即時蘇生の術式が解除された。
それによる混乱は未だ収まりを見せていない。死傷者多数。
神の恩恵が突如断ち切られたと騒ぎ立てる者、あるいは誰かが断ち切ったのだと見抜く者。国や街のまとめ役と言える存在が諭しても混乱は収まらなかった。当然だ。今まで当たり前のようにできていたことができなくなって、それに不満を抱かない存在などいない。況してやそれが生死にかかわる事ならば、真実の究明を求めるもの。
彼らのヘイトが向いたのは2つ。
1つは少し前に多くの民が見た銀のドラゴン。国に魔物が現れる、などということは限りなく少なく、それを凶兆であるとする者も少なくなかったがために、疑われた。
もう1つは少し前から世界中で発見されている光り輝くヒトガタの魔物である。
銀の燐光を発し、美しい翼で天を切り裂く魔物。あるいは長年人前に姿を見せていない三柱より神に近しいと思われるソレに、世界の新たな仕組みが齎されるのではないかと危惧している学者までいた始末だ。
どちらも魔物。けれど、各国各町のリーダーによる発表──その下手人が明かされた事で、そのヘイトは一点に集中する事になる。
異界の魔王アンディスガル。
ここではない世界において、その世界を滅ぼし殺した存在が、いつの間にかこの世界にも入り込んでいて、神の恩恵を断ち切った。
子供の躾に使われるような御伽噺の悪役、大悪魔リラ・キスキルと同種とされるその存在は、今も尚この世界を狙っているという。神の恩恵を奪っただけに飽き足らず、この世界の破壊を狙っているのだと。
眉唾に近い、情報統制のためにでっち上げられたとしか思えない、それこそ子供の躾に使われるような"魔王"の台頭を誰もが疑い──。
世界全体に鳴り響いたその声に、その遠吠えに、真実と知ることになる。
「今のは……」
「予言は正しかった、ということですね」
「この世界を壊し尽くす大魔王。……そうならないように、そうさせないように動いていたんじゃなかったのかい?」
「そのはずでしたが、制御はできない、ということかもしれません。予言は変えられない……第4の予言までもが解放された以上、始まりの予言も外れない事を指すのでしょう」
学園エデン。学園長室。
そこに2人がいた。学園長グロア。グロア・D。そしてハイドレート。
神妙な顔で窓の外を見て、そう冷や汗を垂らして。
2人が見る空には──巨大なケモノがいた。
まるでこちらがガラス球の中にいるように、なんらかの薄膜越しに漆黒のケモノが見える。この世界をぐるりと取り囲む巨大な身体。黒い粒子の漏れ出でるその身は、時折痙攣するように動き、その余波らしきものが天を揺らす。
この世界に天幕などというものはない。けれどそれはまるで。
「──"行くは地獄。帰りも地獄。訪れぬ安寧を齎す者よ。まずは聖木に眠りを。世界を壊す1歩目は、美しき森の中で。"」
「……"遠からん島。浅からん夢。訪れぬ安寧を齎す者よ。狭間の子を眠らせ、磔の子を眠らせ、明るみの翼に傷をつけろ。世界を壊す2歩目は、古の村によりて。"」
「──"求むる希望。有り得ぬ再会。訪れぬ安寧を齎す者よ。目覚めとは伴うもの。痛み、苦しみ、それを3歩目と成せ。"」
「……"再来の日は近い。再編の日は近い。訪れぬ安寧を齎す者よ。安寧を脅かす者に剣を向けろ。4歩目を踏み出す勇気はそこにある。"」
フクン・ティザンの遺した4つの予言。けれどこれには、もう1編、追加されるものがある。
それは1編目の前。最初の最初に彼女が遺した言葉。
2人がそれを暗唱しようとした時──部屋の暗がりから、滲むように少女が出てくるのがわかった。グロアを守らんと前に出るハイドレートとは裏腹に、その少女は2人の言おうとしていた言葉を紡ぐだけ。
「魔王が来る。魔王が来る。世界を壊し尽くす大魔王が来る。予言の子。予言の日。全てが終わる刻。すべてが無に帰す時。訪れぬ安寧を齎す者よ。安寧とは眠り。永久なる眠り。4歩進んで世界を壊せ。5歩目に世界の全てを殺せ」
「……あなたは?」
「フクン・ティザン。かつて恵理須で封印されちゃった魔法少女にして、この世界では神様なふーちゃんでーす」
「フフ、吾は付き添いの者だ。もう1人来る予定だったが、遅れている。吾らは北方山脈の反対側においてレジスタンスを名乗っている集団。アールルゥ・ヘズナガルの名を出せばわかるな? と、噂をすれば」
「ごめーん遅れた。なんか猛者っぽい雰囲気あったから喧嘩売ってみたら、今それどころじゃないって言われちゃってさ」
「成程、北の……。わかりました。歓迎します。私はグロア。こちらはハイドレート。あちらのリーダーが貴女達を寄越したということは、あちら……閻魔刃塔では解決できない事態になった、ということですね」
「話が早くて助かる~」
部屋に現出したのは3人だ。瞬間移動、などという魔法は存在しない。なればこの3人は。
……などと溜めるまでもない。1人はもう名乗っている。フクン・ティザン。かの予言を遺した運命の神。その付き添いとなれば、古めかしい喋りをする女性もただ者ではないのだろう。そして、遅れてきた者。
「ネベトフート……生きていたのですね」
「ああ、うん。一応久しぶりになるのかな?」
葬儀の神ネベトフート。そう簡単に神が人前に現れていいものではないようにも思うが、バーステットの生み出した神々は割合人間に近しい者が多く、ゆえにヒトと親交を持つ者も少なくはない。
「ま、昔話に花を咲かせるのは後だ。今はアレにどう対策すべきかを決めよう」
「アールルゥ・ヘズナガルの用は良いのですか?」
「ああ、人材派遣をしてくれ、って話だから後で良いよー。SS級を貸してくれって言って……学園長ならわかるかな」
「……成程。承知いたしました」
「それで、対策を決める、と言っていたけれど、何か手立てがあるのかい? あれなるはアンディスガル。つまり英雄ではない方の梓・ライラックの成れの果て。いや元の姿と言った方が正しいか。単なるケモノではなく知性ある魔王だからね、こちらの対策なんて何の意味も成さないと思うけど」
「フフ、吾もそう言ったのだがな。あれなるは理外の化け物だ。此方の攻撃など何の意味も成すまい。吾ら──魔物を生み出した風の神。それが手ずから造り上げた肉体。この世界に漂着して長く経つが、今日ほど風の気配を感じた日はない」
未だ、黒いケモノに動きはない。
ただじぃっとこの世界を見つめているだけ。でもそれがいつまで続くかなどわかる者はいない。それはあるいは、神でさえも。
「ゆえの対策だよーん。あのねー、よーちゃんは勘違いしてるけど、アレは幻影でしかないよ。この世界を再訪する大魔王アンディスガルは、もう少し小さいと思う。この世界は天幕が無いから冥界が見えない。けど、あっちにある冥界から何らかの手段でこっちを観測した場合、観測されている最中のこっちの世界からはあっちの様子が拡大化されて見えるんだよねー。なんでかっていうと、この世界はとーっても小さいから」
「アールルゥ・ヘズナガルのミニチュア。それがこの世界の始まりだからね」
「フフフ、吾は別に勘違いなどしていないよ。あれがこの世界を訪れてみろ。風の使徒……直属の使徒でない吾らは誰もが傅こう。太陽の使徒もそうだ。あれなる太陽の気配にアテられて、目覚めてしまう者もいるかもしれない。夜が薄いのだけは命拾いだろうな。死が軽いままに死が近くなったこの世界において、死の気配を振り撒く夜の使徒は相性が悪い。ネベトフート、お主も出歩くのは自戒すべきだろう」
「えー」
「この世界の人間を殺したいというのなら話は別だがな」
それは事実だった。
こうして天にあっても、あの黒から太陽の気配を感じる。傅きたくなる威光を覚える。
「魔王への対策は2つ。1つは接触しない事」
「そしてもう1つは、本来の自分を取り戻すこと」
「そのための研究は閻魔刃塔でやるからいいとして、学園長には生徒、及びエデン内への周知をお願いしたいかな。決してあの魔王へ接触してはいけないよ、って。ばったり会っちゃったら逃げる事。でないと仲間にされちゃうからね」
「仲間にされちゃう、とは?」
「彼女は今、太陽と風と夜の最上位にあると言って過言ではない。クロムクラハも似ているけど、彼女は風の気配が強いから、あくまで魔物の色が強いでしょ? ただ、そんなクロムクラハでも彼女が死にそうになっていれば、魔物たちが自ら己を糧として差し出すくらいには──"仲間化"されてしまっている」
"仲間化"。その言葉の響きにハイドレートが息をのむ。
「そしてそれは太陽と夜も同じ。太陽の気配が色濃い者には、太陽に連なるみんながその身を差し出してまで守りたくなるし、あるいは糧として自らを捧げたくなる。夜もだよ。夜に至っては彼女はハキタの側近だからね、あの状態の彼女に近づいたら、ネベトフートでさえ"仲間"になっちゃうんじゃないかなー」
「だから残念だけど、神は基本手を貸せないと思って。アタシらは太陽、風、夜のどれかに特化しているから、あんなやばいの相手には立ちまわれない。その代わり人間の手助けはしてあげるから」
「でも人間も接触しちゃいけないんだろう?」
「そうだね。だから八方塞がり。……かと思いきや」
「……絡繰り、ですか」
「正解」
グロアの呟きに、フクンがにっこりと頷く。
「ポマネイ・リコの作る絡繰りメイド部隊。彼女らはこの世界においては生物ではない。魔物でも人間でも魔法少女でも死者でもない、それ以下の存在。だけどコレを通してであれば、私達はアンディスガルと交流できる。彼女の気配にアテられない遠方から絡繰りを通して彼女とやり取りができる。問題は」
「彼女が絡繰りメイド部隊を嫌っているだろうということと、ポマネイ・リコが頷いてくれるかわからないこと、ですか」
「だねー。ま、そっちの交渉は任せるよ。できなかったらこの世界が滅ぶだけかな」
「わかりました。すぐに手配します」
それじゃ、と。フクン・ティザンは言う。
「SS級、貸してね。大丈夫、傷つけたりしないから」
「はい。どうぞよろしくお願いいたします」
遅々として、しかし確実に時計の針は進んでいる──。
どの世界においても世界を構成する要素は太陽と風と夜である。
恵理須においても、恵理由知穏においても、山脈月──有死無至穏においても、だ。ゆえに世界のバランスもそれに伴う。
太陽は1日の半分をその光で照らし、能力というものを与える。生きる事。歩く事。話すこと。魔法。それらはすべて等価だ。人間に与えられた能力の1つに過ぎない。
夜は1日の半分を眠らせる。そして万物に対し死を与え、そのための寝床となる。すべてのものに寿命がある。世界にさえも、だ。
風は1日中世界を巡っている。記憶を運び、停滞を嫌い、世界を混ぜる事で生命を起こす。
どこか1つの勢力が大きくなる、ということはない。それはあってはならないことだ。もし、そんなことがあったとしたのならば、誰かが人為的に歪めているということになるし──誰かがその代償を支払っている、ということにもなる。
かつて有死無至穏にはジーウィースという風の神がいた。生命の神ジーウィース。しかし、何者かの"招来"により彼女は世界から姿を消す。そして、未だに戻ってきていない。
かつて有死無至穏にはバーステットという太陽の神がいた。覚醒の神バーステット。しかし、夜の神の暴走を止めるため、自らの力を分散し彼女は姿を消した。
かつて有死無至穏にはヒュープヌスという夜の神がいた。悪夢の神ヒュープヌス。
ミニチュアだった世界を実在のものにする、という偉業を成し遂げた後、その身を休めるために反転──裏面に変わること──をし、今も尚ソンヒューィと名を改め、世界を面白おかしく改変している。
これほどまでに夜が強い世界はない。
これほどまでに夜が強い世界は、均等さを保たせなければならない。
ゆえに風と太陽がそれぞれ選出される。
風には、外部よりソンヒューィの使徒が招致した魔物、戦いと死と太陽の神クロムクラハが。
太陽には、全てを導いた英雄の影を持つ、ある権能を持つ少女ミズメが。
世界はこの三点に集中し始める。
だから、要らなかったのだ。元より夜の強い世界で、それよりも強い夜を纏う存在など。不要だった。彼女は不要だった。梓・ライラックは不要だった。
不要だからと排した。スポットライトを1つ消した。
が故に、彼女は破壊者となって帰ってくる。
「みたいな話っぽいのだ」
「……それは、お前の創作でなく?」
「そうしたかったところだけど、発想は考えついた者に帰属すべきなのだ。この場合発想者はいないけれど、少なくともプリメイラ様が考えたことにしてはならないのだ」
「ふむ。……面倒な話だな」
南のレジスタンス本部。ヴェネットの家に、彼女らは集まっていた。なお、家主たる彼女はここにいない。学園長からの招集があったためだ。北のレジスタンスに呼び出された、とのこと。
北のレジスタンスが接触してきたことを機に再集合し、情報交換をしているのだ。天のケモノについても含めて。
「なんで視点主がこの世界なんだ?」
「それは、恵理須がこの世界にいる可能性が高いとわかったからなのだ」
「あァ、クロムクラハが言ってた奴」
「うん。だから、この世界にも同じように感情があると考えたのだ。そしたらするする文字が出てきたのだ」
「へェ。……一応聞くけど、これは全部創作、なンだよな? プリメイラの」
「勿論なのだ? 世界があたしに語り掛けてくれるわけでもなし、全部妄想なのだ。けど」
一息ついたプリメイラの後、フィニキア・各務が続ける。
「割合的を射ている、とは思います。クロムクラハさんとあなた……ミズメさんの周りでばかり事件が起きる。それはつまり、スポットライトが当たりやすい、ということでもあるでしょうから」
「スポットライト、ねぇ」
実際、夜の使徒である梓・ライラックが来るまで、この世界は停滞していた。ほとんどの人間が恵理須を思い出すことはなかったし、キスキルの結晶なんてものが問題になる事も無かった。
それが突然だ。梓・ライラックが来てから、全てのものが問題になり出した。悪夢の暗闇に包まれていた世界にスポットライトが当てられたのだ。あるいは月明りか。とかく、明るみに出た事で問題が問題になり、世界は解決の方向へ進み始めた。
その役割が、今度はクロムクラハとアズサに任されている。
アズサは後頭部を掻いて。
「ちなみにこれ、誰の考えだ? プリメイラの考え方じゃねェだろ。お前、どっちかというと自分が主人公! って感じの考え方だし」
「……シェーリースの考え方なのだ。というか、閻魔刃塔というか。元々閻魔刃塔は"世界のスポットライト"という概念を使うことが多かったのだ。何故かと言えば、アールルゥ・ヘズナガルと繋がりのあった閻魔刃塔は、この世界がミニチュアだったことを知っているから……なのだ」
「あー」
何か、その辺の話も納得できねェんだけどよ、という言葉を飲み込んで、アズサは聞きたいことを聞くことにする。
「アールルゥ・ヘズナガル。その錬金術師とやらは、自身をそうだと名乗った……ンだよな?」
「え? うん。そうなのだ。あれ、クロムクラハの話聞いてなかったのだ?」
「聞いてたけど、ちょっと考え事しててさ。……アールルゥ・ヘズナガルが錬金術師で、神、ねェ」
「何かおかしいのだ?」
あァさ、と。
アズサは、普段口にしないようにしている梓の口癖を口にして、言う。
「アールルゥ・ヘズナガル。そりゃ安直ちゃん……ルルゥ・ガルの本名だ」
「……同姓同名とか? のだ?」
「こんな特殊な名前が被るかよ」
「うーん。……でも、クロムクラハの話を聞くに、アールルゥ・ヘズナガルはあっちの冥界に存在していた神の使徒なのだ。それと、風の使徒であるルルゥ・ガルの本名がどうして被るのだ?」
「私が知るかよ」
「そりゃそうなのだ。フィニキア、何か考えつくのだ?」
「ふむ。……私には神々の事はわかりませんが、仮説は立てられます。たとえば」
フィニキアが空中に色のついた空気の膜を作る。
そこに絵が描かれ始めた。魔法名スモークアート。あまり難度の高くない魔法とはいえ、これほどまでの精密さは器用さが故、と言えるだろう。
「まず、どちらが先にいたか、です。これは恐らく神の使徒であるアールルゥ・ヘズナガルの方です。今北で錬金術師をやっている方ですね」
「ああ、だろうな。安直ちゃんは恵理須生まれだ。それ以前には存在していない」
「ここで第一の仮説。風の使徒は、その全てがアールルゥ・ヘズナガルを名乗る、という可能性です。無論、ただの魔物は違いますよ? 夜の使徒、太陽の使徒といったような特別な個体、神々に直属で仕える神に近しき存在。その中で、風の使徒は皆アールルゥ・ヘズナガルになる……のではないか、と」
「あー、全然あり得るな。くそ、ウィドアルを脅して聞き出したい」
何より、安直ちゃんに会いたいな、と。
心の中だけで、アズサは呟く。
「第二の仮説ですが、恵理須にもアールルゥ・ヘズナガルがいた、という可能性です。つまり、ルルゥ・ガルの発生以前にアールルゥ・ヘズナガルという誰かがいて、精神体であるルルゥ・ガルがそれを乗っ取った、という……。ただしこの場合、風の神が彼女の本名をアールルゥ・ヘズナガルと認識している理由がわかりませんね。逆ならともかく……」
「逆ならすんなり通るが、結局名前が同じ理由にはならねェな」
「ふむ。では三つ目の仮説です」
フィニキア・各務は神妙な顔をして。
「実は錬金術師たるアールルゥ・ヘズナガルと、私達の世界で魔物を従えていたアールルゥ・ヘズナガルは、全くの同一人物である……とか」
数瞬、空白の時間が生まれて。
「いやないだろ。その、私安直ちゃんと友達だけど、安直ちゃんは錬金術師なんていう難しい事できないぞ」
「あたしも何度かルルゥ・ガルと行動を共にしたのだ。その上で言うのだ。多分ないのだそれは」
「そもそも同一人物だった場合、何故2人いるのか、という話にもなりますからね。ごめんなさい、これは仮説にもならない話でした」
ただもし、本当に彼女らが同一人物だった場合。
錬金術師アールルゥ・ヘズナガルの本当の狙いは──。
「……今はそれより、アイツだろ。ったく、勝手にいなくなったかと思えば魔王とか……私達を振り回すのもいい加減にしろって話だよ」
「ホントですね」
「ここにスポットライトが当たっている可能性を考えて、一応弁明しておくのだ。あたしは何にも言ってないのだ」
積もる話は終わらない。
「……おー」
「うーん、ちょっと美少女にしすぎたかな……」
「魔物の顔に美醜があるのか? ……オレにはわからん世界だな」
「ウィドアル、私は初めてあなたにお礼を言います。私の愛し子をとっても可愛らしく仕立ててくれてありがとう」
「初めてだったかい!?」
足を上げる。身体をくねらせる。
尻尾を振る。
……うん、ガチ鼬だな。
マジ鼬だ。人間とかじゃない。パーペキ鼬だ。ちょっと古いか?
「苦理須」
呼び出せば、出てくるのは爪。
……お嬢や青バンダナが教えてくれた剣や槍の使い方はもう完全に無駄になったなー。これ、銃も使えないか。
「アンディスガル」
「ん? っと!?」
「おい、避けるな。殺せ」
零から突然投げられたものは……鉄球。トゲトゲの。マジで馬鹿だろコイツ。
折角貰った体に何してくれとんねん。
「これは魔法で造られた鉄球だ。その身体で魔法を使う感覚を今の内に覚えておけ」
「初めに言えよソレを」
「行くぞ」
言葉の瞬間──頭上から、数多の鉄球が降ってくる。
馬鹿だろ馬鹿だろ馬鹿だろ!
「アンディスガル、大丈夫です。今の貴方はもう、ヒトという形に縛られません。貴方の記憶に強く残っていた、ティオイジという魔物を思い出してみて。貴方にもそれができるはずだから」
鳥有為預の声。
ティオイジ。あいつは確か、全身から。
「【死漸】」
「うわわっ!」
なんか情けない声を耳に捉えながら、降り注ぐ鉄球の全てを──殺し尽くす。
全身から世界に滲み出すは死の魔力。冥界の魔力。
成程、これなら──身体強化、避けろ!
「……馬鹿か、貴様。すべて返したと言ったはずだが。何故弱いものを使う。いや、【即死】も【死漸】も然程弱い魔法ではないが、こうして面で攻撃された場合は別の魔法を選ぶべきだろう」
「え、もしかして【極覇】とかまで返してくれたのか?」
「あまり馬鹿なことをいうな。疲れる。それはメイアートの魔法だ。つまりオレの魔法だ。貴様の造り上げた、統合したものだけを返した。理解力を上げろと何度言ったらわかる」
「ちょ、ちょっと。危ない事やるなら先に言ってくれ! というか範囲絞って! それくらいできるだろ!」
珍しい。
零がこんなにも遠回しな言葉を使うなんて。
まぁ、でも、わかった。
つまりそういう事だ。ようやく、世界言語なしで使えるってことだ。
「──【世涯】」
冥界の地面が、ちょこっと削れた。