群塔魔閣と閻魔刃塔は比較的簡単に見つかった。
どっちも尖塔……前者はいくつもの、後者は1本のソレであったため、遠くから見やすかったのだ。
グレムリンの島がスーグとシュジのいた島だってのもわかってたからな。群塔魔閣の方向に突き進めば、簡単だった。
ただ、その道のりは簡単ではなかった。というのも、どこへ行ってもダンジョンダンジョン。枯れた湖、大岩に潰された何か。焼け焦げた林。
あるいはかつて魔物の湧きポになっていたよォな場所に、ダンジョンが乱立している。
寄り道ばっかしてちゃダメなのはわかってンだけどな、キスキルの結晶があるってな可能性を捨てきれねェ以上、見逃すってな選択肢はない。
だから道中だけでも虱潰しにダンジョン潰してって──なんとまァ、その全部にキスキルの結晶があったってンだから驚きだ。
10や20はくだらねェ数のダンジョンを潰しに潰して、そんでようやく──俺達は、ある村に辿り着いた。群塔魔閣じゃない。集落と表現する事さえ憚られるよォな、小さな小さな村。
そこは。
「ほっほっほ……旅のお方々。ようこそ、と言いたい所ですが、生憎とこの村には何もありません。ですから何用でしょうか、と問います」
「……いや、この村にァ用無いんだ。この奥に群塔魔閣と閻魔刃塔ってな塔があるだろ? あそこに用があってよ」
「成程、──では、今すぐにでも向かった方がよいでしょうな」
「そりゃ、なんで」
「村とは排他的なもの。申し訳の無い話ではありますが、この村は新しい風というものを好みませぬ。出来得ることなら誰とも関わらず、誰にも変化を与えず去っていただきたい」
「アンタは、この村の長か?」
「ええ」
それ以上踏み込ませない、という意思を感じた。
名乗りさえしない。近づくな、という強い強い拒絶。
何かを隠している、とかではない。
単純に、余所者が嫌いなのだとわかる。
「……わかった。俺達にもアンタらの平和を乱そうって気はない。みだりに立ち寄ったりして悪かった」
「いえいえ。時折、あなた方のような旅人が来るのもまた、仕方のない事。ですから、ここにある村は旅人を拒絶していると、あなた方の故郷に伝えてくだされば幸いです」
「あァ、承知した」
何か言いたげな後続を制し、飛行魔法で浮かび上がる。
その全容。全貌を眼下に収め──1人。
こちらを見上げる少女を視界に収めて。
「──お前さんの待ち人は俺じゃァないよ」
そのまま、群塔魔閣の方へ飛び去った。
さて、群塔魔閣である。
懐かしの。けれど、俺の知っている光景とは全く違う、活気にあふれた場所。
「はいねー、いらっしゃーい!」
「よく来たな! 闘技塔に寄って行かないか!?」
「移住希望者はこちらへどうぞ~」
祭りっぽい、あるいは入学式っぽい。
多種多様な──見覚えのある魔法少女たちの姿。誰1人俺を覚えちゃいねェようだが、なんとなく居心地が悪い。
「賑やかな所ですのね」
「ン、なんだ。お嬢は初めてなのか?」
「ええ、あちらでもこちらでも、少なくとも人のいる時に来たことはありませんの。私は遠征組ではないので……」
「成程な」
そういえば、ジャカンがアールレイデ姓の魔法少女を食べた、とかなんとか言ってたけど。
やっぱありゃお嬢じゃなかったってことか。
「私も来るのは初めてだ。文献で知ってはいたが……」
「昔、何度か訪れてる」
「なんなら私は人間の街というもの自体が初めてだ」
「……!」
確かに。
ロティスはほとんどずっとあの森にいたンだもんな。自由に動けた頃はもっと昔なワケだし。
エイトスは……まァ、そりゃ初めてだろう。
「出店が多いな……」
「少し見ていきますの?」
「ん-。俺はいいや。ちょいとこの辺には思う所あってさ。お嬢たちは初めてなンだろ? ちっとばかし巡って来てもいいぜ。俺は、どっか高い所で待ってるからさ」
「ふむ。なら、行かせてもらうとしよう。シェーリース、案内を頼めるか?」
「いいけど、朧気」
「待て、私は人間の扱う通貨の類をもっていないぞ」
「問題ありませんのよ。ここの商品を全て購入したところで尽きぬ財産が私にはありますので」
盛り上がり始めた少女達。
あァ、いいよ。そうあるべきだ。幻想を押し付けるのがアレだってなわかってるけど、やっぱ年頃の少女はお祭りやら旅先ではしゃぐべきだっておじさんは思うよ。
「……!」
「何だ、別にお前もあっち交ざって良いんだぞ」
「……!」
「ま、興味ないならいいけどさ。んじゃ行こうぜ、エイトス。俺は俺でちょいと見たい場所があるンだ」
女子会に交ざって肉でも食ってくりゃいいものを、エイトスは俺から離れる気はないらしい。普段全然懐かないクセになー。
「んじゃ、また後でな」
「ええ。流石に何も起こらないとは思いますけれど、お気をつけて」
「あァよ」
お嬢も心配性だねェ、なんて口が裂けても言えない。
実際どこにいたって何が起きるかわかんねェからな。心配し過ぎで丁度いいだろ。特に俺の場合は。
魔煙草を口にくわえる。
いやァ、副流煙の出ない煙草さ。人混みで吸っても問題ないってなありがたい。なンでこんなクソ不味いモンくわえたかってそりゃ、美味そうな匂いで溢れているからだ。打ち消さねェと、俺もつまみ食いしたくなるンでな。
食わなくていい身体のクセに、匂いにつられて涎が出るたァ面白いもんだと思うよ、ホント。
さて──。
「で、だがよ、エイトス」
「……?」
「お前さん、念話はできンじゃねェの? ずっと喋らねェけどさ、あの村じゃコミュニケーション取ってたンだろ?」
──"夜の使徒と、念とはいえ繋がると死にそうだなって"
「あァさ死なねェってわかっただろ?」
──"うん"
なんぞか。
喋らない……念話の魔力でさえ他人がいるときは漏らしたくない、みてェな気概を感じられたンで、こうして2人切りになってから話しかけたワケだけど。
やっぱり正解だったらしい。そして、理解することもある。
「なんつー命の気配だよ、お前」
──"希少種だから、全力で己を隠せとおばばに言われた"
「へェ。まァこれなら確かに。俺じゃなくとも気付きそうだ」
念話の魔力から漏れ出でた命の気配──それは、どこか神に近しきモノ。
どこか──あの諸島にいたドラゴンを思い起こさせる。そもそもドラゴンが希少種だから、そのおばばとやらの判断は間違ってないンだろう。この世界じゃ魔物の立場ってな弱いワケだしな。
にしたってそいつらはエイトスを俺に差し出した。"磔の子"にしようとした。何かがあってそれは無くなったが、あのまま俺が拒絶してなけりゃ、俺はコイツを殺していた。
……なんて。
そんな未来は、絶対に訪れなかったンだがな。
──"夜の使徒。どこへ向かう?"
「梓って呼べよ。冥界に行きゃ夜の使徒なんざわんさかいるんだ、俺1人を指す言葉じゃねェ」
──"チビドラ、なんていう私1つを指す言葉じゃない名前をつけようとしたくせに"
「おお根に持ってンのな。まァいいや、好きに呼べよ」
──"わかった。夜の使徒"
……仲良くなるの難しそうだなァ。
いやポニテスリットも言ってたけど、コイツほんとは全く俺に懐いてないんじゃないかって……まァいいけどさ。夜の使徒ってな嫌われるモンだ。それが動物なら尚更。
誰だって死者を好んだりしねェよ。
「んで、どこへ行くかって話だったな。あれ、見えるか?」
──"赤い塔?"
「そそ。……ここ、なんだっけ。山脈月だっけ。この世界じゃない世界において、あの塔は群塔魔閣における最重要施設だった。それがどォなってるか気になってな」
──"でも、防護の魔が敷かれてる"
へェ。
流石は魔女の村出身ってか? コイツ、ホントはロティスよりも先にあの拡散術式の石碑の事気付いてたりしてな。
あるいは魔物特有の感覚か。俺もクロムクラハだった頃はこんな魔力感知下手じゃなかった気がするし。
「殺したら騒ぎになると思うか?」
──"術者は気付く。そうでない者には伝わらない。けど、見た目が変わったり、音が鳴ったりするかもしれない"
「殺さず入る方法ってな無いのか」
──"中にいる者から招いて貰えばいい"
ふむ。
中にいる者、ね。
「とりあえずよ、その剣降ろしてくんねェ?」
「不可だ。物陰で随分と物騒な言葉を吐いておいて、その不審者の警戒を外すことはできない」
「そりゃまァその通りだがよ。別に害意があるワケじゃねェんだ。あの中央の塔の中を確認したくてよ」
「不可だ、と言っている。あれは我らにとって強い意味のある施設。旅の者を拒絶するつもりはないが、部外者にそう易く見せられるものではない」
聞き覚えのある声だ。
酷く──心を刺激する。
「アンタさ、名前教えてくれるか?」
「断る。お前を捕縛してからなら、」
「
振り向きながら、クリスを引き抜く。
剣を止めて。……あァ、助かった。【斬滓】じゃねェな。
「何故、我が名を?」
「波ヘアピン……
「ミィワンの? ……そんな者が何故、殺すだのなんだのという言葉を吐いている」
「人命の話じゃねェよ。あの魔法の話だ。どうやって解呪するかってなを考えてた」
「本当に知り合いなら、解呪の必要はないだろう。あの塔には彼女しか入れない。ゆえに、彼女に招いて貰えばいいのだから」
……あー、ン?
アイツ、そんな地位高かったっけ? もっと下っ端な感じだったけど。
むしろコイツがリーダーで……あと【飲影】の奴とかがリーダーだったよォな。
「そうなのか。何、勘弁してくれ。俺ァこう見えて頭が悪くてな。力技以外での方法が思いつかなかったンだ」
「それは相当だな……」
「あァさ。で、アレだ。なんだ。波ヘアピン、じゃなくて、ミィワンが俺の事知らねェつったら捕縛でもなんでもしてくれていいからよ、とりあえずアイツに会わせてくんねェ?」
「……わかった。ついてこい。怪しい真似はするな」
「あいよ」
クリスをしまう。
それを見て、フェイランも剣を鞘に納めてくれた。
……こっちの魔法少女は、ポニテスリット然り背中メッシュ然り、元の魔法に似た魔法を使う傾向にある。が、【斬滓】なンてオーバーパワーも良い所だ。俺の【即死】、あるいは【死漸】、お嬢の【神速】を再現するよォな魔法が無いあたり、【斬滓】も再現はされてねェと思いたいところ……だが、一応最大限警戒しておくに越したことはない。
ジャカンの尾と同じよォに、精神体をそのまま傷つけることのできる攻撃だ。夢の世界で食らえば何になるかわかったモンじゃない。
──"当ては、本当にあるの?"
──"あると思うか?"
──"だと思った。あの女の子達、呼んでくる?"
──"問題ないよ。なんかあったら勝手に来るだろ。お前さんは自分の身を案じな"
「しかし、ミィワンが私の名を他者に話すとは……」
「ン? あァ、なんぞ、大切なものって感じの話し方だったよ。あとシャオメイ、リュウイン、リンリン、ウーウェイだったかな」
「ふむ。確かにその者達はここ群塔魔閣にいるが……これといった共通項は無い、気がするが……」
「俺に聞かれてもなァ」
へェ、そうなんだ。
そういや派閥とかなんかがあるんだっけ、群塔魔閣って。恵理須ではあったそれがこっちではなくなって、だから関係性がバラバラになってる、とかか?
あんまし興味はねェがな。死者さ。波ヘアピン以外。
あの後蘇生したのかどォかは知らねェが、どうであれ俺の中じゃ知らねェ話だわな。
「着いたぞ」
「ん? おお、マジか。今マジでなんも考えずについて来たから何にも見てなかった」
「どうやら頭が悪いと言うのは本当らしいな」
──"うん"
別にコイツに接続したワケでもねェだろうに、わざわざ俺の脳内でだけ肯定を聞かせるたァ良い性格だよ。もうちょっと純粋な奴だと思ってたンだけどなー。
「少し待て。ミィワンに確認を取る。……そういえば、旅人。名を聞いていなかったな」
「梓だ。梓・ライラック」
「わかった」
さて──まァ、当然波ヘアピンが俺の事を覚えているとは考えにくい。
どォいう法則で思い出すのかってなパターンはまだ定かじゃないが、お嬢でさえ確信持ったのが先日のダンジョン内でだったのだ。普通に覚えてねェって可能性のが高い。
だから、こっちがソッチの内部事情をある程度知ってて、マジで馬鹿な奴っぽいってなことを欠片でも先入観に芽生えさせて、何より波ヘアピンを強く信頼しているって思わせて。
普通に、なんでもなく──死飛沫を使う。
最近使ってなかったけど、別に【死漸】じゃなくても使えるンだよね、これ。
多分に死の概念を含んだ魔力は塔の外壁に付着すると、その名の通り一瞬にして防護の魔、とかいうものを粉々に打ち消し殺す。
……よし。
気付いてねェな。
術者なら気付く、ってな、術者以外は気付くのが遅れるってことでもある。色も変わらねェ音も鳴らねェあたり、魔女の里の魔女たちよりは悪辣じゃない奴が仕掛けたって事で。
今まさに中へ声をかけようとしていたフェイランが、咄嗟に半歩飛び退く。
瞬間、扉が勢いよく開いた。
「ど……どうした、ミィワン。今、危うく私は扉に鼻頭をぶつけるところ──」
波ヘアピンだ。
何も変わらない波ヘアピン。だが、その表情は焦燥。そして驚愕。
俺を確認すると──焦りを露わに声を荒げる。
「フェイラン、ソイツ早くこっちに渡して!」
「あ、ああ。それは良いが……わかったわかった。そんなに強く睨まないでほしい。梓」
「あァよ」
招かれてはいる。
もうそんな防護魔法かかってねェけど、まァそういう仕組みなら招かれるのも悪かねェ。
俺と、そしてエイトスがそこへ入ると、扉は閉められ。
瞬間、完全に外界から遮断されたのを感じた。防護魔法が再起動したらしい。
「──貴女は、何者、なんですか。目的は? 群塔魔閣に何をしに……」
「おォ、そう殺気立つなって。俺ァただの旅行者だよ」
「旅行者がこの結界を殺したと? 理由は?」
「この中を確認したくてな」
「……」
塔の中。
殺風景なそこは、けれど1つだけインテリアとも言えなくもないものがあった。
「拡散術式の石碑……まァ、無い事を願って来たンだがな」
「これが、狙いですか」
「欲しくはねェよ。壊したいだけだ」
「……」
──"罠の類は?"
──"無い。無用心"
「"予言の子"……ですか」
「あン? なんだ、知ってんのか。魔物でも妖精でもねェ奴が」
「私だけが、この周辺域において──安定した魂を持っていると。だから、口伝の継承者として選ばれました」
ふむ。
誰だ、そんな事を知ってる奴。安定した魂ってなつまり、死んでねェ魂の事だと思うンだが、それを波ヘアピンに伝えた奴は、恵理須での出来事と、ふーちゃんの予言のどっちもを知ってるってことになる。
んな特殊な立場の奴早々いねェぞ。だって群塔魔閣での諸々は、クロムクラハだった俺とアオン、そして当の群塔魔閣の魔法少女達しか知らねェはずなんだから。
「貴女が来たということは、この石碑は意味を失ったということですか」
「そうだな。もしかして、これを守るために建てられたものか、群塔魔閣は」
「はい。……ですが、たとえ建立の理由が消えたからといって、群塔魔閣を壊すことはないでしょう」
「そりゃそォだ」
「どうぞ。……出来得ることなら、早目に終わらせてください」
「なんでだ」
「……初対面の人に言うべき言葉じゃないのはわかってます。……けど、どうしてか……私は、貴女の事を許せない。嫌い、に近い感情が渦巻いています」
ふゥん。
思い出せる領域にあるのか、感情だけは捨てきれなかったか。
所詮夢だ。ソイツがソイツでなくなったってワケじゃねェ。強すぎる嫌悪は消えない、か?
「わかった。つっても、一瞬だ。──【即死】」
一瞬だ。
何の溜めもなく、それにかけられた拡散術式を破壊する。
大本を断ち切らないと意味が無い、ってな結論こそ出たが、壊しておくに越したことはないからな。
「……」
「わーった、わーったよ。安心しろ、もうここには来ねェ」
「そうしてください」
「──だから、一抹の夢さ。泡沫だろう。俺はそれを肯定しねェが、精々楽しむといい」
一言。
余計な事をほざいて、エイトスと共に塔を出る。
内側からは簡単に出られるンだな。
ちったァ、変わったんじゃねェかと。
そう思ったんだがな。
「変わらねェか。手段が豊富にあればこそ……ってね」
これまた余計なコトを言って。
かつて人命よりも大切な、とされた蘇生槽のあった建物を、後にした。
「あ、梓さん。どこ行ってましたの?」
「思い出の場所にな。お前さんらは、満足できたか?」
「うむ。久方ぶりに腹も膨れたぞ」
「人間の文化には理解できないものも多いが、満足できたと言えるだろう」
「食べ、すぎた」
フェイランに一応挨拶だけして、そのままお嬢たちに合流。
すっかり出店を楽しんだ様子だ。
「んじゃそろそろ閻魔刃塔に行こうと思うんだがよ」
「ん。案内、する」
「頼むわ」
なんでも、閻魔刃塔は群塔魔閣より些か攻撃的というか、背中メッシュの身内贔屓無い言葉をそのまま引用するなら──野蛮、なのだとか。
だから、飛行魔法で行くと撃ち落される可能性があると。地元民が使う道を使って徒歩で行った方がいいと。
物騒な場所もあったモンだな、とは思いつつ、閻魔刃塔なんて名前だもんなァとも思う。
ちなみにこの世界に閻魔ってな考えはあんまり浸透してない。地獄なんざないからな。冥府が天幕の向こう側にあるものだ、ってなは共通認識なんで、少なくとも恵理須では閻魔様、なんて言っても何のことですの? って聞かれてたと思う。
さて、勝手知ったる、といった感じで群塔魔閣を出る背中メッシュ。
そのまま街道を行く……のかと思えば、いきなり獣道に入り始めた。
「マジでそっち行くのか」
「? うん。閻魔刃塔に繋がる街道は、存在しない」
「そりゃまた、けったいな場所だな」
「閻魔刃塔はそもそも研究機関だからな。旅人が立ち寄る、という事を想定していないんだろう」
「研究機関?」
「なんだ、知らなかったのか? 閻魔刃塔は魔法の研究機関だ。魔法学に詳しい魔法少女や、学者の域にまで行ったものが多くいるだろう」
「ですから、面白い魔法や危険な魔法も多く存在すると聞きますわ。中には危険すぎて世に公開できない魔法などもあるとか」
「ある。あるし、たまに暴発して死人がでる」
「即時蘇生ありきの捨て身研究ですわね……」
あんまり好きな話じゃなかった。
……けど、そォいや言ってたな。この世界は死に厭いが無いから、死人上等の研究や開発によって凄まじい勢いで発展してきた、って。
「研究、ねェ。それをして何になるんだか」
「目的なんか、ない。ただ高みを、目指すのみ」
「話だけ聞いていると、窮屈そうなところだな」
「むしろ、自由過ぎる」
あんまり良い予感はしねェなァ。
が……ちょいとまァ、気になってはいる。
つーのも、波ヘアピンが使ってた防護魔法。あとアイツに予言を継承した奴。
群塔魔閣の先代とかなのかな、とは思ったが、閻魔刃塔が研究機関だってンなら話は別だ。
明らかに他より浮いていて、且つ高度過ぎる結界も、予言の口伝も、本来は閻魔刃塔側にあった、あるいはいた誰かによって継承されたモンなんじゃねェかと。
半ば追い出される形で出てきちまっただけに詳細を聞けなかったのが惜しいが、この勘は外れてない、気がする。
俺の勘の的中率は50%もあれば良い所くらいだからあんまり信用できねェが。
「背中メッシュの親御さんも研究員なのか?」
「そう。雷系統の魔法を、詳しく研究している」
「ほーん……」
だから背中メッシュもそれを使ってる、って?
……背中メッシュが【神鳴】の魔法少女だったから、夢における両親の研究内容が雷に寄った、って方がしっくりくるんだが。つーか、恵理須での閻魔刃塔が研究機関だったのかは怪しい所だよな。蘇生槽があったとも考え難いし。
さっきの群塔魔閣も同じだ。
波ヘアピンが唯一の生き残りだったから、波ヘアピンを基準に地位が上がって、他の関係性が整理された、って感じ……あるいは、フェイランがいなかったから、とかか?
何にせよ、始の点の魔法少女や人間達が基点になって関係性が新たに築かれているってな推測は間違って無さそうだ。
「もうちょっと」
「──ちなみに、ですけれど、シェーリースさん」
「なに?」
「攻撃された場合は、仕返しをしても問題ありませんの?」
「いいよ。というか、しないと実験台にされる」
「こえー場所だなオイ」
実験台ね。
……いざとなったらエイトスを全力で逃がす準備はしておくか。
「【即死】」
「【神光】──負けましたの」
「はン、だから遅いっつってンだろ」
言った傍からの遠隔魔法。
死ぬほど細い魔力の針……それが、まさに懸念していたエイトスを貫かんと飛んできた。
──"あそこ、危険"
「みてェだな。背中メッシュ」
「ごめん。閻魔刃塔は、見境がない。派手に痛い目を見せても、構わない」
「閻魔刃塔そのものを破壊してもいいのか?」
「問題ない。1日あれば、再生すると思う」
それを聞くや否や、半透明のリングのようなものを手に出現させるポニテスリット。
ロティスのいたダンジョンでキスキルの結晶を壊さんとした魔法だ。曰くポニテスリットの魔法の中で最大威力。且つ物体の破壊に適した魔法。
「【光槍】……【的中】、【引力】。ロティス、エイトスを頼んでいいか?」
「わかった」
「んじゃまァ、人のいなそうな外壁でもぶっ壊させてもらうか。余計なコトすんじゃねェってな」
「塔はダメですの?」
「人がいる場所はダメだよ。自分の使う魔法の威力考えろ、普通に殺しちまうだろ」
「死なねば反省しないと思うが……」
……やめろよ。
その概念、そろそろ脱却させてくれよ。国から離れてようやっと忘れられるかと思ったのに。
死を罰として使うンじゃねェ。
「弐式、杭柵」
飛び上がり、巨大化した【光槍】に【引力】ひっつけて、【的中】を付与させた上でぶんぶんぶん回す。
天に描かれる光の円。威力、速度は十分。
──そんな俺に向かって、影か闇か、とかく黒い何かが壁のよォになって連なり重なり立ち塞がる。
俺のコレが光だと判断して、咄嗟に対策になりそうな魔法を構築したって感じか?
「だがちょいと遅かったな。俺が【的中】を発動させる前にやっときゃ良かったンだろうが──」
光の槍をぶん投げる。
それは黒い壁に当たった瞬間、明らかな減衰を見せた。あの黒の主成分が何かは知らねェが、マジの対策だったらしい。
ただ──【的中】はそォいうのを無視する。
そこいけねェならそこじゃねェトコ行く。なんとしてでも【的中】すンのが【的中】だ。
ゆえに【光槍】は自ら壁を避け──外壁に直撃する。
「シェイブリング!」
追撃はポニテスリット。
世界を圧す力が輪状になったもの。それが外壁に付けられた窪みを捉え、さらに大きなものにする。その周囲、横合いから出現するのは同じく不可視の力。恐らく同系統の魔法がリングの側面を捉え──破壊、せんとする。
まァできなかったンだが。
何か他の力が加わった、とかではない。
単純に、ポニテスリットの魔法の強度に軍配が上がったというだけの話。
同系統の魔法を巻き込み、ポニテスリットのシェイブリングは更に威力を増す。成程、最大威力。回転数はさらに上がり、外壁をめちゃくちゃの粉々に磨り潰していく様は爽快のそれだ。
「ガンニアサンダー」
「【神光】──手加減バージョン!」
更には背中メッシュの雷撃、お嬢の光条。
それらが外壁の全てに着弾し。
「ま──待ってくれ! シェーリース、帰ったなら言ってくれ! ご友人たちも、すまなかった、他人のペットに矢を向けるなどどうかしていた! この通りだやめてくれ!」
焦りに焦って出てきた、丁度"前"の俺と同い年くらいのおっさんの平謝りを受けて、攻撃の手を休めるのだった。
……もしかして、このおっさんが背中メッシュのパピー?