渉するのはよくない、気もする。いや別にアンディスガルとしての使命だけに生きてるワケじゃねェから、そこばっか気にしてなにもしねェってな違うンだけど、つったって今は急いでるからなァ。

 

 でも、不死か。

 ……神でもねェ奴が?

 

「上空を通り過ぎるだけにしよう。上から様子を見て……」

「魔女の隠里は深い霧に覆われている。空から内部を窺い知ることはできない」

「あー」

 

 いんやさ。

 さっき、予言聞いたじゃん? 2歩目の予言とやら。

 ──"遠からん島。浅からん夢。訪れぬ安寧を齎す者よ。狭間の子を眠らせ、磔の子を眠らせ、明るみの翼に傷をつけろ。世界を壊す2歩目は、古の村によりて。"

 って奴。フォコ婆が言ってたやつな。

 狭間の子は……ロコだとして。

 次が磔の子。魔女と磔。……関係ありそうが過ぎる。古の村、ってなも別にルーホラコルンの村単体だけじゃねェかもしれねェし。

 でもこれ、じゃァ行かねェ、スルーする、つってなって、その先に磔の子とやらがいたらどォすンだって話。ふーちゃんの予言は不吉なくせに避けられないって話だし、その可能性はゼロじゃない。じゃァやっぱ魔女の隠里に立ち寄るゥ?

 

 ……うわー、全文知りてェ。最後がハッピーエンドな予言なら道中がどォでもまァいいけど、これ不吉な予言くせェんだよなー。ヤだなァ。ふーちゃん夜の使徒になってくれねェかなァ。ブラックドッグに毎日追っかけまわされてひーこら言ってほしい。

 

「行くか」

「私達はいいですけれど……また無茶しないこと、約束できますの?」

「できねェ」

「……ま、そうでしょうけれど。今回は目を離した私達が悪いですし。次貴女が何かしそうになったら、口に石を詰めて磔にして持ち帰りますの」

「こえーな嚙み砕いて喋るよ」

「溶岩詰めますわ」

「こえーな飲み干して喋るよ」

 

 んじゃ、まァ。

 ──寄り道、3つ目。

 魔女の隠里とやらにGOだ。

 

 

 

えはか彼

 

 

 

 その日は朝から騒がしかった。

 何か大きな魔物が出たのか、それともまた地殻変動か。

 どうせ新米には話は回ってこないだろう、なんて思いつつぽけーっとしていれば、おばばに頭をぶん殴られた。

 

 曰く、私には"客人"を迎え入れる役目があるらしい。警戒を解かせて、被害を最小限に食い止める役目が。

 

 そんなこと、もっと事前に言ってほしかった。

 なんでこんな直前に言うのか。その文句を言ったら、さらに殴られた。

 曰く、どれだけ隠していても監視はある。言葉には強い力があるから、むやみやたらにその名を口に出すことはできない、とかなんとか。

 

 そう言って。それだけ言って。

 おばばと、他のおばば達までもが寄ってたかって、私を十字架に括り付け始めたのだ。

 何事だと問うても、これが歓迎の儀だとばかりに教えてくれない。昨日まで外から輸入した動きやすい服装でいた里の大人たちが、突然仮装でもするかのように真っ黒いローブを着始めたのも意味が分からない。目深な尖がり帽子。絶対邪魔。でも、必要なコトらしい。

 

 客人の歓迎に仮装する必要があるのは何故か。

 私が磔にされる意味は何か。

 

 被害を最小限に抑えるとは。

 

 なーんの疑問も解決されぬまま──それは来る。

 

 ソレ。ソレばかりは、私にもわかった。いつもぼんやりしてて、ぽけーっとしている私にもわかった。

 

 この隠里を覆う迷いの霧。それを突っ切ってくる──濃い、濃い、余りに濃い神の気配。

 夜の気配だ。

 私達が忌み嫌い、私達が追い縋るソレから逃れんと日々研究に明け暮れる──濃い、夜の気配。

 

 何が来るのか、と再度問うた。けれど誰も教えてくれない。

 そのまま杭は、磔は地面へと立てられ、大人たちもおばばも家の中への閉じこもってしまった。

 

 怖い。

 怖い。

 怖い。

 

 夜とは死だ。夜とは終わりだ。存彪位が齎した"暮れない朝"の術式は、この夜を退けるためのもの。何故、何故、ここに夜がいる。夜が来る。

 存彪位の信奉者でない私達が、けれどあの神に供物を提供するのは、夜から守ってもらうためだ。

 何故。何を。どうして。

 

 ──"被害を最小限に抑えるため"

 

 それは──つまり。

 私は、生贄、ってこと?

 

 

 

「──よォ、チビドラゴン。何俯いてンだ。地面にゃなーんにも無いぜ。顔上げな」

 

 次に私の視界に入ったその銀は──暗くなった世界に、新たな輝きを落とすものだった。

 

 

 

えはか彼

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