遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

141 / 170
13.Set kind no you could eat.
141.伏理伊豆理単糸!


 なんぞ、同行者が増えた。

 理由を説明しろって言われても俺もよくわからねェんで拾ったっつったらまた怒られた。

 曰く──魔物は生き返らないのだから、飼育する、というのはあまりにも残酷な行為なのだとかなンとか。国でも許された奴しかやってねェ、クソ面倒な手続きを踏みまくった上でしかできねェことだとか。

 

 しらねー。

 

「なー、エイトス」

「……」

「あの、拾った、というにしては……そもそも懐いていないように思うのですけれど」

「そりゃお嬢の目が節穴ってだけゴフッ」

 

 なんか最近お嬢の容赦ってもンが無くなって来た気がする。

 ツッコミいれるにしても殴ることなくね?

 

「それで、散々寄り道してますけど、目的地とやらにはまだ着きませんの?」

「あァ、もうすぐだよ。つかそろそろ海が見えていいはずなンだけど──」

「潮の匂いなら、かなり近い」

「へェそういうのもわかンのか。……って、ロティスじゃなくて背中メッシュかよ」

「私が森の外に出て海などに行った事があるように思うのか?」

「確かに」

 

 この2人ちょっと声も喋り方も似てるから、そっち向いてないとごっちゃになるンだよな。ポニテスリットとも口調自体は似てるけど声は全然違うンでそこは間違えないンだけど。

 

「んじゃまァ、もう寄り道なしでパパっとひとっ飛びと行きますか。エイトス、ちゃんとついて来いよ」

「……」

「やっぱり懐いていないように見えるな……」

 

 節穴ばっかだなー。

 

 

えはか彼

 

 

 

 海の上を飛ぶこと小一時間。

 たったそれだけで、目的地には着けた。

 

 ただ。

 

「……警戒、されていますのね」

「また妖精か。こちらも油断するなよ」

「いや……妖精ではない、ような」

 

 目的地──北方海域の西部にある島。

 つまりまァ、スーグとシュジのいた島なんだけど、なんか文明があった。

 住民は人間ではなく、羽の生えた人型。

 

「多分、ハーピィ」

「つまり……魔物か?」

「絶滅したとされていたが、こんなところに残っていたのか」

 

 ハーピィ。

 鳥の翼、鳥の爪を持つ人型の魔物。

 恵理須にもかつてはいたらしいが、俺が生まれた頃には絶滅していた。単純に生存競争に負けたとかなんとか。

 まァあの世界、天鷲とか嵐鷲とか、割と普通の動物っぽい形の魔物多かったもんな。

 ハーピィって鳥と人の良いトコ取りに見えて、明らかバランス悪いから動きづらそォだし。

 

 それが目の前にいるンだけど。

 

「──何用か、夜の使徒」

「あァさ、アンタがここの長かい?」

「然り。して、何用か。ここの民に死を迎えねばならぬ者はいないはずだが」

 

 長老、って感じの……なんだろ、フクロウのハーピィ? みてェなのが出てきた。

 そして超絶歓迎されてる。まァ魔物に近ければ近い程夜の使徒は嫌いだよな。わかるわかる。魔法少女が異常なだけなンだよ。

 

「地脈吸入点……この世界に地脈なんぞ無ェが、どォにも"あった"痕跡があるンだよな。それに吸入点がここにある。用あンのはそれだけで、住民には用ねェよ」

「……そうか。わかった。ならば案内しよう」

「おォ、場所わかってンのか」

「無論だとも。……夜の使徒よ。名を教えて欲しい」

「梓だ。アンタは?」

「スパンデュル。だが、そう呼ぶ者はおらぬ。長老と呼ばれるばかりだ」

「そうかい。スパンデュル、よろしくな」

 

 フクロウのよォなハーピィ──スパンデュルは、長老と呼ばねェ俺に不服そォな顔をした後、溜息を吐いて後ろを向いた。

 

「ついてこい」

 

 言って、翼を広げ──歩き出した。

 飛ばないンかい。

 

 

 

「ここだ」

 

 そう遠くない距離を歩いて連れてこられた場所。

 大きな窪み。それはそう、まるで火山の火口のよォな。

 

 ……の中心部。本来砂でも溜まってるか、あるいは穴のありそォな場所に、紫と緑と黄色のキラキラつまりまァ、ダンジョンの入口が。

 滅びてねェ集落にもダンジョンあるんだな。

 いやあるか。国にあるンだし。

 

「あのダンジョン、入った事は?」

「無い。……ソンヒューィの術の恵を受けていない者は、基本ダンジョンになぞ入らん」

「ン? 魔物でもダンジョンで死んだら普通に排出されンじゃねェのか?」

「はい、そのはずですの」

「得るものが無い」

 

 あァ。確かに。

 人間側もほぼ得るモンないけど戦いたくて、で入ってるもんな。

 中になんか特別欲しいモンでもない限り、魔物にとっても無用だろう。

 

 んでまァ、俺達には特別欲しいモノがあります、と。

 

「入るのに許可はいるか?」

「要らぬ。──だが、夜の使徒。1つだけ忠告がある」

「おう」

「1000年前。あのダンジョンに入った者がいる。その者は未だ出てきていない」

「……まだあの中彷徨ってる、って? あるいは1000年迷う程のダンジョンだってことか」

「それは否だ。かつて人間の旅人がこのダンジョンに挑んだことがあるが、ものの数時間で出てきた。出てきて、こう言った。──ダンジョンに関係の無い怪物が待ち受けていた、と」

「あー」

 

 気に入って、居座っちゃった的なことですか。

 そりゃまた迷惑な。

 

「スパンデュル、もう1つ聞きたい」

「──予言か?」

「あァさ話が早い。ここには何か伝わってるか」

「伝わっている。だが、2節目だけだ。夜の使徒。梓。既に知っている内容だろう」

 

 ……。

 遠からん島、がここだとして。浅からん夢はなんだ。磔の子は? あァ、明るみの翼は、ハーピィ関連って考えりゃちょいと有りそうだな。

 はァ、やだやだ。外れてねェってか。

 

「ま、うだうだ言ってねェで行ってくるか。……スパンデュル、ちなみに聞くがよ」

「壊しても構わない。先に言った通り、我等に益を生むものではない」

「あいよ」

 

 察しが良いのァ楽だが、ちょいと良すぎるな。

 少しばかりの警戒を添えて。

 

「んじゃ行くぞ、お前ら。ダンジョン攻略の時間だ」

「わかった」

 

 さてはて、ここはどんな空間かね?

 

 

えはか彼

 

 

「よっす、お姉ちゃん。こりゃまた揃いも揃って大勢で。オタクも騙されちまったクチ?」

「騙された?」

「外の奴らにだよ。ハハッ、まぁ座れって。──このダンジョン、なーんにも無いからよ」

 

 ダンジョンに入ってすぐ、そんなことを言われた。

 長い髪をオールバックに流した、なんかオールドタイプのヤンキー、って感じの女性。なんなら傍らに釘バット置いてあってマジでヤンキーな感じある。もしかしないでも武器ですかそれ。

 

 内部は──高台。円形に切り取られた高台があって、その外は。

 

「うっ……暑いな。なんだ、ここは」

「それに、眩しい」

「……もしかして、ここ」

 

 ぐつぐつと燃え盛る海。

 ぎたぎたと爆ぜる気泡。

 黒とオレンジ、黄色……凡そ誰が見ても「熱そう」と感じる色が、全面に広がる世界。

 この高台さえなければ──完全に。

 

「……火口っぽい、たァ思ってたが。中身までこうとはね」

「ちなみにボスとか要とか期待しても無駄だぜ。アタシは1000年前にここに入ったんだけどね、なーんもないからどうしようもなくてどうにもしてないのさ。死ぬのはちょいと勿体ないしな」

「あァ、アンタが居座ったって言われてた奴か」

 

 言われてみれば、少し古風な服を着ている。

 1000年前。いんやさ、1000年間。ずっとこのなんもないとこにいた、って?

 

「飛行魔法は使えねェのか?」

「使えるよ? けど、どんだけ飛んでもずーっと溶岩さ。この高台以外、本気でなんもない」

「その最中に魔力塊を見なかったか?」

「魔力塊? ……あー、どうだろうな。あったかもしれないし、なかったかもしれない。あったとしてもどっちみち溶岩の奥底に沈んでて取り出せないだろうけどね!」

「……」

 

 さて──なるほど。

 これはどうしたものか。

 

「さっき騙された、つったな。どォいう意味だ」

「そのまんまだけど? 上の連中、翼の生えた連中さ。アイツら、このダンジョンに入った事はない、みたいなこと言っただろ?」

「あァ」

「ありゃ嘘だってアタシは睨んでる。なんも無いって知ってるからああいうこと言って、訪れた旅人を陥れてんのさ」

「……それしてアイツらに何のメリットがあるンだよ」

「さぁねー。魔物の考える事なんかわかんない」

 

 つまり騙された、はコイツの決めつけか。

 

「で、アンタ1000年何してたンだ」

「なーんにも」

「何にもしねェで1000年過ごしたのか?」

「おう!」

「……外の奴らが言うにァ、少し前に来た人間の旅人が、"ダンジョンに関係ない怪物が待ち受けていた"ってな証言してるけど、それについては?」

「だーから騙されたんだって!」

 

 ちょいと、信用ならんな、コイツ。

 

「お嬢、ポニテスリット乗せてちょいと飛んできてくれねェか」

「ええ、いいですわよ。ミサキさん」

「あ、ああ」

 

 背負われるポニテスリット。彼女がしっかりと自分の肩を掴んだ事を確認し──お嬢は光の翼を広げる。

 

「わお!? 何それ、何の魔法?」

「秘密、ですの。オリジナル魔法ですので」

「作成者の虚偽は零の奴が怒りそォだな」

「──知りませんわ」

 

 瞬間、2人は見えなくなった。

 遠く、オレンジの空に光点が見える。

 

「……はっえー……」

「おお久しぶりに聞いたなその自然な反応」

「梓、声に出さないだけで私も思っている」

「この前まで、あんなに速くなかったのに」

 

 まァ元【神速】、現【神光】の名は伊達じゃねェって事さ。

 そいで。

 

「んじゃ改めて。俺ァ梓・ライラックってンだ。こっちはロティスとシェーリース。コイツは連れのエイトス」

「おおこりゃご丁寧に。アタシはネベトフート。こんなナリだけど、一応神だったりするよ」

「マジか」

「マジマジ」

 

 衝撃的な出会いは、凄まじく軽かった。

 

 

 

 

 ネベトフートは、バーステットによって生み出された神の一柱、つまりふーちゃんと同期の神らしい。

 さらには。

 

「夜の神だからねー、一応。梓、夜の使徒だろ? アタシのとは違うけど、気配でわかるよ」

「こんな陽気な夜の神がいるンだなァ」

「何、ハキタって陰気な神なの? 会った事ないけどさー」

「いや、うちの神さんは陰気ってよりは安穏って感じだ。大人しいのさ」

「成程ね」

 

 見た目暴走族ヤンキーな姉ちゃん……だったけど、話してみると案外話が合うというか。

 別に俺も不良な奴らと交流が無かったってわけじゃねェしな。喋り方がこんなだ、一定の付き合いァできる。

 

「梓、本題」

「神とは……こんなにも軽いものなのか……」

「……!」

 

 なんかショック受けてるロティスはおいといて、確かに本題にァ入らないといけねェ。

 コイツが神だってンなら余計に知ってるかもしれねェからな。

 

「なァプラチナオールバック。俺達ァキスキルの結晶探してンだけどよ、なんか知らねェか?」

「お、何それ。もしかしてアタシのあだ名?」

「あァさ。ちょいとアンタを名前で呼べない事情があってな」

「別にいーよいーよ。で、何。キスキルの結晶? もしかして探してる魔力塊って」

「そうだ。俺はアレを破壊したい。んでもって、このダンジョンも破壊したい」

「へェ、大きく出るじゃん。人間が、悪魔に勝てるっての?」

 

 ん……ちょっと雰囲気が変わったな。

 さっきまで陽気なヤンキー姉ちゃんだったけど、今のこれは、一応神、って感じ。

 

「分体ならなんとかな。本体はちったァダメージ与えたものの、殺すにァ至らなかったよ」

「へぇ。へぇー、キスキルと戦ったことがあるんだ。それも、分体と本体どっちも」

「あァさ。だってアイツ、夜の性質持ってるだろ? それが生者に迷惑かけて……ハ、殺さねェ理由があるか?」

「あ、なるほどね。うんうんうんうん。おっし、そういう理由なら納得」

 

 プラチナオールバックは掌に拳をぶつける。

 立ち上がって。構えて。

 

「……ん? 早く構えなよ」

「あー……理由は?」

「簡単簡単」

 

 言って、プラチナオールバックは──その胸元を、バッと開く。

 おいおいいきなりだな痴女も良い所だぞ、ってなツッコミは──そこで輝く結晶に詰まらせられた。

 それは、確実に──キスキルの結晶で。

 

「いやさ、アタシもなんでこんなとこにあるんだろうなー、って思ってたのさ。アタシらにとってもキスキルは敵だからね、回収しておいたの。──それが、いつの間にか融合しちゃってさ。キスキルが出てくる事は無いけど、アタシを殺さないとコレも壊れない。コレが壊れたらアタシも死ぬ。簡単でしょ?」

 

 簡単に、言う。

 簡単に言うな。

 

「……戦う理由は?」

「ただでやられるわけにはいかないし。お姉ちゃん、戦闘は行けるクチでしょ? 後ろの2人も、さっき飛んでった2人も。そっちのおチビちゃんは見てるだけでもいいけど──」

 

 その手に、数多の宝石が融け繋がったよォな、いびつな槍が現れる。

 ルビーやサファイア、紫水晶といった透明度の高い宝石で飾られたソレは、しかし見た目の硬度からは想像もつかないほどの死を纏っている。

 夜の神。

 神殺し。

 

「断る」

「断れない」

 

 何の工夫も無い斬りかかり。

 俺の真横を突き抜けた矢など意にも介さず、天より降り注いだ雷さえ片手で弾いて──宝石の槍が、その切っ先が俺に迫る。

 

 神の決定。神の対峙。

 ──俺に、やれと。

 

「断る、っつったよなァ」

 

 引き抜くのは苦理主。こちらもまた剣としてはいびつであり、でこぼこの宝石槍に波打つ刃が応戦する。

 

「ハハッ、それでこそ! ──アタシが1000年ダンジョンの外に出なかった理由、わかる?」

「キスキルの結晶を外に出さねェためか! クソが、だったらもっとしおらしく助けを求めやがれってンだ!」

「夜の神にしおらしさなんて似合わないのサ!」

 

 槍と剣がせめぎ合う。

 宝石に傷はつかない。クリスが壊れる事はない。

 だから──単純な膂力の押し合いだ。だから、当然。

 俺が負ける。

 

「背中メッシュ、打ち上げる系の魔法ァあるか!?」

「うん、ある。準備する」

「ロティスは拘束系だ! この際草とかでもいい!」

「エルフに偏見を持ち過ぎだソレは」

 

 1000年。

 何にもしないで1000年。たとえ神だろうと──なァ、暇だったか。それとも使命感にでも燃えていたか。

 知らねェ知らねェ。

 だが、いいよ。わかったよ。

 殺すかどォかはともかく──満足はさせてやる。

 そんなに戦いてェんならな。

 

糸伊豆亜存具負不場途流出泥系手取塔地内途(それは夜に捧げる戦いの始唄).」

「ハッ! なんだ、お前の神じゃないのに祈りをくれるのか!? だったらこっちも少しだけサービスしてやるよ! 泥須伊豆曽燐虞場震塔微溢頼度塔地阿歩止琉(これは使徒に施す癒しの水泡)!」

「──!?」

 

 神と対峙するンだ。

 生半な覚悟じゃダメだって使った強化だったが──精神に入るはずの罅が、何かに覆われ防がれたのを感じる。

 これは、回復の?

 

「ホラッ! この程度でビビんなって! 神にも色々いるのさ!」

「らしいな。んじゃまァ、いっちょやりますか!」

 

 その世界言語はめちゃくちゃ気になるンだが。

 まァ、今は。神に捧げる演武として、ぶっ倒させてもらいますかね。

 

 

 

 

 なンていつも通りのテンションで臨んだものの。

 

「よっっっっわいな、お姉ちゃん!」

「うるせェ、こちとらコレでずっとやってきてンだよ!」

 

 打ち合う。斬り合う。

 相手は槍だ。持ち手の方、つまり間合いの更に奥に入っちまえばこっちのモンだ──と思ったら、コレが巧い巧い。踏み込めば退がる。退かば突かれる。

 槍の間合いってな難しいモンで、剣で合った時の感覚で引いても穂先でやられちまう。俺もメイアートだった時にヴァスをぶん回してたクチだけど、ありゃどこまで行っても杖だ。槍じゃねェ。

 初めから槍として製造された、槍としての機能に特化した槍。

 速いし、疾いし、鋭いし、精確で──明確だ。

 

 俺を殺す、という意思が。

 

「足りないね! 殺意が! 剣に殺意が乗ってない──それじゃ、戦いに勝つなんてできっこない!」

「うるせェ要らねェんだよそんなもんは! 殺す気なンてサラサラねェんだ、満足するまで戦ってやるが、自殺幇助なンかやってられるかってンだ!」

「──それじゃあ、ダメだ」

 

 顔を狙った突き。剣での防御は悪手。避けた方が良い。

 ──知覚強化。空間把握にリソースを5割。避けた場合、ロティスが危ない。立ち位置の変更。無理だ、遅すぎる。防御がダメ、回避もダメ。

 ならば、逸らせばいい。

 

 下におろしてたクリスを思いっきり引き上げて──。

 

「だから、それが弱いって言ってんのサ」

 

 視界が半分消える。

 ……懐かしい。今度は逆か。

 成程、逸らされるってわかった瞬間、さらに踏み込んでリーチを上げたか。俺が回避しねェとわかってたから。

 ハ。

 で?

 

「今、避けていたら簡単にアタシを殺せたよ。お姉ちゃんお察しの通り、槍の弱点は懐さ。入られたら弱い。その点、突きってのは隙だらけだ。槍における全攻撃の中で最も弱点を晒している攻撃であると言える。それがわかっていて、アタシの槍もほぼ見切っていて──お姉ちゃん今、後ろの子気にしたね」

「仲間だ」

「かもしれない。けど後ろの子だって避けられる。そもそもその前にアタシを斬ればいい。そうしないのはなーんでだ。正解は、殺すどころか──アタシを斬る気さえないから。そんな物騒な剣出しておいて、防御にしか使ってない。世界言語なんか使っておいて、必殺の覚悟がない。だから、弱い」

 

 面白い事を言うものだと思う。

 必殺の覚悟がないから弱い。あァさ、そうだな。俺は──相手を殺す、という意思のあった時は、確かに強かったかもしれねェ。昔、魔物を化け物と呼んでいた頃。ベルウェークを相手にしたとき。クロムクラハだった時。メイアートでジーウィースやゲヘナを相手にしてた間。

 強かったンだろう。そん時はちゃんと。

 でも、そうでないときは──弱い。

 面白い。

 

 そんなことを今更突き付けて──突き付けられて。

 

「嫌になるなァ」

「戦いが?」

「いんやさ。せーっかく全部終わったと思ったら、悪夢に放り込まれて、俺にできることやろォとしたら、くだらねェ予言に巻き込まれて」

 

 はっはっは。

 あァ、で?

 殺す気が無いから弱ェ、って?

 

「ハハ──つーことで、ここにいる全員クソ弱いってことだ」

「後ろのお姉ちゃん達が?」

「そ。あと、今もどっかぶっ飛んでるお嬢とポニテスリットも。アイツらもコイツらも俺に勝てねェからな。クソ弱いだろ?」

 

 パチパチと音が鳴る。

 もう1度やって、通じなかった技。エレキスプレッドとか言ったか。雷で対象を打ち上げる魔法は、プラチナオールバックの宝石槍で掻き消されちまった。ロティスの矢も同じ。埒外の速度で振るわれる宝石槍は、魔法だろォが矢だろォが全部掻き消して切り裂いちまう。

 それが宝石槍の力なのか、プラチナオールバックの権能なのかは知らねェ。

 どっちにしろ効かねェってことさ。それがわかりゃいい。

 

「どうだろう。少なくとも、そっちの2人の攻撃には殺意がある。お姉ちゃんより強いのは確かだ」

「でも勝てねェのさ、俺にァ。なんでだと思う?」

 

 見えなくなった左側。頬を伝うねっとりとした液体を拭う事すらせずに、ニタりと笑う。

 衝撃。気付かなかった。視界が制限されているから、とかじゃない。

 普通に、速過ぎて見えなかった。

 右足。太ももに突き刺さった穂先。これは骨まで行ったか?

 

「わからないな。お姉ちゃん、お前本当に弱いよ。魔力で神経強化してるみたいだけど、格上想定がそれなんだとしたら、足りないにもほどがある。肉体を犠牲にするには肉体の強度が足りて無さすぎるし、他のコみたいに魔法を使う事すらしてこない。ここまでボロボロになるのにたった一瞬だった。わかるよね? アタシがあと2、3回槍を振るだけで、お姉ちゃんは立つことすらできなくなる」

「わかんねェか、アンタ。その程度の奴に、ここにいる全員勝てねェって言ってンだ。なんでだと思うって聞いてンだよ。2回目だぜ、この問い。答えろよ」

 

 右太腿に刺さった槍が抜かれる。

 力を入れりゃ、当然血が噴き出る。止血できるよォなモンはないし、そもそも止まる傷でもない。

 

 なんで無視して立ち上がる。がくがく震える腰に、それでもニヤつきが止まらない。

 

「さぁねー。これだけの傷を負って平常通りに話せてる事は評価するけど、正直それが何、って感じ。期待外れも良いトコだよ。もちっとやると思ったんだけどな」

「わかんねェか。ハハ──じゃ、アンタはそこまでってことだ」

「……え、何それ。もしかして挑発のつもり?」

 

 地面が帯電する。空に紫電が走る。

 トドメ、とばかりに引き伸ばされた槍は──。

 

「ライトニングジョー」

「アイアンアロー!」

 

 天地から放たれた雷撃。そして金属の矢。

 逡巡の時間など無い。プラチナオールバックは矢を弾き、その勢いのまま槍を回し、天地の雷撃を切り裂いて捨てる。

 心底どォでもいいとばかりに。

 

「あのさ、アタシ今この子と話してんの。殺す気があるのは結構だけど、もっと強くなってから来て。それとも梓を助けたい? もう戦意喪失?」

「葬儀の神ネベトフート。貴女の目は節穴なのか?」

「この程度が、神」

「……え、何々。揃いも揃って挑発? いーよー、そういうの結構好き。どうせダンジョン内なんだしさ、激しくやっちゃおっか。──んじゃまず1人、──ッ!?」

 

 ロティスを狙って斬りかかったプラチナオールバック。

 その顔面を、掴んで止める。

 

「おゥ、何やってんだてめェ。俺とのお話の最中だろォが。目移りしてンじゃねェよ俺だけを見ろ」

 

 とうとう片膝が折れる。右足は立っていられないとばかりに悲鳴を上げ、左目も看過できねェ痛みを訴えてきている。

 

 トス、と。

 何の抵抗も無く、背中から肺にかけて──そこを宝石の槍が貫き通した。

 

「弱いくせに、粋がるなよ。見ていて痛い」

「必殺の覚悟が無ェ、だァ? てめェも無ェじゃねェか。ダンジョンに浸り過ぎたなァ。どうせ生き返るからって、ソイツを終わらせてやるってな覚悟が欠片もねェ」

 

 致命傷だ。

 さっきから、ほぼほぼ死に至る攻撃なのに、死の気配がない。

 それはコイツに……プラチナオールバックに殺意がないから。何の感慨も無く槍を振るい、失望し、飽いている。

 だから死の気配がない。ただの作業にそんなもん発生しない。

 

「……そうか。それは失礼をした。確かにアタシにも無かったみたいだ」

 

 ──槍を心臓の方へ動かされる。食道内部にクリスを出現させて、槍の動きに合わせて飛べ。

 

「?」

 

 人体からは有り得ねェ音が鳴ったからだろう。

 右肺から心臓までを一文字に切り裂く予定だったらしいプラチナオールバックは、食道付近で止まった自らの槍に疑問を抱き、そのまま俺の体を振り捨てる。

 高台の地面にべちゃ、と転がり、尋常じゃない量の血を流す俺。

 それでもまだ──口角は上がりっぱなしだ。

 

「……一度だけ、言ってやる。……前開けな。服さ。……キスキルの結晶だけを、露出させて。目でも瞑ってな」

「変態じゃん。アタシ、そういうの興味ないんだよねー」

「警告は、した」

 

 息も絶え絶え。

 ──その手を、横に突き出す。さっき顔面掴んだ時みてェに、今度は腹の辺りで。

 

「……もうネタ切れみたいねー。正直かなりがっかりしてる。ずーと大言壮語吐き続けて、なーんにもできないんだもん。これは、次の挑戦者待つしかないねー」

「じゃァ問題だ。なンでてめェの体は俺の真横にあるンだと思う?」

「──!?」

 

 服を破り、キスキルの結晶を露出させる。

 プラチナオールバックの肌とキスキルの結晶は融合している。抑え込まんとする力。侵蝕する力。両者がせめぎ合って、血管が浮き出ている。

 今でさえ、ここに何割のリソースを注いでいるのか。その上であの強さか。

 武闘派の神。初めて会ったが──あァさ、いい経験だった。

 

「触っちゃ──」

「ちゃんと後ろから抑えとけよ、2人とも。──俺に何があっても」

 

 触れる。

 ──途端、俺の手を侵蝕しよォとするキスキルの結晶に、もう一度笑みをこぼす。

 

「【即死】」

 

 暗い光。ただの一瞬で、キスキルの結晶に罅が入る。でもまだそれだけだ。

 プラチナオールバックの力で抑えつけられているせいか、キスキルの分体が出てくる気配はない。

 

「今の……太陽神の……」

糸伊豆阿止理負不伏零矢堕千経度戸地内途(それは夜に捧げる祈りの物語).」

 

 手の侵蝕は止まっていない。結晶に罅が入ろうと関係なく昇ってきている。

 それがなんだ。なァ。

 

「その程度なンだよ、アンタは。必殺の意思を求めンのは殺してほしいからだ。必殺の覚悟を込めねェのは心折れてほしくねェからだ。ヘンなキャラで怒り誘ってどォにかバトルに持ち込んで、速く早く、お願いだから解放してって言ってるただの子供だ」

「……梓、準備できた!」

「あァさ特大のくれてやれ!」

 

 肩口まで来た結晶。

 で、それがなんだっていってンだよ。

 

「ガンニアサンダー!!」

 

 背中メッシュの得意魔法、【神鳴】によく似たソレが降り注ぐ。

 背後はポニテスリットがシェイブなんたらでお嬢を守り、俺にァ効かない。なんでって今腕が結晶化してっから。これ電気通さねェんだわ。

 

 この雷撃はプラチナオールバックにダメージを与えるってな目的じゃない。

 神であるプラチナオールバック。その中で、最も弱い部分は何か。

 

 当然、キスキルの結晶に侵蝕されているこの腹周りだ。

 血管の浮き出たそここそが、何よりも弱い。

 

「──褪戦死遠(【世涯】)!」

 

 更に更に、トドメと言わんばかりの【世涯】をぶち込めば──。

 

「よォ、おはようリラ・キスキル。調子はどォだ?」

「最悪の目覚めかなー」

「そォかい。んじゃ──おやすみだ。【即死】」

 

 何をしよォとしていたのかは知らねェが。

 結晶から出てきたキスキルの首を掴み、目にも止まらぬ速さで【即死】を使って殺す。

 

 ……ふゥ。

 

「残念だったな」

「……何が」

「死ねなくて。つか馬鹿が、俺が目の前の自死を肯定するかよ」

 

 たとえ相手が神でも。

 そればかりは絶対に──。

 

 

 

えはか彼

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。