高空を行く。進む。
寒さも何も感じねェラジコンは、案外使い勝手がいい。こう、なンだ。"前"は妄想の類でしかなかったヘッドマウントディスプレイでのVRダイブをしている、みてェな感じ。体験した事もねェのに感じもクソもねェんだが、想像通りってわけだァな。
「……改めて見下ろすと、広い世界だな、ホント」
「でも、つまらない世界だった。だから私や加具土命は、この世界を出た。加具土命は召喚だけど」
「つまらない、ねェ。スパンデュルみてェなグレムリン達に崇拝されるのァ嫌だったのか」
「自分の劣化品に崇め奉られる事に意味を感じなかったかな」
己の劣化品。
成程、そォいう認識なのか。
「なンでEDENにいたンだ。観測班で……つか、観測班の連中のことはどォ思ってたンだよ、お前さん」
「別に、なんとも」
「……ま、そォだろうな。お前に取っちゃ取るに足らねェ人間、あるいは魔法少女か」
「取るに足らない、とは思っていなかった。ただ、興味を向けるまでもなかっただけ」
「弱いからか?」
「私を害さないから、かな」
「……なンだ、こっちで迫害でもされてきたのかよ」
「この姿を取る前の、つまり加具土命が言っていた私本来の姿というのは、神や魔法少女より魔物に程近い。こっちの世界に来た当初は迫害というか、普通に討伐対象だったよ」
「あァ……成程ね」
グレムリン。
スパンデュルみてェなフクロウをして劣化品だと言わしめるンなら、コイツの本来ァもっと獣っぽいってことか。
異世界に観光気分でやってきたら、魔物扱いで害してくる魔法少女。成程なァ、戦闘能力に長けるわけでもねェコイツが安住の地を求めるワケだ。
「キスキルとは知り合いなのか?」
「仲間だった、とかではない。ただ同じ世界出身なだけ」
「おン? ……そりゃこの世界の住民全部がそォだろ」
「? 私やキスキルは違う世界出身。有至無死穏でも恵理須でもない。冥界でもない」
何を当たり前のことを──みてェな顔で、アルカナは言う。
「……恵理須と有至無死穏と、恵理由知穏と……冥界以外に、世界があるってのか」
「当然。そもそもこの世界は、複数の世界の冥界、冥府、地獄、黄泉……そういう場所が重なり、合わさった世界。だから重なった世界のそれぞれに元来の世界が存在する。神話も世界も何もかもが異なる神や魔物が隣り合わせに棲んでいるのはそのため」
「それァ、お前さん」
「ただ、あなたの"前"の世界だけは特別。神も魔物も悪魔も手出しができない、何もない世界。唯一こちらと重なっていない世界。ただ"畔"だけは防御が甘いから、ハキタはそこを狙った」
なんでもないかのよォな顔で。
ズバズバ、こっちが秘密にしている事を言ってくる。俺の知らねェこともペラペラと。
「私やキスキルはここではない別の世界の、けれど同じ世界出身。だから知り合いかと問われると微妙なところだし、かといって何も知らないわけじゃない」
「ふゥん。で、その何も知らないわけじゃない、ってのァ、どんくらい知ってンだ?」
「キスキルは女の子が好き」
「あァさ、知ってる。他は?」
「キスキルは精神的なダメージを与える幻術を好む」
「それも知ってる。他は」
「キスキルは、尾が弱い」
「おォさ知って……お、知らねェ情報だ。だが、尾? アイツに尾なんざなかったぞ?」
「幻術で隠しているだけ。弱点を敵に見せておく馬鹿ばかりじゃない」
「そりゃまァ……そーだな、その通りだ」
尾か。尾ね。
いいね、そりゃ良い情報だ。
「他には?」
「あなたが欲しがりそうなのはない」
「そォかい。いや、助かった。それだけでもありがてェ情報だ」
「……キスキルは、殺す?」
「ン? あァさ、そりゃ勿論だが。なンだ、悪魔同士、なんか思う所でもあるのか」
「私は悪魔じゃない。……なんでもないかな」
「ほうけ」
何かあるのァ間違いねェが、言いたくないって感じか。
そうやって感情を表に出すのは珍しいな。
「しかし……いねェな」
「うん」
飛ぶ。飛ぶ。
ものっそい高速で飛んでいる俺達だが、雲海の果ての果てにまで目を凝らして、けれど誰もいない。死の気配も夜の気配も最大限に感じ取らんとしているけれど、それにも引っかからない。
いねェこたねェと思うんだがなァ。こんだけの術式を見ずに発動するなら、どっか見やすいトコに。
「アンディスガル」
「ん、見つけたか?」
「違う。聞きたいことがある」
「おォ、まァいいけどよ」
「キスキルは封印されていたと聞いている。どのようにして?」
……ふむ。
キスキルがどーやって封印されてたか、か。
「実は、俺も知らねェんだよな。俺が駆け付けた時にァ戦闘始まってたし、聞けばそもそもキラキラツインテがどーにかしてキスキルを封印したって話だし」
「あるるららが?」
「あァよ。……そいや、今考えてみると……ヘンな話ではある、な? 恵理須に封印術とかってあったか?」
「反魔鉱石による封印はあった。あるいは魔法少女が仙女と呼ばれていた時代に、そういうことができる魔法が存在したことはあった」
「おー。だが、それをキラキラツインテが使えるわけもなし」
キラキラツインテは50年前に魔法少女になった。仙女の時代についての知識があるとは思えねェ。ああいや、禁書庫とかに入った事がある、みてェな感じならあり得るのかもしれねェが……果たしてそんな付け焼刃でキスキルの封印なんぞできるのか?
「あなたが着いた時の状況は?」
「ん-。周囲にキスキルの結晶が死ぬほどあって、金髪お嬢様と着物狐がキスキルに相対してて……もうやられそうだったが」
「キスキルの結晶が周りにあった、というのを、詳しく」
「詳しくも何も、恵理須ン時の星の中心部くらいか? そこに洞窟みてェのがあって、その中にびっしりキスキルの結晶があったンだよ」
「結晶の形は?」
「形ィ? ……普通に、上下左右から生えたって感じだったが」
「色は、今のキスキルの結晶に比べて、どう?」
「あー……ちょい、濃い目の青だったよ、ォ、な?」
「表面の感触は? 水は張っていた?」
「つるつる。水は張ってなかったよ」
怒涛の質問攻め。
L・アルカナが今まで喋ってきた言葉の量を今ここで凌駕したンじゃねェかと思う程の、怒涛。
しかし、色とか感触とか、聞く必要あったかね。
「……最後の質問。今、キスキルはどこに?」
「そりゃ冥界だよ。俺が殺した恵理須の残骸突き破って、冥界で固まってる」
ふむ。
そういや、お嬢と着物狐はちゃんと徒歩できたンだよな。俺みてェにぶち抜いたとか、クロムクラハみてェにすり抜けて来たとかでなく。
あそこ、やっぱどっかに繋がってた……ンだよな?
順当に考えンならエルヴンシードか。俺は知らなかったが、恵理須にもエルヴンシードがあって、そっから繋がってたと見るのが一番ではある……が。
にしては、この世界のエルヴンシードも即時蘇生の術式の刻まれたキスキルの結晶も、そこまで深くない場所にあったよな。
じゃァこの世界の中心には何があるンだろうか。
「あ」
「あン? ……お」
あ、いた。
「珍しい組み合わせだね」
「あァさ、よう、久しぶりでもねェな、存彪位」
「そうだね。そして──久方ぶりだ、リージュ・アルカナ」
「あ、うん。私からあなたに言葉はないよ、惰眠の神」
おお。
心なしか……アタリが強い。
そしてこいつのLってリージュだったのか。
「酷い事を言うね、リージュ。かつての妻」
「え」
「キスキルとの繋がりを作るために無理矢理結ばれた婚姻に価値はない」
「え、ちょ」
「あなたの方こそ、その夜の使徒に鞍替え? 長い間姿を見せないと思ったら、旅先で番を見つけてくるとはね」
「そのお子様思考をどうにかしない限り、あなたに明日はない」
え。
妻? 存彪位の? いやだってコイツ神で、お前悪魔っつかグレムリンで。
「それで、何用かな。取り付く島もないリージュは置いておいて、夜の使徒の人形。あなたは何をしにきたんだろう」
「てめェを殺しに来た以外あるか?」
「私を殺したら、この子も死んでしまうよ」
「だが【同化】はしてねェんだろ?」
今、魔法は使えない。
使えるのァ権能と冥界の魔力、世界言語だけ。
「……それはそうだね。拒否されてしまったから」
「なら、やるこた簡単だ」
ビキビキと音を立てて──苦理主が銃の形を取る。
昔懐かしの二丁拳銃スタイルだ。クロムクラハだった時も、メイアートになった時も、ここんとこずっと棒状のモンばっかだったからな。
懐かしいグリップの感覚……てな無いンだが、装填されていく冥界の魔力がずっしりとした重みを……伝えてくれない。うーん、人形の身体ってなこーいうこったなァ。
「撃てるのかな、お友達を」
「撃てるさ」
銃口を向けて。
「ばぁん」
撃つ。
「!?」
撃った。
──本当に、撃った。
キラキラツインテの顔が驚愕に染まる。背後でリージュ・アルカナの「ぇ」という小さな呟きも聞こえている。
誰も思っていなかったンだろう。俺が本当に撃つ、って。
驚愕に染まていたキラキラツインテの顔は、次第に渋くなっていく。
だからそこに、二発、三発と。
固まったままでいるキラキラツインテの身体に、存彪位に、必殺の弾丸を撃ち込んでいく。
「待……待って、どうし、」
「待たねェ。アホかよ、折角存彪位討滅できるってな機会に、それを逃さねェ手があるかっつの」
昔と違い、残弾を気にする必要はない。本来できるはずのない二丁拳銃による無限乱射……別にマジの拳銃を模してるってわけでもねェんだ、中身ぐちゃぐちゃでも、弾丸が飛べばそれでいい。
あァさ、だから。
「じゃあな」
形作るはSR。アンディスガルの爪の全てが苦理主なンだ、量が足りなくなるってこたねェ。
まァこんだけ撃っても死なねェのは流石神ってとこか。だがよ、流石にドタマ撃ち抜かれたら死ぬだろう?
何も聞かない。
ただ、狙って、撃つ。
弾丸は真っすぐにキラキラツインテの額を撃ち貫き──その
だから、もう一発撃つ。
今までキラキラツインテの頭のあったところに、もう一発だ。
「ッ!」
「
弾丸は受け止められる。空中で、透明な何かに。
その間にキラキラツインテの身体を引っ張り上げて。
「アルカナ、キラキラツインテの身体ァ頼む!」
「いいよ」
ばさり、と大きな音。はためく音。
地上に巨大な影を落とす、獣の翼──。それが、一本釣りしたキラキラツインテの身体を掴み、遠くへ離れていく。
「まだだぜ、存彪位」
「──く!」
SRをやめて、また二丁拳銃で撃つ。撃つ。撃つ。撃つ。
撃ち続ける。
ハ、と。
笑いが零れる。
ハ、ハ、ハ、と。
「ハハハ──まだ足りねェか、オイ!」
「……いや、もういい」
「あン?」
その声は既にキラキラツインテのものでなく。
──あァ、その姿は。
白い髪の女性。金糸でも銀砂でもなく、真白な髪は──紛う方なき、白夜の色。
まるで星空のような女性。瞬き、踊り、主張する。誰も見ていない。
「改めて、初めましてを言おうか、夜の使徒アンディスガル。私の名は」
「ああ、いいよ。言わなくて。そのまま死ね、
下方。
雲海を貫いて──黒の極光が全てを殺す。
ずっとずっと、追ってたンだ。
ラジコンだからな、この体は。だから、ずっと追っていた。ずっと目印にしていた。
ンでもってさっき、アイツの身体に【目印】の魔法をつけた。【目印】はリージュ・アルカナの所属していた遠征組観測班アルカナ部隊のワンドという魔法少女が使っていた魔法だ。等級はD。効果は魔法を当てた対象にどこからでも見える目印を与えると、ただそれだけの魔法。
──あァさ、世界言語を使う価値のある魔法だ。
「く──う、ぐ……!」
「見えるだろう、尖り前髪。キラキラツインテは外した。だから──斬れよ、あの目印ごとだ」
死を齎す夜の極光はソレをそこに押し止める。
少しでも意識を外さば、瞬く間にその身を滅ぼすだろう。たとえ神であっても、だ。
そして──それが飛ぶ。
聞こえるはずのない声。遠く遠く、余りに離れた場所にある声。
「【秘漸】」
世界からソレを切除する、権能に近き魔法が──。
「舐めるなよ──」
「舐めてねェよ。お前が神だってちゃんとわかってンだよ、こっちは」
黒の極光。それに寄り添うよォに駆け抜けてくるのは、深紅の炎。
須留途、だったか。それがソイツを燃やし尽くす。
加え、真下から放たれる高速の槍。それがソイツに突き刺さる。
「加具土命に、ネベトフート……!」
「そんでもって──
名前を呼んで、形にして。
それは波立つ刃。それは漆黒の刀身。
それは傷を与える者の名なりて。
斬る!
「──と、まァ俺の見えたのはそこまでだ。自分の
「……最後には賛同しておいてなんだけどね。まさか作ってやった後の数時間もしない内にぶっ壊されるとは思わないだろ」
「あァさ、また作ってくれ」
「……はぁ。わかったわかった」
「そんなことより、あるるららは大丈夫なんだろうな?」
「ん、大丈夫だよ。今さっき全身診てもらったけど、どこにも弾丸は残ってなかった。夜も晴れたし、もう少ししたら自然と回復するだろ」
わかっていた。
幾度かの邂逅で、キラキラツインテに意識がある、ってな。
んで意識があんなら、使えると。存彪位が宿ってるからか、眠っていなかったキラキラツインテなら問題ねェと、一発撃って──それは正解だった。
身体を通り抜ける弾丸。苦悶の表情を浮かべるキラキラツインテだったけど、その表情はキラキラツインテのものじゃねェって一目でわかる。どんだけ同じ顔使ってたって中身が違えば表情筋の使い方も違わァな。
だから中身だけを撃ちまくって、撃ちまくって、撃ちまくって。
そうして乖離した瞬間──つまりキラキラツインテが夜によって眠りに落ちた瞬間を狙い、一本釣り。見事身体だけを吊り上げて、後は乱射だ。
あの場にいた見えねェ精神体。
あれが存彪位である、など子供でもわかる問題さ。
目印つけて全力で奴をぶっ叩いて。
そんで──目を開けた、って次第。
「で、どうかな。存彪位は殺せたと思うか?」
「殺せてはいないはず。そもそもあるるららの身体に存彪位の全てが入っている、なんてありえない。でも、確実に力を削いだはず」
「そりゃ重畳。んじゃまー、ふーちゃん」
「あにー?」
「──みんなが起きてきたら、状況説明を頼む」
ズシン、ズシンと膝をつく。
まー。
なんだ。
俺の身体がこんだけ強いのァ、世界言語をこれ以上使わせないため、でもあったンだわなー。
そこは魂の部分でどーしようもないからさ。
結局そこの治癒ってなできてねェままだ。
だから、えーと?
「本来、必要は、無いンだけど──寝る。というより、気絶する。色々頼んだぜ」
「おっけ! 任せて!」
久しぶりに──意識が、落ちた。
「……ん? カシヨの村?」
この暗鬱とした、けれど心落ち着く空気。暗い空。
これは紛れもなくカシヨの村……だが。
「じゃ、ねェな。完璧なレプリカって感じか?」
「……何が違う?」
「あそこの村はな、もう少し寂しいンだよ。こんな満ち足りてねェ」
背後に、いた。
白い髪の女。白さ以外は其夢盗と瓜二つな女性。
「ここなら改めていいぜ。よォ、俺はアンディスガルってンだ。てめェは?」
「ソンヒューィ。あるいは存彪位」
「そうか。んで、俺をここへ呼んだ理由は?」
「……其夢盗を知る者と、会ってみたかった」
振り返る。
って、なンだよ。この体……梓・ライラックじゃねェか。
「お前さん、其夢盗に対抗意識抱いてたンだっけ?」
「そう。正確には、反転する前の私が。何も覚えていないけれど、ただ、敵愾心に似た対抗心が、ずっと心に残っている」
「ほうけ。……ま、てめェの確執ァ知らねェのさ。巻き込んでくれるな」
「無理」
「何がだよ」
まるで、幸福の国、とでも言いたげに……心の満ち足りてくるこの夢。
あァ、違う。カシヨの村は、本質的には「独りになる場所」だ。最終的に自己で完結する場所だ。ゆえの幸福。初めから与えられる幸福なんざ、いつか綻びができる。
「あなたは、世界の中心にいる。ハキタがあなたを手にした瞬間、全ての歯車が回り始めた。あなたがいなければ世界は動かない。あなたが来なければ、この世界も無かったかもしれない。私は本体の存彪位から切り離された存在だから」
「シュレディンガーだっけ? 観測されねェ限りは内容が確定しねェ、ってな。知らねェよ。なンで俺なんだ、っつか、俺が来る前からあっちの世界だって動いてただろ」
「否」
否、と。
否定する。
「あるるららが、あなたを連れてこなければ──始の点で起きた集団睡眠事件は、四日と経たずに終息していた。全員が長い長い夢を見たと言って目覚めるだけに」
「……じゃァ、なんだ。キラキラツインテと俺が、事態を広く、大きく、厄介にした、とでも?」
「そう」
そういえば、この世界に来てからもうかなりの時間が経っている。
寝続けている彼女らの身体は。そして、目覚めた者は今何を。
「あなたが一度目覚めた事で、全てが狂った。動いていないはずだった時間は動いていたことになり、時間のねじれが生じた。今、冥界では、始の点周辺の時間と冥界全土で時間の進みが違う」
「……それがなンだよ。俺にどうしろってンだ」
「目を覚ました者は、時が止まっていると錯覚する程の遅延に巻き込まれる。何らかの手段で始の点へ渡った者も、体感は数秒なのに、帰ってきたら年単位の時間が経っている、ということになりかねない」
「ウラシマ効果みてェな話か。……あー、だがよ。結局やっぱそれがなンだって話だよ。この世界の全員が目を覚ましたら、始の点周辺は捻じれた時空のままに進むンだろ?」
「ここで全員を解放しても──冥界に戻ったあなたを待ち受けるのは、何千年と待たなければ目を覚まさない始の点のお友達だけ」
ふむ。
まァ何が言いてェのか大体わかったが、なんだ。
どんな反応してほしいのかが微妙にわからねェな。
「つまるところ、これ以上やるのはやめた方が良い、とでもいいてェんだろ。俺がこっちでドタバタやればやるほど、俺が帰った時に待つ時間が長くなる」
「倍、どころではなく」
「で、それがなンだよ。元から俺はもう魔法少女に関わるつもりァ無かったんだ。いいよ、何千年でも何万年でも。時が止まったまま冥界を周遊する始の点を眺めて、ただ眺めるだけで。俺ァ夜の使徒だぜ。死んでるんだ、今更何年も同じだろ」
「……会えない事が、辛くはないの?」
「誰にだよ」
「フェリカ・アールレイデ」
「つらくねェな。言っただろ、会わないつもりだった、って。──あの子が俺をどう思ってくれてるのかも、俺がお嬢をどう思い始めてるのかもわかってるよ。わかってるけど、いいんだ。俺はそれを受け入れる。お嬢にとっては目覚めてすぐの事が、俺にとって何千年、何万年と経った後の事になるとしても、普段通り接してやるさ」
だからそれは、脅しにはならねェんだよ。
「……この私は、切り離された自戒の心。存彪位にとっての──他者を想う心」
「あァ」
「私を殺す事で、ここから出られる。そしてそれは、存彪位との会話が無駄になる事を意味する」
「あァよ」
「──さようなら、夜の使徒。私を殺し──どうか、私を殺して」
「約束する」
呟く魔法は、どれだったか。
崩壊していく世界。優しく微笑む存彪位。
そうして世界は、真白に包まれた──。