遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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五、休養編
16.鈍斗業是亜.


「では──行きますのよ」

「おォ、来い……アレ」

「……今、梓さんは四回ほど死にましたの。本来ならば」

「あー。じゃ、やっぱ無理なのかァ」

 

 修練塔。

 近接、遠隔、どちらの魔法も修練が可能なように作られた塔で、五つの監視塔の内2時の方向にある塔だ。そこで、金髪お嬢様と対面している。金髪お嬢様は剣を持って、俺は無手で。

 んで──。

 

「では、これはどうでしょうか!」

「これって?」

「……今ユノンさんの苦無が梓さんの首筋に触れているのですけれど、気付いていませんの?」

「え。おわ!?」

 

 まァ、修練しているわけだ。

 俺が迷宮で見せた回避と、部分強化の精度上げの訓練って奴。

 背中メッシュとポニテスリットは授業があるってんで、金髪お嬢様と太腿忍者に相手役になってもらいながら、速度のある攻撃っつーのをやってもらってンだが。

 

 いんやさ。

 

「えーと、フェリカさん。アンゲルの攻撃を避けた、というの、何か誇張が入っていませんか!」

「私も意識の無い間でしたのでなんとも……ミサキさんが嘘を言うとは思えないのですが」

 

 なんだ。

 てんでダメ、って奴。

 素の状態じゃァこいつらの攻撃なんざ見えやしねェし、避けるなんて以ての外。反応のハの字もできないと来た。勿論、どこにいけば死なないかわかる、なんてのも無い。

 もう何度眼前に剣を突きつけられた事か。もう何度背後を取られて首掻っ切られそうになったことか。

 

 極限状態にならねェと発揮できねェのか?

 つーかあン時の異常な昂揚感も無ェのがな。流石にB級のままでいーや、にァなってねェけどよ、ヒヒ、だのハハ、だの、戦闘中に、死地にあって笑み見せるような戦闘狂じゃァなくなっちまってる。なんつーか、普通に怖い。そういう奴。

 

「あー。じゃァ次だ。部分強化。ちょいと感覚神経強化するからよ、今のをもっかい頼むわ」

「わかりました!」

 

 聴力と脳を強化。

 音。右から来たのを、首を傾けて避け……れんな。重い。太腿忍者の苦無の速度に、俺の身体の一切が追いついていない。来たのはわかったがこれじゃ何もできずに斬られるだけだ。

 えーと、なら。あー。んー? 脚でいいのか、これは。脚の部分強化……いや、足だけじゃ無理だな。腰と、つか体幹系全部……となると腕以外の全部? なんだそりゃ、結局全身強化と変わんねじゃねェか。

 

 あ。

 

「攻撃そのものには反応できていますのね。身体強化が追いつかないようですが、梓さんの魔法なら魔物相手には問題ないでしょう」

「遠隔攻撃してくる奴相手にするにァ無理か」

「ええ。まぁ、早々にそんな機会が訪れるとは思えませんけれど」

「先日の演習にいた精神体や、地下迷宮にいるというアンヴァルは高位の魔物ですよ! 魔物が魔力を扱ったり念動力で何かをする、というのは知性の象徴ですから!」

「そりゃ……困るな」

「?」

 

 多分だけど、俺ァ相手に知性があって、且つ殺意が……本気で殺す、っつー殺意が乗ってねェとピクりとも感じ取れねェんだ。それは迷宮で理解した。

 でもんな知性持ってんのが早々いねェとなると、俺は普通の戦場じゃ特に役に立たねェってことになる。所謂B級、あるいはA級に適した相手じゃ、俺の知覚は揮わねェと。

 

 ……いやまァ、ンなもんに頼ってねェで、この身体強化の切り替えをスムーズにできるようになれって話なンだが。

 

「【即死】の使い方を練習するってなると、ここじゃできねェしなァ」

「私が相手をしましょうか?」

「……やめてくれ、ンなこと。何かあったらコトだ」

「何かあっても蘇生すれば問題ないので!」

 

 あァ、そーだった。

 背中メッシュと太腿忍者はまだ"こう"なんだ。いやさ、金髪お嬢様とポニテスリットも変わってくれたのかどうかはわかりゃしねェんだが。少なくともコイツは死をツールにしか捉えてない。

 

「ユノンさん、それでは効率が悪いのですのよ。貴女の蘇生にかかる時間は20分ほど。対し、【即死】は一瞬です。その間梓さんは待ち惚けになってしまいますわ」

「あ、なるほど! 確かにです!」

 

 お嬢の目配せ。

 ありがてェな。そォいう気遣いは。

 

「……けれど、それ。その……本当に蘇生しなくていいんですの?」

「あン?」

 

 今まさにこっちをわかってくれてる、みたいな気遣いしてくれといて、なんだそりゃ。

 

「いえ、死んでほしいというわけでは……その、結果的にはそう、なってしまいます……けれど」

「正直見ていて痛々しいです!」

「そいつァすまねェな」

 

 太腿忍者がはっきりと言ってくれた。

 ま、そう思われてんのはわかってる。つか作ってくれた安藤さんもそう言ってた。

 

 会う人会う人、みんな言う。

 なんでンなモンつけてんだ、って。なんでそのままにしてンだ、って。

 

「あァよ、勘弁さ。()()()は、私が生きたって証拠だからよ」

 

 右腕を持ち上げる。

 そこにあるのは──武骨な鉄塊。鉄じゃねェけど。

 先端に指も無ければ肌色ですらない。鉄柱、っつー表現が一番似合う。

 

 つまりまァ、義手さな。

 

「これでも結構仕込んであんだぜ。ちゃんと武器さ。つってもまァ、弾薬やら魔煙草やらの保管庫って扱いが一番なんだが」

「確かに、梓さんの素手で殴るより、そちらで殴った方が強そうです!」

「馬鹿お前、ンなことしたら接合面が痛ェだろ。普通に銃使うよ」

「えぇ、勿体ない……」

 

 義手。義手だ。

 死ねば助かる。死ねば復活する。死ねば完全な五体満足で蘇生する魔法少女が、義手。いやさ、迷宮で骨折した腕はもう骨がバキゴキでよ。その上に止血ポーションなんつー筋線維グチャグチャにしてでも止血するモンふっかけたせいで再起不可。仕方ねェんで安藤さんに泣きついたら、国の軍用医療に義手義足作ってるトコあるから相談してくれるってんで、そうして拵えてもらった一品だ。

 仲介してくれた安藤さんも「別に一回死んだらいいじゃないか」とは言ってたけど、それなりに俺の事わかってくれる人だからな。「ま、アンタがいいならいいんだけどね」と引き下がってくれた。

 

 ついでにお釈迦になっちまったSRの発注と、もうちょい威力の出せる拳銃ってのを打診中。この腕にウイーンガシャガシャっつって変形機構でも組み込めねェかと聞いてみたら、少なくともこの国の技術じゃ無理だそうだ。

 他の国は滅んだんで、この国が無理だったら無理だわな。

 

 ……でも一応まだ望みはある。

 っつーのは、あの狼の化け物を従えていた魔法少女。アレも四肢が義手義足だった。

 となれば、アイツの所属している組織だのなんだのにそういう技術があンじゃねェかって。まァどうやって作ってもらうのかは考えてねぇし、そもそもアイツが組織に属しているのかもわかんねェんだけどさ。

 

「つってもまァ二丁拳銃はできなくなっちまったし、総合的な戦力は下がったンじゃねェかなァ」

「アンヴァルとアンゲルを倒しておいて?」

「いやァよ、アレはまぐれで……って」

 

 二人の声じゃァなかった。

 その声は下から聞こえてきて──いやさ、溜めるまでもねェ。キラキラツインテなんだが。

 脅かすの好きすぎだろコイツ。

 

「よォ。中央塔には行かなかったぜ」

「うん。とても驚いたよ。あ、少し前ぶりだね」

「あるるららさん! お久しぶりです!」

「そんなにかな」

「いえ、そんなにではないですね!」

 

 遠征の日が遠い昔のよォだが、そんなこともない。

 ま、遠征が終わった次の日に二人の懲罰で、今日はそっから三日くらい過ぎたってくれェの日にちだ。いやさ、体験する物事が濃密だと時間を長く感じるってなこういう事さな。

 

「で、何の用だ?」

「私じゃなくて、ヴェネットがね」

「ほォ。班長が」

「うん。お詫びしたい、って」

 

 またかい。

 いやさ、あの人罪悪感とかめっちゃ覚えるだろうなァってのはわかるんだけど、もういーって。忙しいだろうに、俺なんざに構わなくていーってのに。

 しないと心が折れちまうってンなら、受けるけどさァ。

 

「こ、ここか! あるるらら! 先に行くね、じゃないんだ! 私は彼女らがどこにいるか知らないんだから、修練塔の一つ一つを確認しなければいけなかったんだぞ!」

「おー、お久しぶりで、班長」

「あ──あぁ、久しぶり……か? そうでもない気がするけれど、久しぶりだね、梓」

「ム」

 

 班長だ。

 結局なー、遠征任務から帰ってきて、一度も会って無かったんだよな。遠征内での報告ってな俺ァ個別で済ませることになっちまって、班長はまた違う任務への遠征に行かなきゃで、すれ違い。んでまァ俺が迷宮に行っちまって、帰ってきたらば腕作るために滅多に学園に顔出さねェんで、園内で会うこともなかった。

 

 班長は。

 ……すゥっげェ気まずそうな顔してる。気にしなくてもいいのにな。俺ァこうして生きてんだし。

 つか、任務で置き去りなんざままあることなんじゃねェのかね。

 

「ちょっと、梓さん」

「ン?」

「……どういうことですの? AクラスA班班長はわ・た・く・し……ですのよ?」

「あァ、遠征組突撃班の班長だったからよ」

「……私が金髪お嬢様で、ヴェネットさんが班長呼びなのは……ずるいですの」

「ンなこと言われてもなァ」

 

 ずるいって何だよ。

 ……金髪お嬢様は金髪お嬢様だしなァ。

 

「梓」

「ん? あ、おゥ」

 

 お嬢とこそこそ話してたら、いつの間にか班長が近くにいた。

 いて、マジな顔で。流石に何かを悟ったのか、お嬢がちょいと離れる。

 

「──ごめん」

「いやいーって、お、おい?」

「心細かっただろう。君を置き去りにしてしまって……本当にごめん」

 

 そのまま──抱きしめられた。

 なんだ、遠征組ってなハグ流行ってんのか? キラキラツインテも自己と世界を認識させるためとはいえ似たようなことしてきたし。

 

「私の判断ミスで……君から様々なものを失わせてしまった事。どうか償わせてほしい」

「待て待て、私が何失ったってんだ」

「え? いや、あるるららの話では、君は心神喪失状態で、自己判断もできなくなって、死をも忌避するようになって、その腕も……あるるらら!」

「ヴェネットの判断ミスがなければ、【神速】の子も【波動】の子も罰をうけることはなかったからね。周り廻って、巡り廻って、すべての原因はヴェネットにあるんじゃないか、と思っただけだよ」

「極論が過ぎる」

 

 バタフライエフェクトも真っ青だ。

 

「……ヴェネットさん。勘違いが解けたのなら、そろそろ梓さんを放してくださいますの?」

「ああ、アールレイデさん。君にも迷惑を……」

「いいですから! 一旦梓さんを解放してから、お話はそれからですの!」

「じゃあ、私も溶けてみよう」

「うわっ!? おい、キラキラツインテやめろってそれ、なンかヘンになンだよ! ちょ、オイ、班長放してくれ、って、おォう!?」

「放さないなら私も抱き着きますの──!!」

 

 早いんだって、展開が。

 太腿忍者は巻き込まれねェようにさっさと逃げてるし、キラキラツインテは何してんのかわからねェがとにかくぜってー良からぬこと企んでるし、お嬢はいつも通りっちゃいつも通りだけどなんか暴走してるし。

 あと班長も、お嬢の言う通り誤解は解けたはずなのに……一切離れてくれない。

 アレこれ、おじさんモテ期か? いんやさお嬢が俺に好意抱いてくれてンのは知ってんだよ。だからこの暴走が嫉妬に由来するってのはわからんでもないんだが、キラキラツインテと班長はマジでなんだ。前者は特に意味のない行為をすンのはわかるが、マジで班長は何を思って俺から離れないんだ。

 

「よし、いいことを思いついた。君達、今日は私の部屋に来てくれないか? そこで、色々お詫びをさせてほしいんだ」

「おォい班長、一旦放してくれ」

「ん? ……何をしているんだ、あるるらら。それにアールレイデさんも」

「あァ何で償ったらいいか考え込んでてマジに気付かなかっただけかい」

「ヴェネットはそういうところがあるよ」

 

 いいから、わかったから。

 おじさんそろそろ限界よ。一応男なンよおじさんは! 今女の子でも、43歳のおじさんに少女三人が抱き着くって絵面がどンだけ恐ろしいかってわかってくれ。

 少女の体温に、気恥ずかしさとかよりも罪悪感を覚えちまう。

 

「梓さんは奪わせませんのよ……!」

「お菓子パーティをしよう。女の子らしく、だ」

「ヴェネットに女の子らしくする、なんて概念があったことに驚いたよ」

 

 そりゃ、全く以て同意なんだがよ。

 お菓子パーティ。いいよいいよ、いいからいいから、行くから放してくれ。

 

 な?

 

「──歓談中申し訳ないのですが、梓・ライラック様。キリバチ上官がお呼びです。どうぞこちらへ」

「おわ!?」

 

 いつのまにか、そこにいた。

 メイド服姿の女性。いつぞやの魔法少女たる衣装ではなく、わざわざ普通の服を着た女性が──俺を奪い去っていた。

 

「え」

「あれ」

「きゃ!?」

 

 突然のことに団子になる三人。

 既にこの場からいなくなってた太腿忍者。

 

「それではみなさん、良い学園生活を」

「ちょ──」

 

 確か名前は──コーネリアス・ローグン。

 小学校に現れた狼の化け物退治ン時にいた、鬼教官殿の部下。

 

 それが、俺を姫抱きにしていた。

 

えはか彼

 

「連行してきました、キリバチ上官」

「ああ。次の命令まで待機しておいてくれ」

「承知いたしました」

 

 結構な高さにあったさっきの修練場*1から、俺を姫抱きにしたままピョイピョイEDENを飛んでって、あれよあれよのままに軍事塔……教員塔とも呼ばれるそこに辿り着いた。

 コーネリアス・ローグンは監視塔のすぐ下にある部屋へ窓から侵入。すってーとそこに鬼教官殿がいて、今。

 

「手荒いことはされなかったか?」

「あァよ、そいつァ大丈夫だが、何の説明もなしに連れて来られたっつーのは文句として言っていいのか?」

「私もローグンに何の説明もしていないからな。ただお前を連れて来てくれと命じただけだ」

「アンタが原因かい」

「はっはっは、まあそう邪険に扱わないでくれ」

「扱っちゃいねェがよ。軍事塔に呼ぶくらいだ、またなんかあンだろ?」

「いや? 少し、久方ぶりに話したくなっただけだ」

「あァそォかい。じゃ帰るわ」

「待て待て、積もる話があるのだ」

 

 鬼教官殿とそこまで親密な関係になったつもりはねェんだがな

 暴走繭の件と、狼襲撃の件くらいだろ? まァ助かったがよ。そこまでってほどでもねェ。

 

「聞いたぞ。アンヴァルにアンゲルと、SS級でも手こずる高位魔物を単独で討伐したそうじゃないか」

「あー。その話。単独じゃねェよ、お嬢とポニテスリットがいたし」

「アールレイデと縁は、お前が単独で討伐したと言っていたが……それは虚偽の報告だったと?」

「ここでそォだ、つったらアンタは"なら更なる罰を与えなければならないな"とか言いだすンだろ? じゃァそォでいいよ。私がやった。つっても再現できるか怪しいけどな」

「良い。それでこそ、だ」

「あン?」

 

 何がだ。

 

 鬼教官殿は、ペラ紙を一枚取り出す。

 ペラ紙っつか、一応ちゃんとした書類……いや。

 

「A級推薦状?」

「そうだ。これから先、お前は重宝されることになる。自然生成の形成地点の破壊が可能かどうかの検証と、そもそもそれが自然形成のものであるかの調査。今確認されているすべての形成地点に【即死】が有効なのかどうかの調査及び破壊任務。形成地点など無ければ無い程いい。そのために、突撃班だけでなく様々な遠征班に組み込まれていくことが予想される」

「忙しくなるってか」

「ああ。その中で、B級を良く思わない者もいる。単純に信頼を預けない者もいる。そういうのを黙らせるのがA級という称号だ」

「今度はお飾りA級ってか」

 

 忙しねェこって。つい先日お飾りB級になったばっかだってのに、大した実力もつけねェまま昇級なんざ、嫌な未来を引き寄せる結果にしかならねェと思うんだがな。

 A級としての働きを期待されてもできねェし。亜空間ポケットも全身強化もマトモに使えねェA級がどこにいんだよ。あァ、飛行魔法も。

 

「流石にA級魔法少女はお飾りではなれん。故に、お前には無理矢理にでもA級になってもらう」

「……できンなら、やるが。なんだ、死地に単身放り込まれる、とかか?」

「いいや。少し前までのEDENならそれもできたが、お前の【即死】は貴重過ぎるのでな、上が手厚い保護をしろとのことだ。これより先、お前はどこに行くにも護衛が付く。EDEN内ならまだしも、外部に放り出して【即死】を奪われる、なんてことはあってはならないからな」

「あー、そりゃ助かるが」

「当然、その護衛の者には──死したとしてもお前を守り切る、という任務が課される。その上で、お前は外部の任務に出される。その意味が分かるな?」

 

 ──最悪ってことね。

 なンだよそりゃ。お上ってな、俺が嫌がる事しかしねェのか?

 

「……ああ。そいつらを死なせたくなかったら、修練塔なんぞでぬりィ修練してねェで、ガンガン実戦経験して強くなンなきゃならねェと」

「そうだ。お前が死を嫌えど、忌避せど、護衛となる者はお前のために死ぬ。お前のために傷付く。お前が無事でよかったといって死んでいくだろう。お前を逃がすために全力を賭す」

「嫌な話をすンなよ。最悪の気分だぜ今」

「だが、理解はできたな? お前が強くならなければならない理由。お前が大切に想う者だけでなく、全ての者の死を拒むというのなら、A級、S級、SS級と、それらに匹敵する強さを手に入れなければならない。そして、その可能性をお前は見せた。単独でのアンヴァル及びアンゲルの討伐。SSS級にも届くだろう成果を、これでもかというタイミングで見せてしまった」

「お上にも期待されてると」

「SSS級とは全魔法少女の憧れであり、誰よりも前を行く者の称号だ。あらゆる魔法少女を導く存在を指す。未だ学園長や創設者達のみしか辿り着けていないその境地に、お前は辿り着くと、そう期待されている」

「重いなァおい」

 

 だから俺ァ数か月前に魔法少女になったばっかのヒヨっ子なんだっつの。

 そんな奴にどんな期待のかけかたしてやがる。発散でもしてンのか。

 

「だがよ、すぐにでも強くなれつったって、無理なモンは無理だろ」

「無理なものは無理だと言ったアールレイデの言葉を覆したそうじゃないか」

「その弄りは死ぬほどウザィんだが、そうじゃなくてよ、魔力量っつー問題があンだよ。私の魔力量じゃ亜空間ポケットは開けねェし、全身強化も飛行魔法も使えねェ。どんだけ戦闘経験積んだってそこの壁はどうしようもねェだろ」

「奇縁というのは続くものでな。お前に限定して、それが可能になり得る手段を持っているだろう人物に心当たりがある」

「……それァよ、他の魔法少女にはできなくて、私限定で、ってなると……コレか?」

「正解だ」

 

 持ち上げるのは──義手。

 鉱石の塊にして、俺以外の魔法少女がやってねェこと。あるいはあの敵の魔法少女がやってた事。

 

「国家防衛機構・浮遊母艦EDEN。ほぼすべての魔法少女はここに属し、生活を送っている。だが、EDENに属さぬ魔法少女というのもいるにはいる。お前が相対した……敵対した者は未確認だったが、EDENと連携や同盟を組みつつ、けれどEDENには与さぬという魔法少女がな」

「へェ。いやまァ、そうか。誰もが戦いたいってワケでもねェし、この国に思い入れの無ェ奴もいるよな」

「まさに、だ。この国に対して何の思い入れもなく、戦いを好まぬ魔法少女。一応区分としてはSになる、【鉱水】のディミトラ。EDENより遥か南西部に位置する人工島に住まう、世界で唯一反魔鉱石を加工し得る魔法少女になる」

「……あー」

 

 まァ、そうか。

 俺のパワーアップのためだけに、ってワケにはいかねェよな。組織だし。

 それも込みで、なんだろォが。

 

「気付いたか。そう、敵の魔法少女が遺した、極小の反魔鉱石。あれにはディミトラの手が入っていると判断された。故に上はディミトラへの事情聴取及び情報収集を決定。その班員に、お前が選出された」

 

 なーにが久方ぶりに話したくなっただけ、だ。

 しっかり任務の話じゃねェか。期待させンじゃねェよ。

 

「ディミトラの人となりを知っている私から言える事はただ一つ。呑まれるな、だ」

「なンだ、老獪な奴なのか、そいつァ」

「老獪というよりは奇怪だな。特殊魔法【鉱水】には十二分に気を付けろ。敵の魔法少女と組んでいた場合は──戦闘になる」

「あァよ。それ以上の情報はくれねェと」

「それを含めて、A級の仕事だ。推薦状は受け取ってくれるな?」

「……わーったよ。つか、断れなさそうだしな」

「それでいい」

 

 A級だ。

 なるぞ、って向上心見せたところにコレだ。

 お飾りA級。でもまァ、ソイツなら、俺のコレをパワーアップアイテムにしてくれる、ってワケだ。いいよ、なら行ってやる。

 まァた遠征だ。ったく、学園生活ってな送らせてもらえねェのかね。

 

「出発は?」

「もう少し後になる。それまでに装備の調整はしておけ。修練塔での訓練も、その日までに仕上げろ」

「でなけりゃ死人が出るぞ、って? ひでェ脅しだことで」

「だが、そうとなればお前は本気になれるだろう」

「流石は鬼教官殿だァな」

 

 あーあー。

 修練塔の、ほんわか少女達との戯れに戻りてェ。

 

 今回突撃じゃねェから班長達とも班違うだろうし、お嬢もまたついてこれねェだろうし。

 ……いんやさ、遊びに行くんじゃねェんだ、そこばっかりは弁えねェとなのはわかっちゃいるがよ。おじさんそろそろ気の休まる時間ってのが欲しいよ。

 

「ローグン」

「はい」

「此度の遠征には、ローグンを同行させる。お前の護衛として、だ」

「B級魔法少女、コーネリアス・ローグン。命を賭して御身を守らせていただきます」

「今の話聞いてただろ。命は賭すんじゃねェよ。なんとしてでも生きろ。生きて私を逃がせよ。私ァ一人じゃ逃げらんねェぞ」

「承知いたしました」

 

 ホントに承知してくれてんのかね。

 ……でもまァ、あのこえーこえー方の部下サンじゃなくて良かったってのは思ってる。リヴィルサンだっけ? 俺の口にフリューリ草を詰め込み続けた人。アッチよりァコッチのが……。

 

「……」

「何か?」

「いや」

 

 ……あの人は始終怒り顔だったが、こっちのメイドは一生無表情なのがな。

 どっちも感情読めねェからあんま変わらねェや。怖さは。

 

「それでは、下がって良いぞ。出立日時まで、精々励めよ、若人」

「んな若くねーって」

「……13歳だろう」

 

 そォだがよ。

 つかそれは幼いっていうんだ。若くねーよ。少なくとも。

 

 さて。

 んじゃま、準備ってのをしますかね。

 お嬢や班長にも、謝んねェと。お菓子パーティなー。おじさん雰囲気に耐え得る気はしなかったけど、一回くらい付き合ったってよかったよなー。

 女の子らしいこと、とか言ってたっけ。

 

 無理だな、俺にァ。

 

 やっぱ行かなくて良かったわ。きゃいのきゃいのはマジモンの少女に任せよう。

 ……アレ、魔法少女歴50年とか言ってたっけ? まァ幾つになっても少女は少女さな。

 

えはか彼

 

*1
修練塔内部に何フロアも修練場がある


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