遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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144.地巴止微義認具塔叔母羅伏.

 閻魔刃塔。

 前情報通り、研究機関であるらしいそこは、成程様々な蛍光色の液体が入った丸底フラスコやぐつぐつと沸騰する液体の入った釜など、なんなら魔女の隠里よりも魔女っぽい事してる様子が散見される。

 通り抜ける階層のそれぞれで各人が魔法の研究をしているよォで、時折爆発音が聞こえたり、悲鳴や悦びの声が聞こえたり。正直気が気でない……ンだけど、だからといって「やめろ!」なんて叫んで制止しにいくことなんてできない。

 だから、無視して。

 おっさんに連れられるまま上階を目指す。

 

 ふと窓の外を見れば、先ほど俺達が壊した外壁が直っていく様が。

 まるで巻き戻しでもするかのよォに、けれど少しずつ、本当に少しずつ岩や塵芥が壁に戻っていっている。

 

「アレは、どォいう仕組みなんだ」

「外壁?」

「あァさ」

「あれは、そういう形として、」

「あれはねー、初期の形を記憶させているんだ。外壁の形を記憶させているから、たとえ破壊されようとパーツを盗まれようと、記憶を頼りに再生する。この建物もそうだね。だからどこでどんな破壊が起きても問題は無い。……と言いたいところだけど、当然この魔法は維持に膨大な魔力を必要とする。再生が起きれば尚更に。こんなにすごい技術でありながら、ただの外壁を築いて都度都度直した方が安価だったりするんだ」

「……」

 

 背中メッシュが説明しよォとした、のを遮っておっさんが早口で捲し立てるよォに説明してくれる。

 無言で、けれど凄まじい嫌悪感を醸し出して、背中メッシュがおっさんを睨む。一切気付かないおっさん。

 

 ははーん。

 

「閻魔刃塔ってな名前はどォいう由来なんだ」

「それは、凄く昔」

「とても昔の話だけどね、閻魔刃、という伝説の刀剣があったんだ。即時蘇生の術式が敷かれていない時代の話だよ。その頃、それはそれは巨大な魔物によってここら一体は滅亡に瀕していた。それを救ったのが加具土命という神様と、彼女の持っていた閻魔刃だ」

「……」

「待て、加具土命? ソイツが今どこにいるかわかるか?」

「それは困る質問だな……。加具土命はね、何千年と前に姿を消してしまったんだ」

「……そォか。それで、その閻魔刃によって魔物が討滅されて、それがぶっ刺さった土地がここ、とかか?」

「刺さったわけじゃないよ、流石にね。単純にソレに肖って名付けられたというだけさ」

 

 ……けど、それじゃおかしい。

 安藤さんがそれを為したンだとしても、恵理須にも閻魔刃塔はあったンだ。

 あっちでの由来に安藤さんが関わっているとは考えられない。

 

「あ、ここここ。来客用の部屋でね、大丈夫罠とかないから」

「あったらこの階層が無くなるだけだ」

「ミサキ、この階層が無くなったら私達は潰れてしまうのではないか?」

「落ちてくるものは粉砕すればいい」

「中々怖い話をしているけど、じゃあ僕は彼女を呼んでくるから……」

「彼女?」

 

 なんだこのおっさん。

 おっさんのクセに恋してンのか。

 応援するぜ。

 

「あぁ、シェーリースの母親といえる人だよ」

「……別に、いいのに」

 

 なんぞ。

 含みのある言い方だが──当の背中メッシュが嬉しそォなので、ツッコまない事にする。

 

 

 

えはか彼

 

 

 一切見覚えの無いその顔に、酷い嫌悪感を覚えた。

 

「やあ、初めまして。私はこの閻魔刃塔の魔法生物学科の研究所長をしているKA-ローラインという者だ。CA-リースを生み出した者だと思ってくれて構わないよ」

「久しぶり、ママ」

「うん、久方ぶりだね。EDENでは上手くやれているかい?」

「わからない。けど、友達はできた」

「それは良かった」

 

 一見、普通の親子だ。

 けれど言葉の端々に。そして──背中メッシュを見るその目に。

 彼女らが、"そうではない"ことをまざまざと見せつけられる。

 

「初めまして、カロラインさん。私はフェリカ・アールレイデ。シェーリースさんのクラスメイトですわ」

「ミサキ・縁という。シェーリースにはいつも世話に……なっているとは言い難いが、かけがえのない友人であると言えるだろう」

「ロティスだ。私はまだ出会ったばかりだが、非常に強力な魔法の使い手であるという信頼がある」

 

 口々に自己紹介する皆に続こうとして。

 

 ドス黒いものが喉の奥から出そォになって、咄嗟に口を閉じる。

 別に良いんだ。

 ()()()()()()()()()。ただ、()()()()()()()()()()()()

 

「梓?」

「……魔法生物学科と──言ったな」

 

 待て。語気を強めるな。初対面だぞ。

 背中メッシュがこんなに懐いている、ちゃんとした彼女の母親だ。少なくとも彼女はおかしなことをされているわけではない。

 こんな──死の気配に塗れた奴が?

 

「銀髪に碧い目……もしかして君が梓・ライラックかな」

「うるせェ、問いに答えろ」

「あ、梓さん? 流石に失礼が過ぎますわ!」

「どうしたの、梓」

 

 夢の世界だ。ここは。

 冥界と繋がりなンて欠片ほどしかない。一応神さんに声が届くのはわかってる。けど、今の俺に冥界が扉を開いてるかっつったらンなことはないはずだ。

 だってのに──あァ、抑えてねェと、溢れ出て来ちまいそうだ。

 どろどろ、どろどろと。

 

「全てを導いた英雄の名はこの閻魔刃塔にも届いているよ。そうかそうか、君が。──それなら、私と話す前に、彼女達に会うと良い」

「作るのは、100歩譲って許そう。誕生には喜びを。──だが、掃いて棄てるというのなら、俺は怒りを抑えきれん」

「価値観の違いだね。道具と子供を混同してはいけないよ」

苦理主(クリス)

 

 気付いた時には斬りかかっていた。

 そして──赤い骨の剣に止められていた。

 

「おや? どうしてワタシはこのクソ所長殿を守っているのでしょう。斬られてしまえばよかったのに」

「それは君がそういう存在であるとして生み出されたからだね」

「そうなんですか?」

 

 目を見開く。

 これは。このうざったるい声は。

 

「ところで、見た目だけで物騒だとわかるこの剣を構えている方、誰でしょうか」

「全てを導いた英雄──梓・ライラック。どうやら彼女は私の行いが気に入らないようでね。ボーグル、少し相手をしてあげなさい」

「やです。どう見ても格上じゃないですか。壊れるのって結構いたいんですよ?」

「私はCA-リースのお友達と楽しくお茶会をしなければならないんだ」

「えっ、ちょ、ちょっと。私も戦いますわ!」

「大丈夫、ボーグルは人間を傷つけることができない。そう設定してあるからね」

「そういう問題では──!」

 

 じゃ、なンて言って。

 俺とボーグル以外のこの場にいた面々が、光に包まれる。エイトスもだ。

 そして、次の瞬間。

 

「……消えた、だと?」

「気配遮断の防護結界魔法と高速移動魔法、光の屈折魔法の同時使用という奴だよ。ああ、途中から音声伝達魔法も使っていたかな? 何にせよ、君がKA-ローラインに斬りかかった時点で彼女らはこの部屋にいなかった。あんなでも閻魔刃塔が誇る研究所長の1人だからね、油断しない方が良い」

「──ツイウか」

「おや? 私の名を聞いていたのかな? ──それとも、全く違う、別の場所で──私達に会っていたのかな」

 

 骨の剣を弾いて距離を取れば、既にそこは応接間ではなく、閻魔刃塔の外、開けた森の中になっていた。

 幻術の類か。そもそも俺ァ閻魔刃塔を上ってなかった説があるな。どっからか、って考えりゃ、エイトスに打ち込まれた針を殺した時点と考えるのが普通だ。

 ハハ、やってくれンじゃねェか。

 

「ツイウ、難しい話をしていないで、手伝ってください。彼女、どう観察しても私より強いです」

「勿論だとも。あるいは君の()()として、手を貸そう」

「何言ってるんですか? アナタは私の使役者です。友人じゃないです」

 

 まるでそのまんまなボーグルと違い、ツイウの見た目は覚えのないものだ。

 そりゃそうだろう。彼女はその精神をその辺にいた魔物に移しただけ、と言っていた。元の体は全く違う、と。

 だから右手もしっかりとあるし、魔物でもない。

 

「戦わないって選択肢は無ェのかと、普段は俺から聞くンだがな」

「え、それでいいならそれがいいです。戦闘とか面倒なので」

「残念ながらそォは行かない。ちっと覚悟が足りなかった。魔法学の学者──あそこまで堕ちた奴が出てくるたァ思って無かったンだ」

「ああ、KA-ローラインに期待してはダメだよ。彼女は"完璧の創造"にしか興味が無いからね」

「らしいな。エイトス狙ってきたのはそォ言う事だろ。ドラゴンの幼体の心臓なんざ、炉心にはもってこいだ」

 

 内側から溢れ出たどす黒い魔力を吸って、クリスが禍々しさを増す。

 そこへ行かなかった魔力は──。

 

 あァ、おかしな話だ。

 俺はもうクロムクラハではないというのに。

 

「ツイウ、ツイウ。魔法少女とは翼が生えるものなんですか?」

「普通は生えないよ。けれど、彼女は特別だ。特別なものに特別なことが起きるというのは、おかしなことではない。そうだろ?」

「そうなんですか。それで、ワタシは何をすればいいんですか? あんまり難しい命令はしないでください」

「暴走傾向にある彼女の相手をしてやってほしい。何、彼女とてリベンジを果たしたい所だろうしね」

 

 おかしな話だ。

 ここは夢。冥界ではない。

 なのに──肌が黒く染まっていく。翼が生える。

 身体に幾何学的なラインが走る。まるで全身が炭化したかのよォな感覚は、この世界に来る前までずっと味わっていたソレと同質。

 

「1つ、質問がある」

「私に、ではないね」

「あァさ、ボーグルにだ」

「え、なんですか。難しい事は質問しないでください。ワタシ、わからないので」

 

 クリスが剣の形を解いていく。

 禍々しい形はそのままに──両の手へ、その身を融かして、纏わりつく。

 ハハハ。

 クロムクラハの頃よりも、"らしい"じゃねェか。

 

 翼が大きくしなる。

 開いた口から黒い霧のようなものが出る。

 地についた四足が体を支え──光ではなく命と死だけを移す瞳が怪しく輝く。

 

「知らねェフリはいらねェんだ。俺を覚えているか、ボーグル」

「難しい事は質問しないでくださいと言いました。覚えてるわけないじゃないですか。ワタシ、一度消えたんです。新しく作り直されたんですよ。それに、アナタはどう見てもクロクラさんじゃないので。ワタシが覚えているワタシの友人は、もう少し綺麗な見た目をしていました」

「覚えてんじゃねェかよ」

「だから、アナタの事は知りませんと言っているんです」

 

 ヒ、と。

 漏れ出でた笑いは、どこぞの狼によく似たもの。

 狼と鼬じゃ結構な差があるがな。まァ──ちと、肖らせてもらおう。

 

「結局お前さん、自分の立場もわかってなかっただろ? 忘れさせられていたンだ、当然っちゃ当然だが──ヒヒ、戦えはしていたンだ。物足りねェのはてめェも同じだろ」

「安心すると良い。この周辺には結界を敷いてある。どれほど暴れても、閻魔刃塔や群塔魔閣にいる者に君の姿見られることはない」

「あァ、そりゃ朗報だ」

「ワタシにとっては悲報です」

 

 こじ開ける。

 もっと寄越せと、冥界の魔力へ働きかける。

 その姿は──あるいは、黒いアンヴァルにも捉えられるだろう。

 

 限界だ。

 限界だ。

 限界だから、掴みかかる。

 

「わ」

「覚えているか、自分の最期を! いっちょ前に気なンか遣いやがって!」

「難しい事を質問しないでください。覚えているワケないじゃないですか。覚えていたとしても、思い出したくないです。死者であるアナタにはわからないと思いますけど、死ぬのって怖いんですよ」

「ヒヒヒッ、そりゃァ最高の言葉だ!」

 

 爪になったクリスがボーグルの剣を掴む。

 掴んで、引き剥がす。

 その後隙だらけとなった胴体への蹴りを放ち、それがまた赤い剣で止められたことに口角を上げる。

 

「私の魔法名は、【守霊】。その身体、その剣は守護の概念を持つ。奪われようと壊されようと、守ることにおいてボーグルの右に出る者はいないよ」

「クロクラさんじゃない方、こういう場合は術者を狙うのがセオリーです」

「狙ったっててめェが間に入ンだろ!?」

「そうでした。ツイウはワタシの命より大切なので、そうします。だからやめてください」

糸伊豆阿派青磁負不伏零矢堕千経度戸地内途(それは夜に捧げる一節の祈り)!」

「クロクラさんじゃない方。名前を教えてください。呼びにくいので」

「梓だ。梓・ライラック」

「アズライさん。何故今世界言語を使ったのですか? ワタシ、そんな全力でやるつもりないんですけど」

「決まってらァなァ!」

 

 微かでも繋がった冥界の気配。その向こうにいる彼女へ祈りを捧げる。

 大丈夫だ。俺はここにいるぜ、と。そして。そして。

 

 そして!

 

「馬鹿にしてくれやがる──相手をさせる、だって? リベンジ? 暴走傾向? ヒヒヒ──ハハハ!」

「あ、ツイウ。少し離れてください。アレばかりはワタシ、弾けません。食らったら消し飛びます」

叙位後場明日,碑椅子後地縁土負不頼譜(誕生には喜びを。最期の時には安寧を)──生み出すのは良い。100歩譲って良いと言った。だがなァ、オイ。道具と子供の違いだと? 知るかよ、命である事に変わりはねェだろうが」

 

 リベンジを果たしたいだァ?

 んなわけあるか。俺はあんとき負けたンだよ。本来はあそこで死ぬはずだった。それを覆した奴にかけられる情けなんざ受け取るわけねェだろうが。

 ハナから眼中に無ェんだよ。

 俺が怒り狂ってンのは暴走してるからじゃねェ。

 怒り狂う対象がいるからだよ。

 

 黒い魔力が口に集中する。

 何度も見たからな。やり方は覚えたさ。

 

夜驚声(トート)

 

 光だ。黒く、深い。なにもかもの瞼を降ろす究極なる一。

 その黒光は、真っすぐに閻魔刃塔へ突き進む。阻むモノはいない。隔てるモノはない。これに対し、講じる魔法など在りはしない。

 なれば──。

 

 

 ……止めるしか、無い。

 嚙み殺すしかない。

 たかだか一時の感情の昂ぶりで、たかだかゆめまぼろしのあやふやな命相手だとしても。

 

 俺が、それをやるのは──ダメだ。

 

「……ツイウ」

「何かな?」

「お前に下された命令ってな、なンだ。俺を引き剥がし、引き離し、足止めする。どんな手を使ってでも。それだけじゃねェだろ?」

「ああ、勿論。──全てを導いた英雄()()()()君が、害ある存在であるかどうかを確認する、だ」

「で?」

「敵に回したのなら十二分な脅威となろう。だけど、敵に回さなければ自戒のできる存在だ。そう評価する。ただし、KA-ローラインは既に君を敵に回す行いをし続けているから、彼女単体にとっては害ある存在と言える。が、それは私達には全く関係の無いことだ」

「ツイウ、まだ戦わなきゃダメですか?」

「いや、いいよ。積もる話がある。ここら一帯には戦っているフリをした幻術でも撒いておくとして、君と話がしたい」

 

 ツイウがパチンと指を鳴らす。

 それにより、シャボン玉のよォなものが周囲を覆った。

 

 俺も……自分の中から、余計な要素を抜いていく。

 吐き出したくて仕方がないものを無理矢理飲み込んで、食い殺して嚙み殺して、クリスも戻して冥界の扉も閉じて……一息吐く。

 

「あァさ……落ち着いた。まだちっと抜けきってねェが、問題ない」

「それは良かった。──改めて、久しぶりだね。クロムクラハ……いや、梓・ライラック」

「お久しぶりです、アズライさん」

「……あァ」

 

 久しぶり。

 死別した奴にそォ言われるのは、やっぱり慣れない。慣れないし、それを否定する自分がいる。

 

「それで、何やってンだ、お前ら。閻魔刃塔出身だったのか?」

「間違いではないけれど、正解でもない、と言ったところかな。出身地は私も知らないんだ。物心付く前に、ここに実験素材として連れてこられたからね」

「……」

「こちらの世界では人が死なないから致し方なく違う在り方になっているけれど、元の世界における閻魔刃塔は『故意による魔法少女の作成』を目的とした研究機関だった。私やCA-リースはその実験体……成果物の1つだ」

 

 聞きたくねェ単語がポロポロ出てきやがる。

 知らなかった。そんなやべェとこだとは、微塵も思って無かった。

 

「私の魔法【守霊】はその中でもとびきりの成果物でね、魔法によって1個生命……己で考え、己で行動する魔法というのは、彼女らにとっては最高の実験体だった。──だから、私はとっとと出て行ったよ。よって、先ほどの問いの答えは、出生の地は知らない。育ったのは閻魔刃塔で、最終所属は群塔魔閣だった。そこでチームを組んで、一帯を調査している最中にジョームンガンダーとフルオブズヴィトニーに……といった次第さ」

「エ、ワタシってそんな凄い存在だったんですか?」

「ああ、そうだよ」

 

 ……その末、肉体や魔法少女の核を失い、それでも魔物に憑りついて2つを討滅せんと雌伏の時を過ごし、フルオブズヴィトニーを殺し、ジョームンガンダーに食われ──俺達がジョームンガンダーに勝つための活路を開いてくれた。

 覚えているさ。どっちに対してもそこまで好印象を覚えていたワケでもないのに、その最期を見届けて……俺はちゃんと、悲しかった。よく覚えている。

 

「私達がここにいる理由はそれだけさ。今回は出ていく理由が無かった。特に非道な扱いは受けていないからね」

「そォかい。そりゃよかったよ」

「でも、君にとっては快い話ではないんだろう? クロムクラハの時とは少し雰囲気が違うようだけど、KA-ローラインの所業を許せなそうだな、という印象はばっちり合っていたみたいだからね」

「……成果物。実験体と言ったな。それは、つまり」

「つまり、私達は魔法によって加工を受けた人間、という事だ。ただ、私とCA-リースでは少し違う。私の場合は他所から攫ってきた子供に人道外れた手術や実験を施して魔法少女にした、というプロセスだけど、CA-リースは"魔法少女になるために生み出された子供"──所謂デザインベイビーという奴だね」

 

 別に、良い。

 それはいいんだ。ソイツの出生がどォかなンて気にしない。生まれてきた命を否定することはない。

 ただ。

 

「成功しなかった子供。あるいは生まれても魔法少女にならなかった奴は、どうなる」

「成程、君が怒り狂っているのはそっちだったか。──勿論、廃棄されるよ。それこそEDENにでも知られてしまえば大事だ。EDENは一応善寄りの魔法少女集団を謳っていたからね、閻魔刃塔が取り壊されるという可能性もあっただろう」

「だが──そのまえに閻魔刃塔が滅びた」

「ああ、そうだ。といってもCA-リースが閻魔刃塔を出た後の話だから、CA-リースには閻魔刃塔を告発することのできる時間はあったはずなんだけどね。彼女、あの様子だ。親があんなのでも、彼女にとってここは故郷なのだと理解させられるよ」

 

 魔煙草を取り出して起動する。

 2本だ。もう1本は、ツイウに投げて。

 

「お返しかい?」

「あァさ。……いつ、気付いた? この世界が元の世界と違う、って」

「気付いたのは私ではなくボーグルだ。彼女が突然"アレ? ワタシもツイウも死にましたよね?"なんて言い出さなければ、私とて気付くことなくこの世界を謳歌していたことだろう」

「ボーグルは、なンで気付けたンだ」

「難しい事を質問しないでください。ワタシにわかるわけないじゃないですか」

「……魔法が記憶を持っている、という事をソンヒューィは把握できなかったのか?」

 

 死者だ。

 だけど、エルバハ・イドラ、委員長、過激無口と違って、こいつらや群塔魔閣の連中は完全な死者ではない。群塔魔閣の連中は波ヘアピンによって魔法少女の核を確保され、ツイウはフルオブズヴィトニーとジョームンガンダーに捕食された。

 究極的に言えば魔法少女はほとんどの場合において死なない。俺はそれを認めてねェが、恵理須におけるシステムとしてはそうだった。

 俺が……メイアートが魔法を引き剥がし、単なる人間にした上で殺す、とか。それくらいしなければ、死なないのだ。

 

 だから、完全な死者である3人に魔法が使えなくて、完全な死者とは言い難いこっちの連中に魔法が使える、というのはパターンとしておかしな話ではない。今の所零の魔法を使い得るのは恵理須での出来事を覚えている、死んでいない者……だと思っている。班長や太腿忍者からは魔法を裁定したはずなのに、零の魔法を使えたからな。

 それを考えれば、こいつらはまだギリギリ死んでなくて、だから【守霊】……ボーグルが出せる。

 

「良ければ、今までの経緯を教えてくれないかな。力になれるかもしれない」

「……あァ、いいよ。ちっと長くなるが」

「長くなるんですか? 短くできないんですか?」

「短くしたってお前は覚えねェだろ」

「当然じゃないですか。難しい話はツイウが聞けばいいんです」

「あァハイハイ」

 

 はァ。

 懐かしい気分だが、それもクロムクラハの奴にやってやれよ。その方が……色々、合うだろ。

 

 さて、じゃあ少しばかりの昔話と行こうか──。

 

 

 

えはか彼

 

 

 

「シェーリースさんにそのような秘密があったとは……」

「別に、秘密にしてない。話すのが、面倒だっただけ」

「だろうな、とは思ったよ。……お前自身が辛そうにしていないからな。気にしていないんだろう?」

「何が?」

 

 人間も魔女もそう大して変わらないんだなぁ、という感想。

 突然激昂して剣を振り回した夜の使徒が隔離された後、私達はカロラインと名乗る女の人に様々な話を聞いた。

 正直人間のいざこざになんてほとんど興味はないんだけど、魔法によって生物を作る、というアプローチはおばば達魔女も試していた事だから、未だ飽きずにいられている。

 逆にロティスはどうでもいいようで、先ほどからキョロキョロと周囲を見たり、頬杖を突いたりと……なんだろう、私が言うのもなんだけど、もう少し態度を隠した方が良いと思う。

 

「それで、CA-リース。ここに帰って来たということは、また研究を手伝ってくれる、ということでいいのかな」

「違う。今、旅をしている。その最中、寄る余裕ができただけ」

「何を目的に旅をしている?」

「この世界を、壊すため」

 

 一切を取り繕わない答え。

 改めて聞いて、恐ろしい旅路だと思う。世界を壊す旅。なんでそんなものに私はついてきているんだろう。

 

「即時蘇生の術式か」

「うん。即時蘇生を、解く」

「……それには、多大なる痛みが伴う。わかっているのかな?」

「勿論。それがこの、縋りつきたくなる夢を、終わらせるものだとしても」

 

 この世界が壊れたら、私はどうなるんだろう。

 やっぱり死ぬのかな。それとも世界の外に吐き出されるのかな。

 世界の外ってなんだろう。何もない空間? 何もない空間って何?

 

「スポットライトが当たった──という事か」

「うん。ようやく、私の番」

「そうか、そうか……。うん。それなら、閻魔刃塔も最大限助力しよう」

「助力してくれるというのなら、今すぐにでも梓さんを解放してほしいのですけれど……」

「解放も何も、アレは幻術だよ。内部ではツイウと彼女が和気藹々と談笑でもしているんじゃないかな」

「なんだ、フェリカ。気付いていなかったのか? 割合初歩の幻術だぞ。私には使えないが、見破ることはできる。よく見てみろ。普段の梓では絶対にしない動きをしていることに気付けるはずだ」

 

 あ、ようやくロティスが喋った。

 今の今まで興味の無い話だったもんね。魔法の話なら口を挟めるんだ。

 ……私もそうかも。幻術。……あんまり得意じゃないけど、触媒があればなんとかできそう。

 

「それで、助力とは? 正直私達の戦力は十二分だ。梓然り、フェリカ然り。勿論私もだが、火力という面では負ける気がしない」

「キスキルの結晶」

「……まさか、アレを壊せるのか?」

「ああ、そうだよ。CA-リース。君はもう試したかな。キスキルの結晶に対しての攻撃を」

「試した。一切効かなくて、落ち込んだ」

「それは仕方のない話、当たり前の話なんだ。キスキルは神の敵。是磑ですら手こずる相手の中核ともいえるものに、神の庇護下にある私達の魔法が通じるわけがない。──だけど、抜け道というものはどのようなものにもあってね」

 

 キスキルの結晶。

 旅についていく内に見るようになった、とてつもなく嫌な気配のする結晶。

 現状では夜の使徒しか壊せないソレ。

 

「悪魔を殺す力──それを、君たちに授けようと思う」

 

 カロラインという女の人は。

 新たな薬品を完成させたおばばのように大きく口角を上げて──微笑んだ。

 

 

 

えはか彼

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