遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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19.織座頭亜上佚伊豆阿佐渡笛意図.

「まず、改めての自己紹介から行きましょう。私はオーレイア。この遠征組調査班オーレイア隊の隊長を務める魔法少女よ。魔法少女になったのは24の時。魔法少女歴は40年程ね。魔法は【白亜】。S級よ。はい次ケトゥアン」

「……ケトゥアン。【槍玄】。A級」

「次、結」

「はーい。結・グランセです。D級の【弱化】って魔法使うよ。魔法少女になったのは15歳の時で、魔法少女歴は10年くらいかな?」

「フィニキア・各務です。A級で、【引力】という魔法を使います。戦闘より探査や調査を得意としていますが、戦闘ができないというわけではありません。魔法少女になったのは17歳の頃ですが、魔法少女歴は40年と、隊長に並びますね」

「最後、知子」

「あ……う、そ、その。残府知子、っていい、いいいいい、マス……えと、B級の【排析】が魔法で、その、魔法少女になったのは15歳の時で……えと」

「こー見えて、実は知子ちゃんの魔法少女歴20年だったりするんだよね。驚いた?」

「めちゃくちゃ驚いた」

「あ、そそそ、その、ベテラン、とかじゃないので、その、あんまり期待は、その」

「いんやさ、頼りにさせてもらうよ、光眼鏡」

「そのあだ名は、はじめて、だけど……」

 

 バラエティ豊か、っつゥか。

 なんぞ、きゃぴきゃぴはしてねェが、やっぱり女の子って感じだな。まァ無口の奴以外魔法少女歴がなげェんであんまし若い感じはしねェが。無口の奴も結構行ってんだろな。調査班ってな人員変わらずにずっと、っていうし。

 

「貴女も今みたいな感じで、自己紹介できるかしら?」

「あンま子供扱いされても面倒なンだが、あァよ。私ァ梓・ライラックだ。つい最近A級になったが、実力はBもいいとこだな。魔法は【即死】。つっても近接だからよ、遠くから殺す、なんてのはあんまりできねェ。一切できねェワケじゃねェんだけどな? ……あー、で? そうそう、魔法少女なったのァ13の時だ。歴は一年にも満ちてねェが、だからつってンな子供じゃねェんで、普通に接してくれると助かる」

「それは無理な相談ね。貴女がどう思っても、私達は全力でお姉さんをさせてもらうわ」

「あァそォかい。そりゃ難儀だな。面倒だ」

 

 最初はスかね、みてェな敬語モドキ使ってたけど、やめだやめ。銀バングルにァもう素でいいだろ。

 

 ……あとはまァ、コレか。

 

「気ィ遣ってくれてんのはわかるからよ、私から言うが。コイツは魔法少女になる前からこうだった、ってワケじゃねェ。魔法少女になってからこォなったンだ。私ァ死ぬのが大嫌いでね。片腕失って蘇生で回復、なんてのをするくらいなら、腕斬り落として義手にする方を選ぶ。それくらい死を嫌ってるって思ってくれりゃいい」

「話したくない事なら聞かないでおこう、と思っていたのだけれど……なるほど、そういう事情があったのね。大丈夫よ。遠征隊調査班は野蛮な突撃班とは違って、対象からは距離をおいて冷静に調査をするの。勿論時には戦闘も起こるけれど、頻度はそう高くないわ。危険だと思ったらすぐに撤退するし、ね?」

「……だが、調査対象を調査し終わったら──最悪、死んでEDENに帰るンだろ。それが緊急を要する情報なら、三日も四日もかけて戻ってられねェから」

「それは、ごめんなさい。私達にも守りたいものがあるから」

 

 あァ。それァ、俺も理解した。

 あの迷宮で──俺とは見ているものが、距離が違うんだって。

 

 それでもやっぱり、死は嫌だよ、俺ァ。

 

「優しい子なのね、梓は」

「……」

 

 やっぱり、ソレを優しいと捉えるんだな。

 鬼教官殿や暴走繭が理解の良い方だった、ってだけだ。大半の魔法少女にとって、死も苦痛も過程でしかない。怖いモンじゃねェんだ。

 だから、それを未だに怖いと捉える俺を、優しいなんて言葉で包んでおいておく。オブラートだよ。それが剥がれりゃ、未熟、にでもなるんだろォな。

 

「えーと、場がしんみりしてるとこ申し訳ないんだけど、そろそろお菓子でも食べない? あんまり真剣な空気って苦手でさー。隊長、ダメ?」

「あァさ、ありがとうな虹色ロング。私も別に得意ってわけじゃねェからよ、空気ぶち壊してくれンのは助かる」

「虹色ロングってもしかして私のあだ名だったりする?」

「だってお前、髪虹色じゃねェか。長髪で」

「安直すぎー!?」

 

 いやさおじさん驚いたよ。

 現地集合したら背面虹色の奴いンだもん。目立つだろソレ、とか思ったけど、まァファッションの自由くらいはあっていいだろ。魔法少女の衣装で変わっちまってる場合もあるしな。

 

「他人をあだ名で呼ぶのは、失った時に悲しいから?」

「おいおい銀バングル、話蒸し返すなよ。いまコメディになりかけてただろォが」

「隊長は貴女のような捻くれた子供を見ると優しく甘やかして素直にさせたくなる厄介な人なので、あんまり気にしない方がいいですよ。はい、これ。お菓子です。あ、甘いもの大丈夫ですか?」

「大好物だ。あんがとな、委員長」

「……委員長?」

「あァさ。つか、冷静メイドもこっち来いよ。アンタも菓子くらい食うだろ?」

「問題ありません。私は魔力回復に努めていますので、ご歓談のほどを」

「じゃあ来い。私が気になるから来い」

「はい」

 

 さっきからマジで無口なケトゥアンも、きゃいのきゃいのと喋りはしないもののお菓子パーティには参加するらしい。普通に紅茶とお菓子を受け取っているし、光眼鏡もそれは同じ。

 未だに俺を離さず、慈しむような手つきで俺の頭を撫でてる銀バングル以外、全員お菓子パーティのノリだ。

 

「アンタが誘ったんだ、アンタが乗らねェってことはねェよな、銀バングル」

「……そうね。お姉さん色々思い出しちゃってしんみりしちゃったけど……そうね。今は親睦を深める会。ということで、梓には私が食べさせてあげるから、楽にしててね」

「それもう子供扱いっつゥか赤子扱いじゃねェか。離してくれよ、普通に食わせてくれ」

「え? 口移しがいい?」

「難聴にも程があンだろ」

 

 あー、なンだ。

 やっぱ人って、話して見ると印象変わるよな、って。

 

 ……残念な方向に変わるとは思ってなかったけどさ。あァいや、班長もそんな感じか。

 

「あ、梓、ちゃん」

「ン?」

「ここ、これ……」

「お、クッキーか。ありがと、」

「はい、あーん」

「……」

 

 いやさ。

 銀バングルだけじゃねェのかー。つか第二波が光眼鏡だとは思わなかったよ俺ァ。

 つかマジで恥ずィんでやめてくんねェかな。43歳のおっさんの赤ちゃんプレイなんて誰が望んでんだよ。きめェだろ。いや43歳のおっさんの女学園生活ってのも望まれちゃいねェだろォが。今更ではあるンだがよ。

 ……口を開ける。

 

「あ、ふふ。いいこ、いいこ……」

「……」

 

 光眼鏡も光眼鏡で……あァいいや。うめェクッキーだなオイ。いやいいな。やっぱ糖分って最高だよな。

 ちょいとA級目指すってんで己に色々と課してて、パフェだのトロピカルジュースだのなんてのは以ての外、つって縛ってたんだが……あー。久しぶりに食べる菓子類の美味さよ。パルリ・ミラのパフェ食いてえ。

 おじさんだった頃から好きなんだよな菓子類。バレると馬鹿にされそうで誰にも言えなかったが、割と有名ケーキ店とかの持ち帰りとかやってたなァ。

 

「あ、ずるいずるい! 私もやるやる。はいあーん」

「いやよ、虹色ロングそれモガ」

「どう? 美味しい?」

 

 美味しい。美味しいんだがよ、ショートケーキフォークにぶっ刺して丸ごと突っ込むのは無理だろ。色々無理だろ。咀嚼に時間かかるわアホか。

 つか口元べとべとなんだけど。拭いてェのに両腕抑えられてんだけど。なァ。

 

「ああもう、そんなことをしたら、汚れてしまうじゃないですか。はい、梓さん。お口拭き拭きしましょうねー」

「……んぐ。っぷ、まァ待て委員長。アンタ銀バングルのこの赤子扱いを気にするな、みてェに言ってた癖に、ソッチ側なのかよ」

「一々気にしていたら身が持たないので、流れに身を任せるというのも処世術ですよ」

「あァ……諦めね」

 

 ケトゥアンサンの方をチラっと見る。

 良かった、あの人は普通だ。普通に黙々と抹茶みてェな色したケーキ食べてる。

 抹茶なんてあるんだな。緑茶自体国でもエデンでも見かけなかったが、俺のサーチ不足か。

 

 ん?

 

「……」

「え、いいって。別にくれ、ってわけじゃなくて」

「……」

「いや、アンタ随分と美味そうに食ってたじゃねェか。いいよ、好きなんだろ? 自分で食えよ」

「……」

「ちょ、押し付けてくんなって、あ、ちょ」

「……」

 

 喋らねェでフォーク押し付けてきやがる。先端に抹茶ケーキ刺さってるとはいえ普通に危ねェだろうが。

 

「……」

「わかった、わかったから。食べるから押し付けんな危ねェから」

「……」

 

 食べる。

 ……うめェ。いやマジで。

 あー。あーあ。班長のお菓子パーティも参加しときゃよかったなァ。いやまァあん時は冷静メイドに拉致られたンだが。

 

 ……なんかヤな予感がしたので、顔を背ける。

 

「強制はいたしませんが、どうでしょうか?」

「しねェんなら回り込むのやめろ」

「冗談です」

「うわ目の前で食われるのも色々思うトコあんな」

 

 冷静メイド。無表情だが、感情が無いってワケじゃねェようで。

 それなりに菓子パーティを楽しんでいるらしい。あと俺への揶揄い含めて。特に揶揄いは任務開始時からずっとされてっからな……。

 

「みんな、ずるいわ。私もやるから、誰か腕抑えるの変わってくれない?」

「では、私が」

「いやなンでお前がそんなノリ良いんだよ」

「キリバチ上官のご命令は似たようなものが多いので」

「あー」

 

 納得してしまった。

 鬼教官殿は確かに、そォいうどーでもいい命令しそう。忠誠心に篤い方、だのと言われてたが、そういう冗談は言えるのね。

 

「いやまァ、もういいよ。好きにしてくれ。私ァ甘いモン好きだからよ、くれるってんなら貰、」

 

 ──強化。冷静メイドと銀バングルの胴体に手をかけて、思い切り前進!

 

「きゃ!?」

「ッ!」

 

 突き出でたのは──黒い槍。

 ギザギザとした鋸の刃みてェなのがついたそれは、確実に俺達三人を突き殺そうとしてた。

 

「光眼鏡、上開けろ! 委員長、とりあえず全員引っ張って飛行魔法!」

「はは、はい!」

「ケトゥアン、頼みました」

「……」

 

 もにゅーん、と、シャボン玉の上部が開く。そこから真っ先に出て行くのはケトゥアンサン。次いで委員長が出て、それに引っ張られて光眼鏡と虹色ロングが浮いていく。

 こっちには無理か。あるいは、つけたつもりだけど付かなかったとかそんなトコか? 委員長は明らかに全員引っ張るつもりで全速力で上に上がってる。なンかあったな、これ。

 

「同じのが来る!」

「──来る場所が下だとわかっていれば、問題ありません」

「まったく、どうしてこう……お姉さんの邪魔をするのかしらね、魔物というのは」

 

 ヒョイ、と抱えあげられる。冷静メイドに。

 姫抱きじゃなく、また片腕で抱き寄せる感じに。

 

 海中。シャボン玉こと【排析】によって露になってる暗い海を、まっすぐに向かってくる巨体。尖った鼻先──その魚影。

 

「カジキ、いやイッカクか!」

「オーレイア様。私が固定しますので、任せても?」

「ええ。お願いするわ」

 

 言って、冷静メイドはその足元から自己を形成し始める。作り上げられるのは手。腕から先の無い手が──無数に形成された。

 そこに突っ込んでくるは長く鋭い牙を持った化け物。イッカク。

 ただその大きさが尋常じゃない。漁船くらいの体躯に、牙は5m近くと、いややべェ化け物だことで。

 

 それが、ぶっ刺さった。

 ──冷静メイドの作り上げた手の群体に。

 

「止めます」

 

 そしてその手は、それぞれが個別に動き、イッカクの牙を掴んでいく。

 獲物を仕留めきれなかった事を察したイッカクが身を戻そうとしても、できない。冷静メイドは、その手を。その全ての手を──強化している。【侵食】で形成した部位も強化できるのか。そりゃ、またやべェ話だな。

 

「【白亜】」

 

 完全に捕まったイッカクの牙に触れるは銀バングル。

 魔法名と共に──イッカクの牙が。そして手の群体が。

 

 骨、みてェなものに変わっていく。

 ……石灰質、か? 白亜って、文字通りの白亜質かよ。

 

 それは勿論、牙の持ち主であるイッカクにも及び──それでもまだ抵抗をするソイツに、今度は手の群体がパラパラと崩れ落ちてしまった。イッカクの牙ごと、脆い石灰が如く、真っ白に。

 だが、それで奴は窮地を脱した。口先が【白亜】化しているとはいえ、まだ体全体には及んでいない。触れ続けていなければいけないのか、それ以上の進行も無い様子。

 

 まァ、逃げるならそれでいい。牙ァ失ったんだ、もう攻撃してこねェだろうしな。イッカクの牙ってな、一回折れたら二度と生え変わらねぇっていうし。

 

 なーんて思ってたんだが。

 

「──【槍玄】」

 

 その、逃げる巨影を。

 ヒトガタの──いやさ溜めるまでもねェ、ケトゥアンサンが貫いた。その身で。その体で。凄まじい奔流を纏いながら、凄まじい速度で突っ込んできて、イッカクの身体をぶち抜いたんだ。

 

 ……決めた。

 あだ名は、過激無口な。

 

えはか彼

 

 ンなことがあったんで、お菓子パーティなんぞは中断。

 あのイッカク自体はランダム湧きだったっぽいんだが、もうちょい安全な海まで移動する、とかで、今度は飛行魔法を使用しての移動となった。B級なのに飛行魔法使えんのかい。っつーツッコミは、そォいや鬼教官殿も実力で上り詰めただけで魔法自体はC級かB級だってのに普通に亜空間ポケット使ってたな、と思い出す。

 なんかコツとかあンのかね。

 ……あるいは単純にこの冷静メイドがA級になってねェ、なれるけどなってねェ、って奴だけかもしれんが。

 

 あァそうそう、委員長が俺達を連れて行かなかったのは、なンでも【引力】の対象ってな選ぶっつかくっつけんのに結構集中して狙いを定める必要があるとかで、単純に当たらなかったそォだ。すんげー平謝りされた。

 

「冷静メイド、魔力は大丈夫か?」

「問題ありません。回復は終えていました」

「その後に使った分は?」

「問題ありません。私はB級ですが、魔力量はS級に届きます」

「あァか。ならいいんだ」

 

 やっぱりコイツ昇級試験受けてないだけだな?

 いんやさ俺も受けてねェけどさ。

 

「……殺意を感じ取る、でしたか」

「ん? あァ、さっきのか」

「非常に有用な能力であると言えます。ライラック様の生存において、その直感に従うことは最優先で行われるべきことです。ですが」

「"私達まで助けようとするのはおやめください"、とか言ったら怒るぞ。まだクルメーナって島についてもいねェ内から死のうとしてんじゃねェよ。着いたところで死なせねェが」

「……申し訳ございません。口を慎ませていただきます」

「あァ」

 

 姫抱きにされながらだとちとカッコつかねェけど。

 ……助けなくて良かった、とかさ。やめてくれねェかな、マジで。

 

 滅入るよ。ンなこと言われたら。

 

「険悪な雰囲気だけど、お姉さんも参戦していいかしら」

「ダメだ。アンタはあっち行ってな」

「あら酷い。私梓に何かした?」

「何ってほどはされてねェが、アンタが面倒な手合いだってことはわかったよ」

「ま、いいわ。この遠征中になんとしてでもデレさせてあげるから」

 

 デレさせる、って。

 ……いんやさ、俺ァしねェよそんなこと。きめェだろ。

 

「謝ろうって。思ってね」

「……何をだ。さっきのことか?」

「ええ、そう。私達は調査班で、あの空間は【排析】……周辺域の探査が可能な魔法内だった。にもかかわらず魔物の襲撃を許してしまった。これ、どういうことかわかるかしら?」

「サボってたから、って言いてェんだろォが、そいつァ違ェな。私を気遣ってンのはバレバレなんだよ。初めての長期間の遠征任務に、同クラスの子もいないんじゃ絶対に寂しい思いしてるから少しでも盛り上げてあげなきゃ、とか思ってのアレだろ?」

「……誰から聞いたの?」

「誰にも聞いてねーって。わかるよそンくらい。年長者として、新人だの研修だので周りに馴染めてねェ奴がいたらどォにも放っておけなくなっちまって、世話焼いちまう。でも気ィ遣ってるってバレると余計に焦らせちまうし遠慮させちまうから、わざわざ面倒な奴装って下手打って安心させる。どーせそんなこったろ」

 

 班長にもしたことだが、どォにも昔の経験談を当て嵌めちまうな。

 ウチにもいたんだ、そういうの。なんつーかな、世話焼きのおばちゃん、って感じの経理だったんだが、歓迎会だのなんだのでレクリエーションあるたびに、誰とも話せてない奴にダル絡みしにいって、ソイツが周囲に助けを求めることで、あるいは周囲が動いて経理が退くことで、新たなコミュニケーションを生んでいた。

 自分を悪役にするって程じゃないが、自分から面倒くさい奴になることで不和を破ろうとする奴もいるってな話。

 

「ま、それが今回ばかりは裏目に出ちまったってそンだけだよ。謝られる筋合いは無ェ」

「……そ」

「"の歳でそこまでの考えに至るなんて、どれほどつらい環境にあったのかしら"……的なコト言おうとしてンなら、それァ見当違いだ。家族も友人も真っ当だったよ。良い人達だった。魔法少女になるまでの私の人生に何の苦難もなかったし、なった後だってそうさ。価値観の違いにゃ悩まされちゃいるが、友人も教官殿たちも良くしてくれてる。あァ、お上だけァどーにも考えが合わなそうだがな」

「それで、どうしてこんな粗暴な子になってしまったのかしら……」

「はン、生来さ。国のガッコにいた頃からこんなんだよ、私ァ」

 

 なんつーかな。

 気を遣ってくれてンのはひしひと伝わってンだ。

 でも、それ以上に……なンかと重ねられてんのもわかる。トラウマ、かね。銀バングルには銀バングルの、なんか抱えてるモンがあるって感じがする。

 その抱えてるモンが、俺と似た要素を持ってるんだろう。

 

「まァよ、銀バングル。アンタが何を思って、どういう思想で魔法少女やってンのか知らねェけどさ。私ァさっき話した通り、誰も死なせたくねェんだ。戦闘でも調査でも、どんな時でも。だから、私に暗い顔させたくねェってんなら、頼むから死なないでくれ。どんなに急を要する情報が手に入っても、全力で帰ってくれ。死なずに、帰ってくれ。私を置いてっても構わねェからさ」

「……どうしてそこまで、死を嫌うの? 死んでも……何も失うものはないのに」

「死自体が喪失だからだよ。つってもまァ、すぐに理解してくれとは思わねェ。アンタにはアンタの信条がある。私ァそれを欠片たりともしらねェ。だから、今はただ、私がそォだってのを理解してくれたらいい」

 

 この先、何度この話をしなきゃなんねェんだろォな。

 数百といる魔法少女相手に、その全員に、俺の思想だのなんだのと……死は怖いものだ、って。そう言い続けなきゃならねェのか。

 やめるつもりはねェけどよ。なんか、思っちまう。

 なんか。

 

 悲しくなっちまうな。

 

「ごめんね、梓」

「ん?」

「そんな悲しい顔をさせたくて謝りに来たわけではないのよ。ただ……お姉さん。いえ、私も、喪失の悲しみはわかるから。貴女には、最大限寄り添えると思う。でも、本当に……本当に、必要な時は。ごめんなさい。調査班は、情報をEDENに持ち帰るのが使命だから。そこだけは、譲れないのよ」

「……あァよ。んじゃ、止めるさ。アンタやアイツらが死にそうになってたら、私が必死で止める。早まるなってな」

「そうね。小さい子からお願いされたら、止まるかも。その時はちゃんと"お姉ちゃん"って言うのよ?」

「言わねェよアホ」

「本当に口が悪いわね」

 

 誰が言うかっつの。

 ……いやさ、それもこのしんみりを拭うためのアレソレなんだろォが、絶対言わねェからな。

 

「もうすぐで安全な海域に着くわ。そこに着いたら、もう一度お菓子パーティをしましょう。そのまま夜を明かすことになると思うから、パジャマパーティーでもいいわよ。貴女、さっき【排析】の踏み心地に癒されて、眠りそうだったものね」

「そォいうトコばっか見てやがんのな」

「だってお姉さんだもの」

 

 しねェよパジャマパーティーなんざ。

 んなのは少女同士でやってろ。おじさんの混ざるべき場所じゃねーって。

 

 ……ただ、あのシャボン玉みてェなのの中で寝たいのは事実。

 ぜってぇ寝心地いいもんアレ。欲しいわァ。あれすげー欲しいわァ。

 

「余程【排析】が気に入ったみたいね。知子も喜ぶわ」

「いや気に入らねえ奴ァいねェよあれ。ねぼすけ……あァ、突撃班にも寝るの好きな奴がいんだがよ、ソイツにも紹介してェくらい気に入った。今度普通にエデンで寝かせてくれねぇかな、こんな危ねェ場所じゃなく」

「突撃班……あの野蛮な班に、そんな子がいるのね。意外だわ」

「さっきから突撃班にちょいちょい棘あるが、なんかされたのか?」

「……それは、もう少しお姉さんと仲良くなったら教えてあげるわ」

「あァいいよいいよ。突撃班の連中に聞くから」

「もっと興味を持ってくれないと寂しいわ」

「そォかい。そいつァ残念だったな」

「……冷たい。ね、ローグンさん。梓を抱く役目、変わってくれないかしら」

「申し訳ございませんが、ライラック様を抱くのはキリバチ上官から仰せつかった大事な役目ですので、はいどうぞ」

「おォい!?」

「冗談です」

 

 冗談に聞こえねェんだって。

 ……や、ホント。

 

 なんかやりづれェなァ、今回の遠征は。

 

 まだ二回目なンだが。

 

えはか彼


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