遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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14.At come not crow sick at.
145.案杏宇遠手取理湯丹恩.


「閻魔刃塔の最終目的は3つ。"完全なる魔法の創造"、"完全なる生命の創造"、そして"完全なる世界の創造"だ。この内、"完全なる生命の創造"がKA-ローラインの担当する目的になる」

「そりゃまた……けったいな目標だな」

「そうだね。ただ、以前の……つまり前の世界の閻魔刃塔が"完全なる魔法少女の創造"のみを目指していた、と知れば、ある程度は丸くなったと捉えることができるだろう」

「あンま変わんねェよォに思うンだが」

「目的が1つに特化しているより、3つにばらけていた方が狂気度も薄まるという話だよ」

 

 そんなもんかね。

 ……完全なる生命の創造。はン、アホらしい。

 

「それ作って何になる?」

「神を殺し得る。──と、彼女らは考えている」

「神を? なんで殺そうとしてンだ」

「即時蘇生の術式は人体実験を主としていた閻魔刃塔にとってはあまりにも不都合なものだった、ということだ。それだけではないけどね」

「てーと?」

「単純に、ヒトが神に届き得るのか──その階段は、神の足元にまで伸びているのか。研究者である彼女らは探求し続けなければ収まらない」

「そりゃ届きはするだろ。殺せるかは別だが」

「神の下僕の意見としては、とても貴重なものだね」

「下僕じゃねェ使徒だよ」

 

 別に小間使いしてるワケじゃねェ。間違えんな。

 

「ジーウィース、ソンヒューィ、バーステット。これがこの世界の主な神だ。レイ、ウィズヌ、ハキタの3柱と違い、この世界の人間に対して恩恵らしい恩恵を与えていない。無論ウィズヌは魔物の神だから、前の世界においても恩恵らしい恩恵は無かっただろうけど」

「だから"試しに"殺すにゃもってこい、ってか? やっぱこの塔解体してェなァ」

「けれど、君とてソンヒューィを殺す気だろう? 私達や君をこちら側へ引き込んだと思われる存在……悪夢の神ソンヒューィ。たとえ即時蘇生の術式を解除したところで、この神がいる限りもう一度同じことをされかねない」

「……」

「最終目的は違えど、君達と閻魔刃塔は手を結べる──そう思うんだけどね」

 

 利害の一致という奴だ。

 だが。

 

「……俺達の目的は、この世界を壊す事だ。即時蘇生の術式を解除することでも、ソンヒューィを殺すことでもない。つまり、俺達の目的が果たされる頃には閻魔刃塔も研究なんざしてられなくなるってことだ」

「そうかもしれない。私達とて馬鹿ではないからね、その可能性には既に思い至っている。その上で手を差し伸べている。何故だかわかるかい?」

「──神には届かねェと、自分たちで判断したから、か?」

「惜しいな。確かに閻魔刃塔の研究員たちは、自らや自らの魔法を神の領域に届かせるには時間が足りないとわかっている。けれど、閻魔刃塔が君に友好の手を差し出す理由はそれだけじゃない。……こんな荒っぽい仕打ちをしておいて何を、という気持ちはわかるけれどね。私達は──」

「自分たちが死んでいると、知っているから。……か?」

 

 シトラスハーブの香りが鼻を突く。

 魔物の身体じゃなくなっても魔煙草は好きなようで、投げ渡したそれを美味そうに吸っている。

 ツイウ。あの頃は復讐者、という印象だったが。

 

「そうだ。()()()()()()()()()()()()()()()()……というのが、この辺りの地域における宗教、その教えでね。死者である自分たちは、結局、前の世界以上の成果を得ることはないと誰もが悟っている。前の世界があったこと自体、朧気にしか覚えていない者が大半であるのにも関わらず、だ。これが致し方なく閻魔刃塔が丸くなった理由さ」

「閻魔刃塔の最期、ってのは……」

「脳眠、という魔法少女による、当時閻魔刃塔に所属・生産されていた魔法少女の【合成】……人間は簡単に殺され、魔法少女は鉱石となり、閻魔刃塔は1夜にして滅んだ。完全なる魔法少女の創造なんて無理だったのさ。時間が足りないどころではなかった」

「脳眠は、ここで生み出された魔法少女か?」

「そうだよ。だから、自業自得……そう捉えることもできるだろうね」

 

 今、恵理由知穏をヒトの住みうる環境にせんと尽力している3柱。

 ソテイラ、イントロストップ、そして脳眠。あるいはテンショウとシャミャコ。名を拝命した、と。そう言っていた。神に変生したのだと。

 ゆえに、彼女らはこの世界にいない。神は眠らない。夢を見ない。

 

「と、ここまで閻魔刃塔の側に立って言葉を尽くしたけれど、正直な所私個人はどうでもいい話だと思っている。"死者は生者以上の成果を得られない"を信じているのなら、君と手を組んだとして、どうして神を殺すに至る。どうして悪魔に牙を剥くに至る。この世界において、何よりも、誰よりも死者であるのが君だというのに」

「まァなァ」

「エ、アズライさん死んでたんですか?」

「今難しい話してるから入ってくんな」

 

 死者は生者以上の成果を得られない。

 ……刺さる言葉だねェ。俺は結局……何の成果も。

 

「だからこそ、1つだけ聞いておきたい」

「何だ」

「君は──この世界を壊し得るのかな。その術を。手段を。見つけていると、そう思って良いのかい?」

「確約はできねェ。とりあえず即時蘇生の術式を破る手段は見つけた。んで、俺には世界を殺し得る手段がある。今んとこはただそんだけだ。そんだけの状態で世界を巡り、どォにかしようとしてる。その程度で世界を壊すと謳っている。滑稽に思うか?」

「まさか。……以前、君が私のもとを訪れた時もそうだった。ジョームンガンダーを倒すと息巻いておきながら、フルオブズヴィトニーの事も知らなかったし、ジョームンガンダーがどういう魔物であるのかも理解していなかった。だというのに君は最終的にそのどちらもを成し遂げた。私の意識が途絶えた先で、しっかりと殺し得たのだと──そう理解している」

「それこそお前等の助けあってこそだが」

「そうだ。君は常にほとんどノープランだ。行き当たりばったりで進み続けて、その場にある物や人を頼り、使い、背を合わせて目の前の障害を突破する」

「まるで見てきたよォに言うんだな。そこまで長い付き合いじゃねェだろ、俺達」

「見てきた者がいる、と言ったら?」

 

 ツイウは、そのよくわからねェ問いをして、立ち上がる。

 

「付いてくると良い。ああ、安心してほしいな。私達に君を害する意思はないよ」

「……まァ、行くがよ。お嬢……俺の仲間は今危険な目にあってるとかねェだろうな」

「紅茶と茶菓子でも振る舞われているんじゃないかな。いびつな愛だとは思うけど、KA-ローラインはしっかりCA-リースを愛している。我が子のようにね。ゆえに娘が家に友達を連れてきたようなものだ。内心それなりに舞い上がっているんじゃないかな」

「あー……マジか。あ、そうだ。俺達を案内したおっさんはなんて名なんだ? あのおっさんが背中メッシュの父親に当たる奴、でいいんだよな」

「彼はミケル。ミケル・グランジェ。閻魔刃塔出身ではないけれど、斬新な発想と突飛な行動で閻魔刃塔内の地位を駆け上り、今や総合所長になった稀有な人物さ。CA-リースの父親にあたる人物、で間違いない」

 

 なんか偉い奴だった。

 ……"前"の俺とタメくらい、って思ったけど、座ってる椅子は全然だったなァ。

 

「案内してくれ。その見てきた者、ってやらのとこに」

「あぁ」

 

 さてはて──なんとなく察しはついているが。

 ご対面、と行きましょうかね。

 

 

 

えはか彼

 

 

 

「会いたかったよあーちゃーん!!」

「やっぱりかァ」

「再会のちゅーあんどハグ! ぶべっ」

「カシヨの村と違って避けようと思えばちゃんと避けられるンだ、むざむざ抱き着かれるわけねェだろ」

 

 ツイウに案内された洞窟。

 何の装飾も無い、何の魔法もかかっていないそこに、彼女はいた。

 

「あたた……もう、酷いよあーちゃん! 久しぶりも久しぶりなのにっ」

「うるせェ。こちとらふーちゃんの予言に散々振り回されてきたンだ。久しぶりな感覚無ェんだよこっちには」

「フフ──ならば、吾とならばあるか?」

 

 その声に、今度こそ目を見開く。

 ふーちゃんは予想していた。だけど。

 

「久方ぶりだな、梓」

「……ヨウキ」

「フフ、覚えていてくれたようで何よりだ。……否、何があったとしても、忘れることだけは避けたい、のだったか」

「あァ。……もしかして、其夢盗もここにいンのか?」

「流石にいないよ~。彼女はちゃんと死ねたからね。あーあ、あたしもあの時ぱっきり死んじゃってたら楽だったのに、引っ張られちゃってさー」

「お主に世界ごと眠らせて貰ったはずの吾らは、気付いたらこちらの世界にいたのだ。フクン曰く引きずり込まれた──同じ夢の世界ゆえに、残滓でしかない吾らの意識もこちらに縫い留められたと」

 

 ヨウキと、ふーちゃん。フクン・ティザン。

 前者は長き時を生きた妖弧。後者は──バーステットにより生み出された、紛う方なき神。

 

「ツイウ、なんでお前がこいつら匿ってンだ?」

「私ではないよ。というより、私も匿われたクチさ。あるいはEDEN側にもそういうものがあると知らされているけど──私達は、こちら側のレジスタンスを名乗っている」

「あたしはあんま興味ないケド~、まさかソンヒューィの馬鹿が恵理須の子達にまで手を出すとか思って無くてサ。ちょっとばかしのお手伝いってカンジ!」

「フ……吾も同じだ。生きる事に今更興味など無いが、された事への仕返しはせねばならない。悪夢の神とやらに一矢報いてまた眠る。目的はただそれだけよ」

 

 こちら側のレジスタンス。

 あっちはEDENの奴らが主だったメンバーだったけど、こっちは。

 

「誰なんだ。こっちのレジスタンスのリーダー的存在は」

「今ここにはいない。フフ、加えて、その者は恵理須で死んだ存在、というわけでもない」

「……そォいう言い方するってことは、俺の知らない奴か?」

「知ってるけど知らないカンジ!」

「名は知っているだろう。けれど、君の知る存在とは違う──というべきだ」

「何の話ですか?」

 

 妙に溜めやがる。

 誰だ。こっち側で俺が関わった奴なンんて数える程しかいねェ。いたとしても魔物くらいだ。

 その中で、リーダーになりそうなやつ。いや、俺の知らねェっぽい奴なんだとしたら考えてても意味がねェ。

 

 はよ言え、という俺の視線に根負けたのか、ツイウが口を開く。

 

「──アールルゥ・ヘズナガル。幻の国エルヴンシードに身を置く錬金術師にして、この世界におけるある種の中核」

 ──"つまるところ、我であるのよ、夜の使徒"

 

 突然、その姿が。

 ぼんやりと半透明に──洞窟内に浮かび上がった。

 

 

 

 

「サプライズは時と場合を選べ。立体映像の技術は凄まじいの一言だが、別に通信で良かっただろ」

 ──"ふむ。心に余裕がないであるのよ、夜の使徒。これでもそれなりの重要人物。会えて喜んでも良いのよ?"

「アンタの重要性なんざ知らねェよ。今現在の俺ン中にあるアンタの印象は、ポニテスリットにクソみてェな名前つけた奴ってだけだ」

 ──"ポニテスリット。……ふむ、それが何者かは知らないけれど、我が名をつけたとなればミサキの事に違いない。そうか、そうか。ミサキの友達であるのよ?"

「あァそうだ。だが、その話は今はいい。アンタがこっちのレジスタンスのリーダーで、神も魔物も集めてソンヒューィと戦おうとしているってのがわかりゃいいんだ。だから、ツイウから掛けられた問いをアンタに返す。ソンヒューィ。神を殺す手段はあるのか、錬金術師」

 ──"もっと心に余裕を持つのよ、夜の使徒。人生に必要なのはノリと勢い。そして休息。誰に急かされているわけでもないのだから、もう少し落ち着くのよ"

「俺が急かしてンだよ」

 ──"何をそんなに急ぐのよ? タイムリミットでもあるのよ?"

 

 なんかイライラする喋り方だな。俺も他人の事ァ言えねェが。

 イライラする、というか。

 繕った感じがする、というか。

 

「今も人が死んでる。俺が急ぐ理由はそんだけだ」

 ──"面白い事を言うのよ。今も人は蘇っている。それで気は済まない?"

「馬鹿が。死んだ人間がそォ簡単に生き返ってたまるかよ」

 ──"死んだ人間を簡単に蘇らせないために、仮初だとしても今を生きる人間を殺すのよ?"

 

 ……。

 今更だな。

 

「そうだ。幸せな夢に興味はない」

「フフ、また飽いてしまうからなぁ」

「さんせーさんせー! カシヨの村化するのは反対! 反対にさんせー!」

 ──"フクン、君の声はキンキンと煩いのよ。通信魔法にまで影響するとは、もはや公害なのよ"

「ひどっ!?」

 

 それについちゃ同意見だ。

 

「即時蘇生の術式の根本を探している。拡散術式は地表に腐るほどあるよォだが、世界全体に即時蘇生を作用させるための術式が地下のどこかにあるはずだ。エルヴンシード。そこが今の所の有力候補なンだが、アンタ今そこにいるんだろ。あるか、ないか。わからないか」

 ──"あるのよ。けれど、破壊は我でも不可。夜の使徒、アナタがここに辿り着く必要がある"

「錬金術師ってなが何かは知らねェが、そんな御大層な肩書き持ってても無理なのか」

 ──"この世界に属する限りは無理なのよ。神と悪魔の協同制作──即時蘇生を解きたいのなら、頑張ってここに来るのよ"

「あァさ、すぐ行く」

 

 エルヴンシードで確定したのはでかい。

 そんで、俺に壊せるってわかったのもでかい。

 今の会話だけで十分な情報量だ。

 

「ふーちゃん」

「あにー?」

「俺に対して残した予言は、今も効力を持ってンのか」

「あー、うんうん。もちもち! 求むる希望も有り得ぬ再会もここにあったっしょ?」

「内容の書き換えってな無理なのか」

「無理だねー。一度世界に刻まれた予言は絶対に変わらないよん。……そういう意味じゃ【運誓】はホント便利だったなぁ。太陽神レイの権能の欠片。あぁ~、勿体無かったな~」

 

 つまり、目覚めとは伴うもの。痛み、苦しみ、それを3歩目と成せ、も必ず実現するってこった。

 ……覚悟は必要だ。

 

「それで、アールルゥ・ヘズナガル。アンタは俺達の味方、って認識でいいのか」

 ──"無論だとも。ただし、我の目的は君たちをこの世界から切り離す事──君は世界を壊せば全てが元通り、と考えているのよ。けれど、それでは被害が大きすぎる。ソンヒューィを殺し、奴が呼び込んだ君たちをこの世界から切り離し、世界を閉じる。それこそが我の最終目標なのよ?"

「……切り離された俺達は、どォなる」

 ──"単純に起きるのよ。即時蘇生の術式が君達を縫い留めているけれど、それさえなければ簡単に目覚めることができるのよ? アナタに求めるのはただ、キスキルとソンヒューィを殺すこと。我らにはできない事なのよ、それは。だから、それをしてくれるのなら助力は惜しまないし、多少の犠牲……こちらの損壊も許容するのよ"

 

 なるほど。

 俺達を切り離す。眠る事でこの世界に接続した俺達を離脱させる。それをまた行いかねないソンヒューィ、そしてそれに手を貸していると思われるキスキルを完全に殺し、この世界を閉じる。そうすればこの世界の住人が巻き込まれて死ぬことはないし、俺達も元通りになる、と。

 実に理想的な結果だ。

 

「乗った。俺達は今からエルヴンシードに行く予定だ。エルヴンシードは俺達を歓迎してくれるのか? それとも密入国の必要があるか?」

 ──"エルヴンシードは既に壊滅状態なのよ。日々侵蝕し続ける結晶がヒトを飲み込み、その範囲を広げていく。それこそが即時蘇生の術式を刻まれた結晶であり、同時に成長を続けるキスキルの結晶でもある。今すぐにでも来てほしいのよ"

「結晶に飲み込まれるってなどォいう事だ。あの結晶は触れたモンを侵蝕し、同じ結晶にしちまうはずだが」

 ──"全身を結晶化して死んだ人間が即時蘇生の術式によって蘇生して、直後また結晶化して蘇生して、結晶化して蘇生して。それが今エルヴンシードで起きている滅びの課題。急ぐのよ? このままでは全滅も必至。我には逃げる手段があるけれど──そうではなく、そもそも巨大になり過ぎれば、アナタの手にも負えなくなるかもしれない"

「そうか。わかった、すぐ向かう」

 

 どォやら事態は一刻を争うらしい。

 んじゃ背中メッシュやお嬢たちには悪いが、とっとと連れ出してエルヴンシードへ向かうとしよう。

 

 立体映像が消える。音も消える。

 ……実際、凄い技術だ。恵理須の頃の国やEDENでは、遠隔通信の技術なんて欠片ほどしか発展していなかったというのに。

 

「フフ、話がまとまったようだな」

「あァさ。……こっちのレジスタンスメンバーは、何やってンだ? 毎日暇してるだけか?」

「ケッコー頑張ってるよー? 周辺のダンジョンの無力化が主なお仕事だね!」

「無力化? キスキルの結晶を壊したりしてンのか?」

「いやー、それは無理無理。あたしにも無理! だけど、そのダンジョンを意味の無いものにすることくらいはできるわけサ!」

「……どォいう意味だ。ダンジョンの意味?」

「あれっ、もしかして知らなかった? それじゃ、よーちゃん! 説明したげて!」

「フ──任された。といっても、文字通りよ。各ダンジョンには意味がある。何かを封じ込めるため。何かの流れを淀ませるため。逆に何かを増幅させるため。キスキルの結晶を点の触媒とし、ある種の魔法陣を描く──それがダンジョンの役割ぞ。ゆえに、そう配置されたダンジョンを閉じ、意味の無いものにすることで、描かれた魔法陣を無効化できる」

「壊すには至らないけどね! 壊せるのはあーちゃんだけ!」

 

 ダンジョンには意味がある。

 ……とするなら、国のダンジョンも壊すべきだ。キスキルの結晶は見つからなかったが、何か基点があると見て良いだろう。

 

「おや、それならば朗報です。今朝がたの事ですが、KA-ローライン含む魔法生物研究学科が"悪魔に対抗する術"の開発に成功しました。それなりに準備や魔力を必要としますが、キスキルの結晶に罅を入れた、との成果も上がっています」

 ──"その技術を早く寄越すのよ。対価に必要なものがあるならなんだって用意する。なんたって我錬金術師だし"

「うわ通信まだ繋がってたのか」

 

 けど、確かに今のエルヴンシードにァクリティカルな技術だ。

 それだけじゃねェ。誰でもキスキルの結晶にダメージを与えられるよォになるンなら、この世界の住民だけでキスキルに対抗し得ることになる。

 本来はそうじゃないといけねェはずだ。結局俺なンか外部の力なんだから。

 ホントは、プラチナオールバックがキスキルの結晶に取りつかれるままだった、ってなよくない事なンだ。それじゃあ神でも敵わないって事の証左になっちまうから。

 

「そォだ、ネベトフート。つい先日アイツを解放したンだが、ふーちゃんにとっちゃ旧知だろ?」

「え、おネーちゃん生きてたんだ。とっくに死んだと思ってた!」

「それ繋がりってワケじゃねェんだが、バーステットってな今どこにいるンだ? 力失って、けど生きてる可能性はあるンだろ?」

「そればっかりはあたしも知らないかにゃー。マミーだけはあたしの予言の外にいるから、マミー関連を占うと頭パァンってなるんだよね」

「そりゃある意味で生きてるって証拠だな」

「言われてみればそうかも?」

 

 ……よし。

 雑談は終わり。

 

「アールルゥ・ヘズナガル。技術とやらはツイウから聞いてくれ。それで、俺達が行くまでなんとかキスキルの結晶の足止めを。俺達はそっちへ全力で向かうからよ、耐えてくれ。そんで、死ぬな」

 ──"待っているのよ、夜の使徒"

 

 さて──。

 

「もう行くの?」

「フフ──相変わらず、せわしないな」

「あァ。余計なことは言わねェよ。ふーちゃんの予言した通り、これァ有り得ない再会って奴だ。有ってはならない再会だった。だから──俺からの言葉はたった1つだ」

 

 懐かしい2人。

 あるいは他のレジスタンスメンバーとやらも、懐かしい誰かなのかもしれない。

 

 それでも。

 

「おやすみ」

「……ん! じゃあね、あーちゃん」

「フ──ああ、次なる出会いがない事を、切に望もう」

 

 それは、ただ。

 本当に一瞬の邂逅として。

 

 

 

 

「茶会中すまねェが急用だ。行くぞお前ら」

「ぶふっ、いきなり窓から現れて……ああもう、もう少し聞きたいことがありましたけれど、いいですわ! その顔! 遅れるなら置いてく、と言わんばかりの顔──気に障りますの!」

「おォ真正面からご挨拶だな」

「仕方ないか。梓、道中にちゃんと説明しろ。いいな?」

「勿論だ」

「CA-リース」

「うん。……行って、くる。もう、帰らない。……会えて、良かった。じゃあね、お母さん」

「……ああ」

 

 それぞれが別れの言葉を告げて。

 本当になんぞかお茶会してやが……してたお嬢たちを、閻魔刃塔から連れ出す。

 

「カロライン、っつったなァアンタ」

「何かな」

「正直俺ァアンタが気に入らねェ。今すぐにでもぶっ飛ばしてェ。命を弄ぶ奴に心が許せねェ」

「だろうね」

「けど──1個だけ」

 

 恐らくは彼女も、脳眠によって殺されたのだろう。

 それに同情してのこと──ではない。

 

 そんなんじゃなく。

 

「背中メッシュ……シェーリースを生んでくれてありがとう。おかげで楽しい学園生活が送れた。おかげでコイツと友達になれた。心から礼を言う」

「……」

「ってだけだ。じゃァな」

 

 ロティスからぽーんとエイトスを投げ渡される。それでいいのかお前。

 ……いーならいいんだけどさ。

 

 飛行魔法を用い、閻魔刃塔の最上階から飛び立つ。

 

「ポニテスリット、案内頼む! 最高速でエルヴンシードに行きたい!」

「承知した。ならば、ついてこい。上げていくぞ!」

 

 さァさ、ぶっ飛ばしていくぞ!

 

 

 

えはか彼

 

 

 

「やっぱり無ェよなァ」

 

 翼をはためかせ、確認する。

 正確な位置を知っているワケじゃない。だから、この辺だろ、ってアタリをつけての飛翔ではあるけれど、一応あそこまでの大きさのものを見逃すとは思えない。

 だから、やっぱり。

 

「ウォムルガ族の戦士団……魔物が繁栄しなかったこの世界じゃ、そもそも出来上がらなかったって事なンかねェ」

 

 ウィジとリジ。

 過ごした時間で言えばお嬢たちに次ぐあの2人をずーっと探している。

 始の点において、あの2人もしっかりと眠っていた。だからこっちにいるはずなンだけど……見当たらない。

 

 ──"どーやらこの世界じゃベルウェークも発生してないみてーじゃねぇか"

「そんなことわかンのか」

 ──"気配が無ぇ。いいか、クロムクラハ。魔物っつーのは死ぬときに欠片を遺すんだ。習っただろ? お前の記憶の、セイタスとかいう奴が語った話だぜ"

「あァ……記憶の残滓がその地に残る、とか言う話」

 ──"そうそう"

 

 こうやって1人空の旅をしている時の話し相手はもっぱらオーディンだ。

 心の内から語り掛けられる感覚はあんまし慣れたたァ言いたくないんだが、まァ慣れちまった。

 

 それにコイツ、見識がめちゃくちゃ深いから割と話がタメになるンだよな。

 

「……やっぱり、色々忘れてンなァ。忘れる事だけはしたくなかったはずなのに……」

 ──"そりゃ仕方ねぇよ。精神体は記憶を留めておくものが意識しかない。脳なんて便利な記憶装置持ってる生身の奴らと違って、精神体の記憶ってのは基本気合だ。細かい事や昔過ぎる事はどんどん忘れていくもんさ"

「ヤな話だ。……俺はいつか、自分が梓・ライラックであったことや、ライラック家でのあれこれも忘れちまうンだろうか」

 ──"そりゃお前の気合次第さ。現に俺も精神体だがよ、大昔の事を沢山覚えてる"

「気合ねェ。っとに好きだなお前、その言葉」

 ──"他に表現方法が無いだけさ"

 

 翼をはためかせる。

 それだけでトップスピードに乗り──そのまま海面スレスレを飛んだり、雲を突き抜けたりとしばしの飛翔を楽しめば、遠くの方に陸地が見えてくる。

 速度を落とさずに突っ込み、既に"定位置"とされた平たい大岩に着地すれば。

 

「輝きの園、か」

 ──"輝きってほど賑わってねーけどな"

「恵理須の頃より難民が少ないからな。滅んだ国が少ないのなら、寄せ集めかき集めだった国の人口は当然少なくなる」

 ──"おー、なんでもいいけどよ、もちっと威光抑えてやんな。ビビってるぜ、人間が"

「う……忘れてた」

 

 威光を抑える、とかいう行為。

 最近指摘されて気を付けるよォにしてるんだが、油断するとすぐ周囲を威圧しちまう。オーディンを取り込んだ俺は相当な神格になってるらしく、耐性の無い奴が俺の真正面に立てば失禁して気絶しちまう、とかなんとか脅された。

 マジかどォかはともかく、試すなンてことができるはずもなし。こーやってオーディンに指摘されて抑える、なんて情けの無い結果に落ち着いている。

 

「……即時蘇生の術式が無くなったら」

 ──"今殺し合いで遊んでる奴らは驚くだろうな! いきなり生き返らなくなるんだ。泣き喚き、そして怒るだろう。誰がこんなことを、って"

「だよなァ」

 

 始の点で眠った奴らが死ぬのは良い。

 いや良くはないンだけど、着物狐曰く即時蘇生が切れた状態で死ねばあっちで起きるはずなンで、始の点での問題も解決することだろう。

 問題は、始の点からではない──この世界に元から住んでいた人々。

 彼ら彼女らは突然切られる即時蘇生に対応できるのだろうか。

 

「ヤな世界だよ、本当に」

 ──"おいおい、そりゃ世界が可哀想だぜ。悪いのは存彪位だけ、だろ?"

「そうだな。……なんとかできねェもんかなァ」

 

 効果的な方法など思いつかないまま。

 ただ──時間だけが過ぎて行った。

 

 

 

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