遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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161.会疎負不綯右飛亜,寒湾噛無.

 夜が明けた。

 残念ながらキラキラツインテはまだ起きていない。他の魔法少女もだ。 

 零の力を削減される、ってのはかなりキツいことらしく、起きるのはもっと日がてっぺんに来てからになるだろう、とのこと。

 

 なんでその間の時間潰しとして、俺が眠ってる間に見た事を、他の神々……人形作ってくれてる安藤さんを抜いた、リマキアを含む神々に共有する次第となった。

 

 白い髪の、其夢盗そっくりの女性。あれはやっぱり。

 

「うん、存彪位本人だろうねー。記憶にあるのと同じだし」

「しかし、まさか彼の神が理性を切り離していたとは……道理で」

「元々は賢い神だった……ンだっけか?」

「いえ、賢いとは言えませんが、ある程度冷静な神ではありました。他者の作るものに嫉妬したり、取り上げたりするところは変わっていませんが……こうも考え無しではなかった」

「本質は変わらねェが、幼くなってる。そんな感じか」

「はい。反転するとはそういうことです」

 

 まァ神々のどーたらこーたらにはあんまり興味ない。

 問題は、次に克ち合った時、アレが存彪位だと確信して良いか、というところだけだった。

 そしてそれは各神々に頷かれたンで、おっけーと。

 

「問題は存彪位捜索が白紙に戻ったってことか。つかそもそも、アイツはなんでこんなことやったンだろうな。俺達が来るってわからねェ馬鹿でもあるまいし」

「うーん、考えられるとしたら、ソンヒューィ側にも何かタイムリミットがある、とか? ほら、その夢の中のソンヒューィの言う事が本当なら、ホントは4日でみんな目覚めてたはずなんしょ? 元々なんかタイムリミットがあって、それが思わぬところで……つまりあーちゃんのせいで? おかげで? 進んじゃって、ソンヒューィが出張って来ざるを得なくなった、みたいなー」

「考えられます。というより、それが的確であるかと。存彪位にとって、事を強引に押し進めるメリットがありません。何かあちら側でもアクシデントがあって、それが原因で出てこなければならなくなったものと」

「その何事か、というのはあるるららに聞けばいいだろう」

 

 それはその通りなンだがな。

 なんとも言えぬ焦り……俺達が、じゃねェ、存彪位が焦っているよォな感覚ってな、ちょいと冷や汗モンだ。

 小物にしか思えない神とはいえ、その力は尋常じゃねェ。それが焦って何か目的を果たさんとしていて、又何かやらかすかもしれねェとなると……やっぱりはえーとこ本体を見つける必要がある。

 が。

 

「絶対移動するよな」

「まぁ、そうだろうな。敵の内情を知るあるるららがこちらに渡った以上、本拠地とでも呼ぶべき場所は放棄されるだろう。いや、ソンヒューィは夢の中にいるのだったか? だとしても、その教団の位置はわかる。となれば、次に行く場所を考えるのは建設的であると言えるだろう」

「芭須哲途、プラチナオールバック、ふーちゃん。存彪位がいるに値する場所っつゥか、そういう神やら神の憑いた存在ってのァ、何か特別な場所じゃないと生活できねェとかねェのか?」

「ないねー。どこでもいい。住宅地でも別に何も問題ないよ。まぁ人間達は神殿とかを作りたがるけど」

「好みはありますよ。私であれば静かな場所や野山が良いです。ジーウィースであれば……そうですね。彼を祀る信者が良く見える場所、つまり高い場所を好むでしょう」

「それでいうと、存彪位の奴は恵理須に似ている場所を好むかも? そのために作ったんだし」

 

 ンな場所いっぱいあるよ、と言おうとして──しかしそれを飲み込む。

 そういやこの世界、コピーしてきたにしては似てない場所も多いンだよな。

 

「輝きの園とかは」

「それはない。輝きの園は恵理須とは似ても似つかない」

「ほォん……」

「始の点、終の因はこの世界に無いからねー。それが無い時点で似ているとは言えないでしょ」

「まァ確かに。んじゃなンだ、それこそ西方……ジパングとかそっくりなンじゃね? つまり、滅びる前のジパングに」

「……ふむ。確かに、寸分違わず……同じやもしれん。エデン周辺はEDENという巨大構造物が地に降りた事で、強制的に違う地形になっているが……ヒノモトならば、特に変わりなく」

「フフ、アンディスガルよ。2つの目標を同時に追えど、手に入れられるのは1つのみぞ。ここには吾らを含め、大勢がいるのだ。ここは一つ、ソンヒューィなる神を追う者と、世界を壊す者──つまりお主らで班別けをするのも手だと思うぞ?」

 

 ヨウキの提案。

 ……確かにそうだな。ちょっと大所帯になり過ぎている気はしていたし。

 俺の意思疎通係だった尖り前髪も、安藤さんの人形によってお役御免だ。コイツは魔物としているより、魔法少女として在った方が機動力を損なわない気がする。

 

「芭須哲途とプラチナオールバック、ふーちゃんは、ソンヒューィの行きそうな場所を考えてくれ。ジパング以外で、な」

「わかりました」

「おっけー」

「りょうかい!」

 

 戦力の分散も考えなければならない。まァここはプラチナオールバックがいるから問題ないように思うが、ほとんど子猫と一緒な芭須哲途と戦闘能力ゼロなふーちゃんを考えるに、もう一人欲しいように思う。

 

「あ、今あたしの事馬鹿にしたでしょ! これでもちょっとは戦えるんだから!」

「私を守護する者、などは考えなくて結構ですよ、アンディスガル」

「お見通しか。んじゃ、お前らは3人で頼む。プラチナオールバック、頼めるか」

「ちょいちょいちょーい! あたしも! 戦える! ちょっとはだけど!」

「おっけおっけー。任せといてよ」

 

 ふーちゃんに戦闘能力がないのはわかっている。

 ま、逃走能力はあるだろうから、そっち頼りかな。

 

「んで、尖り前髪とヨウキとリージュ・アルカナ。お前たちはジパングに行ってくれ」

「え、私も?」

「サボる気なのは見えてたしな。どうせやること無いんだ、いいだろ」

「フフ──アンディスガルよ。吾がジパングに行けば、自ずと混乱が起きるように思うが?」

「あァさ、それが狙いだ。尖り前髪と着物狐の組み合わせが国に入ってきたら、絶対にそっちに注目が行く。そしたらリージュ・アルカナ、お前さんが斥候だ。飛べるんだ、打ってつけだろ」

「……別に良いけど、アルカナだけでいい。あと、存彪位は私の気配に気付く。囮意味ない」

「リージュ・アルカナの方に意識が向いたらそれこそ尖り前髪達の出番ってな。あァ、俺に配慮とかなく殺してくれていいぞ、あの神だけは」

「承知した。──ならばとりあえず、この姿から魔法少女に戻る必要があるだろう。お前の冥界の魔力を頼む」

「あァさ」

 

 仕組みはわかっているらしい。

 そう、このソードマスターの状態からの戻り方は、いつか始の点の攻防戦でやった時と同じ。

 冥界の魔力で包み込んで、太陽と風を削げばいい。

 

 こうやって真っ黒な魔力でもみくちゃににすれば──。

 

「……あぁ、手間をかけたな」

「フフフ、強がってはいるが、疲労困憊だな? よいよい。吾が運んでやろう」

「……。……世話になる」

「着物狐と似てるから今一瞬拒否しかけたな」

「まぁ、戦力的には問題ないか」

 

 んじゃ、ヒノモト組も決まり。

 

「俺ァ安藤さんや魔法少女達とこっちに留まるよ。じゃねェとお嬢が煩そうだしな」

「それがいいだろう」

「あァそうだ、クロムクラハ。アイツが自由に動けるよォになったら、この世界にあるキスキルの結晶の残数を数えて欲しいって言っといてくれ。壊さなくてもいい、残数だけでいい。ま、アイツならもう壊せちまいそうでァあるが」

「わかりました」

「良い良い」

 

 あとは……。

 こっちの梓・ライラックと、アズサか。ん-、まァアイツらにやってもらう事って、特にないんだよな。勝手に動いてくれた方が益になるというか、あいつらはあいつらで俺の知らねェ事知ってそうっていうか。

 だからまァ、言及無しでいいだろう。

 

「んじゃ──そのタイムリミットとやらが本当にあるのか知らねェが、アイツを追い詰めつつあるのは事実だ。んで、アイツ自身の理性から、もう話し合いは無駄だとも教えられた。つまり見つけたら全力で殺す。それだけでいい。シンプルだろ」

 

 つーことで。

 

「行動開始──」

「行動開始だ、などと、言おうとしているのだろうが……まずはあるるららに事情を聞いてから、だろう」

 

 あ、そうだった。

 

えはか彼

It's a story of prayer dedicated to the night.

 

 

 キラキラツインテが起きた。というか魔法少女ズ全員起きた。で、安藤さんの人形は……残念ながらまだ間に合ってない。

 

「流石の私でも、そう見つめられたら辟易してしまうよ」

「それは仕方のない事ですわ。あるるららさん。あなたは今色々な容疑をかけられていましてよ」

「ふふ、それはわかっているよ。ただ……」

 

 キラキラツインテの視線がこっちに向く。

 何の視線かわからなかったので、とりあえず口を開いてみた。ギザギザの口を。

 

「魔物……じゃ、ないんだよね」

「あんなでも梓だ。本人は否定するがな」

「……うん。大丈夫。色々考える事はあったけれど、心の整理はついたかな」

 

 だから梓・ライラックじゃねェんだって。本人の否定とかじゃなく。

 

「改めて──ごめんね、みんな。色々迷惑をかけたみたい」

「謝罪は起きてからでいい。ソンヒューィの話をしてくれ、あるるらら」

「うん。……まず、あの神についている魔法少女は2人。【亜空】のレーテーと【影劫】のジェーン・D。ただし、レーテーの方の真意はよくわからない。ジェーンの方は……心の拠り所を求めている、という風に見えたかな」

「え……たったそれだけ、ですの?」

「うん。想像以上に凄い弾圧があったんだ。アムリタ・アールレイデを始めとしたエデンの魔法少女達が、ソンヒューィを崇める宗教団体の全てを駆逐した。それにより、私達……つまり私の身体を使っていたソンヒューィ、レーテー、ジェーン・Dは居場所がなくなって、本拠地を移さざるを得なくなった」

 

 なんでも、学園長殿がそういう命を出していたらしい。国に対して害だのなんだのを訴えて、国からの命令という形で。加えてニヤニヤ丸眼鏡も国家権力を追加したとかなんとか。ホントなんなんだアイツ。

 

 とまァそういう事があって、エデン周辺の教団員はそのほとんどが捕縛されたと。国外に逃げようとした者もシエナ部隊が捕まえ、【亜空】を使って逃げたレーテー、ジェーン・D、キラキラツインテ以外は完全に壊滅した。

 それがアクシデントだったんだ。

 信者を一気に失ったソンヒューィは、ならばと強硬手段に出る。

 朝が来ないようにして、自身の力の増大を図った。が、それも俺達によって止められる、と。加えてキラキラツインテまで失って。

 

「今、彼の神がどこにいるかわかりますの?」

「それは何とも言えないかな。ただ、対策はもう取ってある、というように見えるけど」

 

 キラキラツインテが目をやるのは尖り前髪。

 彼女は頷いて。

 

「ああ。ここまで聞けたら十分だ。行くぞ、ヨウキ、アルカナ」

「フフ、それではな、アンディスガル」

「アニマと代わっちゃダメ?」

「何言ってんだい。アタシは人形作りで忙しいんだ、早く行ってきなよ!」

「ちぇ」

 

 ヨウキ、リージュ・アルカナの二人を伴い、出る。同時、芭須哲途達も閻魔刃塔を出立した。

 

「他に聞きたいことはあるかな」

「俺を連れて来た理由だ。あの時俺をこの夢に誘い込んだ、その真意が知りてェ」

「梓を夢に引き入れた理由だってさ。何を思ってあの子をこっちに呼んだのかを聞かせな」

「……それは」

 

 珍しく言いよどむキラキラツインテ。

 後ろめたい……というわけではないように思う。どちらかというと……恥ずかしい?

 

「もしかしてアンタ、不安だったの?」

「……」

「なんとか言いなさいよ。私は全ての状況を把握しているわけじゃないんだから、知ってる奴が喋らないと話が進まないでしょ」

「ディミトラ様、仮に彼女が不安を抱いていた場合、そのように迫るのは悪手かと」

「……確かにそうなんだけど。ほら、他の奴らもなんか言いなさいよ。これだと私だけ悪者になるでしょ」

「……」

「……」

「え、私が悪いっていうわけ!?」

 

 いや、マッドチビなりかけ先生は凄いなァと思って。

 俺じゃキラキラツインテの機微ってなあんまり感じ取れなかったンだが、マッドチビ先生にそれを言われた途端、キラキラツインテは完全に押し黙った。つまり。

 

「僭越ながら私の意見を述べさせていただきますと──私も同じ見解でございます。あなたの事はまだ思い出せませんが、あなたが今不安、恐怖といった感情を抱いているようには見えますので」

「そう、なんですの? あるるららさん。それで……梓さんを頼った、と?」

「なんだい、そんな可愛い理由で世界がしっちゃかめっちゃかになったてのかい? ……ま、それはそれで面白いけどね」

「責め、きれない」

「ですわね……。私も気付いたら神々に身体を乗っ取られかけていて、違う世界に引き込まれそうになっている……そのような状況であれば、不安から一番頼れる人を頼ってしまうかもしれません」

 

 あー。

 あーあー。

 やめとけやめとけお前ら。あんまり同情するな。それ言い出しづらくなるぞ。

 特にキラキラツインテなんか、余裕あるお姉さん、みたいな態度崩そうとしないんだから、それが本当に不安からだったら……考えただけで口が重い。

 

「大丈夫ですわ、あるるららさん。その……梓さんに起こった事を考えると、私が問題ありません、とかは言えませんけれど……梓さんを頼りたくなる気持ちはわかりますの。だから、その、素直になってみてはいかがでしょうか?」

「フェリカ。それは、悪手」

「え?」

 

 うん。

 マッドチビなりかけ先生も金髪お嬢様も、どっちも優しさから出ている言葉なンだろうけど……今じゃない。

 

 交差する視線は三つ。

 俺と、シェーリースと、冷静メイド。

 うん。だよな。わかる。

 

「あるるらら様。問題ありません。他の話題に変えても──」

「……ううん。大丈夫。ごめんね、どうにも私は、弱い部分を晒すのが苦手みたい」

 

 言って、キラキラツインテは俺に向き直る。

 

 そんで、頭を下げた。

 

「ごめんなさい。ディミトラの言う通り……私は、不安から、君に問いかけをした。君が私の手を取ってくれると信じて、願って……」

「問いかけ? ……そういや確かに何か問われたよォな」

「結果、君は……それを拒否した。選ばない事を選んだ。それが私には、耐えられなかったみたい」

 

 あァ、そうだ。

 確かあの時、キラキラツインテはこう問うた。

 

 ──"──全てが元に戻るとしたら──君は、君だったら。何を選ぶかな、梓"

 

 そんで俺は、答えたンだ。

 

「全てが元に戻るとしたら。その問いに対し、君は"戻らねェし、戻ってほしくねェし、仮に元に戻るンなら、おんなじ道を通るよ"と。そう言ったんだよ」

 

 言った。間違いない。

 冥界の片隅で、俺は間違いなくそう言った。

 全てが元に戻る、なンてあり得ない。土台が間違ってる。そんでもって、戻って欲しいとも思ってねェ。失われた命。失った命。俺が殺しちまった命の全てが戻る、なンて──あァ、そりゃ俺の否定だ。

 

 もし、それが本当にあるのなら。

 俺はここにいねェんだよ。この世界に来てねェんだよ。

 この世界で紡いだすべての否定を、俺はしたくない。

 

「ごめんなさい。私は、君に縋った。君を頼った。君なら……死を嫌う君なら、あるいは誰もが幸せな世界というものを肯定してくれるのだと……そんなことを考えた」

「無ェな、そりゃ」

「それは無いですわ」

 

 魔物の俺と魔法少女のお嬢。

 声が聞こえてるわけじゃねェのに、おんなじことを言う。

 

「梓さんが嫌っているのは死ではありませんもの。理解したのは私もつい最近ですけれど、彼女が怖がっているのはそういう単純なものではありませんわ」

「うん。みたいだね」

「あ、ごめんなさい。もう、わかっているのですわよね」

「そうだね。……梓を引き込んでから、如実に狂い始めた世界に、暴走を始めたソンヒューィに……私は何度も自戒をした。自責をした。私は君を勘違いしていたんだ、って」

 

 ま、この辺りに関しちゃ素直にゲロってねェ俺が悪い。

 この歳になってまで、まだ素直に全部吐けねェんだ。そんな俺を推し量れ、なンてのは酷だろう。

 

「この答えで、いいかな」

「あァさ。納得した」

「良いらしいよ。んじゃ、アタシの疑問にも答えてもらおうか」

「?」

 

 なんだ、安藤さんが聞きたいことって。

 

「この世界には異物がいくつかある。そこの梓……アンディスガルもそうだが、アタシがこの世界を出た時には無かったものや、現時点でこの世界にあるはずのないものが幾つかね。それらについて知っていたら答えて欲しいのさ」

「分かる限りなら」

「それでいい。んじゃまず、ここは何さね。閻魔刃塔……アタシの記憶にある通りなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。こっちにあるのがおかしい」

 

 ──ん?

 え?

 

「どういうことだ、安藤さん。まずそっちを説明してくれ」

「どういう事も何も、言った通りだよ。アタシがリコに召喚されたのは知ってるだろ? その時、ついでに持ってきたんだよ。元々は閻魔刃って剣でね、それをこっちの世界からぶっこ抜いて、恵理須に刺した。だから、これがこっちにあるはずないのさ」

「……そりゃおかしいぜ。フォコ婆の話の通りなら、この世界の主要建造物は恵理須のテクスチャコピーだ。ソンヒューィが恵理須の中の街をそのままこっちの世界にコピーしたもの。もし元々閻魔刃塔がこっちの世界にあったってンなら、わざわざそれを戻してくるこたねェだろ」

「だから言ってんのさ。アイツがこの世界の一切を把握してない、とかじゃなければおかしいんだよ。恵理須に憧れて建造物や国をコピーしたってんなら、アタシの剣をコピーする理由が無い。アタシの剣に関する知識がすっぽり抜けてた……とかじゃなけりゃ、ね」

 

 すっぽり抜けている。

 それは。

 

「……キラキラツインテ、奴がお前に憑りついている間に、アールルゥ・ヘズナガルの話は出たか?」

「アールルゥ・ヘズナガル? アイツがどうかしたのかい? まぁいい、ほら、あるるらら。ソンヒューィの話に、アールルゥ・ヘズナガルは出て来たか、だってさ」

「ううん。いなかったよ。あの神は色々なことを語って来たけれど、アールルゥ・ヘズナガルに関しては一切の情報を出さなかった。出さなかったというより、知らなかった、が正しいかな。私も聞いてみたことがあったんだけど、一切知らない、といった風だった」

「聞いてみた事があった? なんでだ。キラキラツインテお前、あいつに会った事あったのか?」

 

 疑問符が飛び交う。

 何かがすれ違っている。何かがかみ合っていない。

 

「あぁ、そうか。アンタら知らないのか。そりゃ盲点だった」

 

 唐突に安藤さんが、得心が言った、とばかりに手を打つ。

 知らないこと。安藤さんとキラキラツインテだけが知っていて、俺達の知らない事。

 

「アールルゥ・ヘズナガルは、あっちの世界じゃ」

 

 ずっとすれ違っていた、ずっとおかしかった歯車の一つが──ようやく露わになる。

 

「ルルゥ・ガルの本名が、アールルゥ・ヘズナガルだよ。そういや、あの錬金術師とは似ても似つかないね」

 

 

えはか彼

It's a story of prayer dedicated to the night.

 

 

 ──さて。

 

「良い目覚めだと、そう思わねェか?」

「……全然。別世界の自分……とも言えない誰かと添い寝とか、フツーに嫌だが」

「ハハハ、同感だ。加えてその眠りが強制的となりゃ、苦痛も大きいってな」

「強制的……術式の類か?」

「あァさ。アンディスガル達が解いてくれたみてェだ。後で礼を言わねェと」

 

 エデン。

 その片隅に、二人はいた。

 

 発声機構だけをOFFにしたミズメことアズサと、全てを導いた英雄梓・ライラック。

 クロムクラハは正式な神となり、アンディスガルはその名と繋がらなくなった。

 

 この世──冥界を含めた全土において、梓・ライラックを名乗り得るのはこの二人だけ。

 その二人が何故添い寝をしていたのかといえば。

 

「んじゃ、他の奴ら起こすか」

「あァさ……おーいお前ら起きろ、起きろー」

「ん……あれ……私、寝ちゃって……?」

「ふぁふ……」

 

 まぁ、二人だけではないのだ。

 この場には──学園エデンの大講堂には、沢山の魔法少女達がいた。それらが全員雑魚寝をしていて、眠りについたその瞬間、彼女らは最も近くにいた──それだけ。

 

「とりあえず、ソンヒューィを崇める団体の駆逐は終わった、ってことでいいんだよな?」

「あァよ。多分この夜の術式がせめてもの抵抗……少なくともこの国にアイツらの居場所は無くなった。お疲れさまって奴だな」

「それならいい。次は何をすればいいんだ?」

「次は」

 

 梓が一枚の布を広げる。

 ふんわりと浮かんだ布は、空気の抵抗を受けて広がり、床に落ちる。

 

「……術式?」

「あァ。ポニテスリットの剥離が成功した、ってのは伝えただろ? あの時に起きた現象を俺なりに術式として書き出してみた。これが正確かどうかはアールルゥ・ヘズナガルとすり合わせるべきなンだが……ここで一個重要な事があってな」

「なんだよ」

「実は俺、アイツ信用してねェんだわ」

 

 たはは、なんて笑う梓。

 笑い事ではなかった。アズサ自身は知らないことだが、エルヴンシードから仲間として扱っているような事を言っていたはずなのに、今更そんなことを言う意味も分からない。

 

「錬金術師。これを一番深く研究してたのがどこのだれかってな、お前も良く知ってるだろ?」

「……ジェーン・Dか」

「そうさ。正確にはソンヒューィの信奉者たち、だがな。そこへ世界最高の錬金術師だぜ? ソイツが天使だのこの世界を創っただのとほざいたところで、そう簡単に信用できるか?」

「言われて見りゃ……なんか、でっち上げ感はすげェな」

「そういうこった。お嬢達純粋組はコロっと信じちまうだろうが、俺は性質上仲間以外はちゃんと信じられなくてよ。だからこうやって離れたんだ。そもそも世界最高なンていうんなら、もうとっくに魂覆剥離の術式、なンてのはできてる。そう思わねェか?」

「いや……そんだけ難しい術式なンじゃねェのか、としか」

「あー。ま、そんだけ俺は疑り深いって話さ。つーわけで、こっちで作ってみた。これをこっちのみんなで検討してェ。術式についちゃエデンだって負けてねェからな、研究量は」

 

 そうだ。

 ジェーン・Dの部屋と思しき場所に、ミズメを狙うかのような写真があった。

 錬金術師というものへの信頼度は、まだ決して高いものではない。ないはずなのに、誰もが信じている。それはおかしなことだった。

 

「アールルゥ・ヘズナガルを閻魔刃塔に引き留めてる内に、こっちの精査。んでできることならこっちだけで全部を終わらせてェ。術式の実験台は全部俺がやる。あァ、自己犠牲じゃねェぞ。俺が一番適任なンだよ。俺だけは二重存在じゃねェからな」

「……私は必要な犠牲についちゃあるものだと思ってる。そこを否定はしない」

「あァよ。犠牲になるつもりはねェがな」

 

 さて、はて。

 アールルゥ・ヘズナガルとは──果たして一体誰なのか。

 

 はてさて。

 一体全体、誰が起きたのか。

 

 噛み合っていなかった歯車が、ようやく回り始める──ようやく、ようやく。

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