遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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138.絵鰤泥螺畏怖可難会疎負不綯上亜.

 私は魔法少女じゃない。

 何度も言っている事。何度も確認した事。

 肉体が魔法少女から培養したものであるのは事実だ。だけど、その精神はあるオリジンのものであり、心は……もう、よくわからない。

 それでもここで、私は魔法少女として扱われている。

 それは真実を理解していないから──ではなく。

 

 ──"こんにちは。貴女がアズサさんね。ある方の置き土産として、貴女にはこれから来るだろう彼女よりも先に、学園に通ってもらいます。魔法少女として──かつて行方不明になって、そのまま戻ってこなかった少女、ミズメとしてね"

 

 一番上が、全部を理解した上での、魔法少女扱い。

 魔物ではなく。それ以外の何かではなく。人間ですらもなく。

 

 ──"大丈夫。お前は幸せを掴み取れる"

 

「……うるさ」

「どうしたんですか、ミズメさん。急に俯いたかと思えば珍し……くはないですけど、虚空に向かって暴言だなんて」

「……思い出し文句」

 

 体育の授業。

 かつての学園エデンにあった授業項目──主に戦闘に類するものはすべてこの体育の授業に移し替えられている。

 ただ、魔法少女になった時点で体の成長が止まる彼女らが、どんな身体づくりをするのか、というと。

 

「次、ミズメさん。前に来てください」

「……はい」

 

 前に出る。

 知覚強化なんて必要ない。私は見ようによってはゆっくりと……膝を曲げる。ただ、座る。

 その直後、頭上をトゲのついた鉄球が通り過ぎて行った。

 

「はい、問題なしね。次、リキュア・アールレイデさん」

「はい!」

 

 とまァ、こんな感じ。

 即時蘇生のあるこの世界においても、どのようにして攻撃を避けるか。察知するか。そういうものが求められる。

 それの鍛錬が、これ。

 ミスれば普通に死ぬ。死んだところですぐに生き返る。どれほど危なくとも、どれほど倫理に反していても、生き返るのだから問題は無い──というのが、この世界の常識だ。

 アイツ程、じゃないけど。

 私だって必要の無い死ってのは忌避する側にある。だからすごく気持ちが悪い──のだけど、わざわざそれを提唱して浮くデメリットも必要はない。

 

「流石だね、ミズメ。鉄球を見る事さえないとは」

「……押し出される、空気の、圧力で、範囲は、わかる」

「成程……風を読んだ、ということか」

「……そうともいう」

 

 喋りづらい変装道具での会話にも、ストレスを感じなくなってきた。

 

 にしても。 

 学園長経由でこの変装道具が渡されてきた時は驚いたものだ。これァ安藤さんとマッドチビ、ニヤニヤ丸眼鏡にしか作れねェと思ってたンだけどな。曰く安藤さんは死んでて、ニヤニヤ丸眼鏡はお巡りさんやってるってンで絶対無理だと決めつけてたンだが。

 出所は聞いても教えてくれなかった。

 

「そうだ、ミズメ。今日の放課後あいているかい?」

「……うん」

「それじゃ、ダンジョンへ行こう。勿論リキュアも連れてね」

「……いいよ」

 

 ダンジョン。

 そういえば、3人で行くのは初めてか。

 こっちのエデンは1年に1回入園式があるから、あっちのエデンと在園期間が微妙にズレてンだよな。

 だから私含む1年生は割合最近入園したばっかりになる。

 ……嬉しいことに、リキュアと理央との縁とでもいうべきか──私達はすぐに仲良くなれて、1人の先輩しか所属していなかった新聞部に全員で入部。以降エデンのパパラッチ3人組として名を馳せることになる。主に悪い方向で。

 

 さて、そんな話はどうでもいい。

 ダンジョン。ダンジョンか。

 前の迷宮では正直足手纏いも良い所だったけど──こっちのダンジョンは然して難度が高くない。何度か1人で潜ったけど、特に何かがあるということもなかった。

 

 とはいえダンジョンは入る者によって様相を変える。

 最悪【終焉】を使うとして、さて、はて。どんな言い訳を用意しておこうか。

 

「……何?」

「いや、これだけ思考に耽っていて、これだけ至近距離なら一撃くらい、と思ったんだけどね」

 

 受け止めるのではなく避ける。

 顔を逸らして、理央の拳を。……普通の奴が食らったら確実に死ぬ威力だ。まァ、即時蘇生するこの世界じゃ、「あまり騒がないように」程度の注意しか受けない。

 怖い世界だと思う。

 なんとかしよォとしてるアイツは、まァ、凄いとは思う。

 いずれ覚める夢だとしても、これをどォにかしたいという気持ちは──。

 

「……ちょっと行ってくる」

「またかい? 授業中なんだけどな……。ま、いいよ。どうにか言い訳をしておく」

「……ありがとう」

 

 大きく跳躍し、エデンから抜け出る。EDENの壁を蹴って蹴って中央塔──の、上。てっぺんにまで行って。

 

「何用だよ」

「ちィっとな。情報共有兼新しい話だ」

 

 凄まじい威光と共にそこへ降り立ったクロムクラハへと、対峙した。

 

 

 

 

 つっても別に戦うワケじゃない。

 マジの雑談だ。

 

「冷静メイドが、ねェ。わかった、見かけたら気ィつけとくよ」

「頼むわ。で、こっちなンだが……」

「あァ、変わらずお上にでけェ動きは無いよ。ただ、ハイドレート以外の創設者が輝きの園に向かったくらいかね。大詰めなンだと」

「ふむ……」

 

 クロムクラハ。

 本質は梓・ライラック──に見えて、実際のトコはもうかなり違う。

 食べるためならば殺すのは仕方がないという精神性が転じ、殺すのならば糧としなければならないという方向に変わった梓・ライラック。ゆえにそこまで殺しへの忌避を持っておらず、魔法少女への無為な殺戮こそ行わないものの、その力を揮うことに躊躇はあまりない。

 あと自分の強さをわかってねェのか、その凄まじい威圧感を抑える事を知らねェ。正直今まで相対したどの神よりも神々しいコイツは、文句なしに魔物として最上級だろう。固有武器も魔法も使えない、ハイリスクな世界言語しか使えない──とはいえ、単純な性能が全てに勝っている。あとオーディンの能力使えるのがずっこい。

 なンか上手く共生してるらしく、オーディンが表に出てくることは滅多にない……ものの、クロムクラハの監視付きで身体を貸す、なンてこともしてるらしい。オーディンもオーディンでこの世界が気に入らないのか、割と協力的。だからクロムクラハの身体使って何かする、ってな動きは今んとこない。むしろショッピングだのなンだのを楽しんでる傾向にある。

 

「俺ァこれから梓の方へ行こうと思ってる。飛行速度だけァ俺が一番だって自負があるからな」

「だけじゃねェが、まァそうだな。輝きの園へは行かねェのか?」

「流石に騒ぎになるだろ。ビーファンくらいしかこっちの事情知ってる奴いねェんだし。ブゥリもアームドゥラも魔物だからな、多分こっちにァ来てねェ」

「……」

「ン? あァ、お前さん魔物なンだっけか。今"でも私がいるしな……"とか考えたか?」

「まァ、ちっとな。お前ァなんだっけ、直接送り込まれたンだっけ?」

「そそ。だから俺は除外するにしても、お前さんは……多分見分けがつかなかったとかその程度だよ。存彪位ってなガキらしいし」

「年齢で言えばお前も十分ガキだろ。私もだけど」

「ん-、まァそうかもな。お前よりァ年寄りだが」

「そりゃ大体の奴がそォだよ」

 

 まだ生まれてから1年も経ってねェんだぞ。

 記憶はまァ、14年分あるけど。

 

「あ、そうだ。なァ頼みがあるンだけどよ」

「なんだよ」

「魔煙草買ってきてくれねェ? 俺の魔煙草もう切れそうでよ。流石にこの姿で買い物行くワケにゃいかねェだろ?」

「オーディンは行ってンだろ?」

「アイツなンか知らねェけどその変装みてェな術使えるンだよ。俺にァ教えてくれねェんだけど」

「……」

 

 魔煙草。

 こっちの世界にもあったソレは、こっちの世界のが愛好家が多い。

 一般人も全員魔法を使うよォになったからだろう。渋い顔のオッサンとかが魔煙草銜えて魔法の撃ち合いしてる場面とかよく見る。

 あの、クソ不味いものを。

 

「……わかったよ。次に会う時までには買っといてやる。ちなみにお前、金は出せンのか?」

「出せるわけねェだろ。魔物なめンな」

「人に物頼む態度じゃねェ……」

「金は出せねェが情報は出せる」

「……契約成立だ。言え」

 

 どうせ情報先に言えって言っても成立してからじゃねェと言わねェ、って言ってくるからな。ンなことわかりきってンだ。

 

「話が早くて助かるよ。パルリ・ミラのな。新情報だ」

「へェ。エデンにいる私に入らなくて魔物に入ることがあンのか」

「俺が毎日どンだけの情報集めてると思ってやがる。……まァ聞き出したっつか盗み聞きしたのはオーディンなンだけど」

「仲良いなァオイ」

 

 私達……というかマッドチビが仕掛けた罠。

 育て上げられたクロムクラハという肉体にオーディンを移植する計画は、クロムクラハの意思にオーディンの自我が負けてしまったことにより、阻止された。

 オーディンの意識が潰えたわけではないものの、主導権は完全にクロムクラハに有り──だから、敵対してるもんだとばかり思ってたンだが。

 

 内外で普通に仲良いとか、なんか……すげェな。誰とでも仲良くなれるじゃん。

 

「パルリ・ミラ。その店の所在を知る者が所在地をバラすと、もう二度とその店に訪れることはできなくなる、っつー幻の店。……だが、幾らかの情報ってな零れ落ちるモンだ。まず、店主は魔女らしい。魔女ってわかるか?」

「魔物っつか、妖精だろ。恵理須じゃ滅びてたけど、そォいうのがいたんだって安藤さんから教えてもらったよ」

「へェ、安藤さんから。まァいい。そう、だから、パルリ・ミラは魔女含む妖精たちが経営してて、だから場所がわからないし、話すと訪れることができなくなるってなそォいう理由らしい。魔法か呪いか、何かしらがかかってンだと」

「……肝心の場所は?」

「EDENの中であるのは確実だ。それも、恵理須の頃にあった建物のどれか。つまり地下じゃねェし監視塔でもねェってこった」

「ふむ」

 

 確か……暴走繭が、店主と懇意にしてる、みてェな事を梓が言ってたような。

 じゃああの時点で……暴走繭が隔離塔から出てきた時点で接触できた、って事か? となると、隔離塔がいっちゃん怪しい……ンだけど、今ダンジョンになってるしな。となるとその近く。修練塔か教員塔のどっちかか?

 

「有益な情報だろ?」

「あァ。……ちなみに聞くけど、お前は普通に食事できンの?」

「なんだよ、もしかしてマジで買えた場合食べられないと可哀想だな、とか思ってくれてンの? 優しいねェ~!」

「ぜってー買ってきてやんねェ」

「ハハ、すまねェって。食える、食えるよ。つか俺ァそうやってクロムクラハになったみてェなモンだからな。経口摂取じゃねェと味はわからんからちゃんと口で食べるけど、体に取り込みさえすりゃなンだって食えるぜ」

 

 そういうモンなのか。

 私の接する精神体っつーと、疑似【幽拐】で捕まえてきたモンくらいだったからな。

 生態とかなんもわかんねェや。

 

「さて、そろそろ俺は行くよ」

「あァ。気をつけろよ。お前ァ生き返れねェんだから、死ぬな」

「はいはい。……そだ、1つ言い忘れてた。まァお前に言っても仕方ねェんだけど」

「なんだよ」

「ウォムルガ族の戦士団……あの里は無かった。ベルウェークもいなかった。それだけは言っておくぜ」

 

 ああ、あのアインハージャとかいうの。

 無かった、か。ちなみに学園内にもその2人はいない。

 

「私はあんまりその2人に関わりないからな……。ま、気には留めておくよ」

「そうしてくれ。──じゃあな。お前こそ、死ぬなよ。生き返るからって──」

「はいはい。お小言はもういーから。死なねェよ。無駄な死は嫌いでね」

「あァさ、お前はそれでいい」

 

 そう言って──クロムクラハが飛び立つ。

 陽光を受け、黄金に輝く翼。お嬢を彷彿とさせるその色は、しかし頭部に流れる銀によって別の色になる。

 輝きだ。

 輝色の精神体が宙へ浮き──直後、北東方向へ急加速して飛んで行った。

 

「……一々、無駄にかっけェんだよな」

 

 私もああいう飛び方したい、とか。

 全然思って無いぞ。

 

 

 

えはか彼

 

 

 

 さて、ダンジョンである。

 

「通行証を」

「はい」

 

 警備班の人にカードを見せる。それなりにする金を支払うことで申請できるダンジョン入場用通行証。

 早期に学園を出てったアイツは年間パスを貰っていたらしい。置いてけよ。私にくれよ。結構高いンだぞこれ。

 

「確認した。ダンジョン内部での注意点はわかっているな?」

「はい。死んだら外に排出される。怪我などは死んだ時点で治る。ダンジョン内の物は何を持ち帰っても良い。ただし落とし物が帰ってくることはない──ですね」

「よろしい。それでは、行ってくるといい」

 

 手続きをしたリキュア──ではなく、私が前に出る。

 一番強いの私だから。真ん中にリキュア、殿を理央という形で隔離塔へ踏み込めば。

 

 世界が一変する。

 暗い通路は明るい場所に。硬い足場は少しばかり水の張った床に。

 

 ──ここは。

 

「これは……また、不思議な所に出ましたね」

「うん。前に私が1人で入った時は、村に近い景色だった。他の子と入った時も外で……こんな建物は初めてだな」

「……理央、防御術。壁、じゃなくて、身に、纏う、タイプ」

「ミズメさん?」

 

 対応が遅い。

 地面を蹴り、理央の背後から切りかからんとしている鎧騎士の頭部を掴む。そのまま左側の壁に足をつけて走り、今まさに組みあがらんとしていたロックゴーレムにぶん投げる。

 亜空間ポケットから取り出すはクロスボウ。別に銃でもいいンだけどな。ミズメでいるときはこれ、って頭が思ってンのか、こっちのが使いやすい。

 

 それで、リキュアに向けて矢を発射。

 何事かと伏せるリキュア──の眼前に出現したカーネルスライムに矢が当たり、爆発四散する。

 

 ……あそこより多いな。

 

「ッ、エアフレーム!」

「ストームアーマー!」

 

 2人が身に纏うタイプの防御魔法を展開する。

 アレじゃちょっと不安だけど、まァ無いよりマシだ。

 

 ぶん投げられ、そしてぶつけられてぶっ壊れた鎧騎士とロックゴーレムが再度組みあがる。

 

 ──その前に核を蹴り砕く。遅ェっつの。

 

「ミズメさん、ここは!?」

「オーラトリガー! ちッ、スライムは面倒だね! しかもこれ、カーネルスライムかい!?」

「……カーネルスライムで、合ってる! ……突きは、絶対、避けて! ……絶対、防御、できない!」

 

 カーネルスライム。

 あっちのここにはいなかった魔物。大まかな動きは他のスライム種と変わらないが──全身を以てしての突撃だけは全スライムにおける最高威力を発揮する。その突き、岩を穿ち、鉄を穿ち、反魔鉱石さえも凹ませるとかいう至上の1つ。

 文句なしのS級魔物。私の肉体でさえ貫かれる可能性のある化け物。

 ……私に合わせてダンジョン側が難度を吊り上げた、かね。

 

「……ここは──終の因(ついのよすが)! ……過去も過去、古き歴史において、存在した、最古の、模倣迷宮(ダンジョン)が、1つ!」

「終の因……」

「な、なんですかその名前……」

「いかにも、って感じだね」

 

 思い出す気配はねェか。

 まァ、そういうモンだと割り切ろう。経験値はゼロだ。

 そんでもって、最奥周辺からスタートってな良い趣味してやがる。まァなげェからな。

 

 ……あれ。気を付けてたのに。

 なンか口悪くなってきてねェか。

 

「──ハ」

 

 笑い声が漏れる。

 ミズメが絶対にしない笑い。幸い2人には聞かれてないよォで良かったが──あァ、あァ。

 ちょいと抑えつけるのに労力がいるなァ。

 

「……手加減、できない。……守りながら、できない。……いい?」

「勿論だとも! 私達は死なないように頑張る! 君は──全力で戦ってくれ! 私に君の全力を見せてくれ!」

「本当の意味で貴女に信頼される友になる! これが私の目標です!」

「……そりゃァ、良い」

 

 また。

 変なのが出た。

 

 やっぱり不完全なのだろうか、この変装道具。

 けど、良いことは事実だ。

 

「……私は、続きを、希う」

 

 いつか自分の世界言語の意味をクロムクラハに教えてもらったことがあった。

 その時聞いた詩の、最後の一節。普通の言葉では何の意味もないこれだけど。

 ──信念を抱きしめるには、丁度いい。

 

「……破壊する」

 

 駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 走る。駆ける。疾走する。

 床も壁も天井も関係ない。クロスボウを撃ちやすい位置に自分が移動する。敵の手が届かない位置に自分が移動する。隙を突く、なンてことはしない。防御姿勢を取ったら──敵が私に恐怖を覚えたら。命の危険を覚えたら、その防御を貫いて命を奪う。

 後ろは気にしない。頑張ると言った。ついてくると言った。

 あの時の言葉はずっと忘れていない。

 

 ──"お前が俺を名乗るのなら! もっと笑えよ! 死地だぞ! 命のやり取りだ! てめェが生きるために、てめェの死力を尽くさなきゃなんねェ場だ!"

 

 ずっと脳裏にこびり付いている。

 あの時の悔しさ。あの時の恐怖。あの時の――焦がれ。

 

 避けられる攻撃を避けねェアイツを金髪お嬢様が守って。アイツに向かう攻撃全部アイツの仲間が守って。

 それを、アイツは踏ん反りかえって堂々と立ってる。

 あそこにいることはできないけれど。

 私がアイツになることはできないけれど。

 

 アイツではない、アイツから生まれ出でた私なりに──私は仲間を作り、それを信頼する。

 

「……旅出でては1人」

 

 ロックゴーレム。カーネルスライムを身に纏うそれは、最高の攻撃力を持ったトゲ有の腕を私に打ち出してくる。受け止めれば死。避ければ仲間が死ぬ。狭い通路だ。天井も壁も意味はない。

 仲間を信頼しないのならば私がどうにかするべき。

 仲間を信頼するのならば任せるべき。

 

 ──そんなことは、決してない。

 

「……朝起きては2人」

 

 受け止める。

 岩も鉄も穿つ貫通力。反魔鉱石でさえ凹ませる破壊力。

 ──けれど、この腕は。

 存在しない鉱石──伝承鉱石(MYTHOS)。存在してはいけない鉱石だ。その硬さ、推して知るべし。

 とはいえそれ以外の部分にはトゲが刺さる。肩や膝に、防御魔法なんて無かったかのよォに。

 

「ハハ──ハハハ!」

 

 轟音の最中、聞こえていない事を願おう。

 アイツみたいな。梓・ライラックみたいな笑い声が漏れ出でる。痛みを前に、馬鹿にできないダメージを前に──哂えて哂えて仕方がない。

 死地だ。命のやり取りの場だ。

 相手は単なる再現映像なのかもしれない。私達は死なば即座に生き返るのかもしれない。

 

 けれど、少なくとも今この瞬間は。

 

「……私が生きるために、私が死力を尽くさなければならない場だから」

 

 何か、錠の外れたよォな音がする。

 気にしている余裕はない。

 

 受け止めたのは仲間を信頼していないから、ではない。

 私が怪我を負い、火力に欠けが出ても──2人ならば生きて、私の助けとなってくれると。

 そう信頼したからだ!

 

「……夜共にするは──3人!」

 

 轟、と炎の燃え盛るよォな音が響き渡る。

 私達3人の中に炎使いは1人もいない。──だけど、私は。

 

 私の元になった魔物は。

 

「歓喜の下に──悉く消し飛べ。我が名は難陀!」

 

 笑い開けた口に、魔力が集中する。

 昔はよくやっていたことだ。そうだ。私は覚えていないけれど、私の精神が覚えている。

 

 さァ、受け取れ!

 

九頭珠(エンデ)!」

 

 ロックゴーレムもカーネルスライムも、湧こうとしていた鎧騎士も。

 全てが消し飛んだ。

 

 

 

 

「大丈夫ですか、ミズメさん」

「……多分」

「君がこんなに怪我をするとは、中々珍しいね。でも、ダンジョンを出れば治る。それまでの辛抱だ。もし痛すぎて無理だったら今死んでしまうのもありだけど……」

「……それは、ない」

「言うと思いました」

 

 久方ぶりに使った魔術。

 高位も高位な魔物だけが使う、魔物が編んだ魔法ともいうべき術。有名どころで言えばジョームンガンダーの虚滅雨(クハリジャ)、フルオブズヴィトニーの希風川(ヴァン)

 まァ私の下地になったオリジンはその2体には及ばないので魔術の規模もそこまでじゃないンだけど、そこまでの消費無く使える魔法って考えると今後使っていくのもいいかもしれない。【終焉】より見た目が魔法っぽいし。あ、こっちのね。

 

「よし、止血できたよ」

「……ありがとう」

「うん」

「……2人も、ぼろぼろ、だけど。先、行く?」

「行かないって言うと思います?」

「……思わない」

 

 3人でクスクス笑う。

 ま、そォいうことだ。

 

 んじゃまー。

 行きますかね。

 

 最深部周辺。否──最深部、2歩手前。

 

 ──VSアンヴァル。私達の持てる限りをぶつけよう!

 

 

 

えはか彼

 

 

 

「──っだぁ、負けた、負けた。ふぅ……大丈夫かい、2人とも」

「まだ色々な所を噛まれた感覚が残っていますけれど、大丈夫です。ミズメさんは? ……あれ、ミズメさん?」

「彼女はまだ死んでないんじゃないかな。……ホント、あの怪我でよく──」

「……普通に負けて、死んでる」

「きゃあっ!?」

 

 流石に。

 銃縛り、魔法縛り、魔術縛り、本来の全力縛り──ではできる事も少ない。

 全力だったらあんなのに負けない自信はあるけれど。

 今回は無理だった。それに、縛ってるのは自分なので、負けは負け。アンヴァル自体は倒せたけど、後ろの子獅子に総攻撃仕掛けられて死んだ。数、侮り難し。

 

「……理央」

「なんだい?」

「……収穫、あった?」

「ああ、今回の? 勿論。私達がちゃんと強くなれていることが分かったし、知らない魔物の動きを覚える事もできた。でもまぁ、ミズメでも負ける、ってことがわかったのが、何よりの収穫かな」

「それは、確かに。つまり私達でも倒せる、ということですね」

「……なにそれ」

 

 そんなことを確認するためにダンジョンへ行ったのか。高いお金払って。

 そりゃ倒せるよ。むしろ私弱い方だよ全体から見たら。多分梓にもクロムクラハにも勝てないよ。……いや梓には、勝てる……うーん。難しい。アイツがなりふり構わず全力で来たら絶対勝てないけど、弱ってたら勝てる。

 あとお嬢……は、無理。あれは早すぎ。ポニテスリットはいけるな。相性的に良い。【終焉】がぶっ刺さる。そういう意味では太腿忍者は微妙なラインだ。身体能力は……アイツが本気なら、五分。魔法はかなり相性が悪い。【終焉】は終わらせるまで時間のかかる魔法だから、あんだけ早い貫通力ある【光線】は私の【終焉】さえも貫いて私にダメージを与えるだろう。

 背中メッシュも……厳しい。どうチャージさせないか、だろォな。させなきゃ勝てる。アイツの反応速度はそこまででもないから。

 

 一番相性悪いのは冷静メイドと鬼教官だな。

 特に冷静メイドは怖い。ありゃ梓にとっても鬼門なンじゃないか。殺せる殺せないを抜きにして考えたとして、【侵食】はその辺に指や髪を置いておけばどうとでもなる魔法だ。……あー、でも、人格権を手放さなきゃいけねェんだっけ? となると【即死】は強いな。なんたって【即死】だ。人格権を手放す、って考えをする暇もなく殺せる。

 鬼教官は、私も梓もキツい。

 ただ私は無理だけど梓は痛み完全に無視して動ける節があるからなァ。「いてェ、いってェなァオイそれがなンだよオイ!」とか言って詰めてきそう。こわ。アイツこわ。

 

「ミズメ、何か落とし物かい?」

「そうだったとしても、取り戻せませんよ」

「……2人と、戦う場合、どう、対処するか。考えて、いた」

「も、もしかしてさっき言った事本気にしてるのかい?」

「冗談です! 冗談ですよ!? 私達にミズメさんと戦うつもりはありません!」

「……わかってる。でも、もしも、は、ある」

「ないないない!」

 

 これでもその"もしも"の事例を作った側だからなァ。

 ホートン種、なンてよく言ったものだけど。

 

「さて、そろそろ戻りましょうか。何か食べていきますか?」

「そうだね、そうしよう」

「……通行証、私が、払った」

「よーし奢ってあげよう! 何を食べたい?」

「え、いいんですか? じゃあありがたく……」

「リキュアはお金持ちじゃないか! ……いいけど、今度何か奢ってくれよ?」

「ふふ、冗談です。アールレイデが学友にお金を払わせて食事をする、など。悪評にもほどがありますから」

「……学友に、お金を、払わせて、ダンジョンに、入るのは。いいこと、なの?」

「あはは、ええ、ミズメさん。何を食べたいですか?」

 

 よし。

 財力ゲット。

 

「スイーツ」

「ええっ、ここは流石にごはんものだとばかり……」

「わかりました。アールレイデがよく使う街中の高級スイーツ店にご案内いたします」

「……それは、嬉しい」

 

 横で理央が絶望しているけれど。

 

 あァ、なんだろう。

 梓が頑張っているところ申し訳ないけど──楽しいな、とか。

 思っちゃうなァ。

 

 

 

 

えはか彼

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