遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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142.有侠買運都穏身.

「死に損なった」

「はン、神なんだ、早々死ぬこたねェだろ」

「これじゃ痛いだけだよ。……ね、お姉ちゃん。さっき物騒な権能使ってたろ? それで殺してくんね?」

「馬鹿言え。殺さずに救ったンだよ殺すワケねェだろ」

「だよねー」

 

 相変わらずの火口内部。

 キスキルの結晶を殺した事で崩壊こそ始めたものの――何かがまだこの空間を支えてるらしく、全壊する気配がない。

 

「けど、いつ2人に合図したんだ?」

「合図なンかしてねェよ。お嬢たちがそろそろ帰ってくるだろうな、ってな確信があった。で、俺がボロボロになってるの見りゃお嬢は速度上げてくる。ポニテスリットが役割理解してアンタを押し込んでくれる。こればっかりァ長年の信頼って奴だよ」

「なーにが長年の信頼ですの。何の成果もなく焦りながら帰って来てみれば、いつも通り血塗れの梓さん。咄嗟に思いついたのは単なる突進。私達の絶望返していただけます?」

「いつも通り流石の死に難さだな、という信頼はあるぞ」

 

 流石に──まァ、疲れたンで、座る。

 疲れたどころじゃねェはずなんだがな。体中に穴ぼこ開いてて、肺にも穴ァ開いてんだ。満足に喋る事もできねェはずなのに。

 これは。

 

「最初に……かけてくれたよな。なんぞ、聞き覚えの無い夜の言葉。アレはなンだ。癒しの祝詞に聞こえたが……」

「あぁ何、お姉ちゃん意味も知らずにってわけじゃないんだ。全文聞こえてる?」

「あァさ。これは使徒に施す癒しの水泡……それの効果で、俺ァこの致命傷を負っておきながら疲労感だけで済んでる。だろ?」

「ハ、疲労感だけで済んでるのはお姉ちゃんが痛みに慣れ過ぎてるだけだね。普通の奴なら激痛でのたうち回ってるよ」

 

 それでも、致命傷を感じさせねェってな……強い。

 死の気配は消えてないから多分死ぬンだろうけど、最期まで喋ってられるってな良いもんだ。

 

「それで、大丈夫なのか? 傷は……」

「いや、普通に死に至る傷だよ。特にこの真ん中の穴がでけェ。……だからまァ、早いトコこのダンジョン壊して出ていくのが正解って奴だろ」

「どうすれば、壊せる?」

「うーん、そりゃアタシにもさっぱり。キスキルの結晶が核であったのは事実だけど、ここは本当にアタシが入った時から何もなかったのサ。それで、そっちのお姉ちゃん達がくまなく探したんだろ? じゃあ本当に何もないんじゃない??」

「いや……アタリはついてる。けど俺じゃ火力が足りねェからな。あとはお前らに頑張ってもらいたい」

「へぇ?」

 

 とうとう、倒れる。

 疲れるな。……死に代わる疲労か。ハハハ。そりゃ、まァ。

 新しい。

 

「これ、か」

「あァさポニテスリット。コレだ」

 

 お嬢がポニテスリットをおいて飛び立つ。背中メッシュが再度空に紫電を溜め始める。ロティスがポーチから爆弾らしきものを取り出し、俺と同じくらいには血濡れのプラチナオールバックがその槍をぶん回す。

 俺が指差したからたァいえ、察しが良いっつか、遠慮が無ェっつーか。

 

「おい、フェリカ。今回の火力担当は私達だ。梓を運んで飛び、咄嗟の事に対応できるのはフェリカだけなのだから──」

「……別に、皆さんだって飛行魔法使えるでしょう」

「一番速いのはお前だ」

「それはそう、ですけど」

 

 チラっとこちらをみるお嬢。

 一瞬の逡巡。

 次にまばたきをした時には、俺の体はお嬢の背にあった。

 

「別に、捨て置いてくれてもいいンだぜ?」

「ふん……梓さんの事ですから、こうでもしておかないと参加しそうなので。……身体、本当に大丈夫なんですの?」

「大丈夫かどォかっつったらヤバいな。そろそろ意識も無くなりそうだ」

「では、皆さんに急いでもらいましょう」

 

 金髪お嬢様が何か合図を送る。

 瞬間──火口の高台は、爆発と雷撃と圧力と宝石のキラキラによって、完全に消滅した。

 

 急激に白くなっていく空間。

 

「どォやらアタリだったようで」

「ですわね。──私、何度も言っているのですけれど。無理をするな、とはもう言いません。仮初の約束すらしてくれませんので。けれど、そろそろ頼ってくださいな。一言呼ぶだけでいいんですのよ」

「ヤだよ。そしたらお嬢、無理してでも俺を助けるだろ。それに、恵理須でも冥界でも、なんならこっちのダンジョンでも言っただろ。勝手に守ってくれ。勝手にしてくれ。俺は保身を考えてられる程暇じゃねェんだ」

「だって、ずるいですの。今皆さんを頼ったのに、私には頼ってくれませんの?」

「そりゃ適材適所だよ」

「その適材が。私という速さ、及び殲滅力という逸材がいますのに、頼らないじゃありませんか。どうしてですの? 私だけ頼らないというのは、何故ですの?」

 

 光に包まれ、崩壊していくダンジョンの中で。

 どこか悲し気な声が。

 

 ……。

 まァ、お嬢を特別扱いしてるのは認めるよ。俺の中で、俺の知る中で、一番強い。そォいう信頼がある。

 でも声に出さないで頼ってはいるつもりだけどなァ。

 声に出さなきゃダメかね。俺の信頼なんぞ、欲しいかね。

 

「頼りにしてるよ。これでいいか?」

「……ホントにいいと思いますの?」

「思ってねェよ。俺が頼ってる、なんて言っても信じちゃくれねェだろ?」

「別に頼ってる、なんて言ってくれないでもいいですの。ただ、こういう時に私の名を呼んで欲しいと言ってるんですのよ」

「そりゃ別に他の奴にも言ってねェよ」

「他の方は適材ではないというだけでしょう?」

 

 強気なコトバだねェ。

 なんだっけ。EDENの魔法少女、誰を相手にしても殺し得る──とか、物騒なシミュレーションしてたンだっけ?

 まァそうだろうさ。それくらい強いんだろう。今んとこ俺以外にマジで負けなし……ああいやでもアンゲルに負けたよな。だからこそあれからさらに強くなったって話なんだろうが。

 

「梓さんにとって、私ってなんですの?」

「さてなァ。お嬢にとっての俺はなんだよ」

「大好きな方、ですけれど」

「んじゃ、俺にとってのお嬢は、やっぱり"なんでか俺を好いてくれてる子"、かね」

 

 世界が真っ白に染まっていく。

 もうお嬢の顔だって見えない。

 

 そうして。

 

「……そろそろ、想い続けるのも……限界が来ますのよ」

 

 そんな言葉と共に──世界は塗り替わった。

 

 

 

えはか彼

 

 

 

 疲労感も無ければ死に行く感覚も無い。

 まるで今までの全てがゆめまぼろしであったかのよォに──俺達は、外に排出された。

 背後でパキンパキンとダンジョンの入口が割れ去っていく。

 

 肺を焼く熱気は多分に水を含んだ島のそれに変わり。

 黒とオレンジと赤に染められていた世界は──無数のハーピィに見下ろされるクレーター内部へと変貌した。

 

「──へェ?」

「ッ、貴様……まさか、ネベトフート!?」

「なんだ、なんだなんだ……まだ生きてたんだ、スパンデュル」

 

 出て早々なんぞ物騒な雰囲気。

 プラチナオールバックと、だけじゃねェ。俺達を見下ろすハーピィの全部が、なんつーか……殺意には至らねェ、けど含みのある目で俺達を見ている。

 

「……!」

「エイトス、刺激すんな。ちょいと様子がおかしい」

 

 突然口を開けてなんぞかを放とうとしていたエイトスを止める。

 まだ勘違いの可能性もあるだろ。

 

 剣を抜くのァまだ早い。

 

「プラチナオールバック。説明頼むわ」

「何……そもそもアタシがあのダンジョンにいたのは、コイツらに調査を頼まれたから、ってのがあったってだけサ。ハ、最初に言っただろ? 騙されたクチか、って。お姉ちゃん、欠片も信じてなかったみたいだけど、少なくともアタシが騙されたのはホントなのさ」

「へェ。神が、単なる魔物に?」

「単なる魔物、ね」

 

 未だ腹に凹み……キスキルの結晶があった、それを除去した傷跡が残っているプラチナオールバック。それでも、宝石の槍を引き抜いた瞬間、その圧は周囲を圧倒するものになる。

 似ている。ジーウィースと相対した時の圧に、良く。

 

「梓。多分、ハーピィじゃない」

「ン? そうなのか」

「ハーピィ? ハハハッ、あんなよわっちぃ種族に見えてたのか? そりゃ流石に節穴だよ、お姉ちゃん。よく見なよ──奴らの悪意に満ちた顔。ハーピィなんて、考える脳ってもんを持ってなくて滅んじまった種さ。けどアイツらは違う。悪意。害意。自分たちは他と違うと言わんばかりの優越感」

 

 いんやさ、一切伝わってこねェけど。

 わかるのは、プラチナオールバックがコイツらをめちゃくちゃ嫌ってるってことくらいか。

 

「グレムリン。コイツらは、グレムリンだよ」

「……あン? いや、そりゃないだろ。俺ァグレムリンに遭ってる。けどこんな姿じゃなかったぜ?」

「会ってる? そいつは誰?」

「L・アルカナ」

 

 名を出せば、驚いたよォな顔と、直後に──哂えて仕方がない、という口角。

 

「え、あの方グレムリンだったんですの?」

「あァさ。魔法少女の皮ァ被ってたが、グレムリンだった。そもそも人間の敵対者なンだよ、アイツ。……で、コイツらがハーピィじゃなくグレムリンだってンなら」

 

 まァ……クリスは、抜いておく。

 話し合いでどうこうしたいのは山々なンだけどな。

 知ってるってのは厄介だねェ。

 

「何故──夜の使徒風情が、アルカナ様を知っている」

「おお、なンだスパンデュル。いきなり態度変わったなァ」

「問いに答えよ。アルカナ様に何をした、夜の使徒」

「別になんかしたってこたねェよ。同僚だった。ソレだけさ」

 

 太陽の使徒、L・アルカナ。

 一応メイアートであった俺の先輩として、先達としていたアイツだけど、そもそも人間じゃない。なにがどうなって太陽の使徒になっていたのかは知らねェが、グレムリンだ。魔物……というか、悪魔の一種。大悪魔とされるのはリラ・キスキルだけだけど、小悪魔とか悪精とかそんな感じの、ちょっと格下な感じの悪魔がグレムリンだ。

 魔物、よりは、悪魔寄り。

 つまり──神の敵寄り。

 

「プラチナオールバック。手助けは?」

「必要ない、と言いたいトコだけど──どっちかというとヘイトはお姉ちゃんに向いてるみたいじゃん?」

「あれ、マジ?」

 

 マジだった。

 L・アルカナの名を出し、その同僚だ、と言った後から、ハーピィ改めグレムリン達の視線がやばい。視線だけで人を貫けるンじゃねェかってくらいこっちを見てる。

 

「アルカナ様に何をした、夜の使徒」

「ア? おんなじ質問すンじゃねェよ。何もしてねェつってンだろ」

「ならば何故、アルカナ様は帰ってこない。──我ら以外、アルカナ様を知る者など神くらいしかいない。それを、何故夜の使徒が知っている」

「だーから、同僚だったンだって」

「戯言を」

 

 スパンデュルが翼を広げる。合わせて他のグレムリン達も大きく翼を広げた。

 それにより──その内側にあったのだろう、夜の気配が色濃く漏れ出でる。

 

 リラ・キスキルも、スパンデュルも。

 何故あだ名で呼ばねェか、って。そりゃ別に──死の気配云々の話じゃねェ。

 

 殺す敵にあだ名はつけねェよ。

 

「ネベトフート。この際貴様の暴虐も水に流そう。──夜の使徒を渡せ。それだけでいい」

「では、貴女からですのね」

「ガンニアサンダー」

 

 会話してンのは確実に3人だった。俺とプラチナオールバックとスパンデュル。

 だから、その横やりは。

 本気の本気で想定外だったのだろう。

 高圧的且つ威圧的な態度でいたスパンデュルの側頭に、お嬢の膝が入る。

 さらには背中メッシュの雷撃。周囲のグレムリンはおろか、ロティスやエイトスも何が起きたかわからねェと言った顔で固まっている。ポニテスリットは溜息を1つ。

 

「ッ、何を──」

「貴女が梓さんの敵で、梓さんの身柄を欲しがっている。──それだけで十分ですの。何度言っても、どんなに想いを伝えても頼ってくれない方ですので──少々暴走気味に、彼女の敵となり得る存在を殲滅していく。何か文句ありますの?」

「いや、ねェよ。好きにやってくれ。勝手にやってくれ。問題あったら俺がお嬢を止める」

「できるものなら」

 

 ま、そっからの事は語るべくもなし。

 ちったァ戸惑ったものの、切り替えて殲滅モードに入ったロティスやポニテスリット、負傷を感じさせないプラチナオールバックが加わって、悪魔退治が行われた。

 ……残念ながら、俺はそれを止めようとは思わない。生者に迷惑かける夜の属性持ちァ、夜の使徒が筆頭として間引く必要がある。

 

 この辺の感覚が狂ってンのは相変わらずだ。いつかアズサに糾弾されたな。ソテイラの件で。

 

「善を気取るか、夜の使徒風情が」

「悪魔を殺すから、ってか? ハハ、おもしれェな。が、生憎と俺ァ正義の味方じゃないんでね。──情け容赦はしねェって話だよ」

 

 憎しみに満ちた顔。

 俺が神寄りなのはわかり切ってる話だっつってな。

 

「【即死】」

 

 残念だよ。

 無害なハーピィでいてくれたら──殺さずに済んだンだがな。

 

 

 

 

 

「おっし、掃除終わり。……しっかし、ホントに物騒な権能だね、ソレ」

「権能じゃねェがな。ま、魔法つったってこっちのと混同する。権能って認識で良いよ」

「おー、こちらとしてもどっちでもいーや。で、お姉ちゃん。続きはやる?」

「何のだよ。やるわけねェだろアホ」

「ダヨネ。……んじゃ、アタシはそろそろ行くわ。1000年縛りつけられていたこの間に世界がどう変わったのか気になるからねー」

 

 悪魔退治が終わって。 

 特にこちらの損害はなく、プラチナオールバックの傷も塞がりつつある。流石神っつーか、武闘派っつーか。

 1000年か。

 長かっただろう。だが、どう変わったか、なんて。

 

「よっし。他のお姉ちゃん達も、そっちのドラゴンの子も、元気でね。あぁそれと、お姉ちゃん……梓」

「ン?」

 

 立ち上がり、もう行きますよ、といった風体だったプラチナオールバックが振り返る。

 顔は、悪戯っ子のよォなソレ。

 嫌な予感。

 

「"遠からん島。浅からん夢。訪れぬ安寧を齎す者よ。狭間の子を眠らせ、磔の子を眠らせ、明るみの翼に傷をつけろ。世界を壊す2歩目は、古の村によりて。"──磔の子はアタシとキスキルの分体。明るみの翼はグレムリンの事。正確にはL・アルカナのことかな」

「気付いているのか、って言いてェんだな」

「いいや? だから、次のを教えてあげる、ってわけサ」

 

 気付いてたさ。

 あァこりゃ予言通りだなァって。ダンジョンに縛りつけられ、プラチナオールバックに磔にされていたと解釈できねェでもないキスキル。

 明るみを太陽と取り、翼をグレムリンのそれだと解釈するなら、明るみの翼はL・アルカナのこと。その出身地だか信奉者だかなんだか知らねェのを殲滅したンで、傷をつけたことになったんだろう。

 曰く、予言の通りに、な。

 

 そして。

 

「"求むる希望。有り得ぬ再会。訪れぬ安寧を齎す者よ。目覚めとは伴うもの。痛み、苦しみ、それを3歩目と成せ"」

「……また、不吉な言葉を残しやがる」

「んじゃ、ちゃんと伝えたから」

「あァ。またどこかで会う事あったら、よろしくな」

「ハハッ、そうだねー、そん時はまた、敵じゃないことを祈ってるよ」

「今だって別に敵じゃ……あァ行っちまった」

 

 ふーちゃんの予言。その3節目。

 特に気になるのは後半。"目覚めとは伴うもの。痛み、苦しみ、それを3歩目と成せ"。

 俺ァ何度も言ってるんだがね。

 苦痛が嫌だ、悲痛が嫌だ、って。それを伴えってか?

 

 ……回避したら。

 また、誰かが押し付けられるのかと思うと……はァ。

 やっぱ聞いても仕方のねェ予言だことで。

 

「よし……やることやっちまおう」

「やる事?」

「即時蘇生の術の解呪だよ。まァここでできるかはわかんねェんだけど」

「あぁ、そんなものもありましたわね」

「それが旅の目的だよ」

 

 何しに来たと思ってンだ。

 

「それで、どうやるんだ?」

「まァ待てって。今調べてンだから」

「……まさか、やり方を知らないのか?」

 

 うるせェな。

 初めて見るものの解除方法なんぞ知ってるワケねェだろ。

 

 んで、出番ですよっと。

 

 ──"今更なんですか。私、あまりにも頼られなくて不貞腐れている真っ最中なのですが"

「不貞腐れてる真っ最中のトコ悪いがよ、この辺のスキャン頼むわ。なんぞ……この島にあるはずなんだ。この世界を悪夢にしている魔法って奴が」

 ──"魔力感知くらい、ご自身でできるのでは? 梓・ライラック様は感知に長けているようですし"

「魔力感知に関しては零に散々怒られて、その上で出来なかったからなァ。頼むよ、お前だけが頼りなンだ」

 ──"それ、フェリカ・アールレイデ様の前で言うあたりが本物の馬鹿ですよね。梓・ライラック様。私、フェリカ・アールレイデ様に壊されたくないのですが"

「いーから頼むよ」

 

 ごちゃごちゃ言ってくるシエナ……のサブメモリーを胸元から取り出して、クレーターを見せる。

 恐らくは火口らしきこの場所。だけど、何か術式を刻めそうなモンが置いてある、とかではない。大枠には感知できる魔力の流れ。それが集中してンのがここだから、場所は合ってると思うんだけど……如何せん細かいことがわからない。

 この調子だとまーた零にぐちぐち言われるなァと思いつつ、わかんねェんだからわかるヤツに聞けばいい理論でシエナを頼ってる次第なんだけど。

 

「あら、私の方をチラ見するくらいには、私が怒っている、というのが伝わりましたのね」

「いやまァ」

「誰と話していたのか知りませんけれど、これ見よがしに"お前だけが頼りなんだ"、ですって。あーあ、私含め、この場にいる誰もが頼りにならないなんて、舐められた話ですのねー」

 ──"ほら。言っておきますけど、先のダンジョンでの痴話喧嘩も聞こえていましたから。私は最終手段にして、フェリカ・アールレイデ様方を頼ってください"

 

 それだけ言うと、シエナは喋らなくなった。

 ……あー、なー。

 ちょっとなー。

 

「何だ、何の話だ?」

「私達、頼りにならないって」

「遺憾だな、それは」

「……!」

 

 いや、その選択肢もあったよ。

 けど……。あー。まァそれしかないならそうするけどさ。

 

 ぜってーお嬢落ち込むよ?

 

「いんやさ……ここにな、目的の術式があるンだ。それを見つけたい。だから魔力感知をしてもらいてェのさ。どこに即時蘇生の術式が、」

「あったぞ。これだ」

「え、早──」

 

 ほら。

 ……この場で魔力感知なンてもんに頼ろうとしたら、それに一番秀でてるのは間違いなくお嬢じゃなくロティスだ。エルフの方が魔力に聡い。

 頼って欲しいと言われた。それはまァ脳裏に書き込んでおくことにはした。別に俺だってお嬢と仲違いしたいってわけじゃねェからな。

 でも今じゃない。それがわかってたから、俺ァ俺の範囲で解決しようとシエナを頼ったんだけど……。

 

「少し深いな。この窪みを掘り返す必要があるだろう」

「あァさ。んじゃ、掘り返そう。ちなみに爆弾は」

「掘り返す、という用途においてはあまり役に立たないだろう。まず深い穴を作り、そこに投入する、というのならばできなくはない」

「ふむ。深い穴か。ならば──フェリカ」

「え。あ、なんですの?」

「なんですの? ではなく。穴だ。その……元の魔法、とやらなら、できるんだろう? あらゆるものを貫通する光条とやらの射出が」

「ああ……できますけれど、些か貫通力がありすぎて、深すぎる穴になってしまいますの」

「手加減はできないのか?」

「……申し訳ありませんの。練習不足、ですわ」

「ふむ。それなら私とシェーリースでやろう」

「手加減、無理難題」

 

 あァ。

 目に見えてお嬢が落ち込んでいく。

 こーなると思ったからさー。おじさんはさー。

 

 ……。

 

「背中メッシュ、ポニテスリット。いいよ、俺がやる」

 

 手に【光槍】を出現させる。

 貫通力も掘削力も申し分ねェだろ。

 

「ロティス、大まかでいい、深さを教えてくれ」

「梓3人分くらいだ」

「あいよ」

 

 何を焦ってンだか知らねェけどさ。

 人間、万能じゃねェんだ。自分ができねェことに対してそう落ち込むこたねェんじゃねェかと思うんだけど、お嬢は違うのかねェ。

 頼ってない頼ってないって、ンなこたねェと思うンだけどなァ。

 

 

 

 

 結論から言うと、ここで即時蘇生の術式を解呪する、ということはできなかった。

 

「拡散術式、ね」

「ああ、儀式魔法の1つだ。水脈を媒介にした魔法で──」

「その説明はさっき聞いたよ。……なンか、こっちのポニテスリットは魔法オタクって感じだなァ」

「お前も知っているはずなんだがな。去年散々教えたんだ」

「覚えてねーっての」

 

 クレーターに溜まった土を爆弾でぶっ飛ばした底に現れたのは、1つの石碑。

 ポニテスリット曰く高度な魔法陣が刻まれているらしいそれを解読すると、拡散術式なるものが出てきた。

 

 拡散術式。

 つまりは、始の点と似た役割をする魔法がここに刻まれていたのだ。

 即時蘇生を星全体に付与するための術式。ならこれを壊せば即時蘇生の範囲が狭まるのか、っつったらそうでもない。

 これと同じものが世界各地にあるっぽい、というのが、ロティスと、そしてシエナとの会議の結果出された結論だ。1つ壊した所で全体に然程影響があるわけじゃない。

 もっと大本を断たないと意味がないっつー話。

 

「閻魔刃塔とエルヴンシード。行ってみるか?」

「ム? む、いや、私は構わないが、いきなりどうした?」

「大本がありそォな場所を考えてたンだよ。群塔魔閣は俺も知ってるが、閻魔刃塔には行った事が無い。興味半分、調査半分の気持ちだ。んでエルヴンシードは有力説かね。世界中各地にある拡散術式に働きかけるには、どっか一か所に術式を刻むより世界の中心……地下のさらに奥深くにでも置いておいた方が均一になる。エルヴンシードが地下にあるってンなら、何か知ってるかもしれねェ」

「案内、する」

「あァ、頼むよ」

 

 なんで、かねてから気になってた場所に行ってみよう、って魂胆だ。

 

「ロティスもそれでいいか?」

「良いも悪いも、私はお前についていく事にしたのだ。他に預けられる気は無いぞ」

「あいよ」

 

 てな感じで。

 新しい目的地──閻魔刃塔へ、俺達一行は出発した次第である。

 

 

えはか彼

 

 

 

「──以上が、梓・ライラックの動向だ」

「ふむ。……順調であると取るべきか、難航していると取るべきか……」

「順調だと思うけどなァ。で、こっちはどうなんだ」

「少しずつパターンは見えてきました。死の世界に繋がるダンジョン。それが()()()のは、かつての恵理須において死を経験した者と向かった場合のみ。それも──魔物に食べられて死んだ、とか。戦争の末に敗北し、野垂れ死んだ、とか。とかく、死に際して苦しみながら息絶えた者とダンジョンに行くと、そうなるようです」

「そりゃ……」

 

 それがトラウマって話だろ。

 なんて言葉は飲み込む。

 

「どんなとこだった、とかは聞いてるか?」

「真っ暗な世界だと。音もなく、風も無く。ただ自分と言う存在が解けて消えていくような、おぞましい場所だと」

「あー」

 

 夜の神に改宗してねェ、無宗教の奴らが行きつく先がそれだなァ完全に。

 んじゃまァ死の世界とやらは結局再現映像であってるってわけだ。

 

「そういえば、以前仰っていたジパングのお家騒動はどうなりましたか?」

「あァさ、解決したよ。……太腿忍者が、死んじまったけど」

「死んだ?」

「あァ。ジャカン、っていう……かつて俺が食ったはずの魔物に腹貫かれてな。これは俺もまだ調査中なンだが、どうにも数匹、俺が食って糧にしたはずの魔物がこっちの世界に生きてるらしい。どういう条件なのかはわからん」

「お腹を貫かれた程度では、死なないはずですが」

「そういう精神体とかを貫く技を持ってたんだよ、アイツは」

 

 まァ、つったってここは夢だ。

 ここで死んだって、起きるだけだろう。俺はもうアンディスガルじゃねェから大きな口叩けねェけど、それくらいはわかる。

 

「精神体に対する攻撃であれば、即時蘇生を貫いて殺し得る、と」

「多分な」

「成程。では私側も、そういったアプローチで調べてみます」

「あァ」

 

 近況報告──。

 俺と学園長殿による密会。

 

()()()の捜索はいかがでしょうか」

「そっちについてはまーったくだ。ンなもんがいたってな痕跡すらない」

「そうですか……」

 

 頼まれごと。

 ある少女を探してほしい、というもの。

 

「恵理須にいたころですら、聞いたことないぞ、ソイツ」

「一応あの子もSS級なのですが、表舞台に立ちませんから」

 

 元SS級──。

 学園長殿以外、誰も名前を知らないというその少女は、なんと学園長殿の娘、なのだとか。

 

 それが、こっちの世界に来ているとしたら。

 もし叶うのなら──会いたい、と。

 

 再三言うけど、俺ァもう夜の使徒じゃねェからな。

 そういう願いも聞き届けてやるさ。

 

「んじゃ、そんなところだ。また色々仕入れたら来るよ」

「はい。よろしくお願いしますね」

 

 これにて、密会は終わり。

 ──翼を広げる。

 

 また世界を見て行こう。

 

 

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