遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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157.素多跡負不地因米死穏.

 恵理須の魔法少女と、有死無至穏の魔法少女には明確な境がある。

 恵理須の魔法少女には専門の魔法がある。これは術者特有のものであり、極稀な一部例外を除き、他の者が同じことを再現することは敵わない。それぞれが概念を含む──劣化権能であるがゆえに強力。

 反対に有至無死穏の魔法少女はそういった専門の魔法がなく、自らの魔法適正にあってさえいれば遍く魔法を使い得る。

 

 だから、そういう意味で。

 ここにいる【帰述】のプリメイラは、どちらもの良い所を取った魔法少女であると言えるだろう。

 そもそもが汎用性の塊。己が想像し、文章にし得る事象ならば、あらゆるものを具現化できる最上位魔法が1つ。

 そして恵理須の魔法であるから、強力だ。その強度も、その効果範囲も。

 

 この岩礁に集った影の軍勢は千を超える。あらゆる影から滲み出るナニカ。魔物とは違う、冥界のブラックドッグとも違うソレらを──圧倒する、7人の美形たち。それぞれが剣で、斧で、魔法のようなもので、刀と雪で、闇で、そして光で。

 拓かれる英雄譚がここにある。美しき創造物たちは、影の軍勢に一切の引けを取らない。

 

「一度に7人は、魔力が結構キツいのだ……」

「あのピカピカしてる奴だけで十分だっただろう。わざわざ7人も出す意味はなかったのではないか?」

「光の君は、前の6人が出てこないと姿を見せないのだ……あたしの魔法はあくまで物語に準拠しているから、そういう自分で作った制約を無視できないのだ……」

「面倒そうだな。マナブースト」

 

 ゲヘナ、あるいはジャハンナムと呼ばれる彼女は、その存在の是非は一度置いておいて、魔法適正にブースト系、アップ系のみしか持たない、あるいは恵理須の魔法少女に近い魔法構成をしている。

 攻撃系、防御系の一切が使えない代わりに、他者の魔法を補助する魔法のほとんどを使いこなすため、誰かと組んでいれば、それだけで無敵に近い布陣を引ける。

 即時蘇生の無くなったこの世界では、最も重宝する魔法であるともいえる。なんせ魔力や体力などもブーストできるのだから。

 

「防御はお任せください」

 

 そして、防衛における最強格はここにいる。

 恵理須の魔法こそチャージに年単位の時間を要するものであったけれど、有至無死穏のグロアは物や人を固定し、凄まじい干渉力を恣に揮う防御魔法のスペシャリストだ。大気を、光を、火を雷を。

 己や仲間に向かうそれらを固定し、それ以上動かせなくする──エレメンタル系のとは、魔法としての格が違う。

 

 つまるところ最強なのだ。

 ここにいる3人で国が落とし得る。今はプリメイラが()()()()()()()()()、既存の物語のみに留めているから拮抗しているけれど、オリジナルの創作を解禁したのなら、影の軍勢もその術者たるジェーン・Dも、簡単に消し飛ぶだろう。

 

「あっちはどうなのだ?」

「今、ソードマスターがクロムクラハに圧され始めている。だが、ソードマスターもソードマスターだな。しっかりとした戦闘訓練を受けたわけでもないクロムクラハの隙を突き、ソードマスターからもダメージを与えている。クロムクラハ側はソードマスターを殺す気が無いのに対し、ソードマスターは全てを切り殺すつもりなのが大きな違いだろうな」

「あちゃー、しっかり暴走してるのだ」

「だが、そろそろ大魔王の準備が終わるな。……アレは、冥界とやらの魔力か。恐ろしいな。遠目で見ているだけなのに、身震いが止まらん」

 

 岩礁から遥か遠く。

 そこで行われる怪獣大決戦は佳境を迎えていた。

 大きさでこそ人間大の、けれど凄まじい威光を放つクロムクラハ。その手に持つ両手剣は、これもまた神の名に相応しい威圧を纏い、その小さな身体に振るわれている。

 相対するソードマスターは見た目こそ化け物だが、技量に溢れた動きを続ける。巨体でありながらしっかり回避行動を取り、攻撃するときは必殺を、それ以外では一切の隙を見せずに眼光を光らせ続ける。

 

 銀と黒の戦いは、けれど。

 

 その背後で動かずにいる巨大な鼬が、終止符を打たんとしていた。

 彼女の身より溢れ出でる黒。ソードマスターのそれよりも黒い、夜よりも黒い魔力。可視化されるほどの密度を誇るソレは、生物であれば根源的恐怖を抱かずにはいられない。

 有至無死穏に天幕はない。ゆえに冥界という場所を意識する機会は少ない。そも、すぐ前まで即時蘇生の術式がかかっていたのだ。死をこうも意識させられることなど無い。

 

 だけど、だからこそ──有至無死穏の住民は、この形ある死を恐れる。

 

 アレに触れたら終わりだと。

 直感が、本能が。強く強く、言って聞かせるのだ。

 

「夜の使徒か……面倒な」

「ゲヘナー、ちょっと魔力ブーストくれなのだー」

「まだ何か書き出す気か?」

「周辺一帯を光の君専用に変えるのだ。影の減衰効果もありなのだ」

 

 プリメイラの声に、ゲヘナはアンディスガルから視線を外す。

 そして己が仕事を果たし始めた。死から目を逸らして、物語へ。

 

 此方とて、敵の目的もわからない状態だ。

 集中しなければならない。

 

「"それは後に語り継がれる話──"」

 

 死は。

 もう、目の前に。

 

 

えはか彼

It's a story of prayer dedicated to the night.

 

 

「クロムクラハ、退け!」

「あァさ、頼む!」

「──!」

 

 どろり、こぽりと魔力を吐き出す。

 俺に繋がる冥界。この身は冥界の獣、アンディスガル。

 なれば俺の魔力は死に等しく──風と太陽を分解するものである。まァ作ったのが風の神だから微妙に風は許す傾向にあるンだが。

 とかくそれでソードマスターを包む。

 

「……!!」

「あン? こっちに剣向けンのか。そりゃなンだ、生存本能って奴か」

 

 ならば、こちらも対応する。

 前肢に意識を集め、形成するのは苦理主の爪。

 

 斬撃。対し、同じく斬撃で受け止める。

 ──折れるのはソードマスターの剣だ。ハッハッハ、苦理主の硬さを舐めるな。

 

 冥界の魔力が尖り前髪に纏わりついた太陽と風の魔力を分解していく。

 触れているだけ不利だと気付いたのだろう、俺から距離を取ろうとする──が、さっきはっ付けた【引力】がそれを許さない。むしろ抱き寄せ、俺の身を擦り付ける。

 蝕むのは死だ。そしてそれは、そのまま彼女の外側を割り砕いていく。

 

 数秒。本当にたった数秒だが──それだけでよかったらしい。

 

「……すまん。もういい、離れろ」

「ン」

 

 放す。

 暴走は収まっているらしい。

 

「なんで暴走したのかはわかるか?」

「不明だが……精神に干渉を受けたような気はしている。方向は、あちらか」

「んじゃ行くか。クロムクラハ、魔法少女達の護送は頼んでいいか?」

「あァよ。ただ、気を付けろよ。周辺の海に非生物的な気配がうろちょろしてる。何かが動いているのは確実だ」

「大丈夫、気付いてるよ」

「そうか。……またな」

 

 言うと、クロムクラハはその翼を広げて飛び立っていく。

 

 気さくだけど、気配は神さんのそれと似ている。正式な神になった、ってなああいうことか。

 ……ま、大丈夫だろ。あいつが俺なら、そう簡単に乗っ取られやしねェさ。

 

 身体を精神干渉が云々の方向へ向ける。

 おー。確かになンか、魔力が集中してンな、あそこ。

 

「いくぜ」

「ああ」

 

 侵略活動は一旦おやすみ、ってな。

 

 

 

 

 

 

「で……これァ、どういう状況だ」

「さてな」

 

 見下ろす。

 矮小な生命だ……とかは思わないけど、やっぱり人間だった頃を考えると小さく見える。

 

 無数の魔力。影だ。ブラックドッグとは違う、魔物とも違う。

 それがあらゆるところにいる。

 

「……まさかこちらに来るとは思いませんでしたね」

「やばいのだ! バレたのだ!!」

「言葉は通じるのか?」

 

 そして、影に対峙している3人の魔法少女。

 余計な事ばっかりする代表、ピンクカチューシャ。神妙な面持ちでこちらを見る学園長殿。

 

 ……不審なお巡りさん、ゲヘナ。なんでコイツここにいやがる。

 

「お前らか、余計なコトしたの」

「うわ、あんまり顔近づけるのやめるのだ! 死ぬのだー!!」

「魔物の言葉は人間には伝わらん。お前がリマキアの島で話をしている時、私には唸り声にしか聞こえなかった」

「……ま、コイツらが何をしたにせよしてないにせよ、ピンチであることは間違いないっぽい……か?」

「善戦しているように見えるが」

 

 恐らくピンクカチューシャの魔法によって具現化された色とりどりの戦士達が、影に抗っている。

 しっかし、なんだ、この影。群塔魔閣の【飲影】……じゃ、ねェな。絶対。

 

「……アンディスガル」

「ン? ああ、おお。そっちにも人がいたのか」

 

 そっち。

 影の押し寄せる方。つまり、多分、この影を操る術者。

 

「ソンヒューィ様の、敵!」

「──【死漸】」

 

 突如現れた巨大な竜巻……影で出来たソレを殺す。

 現れた直後に雲散霧消する魔法。

 

 で、なんだって。

 なァ。上手く聞こえなかったが──ソンヒューィ、つったか。

 

「ッ、ジェーン! やめなさい! 貴女が敵う相手ではありません!」

「うるさい、母さんは黙ってて! ──ボクはこの世界を守らなきゃならない!」

 

 ジェーンと呼ばれた少女の腕に影が纏わりついていく。それは1本の剣となり、否、もっともっと巨大な太刀となり。

 

「死ね、大魔王!」

「させん」

 

 ……ソードマスターの剣に止められた。

 おォ、すげェな。人間の膂力でソードマスターと拮抗できるモンなのか。つか……コイツ。

 

「尖り前髪、退がれ」

「何?」

「折角のとっかかりだ。お前じゃァ手加減できねェだろ?」

「……もう暴走はしない。峰打ちで済ませる」

「まァまァ」

 

 ソードマスターの胴を尾で掴み、ヒョイと退かす。

 

「よォ、言葉はわかるか?」

「ッ──【影劫】!」

「【光槍】」

 

 影で作られたドリルみてェなのを光の槍で掻き消す。

 やっぱりコイツ、恵理須の魔法を使えるのか。魔力がそれっぽいたァ思ってたが。加えて……S級、SS級は難くなさそうな魔法だな。

 

「あばば、怪獣大決戦に巻き込まれるのは御免なのだ! ゲヘナ!」

「ふむ。まぁいいだろう。グロア、お前はどうする?」

「……私はここに残ります」

「そうか。プリメイラ、連れていけ。スペルブースト、マナブースト、ストロンガップ」

「よしきた! なのだ! "現れたるは龍の王! その手は多くを掻き抱き、か弱き少女らを高き空へと運んでいく!"」

「ま、待って、きゃあ!?」

 

 文字が踊り、編み出されるは、どこかエイトスを思わせる金色の龍。

 それはピンクカチューシャ達3人を掴み、どこかへ飛んでいく。行こうとする。

 

「まァ待てって」

「ぬぁ!? ちょ、おーい! 多分こっちの声は聞こえてると思うのだ!? アンディスガル、梓、どっちかわかんないけど、その身体で掴まれるとこっち死ぬのだ! やめるのだ!!」

「あァそうだった。……んじゃまァ、後で覚悟しとけよ」

 

 尾で龍を掴んで、けれど放す。

 そー考えるとちょい面倒だな、この体。死の魔力を抑える方法でも探さねェと。

 ……別に、いいか。すぐに冥界に帰るンだし。

 

 一目散に逃げていく金の龍を見送って。

 

「えらく律儀だな。待っててくれたのか」

「【影劫】」

 

 魔力の気配は──足元。

 ガクン、と。身体が沈む。……これは、【飲影】? いや違う。俺の上空に影を生むモンなんかねェし、俺自身の影ってわけでもない。影の軍勢とでもいうべき奴らが集まってきているだけだ。

 なんだろうね、この魔法は。かなり異質に思うが……。

 

「【世涯】」

 

 まァ消すんだが。

 

「……!」

「そう殺気立つなよ。学園長殿の娘っぽいが、どォも存彪位に繋がってるみてェじゃねェか。なァ──聞かせろよ。どこにいるンだ、奴は」

「シャドウスピア!」

「おいおい、恵理須の魔法が効かねェんだ、こっちの魔法が効くわけねェだろ」

 

 話は……通じてないらしい。言葉が通じてねェのか話が通じてねェのかは定かじゃねェが、交流を図るのは無理か。

 んじゃァ世界言語さんの出番だ。まずは【痛烈】あたりで──。

 

「やめてあげてくれるかな」

「よォ、久しぶりだな。待ってたぜ」

 

 ソレの出現に、他へ向けていた意識を全てソレへと向ける。

 宙に浮いたソレ──彼女。

 

 あァさ、久しぶりだ。色々と狂わせてくれたな。

 

「キラキラツインテ。今日は本人みてェじゃねェの」

「うん。存彪位は夜にしか出てこないからね」

 

 キラキラツインテ。レーテーに並んで色んなことの元凶のような、被害者のよォな奴が、そこにいた。

 

 

えはか彼

It's a story of prayer dedicated to the night.

 

 

「ジェーン。先に帰っていて。私は話があるからね」

「……了解しました。お役に立てず、申し訳ございません」

「いいから、早くね」

 

 そこに上下関係があるらしい。キラキラツインテの言葉に、ジェーンが下がる。岩礁に展開していた影を集め、武器に使っていたソレをも使い……海の上を影で走っていく。うーん流石魔法。意味わからん。

 

 しかし、【影劫】か。零の回収リストにそんな名前はなかったと思ったが。

 

「説明はしてくれるンだろうな」

「うん。夕方までならね。それ以降の私の言葉を信じちゃダメだよ」

「……そォいって、逆ってパターンもあらァな。あるいは全部が嘘か」

「信じられないならそれでいいよ」

「とりあえず話してくれ。真偽も正誤も判断は後だ」

「わかった」

 

 腰を据えて。

 海だからなンか変な感じだけど、宙へ浮くキラキラツインテを前に、座る。

 直後、俺の隣に遠くへ投げ飛ばしたソードマスターが降って来た。

 

「や、カネミツ。随分とトゲトゲになったね」

「……あるるらら。久方ぶりの再会を祝いたいところだが……今は黙そう」

「あァ助かる」

 

 そりゃそうだよな。

 俺なんぞより、この2人のが縁ってな深い。話したいこともたくさんあるはずだ。

 

 それを抑えてくれる事は感謝ってな。

 

「まず初めに、私を殺しても意味はないよ。魂がソンヒューィに囚われているから、ソンヒューィを殺さないと私を解放することはできない」

「【透過】でもそこァ無理か」

「うん。相手が神だからね」

「ならソンヒューィを今すぐにでも殺す。どこにいる?」

「あれは夜にしか出てこないし、夢の中にしかいない。だから君達が夢の中に入るか、()()()()()()()しかない」

「夢を流出させる?」

 

 キラキラツインテはうん、と頷いて。

 

「この世界は夢の世界。天幕は存在しないし、その外も冥界じゃない。けど、【亜空】を用いて、あるいはカネミツの新生を用いて世界を渡り得たように、この世界は冥界のどこかには存在している。貴女がこの世界に来た時も、薄膜を破ったでしょ?」

「ほん……?」

「その薄膜はすぐに再生するものだけど、完全に破いて壊してしまえば──夢は冥界に流出する。そうなれば、ソンヒューィも実体化する」

「それが狙いってコトか」

「え?」

 

 あァ、魔煙草が吸いてェ。

 なンだ、あのな、舐めすぎなンだよ。

 

「ソンヒューィがいるのは夢の世界の住民の夢の中だろ。それやったって、起きるのァこの世界の実体化だ。そーなりゃ得するのはキスキルとソンヒューィだけ。なんたって自己の証明になるからな。代わりにこの世界の住民ァ死ぬんだろ。冥界の魔力に耐えられないからな」

「……」

「そもそもあるるららが己の解放方法を真っ先に話すものか。聞いていて違和感しかなかったぞ」

「だなァ」

 

 なんで、ま。

 

「てめェ、ソンヒューィだな」

「……まったく。あの夜にも思ったことだけど、やはり君は面倒だね。けれど、結局是磑は解放しなかったのか。ありがたい限りだけど、どういう心境の移り変わりかな」

「ここの命の大体が再現映像だとか、この世界を望むものの話だとか。嘘ばっかりで嫌になったってだけさ。てめェの言葉繰りに踊らされるのァ勘弁ってな」

「うん? 私が嘘を? そんなつもりはないけどね。あの夜君に語ったこの世界の仕組みに嘘はないよ。この世界にいる声明の4分の3は再現映像だし、そんな彼らが望むが故にこの世界は続いていられる。嘘なんかどこにもない」

「だからいーって。こっちの世界の住民が生きてるってな俺はもう知ってるし、即時蘇生の術式取っ払ったことで世界の寿命が進み始めたのも知ってンだ。取り繕ったって無駄だよ」

「話が通じないな。そんな事実は一切ないと言っているじゃないか」

 

 あ──ン?

 ……ん?

 

 そんなにも嘘、突きとおすところか?

 

「存彪位」

「なにかな」

「アールルゥ・ヘズナガルの名に聞き覚えは?」

「……ふむ。今少し記憶を探ってみたけれど、無いかな。何者だい?」

 

 そんなはずはない。

 アールルゥ・ヘズナガルは夜の使徒……それも俺みてェな紛い物じゃなく、天使の1人だ。

 覚えていないはずがない。

 

「バーステットは流石に覚えてるだろ?」

「あぁ、それは勿論」

「フクン・ティザン、ネベトフートは?」

「ふむ、何をしたいのか理解できないな。こちらの神の話なんだ、君達より詳しい自信があるよ?」

 

 そりゃそォだ。

 だが、アールルゥ・ヘズナガルの記憶だけがすっぽり抜け落ちてる……なんてこと、あるか?

 

「まァいい。さて、今すぐ殺すが、遺言はあるか?」

「ないよ。なんせ、殺されはしないからね」

「【死漸】」

「【飛斬】」

 

 2人して飛ばす、斬撃と即死の飛沫は──しかしキラキラツインテの身体を通り抜ける。

 ……有り得ねェ。【透過】をも殺す死飛沫だぞ。通り抜けられるはずがねェ。

 

「これはホログラムという奴でね。どうだい、中々よくできているだろう」

 

 ……ホログラム。

 アールルゥ・ヘズナガルも使ってきた奴だ。おいおい、内憂外患たァ言うが、そうも早く疑わしくなるのはやめてくれ。

 

「んじゃ、何用で出てきたンだ。俺を騙すためだけか?」

「そうだよ。加えて、可愛い可愛い敬虔なる信徒を逃がす為でもある」

「あのジェーンとかいうのか」

 

 キラキラツインテの身体を使ってるソンヒューィが満足気に頷く。

 敬虔なる信徒、ね。

 

「そろそろ目的を話せよ。お前さん、何しようとしてる。実体化が目的か? それともキスキルの本体との接触か?」

「興味があるのかな」

「いいや、無い。俺ァお前を殺せたらそれでいい。こんな面倒な問答する気もねェんだ。てめェが居所話しさえすりゃ、とっとと出てくよ」

「夢の世界にいるのは本当だよ。夢を流出させれば私が実体化するのも本当。そうなれば殺し得るのも本当さ」

「……それ以外の方法は教えねェってことか」

「というか、存在しない、が正しいかな。君達が夢を渡り得るのならともかく、それができないのなら、大人しく私を実体化させるといい。流出後なら正々堂々と戦ってあげるよ、夜の使徒アンディスガル」

 

 ジジ、と。

 キラキラツインテの姿がブレる。

 

「おっと、刻限らしい。まだまだ改良の余地があるね」

「……まァ待ってな。すぐにでもてめェの所に行って、殺してやるからよ」

「ああ、楽しみに待っているよ」

 

 そうして──キラキラツインテの姿が消えていく。

 岩礁も海も静けさを取り戻し。

 

 無言の魔物2匹は。

 

「じゃァ行くか。当初の予定通り」

「ああ。世界を壊しに」

 

 随分と寄り道したが。

 魔王ムーブ、しに行きますか、ってね。

 

 

えはか彼

It's a story of prayer dedicated to the night.

 

 

 大陸有至無死穏の最大主教はジーウィースだ。それは変わらない。

 亜教としてソンヒューィが、妖精たちの在り処としてバーステットがあっても、ジーウィースの絶対主権は揺るぎない。

 揺るぎ、なかった。

 

 それが覆されつつあるのは、やはり、直近の出来事が故だろう。

 

 戦いと死と太陽の神クロムクラハ。

 彼女のとった、魔王とその配下から民を助ける行為は瞬く間に大陸中に伝わった。少々伝わる速度が早過ぎる──なんてことを気にする者は誰もいないままに、瞬く間に。

 ある時から忽然と姿を消してしまったジーウィースに代わり、すぐ近くに降りて害より己らを守るもの。

 

 そこへ信仰が集中するのにそう時間は要さない。即時蘇生の術式が切れたばかりなのだから、尚更に。

 

 こうしてクロムクラハは山脈月の、有至無死穏の民に広く認知される次第となり。

 ジーウィースの空白が、何よりも浮き彫りとなったのだった。

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